「騎士団長だとっ!!あれがあの有名なアインハルトって奴だってのか!」

ドジャーは咄嗟に声が出た。

・・・・・・・・・呼び捨てられた。
"アインハルト"と。
ただのカスに。
騎士団長アインハルトはそれに対し、
怒りのような殺気を振りまいた。
深く、黒く、冷たい殺気。
だが、アインハルトの眼はドジャーを見下さない。
見下すまでもない。
いうならば眼中にない。
殺気だけをドジャーに振りまく。
カスにはそれで十分。
そして・・・・
実際ドジャーはその黒き殺気だけで押されそうになる。

「ふん。カスが」

絶対的な存在が目の前にいる。
全てを包み込むような長い長い漆黒の髪の毛。
整い、引き締まったその顔は、
全ての女子を虜にしてしまいそうなほどの器量だった。
いや、飲み込んでしまいそうな禍々しい表情にも見える。
そして雰囲気。
近寄りたくもない、
傍にも寄りたくないと思うほど痛烈な殺気のような威圧感。
だが、その漆黒の空気は全てを飲み込むようで、
引き込まれるようなカリスマ性をも備えている。

初めて会ったドジャーとジャスティンにも分かる。
この男が・・・・・・・・・・・・世界の頂点なのだと。

「・・・・・だが・・・・・」
「なんで騎士団の長が生きてやがるんだ・・・・・」

ロウマを含めた44部隊。
ピルゲン。
そしてアレックスを除くと、
終焉戦争で王国騎士団のメンバーは全員死んだはずだった。
それだけは間違いない。
全滅。
特にそれはジャスティンがよく分かっていた。
攻めギルド《GUN'S Revolver》のメンバーとして参加したのだから。
だが、
アインハルトが生きている理由もジャスティンには分かる。
終焉戦争とは"それ"が理由で起こったものなのだから。

「説明しろよ・・・・」

ドジャーが小声で言う。
絶対的存在の前、
大きな声を出すのも無意識のうちにためらわれた。
それくらいの威圧感がある。
あのアインハルト=ディアモンド=ハークスという存在は・・・・。
ジャスティンがソッと話し始めた。

「俺達GUN'Sがな・・・・先立って終焉戦争を起こした決め手ってのは・・・・
 たった一つ。・・・・・あの騎士団長アインハルトが留守だったからなんだ」
「留守だと?」
「・・・・・・はい」

アレックスが震えた声でジャスティンの代わりに返事をし、
そこから先はアレックスが代わりに答える。

「大手のギルドは騎士団長の絶対的力を知っています・・・。
 本人が手を下さなくとも・・・騎士団長がいるだけで戦場は一変するからです・・・・。
 戦術・・・士気・・・力・・・・全てにおいて騎士団長がいるだけで戦争は負けを意味します・・・・」
「・・・・・」
「それぐらいの人なんです・・・・」

ドジャーは噂だけだがその風評くらいは聞いた事ある。
というよりマイソシアでアインハルトの事を知らない者などいない。
"たった一つの存在"とまで呼ばれる絶対的人物。
まるで童話や伝説・・・いや、生きた神話。
そんな風評、逸話がどれだけでも世間には流れている。

一番有名な逸話は・・・・・・"デムピアス討伐"。
魔物界の頂点の討伐。
海賊要塞に討伐に向かった騎士団2000騎。
その中でたった一人生還したのが彼、アインハルト。
次の日から彼が王国騎士団の騎士団長となり、
その時から王国騎士団の横暴的な統治が始まった。

そして、
ある者はその力の見入り、神のように信仰し、
ある者はその力の前に敬服し、絶対服従を誓い、
ある者はそのカリスマ性に惹かれてついていった。

それ以外の者は・・・・死んでいった。

アレックスは浮かぶ親の顔を振りきり、
さらに話を続けた。
終焉戦争の起こりについて。

「騎士団長は一年前突如城を出ました。・・・・・出て行った理由は・・・・・・・」

そこが重要だった。
王国騎士団が潰れるだろう事を予想しながらも、
されど単身出て行った理由。
だが、
その理由は"突飛"しすぎて、
ドジャーは一瞬理解に苦しんだ。

「"アスガルド(天上界)の侵略"です・・・・・・」
「なっ!?」

あまりにも飛びすぎた規模の話に、
ドジャーはあっけをとられた。
何を言ってるんだとも思いながら、
軽く目の前の絶対的な存在を前にするともしかするととまで思ってもしまう。

「それから先・・・全く騎士団長の消息が消えます・・・・」
「あぁ・・・・最初は俺達GUN'Sを含めた大手ギルドも
 最初は戦略・・・罠か・・・・そう疑った。または病死したとまで噂が行き交っていた。
 そして実際にアスガルドに乗り込むという事もあながち信じられない話じゃなかった」

やりかねない・・・と思ってしまうのだ。
ジャスティンはチラリとアインハルトの方を見た。
いや、見れなかった。
そちらの方を向いたまではいいが、
圧倒的な威圧感の前に眼を見れなかった。
ただ、あざ笑われたような気だけした。
咄嗟に眼をそらして続ける。

「結局の所・・・・騎士団長アインハルトがいなくなったのは間違いないと断定し、
 世界で力のある15のギルドで協定を結び・・・・・攻城戦へと持ち込んだ」
「それが終焉戦争か」

アインハルト=ディアモンド=ハークス。
たった一人の存在がいるかいないか。
それだけで戦争は起こった。
たった一人の人間によって歴史の道が変わった。
そこまで大きな存在・・・・。



                  「で、ですが戦力の差がありすぎます!」
                  「くそぉ!騎士団長がいない時を狙ってくるなんて!」
                  「所詮は民の集まりのくせに!」
                  「騎士団長さえいれば・・・」
 
                  「いない人を求めても無駄です・・・・・」


アレックスの頭に、
あの戦争の時の情景が浮かぶ。
悲しく、
後悔だらけのあの時。
赤い絨毯。
騒がしい城外。
騎士団長の不在を狙われ、
パニックになる王国騎士団。
そして・・・・・死んでいく仲間達。
・・・・・・裏切った自分。

「つまり・・・・」

ドジャーの言葉でアレックスの頭の記憶は吹っ飛ぶ。
ハッとしてアレックスは頭を振った。
そしてドジャーは続ける。

「終焉戦争に居なかったから死んでないか・・・・・カッ、そりゃ分かりやすいな」

ドジャーは顔をしかめる。
死んでいない。
ドジャーは初めて会うが・・・・
目の前の強大な存在が自分に幸ある存在でない事だけは分かる。
自分を・・・
何もかもを押しつぶしてしまいそうな絶対的存在。


「そろそろいいかカス共」


アインハルトの声。
その短い一言でアレックス達は一瞬で固まる。
声をかけられただけなのに・・・
自分達が死ぬイメージさえ描かされる。

「ふん。我もカス共の戯言に付き合ってやるほど甘くなったか」

怪しく、そして恐怖をかき立てる小さな笑み。
完全なる上から放たれた微笑は、
アレックス達(弱者)を固めるのに十分だった。

「まぁお前らの話したとおりだ。我はこうして生きている」

両手を広げ、
大きなマントが広がる。
その姿。
隣にいるロウマほどの体格も身長もないはずなのに、
何よりも大きく圧倒しているように見えた。
そして何もかも、
そのカリスマ性の中に引き込んでしまうブラックホールのようにも見えた。

「我が死ぬはずもないがな・・・・・そしてアスガルド(天界)の侵略も事実だ」

嘘偽り。
そんなものは必要なかった。
アインハルトが言うならば・・・・それは真実。
起こりえること。
そして起きたことなのだと納得させられてしまう。

「見るがいい」

アインハルトが両手を畳むと同時、
静かなる・・・・暗闇の地下。
湿った冷たい空気の中。
何かの音が聞こえる。

コンッコンッ・・・
コロコロ・・・・
足音・・・ではない。
だが何かが近づいてくる音。
跳ねたり転がったり。
ソレが近づいてくる。

それは恐怖だった。
何かは分からないが、
それを見た時・・・・何か恐怖・・・畏怖・・・
そういったものを感じる予感・・・悪寒がした。

そしてソレはアレックス達の前に姿を現した。

「何か分かるか?」

アインハルトの背後。
地下の入り口。
その階段。
その階段からソレは跳ね飛んできた。
丸いもの。
それは階段を転がり落ちてきたのだろう。
その丸いソレは、
跳ね跳んだ後、
アインハルトの前にコロコロと転がり、
ペチョリと止まった。

「な、なんだアレ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・首!?」

それは首だった。
人の首。
誰かは分からないが首だった。

アレックス達は息を呑んだ。

その首。
ただの人の首とは思えない代物だった。

美しい髪だ。
まるで水のように透き通り、
オーロラのように輝いている。
美しい顔だ。
男か女か分からないが、
この世で一番の美しさ。
透き通るような肌とはこういうようなものをいうのだろう。
美しい眼だった。
宝石のような眼。
そしてその眼は左右別々の方を向いている。
それはそうだ・・・・
首。
生首。
その異端の生首。
首しかないという事が事実で結果。
哀れに息絶えているのだ。

「このカスの名を教えてやろうか?」

アインハルトはそう言い、
その異端の美しい首の上に足を置いた。
踏みつける形。
サッカーボールを踏むかのように簡単に足を置く。
そしてアインハルトは言う。

「こいつの名は"セオ"。アスガルドの絶対神。いや・・・・・最高神と言うと分かりやすいか」


「ぜっ・・・」
「アスガルドの最高神!?」

セオの頭はそれを納得させるだけの美しさがあった。
完璧なる神がいるとしたらこのような顔だろう。
そう一瞬でイメージさせる美しい顔だった。
・・・・・だが。

死んでいるのだ。

世界最高の神は、
首だけの情けない姿となり、
そして・・・・・・・一人の・・・・・
たった一人の人間に足蹴にされている。

「ふん。何が絶対神だ。カスのくせに。絶対の存在というのは・・・・・・・・」

音が鳴り響いた。
気持ちのいい音ではなかった。
何かが弾け、
何かが飛び散り、
何かで濡れる音。

「この世に我一人でいい」

アインハルトの足は血で染まった。
そこにもう絶対神セオの面影はなかった。
見たこともない美しい色の血を飛ばし、
ただのカスとなって飛び散った。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・っ・・・」
「・・・・・・・・・・・な・・・・・・」

あまりの内容に、
アレックス達は言葉が出なかった。
目の前で起こっている事に頭がついていかない。
話が飛躍しすぎて理解に苦しむ。
これが現実なのか?
こんな事を突然見せられて納得できるのか?
だが納得させられてしまう恐ろしき威圧感。
分かるのはそれだけ。
アインハルトという男の絶対的力。

「カス脳共め。これでも意味が分からないか?」

アインハルトは微笑と共に右手を掲げる。
そして・・・右手を握り締めて言った。

「アスガルド(天界)は我の手に落ちたという事だ」

何がなんだか分からない。
頭の中で順番がグチャグチャになる。
整理できない。
アスガルド?
落ちた?
まずアスガルドなんて世界が本当にあるのかさえ疑問だった。
なのにそれが落ちた。
たった一人の人間の手によって。
目の前の絶対的存在はそう言っている。
突然現れたこの男がそう言っているのだ。
そしてその証拠であるものは・・・・
その絶対的な存在の足の下で悲しきものとなっている。

「あとはマイソシアを中心とするミッドガルド(下界)だけだ。
 まぁそれももう落ちているようなものだがな。クク・・・・・・・・アレックス」

突如名を呼ばれた。
だが返事をする事ができなかった。
口が半分開いているのにも気付いてなかった。
ただ虚ろな目でアインハルトの方を向くしかなかった。
ただ・・・・命令通り。
呼ばれるがままに・・・・。
引き込まれるように・・・・・。

「お前は少々の予定外を我にプレゼントしてくれた。
 クク・・・・まさかお前がオブジェを盗みだすとは思わなかったからな。
 面白い事をしてくれた。多少の余興にはなった。
 が、それもただの余興。・・・・多少のな。カスが生み出すはカスのみという事」

アインハルトが近づいてくる。
大きな存在が・・・
ゆっくりと歩み寄ってくる。
・・・・・・・押しつぶされそうになる。
その威圧感だけで・・・・心が潰れそうになる。
アインハルトは近づき、
アレックスの前に立ち、
アレックスを見下すと・・・・アレックスのアゴをソッと手を添えた。
そして何もかもを見下す冷徹な眼がアレックスを貫きながら、
絶対的な存在はアレックスに言い下す。

「アレックスよ。お前がやった事など・・・あまりに小さな事だ。
 だが我がアスガルドを平定する2年の間。余興をくれた事を感謝してやろう」

冷たく。
ブラックホールのように黒く暗い目の奥。
そこから見つめられる視線。
何もかもを知られているような。
そんな眼。
アレックスはそれをただ見つめるしかなかった。
1mmも眼球を動かせなかった。
クギで縫い付けられたように眼が動かない。

「ふん。こう見るとカスなりに・・・・やはりアクセルとエーレンの子だな」

そう言い、
アインハルトはアレックスを突き飛ばした。
そして哀れに転がるアレックスを見下しまた言い捨てる。

「狼のような眼だ。気に入らん。
 誰かの言いなりの犬などにはならないと訴える眼。
 自由に生きることを望む狼の眼だ。・・・・・・・カスのくせに」

何か目障りなゴミでも見るかのように、
アインハルトの眼はアレックスを見下したままだった。

「我に必要なのは忠実なる犬。我の世界で生きる資格があるのはそれだけ。
 まぁ・・・使えぬカスは消すがな。人の生死の権利など我が全て決める」

ふとアインハルトが視線をずらした。
眼に入るのは・・・・二人。
ドジャーとジャスティン。
アインハルトのすぐ横。
二人はそこで身動きできないでいた。
目の前でアレックスがやられているのを見ても、
動き出すことさえできなかった。
そして・・・・
絶対的存在は二人に言い捨てた。

「なんだこいつらは」

その言葉。
あまりにも殺人的なその言葉に、
ドジャーとジャスティンは頭の中が真っ白になった。
たった今・・・
今の今まで・・・・
自分達はアインハルトという存在の中に・・・・・・・興味のカケラもなかった。
ただ話すカスが二匹。
その程度にしか認知されていなかった。
興味の範囲外。
この男を目の前にすると、
それは一瞬で自虐心と変わり、二人の心を蝕んだ。

「目障りだ。・・・・・・・消えるかカス共」

アインハルトの眼がドジャーとジャスティンを見下す。
先ほどまでのように声が出なかった。
ここまで近くで見下されると、
もう自分達はこの存在のオモチャか何かな気さえしてきた。
そして・・・・・・

死を覚悟した。

「おい。アイン」

遠くから声が聞こえる。
その声は・・・・ロウマの声だった。

「その辺にしておけ」

「クク・・・・・・・・」

アインハルトは怪しく笑うと、
ゆっくりと首から体を回し、
マントを翻しながらロウマの方を向いた。

「ロウ・・・。お前はいつから我にそんな軽口を叩けるようになったのだ?
 2年会わないうちにどれだけ偉くなったつもりだ」

ロウマは絶対的存在を前に、
まったく押される様子もなく答えた。

「偉くなどなったつもりはない。変わっていないだけだ。
 お前との関係は昔のままだからこそ軽口のまま。それだけのことだ」

「・・・・・・ふん。まぁいい」

アインハルトはロウマの言葉を引き金に、
またゆっくりと元の位置に戻っていった。
と、同時にロウマはまたアインハルトに頭を垂れる。

色々な疑問。
理解。
突如突きつけられた多すぎる現実。
整理できない思考。
そんなものの中、
二人が同時に感じた事。
それはたった一つ。
生きながらえることができた・・・・。
ドジャーとジャスティンの頭にはそんな思考が奏でられた。

「そろそろお行きになられませんか?ディアモンド様」

ピルゲンの声だった。
・・・・・不覚にも、ドジャーとジャスティンにはそれが神の声のように聞こえた。
心から願ってもいない言葉だった。
もう心が押しつぶされそうだった。
他のどんな事もどうでもいい。
生きた心地がしない。
早く・・・死から逃れたい。
いや、楽になりたい。
恐怖から脱出したい。
そんな気持ちだった。
だが、それも一人の言葉でまだ続く事になった。

「待ってください騎士団長・・・・・」

アレックスだった。
そんなアレックスを見て、
アインハルトはゆっくりと怪しく微笑しながら見下して言い放った。

「震えが止まったなアレックス」

・・・・震えは止まっていた。
たしかにアレックスの震えは止まっていた。
だがそれはただの外見的な事。

「だが心の中はまだ震えている・・・・・か」

心を見透かされたようだった。
全てお見通し。
神をも超える絶対的存在。
何もかもを握られている。
そんな気さえしてくる。
だがアレックスは心を握りつぶしたまま、
アインハルトを真っ直ぐ見ていた。
それを見ると、
アインハルトは突如肩で笑い・・・・・・・・

「フフ・・・・・ハーーハッハッハ!!!その眼だ!その憎たらしい眼だアレックス!
 オーランドの血だな!狼の目だ。カスの中に潜む野獣の目!
 それを見るとグシャグシャに踏み潰してしまいたくなる!」

アインハルトは高笑いをした後、
大きく見下したまま、
何か言いたげなアレックスに言い放つ。

「クク・・・・・なんだ。言ってみろ」

アレックスは一瞬心臓が止まった感覚に襲われたが、
それを押し殺して口を動かす。

「・・・き・・・騎士団長はあとはミッドガルド(下界)だとおっしゃいましたが・・・・
 何故ですか・・・・あなたならあのまま王国騎士団を使って完全支配もできたはず・・・
 なのに何故それを捨ててまでアスガルド(天上界)の制圧に・・・・・・」

「愚問だな」

アインハルトは冷静に答えた。
あまりに当然のように。

「王国騎士団に飽きてな。作り直そうと思った。それだけだ。
 掃除はロウとピルゲンに任せて我はアスガルドに遊びに行ったまで」

・・・・。
その答えは単純なようで・・・・あまりにも残虐的な言葉だった。
つまるところ・・・・
感情・・・
きまぐれ・・・・・
それだけで・・・・・・・・・・王国騎士団全ての命を捨てた。
まるで飽きたゲーム盤のように、
まるで積み木を崩すように、
まるでゴミのように・・・・捨てる。
それができる。
それをしてもいい存在。
その権利を与えられているが如く。
いや、彼は実際にそう思っているだろう。
そして実際にそうなのかもしれない。
誰も文句は言えない。
そして実行できるのだから。

「ディアモンド様がよろしければ・・・私からご説明をしましょうか?」

ピルゲンはヒザをついたまま、
頭を下げたままそう言った。

「ふん。好きにしろ」

「ありがたき幸せ」

ピルゲンはそう言い、頭を上げて立ち上がると、
アレックス達の方を向いて話し始める。

「よろしいですか各々方。これから私が言う事。
 それをかみ締め、世界の全てはディアモンド様の手中だと悟りなさい」

ピルゲンはまるで自分の事のように自慢げに話し始める。
ヒゲを当然のように整えながら。

「終焉戦争。あれはディアモンド様が起こしたものなのでございます」

「・・・・・だと?」
「・・・馬鹿なっ!あれは俺達GUN'Sを中心にっ!」

「その《GUN'S Revolver》がディアモンド様のものだったら?」

・・・胸を貫かれた思いだった。
何を言ってるのか・・・と思いながらも、
何もかもを突きつけられたような。

「GUN'SのGMは・・・・ミダンダスの野郎じゃねぇのか・・・・」
「たしかにミダンダスさんは騎士団で研究をしていましたが・・・・」
「まさかグル!?」

「そんな・・・・あんな者をディアモンド様がお使いになるはずがない」

ピルゲンは嬉しそうに笑顔で答えた。

「まぁ結果的に利用はしたわけでございますけどね。
 まぁ順を追って話していきましょうか・・・・・・」

ヒゲを整える黒いハットをかぶった男は、
怪しく話し始めた。

「ドラグノフ=カラシニコフという騎士団員がおりました」

ドラグノフ=カラシニコフ。
《GUN'S Revolver》のGMの名前。
それは・・・・ミダンダスの偽名だと思っていたが・・・・

「ドラグノフはディアモンド様に内密に命令を下されます。
 騎士団を潰すためのギルドを作成しろと・・・・・
 それは大きければ大きいほどよく、
 壊れやすければ壊れやすいほどよい・・・・・・と」

ピルゲンはチラりとアインハルトの方を見る。
アインハルトは軽く鼻で笑った。
ピルゲンが続ける。

「ドラグノフは自分の姿を隠しながらも即興で作り上げました。
 吸収合併ばかりで統率力のない大型ギルド。
 壊れやすく、それでいて強力な諸刃の団体。
 王国騎士団に撃ち込む弾丸。《GUN'S Revolver》を。
 後は簡単な話でございます。終焉戦争の手筈さえ整いましたら、
 ドラグノフはソッとGUN'Sから身を離しただけ。
 ・・・・・・・・ミダンダス=ヘブンズドアという代理を立ててね」

ミダンダスは・・・・
利用された代理のGM?

「ドラグノフは隠密計画が故に姿を現さないGM。
 だから代理を立てるのは至極簡単な話でございました。
 表に顔を出さないGMがすげ代わっても誰も気付きません。
 選ばれたミダンダスはその代理にうってつけだったのでございます。
 ミダンダス自身、表に顔を出さない人物で適任でしたし、
 騎士団に足を運んでいた事から話をつけるのも容易でございました」

ピルゲンはクックック・・・・と怪しく笑う。

「馬鹿な者ですミダンダスも。罠だとは気付いていたでしょうが、
 それなのに自分から罠に身を投じていった・・・・・。
 まぁそうでしょうな。罠だろうとミダンダスにとってこれはチャンス。
 自分の夢を叶えるためのね。罠を夢と錯覚して簡単に受け入れた」

ピルゲンの眼が動く。
アレックス・・・ドジャー・・・・いや、
ジャスティンに向かって止まった。

「ジャスティン殿。ミダンダスは貴方をお気に入りだったのではございません」

「・・・・・・何?」

「ミダンダスは内密に代理に立ったからこそ・・・・・他に手は無かったのですよ。
 急遽内密に代理GMになったためほとんどGUN’Sの動かし方も分からなかった。
 だからボロを出さないよう、面識のある貴方にしか重要な命令と指揮権を委ねられなかった・・・・」

当然だろう。
今の話が本当なら、
ミダンダスがドラグノフの名を借りてGMをやっていた期間はかなり短い。
終焉戦争を基準にして考えると・・・・1年や2年ほどだろう。
突然トップに配置され、簡単にあの大規模ギルドを把握しろというのが無理な話だ。
そしてあまり目立つことでボロが出てもまずい。

「だから面識のある貴方に命令、指揮を任せるしかなかったのですよ。
 一年前に急遽あなたを六銃士に昇格させたのはそのためでございます」

・・・・・・・。
ジャスティンは唇をかみ締めていた。
繋がるのだろう。
全ての理屈が・・・・。
繋がってしまう。
そしてジャスティン自身も悔しいのだろう。
利用されていた。
夢を追い求めて仲間を捨ててGUN’Sに入り、出世もした。
・・・・・・が。
それも利用されていたも同じ。
ミダンダスと一緒。
夢を錯覚して使われていた。
それだけだったと無力感を味合わされる。

「あとは終焉戦争が終わったらGUN’Sの解体。
 それは・・・・今の今。さっきの時点で全て片付いたのでございます」

片付いた。
そう。
片付けたのは・・・・・・・・アレックス達だ。
それは・・・・・・・まんまと利用させられていたという事・・・・・

アインハルトが黒く笑う。
漆黒のような笑みを浮かべる。
・・・・。
全て本当なのだろう。
全て計画だったのだろう。
・・・・こんな悲しい事はない。
そしてこんなに恐ろしい事はない。

全て・・・
全てはアインハルト=ディアモンド=ハークス。
その絶対的なたった一人の手のひらの上で動かされていた。

王国騎士団。
アスガルド。
《GUN'S Revolver》。
その他のギルド達。
いや、全ての人間。
世界恐慌(System Of A Dawn)・・・・それ自体で世界をも巻き込み、
全ての人の苦しみ、悲しみ、そして死。
世界の人々の"人生"そのものが、たった一人の手によって遊ばれていた。
アインハルト=ディアモンド=ハークス。
そのたった一人の意思。
そのたった一つのきまぐれ。
そのたった一つの想像によって世界は創造された。

天も地も、
アスガルドもミッドガルドも、
神も人も、
全てを巻き込み、利用し、使い捨て・・・・・

無力感。
ただそれだけが襲ってきた。
自分達がやってきた事はなんだったのか。
そんな空虚な感情は怒りをまったく生み出す事を忘れていた。

TRRRRRRRRRRR

突如WIS着信音が鳴り響く。
誰のものかと思うと、
ロウマがWISをとった。

「・・・・分かった。ご苦労だ」

そう言ってロウマがWISを切ると、
ロウマはアインハルトに向かって話す。

「アイン。ユベンからの報告だ。あと半刻もあれば"上"は片付くそうだ」

「そうか。掃除が終わるか」

アインハルトが言った言葉。
それに関して何か違和感のようなものを感じた。
上?
上・・・とはアスガルド(天上界)の事だろうか。

「様子がおかしいとは思わなかったのでございますか?」

ピルゲンが嬉しそうに言ってきた。
なんの事か分からない。

「そんな顔をしないでいただきたい。まぁ外。少し騒がしいと思いませんでしたか?」

「・・・・!?」
「・・・・っ!?」

外。
たしかに騒がしいと思っていた。
アインハルトの登場でそんな事は吹っ飛んでいたが、
それは3人全員が気付いたことだった。

騒がしい。
戦争が続いているからとかではない。
何か異様な騒がしさ。

「上とはこの上の事だ」

アインハルトの言葉。
この上・・・
つまりミルレス。
戦場。

「クク・・・お前らカス共がこんな地下の中でのんびりしている間、
 この上では何が起こっているかも知らなかったのだろう?」

アインハルトは怪しく笑う。
そして言い放つ。


「掃除だよ。"カス共の掃除"だ。想像できるか?想像してみろ。
 今のミルレスの状況をな。半刻後には血の残った平野だろうよ。
 何せ魔物を含む我の部下達がミルレスを襲っているのだからな。
 逃げ場などない・・・・・・・・・・・・・たった今、地上に地獄が浮上したと思え」









                 






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