ムラはあるが金は稼げていた。
レイズはそれだけで満足だった。
別に人殺しが好きなわけじゃない
ましてや人を助ける事も好きじゃない

とにかく金や食料が入ればいい
生きるためにはそれが必要だ
それだけだ

あそこのあいつは金を持ってる
命に価値がある
ならそれと引き換えに助けてやってもいい
一方あそこのあいつは金を持ってない
命に価値がない
どっかで勝手に死ねばいいのに

全ての命は金に換算できる
それだけの世界

それならそうやって生きてやろう
おれは命を金に清算してやってるだけだ

はっきりいって99番街で一番儲かる仕事でもある
死にかけなんてそこらに腐るほど落ちてる
いなけりゃ金もってそうな奴を半殺しにした後一言いってやれば
ヒール一回で大金になるって寸法だった

それが世界の全てだった


だがある日
99番街(世界)の外から来た奴が話しかけてきた
一人の医者だった
そいつは大きな病院の院長らしい

「レイズっていうらしいね君」
「・・・・・・・・うるさい・・・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・・」
「まぁまぁ、君の力が欲しいんだ。レイズ君、医者になる気はないかい?」
「・・・・・・・・・・医者?・・・・・・・・・・・んなもんなるか・・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」
「今よりかなり儲かるよ」
「・・・・・・・・・・・金か・・・・・・・・・・・・・」
「それにたくさんの人を幸せにできる。命の価値は皆に平等だ。たくさんの患者が・・・」
「・・・・・・そんな事どうでもいい・・・・・・・・・・金はどれくらい入る・・・・・・・・・・・」

その男はニコリと笑った。

「君は今日からDr.レイズだ。僕はヴァレンタイン。君の命に価値あれ」




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「あの命の価値がどうこう言ってた腐れ院長が入ってったのはここか?」
「この病室ですね」
「・・・・・・・・・病室っていうか集中治療室だ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・それとドジャー・・・・・・院長の事を悪く言うな・・・・・・・・・」
「あいあい」
「それよりここってもしかして」
「もしかしなくてもディアンの部屋だな。つまり俺達ぁ堂々と入る理由があるわけだ」

メッツにやられたディアン
あれほど盛大にやられれば集中治療室に運ばれても納得のいくところだろう
命に別状はないといってもこれぐらいはダメージはあるに違いない
堂々という言葉通りドジャーは勢いよくドアを開けた。
そこは小さな部屋だった。
一つのベッドだけでなく、
いろいろな配線が繋がった器具がゴチャゴチャあるからさらにそう思うのかもしれない。
そしてベッドには意識のないディアンが横たわっていた。
そしてその前に立っているのはヴァレンタイン院長と黒髪ナースと茶髪のナース

「なんですかあなた達は!」
「突然診察中の病室に入ってくるなんて!」

黒髪のナースと茶髪のナースがズカズカと近づいてくる。
その顔は明らかに怒りの表情だった。

「・・・・・・・・すいません院長・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・こいつらがどうしても・・・・・・・面会したいって言うもので・・・・・・・・・」

「面会?」

ヴァレンタインはカルテを横に置き、
二人のナースをなだめながらこちらを向いた。

「この人はあの『ナイトマスター』だっていうじゃないか。君達がそんな人と知り合いなのかい?」

「それは知ってるはずでしょうヴァレンタインさん。
 だってあなたは昨日・・・・・・・・・・・・・・・・・・見てたんだから」
「お、おいアレックス!」

アレックスはいきなり突っかかった。
このヴァレンタインという男が昨日の医者だという保障はなにもない。
当然ナース達は怒りの表情を見せる

「失礼ですよあなた達!なんなんですか!」
「Dr.レイズ!あなたもあなたですよ!院長は忙しいんです!」

「・・・・・・・・・・いやすみません・・・・・・・・・・おいアレックス・・・・・・・・
 ・・・・・・失礼のないようにと言っただろ・・・・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」
「・・・・・・・・すいません」

何故かアレックスは急にカっとなってしまった。
別にこのヴァレンタインの何が気に食わない点は見当たらない
だけど何故だろうか・・・
先程会ったときからこの男に何か胡散臭さと苛立ちを感じてしまう。
そんなアレックスの苛立ちと逆に
ヴァレンタインは笑顔で話を返してきた

「いや、まぁいいんだ。でもDr.レイズ。死ねとかそういう言葉は感心しないな
 そちらの騎士さんもそうだ。さすがにいきなりでは何の話か分からないよ」

「すいません・・・・・実は僕達ある落し物の持ち主を探してまして」
「白衣なんだがな。まぁ中にオーブやら入っててよ、持ち主も大変だろうってな」

「白衣?変わった落とし物だね」

その言葉を聞いてもヴァレンタイン院長は何も動じなかった
本当に何のことなのか?といった様子だ。
アレックスは人をすぐ疑いすぎた自分に失望した。
そうである。
怪しい怪しいと勝手に決め付けていただけで
この人は犯人である証拠うんぬんよりもそんな面影さえ出してないのに

「それがこの病院の医者の物なら私達が探しておきましょう」
「その白衣を貸していただけますか?」

ヴァレンタインの両サイドの黒髪と茶髪のナースが言う。
そして茶髪のナースが手を差し出した。
白衣を渡してくださいという手だろう。

「あ、いえ。僕らでやりますよ」
「俺らの問題だ。俺らで片付けるっての」

「病院の問題でもあるんですよ」
「あまり人探しなどで院内を騒がすのは遠慮しかねますので・・・・」

「それならまぁ別にいい。探すのをやめるだけだ
 別にこの白衣の持ち主にそこまで興味があるわけじゃねぇからな」

「それこそ私達が探しておきますよ」
「貴方達がよくとも持ち主の医者が困ってるかもしれませんので・・・・・」

「偉く食い下がるな・・・・」

ドジャーが片目を細くして言った

「た、ただの親切心じゃないですか!」
「さぁ!私達が持ち主を探しておきますのでオーブを渡して早く帰ってください!」

「オーブ・・・?」

アレックスがボソりと反応した。

「たしかに白衣の中にオーブが入ってたとは言いましたけど
 なぜオーブだけを返せと言うんですか?」

黒髪のナースと茶髪のナースは動揺する仕草を見せた
明らかに怪しい反応だった。

「い、医者なら白衣は替えがあるでしょう」
「オーブは紛失すると困るでしょうからです」

「その困ってるってのはお前らなんじゃねぇのか?」

「私達を疑ってるんですか!?」
「私達も院長も昨日は道場なんて行っていません!」

「ボロがでましたね」

「「えっ・・・」」

アレックスの目つきが変わった

「道場なんて言葉一度も僕達から出てはいませんよ」
「カカカッ!しかも院長も関係あるって自分で言ってやがんぜ」

ドジャーの笑い声と共に
黒髪のナースと茶髪のナースは「院長・・・」と言ってゆっくり振り向く
その二人の目線の先のヴァレンタインは笑顔で微笑んでいた。

「クロエ君。チャラ君」
「「は、はい・・・・」」
「君たちは実に優秀なナースだった」

ヴァレンタインは両手で一つづつの十字を描いた

「"だった"。過去形の意味は分かるね?
 僕はミスするようなナースは・・・・・・・・・・・・・いらねぇんだクソが!!!」

次の瞬間
十字を切ったヴァレンタインの両手が
黒髪のナースと茶髪のナースに突き出された。

「「キャァ!」」

その瞬間
黒髪のナースと茶髪のナースが強い衝撃を受けて吹き飛んだ。
アレックスには一瞬でそれがプレイアだと分かった。
二人のナースは真っ直ぐ吹き飛び、
病室の壁に思いっ切りぶつかった。
そしてズルリと壁を滑ってそのまま気を失った。
いや、
今の衝撃と打ち所の悪さからして
もしかすると最悪・・・・死・・・・・

「ったくこのクソナースどもは余計な事をベラベラベラベラと・・・・」

黒髪と茶髪のナースは壁に背を任せて意識の無いまま
口から小さな赤い血を垂らしていた。

「・・・・・・・・い、院長・・・・・・・・・・・・・・・・・」

レイズは信じられないと言った表情だった。

「ヴァレンタインさん・・・・なんで自分の看護婦を・・・・」

「あーあーあーあー面倒くさい。どうせだ。全部説明してやる」

ヴァレンタインはやれやれといった口調でいう。
そしてディアンの横たわっているベッドに腰掛け、
話を続けた。

「僕のオーブの中身は見たんだろう?なら分かってるはずだ
 僕は《GUN'S Revolver》のメンバーだ」

「・・・・・・・だからって・・・・・・・・院長・・・・・・・・・・」

「黙れ聞いてろDr.レイズ!!説明してやると言ってるだろ!!」

先程までの優しいヴァレンタイン院長はそこにはいなかった
そこにいるのは豹変した一人の医者だった

「僕はたしかに昨日道場に行った。覗いてたよ。
 お前らの戦いも。・・・・ひひ・・・・・このヘボ騎士マスターの戦いもな」

ヴァレンタインは横たわっているディアンの頭に腕をかけた。
まるでソファーの手すりに手をかけるように
医者が患者を扱う行動ではなかった。

「どちらが勝つかを見ておきたかったんだ
 《MD》が勝つか。それとも《騎士の心道場》が勝つか
 なにせ勝ったほうがオブジェを所持するわけだからね・・・・ひひ・・・・
 あ、どうやって昨日の試合の事を知ったかも知りたいだろ?」

「・・・・・・・・"黙って聞いてろ"じゃなかったんですか?」

「アレックス君だったかな?顔に似合わずつっかかるね
 まぁいい。そう。"黙って聞いてろ"だったな。まぁとりあえず話してやる」

アレックスとドジャーは睨んでいた。
そしてレイズは・・・・
別の表情を見せていた

「ひひ・・・・・そんな失望した目でみないでくれよDr.レイズ
 これでも頑張り屋なんだよ僕は。
 オブジェの存在が公になってから僕は患者という患者を調べていたんだ
 するとどうだ。メッツという患者のカルテは偽造の身分証明ばかりだった
 "探し物はとりあえず暗い所から"ってね・・・・ひひ・・・
 まず調査をいれるために・・えっと・・・リコスだったかな?
 あのクソナマイキなガキを使って出入りしているお前らを調べたんだ」

「リコスで?」

「怪しいと思わなかったのかい?馬鹿な人達だ
 いくらなんでもあまりに唐突だと思わなかったのかい?
 歯科医のリコスがこの外科病棟でいきなりなんの関係もない君達にからむんだよ?」

少し・・・・疑うべきだった
たしかにあれは唐突だった

「リコスもグルだったのか」

「違う違う。まだ調査段階でこっちのコマを出すほど馬鹿じゃないよ僕は
 でもプライドの高いクソガキは使いやすかったな。
 チョチョィとふっかけてやっただけですぐに君達に飛びついていったよ
 "ぼくをなめる奴は許さない"とか言ってね!・・・・ひひ・・・・
 全て予定通りだったね。院内放送まで本当にやってくれた時は順調すぎて鳥肌がたったよ
 あっ!・・・ひひ・・・・その様子じゃもしかしてあの放送後の事もおかしいと思わなかったのかい?
 凶悪な患者・・・なんて放送程度で院内中が襲いかかってくるはずないだろ?
 病院内の者の多くもGUNSのギルドメンバー・・・まぁ僕の部下が混ざってるんだよ
 このクソナース達みたいにね・・・・ひひ・・・・」

ヴァレンタインは黒髪と茶髪のナースに目線を落とした
そして最初の頃の爽やかな笑みとは180度違う笑みをこぼした

「周りが動くと関係ない人間まで動くのが人間の面白いところだよね
 あんなに沢山の人が君たちを襲うなんて・・・・ひひ・・・・・
 まぁ結局あれでは君たちが只者じゃないってくらいしか分からなかった
 だがあれから適当に部下に監視されてたら・・・・ビンゴ!!
 ひひ・・・・このディアンって奴が病室に入っていって面白い話を聞けた」

ヴァレンタインはディアンの頭の上に置いていた手で
ディアンの頭をポンポンと叩いた。

「《MD》にシンボルオブジェクト・・・・・・もう胸躍ったね!
 あの宝の情報が手に入った!あとは試合を見届けてからGUN'Sを動かすだけ!
 ・・・・・あぁレイズ君。君が《MD》だと知ったときは少し残念だったよ
 君はきっと命の価値について僕と共感を持てる人だと思ってたのに・・・・・」

「・・・・・・・・」

レイズは黙っていた。
いや、本人は言葉にならないと言っていい状況だった。

「で、オブジェについて知ったはいいが。結局オーブを失くして連絡がとれなかったってか?」
「でも《GUN'S Revolver》は強大なかわりにかなり上層部に力が偏ったギルドと聞きます
 ギルドメンバーでも上層部の連絡先を知っているのは少数と聞きますが・・・・・」

「ほぉ。よく知ってるねアレックス君。だが話は簡単・・・・・"僕がその上層部だ"」

ヴァレンタインはニヤリと笑った

「"六銃士(リヴォルバーナンバーズ)"って知ってるかい?」

「知らねぇな。なんだそれ」
「ドジャーさん・・・・」
「有名なのか?」
「有名もなにも実質最強ギルド《GUN'S Revolver》の実権を持つ6人のオフィサーです
 その6人は一人一人が最強ギルドを従えるのに恥じない実力を持つといわれています」

「そうそう。それでその六銃士の一人。リヴォルバーナンバー"4"が僕さ
 ひひ・・・・凄いだろ?《GUN'S Revolver》がオブジェを手に入れたら
 僕は世界の実権を手に入れる一人になるってことなんだからね」

「・・・・・予想外に大物を引いてしまいましたね」
「カッ!何が"六銃士"だ。《騎士の心道場》の"騎四剣"と同じようなもんじゃねぇか」

その言葉にヴァレンタインはムッとした表情を見せた。

「心外だね。その騎四なんたらってのは僕達のパクりなんだ
 このクソ騎士マスターが道場の看板を作ろうって話題集めに作っただけのね
 そんなパクりと同じにされちゃぁムカツクんだよ!
 ・・・・・あぁムカツク。ん?そうか・・・・・ひひ・・・・・・・ムカツクなぁ・・・・・
 ねぇ君たち。コレが何か分かるかい?」

ヴァレンタインが指差した。
その指す先が何かはすぐには分からなかった。
なにせいろいろな器具がゴチャゴチャあるからである。
すぐ目に付いたのはたくさんのコード
そして心電図。
ピ・・・・ピ・・・・と一定のリズムを刻んでいる。
あとはディアンに使うはずだったろう注射器や薬。

ヴァレンタインが何かを掴んだ。
それはディアンの体に繋がっている数本の管だった。

「この管を引っ張っちゃうと・・・どうなるか分かるかい?分かるよね
 このムカツクディアンが・・・・・ひひ・・・・・
 君達はディアンとは別にただの敵対関係だろ?別に・・・・・死んでもいいよね?」

ドジャーは少し黙った。
おそらくアレックスと同じ気持ちだったのだろう
ディアンは別に友達でも仲良しでもなく、
むしろ殺し合いをするほどのただの迷惑な男だ。
これから関わりあう事もないだろう
正直な話これから先ディアンが死んだとしても悲しいと思わないかもしれない

だが・・・・・

「ダンマリ?ま、いいや。僕はこのクソ騎士マスターにむかついてるから
 ・・・・・・・ひひ・・・・・・・・どうせどんな答えが返ってこようと・・・・・・・・殺すんでね!」

その瞬間
ヴァレンタインの腕が思いっきり管を引っ張った。
数本の管はディアンの体から抜け放たれた。
そして残った一本の管が
心電図へと信号を送る。

心電図からたった一つの音が鳴り響く。
ピー・・・・と
ただ一直線に死を知らせる音を

アレックスは頭の中がカッとなった。
そして気付くと槍を振りかぶっていた。

だがそれよりも先にドジャーのダガーが投げ放たれていた。

「てめっ!このサイコドクター!!!!!」










                 






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