「自分で言うのもナンだが・・・・・素晴らしい・・・・・」

ミダンダスは完成したてのスペルブックを両手で掲げ、
両手で開き、
レンズ越しに両目で眺め、
自分の傑作に感動した。

それは昔々の話。
どれくらい昔だったか、
ミダンダスには覚えが無い。
時間の感覚というものが鈍いのだ。

「このスペルを完成させるのにどれだけの苦難を超えたか・・・・
 5年?10年?・・・いや・・・半年ほどだったか?記憶にない・・・・
 ただ夢中で作ったなぁ・・・・そして完成した。
 そして今、立ったこの今。ここに私の夢が出来上がったのです」

ミダンダスはスペルブックを胸で包み込んだ。

「この新スペルさえあれば・・・・私も歴史に名を刻めるはず。
 私の夢が叶うのです。歴史に名を残し、私が生きた証が永遠に残るのです!」

ミダンダスは整備された研究室のドアを開け放ち、
一目散に飛び出した。
そこは赤い絨毯で彩られた大きく、広く、長い偉大な廊下。
マイソシアを絶対的力で統一する王国騎士団。
そのルアス城の廊下。
研究員であったミダンダスは夢を手に持ち、
走った。

「ほぉ、とうとう完成されたのでございますか」

その男はヒゲをいじりながらミダンダスのスペルブックを受け取った。
王国騎士団34番・行政部隊部隊長のピルゲン。
ピルゲンはミダンダスの顔を見もせず、
そのスペルブックのページを淡々と開いていた。

「そうなのですよピルゲン殿!私、このミダンダスの夢!ついに果たされました!
 このスペルは大発明なのです。世の聖職者は驚愕し、そして私を褒め称える。
 私は世界の礎となるような偉大な発明をした研究者として・・・・」
「ふむ」

ピルゲンはスペルブックを閉じた。
そしてミダンダスを見る。

「なるほど。いやはや・・・・・このスペルはたしかに素晴らしい」
「そうでしょう」

ミダンダスは得意気に眼鏡を中指で持ち上げた。

「偉大な発明でございます。ふむ、ミダンダス殿。
 これはたしかに貴公の発明は世を変えるかもしれない代物でございますよ」
「そうでしょうそうでしょう」
「いやはや、素晴らしい発明をしてくださいました。
 貴公の成果、これは全世界に称えられるでしょう。
 そしてこの王国騎士団の糧となる素晴らしいものでございます」

ミダンダスは何か違和感を感じた。
だが、今はそれよりも嬉しさと達成感が勝っていた。

「それでピルゲン部隊長殿。このスペルはどのように発表する予定で?
 あぁ、私はどのような御召し物で着飾ろうか。
 その日のSSがそのまま後々(のち)の教科書に使われてしまうのでしょうかね。
 いやはや、嬉しい悩みと申しますか・・・・でもこれで私の夢も・・・・」
「一つ・・・・勘違いなさっていますねミダンダス殿」
「・・・・はい?」

満面の笑みだったミダンダス、
その表情は疑問で固まった。

「このスペル。もちろん発表いたします。
 そしてこのスペルは後の世に大きな影響を与える偉大なスペルでございましょう。
 しかし・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたの名が記される事はありません」
「な、なんですって!?」
「これは王国騎士団の研究者が発明した・・・その程度に発表します。
 個人的な云々がどうでもよいのです。重要なのはこのスペルが生まれたという事実。
 そしてそのスペルが王国騎士団によってもたらされたという事。
 ・・・・・それだけなのです。まぁ簡単に言えば王国騎士団の功績として・・・・」
「ふ、ふざけるなっ!!!」

ミダンダスは片手を大きく振って叫ぶ。

「私がどんな気持ちと想いをかけてそれを発明したと思っている!
 なのに私はまるで空気のような扱いだと!
 王国騎士団の製造マシンのような・・・道具のような扱い!
 それで納得すると思っているのですか!?」
「もちろん一生生活に困らないような謝礼はするつもりでございます」
「そんなものいるかっ!!!」

ミダンダスはピルゲンからスペルブックを奪う。

「私が欲しいのはそんな金などではないっ!
 私が死んだ後の長い世にも、私が生きていた証を残したかったのだ!
 なのに私が生きている間しか無意味な金!そんなものが謝礼だと!?
 数億グロッドもらっても何十億グロッドもらっても私の夢は叶わない!
 問題外だ!時間も金も関係ない!"数字"ではないんだよ数字では!」

そう言い、
ミダンダスは地面にスペルブックを放り投げた。
そして片手で十字を描き、
パージフレア発動の指を上げる。
同時に赤い絨毯の上でスペルブックは青い聖なる炎で燃えた。

「おやおや・・・これはまぁ・・・・なんという事を・・・・・・」
「夢が叶わないならこんなものはいらないのです!」
「・・・・・あなたはわがままですね。勘違いをしていらっしゃる。
 あなたへの多額の研究資金はどこから出ていると思っているのです?
 そう、王国騎士団からです。そしてそのスペルはそれを消費して発明されたもの。
 それは世間的に見ても王国騎士団の功績である事は道理なのです」
「黙れ!」

ミダンダスは部屋のドアを思いっきり開ける。

「ならば私は消える。どこかに潜り、自分自身で研究を完成させる。
 他人など必要ない!私が自身で功績をあげ、そして夢を実現させる」
「はぁ・・・そうでございますか。ですが・・・」

ピルゲンの手に黒い剣が現れる。
妖刀ホンアモリ。

「騎士団の研究資金を食うだけ食ってそれはやはりワガママでございましょう。
 このまま平和に研究を進められるとは思わないでもらいたいものです」
「続けてみせる。そして発明で世の中をアッと言わせてやる。
 いや、発明じゃなくともいいのです。どんな理由でも夢が叶えば・・・・
 世に名を残す。私はそのためだけに何もかもを犠牲にして夢を果たす」














S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<地下と闇と夢と犠牲>>















「やっと悲願が叶います」

ミダンダスは片手で眼鏡を上げた。

「何年だったろう。どれだけの時間夢みてきたことだろうか。
 教科書の片隅に載る。それだけの夢。それだけのために幾時間使ったのか・・・
 分からない・・・覚えが無い。時間の感覚など無駄に等しいですね。
 大事なのは数字ではない。夢に向かって勤しんだ時間・・・・・」

ミダンダスがローブを脱ぎ捨てる。
ローブを投げ捨てる。

「金、情、時間。そんなくだらないものをどれだけ犠牲にしてきたか。
 そんな事は関係ない。ただ・・・・私の夢が実現するときが来たのです!
 この日を超え、私は後世に残る!偉人として歴史に残る!」

「カッ、」

ドジャーはツバを吐き捨てた。

「たしかに残るだろうよ」

そしてダガーを突きつける。

「世界一の大馬鹿ものってね」

挑発するドジャー。
アレックスも槍をグッと構える。
一方、挑発されたミダンダスはというと、
余裕で笑っていた。

「馬鹿?ふむ。馬鹿といいましたね。まぁ間違いないですよ」

「は?」
「馬鹿でいいんですか?頭いいんでしょ?」
「カッ!《ロストプロフェッサー(失われた研究者)》なんてイカついあだ名までついてるくせによぉ
 実際は「馬鹿ですか?」と聞かれて「はい。僕は馬鹿です」ってか?カカカッ!本当に馬鹿だな!」

「そうですね。まぁ馬鹿にされるのは嫌いですが・・・・馬鹿という言葉にもよります。
 いいですか?まず世の中には三種類の人間がいます。"バカとアホとマヌケ"です」

「カッカッカッ!何言ってんだあの馬鹿!」
「まぁ興味深い話ですよ?馬鹿論なんてあまり聞いた事ないですからね」

ミダンダスは薄っすらと笑い、
アレックス達に対して横を向き、
歩きながら話し始める。

「まず"アホ"。これはもうどうしようもない。分かっていない。
 ただ迷い、間違い、それにも気付かない。ただの底辺の人間です」

ミダンダスはそこで一度方向転換をし、
そしてまた歩き、話す。

「次に"マヌケ"。これは正直者と言ってもいいし、この世で一番多い人種です。
 正直すぎるためにふと騙され、糧になる。食われる側の人間です」

そこでミダンダスは歩みを止め、
アレックス達の方を見て言う。

「そして"バカ"。これだけが特異です。
 一途・・・・そして何かを求め、それに向かってひたすら走る。
 大抵この人種はそのまま転び、失敗し・・・・堕ちる。
 だがこういうものが世の中では大物になるのです。だから私は馬鹿でいい」

ミダンダスは小さく笑いながら、
また片手で眼鏡の中央を持ち上げた。

「あぁー・・・まぁ馬鹿でもなんでもいいってのクソ。
 ただ・・・・・・・そこにいる俺の仲間もお前の言うマヌケだって言いてぇのか?」

ドジャーの目線の先。
それはレイズ。
意識の無いまま無情に倒れているレイズ。

「そうですね。彼は私の糧になる人物。
 まぁそういった意味ではかなり重要とも言えますが・・・・・・」

「ミダンダスさん。貴方がレイズさんに何を求めているのか知りませんが・・・・
 ただ、あなたに使わせるわけにはいきませんね。
 レイズさんは助ける。貴方は・・・・倒す。それだけです」
「あぁ。覚悟しろよこのひきこもり野郎!!」

「ひきこもり・・・・フフッ・・・・まぁそうですね。だがそれの何が悪い?」

突如ミダンダスの周りが輝く。
光り輝き、
ミダンダスを取り巻く。
と思うと。
暗い地下の地面。
そこに巨大な魔方陣がミダンダスを中心に浮かび上がった。

「ホーリーディメンジョンです。あなた方はもうこの魔方陣の中には入れない」

ミダンダスの部屋にもあった魔方陣。
ホーリーディメンジョン。
外敵の侵入を防ぐ魔法。
そして入れば身動きがとれなくなる。

「ひきこもりと言いましたね?それはホメ言葉です。
 守り。そんな大事な事もこの時代の人間はまるで分かっていない。
 自分以外などどうでもよいでしょう?・・・・自分は大事でしょう?
 自分を大事にしない者はどうしようもない"アホ"です」

アレックスは巨大な魔方陣を見渡し、
そしてミダンダスに視線を戻して話す。

「たしかに強力なディメンジョンですが・・・・それだけです
 ですがやけに自信をもってますね」

「守りの大切さ。私は私が偉大なままでいたい。
 私はもう・・・・・人に食われるのはまっぴらでね」

「ま、だけどよ」

ドジャーが片手を構える。
その手にはダガー。
指の股の間に一本づつ。
4本のダガー。

「近寄らなくなって攻撃はできるんだぜ?」

ドジャーが溜めを作る。
たしかにダガー投げならばディメンジョンの外から攻撃できる。
ディメンジョンも無駄。
これ以上なく、これしかない考え。

「フフッ・・・やめておいた方がいいぞドジャー」

「敵の忠告なんざ腐った号外新聞ほどに信じれねぇな!」

ミダンダスは何も動じた様子がない。
アレックスはおかしく思った。

「ドジャーさん待って!」
「待てねぇな!良い子じゃねぇもんでよぉ!!!ご馳走をくれてやらぁあ!!!」

振り切る右手。
ドジャーの放つ閃光。
4本のダガー。
それは平行線を描きながら、
ミダンダスに向かう。

「チッ・・・・」

ミダンダスが軽く体を避ける。
だが、
見た目通り得に運動能力が高いわけではないようだ。
二本避けたが、
残り二本のダガーはミダンダスの肩に突き刺さった。

「ほれ見ろ当たった!!!」

「クッ・・・・」

ミダンダスは肩に刺さったダガーを抜き落とす。
その肩からは血が・・・・

「やめておいた方がいいと言ったのに・・・・・アホが・・・・・」

その瞬間。
ミダンダスの体に異変が起きた。
いや、体に異変?
違う。
ミダンダスの周りに異変。
ミダンダスを取り巻くように茶色の、黒のオーラ。
何かが渦巻いている。
そしてなにか・・・・うめき声のような・・・・

「アホウめっ!痛い目でも見てろ!!!」

ミダンダスが叫ぶと同時。
ミダンダスの体の周り。
そのオーラから・・・・・何かが飛び出した。
二つの何か・・・
茶色の、黒の何か・・・
いや、透き通る白のような・・・・
そして・・・・人の顔の形をしている。

「なんだありゃ!?」
「亡霊?!」

亡霊。
怨霊。
人の顔を象ったそのオーラは、
うめき声をあげながらドジャーに向かう。
いや、飛びつく。
そして・・・・

「ぐぁ!?」

怨霊は、ドジャーの肩と横腹を裂いて消えた。

「クソッ・・・・なんだありゃ・・・・」

横腹と肩の傷。
ドジャーは肩の傷のほうだけ抑えながら顔をしかめる。

「リベンジスピリッツです・・・」

アレックスは静かに言う。

「リベンジスピリッツ?スペルか!?」
「はい。対象に攻撃を与えるとその痛みを・・・・亡霊が返してきます」
「うらめしや〜ってか?」
「冗談じゃすみませんよ。ミダンダスさんのそれはかなり強力な類のものです。
 スキレベ(熟練度)とかじゃないですね。少し高位なリベンジスピリッツでしょうか・・。
 まぁ・・・この場所の関係もあってリベンジスピリッツを避ける事は・・・・不可能でしょう」
「んだと!?」

ミダンダスがニヤニヤと回復をしている中、
ドジャーは驚きでアレックスに目を向ける。

「つまり攻撃したら必ず反撃を食らうって事かよ!?」
「そう・・・・・・なります」
「クッ・・・・」

ドジャーは歯を食いしばる。

「じゃぁどうすりゃいんだよ!」
「それは簡単です」
「あん?」
「ドジャーさん。痛いの我慢できますか?」
「あぁ・・・・・・なるほどね」

ドジャーは両手を腰に当てる。
いや、何かを取り出す。
そしてドジャーの両手が表に出されたと思うと、
その指には8本のダガー。

「こういう事だな」
「はい。向こうもダメージは受けてるんです。
 つまりもう・・・・ダメージ覚悟で一気に攻め尽くす」
「カカカッ!上等。それなら逆に分かりやしぃ!
 お互い痛い思いをして・・・・・最後に立ってりゃ勝ちって事だな!」

ミダンダスはため息を吐き出す。
と同時に、それでズレた眼鏡を持ち上げる。

「愚かで下等な考えですね・・・・アホウによくある無能な作戦です」

「そんな単純な作戦だと思ってませんよ」

アレックスが槍をヒュンッと振り、
そして先ほどのドジャーと同じように槍を突きつける。

「こちらは二人。与えるダメージは二倍。
 しかし受けるダメージは半分ってことです」
「カカカッ!そういう事だ。やっぱり仲間は大事だったぁあ〜〜!・・・とか
 後から半べそかいて言うんじゃねぇぞミダンダスさんよぉ!」

「そこまでの思考しかないのがアホウだと言うのです
 誰が等倍でダメージを返すと言いました?それに・・・・・これもある」

ミダンダスは懐から一冊の本を取り出した。
スペルブック。
ミダンダスの書斎にあったスペルブックだ。

「ホーリーディメンジョンとリベンジスピリッツ。
 たしかにこれだけでも私の守りは強固なものです。
 しかし・・・・ダメ押しって奴をお見せしましょうか?」

言いつつ、
ミダンダスは片手のスペルブックを眼鏡越しに覗く。
そして呪文のような言葉をボソボソと唱え始めた。

「な、なんだ?!」
「分かりません・・・・」
「注意・・・・した方がいいか!?」
「・・・・・・いえ!何か分かりませんが発動される前にやってしまいましょう!」

「遅い!!!」

ミダンダスは顔を上げ、
そして片手を横に振った。

「発動です。私の夢の集大成がね・・・・・」

ニヤけるミダンダス。
そしてそのミダンダスの周りに立ち込める何か。
リベンジスピリッツのオーラ?怨霊?
違う。
もっと目に見えてハッキリした・・・・何か・・・・・。

「フフフッ・・・・・ハーーーッハハハハ!!!見てください!
 これが私の研究の成果!騎士団の奴らになど渡さなくてよかった!
 これは私のものだ!私自身の傑作!私の自伝!私の誇り!!!」

ミダンダスの周り。
立ち込めるというより・・・・包み込む。
それは・・・・・キラりと光るような、
そして聖なる加護とでもいうのか・・・・
いや、
見た目、雰囲気。
それを一言で言うなら・・・・・・・・・・・・・・バリア。

「イモータル・・・・・・最大で最強で最固なスペルを御覧にあれ」

ミダンダスが片手で眼鏡を上げる。
眼鏡の奥の目は怪しく笑い、
そして口元も怪しく緩む。
ミダンダスの周り。
光り輝く結界。

「・・・・・・どんなスペルだアレックス・・・・」
「そうですね・・・・・騎士団にいた時に研究していたスペルだと聞いた事あります。
 一応医療部隊の部隊長なんで聖職者のスペル情報は優先的に回ってきますしね。
 ってまぁ・・・・・まさかそれを作っていたのがミダンダスさんだと思いませんでしたけど」
「カッ、ダニエルといい元王国騎士団って結構いるもんだな」
「まぁミダンダスさんは派遣でしょう。研究員は大抵そうでしたし」
「ケッ、で?スペルの方は?簡潔に言え」
「知りません」
「それまた簡潔だな」
「でもまぁ・・・・間違いなく守備系のスペルでしょう」
「そんなもん見りゃ分かる」
「あと、推測ですが・・・・ディメンジョンとリベンジスピリッツの後に出した・・・・
 奥の手。ミダンダスさんの研究の傑作らしいですからね・・・・
 つまりディメンジョンとリベンジスピリッツより上。
 それらから推測すると・・・・・あのバリアはカウンター効果・・・・・」
「・・・・・攻撃を跳ね返すバリアか。つまり無敵ってわけだな」

手に持っていた4本のダガー。
ドジャーはそれを地面に落とした。
カランカランと暗く湿った地下の部屋に音が響く。

「でも物は試しだ。やってみなきゃ始まらねぇ」

手元に残っているのは一本のダガー。
もしカウンター効果だとしても最小のダメージで済むように一本。

「ご馳走を食らってやらぁ!」

投げる。
全力ではない。
だが、直線を描きながらダガーは進む。
そして、

「無駄です。いえ、"無駄のマイナス"とでもいいましょうか・・・・」

ダガーはミダンダスの前。
イモータルのバリアの所でとまる。
とまると同時、バチバチとバリアにぶつかり、
そしてダガーが・・・・・同じ勢いで跳ね返ってきた。
今度はドジャーに向かって飛んでくるダガー。

「ご馳走が返ってきましたよドジャーさん」
「あぁ。返品とは遠慮がちなこったな」

ドジャーは跳ね返ってきたダガーをつかむ。
片手でダガーをキャッチする。
といっても・・・・刃の部分。
そこをすんでのところで掴む。

「まるで鏡と戦ってるみてぇだな」

自分のダガーの刃を掴むドジャーの手。
刃を握ってなんとか止めた形ゆえ、
手からは血の雫がぽたぽたと垂れた。

「鏡。フフッ・・・いい表現です。そうですね。鏡。
 鏡に守られた私。故に無敵。完全無敵。全カウンター。
 鉄壁。鏡という名の鉄壁。最固という名の防御です」

「たしかに・・・・これほどの守備能力をもった人は始めてです」
「本当に最強のひきこもりだな」

「ホメ言葉としてもらっておきます。
 そう、私は無敵。あのロウマでさえ私の前では無意味。
 いえ、"無意味のマイナス"。最強であってもそのダメージは自分で受ける事になる。
 相手が最強であるなら私が最強になる。故に・・・最固が最強なのです。
 ホーリーディメンジョン。リベンジスピリッツ・・・・そしてイモータル。
 フフッ・・・・・私は・・・・私は無敵だ!死ぬことなど絶対にありえない!
 佳人薄命などと言うが、歴史に残る偉人・・・・この私は薄命さえも乗り越える!
 人の最大の夢・・・・不死!不死者(イモータル)!!!私はそれにさえ近づいた!!!」

「なるほどなるほど・・・・」

アレックスはどうしようもないため息をつく。

「攻撃してもダメージを与えられないどころか・・・・
 自分がダメージを受ける・・・・これはまぁ・・・・お手上げですね」

アレックスは自分の槍を背中に戻す。
武器を収めてしまったのだ。

「お、おいアレックス何片付けてんだ!あん!?」
「ドジャーさん。名案が浮かびましたよ」
「名案?」
「もう帰りましょう」

ドジャーは「は?」と疑問を浮かべたが、
少し考え、理解すると笑い始めた。

「カカカカカッ!なるほどなるほど。そりゃ名案だ。帰るか」

「なんだと・・・・貴様ら。ふざけているのか?」

「ふざけてねぇよ。な、アレックス」
「えぇ。攻撃したらこっちが痛い。お手上げ。
 でもまぁこっちから攻撃しなけりゃ痛くないんです。
 わざわざ危険物に手を出してヤケドするくらいなら手を出しません」
「で、帰る」
「そう。帰る」
「おめぇは勝手にそこで無敵無敵叫んでろ。
 誰もいないとこでバリケード張って篭っりゃそりゃ無敵だよな」
「たしかに難攻不落の要塞です。だが要塞は動けない
 守りを固めすぎたのが裏目みたいですね。って事で僕らはこれで」
「ばいばぁーい♪地下でひきこもるのが大好きなミダンダスちゃ〜ん♪」

ドジャーは指二本だけ立てて笑顔で手を振る。
ミダンダスのそんなドジャーの生意気さと、
アレックスを含めた二人の行動に、
苛立ちを感じ、そして顔をしかめた。
だが一度ため息をついて呼吸を戻し、落ち着いて話す。

「ふぅ・・・本当にアホウの考えることは分かりませんね」

ミダンダスは首を振る。
首を横に振った後、
眼鏡を持ち上げてこちらに言う。

「まさか冗談ですよね?ならばあなた方は何をしに来たのです」

「ふん。ジャスティンを止めに来たんだよ」

「ほぉ。ならば目的は達成されたのですね。いやいや結構結構。
 ならばお帰りになればいい。好きに帰っていただきたい。
 ただ、外ではここでの戦闘のためだけにどれだけの人が苦しんでいるのでしょう。
 敵味方関係なく。どれだけの人間が血を流し、死を迎えたのでしょうね。
 いえ、私はいいのですよ?そんな事どうでもね。オブジェがあればいいのですから。
 ただ・・・・あなた方はそれでいいというのならね。私は結構結構」

ミダンダスは眉をハの字に下げながら、
挑発のお返しと言わんばかりに馬鹿にする。

「クッ・・・・」

ドジャーは顔をしかめる。

「ま、そうなりますよね・・・・・」

アレックスはため息をつきながらまた槍を抜く。

「帰れるわけないですよね・・・・・・・ジャスティンさんの時に言ってばかりですもん。
 もう戻れないところまで来てしまったってね。
 ま、提案した僕がこんな事を言うのもナンですけど・・・・・・・・・・・・それに・・・・」

「"それに"?それになんですか?・・・・・・ハハッ・・・・分かっています。
 それにというのはコレの事でしょう?この私の糧の事でしょう」

ミダンダスが蹴飛ばす。
その蹴飛ばしたもの。
それはレイズ。
意識の無いレイズ。

「置いてはいけませんよね」

そう、置いてはいけない。
それを置いていくわけには行かない。
逆に言えばレイズがあそこに倒れていなければ、
アレックス達はこれにて落着と帰れていただろう。
だが今、倒れているレイズを目の前にしているためそうはできない。
これもミダンダスの作戦なのだろうか。
ミダンダスの糧とはそういう事なのだろうか。

「フフッ・・・・いやぁ面白い。あなた方はまた行き止まりにぶつかった。
 最強で無敵で最固である私という名の固き行き止まりに・・・・・・」

ミダンダスは眼鏡を持ち上げる。

「私は研究をどんどん進め、世界を手に入れる段取りも進み、今なお順調快調。
 しかし一方、あなた方は同じところをぐるぐるぐるぐる・・・・」

ミダンダスは指をくるくると渦巻きのように回す。

「私を倒したい、でも倒せない。じゃぁどうする。それもだめ。じゃぁどうする。
 何度考えても同じ行き止まりへ・・・・・目的に到達できないまま永遠とループ。
 これがアホウというのです。アホはアホ。犬のようだ。
 使われて使われて私のようなものの糧となればいいのです」

言いたい様に言いまくるミダンダス。
眼鏡の奥の目が嬉しさで歪む。

「クソッ・・・・ぶち殺してぇ・・・・」
「ですが・・・」
「わぁーってるよ!」
「ある種・・・詰みですね・・・・」

「・・・・・・なぁにが詰みだ・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」

目の前。
そこには片手で頭をかかえたレイズが立っていた。

「レイズ!」
「レイズさん!」

「な・・・いつの間に!?」

「・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・あんだけ蹴られりゃアホでも起きる・・・・・・」

気を失っていたせいか、
頭に痛みを受けているのだろう。

「馬鹿な!本当にいつの間に!?全く気付かなかった!気配を殺していたとでも言うのか!?」

「・・・・・・起きて・・・素のまま歩いて移動しただけだ・・・・・失礼なやつめ・・・・死ねばいいのに・・・・・」

近くにいたミダンダスが気付かなければ、
アレックスとドジャーも気付くはずがなかった。
この気配の無さはなんだろうか。
この影の薄さはなんだろうか。
この人は本当に死んでるんじゃないだろうか?・・・・とまでアレックスは思った。

「・・・・・・痛っ・・・・・捕まった時に・・・・・思いっきり頭なぐられたからな・・・・・・・・・」

まぁしかし頭を抑えるのもやめ、
レイズはいつもの死んだような生気のない顔でアレックスとドジャーを見る。

「・・・・ここがどこで・・・・・・・相手のあいつは誰で・・・・・・分からない事づくめだが・・・・・
 ・・・・なんとなく状況は分かる・・・・・・・俺は面倒事に混じってるんだな・・・・・」
「その通りですね」
「カカカッ!物分りいいじゃねぇか!」
「・・・・・・・・・やる気でないな・・・・・帰って寝たい・・・・・・・・」
「カッ!いつもやる気なさそうなツラしてるくせによぉ」
「でもレイズさん・・・・・・・・本当に顔色悪くないですか?」
「レイズの顔色が悪いのはいつもの事だっての!
 むしろこいつより顔色が悪い奴を見たことがねぇ!
 医者なのに病院で一番顔色が悪いんだぜ?信じられるか?」
「・・・・・・・・うるさい・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・・」

いつもどおりのレイズ。
少しホッとしたが、
アレックスがふと目線を下げると、
レイズの横腹からまだ血が・・・・

「レイズさん。横腹の傷・・・ミルレスの戦場で会った時からあったものですよね?
 まだ・・・・・治ってないんですか?ヒールやブレシングヘルスは・・・・」
「・・・・・・この傷は治らん・・・・・・・・」
「はぁ!?治らねぇって一生か!?」
「・・・・さぁ・・・・帰ったら研究してみる・・・・・・・・まぁ今も普通に動く程度は・・・・・・問題ない・・・・・・・・」
「そうか・・・・・」
「・・・・・動けないって言った方が・・・・・・・楽だったかな・・・・・・・・・」
「なるほど。仮病ですね。いい案です。僕もこれから仕事の時はその手を使おうかな」
「おいアレックス!てめぇの食費ぐらい自分で・・・・・・」

「雑談はそれぐらいでよろしいでしょうか?」

ミダンダスが余裕の表情で笑う。

「まぁDr.レイズはまた取り返せばいいですし問題はないですね。
 あなた方はやはり逃げないのだから。戻れないところまで来ているのでしょう?」

ミダンダスが眼鏡を上げ、顔はまだ笑ったまま。

「それに・・・・・怪我などどうでもよいでしょう。どうせ皆さんここで死ぬのですから」

「チッ!」

ドジャーは両手にダガーを構え、
アレックスも槍を構える。
レイズはスタッフが無かったようで、ボォーっと突っ立っていた。

「ってどうすんだ?あの防御。結局解決してねぇじゃねぇか。
 レイズが寝てるか起きてるかしか違いねぇじゃねぇか!」
「・・・・・・・・・・・・うるさい・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・・・」
「でも本当にどうしましょう・・・・・あの鉄壁・・・・」
「・・・・・・・だから・・・・・・・死ねばいい・・・・・・・・・」
「あん?」
「どういうことですか?」
「・・・・・・・・気付け・・・・・・・永遠に続くスペルなどない・・・・・・・・」
「なるほど」
「イモータルが消えた時を狙えば少なくともダメージを与えられるってことか」

「笑い話ですね」

ミダンダスが眼鏡をあげる。
と、同時。
調度ミダンダスの周りのバリアが解除された。
イモータルの効果が切れたのだ。
だが・・・・・

「私は無敵なのです」

ミダンダスの周りには・・・ドス茶色のオーラ。
怨霊がうねうねと渦巻いている。

「イモータルの隙をリベンジスピリッツでカバーする。
 これで私は無敵。一辺の隙もない」

「・・・・・・・・・クックック・・・・・・隙だらけだろ・・・・・・・・・」

レイズは怪しく笑う。

「・・・・・・・・こちらは三人いるんだぞ・・・・・・・・・」
「だな」
「リベンジスピリッツの時に攻撃すればミダンダスにダメージは与えられる」
「三人で交互にダメージを与えていけばこちらのダメージは三等分」
「・・・・・・・・最悪・・・・・・・・死んでもいい・・・・・・・いや・・・・・死ねばいい・・・・・・・」
「あぁ。それくらいの覚悟はいる。だがこっちにはこれで聖職者が二人だぜ?」
「聖職者が二人。これは予想以上に大きいですよ」
「・・・・・・・回復し合える・・・・・そして・・・・・・誰かが死んだとしても・・・・・・・・
 ・・・・・・・・取り返しのきかない怪我でなければ・・・・・・蘇生もできる・・・・・・・・・」

「なるほどなるほど」

ミダンダスはさすがに笑顔ではなかったが、
追い込まれた表情でもなく、
こちらに話しかけてくる。

「ですが、それでも私は持ちこたえる自信がある。あなた方のプラス要素はマイナス要素でもある。
 何せ逆に言えばわたしに一気に大ダメージを与えられないという事ですからね」

ミダンダスはソッと眼鏡を持ち上げる。
いう事はたしかにその通りだ。
三人で助け合えば倒せる・・・・はずだが、
一撃で命にかかわるようなダメージは与えられないのだ。
それは自分にも返ってくるのだから。
場合によっては自分が与えた以上のダメージで返ってくる可能性もある。

「なら聖職者が3人でどうだ?」

背後から声。
それは笑顔の男。
笑顔の似合う女ったらし。

「・・・・・・・ジャスティンか・・・・・・・・」
「怪我はいいのか?!」
「よくはないさ。今にもぶっ倒れそうだぜ。誰かさんの鋭い一撃のせいでね」

言いつつ、ジャスティンはアレックスに笑顔の目線を送る。

「あ、いや・・・ごめんなさい・・・・」
「ハハッ。冗談冗談。責めてはないさ。
 君がいなかったら俺はこっち側にさえいなかったんだから」
「ですよね。実は僕も謝ったけどそんなに責任を感じていません」
「あ・・・・そう・・・・・それはそれで酷いなアレックス君・・・・」

ジャスティンが苦笑いすると、
アレックスはクスクスと笑った。

「さて・・・・」

ジャスティンは鎌を構える。

「4対1だミダンダス。いや、ドラグノフ様って言わなきゃ怒るんだっけかな?」

「チッ・・・・」

ミダンダスの対極。
そこに並ぶ4人。
アレックス、ドジャー、レイズ、ジャスティン。
4対1。
《MD》が4人。

「カカッ!負ける気がしねぇ!全く負ける気がしねぇよなぁおい!
 一気に形勢逆転ってか?カカカッ!いいザマだぜミダンダスよぉ!!!」

ドジャーは顔をニヤけさせ、
そして両手にダガーを4本づつ装備する。
かなりご機嫌だ。
仲間が増えて心強いのか。
ジャスティンと再び肩を並べて戦えるのが嬉しいのか。
まぁどちらもだろうが、
それ以上にドジャー的に気に入らない態度のミダンダス。
その鼻をあかすした気分でテンションが高ぶった。

「なんせ《MD》の聖職者三人が全員いるわけだからなっ!
 チェックメイトだ!ざまぁねぇやクソッタレめ!!!」
「・・・・・・あまり・・・・興奮するなドジャー・・・・・・キモい・・・・・・」
「あん!?んだとレイズ!?」
「まぁまぁレイズの言うとおりだ。慎重になろうぜドジャー」
「カカカッ!大丈夫だっての!まずは・・・・・・・」

ドジャーが両手に溜めを作る。

「俺から行くぜ!回復のできねぇ俺から行くのがセオリーだろ!」
「待ってくださいドジャーさん!!!」
「いや行く!!俺が安心して援護を任せられる3人が全員ついてるんだからな!
 俺は・・・・・・安心してこの身を投げ出せるってもんだ!」
「え?ドジャーさん。そんなに僕の事を・・・・」
「ハハッ、ドジャー。俺は女以外の相手はしたくねぇな」
「・・・・・俺は・・・・・・・・死ねばいいとだけ・・・・・・言っておこう・・・・・」
「うるせぇよテメェら!」

と言いながら、
ドジャーは嬉しそうだった。

「よし・・・行くぜ!」
「あっ!!だから待ってください!!」
「待てねぇって言ってるだろ!?」
「本当に待っ・・・・・」
「ご馳走をくれてやる!!!!」

アレックスの静止を無視し、
ドジャーが・・・・投げる。
計8本のダガー。
ヒュンっ!と8本のダガーの飛ぶ音。
それは一つに合わさったようにも聞こえた。

「愚かな・・・・・・」

ミダンダスは避けない。
8本のダガーを・・・・・・
全て食らう。
と、同時にそのダメージに吐血する。

「痛い・・・・が、それはあなたも同じになる」

ミダンダスの言葉と同時に、
リベンジスピリッツ。
ミダンダスの周りの怨霊。
そのうめき声が8個。
ミダンダスの周りからドジャーに向けて飛んでいく。

「お前が死なねぇのに俺が死ねるか!!!!」

ドジャーがいつの間にか跳んでいた。
ダガーを投げた後、
一気に突っ込んでいた。
物凄い勢いだ。
その瞬発力を生かし、
すぐさま飛び込む。
ディメンジョンの魔方陣の上をかっ飛び、
ミダンダスの目の前まで・・・・・・

「ぐっ・・・・・」

その途中、
8個の怨霊がドジャーを噛み付く。
突き抜ける。
8個のダメージ。
ドジャーの体から血しぶきが舞い上がった。
かなりの致命傷ともいえる。
だが・・・・死んでない。

「死んでねぇ!!!いける!!!!」

ドジャーは空中でダガーを取り出す。
右手に握りこんだダガー。
それを空中で思いっきり振りかぶる。

「おかわりをくれてやらぁ!!!!」

そしてそれを思いっきりふり落とす。
ミダンダスに向かって・・・・・

「愚か・・・・・と言ったでしょう」

ミダンダスは小さく笑い、
動じないように眼鏡をあげる。
その手には・・・・・・スペルブック。






















「ッ痛!!!」

ドジャーは気付く。
そして自分の両手足、体を見る。

「大丈夫だ・・・ある!死んでねぇ!!ビビった・・・・」

どうやら補助が間に合ったようだ。
さすがに聖職者3人。
その補助は頼りがいがある。
本当に死んだかと思った。

「何が・・・・・・起こったんだ・・・・・・」

ジャスティンが驚いた顔でミダンダスの方を見つめる。

「いや、俺にもよく分からなかったぜ。ミダンダスにダガーを突き出してやったところまでは・・・・」
「ドジャーさんの攻撃までは・・・・・見えました・・・・・」
「・・・・・・・・あぁ・・・・・・だが・・・・・・・・・」

「クックック・・・・・・」

血だらけのミダンダスは、
自分の回復を行いながら眼鏡をあげて笑う。

「愚か・・・・愚かすぎた・・・・・」

そのミダンダスの周り。
光がまぶしい。
これは・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・イモータルか・・・・・・・くそ・・・・・・・・」
「カッ!やっぱか」
「もう一度スペルを発動させる時間はもう稼がれてたんですか・・・・」

アレックスは拳を握り締める。
力強く。
血が出るほどに。

「僕が無理矢理でも止めてれば・・・・・」
「うっせ!結局無事だったんだからいいじゃねぇか!」
「だから・・・・慎重にいけって言ったじゃないか・・・・・」
「人の話しを聞けーー!!アホォ!!!」

と思うと、
ジャスティンは突然足を崩し、
地面に手をついた。

「そんなとこでやられたら・・・・手出しできないじゃないか・・・・・」
「カカッ!おいジャスティンお前いきなり・・・ん?」

ドジャーはジャスティンの顔を覗き込む。
その顔からは・・・・・・涙の雫が垂れていた。

「カカカッ!何泣いてんだお前!!」

ドジャーはジャスティンの背中をバンッと叩く。
叩いた
叩いた・・・・・・はずだ。

「あれ・・・・」

叩けなかった。
手が・・・・すりぬけた。

「へ?は?」

自分の体をよく見る。
なにか・・・・薄いような・・・・

「へ?」

ミダンダスの方を見る。
その足元。
見たことがある。
見覚えがある。

「・・・・・は?俺?」

血だらけで崩れ去っている自分の体。

「ドジャーさん・・・・・・」
「・・・・・・・死ねばいいとは言ったが・・・・くそ・・・・・・」
「馬鹿野郎・・・だからお前は自分勝手なんだ・・・・・」

アレックス。
レイズ。
ジャスティン。
先ほどから誰一人、ドジャーの方を見ていない。
いや、"こちらのドジャー"の方を見ていない。

ドジャーはあらため自分の体を見る。
そして力の入らないこの体の拳を握りしめ、
静かに開いた。

「なっ・・・・・・・・・・俺・・・・死んだのか・・・・・・・・・・・・・・」






                 






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