「クソッ!どけっ!どけカスども!燃えてどけぇええ!!!!」

ダニエルは人ごみをかきわけ、
炎を撒き散らしながら逃げに逃げる。

「ハァ・・・ハァ・・・・クソっ・・・・・」

逃げながら後ろを振り向く。
そこには三つの影。

「参る」
「応!」
「・・・・・承知」

「しっつけぇんだよっ!!!!」

3っつの斬首台が
カプリコソードを振り回しながら追ってくる。

「クソォ!燃えろよテメェら!」

ダニエルは逃げながら両手を広げる。
広げた両手の上に炎が浮かぶ。
1・2・3・・・・・・・・6。
6つの炎の球。
ファイアビット。

「アッツアツのでも食らってなぁぁああ!!」

ダニエルが後方にファイアビットを射出。
6っつの火球は、
それぞれが別の生き物のようにカプリコ三騎士を襲う。

「ふん」
「甘ぇ!」
「・・・・・・くだらん」

カプリコ三騎士は、
ダニエルを追う勢いのまま同時に跳んだ。
小さなカプリコの体が夜の暗闇に舞い、
それを照らし襲う6つのファイアビット・・・・・・・・は・・・
一瞬。
三騎士が同時に一閃。
3つのカプリコソードが一振りされたと思うと、
6つの火球は空中で12個にわかれ・・・・・・虚しく爆発した。

「・・・・・・ヒ・・・・ヒャハハハ!!!・・・・・めんどくせぇ奴らだ!
 何やったって効きやしねぇ!・・・・このダニエル様も今日が命日かもなっ!」

そう自分に皮肉を言いながらも、
ダニエルは必死に逃げた。
必死。
ダニエルにはあまり似合わない姿でもある。
だが汗水を撒き散らし、
炎で撒き散らし、
ダニエルは必死に逃げる。

「絶対ぇ!ぜってぇ逃げ切ってやらぁあああ!!!!」

「・・・・・・・無理だ」
「ここまでだぜっ!!」

突然、
ダニエルの目の前に大きなカプリコソードが突き刺さる。
目の前の地面にXの字に突き刺さる二本のカプリコソード。
アジェトロとフサムが死の通せんぼ。

「げっ・・・・やべぇ・・・・」

「終わりだ。憎き人間」

背後から足音。
そして殺気と剣を突きつけられたような感覚。
恐らく背後でエイアグが剣を突きつけている。

「・・・・ヘヘ・・・・・こりゃマジデッドエンド?・・・・・・」

ダニエルはしょうがなく両手をあげる。

「観念したようだな人間」
「だが手をあげても無駄だ」
「・・・・・・お前に降参などない」

アジェトロとフサムもダニエルに剣を突きつける。

「お前は死ぬ」
「死ななきゃなんねぇ」
「・・・・・・消え去った同志達のために」
「お前は多くのカプリコを燃やしすぎた」
「我らの故郷を消し去った」
「ノカンとの因縁に横槍をいれた」

「・・・・ッハハ・・・・勘弁してくれよな?謝るからよぉ」

「ふざけるなっ!!!」

エイアグが背後から怒りの一振り。

「・・・・ガッ・・・」

ダニエルの背中に大きな一本の傷。
まるで背中を切り開いたかのような大傷。
傷から血が噴出す。

「・・・・・・・てぇ・・・・なぁ・・・ヒャハハ・・・」

ダニエルは倒れない。
人によっては致命傷となる傷。
背中から大量の血が垂れ流れているのだ。

「・・・・・・・え〜・・・・なにぃ?・・・・・・・やっぱ俺・・・・・・ここで死んじゃう?」

「あぁ死ぬ」
「殺すからな」
「・・・・・・・我らがな」

三騎士はまたダニエルを囲む形で剣を突きつける。
一瞬のスキもない。
剣の織。
絶体絶命。
そう。
"絶対"・・・・・"絶命"の状況。

だが、
血を噴出しながら、
ダニエルは怪しく笑った。

「いやぁ・・・ダメだなぁ・・・やっぱ俺は逃げ切ってやるぜ・・・・生き延びちゃう・・・・よん♪・・・・」

虫の息なダニエルの強がりに、
エイアグは笑った。

「我ら三人を同時に相手をし、生き延びれるはずがない」
「人間で生き延びたのはただ一人。時はお前が砦を燃やしたあの日」
「・・・・・・・・・・あのロウマ=ハートとかいう人間だけだ」

「・・・・そりゃ・・・・参考にならねぇや・・・・・・・・・・」

ダニエルのヒザがガクンと落ちた。
血が出すぎだからだ。
力が出ない。

「応々!!勝手に死ぬなよ人間!」
「・・・・・・お前は我らが首をハネて死ぬのだ」
「カプリコの思いはカプリコの手で晴らす」

深い憎しみが産む復讐心。

「・・・・・・ヒャハハ・・・・・・やだねん♪・・・・俺ぁ死にたくねぇもん・・・・・・・・・・・
 ・・・・人を殺すのは・・・燃やすのは好きだけどよぉ・・・・自分は死にたくねぇ・・・・・・・」

ダニエルは落ちたヒザをなんとか立ち上げる。
フラフラと、片足だけにでも力を入れ、
なんとか立ち上がる。

「・・・・だから・・・・・・俺ぁ・・・・・・生きるぜぇん♪」

ダニエルは強がりにまた笑う。

「おかしな人間だ」
「応。なんだお前は?」
「・・・・・・・なぜ絶望しない」
「なんでまだ生きようとする」
「おめぇはおめぇが燃やした俺らの同士同様、絶望して死んでくれなきゃなんねぇ!」
「・・・・なのに。何故絶望しない。まだ生きようとする」

「そりゃぁ・・・・・俺が生き物だから・・・いや、人間だなぁ・・・・・生きる価値があんだよ・・・・」

「なめてんのか?お前に生きる価値なんかねぇよ」
「我らの同士だけでなく、ノカンの未来を奪い、そして人間をも殺し、仲間を裏切り、
 人を殺すことに快感を覚えているお前に・・・・生きる価値などあるはずがない」
「・・・・・・・・・お前さえいなければ、人、魔物合わせてどれだけの命が幸せになっただろうな」

ダニエルは大きく吐血した。
空き缶一個分ほどの血を吐き出す。
だが、それでも血だらけの口をダニエルは笑みに変える。

「俺ぁ人を燃やすのが好きだ。最初は物だった・・・・焦げ臭い感じがたまらねぇ・・・・・
 造形物・・・・家・・・作品・・・ただの表札・・・・とりあえず人が何かしら手を加えたものが・・・
 俺の炎で・・・・一瞬で・・・・・ただの黒いクズに燃え変わる様・・・に・・・興奮を覚えた・・・・・・」

ダニエルは両手を広げ、
笑いながらなお話す。

「ヒャハハ・・・・・・次は自然物だ・・・・・木・・・草・・・・地形・・・・全て・・・・・
 遡(さかのぼ)れば数万年のルーツが・・・俺の炎で・・・・無に帰る・・・・・・・
 最高だ・・・・・ヒャハハ!・・・最高だ!!!!ヒャーハハハ!!!」

ダニエルは狂ったように、
そして思い出して興奮するように笑う。

「だが一番は生き物だ!感情がある。一人一匹に一分一秒生きた思いがある・・・・
 それが燃える・・・・俺の炎で消えていく!無残に消える!燃え方も超絶品♪
 脂肪の燃える臭い!熱にハジける髪!だが引き剥がせぬ炎!絶望で歪む顔が焦げていく!
 最高!絶頂!それを眺めるのがイっまうほどの快感だ!!!」

目が、
口が、
ホホが、
愉悦に歪んでいく。

「俺が狂ってんのは分かってんだよっ!・・・・自分で分かってる
 俺は燃やすためならなんだってするね。そのためなら自分の命も惜しくねぇ♪
 普段ならあんたら三騎士を燃やすために命も投げ出しただろぅよ!」

「なら何故逃げる」
「なんで戦わねぇ」
「・・・・・何故生きようとする」

「アッちゃんが生きてたからだ」

ダニエルは勝ち誇ったかのように笑った。

「俺は狂ってる!人らしい感情なんて持ち合わせていねぇ!
 俺はいないほうがいい人間!ただの害!殺人鬼!放火魔!クズ!・・・・・だが!」

ダニエルは笑うのをやめた。
炎が消えるかのように笑うのをやめた。
そして無表情で言う。

「ある日アッちゃんは言った。"それでもダニーは人間だ"と」

ダニエルの顔は愉悦に染まっていく。

「ヒヒヒ!おかしいだろ!こんな人間にだ!狂って腐った人間にだ!
 世界で一人!アッちゃんは認めてくれたんだ!
 俺という存在を!どんな狂っていても!異物ではなく!
 俺という!ダニエル=スプリングフィールドという存在はたしかにあると!」

ダニエルは右腕を振り上げる。
その手には炎。

「だからアッちゃんが生きる限り俺も生きる!
 アッちゃんが生きている限り俺は存在する!
 俺は炎でできた影だ!不確かだがたしかに生きて揺らめるんだぜ!
 ってことで食らえ!!ファイアウォール!!!!・・・・・・ァ〜ンド自分バデス!!!!!!」

ダニエルが地面に右腕を叩きつける。
吹き上げる炎。
ダニエルごと巻き込んで吹き上がる。

「ぐっ!」
「チッ!」
「・・・・・・く・・・」

三騎士も咄嗟にひるむ。
周り全部が巻き込まれる特大の炎。
ファイアウォールは燃え上がる。

「!?」
「・・・・・・どこだ・・・・」
「あのクソ人間はどこ行った!」

「・・・・・・・・・・どこでしょぉーん♪・・・・・・・」

周りは立ち込める炎。
燃え盛る炎。
どこからかダニエルの声が聞こえる。

「この炎の中・・・・俺自身燃えてるんだ♪・・・・見つかるかっな♪」

「クソっ!こいつかっ!」

アジェトロが燃える人間を一振り。
人間が一人、胴から真っ二つになる。

「はずれぇ♪それ他人♪・・・・じゃ、俺はゆっくり逃げるとするか・・・・・・・・
 っつってもゆっくりしか逃げれないんだけどな・・・・・・・・
 死にそうなのに自分にバデスかけて・・・・・・ヒャハハ・・・・いや多分俺死んじゃうな・・・・・」

声が小さくなっていく。
ダイエルが炎の中遠ざかっていっているのか。
それとも力尽きて声が小さくなっていっているのか。
いや、後者だろう。
ダニエルに生きる力などもうない。
だが、

「・・・・・・・・俺は生きる・・・・・・・・絶対生きて・・・・・・・・やる・・・・・・・・
 ・・・・・・アッちゃんを燃やすまで・・・・・・死ねねぇんだ・・・・・・・・
 ・・・そんでいつか・・・・アッちゃんを・・・・・燃やしたら・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・その悲しみの・・・・快楽を・・・・・楽しんでから・・・・・・・・・・・・」

炎が一瞬強まった。

「・・・・・・・・・・俺も・・・・・・死ぬ・・・・・・・・・かな・・・・・・・・・・」

そして次の瞬間、
燃え盛る炎が、
まるでロウソクが消えるかのように・・・・・・・・フッ・・と消えた。

「・・・・・・・・アッちゃん・・・・・・・・」























「こんなん死んじゃいますよ・・・・・・・・・」

アレックスは見上げながら顔をしかめる。
改めてみてみると、
見れば見るほど凄いものだ。
このスマイルマン・・・・・。
ロイヤル(高級品)というだけはある。
装甲。
あの形状と素材はよく見たことがある。
騎士がよく好んで使う、
アイアンウォールという盾の素材だ。
それだけじゃない。
肩の部分の装飾。
あれはマジックネムア。
魔法防御力も上げてある。

「あ〜〜アレックスぅ〜〜あの目んたま!オーブじゃなぁ〜い?
 お隣の家のロードカプリコのお婆ちゃんが持ってたよぉ〜〜」

たしかにゴーストアイズというオーブだ。
見ればみるほど何かと見えてくる。
いろんな所にいろんな素材。
鎧、盾などの防具を中心に様々なアイテムを利用して作成されたスマイルマン。

「さすが商売人ですね・・・・いろいろ工夫がこらしてあります・・・・
 なんでも屋の範囲を超えたアイテムが多すぎますけどね。
 これほどのアイテムを揃えるなんてさぞ素晴らしいなんでも屋だったんでしょうね」

「あら、お褒めの言葉ありがとう」

スマイルマンの上からマリが笑顔で礼を言う。

「だけど物を売るのはやめたの!商売品は全部このスマイルマンに組み込んだわ!
 なんでも屋は閉業よ!今売ってるのは・・・・・・・ケンカだけ!
 さぁ!いけっ!スマイルマン・ロイヤル!!
 あの二人をペシャンコに潰してしまいなさい!」

マリの一声に反応し、
スマイルマン・ロイヤルが片手を振り上げる。
大きな大きなその手。
鉄でできた冷たく大きなその手は、
振り上げただけでアレックス達を月光から妨げ、
影ができる。

「うわっ!わっわっわ〜〜〜!!!」
「あぶなっ!!」

アレックスとロッキーは当然逃げ出す。
走り出す。
その振り上げられた手の下から逃れるために。
その手によってできた影から脱出しようと走る。

スマイルマンの目が赤く輝いた。

「ギル・・・・ガ・・・」

スマイルマンが腕を大きく叩き落す。
世界最大の平手落とし。

「・・・・・とっ」
「たぁぁ〜!」

アレックスとロッキーは咄嗟にジャンプ。
ギリギリのところでスマイルマンの大きな手を避けた。
だが・・・・
悲鳴。
周りのいろんなところから悲鳴が立ち上がる。

スマイルマンの大きな手によって、
GUN'Sの者達が数人下敷きになったのだ。
味方のはずのスマイルマンに巻き添えを食らった形。

「クソォ・・・・ちょこまかと・・・・・スマイルマン!!もう一発よ!!」

スマイルマンが赤い目を光らせたのが返事。
もう片方の巨大な手を、
今度は横に振る。

「ひゃぁ〜〜ぁっ!」
「わわっ!」

これも間一髪でアレックスとロッキーはかわす。
だが、
この人間の群れの中で腕を横に振り切ったのだ。
まるで机の上のゴミを払うかのように、
GUN'Sの者達が吹っ飛ばされる。
その一撃だけで10。
いや20人は吹っ飛ばされただろう。

「マリ様!おやめください!」
「仲間まで巻き添えになってます!」
「せめて仲間が避難するまでスマイルマンでの攻撃はお控えください!」

「やかましい!貴方達が避難するの待ってたら、敵まで逃がしてしまうでしょ!」

スマイルマンが右腕を横に引く。
味方ごと振り払ってくる気だ。
超絶ビンタとでもいうような、
そんな生易しい響きも合わないような。
鉄の大腕が地面を削りながら振り切られてくるだろう。

「私は!もうどんなものも逃がすわけにはいかないのっ!!!」

マリの一声と同時。
スマイルマンの大腕が予想通りに振り切られてくる。
その鉄の腕。
アレックスの予想通りゆえ・・・・

避けきれないっ!

「まかせってよ〜〜!!」

アレックスが観念すると同時に、
ロッキーが飛び込む。
逃げるでもなく、
マリを狙うでもなく。

振り切られる数mの大腕に飛び込む。

「せぇ〜いばぁ〜〜〜ぃ!!!」

ロッキーが小さな体を全開に使い、
カプリコハンマーを振る。
そのスマイルマンの大腕に向かって。

響き、
ドラムを叩いたかのような鉄の響きがこだまする。

「これは・・・・」

「うっそ・・・・」

アレックスとマリ。
双方敵方ながら、同じように驚いた。

「むぎぎぎぎぃぃ!!!」

「ギ・・・・ガガガ・・・・・・」

押し合っている。
巨大すぎる鉄の手と、
小さな小さな子供のカプリコハンマーが・・・・
押し合っているのだ。

「むぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぅ・・・・・」

歯を限界まで食いしばり、
全力でスマイルマンの腕を押し戻そうとするロッキー。
敵(かな)うわけがない。
機械仕掛けの巨大すぎる鉄の塊の腕と、
それに対すると小すぎるカプリコハンマー・・・・・・と子供の力。
敵うわけがないのだ。
だが・・・・
事実押し合っているのだ。

「ハハっ・・・・・・なんでもアリですね。ここまでとは・・・・・
 ロッキー君のことまだまだ見くびってたみたいです」

「そんなっ!有り得ないっ!有り得ないわ!
 人間がスマイルマンのパワーに対抗できるなんてっ!」

マリはスマイルマンの上で懐から何かを取り出す。
WISオーブによく似ているが、リモコンのようだ。
WISのように魔力を飛ばして信号を送る事も可能なのだろう。
マリはそのリモコンを操作しながら「有り得ない・・・有り得ない・・・」とつぶやいていた。

「有り得ないわ・・・・負けるはずがないっ!
 なんでも屋の"物力"を最結集したスマイルマン・ロイヤルが負けるはずがないっ!!
 クソッ!スマイルマン・ロイヤル!!6気筒ヘラクレスエンジン全開っ!!!」

スマイルマンの背中から煙。
いや、蒸気がプシュゥーと噴出す。
噴出したと思うと・・・・スマイルマンのパワーが増した。
スマイルマンの腕の方が押し始め、
ロッキーがズリ下がっていく。

「うぎぎぃぃ〜〜・・・・・・・・」

ロッキーの足元。
地面にずり下がった分だけ土跡のレールが引かれる。
そして当のロッキーはというと・・・
顔が真っ赤だった。
かわいい顔を最大限まで強張らせて。
怒ったようななんとも言えぬ顔で頑張っている。

「ほら見なさい!なんでも屋の物力はマイソシア一よ!!
 ウォーリア、ウィザードイヤリングのH・M・SPエネルギーを、
 無属性のニルリングを伝道させ!それをリクシャ燃料で・・・・」

スマイルマンの上でマリが偉そうに説明している。
まぁアレックスにはそんな小難しい説明よりも、ロッキーの事が大事だった。

「ロッキー君っ!」

アレックスが駆け寄る。
駆け寄ったところで何ができるわけでもなかったが、
いてもたってもいられなかった。

「・・・だだだ・・・だいじょうぶだよよよよ〜〜・・・」

ロッキーが全力を出しながらアレックスに語りかける。

「・・・前も・・・言ったでしょ〜〜〜!
 ぼくだって強いんだよ〜〜!信じてみてぇ〜〜〜!」

ロッキーの子供とは思えない力強い目。
その目と言葉に、
アレックスは駆け寄るのをやめた。

「ロッキー君・・・・」
「いくよぉ〜〜〜!!!オリオ〜ルぅ〜〜〜〜!!!」
「ウヌルラ!ラルルルラ!」

ハンマーと鉄の腕の押し合い。
その状態で、
ハンマーが光り始める。

「バーストウェーブ(爆発)ぅ〜〜!!!!!!!」
「ヌリルララララァァァァ〜〜〜!!!!!!!」

爆発した。
ハンマーと鉄の腕の押し合い状態から、
その中心部でバーストウェーブの爆発。
強烈な大放出。

「うわぁぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

吹っ飛んだ。
ロッキーは爆発で自分が吹っ飛んだ。
小さな体が吹っ飛ぶ。
そして・・・・・

「・・・・・・・ギィ・・・・・・ガァァア・・・・・・・」

スマイルマンの腕も弾かれた。
鉄の腕が押し戻される。
大きく、
重い鉄の腕が。
それは家が一件飛んだようなもの。
想像以上の威力。

「馬鹿な・・・・」

マリはスマイルマンの腕をみる。
爆発でダメージが大きい。
装甲に穴の空いた部分もあり、
そこから電気のようなものがピシピシっと弾けていた。

「クソッ・・・有り得ないっ!有り得ないわっ!
 でも壊れたわけではないわ!まだ動くっ!
 スマイルマンの右腕は壊れたわけじゃぁない!!」

「せぇ〜〜〜〜〜〜いばぁ〜〜〜〜〜〜〜い!!!!」

「!?」

ロッキーが、また攻撃した右腕に突っ込む。
ハンマーを振り上げて。
ハンマーは光り輝く。
魔力の光。
そして、

轟音と共に、
ハンマーがもう一度スマイルマンの腕に叩き付けられる。

「無駄よっ!何度やったってこの巨大なスマイルマンを壊す事なんてできないわっ!
 このスマイルマンは私の架け橋!それがそんな簡単に崩れるわけ・・・・・が・・・・え?」

マリは目を見開いた。
ロッキーがハンマーを叩きつけた箇所。
スマイルマンの腕。
そこが・・・・
凍り付いていた。

「なっ・・・・なんでっ!?」

「アイススパゲッティだよっ!」
「ウヌ?ノノレミラルーリ?」
「あっそうなの〜?ごめぇ〜ん。アイススパイラルだってぇ〜」

ロッキーが照れくさそうに言う。

「氷結!?・・・そんなっ」

マリはリモコンを急いでいじり始める。

「伝達部から制御部への伝導率は・・・いや、氷で熱が奪われているっ・・・
 本体部の熱を右腕に回すべきか・・・でもそれなら・・・・・」

なにやら大変そうだ。
マリが一生懸命リモコンをいじっている。

「くそっ!有り得ないっ!有り得ないのよっ!でも・・・・まだいける!」

マリがWISリモコンでなにやら処理をしたと思うと、
次の瞬間・・・・・・
大きな土煙と共にスマイルマンの右腕が・・・・・切断された。

「邪魔な右腕はいらないわ!エネルギーを食うだけっ!
 そしてスマイルマン・ロイヤルにはまだ左腕がある!健全状態のねっ!
 それにくらべてあなた達はどうかしら?もうその子もヘトヘトじゃない」

たしかにロッキーはもうへとへとだった。
あの巨大な腕に押し合い、
そしてそれを押し返すほどのバーストウェーブと、
巨大な腕を氷結させるほどのアイススパイラル。
魔力などもう残っているのかどうか・・・・・

「スマイルマンのビッグパワーに対抗できるだけの力がないのっ!
 アハハっ!これでやはり私の勝ち!これで私は富と名声を手に入れっ!
 そしてそれであの暖かい家庭を・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

マリは異変に気付く。

「か、傾いてる?」

スマイルマンが大きく左に傾いていた。

「当然ですよ」

アレックスが言う。

「あの巨大な腕が片方無くなったんです。重心が傾くのは当然・・・・」

マリナ達とスマイルマンを倒したときと同じ。
だからアレックスにはよく分かっていた。

「左腕だけで攻撃は無理です。バランスの問題でね。諦めてくださいマリさん」

「クッ・・・・」

マリはスマイルマンの天辺部分を腕で殴る。
女の拳が鉄にぶつかって響く。

「まだよっ!まだ!私は諦めるわけにはいかなぃの!」

マリがまたWISリモコンをいじり始める。

「胸内部オーブ回転可動・・・サブのリクシャ燃料を全て解除。
 左腕部及び胴体部のマナ系伝率をヘル・ステ系に代理変更。
 準備時間27%、胸内部オーブ回転秒速16回転突破・・・・・」

マリがぶつぶつ言いながらWISリモコンをいじっている。

「オーブ回転魔力発電装置秒速42回転突破・・・準備時間残り36秒・・・・フフッ・・・」

マリがWISオーブをしまう。

「ねぇ、何が始まると思う?」

マリがスマイルマンの上から笑顔で問いかける。

「さぁ・・・ただろくでもないことな気がしますけど・・・・・・・・」

「あと15秒・・・・フフッ・・・・・・そうね。ろくでもないことね。
 このスマイルマン・ロイヤルには他の量産型スマイルマンには無い機能が付けられてるの。
 それは・・・・本家のスマイルマンと同等のある攻撃・・・・・・・メテオ型遠距離攻撃機能よ!」

マリがスマイルマンの上で両手を掲げる。

「エネルギーはほぼそれに回したわ!さぁ残り3秒!
 降り注ぐ私の思いと怒り・・・食らうがいいっ!!!!これが私の夢への架け橋だ!!!」

・・・・と同時。
迫ってくる音。
いや、降ってくる音。
空から、
何かが落下してくる音。
そう、
何かとてつもない何かが落ちてくる音。
そしてそれは落下してきて・・・・・・

「キャァァッ!!!」

スマイルマン・ロイヤルに直撃した。

「え?」

アレックスの疑問をよそに、
マリもスマイルマンの上でわけも分からないといった表情だった。

「なんで!なんでメテオが私のスマイルマンに当たるの!?
 制御機能の故障!?そんな馬鹿なっ!なんでも屋の科学力は・・・・」

マリがハッと空を見上げる。
そして異変に気付く。

「私のスマイルマンの・・・・メテオじゃない・・・・」

空には・・・無数。
無数のメテオがあった。
夜空に浮かぶメテオ。
降ってきているのか浮かんでいるのか、
それはまるで星空のようだった。

「間に合ったぜ騎士さん」
「お騒がせしました・・・・・」

アレックスに声をかける人。
それは腰に二つの剣を収めた剣士と、
ミニスカートのようなローブに身を包んだ魔術師。
フレアがお辞儀をしながら言う。

「もうメテオは私の制御から抜けました。あとは降り注ぐだけ・・・・
 いえ、もう降り始めています。あの空の上から・・・・」

フレアが見上げる。
その夜空。

「あれは私の愛情の結晶です。これから降ってきますよ。
 まるで雨のように・・・・・・私の愛が降ってくるんです。
 フォーリン・ラブです。愛が落ち、愛に落ち、愛へ落ちます♪」

見える。
メテオが、
隕石が、
ドンドンこちらに近づいてきている。


「あんたはあんたでチェックメイトですよ・・・・とぉ」

スマイルマンの上。
いつの間にかマリの背後にヤンキが回りこんでいた。
漆黒の闇の中に黒尽くめの男の黒い剣が、
マリの首もとに突きつけられる。

「ま、俺らにゃぁ関係ない話ですよね・・・とぉ。片付けは騎士さんにでも任せるか」

ヤンキがマリを蹴飛ばす。
蹴飛ばすという事は、
それはスマイルマンの上から突き落とされるという事。

「・・・あ、いたぃっ!」

マリが地面とぶつかる。

「あたたた・・・・・」

そんなマリの目の前に、
アレックスが立つ。

「降参してください。マリさん・・・・・」

「クソッ!」

咄嗟にマリは腰から採取用ナイフを取り出す。
が、
アレックスは簡単にそのナイフを槍で弾き飛ばした。

「降参してください・・・・」

「するわけにはいかないわっ!私は・・・私はあの家を取り戻すためにっ!」

「・・・・・・・・・・・それにはこんな事必要なんですか?
 あなたのもとの家庭はこんな事をしないと手に入らない事なんですか?」

「黙れっ!母さんを殺したあんたに説教されたくないわっ!」

マリの目は殺気立っていた。
その目は復讐を表し、
その胸に秘める心の闇を表していた。
そんな彼女に、
アレックスは笑顔で言った。

「僕を殺したいなら殺してみますか?」

「・・・・・・・は?」

「いえ、そりゃ僕も死にたくはないですよ?
 あなたのためにポンッと命を投げ出すほど出来た人間じゃないです。
 でもとりあえず頭の中ででも僕を殺してみてください」

「・・・・・・何を言ってるのよ・・・・」

「そうした時、あなたは幸せな家庭を取り戻せていますか?
 そして僕を殺したとき、最初に浮かぶものは・・・・・ルエンさんやスシアさんの笑顔ですか?」

「・・・・・・・・・」

「あなたの幸せな家庭に必要だったのは・・・
 本当に権力や名声・・・・・・・そしてお金だったんですか?
 あなたの思い出で輝いているのはお金の部分でしたか?」

「・・・・・・・うるさぃっ!!!」

マリがアレックスの胸倉を掴みかかる。

「幸せはお金じゃない?ふんっ!笑わせるわ!
 あんたの頭は絵本で出来てるの!?そんな簡単な話だと思ってるの!?
 私ん家はねっ!ロイヤル家はねっ!お金がないから崩れたのよ!
 それもよく知らないで・・・・簡単に・・・・・・・・・・・・・・」

マリが崩れた。
泣き崩れた。
地面にへたりこみ、
顔を下に垂れた。

「そうですね。僕には分かりません。
 だから・・・・・話し合って解決してください。
 僕みたいな他人に分からなくても・・・・・あなたには"分かる人"がいるじゃないですか
 同じ境遇の・・・・・取り戻したいと願う家族が・・・姉妹が・・・・・・」

「家族・・・・・」

「お母さんのエリスさん。彼女は死ぬ前に言ってました。
 貴方達姉妹が、ずっと笑っていられるように・・・・・と」

マリは涙をこぼしながら、
フッと笑いながら言った。

「笑い・・・・だからスマイルマン・・・か・・・・・・
 フフッ・・・・・"マン"って・・・・私達は女なのに・・・・・・」

「スシアさんと同じ事言ってますよ?ハハッ。やっぱり姉妹ですね」

それだけ言ってアレックスは背を向けた。
長々と説教をしてしまった。
恐らく今、彼女の頭に浮かんでいるのは姉妹の顔を・・・そして死んだ母エリスの顔。
そして・・・
アレックスの頭の中にも、自分の父と母の顔が浮かんでいた。

「おいっ!見ろっ!」

ツィンの言葉と同時。
爆発音のような音がひびき始めた。
一発ではない。
何個も何個も。
それはメテオの落下音。
始まったのだ。
メテオの墜落が。

「予想以上ですね・・・・とぉ」
「す・・・ごぉーい・・・・」
「爽快だな。護衛した甲斐があったってもんだ」

GUN’Sが敷き詰めるこの空間。
ここに、メテオが降りしきる。
ドンドンと、
数個・・・
数十個・・・
何十個というメテオが・・・・・
はっきりいって大打撃である。
敵が密集しているからこその大被害。
ただでもパニック状態であったのに、それがさらに・・・・

「今の内に・・・・突破ですね」

アレックスが拳を握り締める。
そしてフレアに向かって頭を下げる。

「ありがとうございますフレアさん。あ、ツィンさんとヤンキさんも。
 もしあなた方の協力が無かったらここで僕達は死んでたでしょう」

アレックスは頭を下げたままだった。
ロッキーはあたふたし、
そしてロッキー自信もペコリと頭を下げた。

「礼なんか何回言われても同じだよ」
「礼を言うヒマがあったらさっさと突破してくださいよ・・・とぉ」
「私たちの頑張りを無駄にしないでくださいね
 そして・・・GUN’Sを絶対討ち取ってください。
 私からお願いします。マスター・リッドの・・・《メイジプール》の誇りをあなたに託します」

それを聞くと、
アレックスは頭をあげた。

「はい。必ず」

ロッキーはいつ頭を上げればいいか分からず、
とにかく一生懸命頭を下げたままだった。

「あ、あともう一つだけ・・・・・」

「え?」

フレアがアレックスに話かけた瞬間。

アレックスの真横。
というより全員の真横。
そこにメテオが一個落下してきた。

「うわぁ!なになに!?」

ロッキーも驚いて顔をあげた。
いや、もちろん驚いたのはロッキーだけじゃなく、
アレックスも、ツィンも、ヤンキも驚いた。

「・・・・・え・・・」

距離にして1m。
そこに特大のクレーターができる。
メテオのクレーターが。
へたすると・・・・・・当たっていた。

「先ほどの言いましたけど、この広範囲メテオはもう私の制御の外です。
 あとは落ちてくるだけなんです。もう10分ほど降り続けると思いますが・・・・
 もちろんあなた方に落ちないとはいい切れません♪」

フレアは笑顔で言い切った。

「・・・え・・・それって・・・・」

「気をつけてくださいとしか言えません♪」

フレアはまた言い切った。
その笑顔に何かと文句を言えるはずもなかった。

「どう気をつければいんだ・・・・・」



ともかく
あとは突破するだけ。
再装填メンバーももういない。
六銃士はジャスティンだけ。

敵はもう、
GMドラグノフと、ジャスティンのみ・・・・・・・・



















「・・・・・・・・様」

外の闇の中、
岩にこしかけた男。
GUN’Sの男。
身分はかなり上のようだ。
その男に伝令兵は言う。

「例の男、ロス・A=ドジャーが突破しています。
 本拠地方面へ真っ直ぐ進んでいます。残り距離にしてもうすぐ200mの所です」

「ほぅ、一人か?」

岩に腰掛けた男は、
片目を伝令兵に向けた。

「は、はぃ・・・・・何故か一人で突破しています。仲間は置き去りです。
 でも速いです。かなりの素早さですね。このままでは単独で突破・・・・」

何か音がした。

伝令兵は何の音か気付かなかった。
ただ、
目の前の男。
岩に座っている男が、自分に武器を向けていて、
そして自分の額から血が噴出しているので、
自分が死んだと気付いた。

伝令兵がその場に崩れる。

「今何言うた?速いやて?・・・・・・・・・ん?」

岩に座っていた男が空を見上げると。
そこには無数のメテオが降り注いでいた。

「メテオ・・・・・・流れ星・・・・・・なつかしい響きや。
 わいの昔のギルド名は《暴走☆流れ星》。あん頃が一番楽しかったな」

男は立ち上がる。
立ち上がると、
左腕がプラーンと垂れた。
どうやら左腕が使い物になっていないらしい。
そして左目。
左目も潰れている。
いや、左の顔半分と左半身が使い物になっていないようだ。

「GUN’Sでも身分は剥奪。ロウマにやられてから体はこんザマ・・・・
 昔には戻れへんこっちゃ・・・・・せやけど、一つ変わらん事があるわな・・・・・・」

男は右手の武器を肩に担ぐ。
その武器は・・・・・ライフル。

「わいが世界最速って事や。ドジャーはんやったな。
 いい気になってられるんも今ん内や。念仏唱えとき。
 今からあんさんを殺しに行くさかい・・・・・・・・」

男は瞬間的に走り出した。
瞬速。
目にも見えないスピードで。

「速い事は正義・・・・・速さは最強の才能・・・・・・
 わいよりトロいあんさんが・・・・・・・・・勝った気でおんなや!!」

言葉も消え去った。
エンツォ=バレットはそのまま、
闇の戦場へと、
風を切り、
風を追い越し、
ドジャーを狙って走った。

まるでバレット(弾丸)のように。






                 






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