「レイズてめぇ!!!!」

ドジャーはレイズに掴みかかった。
凄い形相で、
目が真剣で、
感情が溢れていた。

「なんで!なんでテメェ死にやがった!!!!!」
「・・・・・・・・・・うるさいな・・・・・・・・・ウザい・・・・・・・・」

レイズは顔をしかめて言った。

「・・・・・・・・・お前も死んでるじゃないか・・・・・・・」

暗い、
地下の闇の中。
湿った暗闇の中。
生の無い二人。
魂という心だけの二人。
感情だけの存在である二人。
死。

「うるせぇ!!生きろ!!!生き返れ!!!!」

ドジャーはレイズの体を叩く。
殴る。
痛みはない。
魂だけだから。

「・・・・・・無理言うな・・・・・見ろよ・・・・・・・体がバラバラだ・・・・・・・・・・」

魂のレイズが指を指す。
だが、指す方向に照準は定まっていない。
言葉通り、
レイズの本体はもうバラバラなのだから。

「・・・・・・・接着剤ででも・・・・・・くっつけろっていうのか・・・・・・・・
 ・・・・・クック・・・・・それで助かるなら・・・・・医者なんかいらないぞ・・・・・・・・」
「うるせぇうるせぇうるせぇ!!!!生き返れよ!!!!!」

ただぶつけようのない感情。
ドジャーの泣き叫び。
レイズの胸をただ叩く。
レイズはそれを黙ってみてるしかなかった。

「生き返れ!!!ぁあ!?生き返れよコラ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・生き・・・・・・・・・生き返れよ・・・・・・・」

ドジャーはレイズの前で崩れ落ちた。
うつむき、
ヒザをついた。
そんなドジャーにレイズは言う。

「・・・・・・・・・・俺と違って・・・・・・・お前は生き返れる・・・・・・・・・
 ・・・・・・・蘇生の平均時間・・・・・・30分は・・・・過ぎたが・・・
 ・・・・・・お前の頑固な意志で・・・・・・まだ魂がここにあるじゃないか・・・
 ・・・・・・・・クク・・・・死んでも・・・・・・諦めの悪い奴だ・・・・・」
「俺なんてどうでも!!!」

叫ぶドジャーの体。
突如その体が輝き始めた。
自分の魂が輝いている。
ふと視線の方向を変えると、
そこではアレックスとジャスティンがドジャーの本体を蘇生していた。
死するドジャー。
それを必死で蘇生している。
ジャスティンとアレックスが息をしていないドジャーに対し、
必死の思いで呼びかけている。

「・・・・・・・・・・・あいつらが・・・・・・・・呼んでるぞ・・・・・・・・いけ・・・・・・・・」
「お前を残していけるかっ!!!」
「・・・・・お前も取り返しがつかなくなる前に・・・・・・・いってやれ・・・・・・」
「イヤだね!!」
「・・・・・・お前の魂も・・・・・もう限界だ・・・俺が命を張ったのを・・・・・・・
 ・・・・・無駄にする気か・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・」
「うるせぇ!!!死んでるんだよ!!!」

ドジャーはもう一度レイズに掴みかかる。

「だが!ひっぱってでもお前も連れてってやる!!!!」
「・・・・・・・・・・・・ククっ・・・・・・・・・」

レイズはただ笑った。
だが、
いつもと違い、
笑い方が穏やかに見えた。

「・・・・・・・うちのわがままな大将は・・・・・・こんな無理を言うんだぞ・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・どう思います?・・・・・・・・・・・・・ヴァレンタイン院長・・・・・・・・・・」

そう言い、
レイズは振り向いた。
穏やかな笑顔のままで、

ドジャーは辺りを見回す。
キョロキョロと見回す。
だが、
ドジャーにはヴァレンタインの姿など確認できない。

「・・・・・・・・・・お前には・・・・・・・・見えないか・・・・・・・・・」

レイズはそう言い、
ドジャーの肩に手を置いた。

「・・・・・・・それが証拠だ・・・・・・・・・俺は先に・・・・地獄にお呼ばれしてくるとする・・・・・・・・」
「死ぬなっつってるだろ!!!!」
「・・・・・・・・・うるさいな・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・・」
「死んでるっつってるだろ!!!!」
「・・・・・・・・・・・クック・・・・・・・・ほんとにお前はアホだな・・・・・・・・」

本当に穏やかな笑顔でレイズは笑う。

「なんでお前だけが死ぬ必要があるんだ!!!!
 なんで俺らの中でお前が犠牲にならなきゃならねぇんだ!!!」
「・・・・・・・俺は・・・・・・・・」

レイズは視線を変える。
地下の暗闇。
地下であるのに横にある窓。
ミルレスの絶壁の窓。
そこから夜空を見上げてレイズは言う。

「・・・・・・・・・俺は・・・・・・・命を救うのが仕事だからな・・・・・・・・・」
「頼んでねぇ!!!!」
「・・・・・・・・・頼まれなくても・・・・・・仕事をしたくなったんだ・・・・・・・」
「お前!!!お前・・・・・・・」

また、
ただ同じような事をドジャーは叫ぼうとした。
だが、
その前に気付く。
レイズの腕が薄くなってきている。
消えかかってきている。

「・・・・・・・・・・・・仕事もしたし・・・・・・・・・逝くとするか・・・・・・・・・」
「ま、待てよ!!」
「・・・・・・・うるさいな・・・・・・・逝かせろ・・・・・・」
「絶対に逝かせねぇ!!!」
「・・・・・・・・じゃぁ・・・逆に頼み事だ・・・・・・」
「・・・あん?」
「・・・・・・・お前は・・・・・寿命まで生きろ・・・・・・・・」
「な、なんだよ突然・・・・」
「・・・・・・・・俺の命をくれてやったんだ・・・・・・・それぐらいはしろ・・・・・・・・・」
「・・・くっ」
「・・・・・・・・100年後に・・・・・・・・・みんなで・・・・地獄で同窓会でもしようぜ・・・・・・」

レイズの体はもう・・・・
薄っすらになってきている。
ドジャーはもう言葉が出なくなってきていた。

「・・・・・・・・おっと・・・・100年じゃぁロッキーはまだバリバリだな・・・・・・・・
 ・・・・・・・・まぁ危なっかしいから・・・・お前責任もって最後まで世話してやれよ・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・ククッ・・・・・・・・あとチェスターの夢も叶えてやれ・・・・・
 ・・・・・・・・・あの猿頭の馬鹿から・・・・あれをとったら・・・・何も残らないしな・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・エクスポは・・・・・・・・少し・・・・・口数を少なくさせとけ・・・・・・・・
 ・・・・・・・死んでからもあの説教を聞くと思うと・・・・・・・また死にたくなる・・・・・・・
 ・・・・・・・あぁ・・・・・・・イスカのマリナへの想いは・・・・・・・・もうほっとけ・・・・・・・・
 ・・・・・本人はそれで幸せだし・・・・・・・クック・・・・その方が面白いしな・・・・・・・・
 ・・・・・・・・まぁマリナの方は・・・・・・・何しようが自分でどうとでもするだろ・・・・・・・
 ・・・・・・・マリナの心配するくらいなら・・・・・・マリナ客の心配をした方がいい・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・おっと・・・・・・死んで良かったこともあるな・・・・・・・
 ・・・・・・・・お前とジャスティンの・・・・照れくさい再会生活を見なくていい・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・あ・・・・それと大事な話だ・・・・・・これだけは言っとく・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・本人から口止めされてたんだがな・・・・・・・メッツの話だ・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・あいつの体は・・・・・薬やらなんやらで・・・・・もうボロボロだ・・・・・・・
 ・・・・・・どうにかできるのは・・・・・・・お前しかいない・・・・・・・なんとかしてやれ・・・・・・・・・・」

レイズの言葉の群れ。
ドジャーは、
まだ何も言えなかった。
聞こえているが、
頭でその言葉をどう変換したらいいか分からなかった。
頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「・・・・・・・・まぁいい・・・・・・・・あぁ・・・あと・・・・・アレックスだ・・・・・・・・
 ・・・・・俺らとはまだ・・・・・知り合ってまだ日は浅いが・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・あいつは間違いなく・・・・・・・《MD》だ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・仲間のために命も張るだろう・・・・・・・常識からズレた・・・いい奴だ・・・・・・・・
 ・・・・・クク・・・俺がいい奴なんて言うと・・・・・自分でも死ねばいいのにって思うが・・・・・・・」

消えかけのレイズはクックックと笑うが、
ドジャーはそれにも何の反応もできなかった。
ただ、
首を垂らした。
そしてひ弱な声で言った。

「俺は・・・・俺はお前に命まで助けてもらったのに・・・・・・
 何もしてやれねぇのか・・・・・何も・・・・・・何も・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・もらったさ・・・・・・・・・・」

うつむき始めていたドジャーは、
その言葉でレイズの顔を見る。
もう存在があるかどうかという程消えかかっている悪魔は
ソッと微笑んでドジャーに言った。

「・・・・・・・・・・お前と・・・・・・お前らと出会って・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・報酬は十分にもらった・・・・・・・・・・・・・・」

そして
レイズの体が消えてなくなった。

消えてなくなったレイズ。

だが消えてなくなってから、
最後にレイズの声が聞こえた。

「・・・・・・・・・その釣りだ・・・・・・・とっとけ・・・・・・・・」

チャリンと、
何か音が聞こえた。
そして気付くと、
ドジャーの目の前に何かが回っていた。

それは10グロッド硬貨。

その10グロッド硬貨がドジャーの目の前で、
地面でくるくると回っていた。

「レイズ!!!!」
「・・・・・・・・・・悪魔は・・・・・・・・地獄が似合うんでね・・・・・・・・・」

いつものボソリボソリという声だけが聞こえてくる。
その小声すらも消えていくのが分かる。

「・・・・・・・さぁ・・・・・・・先に地獄で待ってるとするか・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・血の池で・・・・・・・・・血の気のない罪人に輸血して・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・針の山で・・・・裁縫(オペ)でもして待ってるぞ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・次に会ったら・・・・・・・ついでにお前の性格も治してやりてぇな・・・・クク・・・・」

それっきりもう声も聞こえなくなった。

















------------------------------------------
























ドジャーは血だらけだった。
今にも死にそう。
いや、死んだ・・・・・と思った。
だが・・・生きてた。

意識を取り戻すと、まだ自分が息をしていた。

「なんとか・・・・生きてるみてぇだなチクショウ・・・・・」

痛みを感じているのか麻痺しているのか。
血だらけの体。
全身がひりつくような・・・
それでいて冷たいような。
死んだような体でドジャーは空を見上げた。

曇り空だった。

「俺がこんなでも・・・・世界はいつもどおりってか?カッ、胸糞わりぃな・・・・」

ここは・・・・・・・・・・ルアス99番街。
灰色のスラム街。
暗い曇り空。
ドジャーはいつも通り殺し合いをし、
勝ち続けてきた人生の中・・・・。

まぁ・・・いうところ"不覚"をとった。

「まぁ予想はしてたけどよ。あまりにも予想通りのくたばり方だ畜生」

冷たいかどうかも分からない何かの壁にもたれ、
足は動かず、血は流れる。
いつかこうなる事はわかっていた。
スラム街に生まれ、
99番街に生まれ、
スラム街で生き、
99番街で生きてきた。
幾多の死を見てきた。
毎日どれだけの人がこの街では死んでいるのだろうか。
そして、
死ぬなら自分もこんなだろうと予想していた。
というよりもそれ以外の死に方が99番街にはない。

「あぁ・・・・ジャスティンの野郎・・・・どうにか俺見つけねぇかなぁ・・・・」

曇り空を見上げる。
ポケットには何もない事は分かっている。
財布も、
WISオーブも。
全部取られた。
間違いないだろう。
そういう場所で、
自分もそうして生きてきた。

「パンパカパーン!・・・って出てきて「助けてやるぜドジャー!」・・・・・・ねぇよなぁ・・・・」

聖職者であるジャスティンにすがる。
いや、そうではない。
ドジャーは死を覚悟していた。
ただ、やけに落ち着いた気持ちだった。
死を受け入れているとこうも安らかなのか。

「あとは死神が来て地獄に連れていきますってか?カッ!そりゃいいな。
 間違いなく一生に一度しか味わえねぇだろうからいい経験だな・・・・・
 神は信じねぇけど死神とは縁があるってか?・・・・・笑えるな」

目がかすむ。
いや、まぶたが勝手に下りてくる。
目の前が暗い。
うっすら。
曇り空の薄光だけが見える。
が、
その薄光だけの視界。
そこに・・・・・・・・人影。

「・・・・・おっと・・・・死神の登場か?」

ドジャーは苦笑いをしながら目を懸命に開ける。
そして視界に映ったのは・・・・

「・・・・・・誰が死神だ・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」

見たことのない聖職者だった。
もうどっちが死人なんだという幸薄そうな顔をしている。
顔色がやけに悪い。
あの顔にはちゃんと血が流れているのか?
悪魔みたいな奴だ。

「・・・・・・・あぁ。あーあーあー。お前が『隣人を愛する悪魔』ってやつか」

なんとなくぼやける思考の中。
99番街にそんな奴がいると聞いた事がある。
たしか死にそうな奴を標的にして大金をふんだくるのだ。
治療費・・・と言って。

「・・・・・・・・・・・・・そうだ・・・・・・・・・なら言いたい事は分かるな・・・・・・・・・・」

「カッ・・・分かりすぎてため息が出るね」

「・・・・・・・・まぁそれなら話は早い・・・・・・・・お前を助けてやる・・・・・・・・・
 ・・・・・だが・・・・・・・代わりに・・・・・・・・金を払え・・・・・・・・・・・」

「やだね」

「・・・・・・・?・・・・・・・お前助かりたくないのか・・・・・・・・・・・」

「いや、金なんてねぇんだよ」

「・・・・・・・あぁ・・・・・・・盗られたか・・・・・・・そんなの簡単だ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・お前の事は知ってる・・・・・・・・仲のいい仲間が二人いるじゃないか・・・・・・
 ・・・・・・やつらに払ってもらえばいい・・・・・・・それで解決だ・・・・・・・・」

「いーや」

ドジャーは小さな笑顔で首を振りながら言う。

「てめぇなんかに払う金はねぇって意味だよ」

「・・・・・・・・・・・・」

その悪魔は、ドジャーのその返答に軽く鼻で笑い返した。

「・・・・・・・・命の価値も分からんやつか・・・・・・・・・それならいい・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・交渉決裂・・・・・・・・・勝手に死ねばいいのに・・・・・・・・・・」

そう言い、
男はドジャーに背を向け、
本当に歩いて離れていく。

「・・・・・・・おい」

ドジャーの呼びかけに振り向く男。

「・・・・・・・・なんだ・・・・・・・俺がどこかに行くと・・・・・心細くなったか・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・それで・・・・金を払う気になったっていうなら・・・・・・・・・」

「いーや。ただ聞きてぇと思っただけだ」

「・・・・・・・・なんだ・・・・・・・・」

「命の価値っつったな?つまるところ治療費だろ?」

「・・・・・・・・そうだ・・・・それが全てだ・・・・・・命にも値札が貼れる世の中だからな・・・・・・・・・」

「じゃぁよ・・・・・」

ドジャーは震える右手を挙げる。
そして力なくその右手の親指で自分自身を指し示す。

「とりあえず教えてくれ・・・・・・いくら払えば俺の命は助かるんだ」

「・・・・・・・クッ・・・・・・・クック・・・・・・その気になったか・・・・・・・・」

男はゆっくり・・・
悪魔がにじみ寄るようにドジャーに近づく。
そして血だらけのドジャーの頭の上に手を置き、
薄気味悪い悪魔のような笑顔でドジャーに言う。

「・・・・・・・・・500万グロッドだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「お、結構俺ってばいい額なんだな。こんなゴミ箱で生きてきて500万か」

「・・・・・・払うか・・・・・・」

「ねーよ」

「・・・・・・・・そうか・・・・・・・」

男はまたどこかに行こうとする。
それをドジャーが呼び止める。

「おいおいおい。悪魔さんよぉ」

「・・・・・・・・・・レイズ・・・・・・ベイ=レイズだ・・・・・・・・」

「レイズさんよぉ・・・・お前は多分俺が生涯最後に出会った野郎になるんだぜ・・・・
 もう少し付き合えよ・・・・・・・・死ぬまでの話し相手が欲しいんだ・・・・・・」

「・・・・・・・却下だな・・・・・・・・俺はその辺に・・・・・思う存分転がってやがる・・・・・・・
 ・・・・・・・・・死に掛け野郎共に・・・・・・・命を販売にいかなきゃならんからな・・・・・」

「カカカッ!・・・・・・・・・まさに死神・・・・・いや悪魔の所業だねぇ・・・・・
 ・・・・・・・・・・・けどよ。そんなに金集めてどうすんだ?」

「・・・・・・・・・・・・」

レイズは返事をしなかった。
答えなかった。
答える必要がないと感じたのか。
それとも・・・言葉に詰まった。
つまり答える返事がなかったのか。

「使い道もねぇのに金集めてんのか?・・・・・・・カッ!くっだらねぇ。
 金ってのは遊ぶために・・・・楽しみのために手に入れるもんだぜ?
 そんな事も知らねぇでよくこれまで生きてられたな?
 まぁ・・・・その死人みてぇなツラだ・・・・死んだような生活してたんだろうな」

「・・・・・・・・なんだと・・・・・・・・・」

「おぉーっと・・・・・・もしかしてビンゴォ?死神ってのは寂しいねぇ」

「・・・・・・・・・・・・」

「教えてやろうか?」

「・・・・・・・・何?・・・・・・」

「俺が人生の楽しみをだよ。人生は一人じゃ楽しめねぇように出来てんだ。
 俺は信じてねぇ神様って馬鹿がそう作っちまったらしいぜ?
 なのに・・・・テメェはさみしぃなぁおい?だからそんなツラさげてんのか?」

死に掛けのドジャーがペラペラとそんな事を言う。
それがレイズという男にはお冠だったのだろう。
男は本当に悪魔のような顔をしてドジャーを一度殴り、
そして闇から見下ろすようにドジャーを見て言い捨てた。

「・・・・・・・・・・黙れ・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・」

「あぁ死ぬさ。もうちょいでな。勝手に自動で死ぬ。
 神って野郎はなんで寿命なんて作ったのかねぇ。
 寿命をまっとうしてる奴なんざ99番街で見たことねぇぜ。
 俺みたいにボロ雑巾みてぇに死ぬのが標準(オチ)なのによ」

「・・・・・・・・そうだ・・・・・・お前はただの死に掛け・・・・・・ゴミと一緒だ・・・・・・・
 ・・・・・俺にとって金にならないなら・・・・・ただの死体(ゴミ)・・・・・・・・・」

「あらら・・・・・・俺もゴミに格下げか・・・・・・・」

「・・・・・・・・・あぁ・・・・・・そのまま死ね・・・・・・貴様に・・・・・価値などない・・・・・・」

「そうかぁ?・・・・ゴミでもちょっとくらい価値あると思うぜ・・・・・」

「・・・・・・・ふん・・・・・あっても10グロッドってとこか・・・・・ゴミめ・・・・・・・」

「そっか・・・・・・・・・クク・・・・カカカッ!!そうかそうか!」

死に掛けのドジャー。
死人見習いのドジャー。
そんなドジャーは血だらけの顔で大きく笑った。
大きく大きく笑った。
レイズが不愉快に思っているのをよそに、
ただただ笑い。
そしてポケットをごそごそとさぐり始めた。
・・・・・と思うと、
何かを取り出し、
それを親指でピンッと飛ばした。
それは地面でカンッろ跳ね、
くるくると回って倒れた。
それは・・・・・・・・・・・10グロッド硬貨だった。

「ポケットにそれだけ入ってた。ラッキーだな俺」

レイズは地面に落ちた10グロッド硬貨を見下ろす。

「どうした?あんたが査定してくれた俺の命の値段だぜレイズさんよぉ。
 払えば助けてくれるんだろ悪魔さん?・・・・ほれ。さっさと助けてくれよ」

ドジャーはニヤニヤと笑っている。
硬貨を飛ばした右手も力なくダランと垂らし、
死人になる直前。
そんなドジャーは状況を楽しんで笑っている。

「カッ・・・・・冗談だよ」

ドジャーはそう言い、
ため息をついた。

「時間だ・・・・・・死ぬ前に相手になってくれてありがとよ」

そう言ってドジャーは目を瞑った。
死を覚悟し、
死を受け入れ。
そして死に向かった。
目を瞑ると真っ暗で、
闇の中で、
それは地獄より綺麗なところだった。
冷たく、
何も無い。
それでいい。
こんなもんだと思った。
そして空虚。
そんな空間が心地よくさえなってきた。
何か暖かい温もりさえ・・・・・・

「・・・・・!?」

ドジャーハッと目を開ける。
暖かさ。
そう、
それは回復魔法ヒールの温もり。
目を開けると、
目の前で悪魔が自分に慈悲を与えている。

「な、なんの心変わりだ?」

ドジャーの方が驚く。
だがレイズはただただドジャーの傷を治療していた。

「おい!押し売りはきかねぇぞ!俺は大金なんてテメェなんかにゃ・・・・」

「・・・・・・・拾っただけだ・・・・・・」

悪魔はボソリと言った。

「・・・・・・・あん?」

「・・・・・・・・たまたま道を歩いていたら・・・・・・・ゴミが落ちてた・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・そのゴミの・・・・命の価値は・・・・・・・・10グロッド・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・それを拾った・・・・・・・・・・それだけだ・・・・・・・・・・・」

そのままレイズはドジャーの傷を黙々と治療していた。
悪魔の豹変。
ドジャーもそれには驚きを隠せず、
だがただ・・・・自分への温もり。
それが悪魔が与えてくれているものだと分かった。

「・・・・・いいのか?」

「・・・・・・黙れ・・・・・良いか悪いかは・・・・俺が決める・・・・・・・・
 ・・・・・・お前は金を払った・・・・・だから助けてやる・・・・・・それだけだ・・・・・・」

また黙々とレイズはドジャーの治療に専念しだす。
悪魔の聖行。
それはしかし、
少し気味が悪く、
何か裏があるのではとも・・・・・

「・・・・・・・・・ただ・・・・・・・・俺はお前の死ぬまでの会話・・・・・・・・・
 ・・・・・・その要求に応えてやった・・・・・・ある種のカウセリングだな・・・・・
 ・・・・・・・・だからそれは・・・・・・・別料金だ・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・カッ、やっぱそういうことかよ」

「・・・・・・・・クク・・・・・・世の中甘くないぞ・・・・・・・・」

「重々知ってるっての。・・・・・・・で、要求は?」

「・・・・・・・・・同じだ・・・・・・・・・」

「は?」

「・・・・・・・・お前はお前で・・・・・・・・・俺が死ぬまでの話し相手になれ・・・・・・・・・・」

レイズは表情を変えずにそう言った。
そのまま。
ただ黙々と治療をしながらそう言った。
悪魔の言葉。
あまりにもそれは無垢だった。
それがドジャーには・・・・・・おかしかった。
おかしくて・・・・笑った。

「・・・・・・・・・・・・何がおかしい・・・・・・・・・・・」

「カカカカカッ!まさか悪魔にプロポーズ紛いの事言われるとわよぉ!」

「・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」

「カカカッ!お前が助けたんじゃねぇか!」

「・・・・・・・もっかい死ぬか?・・・」

「ハハッ!本当に面白ぇなテメェ!カカカカッ!
 いやいやいやいや!別によ!なんつーか・・・・カカッ!OKOK!
 とにかくいーぜ。その要求のってやる。
 やめてくれって言うまで相手してやんよ。
 耳にタコができるまで話し相手になってやる。
 覚悟しろよ?耳にタコってのは医学書にも治療法載ってないらしいぜ?」

ドジャーのその言葉。
その時初めて・・・・
悪魔は笑った。
純粋な笑顔という意味で初めて笑った。
それは小さな小さな笑みだったが、
悪魔は、
レイズは小さな本当の笑みで言った。

「・・・・・・・・クク・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・・・・・・・・」














------------------------------------------------------------











ドジャーが目を覚ました。

意識を取り戻すと、自分が息をしていることに気付く。
どこだろうかここは、
まさか99番街の・・・・

「ドジャー!!!」
「ドジャーさん!!!」

横には二人の友がいた。
ジャスティンとアレックス。
その二人は心配が吹き飛んだ顔でドジャーを見ていた。

「・・・・・・・チクショウ・・・・・・生き延びたか・・・・・・・・・」

ドジャーは拳を握り、
そしてそう言った。

「チクショウだと?お前ドジャー!こっちはどんな思いで蘇生したと思ってんだ!!」
「そうですよ!もう魂滞在の平均時間30分はとうに越えてましたし、
 もうダメかと思ってたところで僕達のお陰で生き返れたんですよ!!」

「あーーー、はいはいはい。分かってますよっと」

ドジャーが起き上がろうとする。

「痛っ!」

すると体に激痛が走る。

「まだダメですって!」
「おま、死んでたんだぞ!!」

「分かってるっての」

そしてドジャーはキョロキョロと周りを見渡す。
暗い、暗い闇の地下。
その空間を見渡す。

・・・・・・・・・・何も無い。
ドジャー達以外に何もない。

「・・・・・ドジャーさん・・・・・言いにくいんですけど・・・・」
「レイズは・・・・・」

「・・・・・・・分かってる・・・・・さっき会った・・・・・・・」

「会った?」
「地獄で会ったってか?ドジャー」
「ドジャーさんにしては珍しいですね。そんな事起こるはずありませんよ。
 大勢を蘇生してきましたけど魂通しで出会うとか聞いた事もありません」
「ハハッ、ドジャーもロマンチストになったな。夢でも見てたんじゃねぇの?」

「夢か」

ドジャーは地下の横壁。
そこの窓から夜空を見上げた。
ミルレスの絶壁から見える夜空。

「夢は見てたな。夢だったらいいのにとも思っちまうぜくだらねぇ」

そう言うドジャー。
だがふと、
目線を下ろす。
暗い現実の冷たい地面。
その一角。
ドジャーはソレを拾い上げ、
ソレを見つめる。

「なんですかそれ?」
「10グロッド硬貨?」
「こんな時にまで手癖悪いんですね」

「あぁ・・・・」

ドジャーは10グロッド硬貨を握り締める。

「どういう意味だったんだろな。この硬貨はよ」

「へ?」
「何が?」

レイズが渡した10グロッド硬貨。
意味。
考えても分からなかった。
釣りだと言っていた。
昔払った命の代金。
それが返ってきた。
それはレイズなりに仲間の命に値札を貼る事をやめたという事かもしれない。
または自分も同じ10グロッドな価値の男だったという意味だったかもしれない。
やはり俺は俺という意味で金を持ち出したのかもしれない。
たいした意味はなかったのかもしれない。

だが、悪い意味ではないだろうとドジャーは勝手に思っていた。
ドジャーはその10グロッド硬貨を懐にしまった。

10グロッド硬貨の意味は分からない。
レイズがどんな気持ちだったかも分からない。
命の価値なんてものも分からない。

ただ、

夢か幻か、
それとも現実か、

本当に会ったのか分からないレイズの魂。

だが、手元にあるこの10グロッド硬貨。

この硬貨がレイズにもらったものか、
たまたま落ちてたものか、
それは分からないが、

これの価値は10グロッドという数字では表せないと、

ドジャーはふと思っていた。













                 






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