「アッちゃん!どうしてここにっ!?」

ダニエルが叫ぶ。
先ほどまでの変態的な表情は見当たらない。

「どうしたもこうしたも。ここにいる理由なんて一つしかないですよ」

アレックスが笑顔で返す。
そう、
ここにいる理由など、戦争に参加している以外に理由はない。
ダニエルの表情が変わってくる。
驚きの表情から少しづつ・・・・
焼けど痕のあるホホをひくつかせ、
少しづつ笑顔に変わっていく。

「そ、そか・・・そゆことか・・・・いや、まぁそりゃそうか・・・・
 いや、でもアッちゃん久しぶりだなっ!ホント・・・・元気してたん?」

「まぁそこそこに・・・かなぁ?」

「ハハ・・・・いや・・・ほんと・・・・こんなとこで会えるなんて・・・・
 アッちゃんはもう終焉戦争で死んだもんだって・・・・・・」

ダニエルは両手で顔を覆った。
まるで・・・
まるで泣いているかのように顔を覆い、
そしてうつむいた。

「・・・・・・・嬉しいぜ・・・・・・」

感度のあまりか、
ダニエルの肩が動く。
ひくっ・・・ひくっ・・・・と。
そして、

「嬉しいぃいいい!!!」

突然に顔をあげて叫んだ。

「ちょ?!アッちゃんが生きてたって事はぁ!?
 つまりぃ!?この俺がアッちゃんを燃やせるって事じゃんかぁぁあああ!?」

また、ダニエルの顔は愉悦の顔に戻っていた。
その満面の笑みは、
今まで以上。
最高の喜びとでもいえるほどに甘く緩んでいた。

「はぁ・・・・やっぱダニーも変わってないか・・・・・」

アレックスは額に手を添えて、
ため息をつきながら首を振った。

「お、おいアレックス・・・・状況が飲み込めないんだけどよぉ・・・・」

ドジャーがアレックスに聞く。
ついでにチェスターとナックルも同じくといった顔をしている。
いや、まぁそれはそうだ。
アレックスとダニエルの関係など、
どこの誰もが知るわけがない。

「えっと・・・まぁ話すと長くなるので短めに話します」

「そりゃ助かるな」
「オイラにも分かる程度にしてくれよっ!」

算数ができるかも分からないチェスター。
そのチェスターに分かる程度となると・・・・
と考えていると頭が痛くなるので、
まぁ気にしずにアレックスは説明を始めた。

「いや・・・まぁ簡単に言うところ・・・彼、ダニーは・・・・・・元王国騎士団でして・・・・・」

「あん?!あれが騎士団!?」
「へ?」
「マジッスか!?」

驚くのも無理はない。
これほど騎士という言葉が似合わない男もそうそういない。
誇りもクソもあったもんじゃない。

「自分!自分はあんなやつ知らないッスよ!」

ナックルがアレックスに訴える。

「そりゃぁナックルさんは44部隊の一番下っ端・・・じゃなくて一番新人ですからね
 ダニーが騎士団を脱退したのは結構前ですから」

「カッ!あんなやつが騎士団ってのもおかしいが、なんで脱退したんだ?
 俺にはあんな見るからに狂った奴、クビになったとしか考えられねぇんだけどよぉ」

「ヒャハハハ!それは俺に聞くべきじゃね?」

ダニエルは嬉しそうに俺俺!と自分を指差す。
そして感傷に浸るように、
まるでクラシックでも鑑賞するように話し始めた。

「騎士団も面白かったなぁ・・・・討伐やら攻城戦やらで燃やす相手に困らなかったしなぁ・・・・
 毎日燃やして燃やして・・・・人も・・・モンスターも・・・・燃やして燃やして・・・・・・・・・・・・・・
 でもよ。王国騎士団って当時最強なわけじゃん?つまり敵のが弱いんだよねー・・・・
 つまり・・・燃やしがいがない!飽きた!ヒマ!んで出てった!ヒャハハハ!」

何が面白いのか、
ダニエルは笑い始めた。
相変わらずのダニエルを見て、
アレックスはまたため息をつく。

「まぁダニーは王国騎士団と戦うために王国騎士団を出てったんですよ・・・・」

「アホだ・・・」
「わけわかんね・・・・」
「・・・・・・・・・」

「馬鹿やろっ!ふざけんなテメェら!少し想像してみろよ?」

ダニエルは怒る。
そしてこう想像しろと、
指を立てて上目遣いで、自分も想像しながら話す。

「俺は騎士団時代から危ないイカれた野郎だったんだけどよぉ」

「自覚はあんだな」

「うっせ!聞け!・・・・・・でよ。
 そんな俺にも騎士団の野郎共ってのは「同士同士」って良くしてくれるわけだ。
 しかもさすが当時最強の王国騎士団!かなりの腕っ節ばかり!
 力を持ってるのにこんな俺に優しくしてくれる・・・・・・・涙が出るくらい感動だ♪」

優しさ。
感動。
ダニエルに似合わない言葉だ。
だが、
それも次の話で納得がいく。

「それをよぉ・・・そんな最高の仲間をよぉ・・・・・"燃やせるんだぜ?"
 今まで兄弟より仲良くしてくれたあいつも・・・・あいつも・・・・・・・
 灰にするまで・・・・燃やしつくすまで・・・・ハハ・・・・・・・最高じゃね?最高じゃねぇぇえ!?」

もう愉悦の極み。
仲間を燃やす。
その想像だけでダニエルの口からはヨダレが溢れてきていた。

「と、ともかくダニーは王国騎士団をやめた後、
 攻城戦目当てで1点々とギルドを回っていったわけです」

「点々としてた理由は俺にも分かるぜ」

ドジャーはダガーをくるくる回しながら、
皮肉な微笑をして言う。

「あんな性格だ。どこも長続きしねぇんだろ?
 カッ!俺だったら5秒で《MD》から追い出すぜ」

「そういう事です。ダニーはギルドに入っては炎のように問題を起こして出て行く問題児。
 暴走するわ、仲間燃やすわでどこいってもお払い箱。入って出て入って出て。
 どこかで点いては消え、点いては消え、まるで炎のように・・・・
 だからそのうちダニーは『チャッカマン』なんて呼ばれるようになりました・・・・」

まぁアレックスの話。
それでダニエルの素性は分かった。
つまりは燃やしたい欲望の思うがまま、
すきなとこに入ってはボヤを起こして出て行く貧乏神のような人間であると・・・・

「・・・・でダニエルの素性は分かったけどよ。おめぇとの関係はよく分かってねぇぜ?」
「ばっかだなドジャー!元同僚なんだよっ!」
「アホか!そんくらい分かってるってのっ!」

チェスターは頭に???を浮かべた。

「えっとですね・・・・まぁつまり・・・騎士団時代仲良かったわけなんですが・・・・
 なんでか気に入られちゃってて・・・・僕を燃やしたいらしいんですよ・・・・」

「はぁ〜?」

「そうそう♪」

ダニエルは目を輝かせて話し出す。

「アッちゃん・・・アッちゃんほど最高に燃やしがいのある男はいねぇんだよ!
 もうなんつーの?素材?腕っ節とかもいいんだけどよぉ・・・その性格?
 マジィィ・・・顔に偽善に捕らわれない性格・・・・・・
 作戦と表して姑息卑劣も極め・・・・決して真っ直ぐでないその性格・・・・・」

「それは褒めてるんですか・・・・」

「褒〜めてるに決まってんじゃぁ〜んアッちゃぁ〜ん♪
 アっちゃんは俺を肯定してくれた唯一の人間なんだじぇ!?
 なぁ〜アッちゃぁ〜ん・・・・・・・・・・・」

ダニエルが右腕を一振りする。
その右腕についてくるかのように、
炎が揺らめき振られた。
そしてダニエルがその炎を片手で握り締めて言う。

「燃やさせてくれよん♪」

「やですよ・・・・」

アレックスは即答した。
まぁOKなんて普通言わない。
たとえ世界有数のマゾだろうと、OKしないだろう。

「ケチアッちゃん!燃やさせてくれよ!俺はそれが生き甲斐なんだよっ!」

「駄目です。イヤです」

「なんでだよっ!」

「燃えるが嫌だし、面倒だからです」

「・・・・・・・・・・クッ・・・・ヒャーーーハハハハハ!さすがアッちゃんだぁ!!!」

わけのわからない大笑いをするダニエル。
なにやらツボに入ったのか、
ともかくアレックスの一言一言が本当に気に入ってるらしい。
それでアレックスはまたため息をついた。
逆にドジャーは大笑いして言った。

「カカカカッ!!アレックスも大変だなっ!変なホモ野郎に気に入られてよぉ!
 カカッ!だけどよぉ!アレックスのどこにそこまで気に入るもんがあんのかねぇ!」

ドジャーも大笑いして言った。
アレックスはそれにはムッとした。
ムッとしてドジャーを見る。
そして

叫んだ。

「今なんつったテメェエエエエエエエ!?!?」

叫んだのはアレックスではない。
怒ったのはアレックスではない。
ダニエルだった。

そしてドジャーに向かってファイヤーボールが飛んできていた。

「!?・・・・のぁっとぉ!」

ドジャーは咄嗟に得意の足で跳んで避ける。
そして着地するなり、
ダニエルに叫ぶ。

「テメッ!いきなり何すんだこの野郎!」

「うっせぇ盗賊が!むかつく事を口にすっからだ!」

「あん?ホモ野郎っつったのがそんなに気に入らなかったか?」

「違う!俺のアッちゃんを馬鹿にしたなっ!」

「はぁ!?」

ドジャーをよそに、
ダニエルの両腕に炎が渦巻く。
火炎と呼ぶべき大いなる炎が二つ。
そして右、左とダニエルが腕を振る。
炎を投げるように振る。
二つのフレアバーストがドジャーに吹っ飛んでくる。

「ちょまっ!?」

ドジャーが横っ飛びで避ける。
ドジャーの瞬発力をもってしてもギリギリ。
本気で殺しに来たフレアバースト二つ。
それは地面に炸裂し、
炎を破裂させて爆発を起こした。

「くっ・・・」

ドジャーがゴロゴロと、
軽い体を爆風に任せて転がり、
そして体勢を整えてダニエルに叫ぶ。

「てめっ!なんなんだっ!敵のアレックスを馬鹿にされてなんで怒ってんだチクショー!」

「当たり前だっ!アッちゃんを馬鹿にされて怒らずにいられるかっ!
 アッちゃんの敵は俺の敵だ!燃やして消し屑にしてやらぁぁぁあああ!」

ドジャーは「はぁあ?」と顔をイラツキの混じった疑問顔になる。
まぁ実際意味がよく分からない。

「てめっ・・・アレックスの敵は敵だぁ?んじゃお前はアレックスの味方なのか?」

「アッちゃんも敵だ!俺が生涯を掛けて一番燃やして燃やして・・・・・
 そんで燃やし尽くしたい・・・・・・・・そんな灰でHIGHな最高の敵だ!」

もう訳が分からない。
当のアレックスも訳が分からない。
だからアレックスは両手を合わせ、
目を輝かせながら言ってみた。

「僕のために争うのはやめてください!」

ドジャーはアレックスのその言葉に、
かつてないほど顔を歪めた。

「アレックス・・・・お前、俺にケンカ売ってんのか?」
「言ってみただけです。人生で一回は言ってみたい言葉じゃないですか」
「・・・・・・アホか。俺は人生で言われたくない言葉ワースト5に入るっての・・・・」

ドジャーは気が抜けたようにため息をつく。
ダニエルは相変わらずアレックスの言葉に大笑いをしていた。
そして・・・・

「はいはいはいっ!!!」

チェスターが威勢のいい声と共に、
これでもかというほど手を大きく挙げて言った。

「さっきからオイラが目立たないっ!」

わけのわからない所で割り込んでくるチェスター。
それに対し、
ドジャーはもう一度ため息をついた。

「チェスター・・・・お前は隅っこでヒーローごっこしてろ・・・・」
「あっ!馬鹿にしたなドジャー!これは大問題なんだぜっ!?
 だってスーパーヒーローは主役ジャン!脇役になっちゃ駄目ジャン!」
「チェスターさん。脇役は楽でいいですよ。楽できる役が一番です
 僕は小学部の学芸会で即効で木の役を立候補しました。即決でしたよ」
「ヤダッ!オイラはスーパーヒーローだもんねっ!目立ちたいっ!
 それにさっ、あいつはオイラとナックルが戦ってたんだぜっ?」

チェスターはビシッと指を突き出す。
ダニエルに真っ直ぐ。

「オイラとナックルであいつの腕をボロボロにしてやったんだっ!
 続きもオイラ達にくれるべきジャンッ!」

それに対し、
ダニエルもニヤァーっと笑った。

「ほぉ〜?ボロボロだぁ?俺の両手はすでにセルフヒールで結構治ってきてんだぜぇ?
 ・・・・・・でもいいぜ♪こいよこいよ♪お前を燃やしたいのは俺も同じだかんな♪」

そう言い、右腕炎を渦巻かせ、
その炎の付加された右手でチェスターを挑発する。

「なんせあの『ノック・ザ・ドアー』だ!ここ最近では一番の獲物!
 ひひ・・・・・・ヒャハハハハ!アッちゃんほどじゃないけど最高に燃やしがいが・・・・」

「駄目ですよダニー」

いきなりアレックスが言う。

「僕が許しません。チェスターさんと戦っちゃ駄目です」

「え〜〜♪やだやだ燃やしたいん♪・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、いいじゃねぇかアッちゃん。
 俺は燃やしてぇんだよ。俺ぁこの本能だけで生きてきてんだ。これだけはよぉ・・・・」

「戦うんなら僕は自殺しちゃいますよ?」

「ちょ、ちょまっ!アッちゃん死んじゃ駄目だぁぁああああああああ!!!
 アッちゃんは俺が燃やすんだ!俺が燃やして灰にしたいんだぁぁああ!!
 わ、分かった・・・・分かったよん♪・・・・アッっちゃんが言うなら戦わな〜い♪」

ダニエルは焦る。
両手をぶんぶん振りながら、戦う意志のないことを表現する。
もう思考回路がどうなってるか分からないが、
こうなると可愛いものである。

「もう訳分からん・・・・・」

ドジャーが耳をぐりぐりをほじりながら言う。

「んで?結局この場は収まったのか?」
「まぁ・・・・そうですね・・・・」
「んじゃさっさと進むぞ」

ドジャーは何かよく分からないが、
胸糞悪いので、ツバを吐き捨てた。

「あっまてよアッっちゃん!俺はアッちゃんを燃やしてぇんだよぉおおお!」

「ドジャー!悪者退治に行くならオイラもぉ〜!」
「・・・・・・チェスター・・・・」
「ん?」

チェスターに話しかける一つの声。

「どしたんナックル?ナックルも一緒に行く?」

チェスターは何故か下を向いているナックルに言う。
だが、ナックルは下を向いたまま返事をする。

「ごめんチェスター・・自分はいけないッス・・・・」
「なんで?一緒にいこうぜっ!だってオイラ達仲間ジャンっ!」

チェスターはナックルに駆け寄り、
そしてナックルに手を差し伸べる。
その光景。
アレックスは楽しそうに眺めていたが、
ドジャーは「くさくて見てられねぇ」といってそっぽを向いた。

「仲間・・・ッスか?」
「そう仲間!」

チェスターは笑顔で言う。
が、

「誰が・・・・・・誰があんたなんかの仲間ッスかあああああああああ!!!!」

突然。
ナックルはその右手の大きなディスグローブで殴りかかってきた。
おもくそ。
ディスグローブの重さと強度に任せた、
アッパー。

「うわっ!」

それは殺意がこもっていた。
チェスターは咄嗟にバク転でそれを避ける。

「なっ、何すんだよナックルっ!オイラ達仲間じゃんかっ!」
「仲間?違うッスね。自分の仲間は・・・・・・44部隊の先輩達・・・いや、王国騎士団の同士達っス!!!」

ナックルは、
その拳を、
ディスグローブをおもくそに地面に打ち込んだ。
地面。ミルレスの細いレンガの地面。
そこにひびが入る。

「チェスターがあの傭兵『ノック・ザ・ドアー』だったんスね・・・・
 チェスター・・・あんたは何人も・・・何十人も・・・・何百人も・・・・・・・
 自分の同士を!騎士達を殺したただの畜生野郎ッス!!」

その言葉に、
チェスターは胸を貫かれた思いだった。

ナックルとは先ほど会ったばかり。
だが、
人生でこれほどまでに気の合う人間はいなかった。
数十分の付き合いだが、これ以上の友達などできないかも。
そう思えるほど、素晴らしい友に出会えたと思っていた。
だが、
それは自分が過去にしてきた事によって簡単に千切れた。


「チェスター・・・その拳で内門をやぶり・・・・騎士を殴り・・・・・
 あんたのせいでどれだけの騎士が死んだと思ってんスか!?」

そうだ。
チェスターはナックルの仲間達を殺してきた人間以外に他ならない。
数ある戦を共に超えてきた騎士の同士。
それを・・・・殺したただの憎い相手。
ナックルにとって・・・・いや、騎士にとってチェスターは憎悪の的以外の何者でもない。
だからアレックスは44部隊とチェスターをあわせたくなかった。
アレックスのように、
戦争では"敵が悪いわけでなく味方が良いわけでもない"
・・・・といった考えを全ての騎士が持っているわけでないのだ。

「まっまってよナックル!オイラはナックルと戦いたくないっ!」
「自分は・・・・・・・・チェスターを殺したくてたまらないッス」

その言葉に、
チェスターは涙目になっていた。
アレックスはチェスターと何度も顔を合わせたわけではないが、
悲しそうな顔をしているチェスターを見るのは初めてだった。
本当にいつも笑顔しか出さない。
そんなキャラだと短期間でも分かるような人物だったからだ。

「チェスター!!」

ナックルが拳を構える。
その強固なディスグローブは、
チェスターに殺意を持って向けられていた。

「あんたが嫌でも!自分は・・・・自分はぁああああああああああ!!!」

今にも、
ナックルが飛び出そうと・・・・

チェスターも、
やむなく反撃の構えをとろうと・・・・・・・

その時だった。

「!?」
「うわっ!?」

ナックルの足元。
チェスターの目の前。

その地面に・・・・・・・・一つづつ。

黒い。
闇のように黒い・・・・・・・・剣。
黒い剣が突き刺さっていた。

「ぬぁぁ!見てて面白いとこだったのにっ!誰だ!」

ダニエルが叫ぶ。

「ちょ、ドジャーさん・・・あの黒い剣・・・」
「・・・・・・・・・・あぁ」

アレックスとドジャーが同時。
一方を振り向く。
燃える。
燃えるミルレスの中。
一つの屋根の上。

見上げる。
気付く。
一つの影。
そして、
空は夕闇に染まりかけている事にも気付く。
夜の闇に覆われる前に・・・・・
夕日を背に一つの影。

「フフ・・・・・焦らず血を流さずとも・・・丑三つ時まではまだ時間がございます」

その影の口元。
それが笑みで歪むのが見えた。
笑み。
微笑。
それは・・・うっすらと影の中に見える・・・・・・・・・ヒゲの下に。

「料理には順番がございます。オードブル・・・メインディッシュ・・・・・・・。
 順番を取り違えないようこの楽しい戦争(ひととき)を楽しんでいただきたい」

「・・・・・・・・ピルゲンっ!!!」

「おぉ・・・・・」

ピルゲンは夕日を背にしたまま、
黒いハットをぬぎ、
大きく礼をした。

「ごきげん麗しゅうジェントルメン。久方ぶりでございます」

そんな舐めきった態度をとるピルゲン。
突然現れたピルゲン。
そんなピルゲンをドジャーは睨みながら、
アレックスの肩に手を置く。

「チッ、出やがったぜアレックス。やっぱ絡んでやがった・・・・
 ミダンダスの言ってた"ミッドとアス"!!!ミッドガルドとアスガルドのキーワード!
 あのキーワードはやっぱピルゲンを指してやがったんだ!!!」
「・・・・・・・・」

アレックスは・・・・
何故か無言だった。

「いたぞ!敵だぁー!!!!」

またそれとは逆方向。
そちらからは・・・・
10人ほどのGUN’Sメンバー。

「ダニエル様がいるっ!」
「敵もだっ!」
「《MD》のメンバーが三人もいるぞー!」
「44部隊のやつもいるっ!」

どうやって駆けつけたか。
そのGUN’Sの男達はここに駆けつけた。
それも・・・・おそらくGUN’Sの精鋭。
素人目でも分かるほど見た目が違う。
一概に高価な装備を付けているし、
その10人は一人一人立ちずまいが違う。

「チッ、いつの間にか俺の部下一号がいねぇ・・・・・・
 あのアホ・・・・・応援呼びやがったのか。いらねぇ事を・・・・」

ダニエルが言う。

「カッ!これで確定だぜアレックス。
 ピルゲンはGUN’S側に加担してやがった!!!!」
「・・・・・・・・・」

アレックスはまた無言。
いや、何かを考えているようだった。
こんな状況であるのに・・・・・深く、
思考を全開で回転させているような・・・・・

「チッ!」

ドジャーが両手にダガーを持つ。
臨戦態勢。
GUN’Sの精鋭。
そしてピルゲン。
両方に戦闘の意識を合わせながら・・・・・
だが、

「やれやれ、料理は順番だといったばかりでございますのに・・・・・・・・」

ピルゲンはそんな事を言った後、
両手をゆっくり・・・・・
下から上へ・・・・広げ・・・回す。
何をしたかと思った。
が、
夕日に影として映っていた。

ピルゲンの周りに・・・・・・・・

10本の黒い剣が浮いていた。

「漆黒に啼いて・・・死に踊れ!」

大きな音はしなかった。
ただ・・・ヒュンッと小さな音が鳴り、
そして黒い10本の影が横切った。

まるでうめき声と悲鳴がライトになったようだった。

気付くと・・・・・

GUN’Sの精鋭達10人。
・・・・全員の胸に・・・・・・・黒剣が貫かれていた。

「夜の闇までは早いのが残念ですね。闇の中でなら・・・・・・漆黒の中でなら・・・
 血も見えず・・・・・・血のぬくもりだけを感じられるのですがね」

10の死体が、
そこに簡単に生成された。
さきほどまで動いていた10人の男達は、
闇のように黒い剣。
妖刀ホンアモリに貫かれ、
まるで墓のように羅列している。

「な、なんだ・・・・」
「どういう事になってんだよっ!」

ドジャーとチェスターが状況を飲み込めず、
困惑する中・・・・・

「くっ・・・・!!」

ナックルが突然体をひるがえし、
燃えるミルレスの町の中に消えていった。

「あっ!ナックル!どこ行くんだよっ!」

「おやおや、困った方です。ロウマ殿から私に会うように言付けられているはずですのに・・・・」

「テメッ!ピルゲンっ!どういう事だっ!てめぇはGUN’S側じゃねぇのかっ?!」

ドジャーが叫ぶ。
だが、ピルゲンは軽く微笑するだけだった。

「私は血と血が交じり合うのを見たいだけでございます。
 まぁ・・・ここは戦場。月夜輝くダンスフロアと化したらそれもまた絶景・・・・
 ご縁がありましたら・・・・また会うこともございましょう・・・・・・」

「ピルゲンッ!!!!逃げる気かっ?!」

「せっかちな方でございますね・・・・。あ、そうそうアレックス殿」

ピルゲンは思い出したようにアレックスの方を見る。
そして言う。

「そろそろ・・・・見えない漆黒の中を想像すべきでございましょう。
 闇の中を見るという行為はまるで夢のようでございますな。
 しかし・・・それが一歩前へ進むためになりましょう・・・・・・それでは」

ピルゲンは黒いハットをはずし、
また大きく礼をする。

「皆様ごきげんよう。また戦場のどこかで・・・・・・」

その言葉を最後に、
ピルゲンを闇が包み・・・・
そして・・・まるで影の欠片しかそこにはなかったかのように・・・
ピルゲンは姿を消した。

まるで夢幻。
通り過ぎる風のようだった。


「クソッ!もう状況がどうなってるのか訳わからねぇ!」

ドジャーがイラツキを表し、
そしておもくそにダガーを投げる。
それは燃える一本の木に深く突き刺さった。
アレックスはまだ無言だった。

「ド、ドジャー・・・・」
「おいチェスター」

ドジャーに話しかけたチェスターに、
逆にドジャーが言葉をかける。

「てめぇは東に向かって他の奴らと合流しろ」
「えっ!?なんでだよっ!」
「あいつらじゃメッツと対等に戦えねぇ。お前じゃねぇとな」
「はぁ!?メッツ!?なんでメッツと戦ってんだよっ!?メッツは味方ジャン!!」
「・・・・・・」

それにはドジャーを言葉を返さなかった。
メッツを味方と聞かれ・・・・・・
YESとも・・・・NOともいえない。
だが、
戦っているからには、
仲間に牙を向けているからには・・・
敵というべきなのかもしれない。
その言葉を、ドジャー自身は発したくなかった。

「と、とにかくいった方がいいんだなっ!」

チェスターはドジャーに返しづらかったのか、
それだけ言い、
他の《MD》メンバーのいる東へと走っていった。


「・・・・・・・・・・・・」

アレックスはまだ無言だった。
ずっと何かを考えているようだった。
それは酷く真剣だった。

「おい、アレックス!さっきから聞いてんのかクソッタレ!」
「・・・・・・・・」
「クソッ!なんか考えてんのは分かるけどよ!なんか言えよ!・・・・・・だぁーチクショゥ!!
 アレックスはだんまり!!ピルゲンはわけのわからん事を言う!もうわけが・・・・」
「ピルゲンさんは・・・・・」

やっとアレックスが言葉を発した。

「いや、ピルゲンさんが言った漆黒の中を探す・・・という言葉・・・・
 あれは・・・・"まだ分からない事を考えてみろ"という事だと思います・・・・・・・・」
「あぁん?」
「それが・・・・先に進む一歩だと・・・・・」
「カッ!アホかっ!分かるも分からないも本拠地乗り込むだけだっ!ぁあ!?そうだろが?!」

ドジャーがツバを吐き捨てる。
だが、その不機嫌そうな態度をとっても、
アレックスはまだ何か考えている。
思考を錯誤している。

「・・・・チッ、まぁ分からないっつったら・・・・・GMドラグノフの正体くらいか・・・・」

ドジャーがポロリと言った。
だが、そのさりげない一言に、
アレックスは反応した。
ドジャーを真っ直ぐ見る。
だがすぐ顔をそむけた。

「・・・・いや、違う・・・・あと、あと一つ何か手がかりがあれば・・・・
 この全てが繋がるような・・・・・・そんな・・・・・・・・・・」
「あぁもう!なんなんだお前は!」
「ピルゲンさん・・・・ミッドとアス・・・・違う・・・・いや、それなんだ・・・・・
 そこでピンっきたんだ・・・・でも何がピンときたのか・・・・・・・・くそぉ・・・あとひとつ・・・何か・・・・」

ドジャーをそっちのけで考えているアレックス。
ドジャーはイラついて、
片足で地団太を踏む。

「おい!アレックス!」

「アッちゃん」

ドジャーを言葉をかき消すように、突然話しかけてくる声。
誰かといえば一人しかいない。
この場。
ここにアレックスとドジャー。
それ以外にいるのは・・・・ダニエルしかいない。

「ドラグノフの正体が知りたいんだろアッちゃん。
 その"あとひとつ"っての・・・・・・・・教えてあげちゃおっかぁ?」

「!?・・・・テメッ!ダニエル!知ってんのか?!」

「知ってる♪・・・・けどあんたむかつくんだよね。
 アッちゃんとイチャイチャしやがって。ドジャーだったか?俺あんた嫌ぇだ。
 だからぁ〜・・・・・・・・♪・・・・・・・アッっちゃんにだけ分かるヒントを出しちゃうぜぇん♪」

ドジャーの血管がピシりときた。
そして気付くとダニエルの胸倉を掴んでいた。

「てめっ!自分勝手にヒントだとっ!?ざけんなっ!直入に言いやがれ!
 お前さっきからよぉ!燃やしてぇとかそんなわがままばっか言いやがって!
 ミルレスまるまる燃やすなんてわがまましたんだっ!今ぐらいそのわがままを・・・」

「お前と話すつもりはねぇ」

ダニエルはドジャーを睨み、
そしてすぐさま目線をアレックスにもどし、
表情も笑顔に変える。

「アッちゃん。"俺は燃やしてねぇ"・・・・・・
 これだけで・・・・・・アッちゃんならきっと分かるだろ?♪」

「てめっ!ミルレスはてめぇが!」
「ドジャーさんっ!!!!!!!!」

アレックスが大声でドジャーを止める。
ドジャーは驚き、
ダニエルはニヤニヤとそのアレックスの表情を観察し、
アレックスは・・・瞳孔を開いて地面の一点を見ていた。

「全部・・・・繋がりました・・・・・・」

そう、
アレックスは言った。

「はっ!?分かったのか?!」
「はい」
「何がだ!ドラグノフの正体かっ?!」
「はい」
「!?」

アレックスは少し歩いた。
そして夕日を見上げながら話す。

「ピルゲンさんが突然来て、それでなにかひっかかったんです。
 ミッドとアス・・・あのキーワードはやはり重要なものでした・・・・・・」

アレックスはまた歩く。

「そうですね・・・怪しいといえば怪しい・・・片隅に思うべきこと・・・・」

歩くアレックス。
ドジャーはわけもわからず、ただ黙って聞く。

「忘れてました・・・今思えば・・・"GUN’Sがやけに召集が早かった"
 それを思えばこれも繋がった事だったんです・・・・・・・・・
 GUN’Sの本拠地が地下にあった事・・・・あれも盲点でした。
 あれに気付くのが早ければ・・・・・共通点を探すのも早かった・・・・・
 だからドラグノフは六銃士に任せて出てこなかった・・・・・・・・」
「おいおい。まさか"ドラグノフはいなかった"なんて言わねぇよな?」

ドジャーが言う。
アレックスはクスリと笑って返した。

「!?・・・おい当たりか!?・・・・・・・・・・・・まさかっ!
 残ってる六銃士!ジャスティンが本当のGMドラグノフだとか!?
 あぁ!?それならいろいろと合点がいくっ!」
「違います」

アレックスがサラリと言うと、
ドジャーは一瞬口を止め、
そして呆れたように力を抜かして言った。

「じゃぁなんなんだ」
「僕達はナメられてたんですよ」

歩きながらのアレックスの返答。
ドジャーは首を傾けた。

「・・・・・・よく分からねぇ・・・」
「もう一度言います。"ナメられていた"んです。
 まぁ答えを追うなら・・・・やはりキーワードを追うのが一番でした」
「ミッドガルドとアスガルド。だからピルゲンだろ?
 あっ?!まさか・・・ドラグノフは・・・・ピルゲンかっ!?」

ドジャーの言葉に答えず、
アレックスが足を止める。
そして、
まっすぐドジャーを見据えて、
そして言った。

「"ミッドとアス"。僕達は勝手にこのヒントを・・・・・・・・
 "ミッドガルドとアスガルド"に結び付けていました。
 だからピルゲンさんに結び付けていました。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だけど違います。
 キーワードはあくまで"ミッドとアス"。それなんです。それだけなんです」

焦らすアレックス。
だが、ドジャーにもうイラツキは無かった。
ただ一言言った。

「言えよ」

アレックスは頷く。

「"ミッドとアス"。そのまんまです。つまり・・・ミッド&アスなんです」
「なんじゃそりゃ・・・・・・・・一緒じゃ・・・・・・・・・・・・っ!!??・・・・」

呆れる途中のドジャー。
だが、口を止めた。

そう、
ドジャーにも分かった。

「・・・・・・・・そういう事か・・・・・・・」
「はい・・・・」
「ククッ・・・・ミッド&アス・・・・ミッドandアスか・・・・・・・・・」
「はい。彼は言いました」

アレックスは空を見上げる。

「"全ては繋がっている"と・・・・・・・」


ゴンッ・・・・


鈍い音がした。
ドジャーが地面に自分の拳をうちつけた音だった。

そして、
ドジャーの表情は・・・・・・・・・怒りに満ち溢れていた。


「あの野郎っ!!!!ナメやがって!!!!!!」






ミッド&アス。

それは・・・・・・・・単純に・・・・・名前。


そう、
ミッド and アス。



MID and AS。









"MIDANDAS(ミダンダス)"























                 






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