「わぁーぃ!また俺の勝ちぃ〜♪」
「チェッ・・・・腕相撲はまたメッツの勝ちかよぉ・・・・」
「メッツは馬鹿力っていうか馬鹿っていうかぁ・・・・」
「なんだよぉ〜・・・・」

小さなドジャー。
小さなメッツ。
小さなジャスティン。
今日も三人一緒。

「次はかくれんぼにしよぉーぜぇー」
「それはドジャーが得意だからやりたいんだろぉ?」
「俺は別にいいけどねぇ〜」
「んじゃぁジャスティンが鬼なっ!」
「え・・・おいちょっと・・・・」

ドジャーとメッツが楽しそうに走っていく。
子供に似合わない汚い路地を、
無邪気に走っていく。
ジャスティンから離れていく。

「30秒だぞジャスティーーン!」
「ズルすんなよぉ〜♪」
「ちょっと・・・待ってくれよぉ!俺はぁ!」

だが、
小さなドジャーとメッツは、
すぐにどこかにいなくなってしまった。

「置いてかないでくれよぉ・・・・・もぉ・・・・・」

ジャスティンはその場に座り、
小さな足を折り曲げて体育座りをした。

「まぁいいけどさぁ・・・いーち。にぃーい・・・・・」

ジャスティンは指を折り曲げながら30数える。

「さーんじゅ!」

ジャスティンは数えるなり飛び上がり、
そしてすぐさま探しに行く。

「ここかぁ〜?・・・あれ、違う・・・・ここかなぁ」

ゴミ箱を開けたり、
木陰を覗き込んだり。
ジャスティンは必死で探した。
だけどドジャーとメッツは見つからない。

「なぁ!やっぱかくれんぼやめようぜ!出て来いよドジャー!メッツぅ!」

返事はない。

「なぁ、やなんだよ一人はさっ!出てきてくれよ!」

だが、
99番街にジャスティンの声が響くだけ。

「どこにいるんだよぉ!出てきてくれよぉ!」

必死で叫ぶジャスティン。
必死で探すジャスティン。

「見えないところにいかないでくれよぉ!なぁ!俺を一人にしないで・・・・・」





















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いつの間にか涙が出てきていた。
ジャスティンの目に涙が浮かんでいた。
ラスティルはそんなジャスティンを心配そうに見上げる。

「あっ、やべ・・・。みっともないところを見せちゃったねハニー」

いつの間にか流れている涙に気付き、
ジャスティンは急いで目をこする。

「昔を思い出しちゃってさ・・・」

そう言ってジャスティンはラスティルを抱きしめた。

「俺はいつも自分一人でなんとかできると思ってるんだけどさ。
 駄目なんだ・・・・やっぱり慕ってくれる誰かがいないと・・・・・」

ジャスティンは強く強く抱きしめる。

「心のよりどころが必要なんだ・・・・だから故郷の99番街が凄く大事で、
 そのためにこんな事もしてる。だけど・・・・・心が壊れそうなんだ。
 ハニー・・・・。少しの間このまま抱きしめさせてくれ・・・・・
 心のよりどころが必要なんだ・・・・一人は・・・・イヤなんだ・・・・・・」

ジャスティンはラスティルの返事も確認せず、
ただただすがる様に抱きしめた。

「ドジャーはさ。自分勝手な奴だったんだ・・・・。
 本当は俺が仕切りたいのにさ、なんだかんだであいつに振り回される。
 でも・・・・俺は・・・本当は・・・・心の中ではそれが居心地良くて・・・・・
 だからかくれんぼしてた時だって、あいつがいなくなるとすぐ怖くなる・・・・
 一人はイヤなんだ・・・・一人じゃぁ何も見つけられる気がしない・・・・」

勝手に思い出を語り、
また涙が出そうになる。
とにかくすがる様にラスティルを抱きしめた。

「・・・・・」

ふと、
涙目を開いて向こう側を見る。

「・・・・・・・・・!?」

ジャスティンはラスティルを抱きしめるのをやめた。
一つの異変に気付いたからだ。

「アレックス君はどこに行った!?」

ジャスティンの目線の先。
そこには先ほど倒したアレックスが横たわっているはずだった。
だが、無い。
アレックスがいない。
忽然と姿を消している。
倒れていたところには血の跡があるだけ。

「まさかっ!?」

ジャスティンは振り向く。
心配の先。
それはドジャー。
そこにはドジャーが横たわっているはずだった。
だが・・・・いない。
アレックスと同じく、血の跡だけ残し、
そこにドジャーはいなかった。

「どこだっ!どこ行ったんだ!」

ジャスティンは見回す。
暗く、広い地下の空間。
そこを可能な限り見回す。
暗くてよく見えない。
だが・・・・いない。
とにかくいないのだ。

「クソッ・・・・クソッ・・・・・」

ジャスティンは右手に鎌を構える。
そして360度回りながら警戒する。

「・・・・いない・・・見えない・・・・・・インビジかっ!?」

見つけられない理由。
考えられる理由は一つ。
インビジブルとカモフラージュで姿を消している。
それしかない。

「またっ・・・またかくれんぼかドジャー!!」

叫ぶ。
ジャスティンは少し冷静さをなくしていた。
先ほどまでは冷静にしていたが、
それが表情に出ていない。

「いつもそうだっ!お前はいつも勝手にどっか行ってしまう!
 俺を心配させてっ!見えないところに隠れてしまう!
 出て来いよドジャー!なぁ!出てきてくれよっ!」

叫ぶ。
ジャスティンは叫ぶ。
ふと、
どこからか声が聞こえる。

「今回勝手にいなくなったのはお前の方だろジャスティン」

ジャスティンは振り向く。
見渡す。
だが、姿は見えない。
どこにいるか分からない。

「俺達《MD》の前から勝手にいなくなったのはお前の方なんだぜ?」

また振り向く。
だが、分からない。
どこにいるのか・・・・・
分からない。

「出て来いよドジャー!!いやなんだよ居なくなるのは!
 失うのが怖いんだっ!今回の事だってそうだ!
 俺は本当はお前らを失いたくはないんだよっ!怖いんだっ!」

見えない。
ただそれだけの事に・・・
ジャスティンは異常に恐怖した。
まるで起きたら母親が居なかった子供のように、
怖くて泣くしかない子供のように。

いや、それはあながち間違っていない。
ジャスティンのトラウマでもある。
ジャスティンは親を失っていた。
ある日突然居なくなったのだ。





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「ママ?ママ・・・・どこ行ったの?」

あまりにまだ小さすぎるジャスティン。
いつものような朝。
いつもの朝の太陽の光。
いつものベッド。
そこで目覚めると、
いつものように朝ごはんを作ってるはずの母は居なかった。

「ママどこ?買い物?お出かけ?」

ジャスティンに父は居なかった。
その理由は知らなかったが、
ジャスティンには母が全てだった。
母しかいなかった。
その母。
小さな子供には大きすぎる存在。
心のよりどころ。
それが・・・・いなくなっていた。

「すぐ帰ってくるさ・・・・」

ジャスティンは小さな家の中でジッとこらえた。
足を折り曲げ、
体育座りでジッと座って待った。
母が帰ってくるのを。
帰ってくるはずのない母を。

「・・・・・早く帰ってきてよママ・・・・お腹すいたよ・・・・・」

帰ってくるはずのない母。
理由は分からない。
この過酷なルアス99番街の環境。
もしかしたら何かあったのかもしれない。
強盗に襲われた。
突然殺された。
そんな災難にあったのかもしれない。
そして・・・・
ただジャスティンを置いてどこかに行ってしまったのかもしれない。

「ママ・・・・」

理由は分からない。
母親は帰ってくる事ができなくなったのか、
それともジャスティンを見捨てたのか・・・・。
だが、ジャスティンは待ち続けた。
帰ってくるはずのない母親を、
帰ってこないはずがないと信じて。
ただ一人で待ち続けた。




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突然親が居なくなった。
親をなくした。
それは・・・ジャスティンの心に深い傷を付けていた。
酷いトラウマでもあった。
そんなジャスティンにとって、
ドジャーとメッツとの出会いは幸いなる"運命"としか言いようが無かった。
彼には心のよりどころが必要だった。
いつも彼女というパートナーを欲しがるのもその理由が関係していた。

そして、
ジャスティンは誰かが居なくなる事に異常に恐怖する。

「どこだっ!どこなんだよっ!」

ジャスティンは怖くて怖くてたまらなかった。
とりあえず鎌をガムシャラに振り回した。
どこにいるか分からないドジャーとアレックスに向かって。
だが、当たるはずもない。
鎌は虚しく暗闇をかき分けるだけ。

「ジャスティンさん。ドジャーさんからトラウマについての件は聞きました。
 弱み、古傷に付け込むのはいい気分じゃないんですが・・・・・・・」

アレックスの声もどこからか聞こえる。
ジャスティンは恐怖でとにかく鎌を振り回した。
とにかく空気を掻き毟った。
見えないところからアレックスの声が聞こえる。

「だけどジャスティンさんは言いましたね。
 もう遅すぎるんだって。運命だって。
 そうなんです。もう・・・・・・・・遅すぎたんです」

「クソッ!どこだっ!?」

とにかく空をきる鎌。
そしてジャスティンはある事に気づき、さらに恐怖する。

「ま、まさか不可視に乗じてハニーを!?」

ジャスティンの最愛の彼女ラスティル。
心のよりどころ。
それを狙われているかもしれない。
見えないところから。
それに対してジャスティンは異常に恐怖した。
彼女を失うことに・・・・・・

「させるかっ!!!リ、リベレーション!!!」

鎌の柄を地面に突き立てる。
光る魔方陣。
同時に媒体であるラスティルも光り輝き、
女神へと変貌する。
彼女を守るために、
彼女を媒体にしたリベレーション。

だが、そのリベレーションの攻撃も当たらない。
どこにいるか分からないドジャーとアレックス。
適当に、
ガムシャラに、
恐怖だけを引き金に放った攻撃。
あたるはずもない。

「ジャスティン・・・・」

突如ジャスティンの肩に手が置かれる。
それはドジャーの手。
ドジャーはインビジを解いてジャスティンに触れた。

「そ、そこかドジャー!!!」

ジャスティンは咄嗟に鎌を振り切る。
その鎌は空を斬り、
そして・・・ドジャーの頬をかすめた。
ドジャーの頬から鮮血が舞う。
だが、ドジャーは動じず、
悲しい目でジャスティンを見つめた。

「ジャスティン・・・・まだ引き返せるんだぜ?」

目を動かさず、
ドジャーはジャスティンに言った。

「う、うるさいドジャー!俺はっ!俺はもう引き返せないんだっ!
 お前らに刃を向けた!もうどうしようもないんだっ!
 戻りたくても戻れない・・・・・・・・・だからやるしかないんだよっ!!!」

ジャスティンはガムシャラに鎌を振り切る。
ドジャーに向けて。
ドジャーはそれを簡単に避けた。

「そうか・・・・・・」

ドジャーはまたインビジで消えた。
そして見えないどこからかまた話しかける。

「お前が俺をよく知ってるようによぉ・・・俺もお前をよく知ってんだ。
 お前の融通の利かない性格も・・・・・・お前の"失う事への恐怖"もよぉ
 やるなら俺は遠慮なくそこをつかせてもらうぜ?」

「・・・・・失う(グッバイ)の恐怖か」

「あぁ」

「そうだっ!俺は失う事が怖い!そして失ったならまた何かにすがるしかないんだっ!
 だから何度も彼女を作ってきたっ!ハローとグッバイを繰り返してっ!
 別れ(グッバイ)が来るたびに心が壊れそうになるっ!
 だからその心を生めるためにすぐにまた新しい出会い(ハロー)を求めるっ!
 だが俺はいつの間にかお前らをも失っちまった!」

「だから悪魔にさえ出会いを求めちまう。お前の悪いクセだ。
 すがれるなら何にでもすがっちまう。お前の弱みでもある。
 すぐ別れるような悪い女ばっか捕まえるのはそのせいだぜ?」

「うるさいっ!」

「悪いなジャスティン。失えないのは・・・・・俺も同じなんだ」

突然だった。
悲鳴が聞こえた。
なんの悲鳴かすぐ分かる。
一番身近な者の声なのだから。
ジャスティンが怯えながら振り向くと、

ラスティルが血だらけになっていた。

「俺だってお前が悲しむ事はしたくなかったんだけどよ・・・・・」

血だらけのラスティル。
その体には穴が空いている。
・・・・と思うと。
その体の穴から何かが浮き出てきた。
槍。
ダガー。
インビジの解けたドジャーとアレックス。
そして各々の武器。
それがラスティルを貫いていた。

「あ゙ぁぁああ!あ゙ぁああああああ!!!!」

ジャスティンはただ叫んだ。
悲鳴のような叫びを。
そして血だらけの亡骸になったラスティルに駆け寄る。
そしてただ泣き叫んだ。
そんなジャスティンの横、
アレックスとドジャーはそれを見届けていた。

「ドジャーさん。良かったんですか?」
「・・・・・・・・カッ!覚悟決めろっつったのはテメェだろアレックス。
 俺は覚悟決めてきたんだ。ジャスティンを苦しめる覚悟もできてた。
 仲間を追い詰める覚悟さえしてきてたんだよ俺は。
 俺のする事がジャスティンを苦しめることになろうと、
 俺はそれをしてでもジャスティンを止める決心をしてきた。そして・・・・」

ドジャーがギリギリと拳を握った。
拳自体がはち切れんばかりに握り締めた。
握るダガーが砕け散れるかと思うほどに。
"そして・・・"
その先の言葉はアレックスにも分かる。
止める。
ジャスティンを止める。
そしてもしそれが最悪・・・ジャスティンの命を奪う結果になったとしても。
そういう決心だった。
心を非情にしてきた。
そしてそれはドジャー自身をも苦しめていた。

「彼女は・・・・ラスティルは・・・・・」

ジャスティンはラスティルの亡骸を抱きしめながら、
震える声で話す。

「俺についてきてくれると言った・・・・
 もしこういう結果になるとしても・・・・ついてきてくれると言った・・・・
 俺もそれを覚悟し・・・・同時に何がなんでも守るとも決心してた・・・・だけど・・・・」

ジャスティンは涙を流しながらラスティルを包む。

「守りきれなかった・・・・また・・・・グッバイだ・・・・
 別れが俺を蝕む・・・・心が崩れる・・・・・何度味わっても慣れる事のないこの苦しみ・・・・・」

強く強く抱きしめながら、
ジャスティンは彼女へ涙をこぼす。
だが、
ジャスティンは彼女の亡骸をそっと地面に置いた。

「もう・・・・何もない・・・・・」

ジャスティンは立ち上がり、
そしてドジャーの方へ目をやる。
その目は・・・・虚ろ。
いや、逆。
フッ切れたような目だった。

「俺はお前らを無くし・・・・彼女を無くし・・・・・
 もう何もない・・・・俺の心が寄り添う所はどこにもない・・・・・」

ジャスティンは鎌をブンと一振りし、
ドジャーを強く見つめる。

「正直・・・・久方ぶりにお前達に・・・《MD》の皆に会った時・・・・心が迷った。
 俺の目的なんてどうでもよくなった。いや、どうでもいいんだ。
 もう苦労して手に入れた六銃士の肩書きなんて放り投げて、
 すぐにでも皆の下に戻りたくなった・・・・・・」

ジャスティンは鎌をドジャーに突きつける。
そしてもう片方の拳を強く握る。

「だけど・・・もう遅かったんだ。
 俺は勝手に皆の下を離れて・・・いつの間にか皆を危険に合わせていて・・・・・
 合わす顔なんてなくて・・・・・・・今更戻れなかった・・・・」

「カッ、それでもあいつらは受け入れてくれたと思うぜ?」

「それも分かっていたさっ!!!」

ジャスティンは叫ぶ。
叫んで鎌を地面に叩きつける。

「それでも言い聞かせるしかなかったんだっ!
 自分のどうでもいい目標を言い訳にして!
 お前らに無理矢理でも背を向けて!お前らの前に立ちはだかった!」

「ったく。昔からやっかいな性格だよな」

「・・・・・・あぁ。それで泥沼にハマっちまったんだ。
 本当の本当に戻れないところまで来てしまった。
 もう今後、お前やメッツ。《MD》の皆以上の出会いなんてないだろう。
 だけど・・・・・・・・・・グッバイだドジャー。終わりにしよう」

「カッ!」

ドジャーは両手のダガーをクルクルと回す。
それを親指で止め、
ジャスティンを見る。
ジャスティンを見ながら言う。

「あぁ。やるかジャスティン。おいアレックス」

ジャスティンを見たまま、
ドジャーはアレックスに言う。

「手出しすんなよ」
「でも・・・・」
「もうお前の口でも俺を説得すんなぁ無理だ。
 腹くくっちまったんだ。俺も・・・ジャスティンもな。
 やるしかねぇんだ。やるしかねぇなら・・・・納得してやりてぇんだよ」

「これも・・・・運命だよなドジャー」

「うるせぇジャスティン。俺はその言葉に納得しねぇっつったろ。
 とにかくアレックス。手出ししねぇと約束しろ」

アレックスはすぐに返事できなかった。
約束できるはずがない。
いや、だが・・・・

「・・・・・はい・・・・約束します・・・・・」

これは自分には入り込めない世界なんだろうと察してアレックスは約束した。
それが悲しかった。
アレックスはドジャーのために何かしてやりたかったが、
何もしない事がドジャーのためなのだ。
それが異様に悔しかった。
そして自分が入り込めないという事が一番悔しかった。

「いくぜジャスティン。殺し合いだ」

「本当にどっちかが死ぬんだな・・・・・
 昔、一緒に死のうって約束したのに・・・・」

「カカッ!なんだぁ?一緒に死んで欲しいか?」

「・・・・・・フッ・・・冗談だろ?」

「だな。俺だって死ぬのはゴメンだ」

ドジャーとジャスティンが対峙した。
真っ直ぐ。
お互いを見て。
お互い目を離さなかった。
目で何かを話し合ってるようだった。
声に出さずとも、
最後に言葉を交わしているようだった。
ただ、
向き合っていた。
動いたら・・・・自分が相手を殺しに行く事になる。
それがドジャーにもジャスティンにも・・・最後の止め具となっていたんだろう。
だが・・・・・

「ドジャァアアア!!!」
「ジャスティィイイイン!!!!」

同時に動いた。
お互い、
友の命を奪う武器を握り締めて。

「ドジャー!!メッツがルアス川で溺れた日の事覚えてるか!?」

ジャスティンが鎌を縦に振り切る。
ドジャーに向かって。
ドジャーはそれを避けながらジャスティンの後ろに回り、
返事をする。

「あぁ!あの馬鹿、泳いだ事もないのに
 "俺、泳げるか試してみる"っつって飛び込んだんだったよな!」

ジャスティンの背後に回ったドジャー。
ドジャーはジャスティンに左手のダガーを突き出す。
だが、その動きも知ってると言わんばかりに、
ジャスティンは背後からの攻撃を避ける。

「んで結局メッツはそのせいで風邪ひいたんだったな」

ジャスティンは左手で十字を描き、
そのままドジャーに向かってプレイアを放つ。
ドジャーもそれを分かっていたかのようにバックステップでかわす。

「カカカッ!そんで俺らで馬鹿にしてたら俺らも風邪がうつったんだ!」

バックステップをしながら、
ドジャーはダガーを投げる。
本気で投げられたダガーはジャスティンの頭部を目掛ける。

「ハハッ!そうだったな!」

ジャスティンは軽く首を傾け、
それをギリギリでかわす。
ジャスティンの長髪が投げられたダガーで舞った。

「そーいやティル姉ん家の窓を割っちまった事もあったな!」

ジャスティンはそう言いながら、
即効でドジャーに飛び掛り、
ドジャーに向かって思いっきり鎌を振り切る。

「カカッ!あったなあったな!俺だけ即効で逃げたんだ!」

ドジャーがジャンプで鎌を避ける。

「あぁ!逃げ足だけはお前がいつも一番だった!」

ジャンプで避けたドジャーにジャスティンはまた左手を向ける。
十字を切った後の左手はプレイアを放とうとドジャーを狙う。
空中で動けないドジャーを。

「まぁどんな事も言いだしっぺはいつもお前だったけどなっ!」

させまいとドジャーは空中からダガーを投げる。
右、左と二発。
ジャスティンはプレイアの動作をやめ、
ダガーをさける。

「毎日のように遊んだなっ!」

ジャスティンは鎌を構える。
ドジャーの着地際を狙う。

「あぁ、三人でいつも馬鹿やったぜ」

ドジャーは着地際、
咄嗟に両手にダガーを取り出し、
ジャスティンの鎌へ合わせる。
鎌と二つのダガーが押し合いになる。

「日が沈んでは分かれて・・・・」

「日が昇ってはまた遊んだ」

本気で押し合う武器と武器。
ギリギリときしむ。
武器と・・・何かが。
腕は相手の武器を押し合い、
だが目はお互いの目を睨んでいた。

「だけど、ドジャー。お前とメッツは一緒に住んでるからさ。
 さよなら(グッバイ)はいつも俺だけに向けられてたんだ」

「あん?」

「そんな些細な事が俺には無償に寂しかったんだ。
 俺は・・・・・・人との分かれが一番嫌いだからな・・・・・」

ジャスティンが押し合っているドジャーのダガーを一度弾く。
そしてそのまま鎌をドジャーの首へ振り切る。
だが、
ドジャーはすぐさま両手を翻し、
またダガーを鎌にぶつけ、鍔迫り合いの状況に持っていく。

「本当にお前はアホだなジャスティン」

二つのダガーをクロスさせ、
鎌を必死に受け止めながらドジャーは言った。

「・・・・・・なんだってドジャー」

「アホだっつったんだよ!」

武器を押し合ったまま、
ドジャーは足を突き出す。
蹴る。
ジャスティンの腹を。

「ごはっ・・・・」

ジャスティンは苦しみながら後ろにひるむ。

「お前はいつもネガティブすぎるんだよ」

ドジャーはジャスティンにダガーを突きつける。

「自分だけにグッバイだぁ?そりゃぁつまり、
 次の日はお前だけにまたハローがあるってことだろが」

「・・・・・・・・」

ジャスティンは自分の腹を押さえたまま、
下を向いて黙り込んだ。
心に何かを刻みこむように。
そして口を開いた。

「そうだな・・・・」

腹を押さえたまま、
下を向いたまま、話を続ける。

「お前の言葉はいつも俺に力をくれる。だが・・・・・」

ジャスティンは突如、
蹴り上げる。
足を蹴り上げる。
その不意打ちの蹴りは、
ドジャーの片手のダガーを弾き飛ばす。

「なっ!?クソッ!!」

ドジャーはもう一方のダガーをジャスティンに突き出す。
だがジャスティンはその手にも蹴りを入れ、
そしてドジャーのもう一方のダガーも吹っ飛んだ。
ダガーは虚しく地面に転がり、
金属音を立てた。

「や、野郎!」

ドジャーがすぐさま腰からダガーを取り出そうとする。
だが、
そんなドジャーの首に、ジャスティンの鎌が回される。

「カラスが鳴いてる。お別れ(グッバイ)の時間だドジャー」

首にかけられた鎌。
ドジャーにはもうどうすることもできない。
チェックメイト。

「ドジャー・・・・お前はいつもそうだ。
 自分の事ばかり考えてるようで人の事ばっかり考えてる。
 いつものお前なら俺なんてすぐ殺せたかもしれない。だが動きにキレがない。
 分かってるんだよ。さっきのダメージが全然残ってるんだろ?」

ドジャーの体。
それは血だらけだった。
ジャスティンにやられた傷。
プレイアのダメージ。
リベレーションのダメージ。
セルフヒールぐらいでそれがすぐ取れるわけがない。
ドジャーは全快ではなかった。

「そんな体でも俺に向かってきてくれたんだな」

ドジャーは鎌を首にかけられたまま、
フッと笑って返す。

「昔は毎日ぶっ倒れるまで遊んでたろ?」

「ハハッ・・・・・そうか・・・・・そうだったな・・・・」

ジャスティンは鎌をドジャーの首に回したまま、
ドジャーの命を握ったまま、
悲しい目で言った。

「じゃぁ・・・・バイバイだなドジャー。また来世で遊ぼうぜ」

ドジャーは目を瞑った。
もう覚悟をした。

「あぁ」

友に殺されるならそれもいい。
いや、どうせ死ぬなら友に殺される。
それもいい・・・・それがいいと思った。
死を覚悟し、
ドジャーは心は安らかだった。
目を瞑ったまま、
・・・・・このまま死んで、
そしてまた目を開けた時、
また生まれた時、
その時またジャスティンやメッツが目の前にいればいい。
そう思った。
生まれ変われるとして、
違う人生は望まない。
今より幸せな人生がくるとてそれを望まない。
また、同じ人生がいい。
同じ仲間の中で同じ時と過ごせれば・・・・

感覚もなくなった。
安らかだった。

人生をリセットだ。
そう思った。
そして新たな人生を見るために・・・・・目を開けた。

「・・・・・・・・あ?」

目の前にはジャスティンがいた。
笑顔でドジャーを見ている。

「こういうパターンもあるよな・・・・・」

よく分からなかった。
だが、
ジャスティンは突然大きく吐血し、
鎌を落とした。

「すいません・・・・ドジャーさん」

アレックスの声だ。
そして謝るアレックスは、
槍を握っていた。
その槍は血に濡れていた。

「クッ・・・・・」

ジャスティンがその場に崩れ落ちた。
地面に人形のように倒れ去り、
そして・・・・腹には大きな赤い穴が出来ていた。

「ジャ・・・ジャスティ・・・・・・・アレックスてめぇ!!!」

ドジャーはアレックスに掴みかかる。
両手でアレックスの胸倉を掴みあげる。

「手ぇ出さねぇっつったろ!!!ぁあ!?約束したよなテメェ!!!」

アレックスは冷静に応えた。

「約束しました・・・・・」
「じゃぁなんでだっ!!!??」
「ただ・・・・・ドジャーさんの命と約束。どっちが大事か・・・・・・・それだけです」
「・・・・・・・・クソッ!」

ドジャーはアレックスを突き放す。

「・・・ド・・・ドジャー・・・・」

ジャスティンは倒れたまま、
血反吐を口から漏らしながら、
ドジャーに笑いかける。

「何度も言ったが・・・・お前は・・・いい仲間を持ったな・・・・・」

血を垂れ流しながら、
ジャスティンは笑いかけるのをやめない。

「あ、あぁ。だけどよ、さっきも言ったけどよ。欲しくてもやらねぇぜ?」

「そりゃ残念だ・・・・」

ジャスティンは目を瞑った。

「これでいいんだドジャー・・・俺が死ねばいい・・・
 俺は何かを失うのが怖い・・・・でもこれなら・・・・
 何かを・・・・お前を失わないで済む・・・・・・・」

「お前が死んだら意味ないだろがこのエロガッパ!」

「ハハッ・・・・来世も・・・・・皆で遊ぼうぜ・・・・」

「・・・・・・・・・」

ドジャーはかける言葉がなかった。
さっきまで自分が思ってた事を、
今、ジャスティンが考えている。
それだけが分かった。

「し、死ぬな!ジャスティン!」

咄嗟に出た言葉だった。
今更過ぎる言葉。
どちらかがこうなる事は分かっていて、
覚悟もしていて、
それでこうなった。
その上で・・・・出た言葉だった。

「死ぬ・・・な・・・か・・・・お前は・・・・本当に自分勝手だ・・・・・・・」

目を開けてくれないジャスティン。
ドジャーはもう感情が溢れそうで、
目を開けないジャスティンの代わりに、
自分の目が閉じれないほど、目から涙が溢れてきた。
それがこぼれ落ちそうになる。
あと1秒で頬に滝が出来る。

「本当に自分勝手ですよね。僕も思います。でも・・・・賛成です」

突然アレックスが言った。
と同時にドジャーから涙がこぼれた。
こぼれた涙。
悲しみの雫でぼやける向こう側。
その先、
その先に映ったのは・・・・ジャスティンに手を伸ばすアレックスだった。

「それなら生きればいいです」

そう言うアレックス。
その両手から・・・輝く光。
聖なる光。
スーパーヒール。
その輝きがジャスティンを包む。

ジャスティン自身も驚きで目を開く。

「な、何をやって・・・ぐっ・・・」

ジャスティンが口から吐血する。

「しゃべらないでください。傷が開きます。・・・って僕がやった傷ですけど・・・・」
「い、いやアレックス・・・おめぇ・・・」
「助かります。ジャスティンさんは」
「・・・・え・・・」
「いや、助けます」

驚きで涙は止まり、
だが濡れるドジャーの目。
状況に混乱したが、
確かなのは・・・視界の先でアレックスがジャスティンを助けているという事。

「まぁ・・・応急処置程度までしか間に合いませんけどね」

「な・・・なんでだ・・・アレ・・・ックス君・・・・・」

「しゃべらないでって言ってるじゃないですか」

片手でアレックスはジャスティンをポコンと殴る。
そしてまた腹の傷の治療に集中する。

「ドジャーさんもジャスティンさんもお互い死んで欲しくないんでしょう?じゃぁ助けますよ」
「だ、だけどよぉ!」
「僕も仲間ですから」
「・・・・は?」
「僕も仲間ですからジャスティンさんを失いたくないって事です。
 仲間は助けます。僕だって失うのは嫌なんです。
 僕はあまりに多すぎる仲間を失いました。
 だから新しい仲間とて、もう失いたくないんです」

「俺が・・・・なか・・・・ま?・・・・」

「はい。・・・・ってしゃべらないでくださいって言ってるでしょ」

もう一度アレックスはジャスティンを殴る。
そして治療しながら話しを続ける。

「だってジャスティンさんは《MD》を抜けたんですか?
 ねぇドジャーさん。一応ギルマスでしょ?許可したんですか?」
「だ、誰が一応だ!」
「どうなんですか?」

ドジャーは一瞬黙るが、
口元を緩めて言う。

「あぁ。許してねぇな。ジャスティンはまだ《MD》だ」
「でしょ?」

アレックスは笑顔で治療しながら続ける。

「まぁここでジャスティンさんが助かっても、僕らと戦うのは無理です。
 残念ですねジャスティンさん。ジャスティンさんの夢終わっちゃいました。
 《GUN'S Revolver》に入ってまで果たしたかった目的は消滅です。
 あとはもう節介な《MD》の皆さんに連れ戻されるだけですね」

アレックスはジャスティンに笑いかける。
ジャスティンもフッと笑う。

「ドジャー・・・・見ろ・・・・・」

「あん?」

「お前のいい仲間・・・・それは俺の仲間でもあったみたいだ・・・・・・・」

「・・・・・・・・あぁ」
「しゃべらないでくださいって何度も言ってるじゃないですか!」

今度は強烈な一撃。
それがジャスティンに炸裂する。
アレックスの一撃を受け、
ジャスティンは「うっ・・・」とうめき声をあげたと思うと・・・・
気絶した。

「ちょ、アレックス!やりすぎだ!」
「そんな事ないです。眠っててもらうのが一番なんです」
「だ、だからって殴って気絶させなくても・・・」
「愛のムチです」
「そ・・・・そうか・・・・」

シラーッっと言うアレックス。
だが、全霊をかけてジャスティンを治療するアレックス。
ドジャーは口元を緩めるのを止められず、
嬉しさがこみ上げ、
気付くとアレックスに飛びつき、
腕でアレックスの首を締め上げた。

「アレックス!お前は最高だこの野郎!」
「ちょ、ちょっとドジャーさん苦しい・・・・死んじゃう・・・・」
「カカカカッ!死んじまえ死んじまえ!」
「そ・・・その前にジャスティンさんが死んじゃいます・・・・」

だがドジャーは嬉しくて、
片手でアレックスを締め上げたままだった。
いや、片手でアレックスを抱きしめたままだった。
涙がひいても真っ赤な目は
喜びに溢れていて、それを必死にごまかそうとするように。

「もぉー!苦しいですって!」

アレックスは無理矢理ドジャーを引き剥がす。

「まぁ嬉しくて舞い上がる気持ちも分かりますけどね」
「だ、誰が舞い上がってんだ!」
「さぁ、誰でしょうね。親友を取り戻せた誰かさんでしょう」
「クッ・・・・」
「ま、一件落着ってやつです」


「それはそれはよかったですね」

暗いこの地下の空間。
その奥。
そこから声が聞こえる。

「夢が費えて一件落着?なんともおめでたい奴らです
 今目の前で見た臭ったらしい情論で満足など頭がおかしいとしか思えない。
 それで満足するのであれば、それはよかったと皮肉しか浮かびません」

眼鏡を月光りに光らせるその男。

「私なら夢を諦めない。そのためならどんな犠牲も払いましょう
 なんと言っても私の夢は歴史に残すもの・・・・・
 歴史に残らぬものなどどんな犠牲だろうと・・・・あってもなくても同じものなのです」

ローブに身を包み、
顔だけがあらわになる。
しかしその顔も眼鏡で表情が見えない。
だが・・・・誰かは分かる。

「・・・・・・・・ミダンダス」
「・・・・いえ、ドラグノフと言うべきでしょうか・・・・」

『ロストプロフェッサー(失われた研究者)』ミダンダス=ヘヴンズドア。
もとい《GUN'S Revolver》GM・ドラグノフ=カラシニコフ。
元凶であり、
愚か者。

「ミダンダスでいいです。歴史にはその名で残るつもりですから。
 それ以外の事など無に等しい。いや、残らないのなら無。無意味なものなのです。
 そこのジャスティンも同じ。歴史にはまったく載らないただの道具。
 まぁ・・・とはいえ、歴史の糧となる犠牲ならば少しは役に立ったと言えましょう」

「ミダンダス・・・・てめぇ・・・・」

ドジャーがダガーを構える。

「私の夢は何よりも大きく・・・そして何よりも小さい。
 だが・・・・全ては私のために役にたってくれればいいのです。
 今後の歴史の書物に、年表の一部に、ソッと一文字私の名。
 それだけのため、他の全てのものなど歴史に残らぬ排泄物。
 《GUN'S Revolver》も、世界を手に入れる事自体も私にとってその道具に過ぎない。
 そして・・・・"この男"もその糧の一人・・・・・・・・」

ミダンダスの横、
そこに倒れている一人の男。
気を失っている男。
暗闇の中とて、
それが誰だかは一目で分かる。
分からないはずがない。

「レ、レイズ!?」
「レイズさん!!!」

「ハハハ。そんなに心配するな。まだ殺しはしない。
 この男には役に立ってもらわなければならないのです。
 この男は私の夢の糧として・・・無くてはならない存在なのですから」

そう言って、
ミダンダスは意識の無いレイズを蹴飛ばした。






                 






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