ヤンキが病院に運ばれていき、
イスカは「拙者に出来る事はもうないな」と言って道場を出て行った。
イスカは早退するにも関わらず
「これでマリナ殿に迷惑がかかるようなら」と口をすっぱくして言っていた。
道場の一方の端にはリヨンだけ。
もう一方の端にはアレックスとドジャーが残り、
そして道場の中心には
メッツとディアンが睨みあっていた

「ぶっ殺してやるぜぃオラァ!」

メッツは拳と首をコキコキと鳴らす。
地面に横たわっていた片方数十キロの重さのある両手斧
それら二つを持ち上げた。
アレックスは今でもあれを持ち上げるメッツの姿を見るとゾッとした。

一方ディアンの方は
『ナイトマスター』の象徴である自慢のアメットを被り、
顔が完全に隠れた。
アメットの奥に隠れた目が光るようにも見える。

「俺様を殺す?HAHAHA!!面白い!
 この『ナイトマスター』を殺すなど、出来るものならやってみろ!
 HA〜っHAHAHAHAHAHAHA!」

ディアンは得意の笑い声を上げながら
槍を持つ右手に力を込めた。
すると青い稲妻が槍にまとわり、
ビシビシと音を立て始めた。

道場の端でアレックスとドジャーが話す。

「前に"アレ"とやってどうだったアレックス」
「そうですね。やっかい・・・というしかないでしょう
 完全にプラス要素しかないあの稲妻を纏った槍
 あの稲妻には触れるだけでもダメージがあります。
 多分原理は"ライトニングスピア"の応用でしょうが・・・・・」
「能力はそれ以上・・・・ってか」
「はい。そして正直に言います。ドジャーさんはさっき"ディアンさんと戦わなくていいのか"と
 僕に聞きましたが、戦わなくていいんじゃないんです・・・・・正直やりたくなかった」
「ほぉ、お前じゃ勝てないってか?」
「そーんな。僕を誰だと思ってるんですか?僕はこれでもかの王国騎士団の若き元部隊長ですよ?」
「カッ!謙虚なのか自信家なのか分かんねぇ奴だなお前は。ただ性格が悪いのは違いねぇけどな」
「自分なんかまだまだ・・・・なんて思ってて部隊長になれるほど騎士団は甘くないですよ?
 王国騎士団の部隊長だったという実績は僕の誇りであり自信でもあるんで・・・・・」

そこでアレックスの言葉は止まる。
自分が"騎士と誇り"についてしゃべると
騎士団の皆やディエゴの事で後ろめたくなるのだった。

「おぃアレックス?」
「あ、いえ・・・・ともかくディアンさんはその部隊長クラスの戦闘能力を持っています
 僕もパージでもチョコマカ打たせてくれれば勝てますけど、この狭い道場でガチで戦ったなら・・・・
 ・・・・・正直ヤバいです。まぁ『ナイトマスター』は伊達だけでつく異名ではないって事です」
「オメェ随分ホメるな」
「騎士からみた騎士論です。それにただ信用してるだけです」
「ディアンをか?」
「逆です。メッツさんをです。僕はメッツさんをそれ以上に高く買っている・・・・・それだけです」
「確かにメッツは強ぇぇ。だけどよ、前の時みたいなレイジを期待するんじゃねぇぜ」
「え?」
「あいつは本来純粋に戦闘を楽しみてぇんだ。ホントにヤバい時にしか使ったりしねぇ」
「・・・・・・そうでしょうね。それにメッツさんのレイジは我を忘れて暴走します
 もし今ここでメッツさんがレイジを使ったら・・・・・」
「俺らの首も吹っ飛ぶだろうな・・・・・盛大によ」
「でも、レイジの分を引いてもメッツさんが勝つと思います。
 どんな難関もメチャクチャにぶっ壊してくれそうな魅力がメッツさんにはあります」
「・・・・そうかもな。カカカッ!あいつは脳内がメチャメチャだからな!」

「リヨン!合図!」
「は、はぃいいい!師範!頑張ってくださいねぇえええええ!!」
「HAHA!この俺様は頑張らないと勝てないと思うか?」

その言葉にリヨンは満面の笑みを浮かべ、
そして戦うディアンの代わりに手を差し出し

「はぁぁぁじめぇええええええ!」

開始の合図で手を上にかざした

「いくぞ馬鹿頭ぁぁあああ!」

ディアンは体を深く落としたと思うと、
一気に槍を真っ直ぐ前に突き出した。
ピアシングスパイン。
ディアンの得意技だ。
電撃オーラを纏った分リーチの長い槍を
最大限に生かして突いてくる。
最高級で最大長のピアシングスパイン。

「んなもん効くかオラァア!」

メッツが力まかせに斧を振る。
そして斧はディアンの槍を捕らえ、
弾いてスパインの軌道をそらした

「HAHAHA!俺様のピアシングスパインを腕力だけで弾くか!面白い!」

以前戦ったアレックスにはあのスパインの凄さが分かっていた。
アレックスは避けたが、受けていたと思うとゾッとする。
なにせあれは突きで壁を砕くのだ。
その強力なスパインを何事もなかったように弾く。
おそらくこれまであのスパインをあんな風に止めたのはメッツだけだろう。
アレックスはメッツの凄さをまた身に染みた。

「HAHA!この技を使うのは久々だが!見せてやろう!」

ディアンはまた腰を深く落とし、
槍を構えた。
ピアシングスパイン?
いや、違う。
アレックスには分かる。
あれは・・・・・・ブラストアッシュの構えだ

「HA〜っHAHAHAHAHAHA!」

笑い声と共に高速の槍の連続突きが放たれた。
とめどなく放たれる突き
さすがに斧で全て弾くのは無理と見て、
メッツはそれを片方の斧の腹で受け止めようとした。
が・・・・

「うぉお!?」

まさかだった。
ブラストアッシュの連続突きによって
あの丈夫で頑丈な鋼鉄の両手斧の片方が・・・砕かれた。
・・・・・突きでだ。

「HAHAHA!ただのブラストアッシュだと思ったか!?
 この俺様のブラストアッシュがただのブラストアッシュな訳ないだろう!
 一発一発がピアシングボディ・・・・いや、ピアシングスパイン!
 騎士を極めた称号はこういう事ができる事を言うのだ!!!HA〜っHAHAHA!」

粉々になった片方の斧をメッツは捨てる。
そしてもう片方の両手斧を肩に担ぎ、
ガハハと笑った。

「何がおかしい馬鹿頭」
「いやぁ・・・・な。面白いと思ってよぉ!やっぱ病院じゃぁ楽しめねぇぜこういう事はよ!」
「HAHA!高みを望んで生きているわけではないお前が何故戦闘を楽しむ
 単に殺しが好きな変質者だからか?99番街の出ならそういう者もいるだろうな」
「殺し好き?ガハハ!違うな!楽しい戦闘が好きなんだよぉ俺はな!理由はただ一つだ!」
「ほぉ、言ってみろ」
「・・・・・・・・・・・終わった後の一服が最高だからだ」

メッツがニヤリと笑う。
ディアンはそれを聞いて自慢の笑い声をまた道場内に響かせた。

「面白い!面白いぞお前!」
「ガハハ!ありがとよ!で、おいディアンだったかオラァ
 騎四剣・・・・とかなんとか聞いたが。お前は剣を使ってないじゃねぇかよ」
「HAHA!何か勘違いをしてるようだな!だが剣が御所網とあればそうしてやろう!」

ディアンがまた右手に力を込める。
すると槍からバチバチッ!と電撃が弾けたと思うと。
電撃が増大し、
それはそれはひとつの平面を作り上げた。
槍を芯とし、電撃のオーラで剣を作り上げたのだった。
槍とオーラで作り上げた剣を突き上げ、ディアンを笑い声をあげた。

「戦士として剣道を極め!そして騎士として武力を完成させる!それが俺流だ!!」
「すげぇなこりゃぁ!後の一服が楽しみだぜ!」
「後の一服なんてあればいいがな!」
「ガハハ!俺が道場閉鎖させてやるぜ!今度はこっちが行くぞオラァ!」

メッツが斧を振り上げた。
その両手斧を両手で握り締め。
そしてスイング。
だが振りはおよそ戦闘で使う振りには見えなかった。
まるでゴルフのスイングのように下へと振り下ろす。
そして斧は地面へとぶつかった。

「オ〜ゥラァアアア!」

斧は道場の畳を・・・・
いや、その下の地面ごとえぐり。
そしてベッドぐらいある大きな塊になってディアンへと一直線に飛んだ。

「そのスキルブック(教科書)にのってないメチャクチャな戦い!気に入ったわ!」

ディアンは片手だけで槍を振り、
その畳の塊をなぎ払った。
すると畳と地面の塊は
槍に纏われた電撃のオーラによって弾け、
なぎ払った部分だけがバシュゥ!と消え去った。

ディアンはまた深く構える。
ピアシングスパインだ。
しかも先程より構えが深い。
全力を込めて突いてくる気だ。
ピアシングボディより強いのがピアシングスパイン。
しかしあれはさらに上にいくほどのピアシングスパインだろう
槍を剣状にしてまで槍技・・・・と思うが、
あの横に広がった剣状の状態の槍で突かれると、
はっきり言って横に避けきれない。
だからと言って受けることも・・・・
斧はあと一本。
メッツはそれを失うわけにはいかない。

「HAHAHA!くらぇ馬鹿頭!」

突き放たれるピアシングスパイン。
一直線にメッツを襲う。

「どんなだろうが突きは突き!全部一緒だオラァ!」

メッツは斧を思いっきり振り上げ、
そして槍へ向かって叩きつけた。
スパインとぶつかる。
岩石をぶち壊すほどの二つの力のぶつかり合い。
そして押し合いに近い状態になる。
電撃のオーラが反発し、
ガガガガガと怒ったような電撃の神鳴り音を奏でた。

「オラァァア!」

そしてとうとうメッツの斧が押し勝った。

「ゼェゼェ・・・・ガハハ!どうだコラァ!」
「フフ・・・・HAHAHA!ここまで楽しませてくれるとは予想を大きく外れていたぞ馬鹿頭!
 だが、だがな。所詮防戦一方。俺様の勝利ばかりが見えている!」
「ばっか。俺の負けなんか有り得るか?常識で考えてよぉ」
「常識破りのくせに常識を語るか?HAHAHA!ならば常識で聞かせてもらおう!
 斧ではどうしようもないこのリーチの差!分かるかこの騎士の象徴とも言えるリーチの差が!
 お前には決して届くことのないこの距離!これが騎士を極めた者への距離だ!
 このリーチの差がある限り俺様の一方的な攻撃が続く!お前は防ぎ続けるのみ!
 その間にその最後の一本の斧がもち続けるか?HA〜っHAHAHAHA!」
「リーチの差?そんなもん関係ねぇ」

メッツは突然体を深く落とし、
そして斧を左腰の方へと構えた。
その構えは・・・・・

「居合い斬り?斧でか?・・・・いや・・・クッ・・・・HAHAHA!何かと思えばそんなか!
 もしかして先程の女侍のようにチャージスマッシュを放とうというのか!?
 お前がスキル(技)と呼ばれるものを使えるような輩には見えんがな!」
「ガハハ!ビビるなよこの鎧野郎!」
「HAっ!付け焼刃の見真似技でこの俺様を倒せると思ってるのか!?」
「思ってるぜ!ガハハ!・・・・・・ただ・・・・見真似技じゃねぇけどな!!!」

メッツが思いっ切り斧を振る。
踏み込みがない。
チャージスラッシュではない。
あれは居合い斬りのモーション。
いや・・・・

「真っ二つになっちまえコラァアアアア!」

投げた。
数十キロはある両手斧を

「なっ!!!」

空中を激鈍い音を奏でながら
ブウンブウンと斧が飛ぶ。
重さ数十キロのフリスビー。
それは下手な大木くらいなら斬り飛ばしてしまいそうであり、
世界で一番強力で凶悪な飛び道具に思える。

「グッ!」

よけきれない
ディアンは咄嗟に槍を構える。
今までの鍛錬による全力。全神経を込め、
己の槍のみに力を込みきった。
そして槍で斧を・・・・
受けた。
だがその威力は大きい。
バカ鈍い音が響いた。
やはり遠心力を備わった凶悪斧(トマホーク)を受けきる事などできなかった。
ディアンの槍が弾かれた。
そして吹っ飛んで道場の壁のディアンの肖像画に突き刺さった。
だがディアンの意地もさすがと言った所か
斧も軌道がズレる程度に弾かれ、
あさっての方向へそれていき道場の壁に突き刺さった。

「!!!!」

ビクリとディアンは驚いた
メッツがすでに目の前まで詰めてきていたのだ。

「歯ぁ食いしばれオラァァア!」

放たれたのはパンチ。
メッツの鈍器のような右拳が一直線にディアンの頭を襲う。

斧と槍がぶつかった時ほどの轟音が鳴り響いた。
メッツの拳はディアンの自慢のアメットへと突き刺さった。
巨象の額も砕けそうな鉄拳。
しかしメッツの言葉と裏腹にディアンは吹っ飛ばず、
額のアメットに拳を受けたまま仁王立ち状態だった。

「俺の拳を受けて吹っ飛ばないなんてショックでけぇぜ」
「弟子が見てる前で膝をつく訳にはいかないんでな・・・・・HAHAHA!」

ディアンの笑い声と共に
ディアンのアメットがパカリと二つに割れ、畳の上へと落ちた。
アメットが外れてあらわになったディアンの頭は
額からとめどない流血が流れていた。
重症だが、メッツのパンチはディアンを地に倒すまでいかなかったようだ

「さぁてもう斧もないぞ馬鹿頭。どうす・・・・・」
「もういっぱぁああああああつ!!!!!!」
「!!!」

メッツはディアンにぶつけていた右拳をぬき、
今度は全力で左拳を振り切る。
それはまるで粉砕用ハンマー。
岩をも砕くその拳はディアンの頬にジャストミートし、
ディアンの巨体がまるで紙ヒコーキのように吹っ飛んだ。
そしてディアンの体は道場の壁・・・・
それも自分の肖像画にぶち当たり、
道場の壁をズルリとすべり、地面に落ちた。

「師範!しはぁぁぁああああん!」
「がっ・・・・・・く・・・・・負けん・・・ぞ!俺様は・・・・」

ディアンはそれでもフラフラと立った。
道場の壁、自分の肖像画を背もたれになんとか立ち上がるディアン。
そして肖像画に刺さっていた自分の槍を抜く。

「騎士を・・・・・極めし『ナイトマスター』であるこの俺様は・・・・・・・
 俺様の誇りであるこの道場で・・・・パンチなんぞで・・・・地に横たわる訳には・・・・・・」
「火星まで吹っ飛べオラァァアアアア!!!!」
「なっ!!!」

メッツはすでに壁際まで詰めていた。
メッツの右手(鈍器)がディアンの顔に突き刺さる。
そして拳はディアンの頭ごと・・・・・

道場の壁をぶちやぶった。

「な、なんじゃそりゃ・・・・」

ドジャーが手元で遊んでいたダガーをポロリとこぼす
長年一緒にいるドジャーでも呆れたように驚いた。

「ガハハ!俺ってマジ強ェーぜ!」

メッツが肩をコキコキと鳴らしながら言う。

その光景。
道場の壁に人一人分の穴がぶち開けられ、
その外の先では『ナイトマスター』ディアンが虫の息で転がっていた。
それが結果である。

「メッチャメチャな戦い方ですね・・・・」
「・・・・ったく。どれだけ長く一緒でもあいつには驚かされるぜ」
「メッツさんと戦うとか考えたくもないですね」
「俺ぁ一発目のパンチでイっちまう自信あるぜ」
「僕もです・・・・・」

「しはぁっぁああん!師範んっっ!大丈夫ですかぁああああああ!」

リヨンが外に出てディアンの体を揺する。
それを見てアレックスが治療に向かおうとした時だった。
ディアンを揺するリヨンの肩に
手が置かれた。
ぶち開けられた壁の穴からでは手しか見えなかった。

「ツィ・・・・ツィンせんぱぁぁあああああい!!!!」

リヨンの叫びと共に
空いた穴からツィンの姿が見えた。

「久しぶりですね盗賊さん」

見えたのは二本の剣を腰に携えた剣士。
間違いなく『両手に花』ツィンだった。
以前と顔つきが違う。
だがその顔をドジャー達の方から振り返り、
そしてディアンの方へ向けた。

突然ヒュン!という何かが空を切る音が鳴った。
ツィンは咄嗟に片方の剣を抜き、そして振り向いてその何かを弾き落とした。

「結構な挨拶ですね盗賊さん」
「カカッ!・・・・・・不意打ちに強くなったようだな」

ドジャーは歩き、
弾き落とされたダガーを引き抜いた。
引き抜いたのと同時にダガーをクルクルと回す。
そして回転を親指で止め、ダガーをツィンに向けた。

「やるか、フィナーレだ。たらふくご馳走をくれてやる」






                 






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