「どこまで行ってもウジャウジャいやがるぜ
 なんだこいつら。どっから沸いてるんだ?アリか?巣穴か?」

ドジャーは走る。
GUN’Sの1500の群集の中を・・・
といってもすでに1000も残っていないだろう。
だからといって大軍隊には変わりない。
その中を、立った一人の盗賊が、
人を掻き分け走る。

「ってか空・・・すげぇな。あれがフレアのメテオか」

降り注ぐメテオ。
無数のメテオが落ちてきては地面に直撃し、
GUN’Sの男達をフッ飛ばしている。
あっちで落ちたと思えばそっち。
こっちで落ちたと思えばすぐそこにメテオが落ちる。

「カッ、まるで世界の終わりだな。天変地異ってやつだ。
 まぁ今日で世界の行方が決まる事に違ぇねぇから皮肉なもんだ。
 ・・・・・・ってうっわっ・・・またインビジ切れてらぁ」

走りながらドジャーは気付く。

「やっぱ俺ぁインビジ系は苦手だな。長く持たねぇ。
 カッ、まぁどっかの変態が犯罪目的で作ったようなスキルだ。
 俺の称には合わねぇってこったな」

そんな事を言っているが、
散々今まで犯罪の限りを犯してきた男の言葉ではない。

「ま、俺にゃぁこの素早しっこさがあんだ。
 手も早けりゃ足も速い。スマートでクールでカッコイイってか?」

つっこむ者がいない事に好き勝手言うドジャー。

「ま、コソコソしなくたって単体で突破くらいできるんだよっ!よっと!」

ドジャーはジャンプ。
飛び上がる。

「よっほっやっ!っと」

身軽なドジャーはなんと。
敵の頭を踏みつけて走り出した。
敵の頭や肩を踏み台に、
GUN’Sの群集の上を走る。

「カカカッ!こっちのが抜群に早ぇや!」

「むぎゅっ」
「がっ・・・」
「痛っ!」

敵の頭を踏みつけ、
ドンドンと走るドジャー。

「カカッ!お前らの頭は踏みやすいなぁオイ!
 頭空っぽの石頭ってのは人に踏み台にされやすいんだぜ?」

そう言いながら、
人の海の上を走る。
飛び跳ねる。

「ん?」

人の上を走りながら、
目線の先に見えたもの。
いや、見えなかったもの。

「先が無い?崖?ミルレスの端?いや・・・橋・・・・
 ヘッ!とうとう来たか!GUN'Sの本拠地!とうとう突破ぁ!・・・・・・ぁ?」

不意に、
ドジャーは左肩に違和感を感じた。
なにか叩かれたような。
いや、
そんなはずはない。
人の頭の上を、
人の波の上を高速で走っているのだ。
そんなはずはない。

「こっちやで♪」

「!?」

ドジャーの右。
そこに併走している一人の男。

「走りっぱなしで疲れたやろ?ここらで休むとしようやないか!」

「ぐぁっ!」

殴られた。
棒?
いや、ライフルで殴られた。

ドジャーは人の群れの中に落ちる。
高速移動中だからこそ勢いよく吹っ飛び、
地面を転がる。

「クッ!てめっ!」

ドジャーは飛び起きる。

「ほれほれ、お前らどかんかい!」

その声で、
人の群れに道が出来る。
GUN’Sの者達が下がっていく。
メテオの落ちるのこの場。
ドジャーとその男を中心に、
空間ができる。

「・・・・・エンツォ?」

「覚え取ったかドジャーはん。嬉しいこっちゃで」

「カカカッ!!そりゃ覚えてるさ。あれだろ?かませ犬だろ」

「ふん。ドジャーはん。口が悪いは災いやで?」

エンツォはライフルを右手で回す。
ぐるんぐるんとライフルを回した後、
右手に収め、
銃口をドジャーに向ける。

「せやけどな、わいからしたら本当に再びあんさんとこうして対峙するんを楽しみにしとった。
 どうやったってあんたに敗北を味合わせたらな・・・・・・・・・虫が治まらんへんからなぁ」

「ククっ・・・復讐のために舞い戻ってきてったかぁエンツォ?
 地獄のソコから戻ってきたっていうよりは虫が這い戻ったって感じだけどな」

「復讐?・・・・フフッ・・・アホかボケェ!リベンジのチャンスを与えとるんわわいの方や!」

エンツォの細い細い狐目が、
少しだけ開かれ、ドジャーを睨む。

「あんさんあれでわいの勝った気でおるんとちゃうか?ぁあん?せやろ?
 前ん時はあの騎士はんがおったからあんな展開になった!それだけや!
 わいは世界最速や・・・・・・わいに負けなんざあらへんのや!
 だからリベンジの機会与えてるんわわいの方。負けを味わうチャンスをくれてやんねや!」

「カッ・・・」

ドジャーは笑う。
腰からダガーを両手に取り出しながら笑う。

「お門違いもホドがあんぜ?なんで俺と再戦なんだ。
 頼んでもねぇし、金もらったって受ける気もねぇな。
 お前はアレだろ?その傷はロウマにやられた時のだろ?
 ならなんでロウマにリベンジをきめやがらねぇんだ?」

ドジャーがダガーを突き出す。
それはエンツォの半身。
左半身。

「・・・・ククッ」

エンツォは細い目で自分の左半身を見る。

「せや。これはロウマにやられた時に出来た傷や。
 お陰で左手はもう使い物にならへん。見てみぃこのザマ」

エンツォが自分の肩を揺する。
すると、エンツォの左手はプランプランと無造作に揺れた。

「こんなんもう手やない。飾りや飾り。
 紫色になってきよるしもう腐りかけっちゅーこっちゃろな。
 それに顔もや。左目見てみ?潰れとるやろ?もう見えへんねや
 左耳もやな。鼓膜も再生せぇへんし、器官の半分壊れたよぉなもんや」

ロウマにやられ、
多大なダメージを受けたエンツォ。
左半身がまるごと使えなくなったという事らしい。

「カカカッ!目ぇが潰れただぁ?
 お前の目なんて最初から細くて見えてんのか分かんねぇっての!
 なにその細ぇ目!常時見える景色はハイビジョンってか?」

「じゃかましぃわボケェ!!!」

怒りと共に、
エンツォがライフルを発砲した。
音速の弾丸は、
ドジャーの背後の敵を撃ち殺した。

「あんさん分かってるんかいな・・・・あんさんは今から死ぬんや・・・・
 目の前にはあんさんがどうやったって超えられへん壁が立ってんねんぞ?」

「どこにだ?いい景色だぜ?メテオ降りしきる夜空しかねぇ」

「その根性が分かってへんってことやな。
 えぇかドジャーはん。左半身が壊れた言うても・・・・・・・・足は健在や」

エンツォが左足でガリッと地面を少し蹴る。
砂を蹴り飛ばした。

「分かりまっか?わしの才能は未だ消滅してへん。
 この世界最高の足と!ライフル撃てる右手だけありゃぁ十分や!
 あんさん殺るにゃぁツリがくるってもんやで!」

エンツォがトォーンと、
一度ジャンプした。

「えぇか?とらえられんもんには・・・・・・・・なんも通用せんのや・・・・」

エンツォが軽いジャンプから着地した・・・・
と思った瞬間。

「ほないきまっせぇ」

エンツォが・・・・・・・・・消えた。
瞬間的にいなくなった。

「!?」

ドジャーが見回す。
いない。
どこにもいない。

「どこ行った!!」

「それや。それが差や」

後ろから、
いや、ブレたような声がどこからか聞こえた。

「あんさんはわいのスピードをとらえきれへん」

今度は前から声?

「その時点であんさんは負けている」

いや、左から?

「圧倒的な差」

右?

「それは"才能"の差や」

上?

「だからあんさんの負けや」

後ろから声。
今度は間違いない。
声と共に・・・・・
ライフルの冷たい銃口の感触がある。
ドジャーの後頭部に・・・・・
背後からエンツォがライフルを突きつけている。

「3度目・・・・やったかな。あんさんにこうするんわ。
 いや、4度目?あー・・やっぱ3度目やったかなぁ・・・なぁ、どっちやったか?」

「・・・・・・チッ。さぁな。俺は3以上の数字が数えれないもんでよ」

「ほんとにふざけたやっちゃなあんさん・・・・わっ!」

「ッツ!」

エンツォがドジャーを蹴飛ばす。
ライフルの銃口をドジャーに向けたまま蹴飛ばす。

「三度や・・・三回目や!あんさんはわいに命を握られてんねん!
 あんさんは実質わいに三回殺されてるんやで!」

「カカカッ!」

ドジャーは笑う。

「おかしいな。俺は生きてるぜ?色男は健在だ」

「なら死んで後悔しぃや。・・・・・・・・・・・ほなさいなら」

今までとは違う。
命令でもなんでもなく。
ただエンツォはドジャーを殺しにきている。
だから・・・・
躊躇無く引き金をひいた。
後頭部に突きつけられたライフル。
0距離。
マズルフラッシュが輝く。
弾丸が・・・・・・撃ち込まれる。

「!?」

いない。
ドジャーがいない。

「アホなっ!」

今度は逆。
ドジャーがエンツォの視界から消える。
高速移動。

「ちぃ!誘ったんか!わいを挑発して撃つタイミングを狙いおったな!」

「当たり♪」

どこからかドジャーの声。

「そんでもって・・・・・・くれてやらぁ!」

ヒュンッという音。
何かがどこからか飛んでくる。
それはエンツォの足元に刺さった。
ダガー。
ダガーがエンツォの足元の地面に刺さる。

「今一回死んでたぜ?」

どこからかドジャーの声。
それに対し、
エンツォは怒りに震える。

「なめおってからにっ!・・・・・わいより・・・・・・・トロぃくせにっ!!!」

エンツォも地面を蹴って走り出す。
跳び出す。

メテオの降る夜のミルレスのはずれ。
人ごみの中、
ドジャーとエンツォ。
二人の盗賊が高速移動を始める。
跳ぶ。
走る。
二人の速き男が、
そこら中を高速で走り回る。
ヒュンヒュンと空気をかすめる。
周りの男達には二つの残像が動いてるようにしか見えないだろう。

「・・・・カッ!見える!見えるぜ!」

高速で走り回るドジャー。
そのドジャーにはエンツォの姿が・・・見えた。
自身も高速で移動しているからこそか、
エンツォが高速で移動している姿がギリギリ確認できる。

「やっぱ俺のが遅いか・・・だが範囲内だっ!」

ドジャーは自信を持つ。
エンツォよりはたしかに遅いが、
それでもついていけている。
それが生み出すのは自信。
才能面で・・・・負けてはいないと。

「そこだろっ!」

ドジャーがダガーを投げる。
高速移動しながらのダガー投げ。
エンツォの移動を予測して投げる。

「当たりや!・・・・・せやけど・・・・トロいわっ!!」

一瞬エンツォの周りに風が舞い上がる。
そう思うと、
エンツォのスピードが上がる。
ダガーは外れ、
その辺の男の頭にスコォンと刺さった。

「チッ!ブリズかっ!」

エンツォの速度が上がった。
そのせいで・・・・目視できなくなった。
速い。
予想以上に速い。
これが世界最速のスピード。
風を追い抜き、
目がついていかないスピード。
まるで見えない風を目で追おうとしているかのように思えた。
見えない。
速すぎてエンツォの姿が見えない。

「死ねやっ!」

パンッパンッ!と銃声。
どこからかの銃声。
相手の位置は速くて見えない。
だが、エンツォからは当然ドジャーが見えているのだろう。

「クッ!」

ドジャーはどこから撃たれたのかは分からないが、
とりあえず体をひるがえす。
ズザァーと地面に滑ると、
地面に二発の銃弾の跡が見えた。
たまたま避けたようだ。

「ボォーっと突っ立ってると死ぬでぇ!!」

また銃声。
とりあえずドジャーはまた勘で避けるしかなかった。
横っ飛び。
痛くないということは、またなんとか避けたようだ。

「チィっ!俺も本気出していくぜぇ!」

ドジャーの周りにも風が舞い上がる。
ブリズウィク。
速度をあげるスペル。
つまるところ・・・・・・・

ドジャーの最大速度。
自身の才能の限界。

「俺も負けられないってんだよっ!!!」

ドジャーも走り出す。
跳びだす。
自信の最高速度で。
風を抜き、
他人には目で捉えることのできぬ速度。
自身の限界・・・・・・・MAXスピード。
弾丸よりも、
音よりも速いその速度。

「・・・・・・イケる・・・イケるぜっ!!!!!」

見えた。
見えるのだ。
エンツォの動きが、
高速移動しているエンツォの動きがなんとか見える。
捉えられる。

「やるやんけ・・・・」

エンツォの方が速い。
ドジャーの方が遅い。
だが、
たしかに目で捉える事ができる。
そして・・・・
ついていけている。
相手の方が速くとも、
負けを認めるほどの差ではない。

「ハハッ!どうだエンツォ!!俺だってアクセル全開にすりゃぁこんなもんなんだよぉ!」

ドジャーは走りながら両手にダガーを取り出す。

「負けてねぇ!俺は負けてねぇぜ!!」

走りながら投げるダガー。
ドジャー自身が高速で移動しているため、
ダガーの速度も速い。
二本のダガーがエンツォを襲う。

「ちょーしこいてまんな!」

エンツォは軽く避ける。
高速移動しながらヒュンヒュンと動きを変え、
ダガーなどたやすく避ける。

「あんさんは負けを認めんとあかんねや!
 わいが一番速いっ!速いやつが強い!速いやつが一番なんや!」

銃声。
エンツォから発射される銃弾は、
風を切り裂き、
ドジャーを襲う。
それをなんとか避ける。
いや、たまたま当たらなかったというべきか。
ドジャーの髪元を突き抜けて銃弾は外れた。

「しゃらくせぇ!」

ドジャーが高速移動をしながらダガーを投げ返す。

「誰に口聞いてんねや!」

エンツォが同じくライフルをドジャーに向けて撃つ。

「テメェに決まってんだろ細目野郎!」

ダガーを投げ返す。

「あんさんより早いゆうことはわいのが偉いゆうこっちゃで!」

ライフルを撃ち返す。

ドジャーは高速移動しながらダガーを投げ、
エンツォは高速移動しながらライフルを撃つ。
投げ、撃ち。
撃ち、投げ。
他人から見たら見えないところでダガーと銃弾が飛び交っていうように見えるだろう。
ヒュンヒュンと閃光だけが飛び交い、
ヒュンヒュンと残像が飛び交う。
エンツォかドジャーか、
ダガーか弾丸か。
景色の中、見えないほどのスピードのものだけが、
そこら中に直線を描いていた。

「ちょこざいやっちゃっ!」

「遠慮しないで当たってろぉ!!」

外れたエンツォの弾丸とドジャーのダガーは、
巻き添えで周りの男達に当たりまくっていた。
だが、
それを止めることのできるものなどいない。
ここにいる他の誰もが、
彼らよりも遅いのだから。

「一進一退だなっ!シーソーゲームってやつか!?」

「ちゃうなっ!別に押し押されつやないからなっ!使い方がちゃうわっ!」

「暴走族あがりのくせに言葉に詳しいじゃねぇか!」

「学の無いあんさんら99番街生まれたぁちゃうからな!
 まぁジャスティンはんは頭えぇから少し見直しとるでぇ!」

「"だけどわいより遅い"・・・・だろ?」

「その辺がなまいきなんやでぇ!」

「じゃぁ・・・もっとなまいきに行ってやらぁ!」

ドジャーはエンツォの弾丸が外れたのを確認すると・・・・
高速移動の方向を変えた。
それはエンツォの動きを予測した動き。
そう、
ドジャーはダガーは投げず、
そのダガーを握り締めたまま・・・・・エンツォへと突っ込んだ。

「終わりだ!直接ご馳走をくれてやるっ!」

ダガーを突き出す。
エンツォに向けて。
真っ直ぐ。
高速移動をしながらも真っ直ぐ。
ダガーをエンツォに突き出した。
不意を付かれたエンツォ。
ドジャーのダガーはエンツォに・・・・・・・

「!?」

ドジャーは驚きを隠せなかった。
エンツォが・・・いない。

「クッ!」

ともかくドジャーは高速移動を再開する。
走る。
走り回る。
だが・・・・
エンツォがいない。
見渡してもいない。

「あれがわいの本気や思ったか?」

どこからか声が聞こえる。
どこからか分からない。

「さっきまでのは・・・"ウインドウィク"や♪・・・・そんで今・・・ブリズウィクを使こうた」

「ん・・・だとぉ・・・・」

ドジャーは移動しながらも・・・信じられなかった。
いや、信じるしかなかった。
もう・・・エンツォの姿を確認できない。
速い。
速すぎる。
何も見えない。

「分かるか?これがあんさんとわいの違いや。わいがあんさより優れているいうこっちゃ!」

自分の周りで、
走り回り、空気をカっ切る音だけが聞こえる。
見えないほどの速さで、
自分の想像以上の速さで、
エンツォが周りを走り回ってる事だけが分かる。

「絶対に捉えられんスピード!それに対してあんさんは無力や!
 どうしようもないやろ!速い事は強さ!無敵の強さなんや!
 触れられないものっ!速さとは届かない力!最速の前には全ては無力でっせぇ!!!」

どこからか銃声が聞こえる。
外れた。
だが、ドジャーは避けもしなかった。
たまたま当たらなかっただけ。
ドジャーは・・・・絶望していた。
この・・・速さの・・・力の差に。

「あんさんはたしかによぉやったわ・・・・・・・あんさんほどの速さをもった男は今までおらなんだ。
 やけどあんさんのスピードが"音速"やとしたら・・・・わいは"光速"や。
 あんさんはNO.2の男やった。ただ・・・・・・ただそれだけや!」

また銃声。
今度は・・・・・当たった。
ドジャーの肩に穴が空く。
前から撃たれたのか、
後ろから撃たれたのかも分からない。
とにかく撃たれた。
だが、ドジャーはうめき声をあげない。
ただ肩に銃弾が直撃し、
体勢を崩し、
地面に転がった。

地面に手をつきながら・・・・
ただドジャーは絶望していた。

              ・・・・いつか"才能の上回った奴"と出会って・・・・負ける。それだけだ・・・・・・・

《メイジプール》のキューピーの言葉が頭によぎる。

                俺らみたいな奴同士が"カチ合った"場合。
              才能VS才能・・・・・それは結局"才能の強い奴が勝つ"。簡単な方程式だろ?

「簡単な方程式だな・・・キューピー・・・・」

ドジャーは地面に腕を叩きつける。
悔しい。
だが、どうすることもできない。
速度。
つまり才能。
その面でエンツォは自分よりどれだけも上だ。
つまり・・・・・・勝てない。
勝てないのだ。

「俺は勝てないんだな・・・・どうやったって・・・・・・
 クソッ・・・・俺はこんなとこでくたばるのか・・・・・・・・
 GUN’Sの本拠地は目の前だってのに・・・・・・
 どうやったって・・・・・俺は負けるわけにいかねぇのに・・・・・・」

地面の砂を握り締める。
前にエンツォに勝てたのはアレックスがいたから。
だからだった。
そう思うと悔しくて、
自分の無力さを呪い殺したくもなる。

                 熱くなりすぎです。考え方が悪い方に行ってますよ。

「・・・・・あん?」

アレックスの声。
昔言われた事。
いや、エンツォの以前戦った時、
アレックスに言われた事。

                 ドジャーさんよく言ってるじゃないですか

「・・・・・なんて?・・・俺はいつもなんて言ってる・・・・」


                 大事なのは最後に立ってるかどうかだって


「・・・・・・・・・・」

ドジャーの感情が止まる。

「・・・・・・そうだったな」

・・・・・目が覚めた。
頭の中で浮かんだアレックスの声。
それを聞くと、ドジャーは目が覚めた。

「・・・・・・カカッ!頭ん中でまでおせっかいな奴だ!ごく潰しのくせによぉ!」

ドジャーは立ち上がる。

「そうだ。大事なのは結果だ。それ以上もそれ以下もねぇ!
 なんで俺は結果も出てねぇのにこんなとこで這い蹲ってる!
 アホか!俺はアホかっ!今の世の中、こういうアホが死ぬんだっての!
 俺はそんな負け犬のアホなのか?違うっ!俺は違うんだ!」

ドジャーはついでに何かを思い出し、
懐から何かを取り出す。
小瓶。
それのフタを親指で空け、
中身の液体を一気飲み。

「諦めたんやないんか?ドジャーはん?」

どこからかエンツォの声が聞こえる。
高速移動中のエンツォ。
全く捉えることのできないスピードの中から、
ドジャーに声をかける。

「カッ!諦めは悪いほうでな。ついでに言うと・・・・・・・」

ドジャーは走りだす。
跳びだす。

「負けず嫌いでなぁ!」

またも高速で。
自身の最高速度。
己の才能の全て。

「何度やっても同じや!しかもさっきよりわいのスピードは速いんや!」

だが、驚いたのはエンツォの方だった。

「なっ・・・・なんやてっ!?」

「さっきより速いのはお前だけだと思うなよ?」

ついていっている。
エンツォのスピードに・・・・
見えもしなかったエンツォのスピード。
ブリズウィクを使ったエンツォのスピード。
それに・・・・ついていっている。
いや、
同じぐらいのスピード。
互角。
光速と光速。

「馬鹿なっ!あんさんの最速はさっきまでのスピードのはずや!
 あれ以上スピードは出んはずっ!やのに・・・・」

「あぁ。あれが俺の限界だったさ」

ドジャーはそう言いながら、
エンツォと同じスピード。
光速のスピードで走りながら言う。

「たしかに才能。その面・・・・それではお前の勝ちだぜエンツォ。
 だがよ。俺は勝てばいい。勝負に勝てばそれでいいんだ。
 お前自身に勝とうと固執しすぎてたぜ。勝てばいいのによ」

「だから・・・なんでやっ!なんでわいのスピードにっ!」

「速度ポーションだよ」

「!?」

「速度ポーション(クレイジー)。昔闇市場で買った秘伝のやつを持ってきてたんだ。
 まったく忘れてたぜ。まぁ高かったんで使うつもりは無かったしな。
 だけどよ。これの効果は・・・・ブリズなんかの比じゃねぇ!」

エンツォの顔がひきつる。
イラつきでひきつる。

「アホンダラかあんさんっ!そんなもんで強くなった気か!?
 それはあんさんの才能やないっ!そんなもんで・・・・・」

「だから言ってるだろ?俺は・・・・・勝ちゃぁいいんだ!」

「チィっ!」

エンツォはライフルを撃つ。
一回・・二回・・・三回・・・・
何度も撃つ。

「馬鹿馬鹿しぃ!それでもあんさんのスピードはわいと同等!
 それで勝った気になってんなや!」

撃つ。撃つ。撃つ。
エンツォはイカれたようにライフルを撃ちまくる。

「わいはっ!わいは世界最速やっ!わいが一番速いんやっ!
 《暴走☆流れ星》のGM(ヘッド)やっとる時もそうやったぁ!
 わいが一番速いから!わいが誰よりも速いから!他の奴は後ろについてきてたんやっ!
 わいが一番速いからっ!誰もわいの前を走る事はできへん!
 わいが最速なんや!わいの前には誰も走らせへんっ!!!」

ライフルを撃つエンツォ。
それも無残にドジャーをはずれていく。

「一つ言い忘れたぜ」

ドジャーが笑う。
もちろん高速移動中ゆえ、
エンツォにも、他の誰にもその笑顔は見えなかったが、
ドジャーは笑う。
そして言う。

「俺はお前より速くなれるぜ?」

「ほざけっ!」

エンツォが撃つ。
撃ち抜く。
その弾丸は素晴らしい軌道を描いた。
つまるところ・・・ドジャーを直撃する軌道。
だが、

「なっ!」

そこにドジャーはいなかった。

「馬鹿なっ!」

エンツォは周りを見渡す。
だが、いない。
いない。
ドジャーを目で捉える事はできない。

「ビビったか?"世界最速"さんよぉ」

エンツォはドジャーを目で捉えることができない。
どう見ても、
どう走っても、
エンツォにドジャーが見えない。

「自分より速い相手は始めてかい?」

「ふざけん・・・・」

不意に・・・・・
エンツォのバランスが崩れた。
吹っ飛ばされている。
エンツォは自分が吹っ飛ばされている事に気付く。

高速。
いや、光速の中で動いていたせいか、
まるで時が止まっているかのように感じた。
吹っ飛ばされながら、
ゆっくりに見える周りの景色。
そこに・・・・

自分の左腕が浮いている。
紫色の役立たずの左腕が。

「ぐっ!」

エンツォが地面に叩き付けられる。
そして、少し後に自分の左腕が落ちてきた。

「馬鹿な・・・・そんなことあるわけあらへんっ!ありえへんっ!」

エンツォがわけもわからず叫ぶ。
地面に腰を落とし、
両手を地面に落とし、
ただ叫んだ。
そんなエンツォの前に・・・・・
ドジャーが立っていた。

「そ♪・・・そんなわけはねぇよなぁ」

手元でクルクルとダガーを回し、
そしてドジャーはダガーを下のエンツォに向けた。

「悪ぃ。ウソついたわ。俺ぁお前より速く動いてねぇ」

「?!・・・・せやけど・・・・・」

「インビジだ。騙して悪ぃな。途中からはただインビジしてただけなんだよ。
 速くて見えなかったんじゃねぇ。"見えないから見えなかった"んだ」

「・・・・・・・クッ」

エンツォの目に怒りが篭る。
唯一動く右目。
細いその目に怒りが篭る。
そして・・・・

「やっぱりわいが最速やんけぇ!!!!」

ライフルをドジャーに向けた。

「っと!!!」

それに対し、
ドジャーはエンツォに飛び込む。
ライフルの弾丸は外れる。
そして・・・・

「カッ!気色悪い体勢になっちまったな!」

ドジャーは、エンツォの上に腰掛けていた。
マウントポジション。

「男に乗っかるのは初めてだぜ。できれば記憶から消したい現実だな」

「クソッ・・・わいが・・・・わいが・・・・」

「世界最速?聞き飽きたぜ。だからお前が世界最速でいいっての。
 だが、勝つのは俺だ。お前まもうツんでるぜ?
 この体勢でなにが最速だ。身動きも出来ないのに速さなんて関係ねぇ」

「調子のんなやぁ!!!」

エンツォがライフルを、
右手のライフルをドジャーに瞬時に向ける。
この至近距離で、
それはドジャーの頭蓋を確実に狙っており、
そして引き金を・・・・・

「お前はもう負けてんだよっ!!!」

ドジャーは左手のダガーを横に振り切る。
そのダガーは、
エンツォの右腕を・・・・・・・・・・・・・切り取った。
だが、エンツォはもう0距離で引き金を引いていた。
だがエンツォの放った至近距離の弾丸は、
ドジャーの頭蓋をわずかに外れ、
ドジャーの耳の下。
ドジャーのピアスを砕いた。

そして・・・・・・・
エンツォの右腕は横に吹っ飛んだ。
ドジャーの耳の割れたピアスが舞う中、
エンツォの"最後の腕"がライフルを握ったまま宙を舞った。

「腕ぇ!わいの腕がぁぁああ!!!」

「わめくんじゃねぇよ!お前は足さえありゃぁいいんじゃなかったのか!」

「クソォ!クソッタレぇぇええ!!!!!」

両腕のないエンツォ。
さらにマウントポジションをとられていては、
もうわめく以外にできる事はなかった。

「さぁ・・・終いにしようぜ」

ドジャーがダガーを握る。
一本のダガー。
たった一本のダガーを、ドジャーは両手に握り締める。

「わいが死ぬはずがないっ!わいは世界最速やっ!
 負けるはずがないっ!あんさんなんかに負けたらわいは・・・・・」

「負けたらなんだ?まぁいいか。負けた後に教えてくれや」

ドジャーは両手に握り締めたダガーを振り上げる。

「わいが負けるはずがないっ!!わいが世界最速っ!
 速い事は強さっ!速いことは正義っ!速いやつに全てがついてくるっ!
 だからわいが死ぬはずないっ!速いもんが死ぬはずがないんやっ!
 絶対っ!絶対殺してやるっ!地獄に行ってもまた殺しにきたるっ!
 あんさんの事は死んでもっ!死んでも忘れんでぇ!!」

「できれば忘れてくれや」

「わいは『036(ゼロスリーシックス)』!!!!
 0,36秒(まばたき)の・・・一瞬の世界での支配者やっ!
 わいはっ!わいはいつまでも瞬き(まばたき)のっ!マブタの後ろにっ!」

「分かったって・・・のぉ!!」

ドジャーがダガーを振り下ろす。
真っ直ぐ。
真っ直ぐ。
エンツォの胸の真ん中に突き刺す。

「うぼっ・・・ほっ・・・」

エンツォの口から血があふれ出す。

「ぼっ・・がはっ・・・・わいは速い・・・・・ほれ見ぃや・・・・
 真っ暗な世界や・・・・これがまぶたの裏の世界や・・・・・
 何も見えん・・・見えないもんこそ・・・・捉えられないもんこそ・・・・・
 ・・・・・・・・・・最速で・・・・・・・・・さいきょ・・・・・・・・」

「じゃぁな」

ドジャーは、
エンツォの胸に突き刺したダガーを・・・・・抜き取った。
力強く抜き取るダガー。
と同時に・・・・

エンツォの胸から噴水のように血が噴出す。

「ほれ見ろ」

ドジャーはエンツォから離れ、
血まみれのダガーをはらい言う。

「最後に立っていたのは・・・・俺だったろ?」


夜空の下、
メテオ降りしきるその景色を背景に、
ドジャーはダガーを回転させ、
そして腰に収めた。

もう周りの敵達も、
ドジャーを襲ってくる勇気は無かった。

「ドジャーさんっ!!!」

向こうの方から、
人を掻き分けて走ってくるアレックスが見える。

ドジャーはまた「別にたいしたことはなかった」といったナマイキな表情で、
血まみれの右手をアレックスへ翳(かざ)した。



そして・・・・・


すぐそこには《GUN'S Revolver》の本拠地の入り口があった。









                 






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