「行くぜメッツ!っていうかゴーリラ♪」

両手に溜まった気。
オーラ。
イミットゲイザーの力。

「師匠直伝っ!イミットゲイザー弐式っ!!
 スーパーメガギガ・メッツ・ボコボコグロォーっブ!!!!!」

チェスターの両手にイミットゲイザーの気が滞在される。

「パンパカパァーン♪しゃぁっ!!!」

走る。
真っ直ぐとは言わず、
左右に揺れながらチェスターは走る。
キレのいいターンを何度も繰り返しながら
メッツまでの距離を近づけていく。

「とぅっ!」

わざわざ「とぅっ!」とか言いながらチェスターはジャンプ。
空中へ跳び、
そのままメッツに向かって・・・・・・・

「チェスターパァアアアアアアアンチ!!!!!」

イミゲ付きの右手を突き出す。

「ェえハぁ!!はファ!!!」

メッツが左腕でガード。
チェスターの拳とメッツの腕がぶち当たる。
その男。
鈍く深い音。
拳と腕がぶつかった音とは思えない。

「チェッ!相変わらずの馬鹿筋肉だなっ!メッツ!!」

チェスターは空中からパンチした体勢から、
そのままメッツの腕を台にしてもう一度ジャンプ。

「目ぇパッ開いて食らっちゃえっ!!!」

空中。
そこからチェスターは両腕を溜める。

「どっかんどっかぁぁあああああああああん!!!!!!!!」

イミットゲイザーを連射。
右・左と突き出された拳。
空中から二つ。
イミットゲイザーがメッツへ急降下。

「が亜ぁ荒ラらあ゙ぁ!!!!」

メッツが叫び声と共に両手斧を一振り。
横に一振り。
その一振りで二つのイミゲはかき消される。
いや、炸裂するように破壊される。

「当たんないか!ま、そうだよなっ!メッツだもんなっ!!」

チェスターは地面に着地するなり、
瞬時に地面を蹴る。
今度は真っ直ぐメッツへ走りこむ。
速さはドジャーまでいかずとも、
着地するなりの瞬発力はドジャー並だ。

「死ぃ日!!!ヒいねぇあ゙ァぁア!!!!」

「!?」

メッツがもう一度斧を一振り。
真横にカッ裂いてくる。
空気も振動するほどの一撃。
ブォォォンという鈍い音共に、
斧がチェスターに迫る。

「危ねっ!!!」

瞬時にチェスターは体を反る。
腰を曲げて頭から後ろに反る。
そしてブリッジをするような格好で横振りを避けた。

「その斧は邪魔ジャンっ!!!!」

ブリッジのような体勢。
チェスターはそのまま両手を支えにし、
両足を突き上げる。
逆立ちをするような、
ハンドスプリングとでも言うべきか、
斧を振ったメッツの腕を両足で突き上げる。

「ぐ呉ぁあ゙っ!!!???」

メッツの右腕に強烈な両足のキックがつきあがる。
メッツの斧を持つ右腕も跳ね上げられる。
が、メッツは斧を落とさない。
ガッチリと握り締めたまま。

「ちょっ!落とせよっ!チェスター君のカッコイイキック食らったジャンかっ!」

「異゙ぃイいあ゙があああ゙亜あ!!!!」

弾きあげられたメッツの右腕。
それはそのまま斧をチェスターに向け、
真下に叩きつけてくる。

「ひょぇっ!?」

チェスターはすぐさま、
ハンドスプリングをそのまま理由し、
後ろにバク転。
その斧の叩きつけを回避する。

「いっ!たんっ!たいっ!ひっ!」

バク転を繰り返しながら、
後ろに下がるチェスター。
最後にバク宙。
空中で2回転してから着地。

「ふぅ・・・・やっぱメッツとのケンカは集中力いるな・・・・・・・・一休憩っと」

チェスターは首を鳴らしながら、
トォーントォーンとジャンプして自分を落ち着かせる。

「メッツと戦う時にはいつもの事だけどやっぱあの斧が邪魔ジャン。
 あれをなんとかしないとな。レイジ時だと殺す気で振ってくるし・・・・・」

チェスターは構えに戻る。
そして右腕に力を込める。
光り輝く気孔。
エネルギーが右腕に溜まって行く。

「いや、オイラの方もそれぐらいの気持ちでいかなきゃだなっ!!!」

右腕に気を溜め終わったと思うと、
今度は左腕にも気を溜め始める。
右腕とは違う種類のような気。
だが、左腕に気が溜まりきらないうちに、
右腕を振り上げた。

「行くぜっ!師匠直伝っ!イミットゲイザー八式っ!!!
 ズバズバギュンギュンイミゲ魚雷っ!!!!!どかぁぁああん!!!」

チェスターは地面に右腕を叩きつける。
地面を砕くかのような威力。
が、ここはメッツと距離が離れすぎている・・・・・・・

「いっけぇえ!イミゲちゃん!」

地面に突きつけられたチェスターの拳。
放たれる気(エネルギー)。
それは・・・・
地面を這うように突き進み始めた。
まるで魚雷のように、地面を削りながらメッツへと突き進む。

「あーんど♪いっけぇチェスター君っ!!」

地面を突き進むイミットゲイザー八式。
それを追いかけるようにチェスターも走りこむ。

「イ火っ♪・・・な那がガガがっ!!!!」

メッツは当然のように地面のイミットゲイザーを避ける。
化物のように腕をだらんと垂らしたまま、
足の力だけで横っ飛びで避ける。

外れたイミットゲイザー八式は、
そのまま近くの木にぶつかり、
木を破壊した。

「でぇりゃああああああああああ!!!!」

避けたばかりのメッツにチェスターが飛びかかる。
それに対し獣並の超人的な反応。
メッツはチェスターに目をやるよりも先に、
チェスターに向けて斧を振る。

「師匠直伝っ!!!イミットゲイザー九式っ!!!
 イミットゲイザーブンブンサーベルっ!!!・・・・・・ぶいぃん♪」

チェスターの左腕。
そこには溜まりきったエネルギー。
それは"イミットゲイザーによる剣"。
左手ごと気の剣のようになっている。
いや、エネルギーの固形化。
むしろ槍に近いかもしれない。

「ひゃ羅亜あ゙ぁぁあ!!!」
「ぐぉおお!!!」

メッツの斧と、
チェスターのイミゲ剣がぶつかる。
が、

「ぐっ!」

チェスターの剣の方が押し負けた。
左手が弾かれる。

メッツは超人的な腕力+斧。
それに対抗できるほどチェスターに腕力はない上に、
硬気功に近い繊細な気孔術で剣を具現化していなければならない。
集中力を使いつつガチンコで戦える相手ではない。

「クソォッ!駄目かっ!!」

チェスターは咄嗟に右腕に気を溜めつつ、
その右腕をメッツの腹に叩き込む。

イミットゲイザー参式。
0距離でイミットゲイザーを叩き込む技。

それをメッツの腹に叩き込み、
自分もその反動で距離をとる。

「ごゴ期ぃあ゙っ!!!ナがガガぁっ!!あアあァぁア!!!!」

メッツは悲鳴と共によろけるが、
気を溜める時間がなかったせいか、
幾分効いた様子ではない。

また距離をとる二人。


「ちょっと!チェスター!さっさと決めちゃってよ!」

マリナが横から口を出す。

「うっさいジャンっ!さっさと勝負付けたくて近づいたけど駄目だったんだぃっ!」

「・・・・・・・・・もっと・・・・・遠くから攻撃すればいいだろ・・・・・・・・」
「そうよっ!あんたには遠距離攻撃があるんだから!」

「そんなんケンカっぽくないジャンっ!」

「・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・・・・」
「そんなの気にしてる場合!?私が手伝おうか?」

「ダメっ!ダメダメダメダメッ!!!!手出しだけは駄目だって!」

「じゃぁまず斧だけでも破壊しなさいよっ!」

「・・・・・・・・・・・チェッ!」

しぶしぶチェスターは右腕に気を滞在させる。
先ほどまでより大きな気の力。
バチバチと弾けるエネルギー。
気が凝縮されていくように、右腕が輝いていく。

「危ないから動くなよメッツッ!!!体に穴空くぜっ!」

震えるような右腕。
気が右腕で振動している。
そしてその右腕を・・・・
突き出す。

「師匠直伝っ!イミットゲイザー七式っ!!!
 イミットレェェーーーザァァーーーーーー!!!!!!!!!」

突き出された右腕から放射されるイミットゲイザー。
いや、レーザー。
まっすぐ突き進む光のように、
放射され続ける一本の気の光。

「あ゙ガぁああ!!!」

それはメッツの斧を突き抜ける。
重く頑丈なグレートアックス。
それを簡単に突きぬけ、砕いた。

「ふぃぃ・・・・」

チェスターがレーザーの放射をやめる。
そして一息つく。

「壊れた壊れた♪」

「チェスター!その技で斧を壊せるなら最初からやっときなさいよ!」

「うるさいって言ってるじゃんマリナ!
 コレ、ちょっとズレるとメッツの腕が吹っ飛んじゃうんだよっ!」

「・・・・・・・クック・・・・・・そん時は俺が繋げてやったさ・・・・・・・・
 ・・・・・・何ならそのレーザーで・・・・・今からメッツを穴だらけにしてもいいぞ・・・・・・・」

レイズが小声で笑いながら怖いことを言う。
さすがに穴だらけになったら治せないだろう。

「ま、これでガチンコ対決ジャンッ!!!」

チェスターはまた構えなおし、
そして三度(みたび)突っ込む。
メッツに走りこみ、
そして走りこんだ勢いのままキック。

「い非!!」

メッツは右腕でガード。
そしてそのまま左腕で攻撃してくる。
その褐色の豪腕をチェスターに振り切る。

「よっっと!」

チェスターはジャンプ。
足を折りたたみ、
クルクルと高速回転しながら
メッツの背後へと飛び移る。

「テヤッ!」

着地するなりバックキック。
メッツの背中に強烈なキックが直撃する。

「ぎ義ぃ?」

普通なら吹っ飛ぶようなチェスターのキック。
だが、そのキックの痛みもあるかないか、
メッツは背中に突き出されたチェスターの足を掴む。

「おわっ!おわわっ!ちょちょちょっ!?」

チェスターは手をバタつかせて慌てるが、
もう遅い。
メッツはチェスターの足を掴むなり、
ゆっくり・・・
少しずつ加速しながら・・・・・
チェスターをブン回す。

「あガ我ガがハハはぁハ覇葉ハハはああああああ!!!!」

ぐいんぐいんとブン回されるチェスター。
まるでハンマー投げの回転。
メッツの豪腕によってグルングルン回転させられ、
そして・・・・・・・

ぶん投げられた。

崩れる音。
破壊音。
燃える一件の家にチェスターは投げつけられ、
家の壁を突きぬけて中まで吹っ飛ばされた。

「チェスター!!!!!?」

マリナの叫び声。
カラカラと家の壁が崩れる音。
そして・・・・

「だぁあああああらっぁあああ!!!」

その家の中からチェスターが飛び出した。
立ち直りが早い。
ロケットのように飛んでくるチェスター。
拳を突き出す。
そしてその勢いのいいパンチは、
そのままメッツの胸へと直撃する。
鈍い音。

「ぐゴぁ!?・・・・鵜う羅ァぁあ゙アアァあああああ!!!」

苦しむメッツ。
効いたらしい。
だが、メッツは胸に突きつけられた腕を両手で掴む。
またブン回す気だ。

「させるかっ!!」

チェスターのヒザ蹴り。
ヒザをメッツの腕に叩き込む。

「ご汚オぉ!!」

痛みでメッツが両腕を離す。

「もういっちょ!!!!」

チェスターが一回転しながら、
もう片方の足での回し蹴り。

「がぁあ゙!!」

メッツの顔面に直撃し、
メッツは後ろによろめいた。

「あ・・・・あ゙ガが・・・・」

「チャンスっ!!!」

よろめくメッツに向かって、
チェスターは軽くジャンプ。
そしてもう一発蹴りを放つ。

「ギ画ぁああああ!!!!」

だが、その蹴りは直撃しない。
メッツがおもくそに腕を振り切った。
パンチともなんともいえない。
ただ腕をおもくそに振りぬく。

「ごふっ・・・」

それはチェスターに直撃し、
チェスターは吹っ飛ぶ。

どう人間をふっとばしたらそうなるのか、
チェスターはイレギュラーバウンドのように、
はたまたゴミのように吹っ飛び、
地面に何度もぶちあたりながら十数m吹っ飛ぶ。

「チッ・・・クショッ!!!やりやがったなっメッツ!」

吹っ飛ばされた勢いが止まるか止まらぬかというところで、
チェスターが跳ね起きる。
が、

「ああ゙亜ガガヌぬあ゙ァアヌァあああああ!!!!」
「!?」

すでにメッツが詰めていた。
起き上がってばかりのチェスターに向け、
メッツは両腕を振り上げる。
ハンマーフック。
両腕を上からおもくそにチェスターに叩き込む。
強烈に振り落とす。
まさにハンマー。
チェスターは直撃を食らい、
地面に叩き付けられる・・・・・・・・・・・・どころか、
攻撃力のあまり、
衝撃により地面でバウンドした。

「あ・・・ご・・・・・」

まるでスロー再生のようにチェスターは小さく宙にバウンドする。
それは当然・・・・・
メッツの目の前。

「吹っァぁあ跳羅ぁらァゲぇぁあ゙アアああああああ!!!!!」

メッツの豪腕。
完璧に振り切られた右腕。
アッパーカット。
メッツの全身全霊全力というべくパンチが、
チェスターの腹に直撃する。

「・・・・・っ・・・・・・・・」

メシメシッ・・・・っと
キシむ音。
チェスターのアバラが数本もっていかれた音。

そして声をあげることもままならず、
チェスターはゴミのように吹っ飛んだ。
メッツのアッパーによって、天高く打ち上げられる。
本当に高く、
まるで打ち上げ花火のように、

高く、高く吹っ飛ばされた。


「・・・・・・・・ヤバいな・・・・・・」
「そんなの見れば分かるわよレイズ!」
「・・・・・・・・・・・いや・・・チェスターの奴・・・・・・気を失ってやがる・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・あの高さから・・・・・・受身無しに落下したら・・・・・・・・・・・」
「!?」

落下していくチェスター。
建物何階分の高さだろう。
そんな高さから、頭から落下していくチェスター。
人間、転んで頭を打ったって死ぬこともある。
なのにこの状況。
クビが折れるどころか・・・・・・・・・

マリナがチェスターから預かったワイキベベのチェチェを
レイズの頭の上に預ける。

「・・・・・・・・・どうする気だ・・・・・・・」
「助けるのよ!キャッチするのっ!落ちてくる前にね!
 まぁチェスターは"手出ししたなっ!"って怒るだろうけどね。寝てる方が悪いわ!」

マリナはギターをも地面に置く。
そして・・・・・・走る。
落ちてくるチェスターをキャッチするために走る。

「・・・・・クッ・・・・・間に合うかしらっ!」

走るマリナ。
落ちるチェスター。
際どい。
だが諦めるわけにはいかない。
全力で走るマリナ。
そして・・・・

「届いてっ!」

跳ぶ。
両手を伸ばして跳ぶ。
懸命のジャンプ。
目の前にはチェスター。
が・・・・・・

「と、届かない・・・・・・」

必死に手を伸ばすマリナ。
その先を落下していく。
チェスター。
助けられない・・・・。

しかし、
マリナの視線の先。
そこに一つの腕が伸びた。
その腕はチェスターが落下する前にチェスターを掴んだ。

神の手かと思った。
天の助けかと思った。

が、逆だった。

「ゔヒぃ♪・・・ギャ我羅ま魔マァああ゙ァアぁあああ!!!!!」

チェスターをキャッチしたのはメッツ。
メッツは勢いよくチェスターの頭をキャッチする。
そしてするなり・・・・・・・

「ガぁァ羅ららラぁぁアあ!!!!!!!!!」

チェスターを地面に叩きつける。
跳ね上がる地面。
そしてメッツは、
チェスターの頭を地面に叩きつけた後、
走りだした。
メッツは片手でチェスターの頭を地面に押し付けながら走り出したのだ。

「引鬼ぃ・・・コス・・・死ぃい意イア阿あ゙らァァァアああアアア!!」

地面にチェスターの頭を押し当てながら、
まるで雑巾がけやモップがけのように走るメッツ。
削れる地面。
道が作られていく。
地面の破片をバラまきながら。
チェスターの鮮血を撒き散らしながら。

20mぐらい引き摺っただろうか。
メッツはチェスターを投げ捨てた。
ボロ雑巾のように。

「義ィァあぁあ゙あハハハは覇ハ覇っはハはははは!!!!!!!!!!!
 カチ価値か血ィイ賀へがあ゙!!!勝ぅぃ荷ぃギリハアアァぁああ!!!!!」

雄たけびをあげるメッツ。
天高く。
獣のように。
地面に響くような声。
その狂戦士はもう・・・・化物にしか見えなかった。

「チェスターでも・・・・駄目だったわ・・・・」

マリナは両膝をつき、
そして両手で顔を覆った。
















真っ暗だった。
何も見えない。


「そっか、オイラは負けたのか・・・・・」

チェスターは真っ暗な世界の中。
重い体を動かそうとも思わなかった。

「メッツに殺されるならしょうがないか・・・・・・」

真っ暗な世界。
体も動かない世界。
そこでチェスターはとうとう目をつぶろうとした。


              負けるのか?チェスター

声のようなものが聞こえた。

「・・・・・・?・・・・・・誰ジャン?シショーか?」


声は答えた。

              誰だろうか。お前がよく知っていて、
              それでいてお前にとってどうでもいい他人だ。

何を言ってるか分からないし、
誰なのかも分からない。

「他人が何のようだよ・・・・・・・休ませてくれよ・・・・・」

声にそんな気はなかったようだ。

              お前は負けるのか?
              それでいいのか?

「・・・・・・・・・負けたんだよ」

チェスターは目をつぶった。
楽になりたかった。

              質問を変える。
              お前は負けが許せるのか?
              負けを受け入れていいのか?
              それでいいのか?

「・・・・・・・・・」   

              お前はなんだ?

「・・・・・・・・オイラは・・・・」






















「レイズ!早く!早くしてよっ!!!!」
「・・・・・・チッ・・・・・・・・焦らせるな・・・・・・・・」

レイズは木の側。
エクスポにスーパーヒールをかけていた。

「早くっ!早く!メッツがこっちに気付いちゃぅ!!」

レイズの手から発せられる光。
回復の聖なる光。
だが、エクスポは目覚めない。

「・・・・・・・クソッ・・・・・」

レイズの横腹から血がとめどなく流れる。
残り少ない魔力を全てエクスポに回しているからだ。
自分の毒に回す魔力などない。
だが、
エクスポを助けても、
まだイスカと、そしてチェスターも助けなければいけない。

「・・・・・・・最後の一本・・・・・・・」

レイズはマナリクシャを取り出し、
そして一気に飲み干す。

「早くっ!早く!!!!」
「・・・・・・・・・焦らせるなって言ってるだろ・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」

マナリクシャの瓶を投げ捨て、
回復を再開する。
マリナが焦る理由も分かる。
勝利に酔いしれているメッツ。
狂い叫んでいるメッツ。
見つかったら最後だ。
実際レイズだって焦りは隠せない。

「あ゙ァぃイ?」

「や、ヤバッ・・・・」

見つかった。
メッツの照準の合わない目がこちらを見据える。
獲物を見る目。
ただ殺そうとする目。
それがこちらを見据える。

「しょ、しょうがないわ!」

マリナがギターを構える。

「私が相手するしか・・・・・・・」

相手なんて出来ないのはわかっている。
だが、マリナはギターを構えて立ち向かうしかなかった。
そしてそれに応えるように、
いや、応えずとも襲い掛かってくるだろう獣。
ケモノでバケモノ。
メッツがこちらに歩を・・・・・・・・


「・・・・・・オイラは・・・・・・・・・・・」

メッツが声に反応して振り向く。
首だけを不気味に半回転させるように振り向く。
その先には、

「・・・・・・オイラはスーパーヒーローだぜ?」

血だらけのチェスターが立っていた。
全身血だらけ。
特に頭からの流血がひどい。
自慢の金髪が赤く染まっている。
短髪だからこそ、吹き出るように血が流れ出ている。

「チェスターっ!!!!」

「手ぇ出すなって言ったじゃんマリナ・・・・・」

「そんな事言ってる場合!?」

「大丈夫・・・・・・」

大丈夫。
そんな言葉の似合う状況ではない。
見るからにフラフラ。
立っているのがやっとといった感じ。
限界ギリギリだった。
だが、チェスターは血のしたたる口を
笑みで緩めた。

「オイラは・・・ヒーローなんだ・・・・ヒーローってのは主人公ジャン・・・・・
 だからヒーローは負けない・・・・・・・最終回までは絶対死なないんだ・・・・・・・・」

フラフラの体をなんとか立ち上げ、
そしてチェスターは両手に力を込める。
イミットゲイザーの光。
それも今まで以上に多い。
全身全霊のエネルギー。

「だから・・・・・ヒーローは何度だって立ち上がるん・・・・・ジャン?
 そしてピンチになってから・・・・・必殺技で決める・・・・・
 ヘヘッ・・・・カッコいいジャン?・・・・・・今が・・・・・・・・・・・その時なんだっ!!!
 決めるぜメッツっ!!!!あ゙あぁぁああああああああああ!!!!!」

大地が震えるような気合。
溜まる気。
チェスターの全身から搾り出すようにエネルギーを溜める。
もう両手どころではない。
全身に気を出し始めているような。
そんな規模のエネルギー。

「ハハッ・・・・やっぱ全力まではいかないか・・・・・・・・いけて50%ってとこかな・・・・・」

チェスターは両手を合わせて突き出す。

「行くぞっ!師匠直伝っ!!!!イミットゲイザー零式(ゼロシキ)!!!!」

チェスターの全身の気が両手に集まっていく。
いや、全身の気が両手を発射台にするように燃えている。
輝き、震えている。
そして爆発するかと思う瞬間。

「エネミィイイイイイレイッッゾォンッッッゥン!!!!!!!!!!
 どがぁぁああああああぁぁぁあああああああああん!!!!!!!」

全身のエネルギーが発射された。
両手の発射台から発射されたエネルギー。
それは一言で"とんでもない"
騎士団の巨大な外門をも一撃で破壊してきたエネルギー。
巨大で強大なエネルギーの塊。
マイソシア最高の傭兵の代名詞。
エネミーレイゾン。
大砲を、バズーカを簡単に超えていく威力。

大気が揺れ、
大地が響く。
そして何もかもを飲み込むエネルギーが、
メッツに向かって全放出された。

「・・・・・・・・オイラの・・・・・勝ちだ・・・・・・・」

エネミーレイゾンはメッツを飲み込んだ。

メッツの悲鳴さえ聞こえない。
後ろの家を二件巻き込んだ。
地面がえぐれている。
まるでチェスターから真っ直ぐ先にだけ半円形の道ができているように。

「はぁ・・・はぁ・・・・」

その道の上には何も無い。
それが結果。
何もかもを飲み込み、
放出しエネルギーを全消失していたチェスターだけが残っている。

「140戦・・・・・・52勝・・・・・52敗36分け・・・・・・・・だな・・・・・」

チェスターがヒザをついた。
もう全てを使い果たした。
目をつぶれば楽になれる。
あとは目覚めるだけ・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・あ・・・・・・イ゙・・・・・・・・我・・・・・・・・・」

「「 !!?? 」」

立っていた。
えぐれた大地。
その一箇所。
そこにたった一つだけ立つ者。

我を忘れた狂戦士。

「ちょ、ちょっとウソでしょ!?」
「・・・・・・・・・ほんとにバケモノだな・・・・・・・・」

ヒザをついた状態のチェスター。
うつろな目線の先に見えるメッツの姿。

「・・・・・・ハハッ・・・・・・お前も・・・・・負けず嫌いだな・・・・・・ゴリラメッツめ・・・・・・・・」

だが、
チェスターにはもうヒザを立ち上げる力も残っていない。
そしてメッツは・・・・・

「・・・・ガ・・・・負ヶ・・・ァ・・・・・ナぃ・・・・・・・・・・」

立ったまま呟いていた。
もちろんメッツとて無事な状態ではない。
全身の力が抜けたような、
傷だらけの状態で、虚ろな両目は空を見上げるようで、
体は立ったまま指一本動かない。
まるでモノのよう。
放心状態。
だが、
ただただ、
つぶやく。

「・・・・・・・・・・ォ・・・・・・・レは・・・・・・・負ゲレナ・・・・・・・・・
 ・・・・ド・・・・・・ジア・・・・・・・・マも・・・・・・る・・・・・・・・・強キ・・・・・・奈キゃ・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・負けレ・・・・・・・・なィ・・・・・・イいショ・・・・・・・・勝血・・・・・・・・・・・」

立ちすくむメッツ。
ただつぶやくメッツ。
立っている理由。
全てを捨ててでも力を欲した理由。
そんなもの一つしかない。

負けたくないからだ。

メッツはロウマに負けた日から・・・・・
ロウマに弱者と呼ばれた日から思いつめていた。
自分は負けれない。
負けたら守れない。
強さ。
その自信。
それだけが何かを守るための全てだった。
人一倍の強さ。
それだけが自分の自信であり、誇りであり、
そして自分の全てだった。

自分の価値を見失った。
自分には何も守れないんじゃないかと恐怖さえした。

打ち砕かれたメッツは自我も残らない狂人になった。

「・・・・・・・・ド・・・・・・・ッて喪・・・・・負ヶた・・・・・ナい・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・勝・・・・・・ヵ・・・・・・カッ・・・・・・ツ・・・・・・・カつ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・ヵ・・・・・・・・・・・・・・・・・カ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

マリナとレイズは見守っていた。
言いたい事は伝わる。
もう自分ではどうしようもないチェスターも、
虚ろにしか見えなくても伝わる。

「・・・・・・・ほんと・・・・・・・・馬鹿ゴリラだなっ・・・・・・・・」

チェスターは血を垂らしながら笑う。

「本当に馬鹿よね」

マリナが歩く。
メッツに向かって。
ゆっくり。
恐れなど何もない。
仲間なのだから。
歩き、
そしてメッツの前に立つ。

「ほら、終わったわよメッツ」

マリナがメッツの顔に手を添える。
だが・・・・・・

「!?」

マリナが驚いて振り向く、
レイズに向かって振り向き、
そして叫ぶ。

「レイズ!そっちはいいから早くこっちにっ!!」
「・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・」
「息がないのっ!!早くリバースをっ!!!!」
「・・・・・!!??・・・・・・」

レイズがエクスポの治療を放り出し、
走る。

「本当に馬鹿なんだから・・・・・・・・死ぬまで立ってるなんて・・・・・・」

涙で崩れるマリナ。
レイズは駆け寄るなり、
立ったままのメッツを寝かせ、
リバースのスペルに入る。


「・・・・・・・ハハッ・・・・・・・・・」

駆け寄る事もできないチェスターは、
とうとう力尽きて地面に倒れた。
そして倒れたままつぶやく。

「・・・・・・・・・メッツは・・・・・・ほんとに負けず嫌いだな・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・いいや・・・・・・・"ツケ"だぜっ?・・・・・・引き分けにしといてやるよ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・140戦・・・・・・51勝52敗・・・・・・・・・・・・37分け・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・あ〜ぁ・・・・・・・・まだ負け越し・・・・・・・ジャン・・・・・・・・・・・・・・・・・」

そこでチェスターも意識を失った。
いつもなら、引き分けに納得などできないが、
今は満足感に浸っていた。

そして一時の眠りについた。

眠る前に
また先ほどの知らない声が聞こえたが、

褒めてくれたのでイヤじゃなかった。


















                 






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