「また・・・・・・・つまらぬものを斬った」

イスカが剣を鞘に納めると、
背後で数人の男がバタンと地に伏せった。

「ふむ・・・・・・・・ここらはあらかた片付いたであろう」

イスカが周りを見渡す。
夜空の下。
見渡す限り地面に倒れる男達。
そして全員斬り傷は・・・・一本。

「全て一撃とは見事だね。美しいよイスカ」

エクスポがパチパチと大げさに手を叩きながら、
片目を瞑って言う。

「怠け者に言われたくはないなエクスポ」
「失礼だね。ボクは努力家の鏡だよ?ただ爆弾は有限だから自重してただけさ」
「ふん。言葉も使いようだな。それよりマリナ殿は?」
「ん?・・・・あぁ」

エクスポが振り向く。
そして見る。
見た先では、

「りゃりゃりゃりゃりゃぁ!!!!大盤振る舞いよぉおおおお!!!!」

マシンガンを乱射しているマリナ。
ブロンドの髪がマシンガンでなびき、
風に舞い。
まるで羽のように広がり。
無数の弾丸を惜しみなくぶっ放している。

「"Queen B(女王蜂様)"降臨ってね。まるでうっぷん晴らしさ。
 ダウンしてるメッツとチェスターに比べてマリナは元気なもんだよ」
「分かっておらんなエクスポは。それでよく芸術が語れるな」
「?」
「元気だからこそマリナ殿はステキなのだ」
「・・・・・・・・あっそ」
「・・・エクスポ。お主マリナ殿の魅力が分からぬか?
 あの蜂のようにトゲのある性格と激しさと優しさが絡み合う美しい・・・・」
「はいはいはい」

エクスポは無理矢理話を止める。
いつもなら自分が話し続けている所を止められる立場なのだが、
逆の立場になると相手の気持ちも分かるものだ。

「あ、そういえばレイズはどうしたんだい?」

話を変えるついでにエクスポが見回す。
だが、
周りには、
一面に伏せったGUN’Sの男達。
そしてイスカとマリナだけ。

「ふむ。おかしいな。先ほどまではおったのだが・・・・」
「あんなやっかいな傷を負ってるのにフラフラされると困るんだけどなぁ」
「あの腹の治らぬ傷か」
「そうそう。スズランって奴にやられたっていう毒の傷。心配だよ」
「心配しなくても死ぬようなタマではない」
「まぁそうだね・・・・・・・・・・あっ」

エクスポがポンッと両手を合わせる。

「心配と言えば一つ思い出した。
 ボクが捕まってる時、ジャスティンからこんな事を聞いたんだ。
 ドラグノフの命令では人質の標的は"ボクかレイズ"だって」
「お主かレイズだと?」
「ボクな理由は美しくもない爆弾を作らそうって理由だったみたいだけど、
 レイズが標的にされる理由はちょっと分からないね。
 ま、なんにしたって美しくない理由なんだろうけど・・・・・」

「お前らは知らなくていいんだよ」

エクスポの首筋に、
ヒヤリと冷たい感触。

「両手をあげな」
「《MD》の兄ちゃん姉ちゃんよぉ」

いつのまにか。
本当にいつのまにかだった。
・・・・・・・・・・・背後。
エクスポとイスカの背後に刃物が突きつけられていた。
それも一人二人ではない。
数人。

「・・・・・いつの間にっ!」

エクスポはなすすべもなく両手をあげる。

「ちぃ!」

「おぉーっとぉ♪」

イスカがこっそり剣で背後を一閃しようとしたが、
動こうとした瞬間、刃がイスカのホホに軽く刺さる。

「おいたはダメだぜ女侍さん」

「クっ・・・・」

イスカもしょうがなく剣を置き、
両手をあげる。
だが、
思いついたように目線を変える。

「マリナ殿は!?」

イスカが咄嗟に見た目線の先。
そこでは未だマリナが夢中でマシンガンを乱射していた。
していた・・・・・と思ったが。
それも止んだ。

突如、
マリナの周りの死体の山。
そこから数人がむくりと立ち上がってマリナに剣を突きつけたのだ。
それを最後にマリナもギターを置いて両手をあげた。

「いっちょあがりぃっとぉ♪」
「ちょろいな」
「おう」
「俺らはGUN’Sの精鋭」
「俺らの手にかかればこんなもんよ♪」

「美しくないっ・・・死体に混じりながら近づいていたのか・・・・」
「・・・・拙者もたしかにイヤな気配は感じていたが・・・・こんな事だったとは・・・・」

GUN’Sの精鋭達。
以前、マリナの店に押しかけられた時でさえ、
彼らにはどうする事もできなかった。
もちろん六銃士が3人もいたこともあるし、
一人一人相手なら負ける気はしないが・・・・
こいつらは一人一人・・・ザコではない。
不意をつかれ、束になってこられると・・・・

「俺達ぁ全員中小ギルドのマスター級なんだぜ?」
「ハハッ、俺は吸収されただけで実際そうだったさ」
「ま、お前らくらい不意をつけば楽勝だってことだね」
「ったく。こんな奴らに六銃士は何やってたんだかねぇ」
「ハハハッ」

GUN’Sの精鋭達は笑う。
そして話し合う。

「で、どうする?」
「殺しとくか?生け捕りか?」
「殺していんじゃねぇか?」
「ま、命令はあのキショい医者一人捕らえて来いってだけだったしな」

「なっ!?」
「それはレイズの事か!?」

「キショい医者なんてそうもいねぇだろ?」
「あれは聖職者だったし結構楽だったぜ?」

「クッ・・・・なんでこんな時期に・・・・・・・・・」

エクスポは唇を噛み閉める。
血が滲んだ。
自分が捕まっておいて、
それで落着させたのに・・・
むざむざまた人質を・・・・・

「ま、いいか。こいつらは殺すか」

エクスポの後ろにいた男。
その男がエクスポの首元にチラつかせる剣。

「さぁて。死ね!」

男は思いっきり剣を持つ右手をエクスポに突き出した。
思いっきり。
突き抜けるほどに・・・・・・・・・

「・・・・・・・あれ?」

男は困惑した。

「なんで死なない?」

男は力を込めたはずなのに、
エクスポに剣が刺さっていない。
それに困惑していた。
いや、エクスポも困惑していた。
意味がわからない。

「あぁ・・・」

男は納得した。

「俺の腕がねぇええええええええ!!!!」

男は絶叫しながら血が吹き上がる腕を押さえ込んでいた。

「俺の腕ぇええええええ!!」
「俺の足もねぇえええええ!」
「腕ぇ!腕ぇえええええ」

絶叫は一箇所じゃなかった。
イスカの後ろに居た男も、
遠くのマリナの後ろに居た男も、
ここらに居た全員が血しぶきをあげながら絶叫している。

「ど、どうなってるんだ・・・・・・」

「・・・・ふん。くだらんな」
「応」
「・・・・・承知」

エクスポとイスカの目の前に小さなモンスターが三匹降り立った。
小さく、大きな存在。

「さ・・・・
「三騎士!?・・・・さん?」

なんとなくエクスポは敬語になった。

「こんなつまらぬ所で死ぬなよロッキーの友よ」
「応!世話のやけるやつらばっかだな!」
「・・・・・・それも承知」

言うなり三騎士は三方向に散り、
わめいている男達の息の根をとめに行った。

「なぁになぁに?どうなってるの?ちょっと私にも説明してよ!」

マリナが疑問を持ちながら近づいてきた。
しかもロッキーと手を繋いで。

「ぼくが話すよぉ〜!!んとね〜!んとね〜!」

ロッキーはマリナに手を繋いでもらったままジャンプして話す。

「アレックス達はね〜!本拠地ぃ?まで行ったんだよぉ〜!」
「えっ!?」
「誠(まこと)か!?」
「ほんとなの!?」
「うん〜〜〜♪ぼくも頑張ったんだよ〜〜〜!!!」

ロッキーは自慢げに話す。
そして勝手に照れくさそうだった。

「でね。パパ達はね〜」

「ロッキー。我らから話す」

三騎士が戻ってきていた。
カプリコソードを赤く染めて。
この短時間で精鋭たちを瞬殺。
恐ろしいものだ。

「応!俺らが聞きたいの一つ!」
「・・・・騎士団の生き残りが戦場にいると聞いてな」

つまるところ。
復讐。
王国騎士団はカプリコ砦を滅亡に追い込んだ根源なのだから、
当然といえば当然。

「あの・・・ロウマという男とも決着をつけてやるっ!」

エイアグの言葉にエクスポは苦笑いをした。
まさか三騎士がきてくれるとは思ってなかったが、
今、この時。
逆に不安要素に変わっている。。
自分達の助け舟である44部隊を殺そうとしているのだから。
目的はGUN'Sを倒すこと。
なのにいらない戦いを生み出そうとしている。
いらない私念が渦巻いている。
エクスポの言葉で美しくない事態だ。

「・・・・・」

ふとエクスポは違和感を感じた。
何気ない違和感。
それはたいしたものじゃないかもしれない。
だが、重大なことだったかもしれない。

ただ、その違和感は少し前アレックスも同じように感じていた事だった。

「どうしたエクスポ」

「あ、いや・・・・・あ!?それよりレイズ!!!レイズがさらわれたんだ!」
「えぇ?!・・・・・・また奇怪な人を選ぶものね・・・・」
「マリナ殿。そんな事を言っている場合では・・・・」
「そうだよ〜!!助けにいかなきゃ〜!」
「でも、動けないメッツとチェスターを置いていくのか?」
「・・・・・・・・」
「アレックスとドジャーに任せるしかないみたいね」













S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<友と敵とハローとグッバイ>>


















「ここですね」
「カッ!これが世界一のギルド《GUN'S Revolver》。その本拠地の入り口ねぇ・・・・しけたもんだな」

ミルレスの最西端。
その崖。
崖沿いに軽くかかるつり橋。
そのつり橋を少し降りると、
洞窟。
小さな小さな洞窟。

「ま、隠れ家ですからね。隠れなきゃ意味ないですよ」
「隠れりゃいいのか?見栄ってもんはねぇのかねぇ
 俺だったら少し遊び心入れるぜ?"ここが隠れ家です"とか書いておく」
「それじゃぁ遊び心じゃ済まないですよ・・・・
 僕だったらこう書いておきますね。"公衆便所"って」
「カカッ!それじゃぁ全く入らないか駆け込まれるかどっちかだな」

洞窟の入り口。
アレックスとドジャーはその入り口をくぐる。
くぐる。
その表現が合うほど小さな入り口。
本当にただの洞窟。

「暗いな・・・・」
「怖いですか?」
「うるせぇ!」

入ると、
やはりただ暗いだけの洞窟。
ロウソクが点々とついているだけ。
夜のせいか本当に暗く、
湿っている。

「いきなり階段か」
「さらに降りるみたいですね」
「メンドくせぇ。敵ばっかの所を西へ西へ進んできたと思ったら、
 今度は誰もいない所を下へ下へってか?」
「また敵ばっかいるよりはマシですよ」

入ってすぐに暗い暗い階段。
細く、暗い階段。
それを降りる。
ドンドンと降りる。
まるで地獄に下りていくようなそんな感じさえする。

「・・・・・・」
「・・・・・・・・」

この感じ。
前にも感じた事がある。
そう。
ミダンダスの隠れ家に入った時だった。
あそこも暗く、長い階段だった。
こう見ると共通点はいくらでも見つかる。

数分。
いや、同じ風景ばかりだったので、
もっと長かったような、
それよりも短かったような。
時間の感覚が狂うような感覚に見舞われ、
さらに降りる。
そして

「ドアですね」
「見りゃ分かるっての」
「怒らないでくださいよ」
「怒ってねぇよ!」
「いーや怒りましたー!」
「怒ってねぇっての!」
「ほら怒ってる」
「・・・・・・・・」

こんな時にまでくだらない会話をする二人。
いや、無理矢理しているのかもしれない。

とりあえずドジャーがドアを蹴り開けた。

「小部屋か」
「見れば分かります」
「・・・・・コノヤロッ・・・」

小部屋。
暗くて分かりにくいが、大きな部屋ではない。
大きな机が一つ。
そして椅子が数個並んでいるだけ。

「多分・・・・会議室ですね」
「会議室だぁ?なんでそう思うんだよ。分かりやすく言ってみやがれ」
「だってほら」

アレックスが机の上に手を置く。
机の上。
そこには紙が数枚並んでいた。

「なんだこりゃ・・・・・・っておい!コレっ!!」
「なかなか有名人じゃないですか」

それは《MD》の賞金表(ブラックリスト)だった。
全員分の犯罪暦及び賞金などが表記されている。

「わぁ〜。こう見るとやっぱりチェスターさんの賞金が断トツですね。
 あ、ロッキー君が二番目だったんですか。
 って・・・お?ぉおお?・・・アハハハッ!!!ドジャーさんこう見ると賞金ショボッ!」
「な、なんだと?」
「ショボォーッ!」
「ショ、しょボいんじゃねぇんだよ!俺の犯罪は見つかってねぇだけだ!
 足のつかないようにスマートに罪を犯すのがエリートってもんだぜ?」
「あ、そうですか。コソコソやるのが趣味なんですね」
「クッ・・・・ああ言えばこう言いやがって・・・・」

アレックスはドジャーを見てクスクスと笑う。
暗い洞窟の小部屋に、
静かに笑い声が響いた。

「でも、なんか嬉しいです」
「あん?何がだよ」
「ほら」

アレックスが一枚の紙を手に取る。
それは・・・・自分の王国騎士団時代の経歴表。

「ここにあるってことは、僕もちゃんと《MD》の仲間って感じがして・・・」
「カッ・・・・・こんなもん見て喜びやがって・・・・・・・・・・・・恥ずかしい奴だなっ!!!!!!」

言うなり、
ドジャーは右手でその紙を振り払った。
アレックスの経歴表は、アレックスの手から吹き飛び、
冷たく湿った洞窟の地面に落ちた。

「何するんですか!」
「あんな」

ドジャーは顔を近づけ、
そして指でアレックスの鼻を押しつぶしながら言う。

「こんな紙きれなくともお前は仲間だ。OK?イヤっつってもそうなんだよ」

そんな事をマジメに言うドジャーが、
おかしくて、
嬉しくて、
アレックスは鼻をつぶされたままクスりとまた笑った。

「ケッ、それにここにはジャスティンの経歴がねぇ」
「え?」

ドジャーはアレックスから指を離し、
地面の紙を蹴り飛ばす。

「お前の理論だとジャスティンは仲間じゃねぇのか?ぁん?」
「ドジャーさん・・・それは・・・・・」

あまり考えてはいけないことだった。
タブーである。
今そんな事を考えてはいけない。
十中八九。
いや、間違いなくこの先にはジャスティンがいるであろう。
そして・・・・・戦う事にもなるだろう。
なのにドジャーは今、ジャスティンの事を仲間だとか考えている。
それは・・・・どこかで命とりになる。

「ドジャーさん・・・」
「分かってるよ!!!」

アレックスの一瞬の無言で、
ドジャーはアレックスがどう思っているのかも分かったようだ。
だが、何かまだ吹っ切れないのだろう。

「だが、俺は進むぜ。行かなきゃなんねぇんだ」

ドジャーはそう言い、
アレックスに背を向けたまま、さらに奥に向かった。

「ドジャーさん・・・・・」

アレックスは心配そうに聞く。

「どっちに?」
「へ?」

ドジャーが顔をあげる。
目の前。
それは分かれ道。

「こ、このやろっ!一本道にしとけよっ!」
「お・・・おちついてくださいドジャーさん!!」
「あぁもうクソっ!前にもあったなこんなん!いつだ!?ぁあ?いつだったか!?
 そうだ!《ハンドレッズ》の時もだ!右!左!分かれ道!」

あぁ・・・
旧ルアス城の階段を昇る時か・・・・

「あの時はたしか・・・・」
「俺は左」
「僕はお箸を持つ方に進みました」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「どうすんだよ」
「さすがに今回は分かれるわけには・・・・」
「じゃぁ左な」
「まぁいいですけど・・・・・」

考えても結果は一緒だ。
勘。
まぁそれしかないのだ。
とりあえず左。
アレックスとドジャーは左の道に・・・・・・

「そちらは違いますよ」

不意に後ろから声がした。
アレックスとドジャーは咄嗟に振り向いて身構える。
一人の男。
一人の男がいつの間にか机の上に腰掛けていた。

「ご機嫌ようジェノメン」

「・・・・・・・・ッ!」
「ピルゲンさん・・・・・」

ピルゲンはどこから現れたのか、
黒いハットを深くかぶり、
机に腰掛けて足を組んで笑っていた。

「あーあーあー。これはこれは。私が用意したブラックリストが泥だらけじゃございませんか」

ピルゲンはヒゲを伸ばしながら床の紙に目を向ける。

「ピルゲン!やっぱお前がっ!」

「いいえ。私は敵ではございません」

ピルゲンはヒゲをピンッとハネた。

「ただ・・・・味方でもございませんけどね」

「じゃぁなんなんだ!」
「ピルゲンさん。あなたは・・・」

「奥に進めば分かる事でございましょう。私は敵でも味方でもない。
 しかしながら・・・・・・助言ぐらいなら与えられます」

そういいながら、
ピルゲンは左の道を指差した。

「そちらはただの地下牢。エクスポ殿が捕らえられていた所ですな。
 まぁその他もろもろ部屋はございますがたいしたものがある道ではございません」

次にピルゲンは右の道を指差す。

「そちらが正しき道。真実への道でございます。
 待ち受けているのは・・・"楽しい友との絶望"でございましょう。
 ジャスティン殿はもう待ち疲れておられます。是非ともお早く足を向けてあげるべきかと・・・・」

「うるせぇ!!」

ドジャーがダガーを取り出す。

「まずテメェのヒゲを刈り取ってからだ!」

「それは・・・・・・無理でございましょう」

ピルゲンの目が少し怪しく光る。
と、同時。
アレックスとドジャーの目の前に・・・・・黒い剣が刺さる。
1・2・3・4・5・・・・・・・・
まるで部屋を二つに分かつように、
まるで鉄格子のように。
妖刀ホンアモリはアレックス達の目の前に突き刺さった。

これではピルゲンに近寄るどころか・・・
元の道へも戻れない。

「奥へ進みなさい。それで・・・・・全ては終わり・・・・全ては始まる。
 彼の言葉で言う所の"ハローグッバイ"・・・・でございましたっけ?」

そう言いつつ、
ピルゲンはマントを翻し、
背を向ける。

「今夜は良き夜でございます。血と悲しみに飢えた黒い夜でございましょう。
 月はまだまだ涙が欲しいと嘆いておられます。満ちたいとね。
 だからあなた方も・・・・・・・・・・・いい夜を(ハヴァ・グッナイト)♪」

そしてピルゲンは消えた。

「チッ!」
「行くしかないってことですね」
「カッ!最初から行くしかねぇんだよ!」

ドジャーは怒ったように、
いや、怒りながら先頭を切って歩き出した。
右の道。
そこはさらに下に続いていた。
ゆるやかに下る道。
細く、湿った暗い道。
ロウソクの光りにさえ暖かみをもらえない。
うねったような細く、長い道。

続く。
とにかく続く。
長い暗い道。
無音に近いその地獄道。
ドジャーは怒ったように先に進む。
その距離感もロウソクで分かりにくい。

そこを進みながら、
アレックスはボソりと言う。

「ドジャーさん。覚悟はできてるんですか?」

ドジャーは歩みを止める。
そして振り向く。

「テメッ!」

ドジャーはアレックスに掴みかかる。

「覚悟ってなんだ・・・・あん?!覚悟ってなんだ!?
 なんの覚悟だ?!ジャスティンを殺す覚悟か!?」
「そうです」

アレックスはハッキリ言った。
あまりにハッキリ。
そして真顔で言った。
逆にドジャーが押されてしまった。

「・・・・・ッ」
「ドジャーさんはフッきったつもりでいたみたいですけど、
 フッ切れてないですね。それは敗北に繋がります。
 ロウマさんにも教わったでしょう。自信安危は弱さに繋がります」
「クッ・・・・・・」

ドジャーは何を言っていいのか分からず、
手を震わせ、
だがアレックスから手を離さなかった。

「決意してください。心の底でまだドジャーさんは決意できてないです」
「分かったような口を利きやがって!」

ドジャーはアレックスの胸倉を引っ張りあげる。

「お前っ!お前は俺らがどれだけの間柄か知らないからそんな簡単に言えるんだ!
 あぁそうだ!たしかに俺はまだ迷ってんだよっ!だがな!
 "アレ"は親友だ!それを一回の過ちで手にかけられるほどっ・・・・・・・・」
「たしかに知りませんね」

アレックスはまた真顔で言う。

「ぼくはジャスティンさんの事を何も知りません。知らない人なんです。
 だからこうやって軽々しく言ってます。
 知らない人よりドジャーさんや《MD》の人達の方が大事ですから」
「うるせぇ!お前にとっちゃぁそりゃそうだが俺にとってはよぉ!」
「分かってます」
「・・・・・・・・・あん?」

アレックスは一度目をつぶり、
ため息をついた。

「分かってますよもう。だから最終的な覚悟をしてくださいって言ってるんです。
 僕だってジャスティンさんに死ね死ね言ってるんじゃないんです。
 まだまだ和解のチャンスはありますし、戦わないで済むならそれでいいです
 ただ、話し合いも無駄に終わった時・・・・・・・・・・・・ジャスティンさんは殺す気でくるでしょう。
 その時・・・その時は躊躇しないで下さい。さっきも言いましたけど・・・・」
「・・・・・・・・・カッ!」

ドジャーはアレックスから手を離す。

「俺は死なねぇよ」

ふと、
ドジャーがそう言い、
道の奥へと目をやる。
すると、
まるで用意されたかのように・・・・ドアがあった。

ドジャーはアレックスの方をもう一度振り向き、
そしてお互いに頷く。

ドジャーはダガーを手に取った。
決意の表れだ。

そして同時にドアを開け放った。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

広い。
広い空間だった。
地下とは思えないほど広い空間。
まるで体育館のような公園のような。
まるで外を思わすほどに広い空間。
天上も高く、
片端の壁には土壁の窓が数個あり、
月が見える。
そのため明るかった。

とにかく暗く広い空間だった。

「出会って10年。いや、20年か?」

夜なのに明るい空間。
広い空間。
その奥の影。

「何にしろ、俺らは子供心がついた頃にはもう一緒だったな」

男は鎌を地面に置いたままだった。

「あの頃は楽しかった。毎日が楽しかった」

男は横に女を連れ、肩で抱いていた。

「一緒にいるのが当たり前だったよな。
 それでもって・・・・いつから会わなくなったんだろな」

男は綺麗な長髪を一度なびかせ、
整った顔で笑顔をこちらに向ける。

「昔、メッツと三人で誓った事を覚えてるか?」

男は鎌を、
サバスロッドを拾った。

「桃園の誓いの真似事だよ。俺が好きな話でさ。お前らに無理矢理やらせたんだ」

男は鎌をかざす。

「俺達三人。生まれた時、生まれた場所は違えど・・・・
 死ぬときは同じ年、同じ月、同じ日・・・・そして同じ場所で・・・・・・」

男は鎌をかざしたまま、
小時間そのままだった。
そして、
思い立ったように、
鎌を持っていた方の手をプラーンと垂らし・・・・・
軽くうつむいた。

「思いってのはうまくかみ合わないもんだな」

男は今度はうつむいたままだった。

「俺は勝手に夢を追いかけて、勝手にお前らの前からいなくなって。
 そして気付いたらお前らの敵になってた」

男は鎌を握りなおす。
そして真っ直ぐこちらを見据えなおした。

「だが、俺は止まる気はない」

男はまっすぐこちらを、
いや、ドジャーを見据えたまま続ける。

「今更だし、今言うのはおかしい。俺達は敵同士で、今から殺し合いをする。
 会わなければ戦ってなかったかも。会わなければ俺の手で殺さなくて済んだかも
 けど・・・・・・・だけどあえて・・・・・今だからこそあえて言わせてくれ」

ジャスティンは微笑んだ。

「ドジャー。会えてよかった」

仲間の笑顔に、言葉に、
ドジャーはふいにダガーを落としてしまった。

「ジャスティン・・・・俺は・・・・俺はお前を・・・・・」

「だが、過去の話。思い出話だ。俺は今日言ったよな」

ジャスティンは鎌を一度ブンッと振り、
ドジャーに突きつけた。

「絶交・・・・・もう友とは思わないってな」

ジャスティンはもう笑顔ではなかった。

「会えてよかったってのは本当だ。別れを俺が告げられるからな。
 だからこの手を持って・・・・お前を断ち切る。ハローでグッバイだ」

「ジャスティン」

ドジャーは歯を食いしばる。

「もう、"退いてくれ"とは聞かないんだな」

「ドジャー。前にそれは最後だって言ったはずだよな。
 そして・・・今退くやつは俺の知ってるドジャーじゃない。
 聞かなくたって分かる。言うだけ野暮。そうだろ?」

ドジャーの事を、
友の事をあまりによく知る人物。
いや、知りすぎている人物。
ただ、
ただすれ違っただけ。
その二人が対峙している。

「あぁそうだな」

ドジャーはダガーを拾う。
そして痛いほどに握り締めた。

「やるか」

「あぁ」

ドジャーは全身の力を込めて飛び出した。



                 






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