「ヘヘ・・・・・ヘヘヘ・・・・・・・」

この地獄絵図の中、
ひとり怪しく笑う者。
赤い髪の男。

「ヒャーーーッハッハ!生きてる・・・・俺ぁまだ生きてるぜぇ!!!!」

ダニエルだった。
しぶとく生き延びていたようだ。
だが、
体を引きずるような動き。
全身重体。
血だらけ。
自慢の赤髪も、
もう血なのかなんなのかも分からない。
三騎士から逃れるため、
自爆に近い行動をとったのだ。
当然といえば当然。

「でも生きてる・・・・俺の命の灯火は消えてねぇ・・・・・・ヒャハハハ!
 ロウソクくらいの火だけどなぁ♪・・・・・・生きてるもんは生きてるってんだ!」

ダニエルは死にそうなのに、
そして危機的状態なのに、
生きる可能性もないこの状況なのに、
ただ笑い、
ただズルズルと歩いていた。
どこかに向かって。

「アッちゃ〜ん・・・・待っててくれよぉ〜♪・・・・・
 この命はアッちゃんにもらったもんだ・・・・・・・
 この生きる意志はアッちゃんがくれたもんなんだぜぇ〜♪・・・・」

血を垂らしながら、
ズルズル・・・
ズルズルとダニエルは歩む。

「・・・・・ゴキブリと言われてでも生き延びるぜヒャーーッハッハ!!!
 どんな命だろうが・・・・生きててなんぼ!!
 ・・・・・アッちゃんが教えてくれた命の価値だ・・・・・・・・・・」

生きる。
生きる。
ダニエルはそれを心に言い聞かせ、
その強い意志でなんとか生を留めていた。
が、
それも長くは無いだろう。
誰が見ても分かる。
顔の血色。
体中の傷。
出た血の量。
全てがダニエルの最後を示していた。

「ヒ・・・ヒヒ・・・・ヒャハハ・・・・・あと・・・・・あと少し・・・・・・・」

ダニエルはそうつぶやきながら、
いつ死んでもおかしいながらも、
歩む。
怪しい笑みを口に常時浮かべながら、
歩む。
一歩進むのも簡単じゃなくなってきている。
だが、最後の力を振り絞って前に出る。
そして・・・・倒れた。

「・・・・・・・・ついた!!!!ヒャハハハハハハ!!!!」

倒れ、
90度回転している世界。
首を起こす力をとりあえずはない。
だが、ダニエルが言うにはどこかに着いたらしい。
そしてそこは・・・・・・

「このつり橋・・・・・・このミルレスの絶壁に吊るされているつり橋・・・・・・・
 これを・・・・崖沿いに降りれば・・・・・・・・GUN'Sの本拠地の洞窟・・・・・・・」

ダニエルの目的は・・・・ただそれだけだった。
GUN'Sの本拠地。
いうならば・・・・・

「・・・・・アッちゃ〜ん!・・・・・・・すぐ行くからねぇ〜〜〜ん♪・・・・・・・・」

アレックスのもとにたどり着こうとする。
ただそれだけの目的。
だが、
ふと・・・・・・ダニエルの目に何かが映った。
つり橋の向こう。
洞窟の入り口。
そこに誰かがいる。
アレックスならいいなとダニエルは思っただろう。
だが違う・・・・・・。
そこにいる数人の男女・・・・
それは・・・・

「・・・・・・・背中に羽?・・・・・」

羽の生えた人だった。
いや、人なのだろうか?
なんなんだろうか。
人じゃないならなんなんだ。
神?
創造主?
人という存在の親?
そう考えると・・・・なんだか懐かしい気持ちにもなれた。

「・・・・・ヒヒ・・・・関係ねぇや・・・・・・」

ダニエルはフラフラと最後の力で立ち上がる。

「・・・・・・アッちゃんのもとに・・・・・たどり着く事だけ・・・・・・・・
 ・・・・・・俺の目的は・・・・・・・それだけだもんねぇ♪・・・・・・・・・・」

ヨロヨロのダニエル。
それに・・・・
洞窟の前の者達は気付いたようだ。
その先頭の者。
女の姿をした羽の生えた者が、
ダニエルに近づいてきた。

「ほぉ。人間にしては面白い奴がいたものだ」

「・・・・・・・な・・・・なんだテメ・・・・ドケ!!!俺はアッちゃんに・・・・・・・・・・」

気付くと、

ダニエルの足元に・・・・・・・・"足元がなかった"

少し目線をずらすと、
足を軽く振り切った翼の女がいる。
さきほどまでダニエルがいたところに。

「・・・・・・・俺は・・・・・・・アッちゃんに・・・・・・・・・」

蹴飛ばされたようだ。
ミルレスの崖の方へ。
下も見えない谷の方へ。
死に向かう・・・・奈落。

全てがスローモーションに見え、
自分が宙に投げ出された事を理解し、
そして・・・・・・

「・・・・・・・・・・アッ・・・・・・・・・・・ちゃん・・・・・・・・・・・・・」

ダニエルは最後にそう言うと、
ほんとうに力尽き、
体に自慢の炎を纏い、
深い深い谷の底へと消えていった。
























「ぐぁっ!!!」

「アジェパパ!!!!」

吹っ飛ばされるアジェトロ。
叫ぶロッキー。

「クソッ・・・・普段ならこんな人間如きに・・・・・」

アジェトロは飛び起き、
そしてカプリコソードを構える。
エイアグ・アジェトロ・フサム。
三匹の伝説。
カプリコ三騎士が並び立つ。
そしてその前に立つのは・・・・・・・・・

「やはりカプリコ三騎士とはいえかなりのダメージを受けているようだな・・・・なによりだ」

ドロイカンランスを持つ男。
ユベン=グローヴァー。
そしてその背後にも数人。
少し後ろ目に控えている聖職者。
眉毛の釣りあがったムチ持ちの女盗賊。
笑顔で鼻歌混じりの吟遊詩人。
ポケットに手を突っ込んだ修道士。
44部隊の面々だ。

「ロウマ隊長との戦いはやはり厳しかったんだろ?」

三騎士は顔をしかめる。
そう。
三騎士は先ほどまで・・・・・・・最強ロウマ=ハートと戦っていた。
昔一度戦っており、
そのリベンジをと戦った。
が・・・・・
結果は芳しくなかった。
負けではない。
引き分けたといったところか。
3対1で引き分けた。
これは三騎士にとって心に響く結果だ。

昔一度戦ったときは、
三騎士とロウマで3対1という好条件もあり、
ロウマに押し勝っていた。
その時は決着はつかなかったが、
今回はこそはケリを付けてやるというつもりだった。
だが、

「・・・・・・・我らも衰えたか」
「いや、ロウマが強くなってたんだ」
「あぁ前以上の実力をつけてやがった・・・クソ!」

「何をぶつぶつ言ってるんだあなた方は。
 今の相手は俺達44部隊の5人なんだぞ」

ユベンは槍を構える。
三騎士に向かって。

「手負いとはいえ、三騎士のトドメを刺したとあれば隊長もお喜びになる。
 なによりだ。・・・・・・・・いや、ロウマ隊長は喜ばないな。
 自分の気に入った獲物は自分の力を持って戦いたいと思う方だ。
 ・・・・が、命令だからな。隊長には悪いけどやらないといけない。
 これが俺みたいな役職のツラいところだな・・・・・・なによりじゃないぜ」

ユベンにつられ、
後ろの4人も各々が攻撃の態勢に入る。

「クッ・・・・」
「傷さえなければこんな者達・・・・」
「・・・・・・しょうがない」

「天下に名響く三騎士が弱音か。そりゃぁなにより・・・・」

ユベンが余裕を持ち、
そう言っている瞬間だった。

「・・・なっ!」

一瞬。
踏み込みの瞬間さえ見えなかった。
気付いたら・・・というしかない。

三つのカプリコソードがユベンを囲んでいた。

「・・・・調子にのんなよ人間」
「・・・・・・笑止」
「お前の首を分かつくらいなら簡単にできるのだぞ」

「・・・・・・・クッ」

下三方向からユベンに突きつけられたカプリコソード。
ユベンは「何よりじゃない・・・」とでも言いたげに表情を曇らせた。
後ろの44部隊の面々が殺気を放つ、
が、ユベンを人質にとられているような状況なので、
手出しはしてこない。

「・・・・・・あまり殺気立つな人間達よ」
「人間中でかなり飛びぬけた強者ってのは分かるけどよぉ!」
「お前ら全員でもロウマほどの実力に達するとは思えんしな」

言いつつ、
三騎士は後ろに跳び戻る。
そして、

「・・・・・・・逃げるぞロッキー」

ロッキーは驚き、
その言葉に反論する。

「!?・・・・・だめだよぉ〜!!だってこの先の家にはメッツが〜!!」

「悪ぃロッキー。そのメッツってやつより俺らにとっちゃお前が大事なんだ」
「我らとてカプリコのために命を落とすわけにはいかない」

「そ、そんなぁ〜・・・・・」

嫌がるロッキー。
だが、
それを無理矢理掴み抱え、

「参る!」
「応!」
「・・・・承知」

一瞬。
神風のように一瞬で三騎士達は逃げ去った。

「チッ・・・クソったれ!逃がしたか!」
「追うなグレイ!!」
「・・・・っとぉ」

三騎士を追おうとするグレイを引きとめ、
ユベンはアゴで一つの家を合図する。

「あいあいクソッタレ。作戦第一ね。副隊長はクソつらいねぇ〜!ユベン!」
「お前らみたいなのが部下だとなおさらな」
「ケッ、「なによりだろ?」ってか?」

クスりと口元だけ笑うユベンを見たあと、
グレイはツバを吐き捨てながらその家のドアを足で蹴り開けた。
ドアが吹っ飛んで開かれると、
その先には・・・・

「おっと・・・・お客さんか・・・・・・」

燃え盛る家。
小さな家。
その中真ん中。
まるで家具。
そんな状態でメッツは地面に大の字に転がっていた。

「・・・・・ガハハ・・・・・俺ん家じゃないんでね。適当にくつろいでくれや・・・・・」

メッツは家の真ん中で大の字のまま寝転んだまま、
そんな事を言った。

・・・・・メッツは限界だった。
もう体が動かないのだ。
体の限界。
気力がどうこうで動く体ではない。
もう1mmさえも指を動かす力は残っていない。

「・・・・・・・で、お客さんなんのようだ?」

「お前がメッツだな」

ユベンはそう吐き捨ててメッツを見下ろすと、
メッツは動かない体で大声で笑った。

「さぁな!表札でも見直してきたらどうだ騎士団さん方よぉ!ガハハハ!!!」

まるで狂ったかのようにメッツは大声で笑い続けた。
体は1mmも動かない。
その状況下で、
大声で笑っていた。

「・・・・・ふん。ロウマ隊長はなんでこんな奴を気に入ったんだか」

「あん?」

メッツは笑うのをやめ、
疑問だけをなげかける。

「そりゃなんかの間違いだろ。俺はロウマに弱ぇ弱ぇ言われたらしいぜ?」

「黙れ」

ユベンは倒れたまま動けないメッツに槍を突きつけた。
メッツの鼻の頭の前にキッチリ1cmの間隔。
ユベンの槍は1mmも槍を揺らすことなく、鋭く突きつけられた。

「最後に言い残す事はあるか?」

「・・・・・クッ・・・ガハハハ!結局こうか。なんか別の期待しちまったぜ!」

メッツは笑い続け、
気の済むまで笑い続け、
そして言った。

「じゃぁよ、俺のポケットにタバコ入ってっから・・・・最後にそれ吸わせてくれ」

ポケットにも手を伸ばす力のないメッツ。
ユベンは軽く鼻で笑った後、
槍を下ろし、
メッツのポケットに手を伸ばしてタバコを取り出した。
そして一本取り出し、
それをメッツの口にくわえさせる。

「ありがとよ。あんたいい奴だな」

「そう思えるなら何よりだ」

言いながらユベンはメッツの口のタバコに火をつけてやる。
火のつくタバコ。
メッツはそれを思いっきり吸い込み、
そしてタバコをくわえたまま煙を大きく吐き出した。

「うめぇ・・・・マジうめぇ・・・・なんでこんなにうまいんかな・・・・・・」

メッツは天上を見続けたまま、
ぼんやりそんな事を考えた。

「死ぬ前だからかな・・・・・違うな・・・・生きてるって分かるからだな・・・・・
 ・・・・・・死んだら吸えねぇもんな・・・・・だからこの一腹は味合わねぇとな・・・・・」

メッツはそう言いながらタバコを味わった。
大きく吸い、
燃える家の火風で灰が飛ぶ。
タバコが短くなっていく。
メッツはぼんやりしていた。
タバコを吸いながら色々と思い出していた。
色々湧き上がってくる。
ただただいろんな事を思い出した。
タバコが短くなっていく。

タバコが吸い終わったとき、
自分が殺されると分かっている。

大の字の転がるメッツ。
その口から天上へ向かって立つタバコ。
揺らめく煙。
まるでそれは命のロウソク。
尽きれば寿命。
そう思うと、
タバコではなく線香のようにも見えた。

だが・・・・・
メッツはタバコを、
命の時間の煙を、
惜しみなく深く深く吸い込み続けた。




































徘徊する魔物たち。
人を惨殺していく魔物達。
GUN'Sの者。
町のもの。
そして戦争に参加していた者。
その参加していた者達の一部。
黒いスーツに身を包んだ者達。
彼らの状況に・・・・何も特別なことはなかった。

「畜生!!!死んだ!!!また死んだぞ!!」
「兵隊何人残ってる!!」
「300くらいか!?」
「待ってくれ!若ぇのがはぐれてる!」
「アホんだら!そいつらももう死んだよ!!!!」

スーツの男達は慌てふためく。
"頭の不在"
それが彼らの統率力を失わせてみた。
全ギルド中、最高の仲間意識。
それがこのヤクザギルド《昇竜会》。
だが、その構成員全員に共通するもの。
頭、リュウ=カクノウザンへの子心。

「闇市場への案内人は!!??」
「馬鹿っ!!!まだ集まってねぇ奴らが!」
「置いてくしかねぇじゃねぇか!!!」
「それどころじゃねぇ!!」
「案内人も死んでる!!」
「・・・・なっ!!」
「なんだとっ!!!!」

唯一、
ゲートとミルレスの入り口以外に交通網を持っていた彼ら。
いや、結局の所転送なので無理な可能性はある。
夜空に浮かぶ翼の者達に打ち落とされる可能性も。
だが、やってみないことには・・・・・と思っていたが、
その道も絶たれた。

「・・・・・・・・」
「ダメだ・・・・」
「・・・・・・・・もう終わりだ」

全員が諦めムードだった。
いつもは町を我が物顔で歩むヤクザ達。
だがその顔は悲しき弱者の表情。

「諦めんじゃねぇぜオメェラ!!!」

その声は・・・・トラジという男だった。
トラジ=テンノウジ
黒のオールバックでサングラス。
タカヤの代わりの若頭。
つまるところ普通のギルドでいう副ギルドマスター的な位置の男。
リュウのタバコに火をつけていた男。

「オメェラリュウの親っさんに諦めなんつーもんを習ったかぁ!?あん!?」

渇を入れる。
リュウ亡き今、
自分がやらねばと、
リュウの《昇竜会》を無残に散らせてたまるかと。
そして、
《昇竜会》の構成員達の目にも生気が戻る。
リュウ。
その名前を出すだけでヤクザ達にどれだけでも力と覚悟がみなぎる。
そして・・・・・・

「・・・・・あっしを・・・・・・死んだみてぇに言いなさんなよ・・・・・・・」

姿を見ればさらにだ。

「お・・・」
「親っさん!!!」
「オジ貴!!!」
「組長ぉおおおおお!!!!」

そこにはリュウの姿があった。
あまり芳しい姿ではない。
全身血だらけ。
そして一人では立っていられない状態。

「生きてたんですね親っさん!!!」
「会長!!」
「うぉおおおお!!リュウさんが生きてたぁぁあ!!!」

湧き上がる《昇竜会》の者達。
完全に心の支えなのだろう。
リュウが生きている。
それだけでどれだけでも力がみなぎってくる。

「親っさん・・・親っさん・・・・」
「オジ貴!!そん方は?」

大きな体のリュウ。
そのリュウの体を支えている者がいた。
あまり大きな体ではないのに、
必死にリュウを支えていた。

「私は・・・・フレア=リングラブと申します・・・・・」

その女性は神妙な顔つきで言った。

「フレア?」
「・・・・・『フォーリン・ラブ』」
「《メイジプール》の生き残りか!!」

フレアはフラフラとリュウの体を支え続ける。
それを見かねたトラジが、
フレアの代わりにリュウの体を支えにいった。

「あんた・・・・なんで親っさんを・・・・」

「リュウさんは・・・・」

フレアはうつむきながら話す。

「終焉戦争でオトリに使われた私達《メイジプール》・・・その敗走を助けてくれたんです。
 単体で前線に送り込まれた私達を・・・一人で助けに来てくれました。
 一部隊を壊滅させながら単身で私達メイジプールの残党を・・・・・・」

リュウはトラジに支えられながら、
照れくさそうに笑った。

「よせやフレア嬢。あっしはあの作戦が煮え切らなかったから勝手にやったまででさぁ。
 筋が通ってねぇ作戦でやしたからね。あっしの筋を通そうとした自己満足でさぁ。
 それにあっしがもっと早く思い立ってりゃもっと命は助かったかもしれねぇ」

そう言いながら、
リュウは「トラ坊、モクくれや」と言い、タバコを要求した。
トラジは用意していたかのように「へい」と返事をし、
タバコをリュウに咥えさえ、
両手で風よけを作りながら火をつけた。

「いえ!貴方が来てくれなかったら《メイジプール》は誰も・・・・」

「ハッ、義理堅ぇお嬢でさぁ。人情だねぇ。そういうの好きでさぁ。
 ま、あっしの心意気を評価してくださんのは悪い気はしねぇがねぇ」

感謝をしているというのに、
逆にこちらがホメられた。
フレアはなんだかおかしな思いになったが、
嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を赤らめた。

「親っさん。それより・・・・」

トラジが言わんとしている事は分かる。
こう話している間も、
周りでは敵がうごめいているのだから。
そして惜しみなく、
リュウのために命を張る《昇竜会》メンバー。
親を助けるために自ら命を張っている。

「こうしてる間にも・・・・大事な子が死んでくか・・・」

リュウは唇をかみ締める。
血が垂れる。

「フレア嬢。その借りと言っちゃぁなんですが、今度はあっしらを助けてくんねぇでしょうか」

「わ、わたしがですか?」

突然の言葉に驚き、ドキッとするフレア。
これだけの数の人間を助けろ?
想像もつかない。

「で、でも私の魔法は詠唱が長くて・・・・恐らく詠唱が終わる頃には・・・・」

「いや、逃がしてやってくれってことでさぁ。おいトラ坊!!」
「へ、へい!!」

リュウが叫ぶと共に、
リュウはトラジを突き出した。
自分を支えていたトラジをフレアの方へ突き出した。

「フレア嬢と構成員(ガキ)共連れて逃げろ。なぁに心配するな。
 お前らが必死に守れば、一つや二つのピンチはフレア嬢がなんとかしてくれやさぁ」

その言葉に、
フレアと同様トラジも驚きと動揺を隠せなかった。

「な・・・親っさんは?!」

「あっしはここで食い止める」

炎の揺れる町の中、
リュウは背負うスーツをなびかせて笑って言った。
だがトラジは・・・・

「で、できやせん!!」

「親のいう事が聞けねぇか?」

「こ、これだけは聞けやせん!!」

「じゃぁ頼みだ。逃げてくれ」

トラジは言葉に詰まった。
フレアは頭の中で何かを思い出す。
何か。
自分のGMだ。
魔道リッド。
このリュウという男も自分のマスターと同じ事を言う。
終焉戦争のあの時のマスターと・・・。

「ぐっ!!」

トラジは地面を殴り、
両手を握りこんだまま地面に両手を付け、
頭を下げたままリュウに言う。

「できやせん!!!!」

「頼みって言ってるだろ"虎の字"」

トラジは頭を上げる。
リュウの暖かく強い顔を見上げる。
虎の字。
そう呼んでもらえた・・・。
タカヤと比べてまだまだ未熟な自分を、
坊や扱いしないでくれたという事・・・・・

「俺を・・・タカの兄貴のように扱ってくれるんですか!!!」

「あぁ。お前はタカ坊と同等・・・・いや、それ以上だとあっしは思ってるさ」

「親っさん・・・・親っ・・・さん・・・・」

「そしてあっしを超えろトラ坊。竜になれ虎の字。虎という名の・・・・竜にな」

そう言ってリュウは背を向けた。

「親っさん!!それでも俺は!!いや俺達は親っさんを見殺しにでできやせん!!!
 親っさんを捨て逃げるくらいなら俺を含め《昇竜会》一同、仁を通して塵になる覚悟です!!」

背を向けたまま、
リュウは力の入った言葉を続ける。

「あっしは頼みって言いやしたぜ。あっしが一度決めた意志を変えねぇ事は分かってるだろ。
 あっしは筋と思った事はやり通す。それしか出来ねぇ不器用な漢だからな。
 しかしそれがあっしの仁義で、心だ。曲げる気はさらさらねぇ」

背を向けたまま、
リュウ力強い竜の目でトラジを見た。

「だが、逃げてくれるかどうかは虎の字。お前の問題だ。
 だがあっしは逃げて欲しい。ただのワガママだが、お前ら子には生きて欲しいでさぁ。
 頼むしかできねぇが、これだけ頼んでも駄目ならもう・・・・土下座でもしてやらぁ」

「土下・・・・」

トラジは言葉を摘むんだ。
そして心の中で何か思い、
決心したようだった。

「《昇竜会》構成員全員集まりやがれ!!!!!!」

ミルレス中に響くんじゃないかという声でトラジは叫ぶ。
そしてぞろぞろと黒スーツの男達が集まりだした。
集まるメンバーをよそに、
トラジはリュウの背に向かって言う。

「親っさん!!俺ぁあんたの土下座なんか見たくねぇ!!!
 あんたは俺達の上で!空に昇り上がる孤高の竜なんだ!!!
 神なんかより煌々と輝く竜って存在なんだ!!それは俺達の心の礎だ!
 その竜が地に手をつくなんて・・・・地に落ちるなんてあっちゃならねぇ!!」

「ハハッ!いい男に育ったぜ虎の字!!」

「親っさん・・・・」

トラジは思い残すようにリュウの背を見つめていたが、
すぐに頭を切り替えて振り向く。

「行くぞオメェら!!!退却だ!!!」

「そんな若頭!!!」
「親っさんは!?」
「第一逃げ場なんて・・・・」

「うるせぇうるせぇ!!親っさんの意志だ!!
 おめぇらは親の意志さえもやりとおせねぇのか!!!?
 おめぇらに義理はねぇのか!!!おめぇらに仁義はねぇのか!!!?」

《昇竜会》の者達は静み返る。

「お前らも俺も《昇竜会》に盃(さかずき)もらったモンだろ!
 ゲソつけたその日から俺たちゃ竜の子だ!!竜の尻尾なんだぜ!!
 ぶりかまってる場合じゃねぇ!筋通して根性見せろや!!!」

そして目に竜の炎のような決意が見えた。
全員。
一人残らずに・・・。
リュウは口元が緩むのを止められなかった。
いい仲間を・・・・いい子らを持ったと嬉しく、
トラジがここまで育った事に単純なる親心が沸いた。

「行くぞフレア嬢!!!逃げるぜ!!!」
「で・・でも・・・・」

「虎の字!!!」

「へい!!!」

突然リュウに呼ばれた。
そして咄嗟に返事をした。
もうクセのようなものだった。
タカヤの代わりにリュウの一番近い所にこれて、
嬉しくて、
嬉しくて体に浸み込んだクセだった。
そしてそのトラジの目の前に何かが飛んできた。
トラジはそれをキャッチする。

「これは・・・・」

「あっしの木刀"大木殺"だ!選別だ!くれてやらぁ!!!」

「親っさん・・・・」

トラジはかみ締めるようにリュウの木刀を握り締めた。

「親っさん!俺はこの時を・・・"登竜門"だと思う事にしやす!!
 浮世に逝っても親に恥晒さねぇ漢になりやさぁ!!!」

トラジはそれだけ言い、
もう振り向かず、
《昇竜会》の構成員を連れ、
一目散に走った。
フレアが心配そうに何度も後ろを振り向いていたが、
トラジは一度も振り向かなかった。
振り向いたら決意が鈍ってしまいそうだったから・・・・。


「さぁて・・・・・」

たった一人残ったリュウ。
燃えるミルレス。
夜の闇の中、
孤高と立つ竜。

周りは・・・・
モンスターだらけだった。
数え切れないモンスター。
カードマン。
ウェンディゴ。
武器を持ったモンスター達。
一方・・・武器さえ持ってないリュウ。
だがその姿は堂々としていた。

「いい夜だ。鬼も十八番茶も出花・・・・・・とでもいいやしょうかね」

風が吹く。
夜の中の風。
背負うスーツが揺れる。

ヒュン・・・
と何かがとんだ。
槍。
モンスターの槍だ。

それがリュウの腹に突き刺さる。

「ぐっ・・・・」

リュウはよろける。
腹。
つまり急所・・・・
血がユルリと流れる。
背負っていたスーツが飛ぶ。
だが・・・・
リュウは倒れない。
すでに立つのもやっとの体であったが・・・
確固たる意志が足を支えた。

「ヘでもねぇやな・・・・」

リュウは血だらけの槍を抜き、
その場に捨てた。

「あっしにゃぁ子がいる・・・。そりゃぁ強靭な根っこでさぁ・・・・
 それがある限り・・・・『木造りの登り竜』は倒れやしねぇ・・・・・」

リュウは両手を広げた。

「今日はまるで夜桜の咲き乱れでさぁ!三途の川で酒でも一杯ってのも一興!
 蓼(たで)食う虫も好き好きよ言いやすがぁ!悪かねぇ!悪かねぇでさぁな!」

突っ込んでくるモンスター達。
武器が飛ぶ。
モンスターの武器が刺される。
刺さる。
一本。
二本。
八本。
リュウの体に突き刺さる。
血が噴出す。
口から意志と別に血が飛び散る。
だが、
それでもリュウの口は笑っていた。

「こりゃぁだめだな・・・・三途行きか・・・三途ってぇのはいいとこなんかねぇ・・・
 いや、いいとこだろうな。"三"は縁起がいい。・・・・・・・そうだろ?タカ坊・・・・」

さらに刺さる武器。
ウェンディゴの槍。
ポンナイトの剣。
キャメル船長のサーベル。
刺さり尽くす。
全身が穴だらけになり、
全身から武器が突き出ている。

だが・・・・リュウは倒れない。

「あっしの生涯に一片の悔いもねぇ。・・・・いや、それも戯言でさぁな。
 思い残す事など五月雨の如くありまさぁ・・・・・・」

また突き刺さるモンスターの武器。
だが、
リュウの体から生える武器が増えるだけ。
背は力強く、
そして背の竜の刺青は色褪せず・・・・血塗られるだけ。

「思い残す事は山ほどありやす・・・・が・・・・・・これだけは言えまさぁ・・・・
 あっしは信念と仁義を一度も曲げずに生きてきた・・・・
 その事に関してだけは・・・・後悔ってもんはねぇ・・・・
 ・・・・・・・・・・・だからこれだけはハッキリ言える・・・・・・」

モンスターが詰め寄る。
そして・・・・
トドメと言わんばかりに、
さらに5本の武器がリュウに突き刺さった。

「・・・・・・・・・・・いい人生だった・・・・・・・・・」

十数本の武器を体に突き刺したまま、
リュウはそこで意識を失った。
『木造りの昇り竜』の最後だった。

竜は最後まで立ったままで、
最後まで笑ったままそこに立ち続けた。
魔物にはそれをどうすることもできなかった。

確固たる意志と仁義が、
彼をそこに立ち続けさせ、
死してなお堂々と聳え立つ姿。


それはまるで・・・・・



大木が聳え立つかのようだった。








そして一匹の竜は天へと昇っていった。















                 






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