「おいテメェら!4人連れて来いっつっといてよぉ
 テメェらは3人しかいねぇってどういうこった!」

ドジャーが小さな怒りを含めた言葉を放った。
道場の奥には『ナイトマスター』ディアンを含めた
たった三人の男しかいなかったのだから当然である。

「ツィンの野郎がお留守なんでな・・・・・・・っとぉ」
「ツィン先輩がいなくてもぉおおおお!自分がぁぁ!自分が全部倒すぅうううう!」
「HAHAHA!心配しなくてもじきに来る。でないと騎四剣が揃わないからな」

「騎四剣ってなんだぁ?」
「ふむ、拙者は職業柄聞いたことがある。この道場の最強の4本剣がどうこうと・・・」
「つまり道場で最強の4人って事ですか」
「カッ!だから4対4を要求してきやがったのか。調子いいこって」

突然リヨンが剣を抜いて一人で前に歩み寄って来た。
そして道場の中心で立ち止まると
片手の剣を突き出して叫んだ。

「最初はぁぁぁああ!自分がぁぁぁあ!自分が相手だぁぁあああ!
 自分はぁぁああ!騎四剣のひとりぃいい!リヨン=オーリンパックだぁああああ!
 ひとりぃいいい!ひとり前に出ろぉおおお!我が剣で成敗してくれるぅうううう!」

剣を持つ手がプルプルと震えている。
恐怖じゃなくて武者震いというやつであろう。
いや、感奮だろうか。

「今日はぁぁぁあ!本番用のこの剣で勝負してやるぅうううう!
 世界の名刀セイキマツでぇえええええ!」
「贋作だけどな・・・・っとぉ」
「ヤンキ先輩ぃいいいいい!バラさないでくださぃよぉおお!」
「いいじゃねぇか・・・・贋作だろうがいい剣なんだからよぉ・・・」

名刀セイキマツの贋作かぁ・・・
病院で見た時似てると思うはずだな
まぁ世の中そういうのも当たり前のように出回っていて当然だろう

「ふっ・・・」

イスカが片目をつぶったまま鼻で笑った。
名刀セイキマツ贋作を見て怒るのかと思ったが、
どうやら自分が本物を持っている事に優越感のようなものを感じているようだ。
器が大きいようで小さな人だな・・・

「どれ・・・・拙者が・・・」
「いぇ、イスカさん」
「ん?」

アレックスは前に出ようとしたイスカを手で止めた。
そして逆に自分が少し前に出た。

「セイキマツの真偽対決も見たいと思ったんですが・・・・最初は僕がいきます」
「お?いきなりおめぇかよアレックス。『ナイトマスター』ディアンと決着とかはいいのか?
 前はマリナの乱入で勝敗うやむやになってたろ」
「ん〜、別に僕は誰が強いとかどうでもいいから別にいいです」
「とかなんだとか言って・・・
 ただ師範のディアンより門下生のリヨンのが楽だと思っただけだろ?」
「あれ・・・ばれちゃいましたか・・・・」
「バァレバレだ」
「ま、昨日剣を見てばかりのリヨンさんの方が戦い易いのは事実ですから」

それに確かめたい事もあるし・・・・

アレックスは一人前へ出た。
そのまま道場の中心まで歩みよると、
そこで立ち止まり、
背負った槍を抜いた。

「僕が"本当の騎士"ってやつを教えてあげますよリヨンさん」

アレックスが意味ありげに軽く笑いながらそう言った。

「ほ、本当の騎士だとぉぉおおおおおお!この道場内でぇぇええ!
 騎士をぉお!騎士という言葉を軽々しく口にしていいのは師範だけだぁぁぁああ!
 土足で道場内であがる貴様に騎士が語れるかぁぁああああ!」

アレックスが目線を下げる。
そして「あっ」と声を漏らした。
大事な道場の畳が土足のせいでドロドロであった。
そして自分の後ろの泥の足跡をたどると
その先でドジャー達も自分達が土足である事に気付いてそれぞれの反応を見せていた。
誰も困ったり罪悪感を持ったような反応は見せてはいないが・・・・

「すいません・・・・あの人達あんななもんで・・・
 まぁ僕も最近礼儀知らずが身に染みこんできてるんですけどね」

「貴様ぁぁあああ!貴様は道場の礼儀を知らないのかぁああああああ!」

いや・・・・知りたくもないけど・・・・・・

「自分はぁぁぁあ!自分はなぁああああ!
 騎士道とこの道場を馬鹿にする者は許さんのだぁああああ!
 そして悪は絶対に許さぁあああああん!許さんのだぁあああ!
 騎士の魂に土足で泥をつけるお前らは悪に違いなぃいいい!」

「うるせ!もうちょっと静かにしゃべれねぇのか!」
「そうだオラァ!さっきからうるせぇぞ熱血騎士野郎が!」
「・・・・まぁ聞いてて気分のよいものではないな。雑音のようだ」

MDサイドのベンチから野次がこれでもかというほどに飛んできた
リヨンの意志と想いを込めた言葉は
悲しくもあのチンピラ達の耳には届かなかったようだ
まぁアレックス自身もうるさいと思ってたので調度いい野次だったのだが

「リヨン!たしかにうるさいぞ!」

その言葉は逆サイドから、
発したのは『ナイトマスター』ディアンだった。

「し、しはぁあああああん!そんな!」
「リヨン!ここからはな・・・・・・・・・・・・剣で語るんだ
 《騎士の心道場》の門下生なら槍と剣で黙らせろといつも言ってるだろぅが!」
「は、はぃいいい!そうですぅ!そうでしたぁあああ!
 しはぁぁああん!やはり師範はさすがですぅううう!」

ディアンがリヨンに対してフッと安堵の笑いを送ると
ソっと手を前に突き出した。
開始の合図を出すつもりだろう
それを見るとリヨンが剣を構えた。
アレックスも続いて槍を構えた。

「HAHAHA!始め!」

豪快な声と共に
ディアンが試合の合図に手を上へ振り上げながら言った。
その声と同時に、リヨンは小さな会釈をし、
その剣を真っ直ぐ突き出した。
病院で見た時と同じ中段の構えだ。

「食らえぇぇええええ!」

そして剣を真っ直ぐ突いてきた。
正確な軌道。
精密な動作。
その突きをアレックスは避け、
そのまま斜め後ろへ下がり
距離を置いた

「やはりですか・・・・」

ボソリとアレックスが言葉をこぼす
それを聞き取った地獄耳のドジャーは野次馬らしくアレックスに聞いた。

「何が"やはり"なんだってんだぁ赤コーナーのアレックス」
「いや、病院でこの突きの感想を僕が言った時、
 ドジャーさんいいましたよね。「なんでお前に剣が分かるんだ」って・・・」
「ん〜?あぁ。言ったような言ってないような」
「なぜか・・・・・簡単な事でした」

アレックスは槍を前に構えた。
それはいつもの構えと違う。
いや、それはリヨンと同じ中段の構え。

「リヨンの剣の突きは槍の突きなんです。騎士の構えの中にもあの構えはあります」

「ほぉ」

道場の反対側でディアンが感心したように声を漏らした。

「HAHAHA!なかなかやるようだな元王国騎士
 その通りだ。リヨンは剣を使う騎士・・・・いや、騎士の技を使う戦士というべきか
 剣でありながら騎士の模範のような動きをする事
 それと手の贋作の剣の事もあり『レプリカソード』と呼ばれている」

まぁ簡単に・・・・
リヨンは剣で騎士の技を使う者ってことだ

「名刀セイキマツの贋作・・・・・・つまりスワードロングソードを使う理由もそこですね
 長く真っ直ぐ、それでいて太くない。槍の技を行うのにうってつけの剣ですからね」

細く長く美麗なそのスワロン。
こう見るとスワロン自体が槍技を使うために生まれた剣にさえ見えてきた。
本人の槍技も申し分ない。
『レプリカソード』という響きは惜しい気がする。
まぁあだ名なんてものは自分で決めるわけじゃないししょうがないか・・・

「自分はぁああああ!このリヨンはぁぁああ!この剣ぉもってぇええええ!
 騎ぃ士道を極めぇええええ!そして悪を・・・」
「いいから始めてください」
「・・・・・。いくぞぉおおおおおおお!」

リヨンは少し深く構えた。
何故かはアレックスには分かる。
あの構えはブラストアッシュの構えだ。

「くらぇええええ!我が剣んん!わが剣をぉおおおお!」

リヨンから放たれたブラストアッシュ。
剣による連続突き。
だが剣だろうと槍の技だ。
ブラストアッシュの特性は騎士である自分がよく知っている。
アレックスは自分の槍の腹で受けきろうと思った。
できると踏んでいた。
が、その予想ははずれた。
・・・・・予想外突きが速いのだ。

「おららららららあぁぁぁああああ!」
「クッ!」

槍だけでは防ぎきれず、
たまらずアレックスは後ろに退いた。

「槍じゃなくて剣な分・・・・・軽いという事ですか」
「そうだぁあああ!槍より速いという事だぁあああああ!」

剣だからこその騎士技の生かし方
ただの"騎士のレプリカ"じゃないって事か・・・

「次いくぞぉおおおお!」

またもリヨンが構える。
その構えは・・・・

「ピアシングボディですか!」
「悪は滅すべしぃいいいいいい!」

リヨンは剣を真っ直ぐ突いてくる。
だが騎士のアレックスにとって、これも避けるには動作無い事だった。
剣の道筋を見極め、
リヨンのピアシングボディを避ける。
そして完璧に避けきった。
・・・その時
ふとアレックスはある事に気付いた

・・・・剣の腹を寝かせてる?

その次の瞬間
ガギンッという大きな金属音が道場に鳴り響いた。

「あぶな・・・」
「くそぉおおおおお!」

アレックスの脇下で槍と剣が交わっていた。
リヨンはピアシングボディ突き出した状態から
そのまま剣を横に振付けてきたのだ。
剣だからできる槍技と剣技の複合技である。

「へぇ・・・・っとぉ。初見でリヨンのあれを見破った奴は初めてですね師範」
「HAHA!一応あれでもこの俺様を手こずらせた奴だからな」

アレックスはリヨンの剣を弾く。
そしてまた距離をとる形になった。

「どうしたアレックス〜。防戦一方じゃねぇか〜?」
「ガハハ!負けるのかぁオラァ!?」
「ふ・・・剣の事ならやはり拙者の方が一枚上だな」

うるさい人達だなぁ・・・・
朝飯前な戦いじゃないんだから集中させて欲しい

「いいんです!僕はこれからです!」
「ほんとかよ?」
「ほんとですよ。次の一撃で決めます」

アレックスが構える。
今回初めて見せる攻撃の姿勢である。
それは深く槍を構えたピアシングスパインの構え。

「それはぁああああ!それは師範の得意技だぞぉおおおおお!」
「だったら習ってるんでしょ?勝負・・・・といきませんか?"騎士道"・・・を賭けて」

それを聞くとリヨンは表情を変え、
そして同じくピアシングスパインの構えをとった。

「自分もぉおおお!自分も望むところだぁああああああ!」
「それは奇遇でよかったです」

アレックスから見たリヨンのスパインの構え
さすが・・・といえる。
まるで教科書のレプリカのような完璧な構えである。
道場のTOP4に入る腕前というのも納得だ。
だが自分もこれで元騎士団の部隊長だ。
腐っても・・・・
だから騎士としてレプリカ騎士に負けるわけにはいかない。

「いくぞぉおおおお!くらぇぇえええ!
 師範直伝んんんん!!!ピアシングスパイィイイイイイイン!!!!」

アレックスとリヨン。
両者の槍が同時に突き出された。
放たれた二つのピアシングスパイン。
道場に両端から一本の線を作り上げるように
まるで閃光が横に走ったようだった。

気付くと
そこにはピアシングスパインを出し切った二本の槍があった
一本は
アレックスの胸の前で止まっていた。
もう一本の槍は・・・・・
リヨンの胸に突き刺さっていた。

「自分のぉぉお・・・自分の槍が届かなかったのかぁぁぁぁ・・・・」
「僕がスパインを構えたから・・・・自分のスパインも届くと思いましたか?」
「く・・くそぉお・・・・くそぉおおおお!」
「リーチ。これが槍のもっともの強みです。
 その部分を見誤るって事は騎士を名乗るにはまだまだですね
 まぁ強さに関してはそこらの騎士より断然強かったですけど」
「自分のぉおおお!自分の何がぁぁぁああああ!」
「・・・・・剣で騎士・・・面白い発想でしたけど、
 人と違う事をするなら人に教えてもらっていては駄目です。それが敗因です
 その道場の教科書通りの素晴らしいスパインを教科書通り槍で行っていたら・・・・
 いまここでお互いに槍が刺さっていた事でしょう」

アレックスが槍を引き抜く。
リヨンは軽く片膝をついた。

「無念んんん!・・・・無念だぁぁああ!
 しはぁぁああん!師範すいませんんん!自分はぁぁああ!
 このリヨン=オーリンパックはぁぁああ!まだ未熟だったようでございますぅうううう!」

リヨンはその声と共に
大粒の涙を流し始めた。
よほど悔しかったに違いない。
彼にとっても彼なりの大きな意志と共に戦っていたのだろうから。

アレックスはそれを見るなりニコリと笑い、リヨンに歩みよった。
そしてリヨンの胸に手を当てる。
青白い。
ヒールの暖かい光がリヨンに流し込まれる。

「貴様ぁああああ!敵にぃいい!敵にほどこしを与えるかぁあああ!」

アレックスは返事をしなかった。
返事をしたらグダグダとうるさそうだからだ

「あ〜ぁでたぜ・・・・アレックスの悪い癖だ」
「ほっときゃいいんじゃねぇかぁん?そんなもんよぉ!」
「別にいいじゃないですか」
「いいじゃないですかってよぉ、こりゃぁ死合だぞ。
 殺し合いだ。向こうが死合だって言ってきたんだぜ?」

「そうだぁあああ!自分はぁぁあああ!敵に情けをかけられるほどぉおおお!」

「うるさいです」

アレックスはリヨンの顔を殴った。
アレックス名物アメとムチの治療である。

「試合も死合も"勝負"ですよ。"殺さないといけない"ものではありません」
「ふむ・・・だからといって"助けなければならん"という道理があるとは拙者は思わんが?」
「僕も善意善意で生きてませんけどね
 僕の空いた手を使うか使わないかで命が動くなら助けてもいいと思っただけです」
「ったく。なんだかんだで悪者になりきらねぇ野郎だな」

それを聞いてアレックスは
これでもか!というほど満面の笑みをしてドジャー達に言った。

「やっぱ僕っていい人ですか?この辺がドジャーさんと違うとこですよね
 なんていうかカッコいいでしょ僕。聖騎士!って感じしませんか?ね?」
「調子こいてんじゃねぇよ!」
「まぁ・・・・調子に乗るだけの結果ではあると思うがな
 結果だけ見ると"無傷で一撃必殺"。無駄がない。お主もなかなかやるな」
「でしょ?僕は口先だけで終わりませんよ。ドジャーさんと違ってね」
「うるせぇ!」

「おしゃべりは過ぎたか・・・・っとぉ」

突然口を挟む。
それは黒髪に黒い剣の男。
その剣士はアレックスとリヨンの横・・・つまり道場の真ん中に立ち
そしてドジャー達の方を見て言った。

「俺の相手は誰だ・・・・っとぉ。ま、誰が出てきても同じだがな」
「ヤンキせんぱぁあああああい!先輩は!先輩は勝ってくださいいいいい!」
「お前はいちいちうるさいんだよ・・・っとぉ
 そんな事言わなくても・・・・・・・・・勝つに決まってんだろ?この俺がな」






                 






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