「クソっ・・・・クソッ・・・・・・・・」

ジャスティンが地面に手をついたまま、
涙を一定の間隔で落とす。
ぽたんぽたんと落ちる涙は、
親友への思いがまだ生きていた証でもある。

「ジャスティンさん。泣いてる場合じゃないですよ」

アレックスはミダンダスに目をやったまま、
ジャスティンの肩に手を置く。
ジャスティンはハッとアレックスを見上げると、
アレックスが言う。

「時間がありません」
「・・・・・時間?」

ジャスティンは涙を拭いて立ち上がる。

「そう時間です。ドジャーさんが死亡して約5分が経過しました」
「・・・・・・・だな・・・・・・時間は過ぎていく・・・・・・一秒でも惜しい・・・・・・・・」
「時間?時間って何の事だい?」
「何言ってるんですか。感情で諦めモードにでもなったんですか?
 やめてくださいよそういうの。ここに聖職者が三人もいるんですよ?」
「・・・・・・・・・リバース・・・・・・・・蘇生だよ・・・・・・・・・・」

アレックス、レイズ、ジャスティンの三人が、
同時にドジャーに目をやる。
血まみれで顔の表情も見せずに倒れてる。

「レイズさん。お医者さんとしてドジャーさんの死体をどう見ますか?」
「・・・・・・・・・・そうだな・・・・・・・・」

レイズの暗い視線がドジャーの死体に刺さる。
悪魔の眼光。
それは聖職者の眼光。
遠目の医者の診察。
レイズは首を傾けながら遠目に死体を確認する。

「・・・・・・・・血まみれだが・・・・・・・・・まず・・・・損傷の問題からだ・・・・・・
 ・・・・・・・リベンジスピリッツの怨霊攻撃・・・8箇所と・・・・・・・
 ・・・・・イモータルの・・・・カウンターで食らった・・・自分のダガー・・・・・
 ・・・・・・・・さらに前の戦闘か知らんが・・・・・蓄積されたダメージもあるんだろう・・・・・・」

レイズは自分自身が死人のように顔をピクリとも動かさず、
アゴに手を当て、
真剣にドジャーを見ながら言う。

「・・・・まぁ・・・・・一番の問題は最後のダガーの傷だが・・・・急所を貫いているとしても・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・蘇生ができない傷じゃない・・・・・・」
「って事は!?」

ジャスティンがレイズの両肩を掴む。

「助かるんだな!レイズ!ドジャーは!ドジャーは助かるんだな!」

ジャスティンがレイズの両肩を掴んで揺する。
レイズは人形のようにグラングランと揺らされる。
死体のように首がガクンガクンと動く。
レイズの顔はドジャーの死体より死んだような顔をしているので怖い。

「ただ・・・・」

喜ぶジャスティンの横からアレックスが言葉を飛ばす。

「時間がないです。こうしてる間にもうすぐ10分ってとこでしょうか・・・・
 知ってますよね?人間の魂がこの世に留まっていられる時間」
「・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・平均して30分・・・・・聖職者として基本知識だ・・・・・・・・」
「クッ・・・・・あと20分!その間にドジャーを蘇生しなきゃならないのか!」

ジャスティンは鎌を拾い、ミダンダスの方を見る。
そしてミダンダスの足元に転がるドジャー。
無残な姿だが、ジャスティンには未だに信じられない。
そしてドジャーを殺した張本人であるミダンダスはというと・・・・・・・

「はぁ〜ぁ・・・・・・・・・やっと劇は終わったのですか?」

ミダンダスはあくびを立てていた。
余裕。
自分には関係ない茶番とでも言うように。

「私は待ちくたびれましたよ」

ミダンダスが眼鏡ごしにこちらを見る。
笑顔。
余裕の笑顔。
そしてその体・・・・・。
ドジャーから8本のダガーを食らっていたはずだが、
すでに・・・・・・・・・その怪我は半分以上回復していた。

「クッ・・・・俺がメソメソしてる間に回復されちまってる!!!」
「・・・・・・・・・だな・・・・・・お前がメソメソしてるせいだ・・・・・・・・・・」
「ですね。ジャスティンさんのせいですね」
「なっ、ちょっとレイズ・・・アレックス君・・・・」
「冗談ですよ。でも本当はこんな風にしゃべってる時間も惜しいんです」

アレックスは槍を強く強く握り締めていた。
感情がそのまま手に伝わっている。
ジャスティンはそれを見ると、
ドジャーを本当に助けたいのは自分だけじゃないと気付いた。

「ドジャー。絶対グッバイさせねぇからな」
「むしろ生き返ってハローってなもんですね」
「・・・・・・・死人が・・・生き返ってこんにちわか・・・
 ・・・・・・・・ククッ・・・・・・・気持ち悪い世界になったもんだ・・・・・・・」

「ハローできればよいですがね。そうしたら私も祝福してあげましょう。
 ・・・・・・・・まぁ・・・・・・・・できたら・・・の話ですけどね」

ドジャーだけ死に、
自分はピンピンしているミダンダス。
眼鏡をあげるに滞りもなく・・・・。
ジャスティンはミダンダスのその生き生きとした姿が気に食わなかった。

「でもミダンダスさんの傷が回復してる事をポジティブに考えるなら、
 やはりドジャーさんの傷も蘇生可能な範囲の傷って事です」
「そ、そうだな!あとはあの鉄壁野郎をどうするかだな」
「・・・・・・・・やはり・・・・・・・・・・イモータルが切れた時点で攻撃する・・・・・・・・
 ・・・・・・・・これが一番だ・・・・・・こっちも痛いだろうがな・・・・・・・・・・」
「ですね」
「切れた直後が一番だ。ドジャーのようにもう一度発動されるとやばいからな」

イモータルのバリア。
ミダンダスの周りに浮かび上がるそれ。
ハッキリ肉眼で見える。
つまり、消える瞬間を確認するのは簡単だ。

「チィ・・・・・・・・」

ミダンダスもさすがに焦りを見せているようだ。
可能性として十分有り得なくもない。
ミダンダスが死ぬ可能性がだ。
先ほどまでは余裕があったが、
今のアレックス達にはドジャーを助けたいという気持ちがある。
ミダンダス風に言わせれば"バカ"のように猪突猛進。
自らのダメージを気にせず突っ込んでくるかもしれない。
共倒れを覚悟されるとミダンダスもやばいのだ。

「これだからアホウというのは・・・・愚かだ・・・・・・
 たしかに共倒れ覚悟ならば私を倒す事も可能でしょう。
 しかし歴史に残すべき私の命と貴様らのただの命。
 それらが対等に失われる?そんなこと許されると思っているのですか」

「・・・・・・・・・・知らないな・・・・・・・・・命の価値など同じではない・・・・・・・・・・」
「貴方は自分だけが大事。ですが僕らにとって貴方よりドジャーさんが大事」
「分かりやすいだろ?」

ミダンダスの周りのバリア。
イモータルが薄くなってきた。

「クッ・・・・」

ミダンダスは焦りの表情を見せる。
心の中では「何を言っても分からぬアホウ共」とでも思っているのだろう。
だからこそ焦る。
そして柄にもなく叫んで言う。

「私が死んだら私の名が歴史に残らないでしょう!!!
 あなた方など死んでも生きても、歴史に何の跡も残さない無駄な命でしょう!!!
 私に歴史を残させろ!!私の夢なのだ!!!私はこの夢のためにどれだけ犠牲を・・・・・・・」

「すいませんねミダンダスさん」

アレックスが少し前に出る。
そしてミダンダスの方を見ながら話す。

「僕は100歳まで生きるつもりです。あ、関係ない話じゃないですよ?
 その人生の中で自分の命はワガママなくらい大切にしてます」

そしてアレックスが穏やかな笑顔で言う。

「けど遠い未来の事なんか知ったこっちゃないです」

瞬間。
ミダンダスの周りのイモータルの光が・・・・・・消えた。

「好機(チャンス)だ!!!行くぞ!!アレックス君!レイズ!」
「はい!」
「・・・・・・・・おう・・・・・・・・」

三人は一斉に走りだす・・・・ではない。
アレックス、レイズ、ジャスティンの三人は動かず。
ただ同時。
三つの右手。
三人の右手が同時に十字を切り始めた。

「覚悟しろよミダンダス!!!グッバイだ!!!」
「・・・・あぁ・・・・・あんな奴・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」
「アーメン!」

手のひらを突き出すジャスティン。
手のひらを突き出すレイズ。
指を突き出し、上へあげるアレックス。
プレイア。
プレイア。
パージフレア。

「クソッ!アホウ共!」

ミダンダスは両手で防ぐような格好をするしかできない。
防御ではなく、
まぶしい光を遮ろうとする程度の反応。
だが、攻撃はそんな甘く遮れるものではない。

遠距離とはいえ、
プレイア二発と
パージフレア一発。
二つの重い聖なる衝撃と、
足元から噴出す蒼白い聖なる炎。
ミダンダスはその両方の直撃を受けた。

「ぐぅ!!!痛いではないか!この歴史の重みを知らないアホウ共が!!」

防いでいた両手を開き、
ミダンダスは叫んだ。
だが視線の先。
そこには三人の聖職者がこっちに走りこんできていた。

「アレックス君!残り時間は!」
「僕の精密なる腹時計の感じだと残り15分ってとこでしょうか」
「・・・・・・残り時間など関係ない・・・・・・・・さっさと片付けるぞ・・・・・・・・・・・・」

走りこんだ三人が同時にジャンプ。
ホーリーディメンジョンの魔方陣の端から、
魔方陣を飛び越えようと跳ぶ。

「届けぇぇええ!!」
「・・・・・・・・途中で落ちたら・・・・・・アウトだ・・・・・・・」
「なんとか近接攻撃の届く範囲まで近寄れれば・・・・・・・・」

ドジャーほどではないが、
懸命のジャンプには勢いがあった。
レイズだけは運動能力のせいか少しジャンプが小さかったが、
それでも心の篭ったジャンプは大きな弧を描いた。

「無理に決まってるだろうアホウ共が!!!!!」

ミダンダスの周り。
そこから黒茶色の怨霊達が噴出した。
3匹の怨霊。
プレイアの恨み二匹と、
パージの恨み一匹。

それがアレックス、ジャスティン、レイズそれぞれに飛び掛る。

「耐えろ!!!」

ジャンプ中。
空中に滞在している三人。
ディメンジョンを飛び越えようとしていた三人。
そこに飛び掛るリベンジスピリッツの怨霊。
怨霊が・・・・・・・・襲い掛かる。

「痛っ!」
「クソッ!」
「・・・・・・・ぐっ・・・・・・・・・」

空中。
アレックスを斜め下から突き上げるように怨霊がぶつかる。
だが・・・・・耐えた。
この勢いのままならミダンダスの目の前まで跳びつける。

「ジャスティンさん!!」

空中でアレックスが視線を変えると、
ジャスティンは空中で体制を崩していた。
肩に怨霊の重い衝撃を食らったようだ。
だが体制を崩しながらも勢いは失っていない。

「大丈夫だ!落ちてたまるかよぉ!」

ドジャーを助けたい一心だろう。
ジャスティンのその心が勢いに転じた。
だが、

「・・・・・・・・だめだ・・・・・・・」

レイズが言った。
レイズは落下していた。
脇腹に直で怨霊を食らったようだ。
レイズのプレイアが一番強力なため、
その恨みのダメージ。
怨霊の攻撃力も大きかったのかもしれない。

「・・・・・・・ぐぁっ!・・・・・・・・・」

レイズがホーリーディメンジョンの魔方陣の上に落下してしまった。
ジャンプの勢いが足りなかった。
レイズ自身が補助タイプなせいで、
一番運動能力が低いという事もあった。
だがレイズはそれを悔やむより先に、
顔をあげてアレックスとジャスティンに声を飛ばす。

「・・・・・・クッ・・・・・・・・俺はここから援護する・・・・・・お前らは・・・・・・・・」

「はいっ!」
「任せとけレイズ!!!」

と同時。
アレックスとジャスティンが着地する。
ジャスティンは倒れこむような形だったが、
ミダンダスの目の前に落ちる事ができた。

「クッ・・・・・・貴様ら・・・・・・・」

目の前に落ちた二人の敵。
ミダンダスはここまで追い詰められた事が無かったのだろう。

「こんな近くに攻め寄られたのは初めてですかひきこもりさん!」
「タンマはないぞミダンダス!こっちの方が待てないんでね!」

アレックスは間髪いれずに槍を突く。
まっすぐ突き刺す。
だが、
あまり強力にするわけにもいかない。
ミダンダスのリベンジスピリッツは、
恨みを媒体にしているにせよ、少し特殊。
リベンジスピリッツの怨霊はミダンダスに似たダメージで返ってくる。
肩を攻撃したら肩に、
3回攻撃したら三匹の怨霊が攻撃してくるようだ。
心臓を一突き・・・などというわけにもいかない。

「・・・・・・・・ムチャするなよ・・・・・・・・アレックス・・・・・・・・・」

そう、
こっちも怒りに任せてこれ以上頭数を減らすわけにはいかない。
少し動揺を含んだアレックスの槍は、
ミダンダスの脇腹をえぐった。

「こ・・・ざかしい小物め!!」

同時にミダンダスの背後から怨霊が飛び出す。
近いためすぐに食らう。
アレックスの脇腹を食らう。
怨霊が肉を食らって突き抜ける。

「クッ・・・・・・でも僕だってこれくらいなら・・・・・」
「ドジャー!!!」

ジャスティンはミダンダスへの攻撃よりも、
すぐ横に転がっているドジャーに手を伸ばす。
敵より味方。
ミダンダスよりドジャー。
ドジャーを助けるという心が何よりも勝ってしまっているのだろう。
ジャスティンはすぐさま十字を切り、
リバースをかけようとドジャーへ手を伸ばす。
ジャスティンの手から輝く優しい光。

「させますか愚か者め!!!!」

ミダンダスもすぐさま十字を切る。
そして手を突き出す。
プレイア。
高い威力のプレイアではないようだが、
ジャスティンの腕を弾いた。

「ぐっ!クソッ!!!」
「ジャスティンさん!先にミダンダスさんを倒しましょう!」
「・・・・・・クッ!分かった」

ジャスティンが鎌を振り上げる。

「お前ら如きに好きにさせてたまりますかっ!」

ミダンダスがまた十字を切り、
手を伸ばす。
ジャスティンの鎌に向かって。

「これはタイマンじゃないんですよミダンダスさん!!!」

アレックスの槍が横から伸びる。
それがミダンダスの肩をえぐる。
そしてミダンダスのプレイアはあらぬ方向へ放たれた。

「くっ!!」

「俺のも食らえ!!!」

アレックスにフォローされたジャスティンは、
振り上げていた鎌をそのまま振り落とす。
鎌がミダンダスの胸を切り裂く。
鎌がミダンダスの胸に長い一本の切り傷をつけた。

「・・・・・・・・・おまけだ・・・・・・・・・」

アレックスとジャスティンの背後。
ホーリーディメンジョンで、
少し遠い距離で身動きが取れなくなってるレイズ。
両の手。
左手と右手両方を突き出し、
同時に・・・・プレイアを放つ。
その衝撃はミダンダスの右胸と左腹にぶつかる。

「ぐっ!こざかしい!こざかしいやつらめ!!!」

ミダンダスが叫んだと同時に、
黒茶色の怨霊が飛び出す。
4匹。
それぞれがアレックス、ジャスティン、レイズに飛び掛る。
そして食らう。
食らう・・・・が、
それでもアレックス達は攻撃をやめない。

「一気にいきます!」
「あぁ!!」
「・・・・・・・・・・言われなくても・・・・・・・・」
「我慢できねぇからな!!!」

アレックスの三度目の突き。
それをミダンダスの脇腹に突き刺す。
そしてジャスティンがまた鎌を振り上げている。

「アホウ共め・・・・・・・・・・・アホウ共め!!!」

ミダンダスが弾き返そうとプレイアを構える。
だが、後ろから援護。
レイズのプレイアの連射。
痣が残るほどの衝撃が三発。
ミダンダスの右腕だけを狙って発射される。
そしてジャスティンの鎌も振り落とされる。

「くそったれ!!!」
「てりゃっ!」
「・・・・・・・死ね・・・・・・・・・」

攻撃に攻撃。
連携に連携。
やまない、隙間の無い連撃。
三人による絶え間ない攻撃。

「・・・・・・どんどんいくぞ・・・・」
「もういっちょぉ!!!!」
「ピアシングボディ!!」

ミダンダスの血が飛び散らない瞬間などない。
と、同時にアレックス達もダメージを受け続ける。
血しぶきを同時に受け続ける三人と一人。
怨霊が絶えず飛び交い、
アレックス達に食らいつき、
アレックスもジャスティンもレイズも傷だらけ。
血だらけ。
小怪我大怪我致命傷。
血まみれで近づく限界。

だがアレックス達は攻撃をやめない。

「ハァ・・・ハァ・・・・・ぐぁ!!」
「大丈夫かアレックス君!!!レイズ!回復!」
「・・・・・・・・・痛っ・・・・・・分かってる・・・・・・・・」
「くじけてられません!」
「休むな!気遣いながらもドンドンいくぜ!!!」

「クソッ!クソッ!お前ら!!!さっさと死ね!!!」

3つ攻撃に3っつの反撃。
アレックスの攻撃。
ジャスティンの攻撃。
レイズの攻撃。
そしてそれら全てにミダンダスの反撃。

回復。攻撃。補助。カウンター。
ダメージ。治療。痛み。苦しみ。
斬撃。恨み。突き出し。噛み付き。
衝撃。激痛。血しぶき。反撃。
何もかもが飛び交う。
痛みを感じていない者がここにはいない。
攻撃をやめるものもいない。
痛みが何重にも何重にも重なり、
だが、
だがそれでも前へ進む。

「しつこいですね!!!」
「さっさとぉ!!」
「・・・・・・・くたばれよ・・・・・」

「ぐっ・・・・・しつこい?くたばれ?ふざけるな!!!私は死なない!!!
 繰り返し・・・繰り返し・・・痛っ・・・・・・それには飽きたんですよ!!!!」

喰らいながら、
ミダンダスは叫ぶ。
全身怪我をしていない所の方が少ない体。
血まみれの体。
誰が見ても致命傷。
だがミダンダスはその体で叫ぶ。
叫ぶと同時。
取り出したものは・・・・・・・・・

「!??」
「・・・・・スペルブックかっ・・・・・・・・」
「イモータルをもう一回発動させられるぞ!!」
「させません!!!させるわけにはいかないんです!!!!!」

アレックスが槍を突き出す。
スペルブックを持つミダンダスの右手へ。
真っ直ぐ。
洗練されたピアシングボディ。
それがミダンダスの右手に・・・・・・・

「なっ!?」

刺さらなかった。
防がれた・・・・・・というには痛々しい。
ミダンダスは・・・・
右手を刺されてスペルブックを落とす事を怖がり、
・・・・・・・・自身の肩で防御した。
自らの体で槍を受けたのだ。

「私にも・・・・・覚悟がないと思っているのですか!!!」

アレックスの槍がミダンダスの肩に刺さったまま。
肩に大きな穴。
血が大量に流血している。

「私には夢がある!誰よりも小さいが!誰よりも大きな夢!
 歴史に名を残す。歴史書に一文だけ私の名を残す!
 私はそれだけのために多くをものを犠牲にした!!
 夢であり、たった一つの生き甲斐だ!!!!
 消費した犠牲も、消費した時間の価値さえも忘れるほどの夢!!」

いつの間にかミダンダスの眼鏡の片方は割れていた。
気付くとあまりにもみすぼらしい格好になっている。
血だらけで怪我だらけ。
アレックスの最後の突きの分も合わせると、
体中の傷は常人には立っていられないほどのものだろう。
だがミダンダスは叫ぶ。

「私以外の者には私はただの悪人かもしれない!
 しかし!そんな私にも命をかけるだけの覚悟と夢がある!!!
 貞操も時間も金も!そして自身の体さえも!悪になろうとも!
 私はこの夢のために!全て犠牲にする覚悟がある!!!」

ミダンダスは詠唱を始める。

「・・・・・やばい・・・・・・・・・」
「イモータルを使われます!!!」
「クソォ!!!」

超至近距離。
だが惜しみなく、
ミダンダスは躊躇もなく隙だらけで詠唱。
ミダンダスの覚悟。
もう体を千切っても詠唱するかもしれないほど強固な心。
悪のプライド。
夢への執念。

「しょうがない!!イモータルを使われるよりはマシだ!!!」

ジャスティンはまた鎌を振り上げる。
だが、
その鎌はミダンダスに振り落とされなかった。
鎌。
ジャスティンはサバスロッドの柄を地面に突き立てた。

「リベレーション!!!」

ジャスティンが叫ぶと同時。
すぐ横のアレックスの足元に魔方陣が輝く。
そしてアレックスの体が光に包まれる。
アレックスの体をリベレーションの媒体にしたのだ。
アレックスの体を媒体に、
そこに女神が召喚された。

「させますかアホウめ!イモータル!!!」

女神が召喚されたのと同時。
ミダンダスの詠唱が終了する。
=イモータルの発動。
そして同時にリベレーションの衝撃。
コンマ1秒の違いもなく、
同時に発動した。
イモータルとリベレーションが同時にぶつかる。


「ぐぁ!」
「うぉお!!」
「・・・・・・・・っ・・・・・・・・」

「くっ!?」

リベレーションによる眩い光の衝撃。
暗い地下の空間全ては光に包まれた。
光。
それだけが一面に広がり、
全てを包み込んだ。
















「ツっ・・・・・・・」

ジャスティンが起き上がる。

「たたた・・・・」

アレックスもすぐ側で起き上がる。
レイズもさらにすぐ側で痛がりながら倒れていた。
ジャスティンはあわてて体を翻す。

「ど、どうなった!?」

光で包まれたと思った後、
また暗い地下の闇に戻ったせいか、
目がなれない。

「・・・・・・・・俺にもよく・・・・・・分からなかったが・・・・・」
「あまり考えたくないですが・・・・
 リベレーションの媒体になった僕自身も吹っ飛ばされているという事は、
 イモータルでリベレーションの衝撃は跳ね返されたって事でしょう」
「クソッ!!間に合わなかったのか!!」
「いえ、吹っ飛ばされたってことは・・・・」
「・・・・・・俺達が・・・・・・・・動けたということ・・・・・・・・・・」
「はい。あの瞬間ホーリディメンジョンの効果も無くなったって事です」
「ってことは・・・・・・よし!!!ミダンダスの野郎も無事じゃぁないって事か!!」

目がなれてきた。
暗い、
暗い地下の闇。
その奥の方。
そこに、キラリと薄っすら光を反射するもの。
割れたミダンダスの眼鏡。
それが・・・動いていた。
ミダンダスは立っていた。

「この私を・・・・こうも手間取らせるとは・・・・」

そして光るのは眼鏡だけではない。
ミダンダスの周りのイモータルのバリアも・・・・・健在。

「同時だったためか・・・私もかなりのダメージを受けてしまいました。
 まさかリベレーションをあの距離で放ってくるとはね。
 自身さえも犠牲にする考え。嫌いではないですよ。大いに結構。
 これがバカにこそ発揮できる異常なまでの力といったところですか」

そう言うミダンダスは、
口に何かを注いでいた。
ヘルリクシャだ。
いや、少し色が違う。
まぁ自身で研究して作ったオリジナルのヘルリクシャといったところか。
それを飲み干すと、ヘルリクシャの瓶。
いや、よく見るとフラスコだ。
フラスコを投げ捨て、
新しいフラスコを取り出す。

「そしてあなた方は最後のチャンスを失いましたよ」

ミダンダスはそのフラスコに入っている濃青色のマナリクシャも一気に飲み干した。

「蘇生までの残り時間は・・・・5分といったところでしょうか」

ミダンダスは言う。
割れた眼鏡の奥に潜む目。
そこには余裕がまた現れていた。

「・・・・・・・・おい・・・・・・・あれ・・・・・・・・・・・」
「!?」
「まさか!?」

ミダンダスの体。
傷だらけ。
血だらけの体。
無数の傷。
アレックス達が与えた大量のダメージ。
それが・・・・・
見る見る回復していく。

「特化型ブレシングヘルス!!?」
「・・・・・・・・・・俺の・・・・・・・・マネか・・・・・・・・・・・・・・」
「そんな馬鹿な!?」

「フフッ・・・・・・レイズ君のとは違い完璧ではないのですがね」

ミダンダスの体の傷が回復していく。
いつものレイズほどではないが、
ブレシングヘルスとは思えないほどの回復の早さ。

「Dr.レイズ君。これが私が君を求めた理由だよ。
 ヴァレンタインに昔から研究させていてね。君に事も彼から知った」

「・・・・・・・院長から・・・・・・・・・・」

「私の弱点。そう。それはあなた方がやった事。
 イモータルの隙間を狙われるとわずかだが死ぬ可能性かあることです。
 だが、そこをさらに強固にするために。さらに守りを固めるために。
 私は手に入れたかったのですよ。特化型ブレシングヘルスを」

リベンジスピリッツ中も、
特化型による異常回復。
食らい、カウンターをしながらも回復。
それはもう鉄壁というしかないだろう。

「まぁ残念な事に、ホーリーディメンジョン。リベンジスピリッツ。
 イモータル。そして特化型ブレシングヘルス。
 これらを同時に展開するほどの魔力も方法もまだ研究途中なのですが。
 今回はこういった形で使用させていただきます。
 まぁ後ほどレイズ君。君を使って完成させていただきますけどね」

気付くともう・・・・・ミダンダスの傷は治りかけていた。

「まぁ今のままでも・・・・・私は十分すぎるほどに無敵でしょう」

「クソォオ!!クソォオオオ!!!」

ジャスティンが叫ぶ。
絶叫。
時間がない。
ドジャーの魂を蘇生する時間が残りわずか。
すずめの涙ほどの時間。
いや、場合によってはもう・・・・・・

「あ゙ぁぁぁあああ!!!」

ただ、
ただジャスティンは絶叫した。
ミダンダスへのダメージは・・・振り出しに戻った。
どうする事もできないのか。
何も手はないのか。
とにかく思考と感情が入り乱れた結果の絶叫。

「・・・・・クッ・・・・・・」
「?!レイズさん?!」

レイズが突然倒れた。
ドサッと人形のように。
そして・・・・横腹から大量に流血していた。

「・・・・ク・・・・・・死ねばいいのに・・・・・ミダンダスから受けたダメージは・・・・・まだいけるが・・・・・
 ・・・・・・・・スズランから受けた・・・・・・・毒の傷が・・・・・・限界だ・・・・・・・・」
「早く治療を!!!」
「・・・・・・・・・無理だ・・・・・・・・・・俺自身がブレシングヘルスで・・・・・・・
 ・・・・・・・中和するしか方法は・・・・・・・だが・・・・・・・MP(魔力)がカラだ・・・・・・・・・」
「僕のマナリクシャがまだ一個残ってます!!!」

そう言い、
アレックスはレイズの返事も聞かず、
すぐさまマナリクシャの瓶口をレイズの口に突っ込んだ。
死人に水を与えるが如く。

「・・・・・・・・・・・・・・・ぷは・・・・・・」
「どうですかレイズさん!!?」

レイズは・・・・倒れたままニヤりと笑った。

「・・・・・・・クク・・・・・・ククク・・・・・・・・・」

声に出して笑いだした。
怪しく。
悪魔のようにレイズは突然笑いだした。
立ち上がる。
だがレイズはまだ笑う。

「・・・・・・クク・・・・・・後悔するぞアレックス・・・・・・・・」
「え?どういう事・・・・・」

レイズの横腹に傷。
そこからもう出血は無かった。
傷がふさがったわけではないが、血は止まっていた。
確認するためにレイズは横腹を手で抑える。
そして傷口をなでる。

「・・・・・・・・よし・・・・・・・・」

横腹から手を離すと、
レイズの手は自分の血で真っ赤だった。
その血まみれの手を、
レイズは口でペロリとなめた。

「・・・・・・・後は任せろ・・・・ジャスティン・・・・・アレックス・・・・・・・・」

訳が分からなかった。
後悔するぞと言った後、
今度は任せろ。
訳が分からなかったが、
レイズは歩きだした。

ミダンダスが眼鏡を持ち上げる。

「何を考えているのか分かりませんが・・・・・」

ミダンダスを中心に、
また巨大な魔方陣がひかれる。
再びホーリーディメンジョン。

「こうしておけば問題はない。念には念をだ。
 フフッ・・・Dr.レイズ。あなたの力はもう見切った。
 たしかに本気を出せばあなたのプレイアはヴァレンタイン級だ。
 だがそれはイモータルで跳ね返せる。
 そしてあなたの身体能力では・・・・・ディメンジョンを超えられない」

そう、レイズの運動能力では、
ホーリーディメンジョンの魔方陣を跳び超える事はできない。
近寄れない。
ならば・・・やはり遠距離からプレイア・・・
いや、そんな事をしてもイモータルに跳ね返されるだけ。

「レイズ?!どうする気だ!」
「無茶はやめてください!!!」

「・・・・・・・うるさいな・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」

無視してレイズは歩く。
一歩。
また一歩と、
ゆっくり、
ゆっくりと歩む。
そして・・・・ディメンジョンの魔方陣の前まで歩んだ。

「さぁどうするレイズ君。まるでカナヅチな少年がプールの前に立っているようだ。
 君にはそのディメンジョンの魔方陣を超えられない。そう私には届かないのですよ」

ミダンダスが口を緩ませながら眼鏡をもちあげる。
だが、
口を怪しく緩ませたのはむしろレイズの方だった。

「・・・・・・どいつもこいつも・・・・・・うるさい・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」

そしてレイズは魔方陣へ一歩踏み出した。
右足が魔方陣へ入る。
・・・・と同時。
レイズの右足は魔方陣の中で動かなくなった。

「やはりだめだ!」
「レイズさん!!」

「・・・・・・・黙ってみてろ・・・・・・・悪魔が・・・・・・・・・・・血の池を通るぞ・・・・・・・・・」

レイズが左足もディメンジョンの魔方陣に踏み出す。
すると、
・・・・・・・・やはり左足もディメンジョンの効果で動かなくなった。
両足が地面に張り付く。

「フフフ・・・・・・ハハハハハ!!!!愚かなアホウめ!やはりそんなものだ!!!
 『隣人を愛する悪魔』と呼ばれているらしいが何が悪魔だアホウめが!
 私の前では悪魔だろうが足を踏み入れられないのだよ!!」

「・・・・・・入れるさ・・・・・・」

「何?」

レイズは・・・・・・
止まっている右足を・・・・・・・
前に出した。

「なんだと!?!?!」

ミダンダスは驚きを隠せなかった。
動揺で眼鏡がずり下がっている事にも気付かなかった。
スパイダーウェブならまだしも、
ホーリーディメンジョンを解除などできない。
少なくともミダンダスのディメンジョンは解除されたことなどない。

「どうやって解除した!?」

「・・・・・・・・・解除など・・・・・・・してないさ・・・・・・・・」

レイズは今度は左足を前に出す。
動かないはずの左足は・・・前に出た。

「レイズさん・・・・・・レイズさんやめてください!!!!!」
「な、なんだ?どうなってるんだ!?」

アレックスには分かったようだが、
ジャスティンには分からなかった。
だが、アレックスの真剣すぎる目を辿ると、
ジャスティンはその光景に気付いた。
そして言葉をなくした。

「・・・・・・なっ・・・」

「馬鹿な!?」

ミダンダスも気付いたようだった。
三人の目線は一箇所に集まる。
そう・・・そこは・・・・・
レイズの足。
いや、足の裏。

「・・・・・・・・・クククっ・・・・・・・・」

レイズはまた足を踏み出した。
ぽたんぽたんと何かが垂れる。
それは・・・・・・血。

「レイズ・・・・・・お前・・・・」

レイズが最初に足を踏み出した所。
そこには、
靴の底がへばりついていた。
それだけではない。
血が溜まっている。
右足のところも。
左足の所も。
そしてレイズがまた一歩踏み出す。

「・・・・・・・ッ!・・・・・」

ジャスティンはその光景を見て目をそらしてしまった。
レイズの・・・

レイズの足の裏がはがれている。
無理矢理足の裏をはがし、
そしてまた一歩。
貼り付けられては足の裏をはがし、
また一歩と歩いているのだ。

「・・・・・・・さすがに・・・・・・死にたい気分だな・・・・・・」

そう言うレイズの顔は笑っていた。
足の裏をはがし、
また一歩。
また一歩と歩む。
血がたれる。
足を上げるたび、
レイズの特化型ブレシングヘルスで超急速で再生しているが、
その足をまた魔方陣の上につく。
またはがれる。
血が出る。
肉が落ちる。

「レイズさん・・・・・」

血の足跡だった。
レイズが足をついた所には、
同じ形の血の跡があった。

「あ、悪魔かお前は!?」

「・・・・・・・・・ホメ言葉だ・・・・・・・・」

レイズは歩く。
一歩一歩の自分を犠牲にしながら、
ミダンダスへと歩み寄っていく。

「来るな!!!来るな悪魔!!!!」

だが悪魔は近づいてくる。
確実に、
少しづつ。
止まらぬ悪魔。
止まらぬ恐怖。
ミダンダスは生涯でここまで恐怖したのは初めてだった。
表情は崩れ恐怖にそまっている。
そして・・・・
悪魔は止まった。

「・・・・・・・到着だ・・・・・・・」

レイズが小さな声で笑う。
ミダンダスの目の前で、
レイズはただ悪魔のように怪しく笑った。

「ハッ・・・ハハ!そうだそうじゃないか!私にはこれがある!!!」

そう。
ミダンダスの目の前に展開されているもの。
光りの壁。
完璧不落のバリア。
無敵の象徴。
鉄壁なる要。
最強の防御スペル・・・・・・イモータル。

「これがある限りやはり君にはどうしようもない!
 これは私の夢の結晶!私の努力の結晶!
 私の思いは!私の夢は!悪魔さえも遮る!!!」

「・・・・・・・・・クック・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」

レイズは笑いながら落ち着いて何かを取り出した。
そしてそれを広げる。

「・・・・・・・・まぁ・・・・・ジャスティンのお陰か・・・・・・・」
「え・・・俺?」
「・・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・・・お前のリベレーションが生きた・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・あの衝撃で・・・・・・・・こんなものが吹っ飛んできた・・・・・・・・」

それは・・・・・・・

「あれは!!」
「ス、スペルブック?」

「まさか!!私の夢の・・・・」

「・・・・・・・・クク・・・・・そう・・・・・・イモータルのスペルブックだ・・・・・・・」

レイズがスペルブックを広げる。

「・・・・・・・・俺はこれでも・・・・・・・頭はいい方でね・・・・・・医者だしな・・・・・・
 ・・・・・・・・内容もなんとなく分かる・・・・・・・・クク・・・・・・分かるぞ・・・・・・・」

そしてレイズがぶつぶつと詠唱をはじめる。
悪魔の呪文詠唱。
いや、御経のようにも聞こえる。
そして、

「・・・・・・・・・・・これがイモータルか・・・・・・・・・・」

レイズの周りに輝くバリアが現れた。
間違いなく、
ミダンダスと同じイモータル。

「・・・・・・・な、何をする気だ!!」

「・・・・・・・・クク・・・・・・・なるほど・・・・・・」

レイズはスペルブックをまた軽く読み。
目だけで文を追い、
そして急に本を閉じたと思うと・・・・
スペルブックを投げ捨てた。

「・・・・・・お前が作ったこのスペル・・・鉄壁を追求しすぎたのが・・・・・あだになったな・・・・・・」
「なんだと?!」
「・・・・・・・完璧すぎる・・・・・・まるで神の所業のように・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・だが・・・・・・・・・・"それを壊すのが悪魔の仕事"だ・・・・・・・・・」

レイズが右手をあげる。
十字をサッと切る。
右手を・・・・突き出す。

「・・・・・・このお前のスペル・・・・クック・・・・・・普通以上すぎる・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・跳ね返した攻撃を・・・・・さらに跳ね返せるように設計されてるな・・・・・・
 ・・・・・・・・つまり・・・・・・・・俺が・・・・・今至近距離でプレイアをぶちかましたら・・・・・・」

レイズはクックックと静かに笑う。
ミダンダスは焦りの表情を隠せなかった。

「なんだどういう事なんだ!」
「・・・・・・・・つまりプレイアが跳ね返りまくるって事です。
 イモータルが跳ね返し、それをまたイモータルが・・・・」
「え、永遠にか?」
「違います。イモータルにも耐久力があります。
 そしてミダンダスさんは完璧を好むあまり、少し攻撃力を上乗せするように設計してます」
「つまり・・・・・」
「ダメージが蓄積・・・いや、増幅されていき・・・・・最終的には最終的には砕けます」
「す、凄いじゃないか!!!」

ジャスティンは喜びの表情で満ち溢れる。
頼りがいのある仲間の力強さ。
それが歓喜としてジャスティンに満ち溢れる。
だが、

「凄ければいいってもんじゃありません・・・・・」

アレックスは、唇を血が出るほどかみ締め、
震えていた。

「な、なんでだ?完璧じゃないか!イモータルをやぶれるんだぞ!!」
「イモータルをやぶるっていうことがどういう事か分かってるんですか!!!」

アレックスが叫ぶ。
これ以上もないほどの大声で・・・怒鳴る。

「・・・・・・・・・・僕らのどんな攻撃も完璧に跳ね返すほどの威力をもったイモータル・・・
 リベレーションも跳ね返すって事はそれ以上のエネルギーを持ってるんです。
 メテオなんかの強力な魔法だって跳ね返せるよう設計されているでしょう。
 つまるところ・・・・・イモータルのエネルギーはどんな攻撃以上のエネルギー・・・・・。
 それが砕けるって事は・・・・・それだけの威力の魔力が弾けるって事です・・・」
「な!?」

ジャスティンは驚き、
そしてレイズを見る。
レイズは・・・それでも笑っていた。

「・・・・・・・そういう事だ・・・・・・・」

「そういう事だではない!!!イモータルが弾けた時!
 エネルギーが炸裂する!!その威力じゃぁ私達は双方・・・・・」

「・・・・・・・・・・砕け散るだろうな・・・・・・・・・・」

悪魔のような声でボソりとレイズが言った。
ただサラリと。
軽く、
簡単に言った。
たいしたことじゃないかのように・・・・・・・・・死を暗示した。

静まった。
レイズが言った後、誰も声を出さなかった。
暗闇の空間の中、
静寂が周りを包み込む。

「・・・・・・・・・じゃぁやるか・・・・・・・・・・・」

サラりと、そしてあまりに唐突にレイズは言った。
そして・・・・・あまりにも簡単に・・・・・・プレイアを放った。

「!?!?!?・・・・貴様!!!貴様ぁぁあああ!!!!!」

ミダンダスの叫び。
レイズは怪しく笑うだけ。
そして、
プレイアは二つのイモータルの間(はざま)を飛び交った。
イモータルの間に衝撃が爆発し続ける。
イモータルはきしみをあげる。
イモータルの色も変色する。
明らかに少しづつ・・・・・・・イモータルが限界に達していくのが分かる。
爆発するまで時間の問題・・・・。

「レイズ・・・・さん・・・・」
「レイズ!!!レイズ!!!!」

ジャスティンは形相を変えて叫ぶ。
レイズに向かって叫ぶ。

「何してるんだお前は!!お前は!!お前は・・・・・「やめろ」と言う時間もくれないで・・・・・
 なんで・・・なんで勝手に死のうとする!!!」
「・・・・・・・いいじゃないか・・・・・・・・・俺の勝手だ・・・・・・・・・」
「勝手に死ぬな!!!!」

ジャスティンの叫び。
レイズは振り向く。
もうイモータルはレイズの手を離れた。
イモータルとイモータルの間でプレイアが弾きあい。
あとは・・・・・・・・炸裂するのを待つだけ。

「・・・・・・・・・・俺は・・・・・・どうせ毒のせいで長い命じゃなかったんだ・・・・・・・・・・」
「だからって!!!」
「・・・・・・・・・うるさいな・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」

レイズは、
レイズはこんな時にまで、
自分が死のうという瞬間までダルそうにそう言った。

「・・・・・・・・・・・命の価値は・・・・・・・平等じゃない・・・・・・・・」
「・・・・・・は?」
「・・・・・・・・アレックスが・・・・・・・気付かせてくれたことだ・・・・・・・」

レイズがゆっくりアレックスに視線を動かす。
アレックスは何か言おうと口を開く。

教えたけど!
それはレイズさんの命を失う結果になるなんて!
そういう意味じゃ!
違う!
生き・・・・・・

だがどれも言葉にならず、
アレックスが口を震わすしかなかった。

「・・・・・・・・俺は・・・・・・昔たくさんの命を奪った・・・・・・・・
 ・・・・・・それに・・・・・罪悪感を覚えているわけじゃないが・・・・・・・・
 ・・・・・・・・医者として・・・・・命をすがってくる者くらいは・・・・・・・
 ・・・・・・・助けてやろうと・・・・・・思った・・・・・・・・・・・・・」
「俺は命なんて必要ない!お前が・・・お前が死ぬな!!」
「・・・・・・・・・・殺した分を・・・・救った分で取り返せるか・・・・・・
 ・・・・・いや・・・・・どうでもよかったな・・・・・・最初から・・・・・・・
 ・・・・・・・俺は・・・・最初から・・・・・・・お前らの命くらいしか・・・重くは見てなかった・・・・・・・
 ・・・・・・・クク・・・・・・・・そして・・・・・・その気持ちはつまり・・・・・・
 ・・・・・・・・ジャスティン・・・・今のお前と同じようなもんだろうな・・・・・・・・・・・」
「だから・・・・・・だからって!!!」
「・・・・・・・・・・・・だから・・・・・・・・俺が死ねばいいのに・・・・って事だ・・・・・・・・」

イモータルが限界にきていた。
きしむエネルギー。
ミダンダスが何かわめいているが、
それが耳に入る者はいなかった。
ただ、イモータルが悲鳴をあげるような軋み音をあげ、
今にも爆発するかのように・・・・・・

「・・・・・・・・・・だから・・・・・・・・・・・」

限界がきた。
エネルギーが暴れまわる。
まさに砕ける。
そんな危機的状況の中、
まるで夢うつつの中、
悪魔はただただ・・・・・言い続ける。
悪魔がただただ・・・・・夢を告げる。
悪魔がただただ・・・・・思いを告げる。
そして・・・・・

「・・・・・・・・・お前らぐらいは・・・・・・・・」


時がきた。



イモータルが割れた。

光が漏れる。
光が弾ける。

暗闇を照らす。
暗闇を包む。

暗闇の中に、光の衝撃が爆発し、

何もかもが白く満ち溢れた。




ただその光の中で、

ただ煌々と輝く光の中で、




悪魔は一言だけ言った。










「・・・・・・・・・・・生きてくれればいいのに・・・・・・・・・・・」


















                 






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