「死レら蛾はハらへ!!!!!」

ドレッドの男(メッツ)は、
おもくそに右手の斧を振付ける。
それはイスカへ。

「クッ!?」

イスカは咄嗟に剣でガードする。
いや、
剣でガードするのも間に合わない。
暴走したメッツの恐るべき瞬発力。
イスカは剣を鞘に入れたままガードに回す。

「くっ!?」

イスカは吹っ飛んだ。
凄腕の剣士といえ女体。
岩だろうがふっとばすメッツの一撃に、
イスカは物のように吹っ飛んだ。
そして物のように転がる。

「いひ、へヘへ屁ふ腑・・・・がは覇っ!!!」

狂気のメッツは喜ぶ。
喜ぶように叫ぶ。
まるで野生の生物。

「メッツ!おいメッツ!」

ドジャーが叫ぶ。
親友。
そして家族。
そんなドジャーの声。
それは当然メッツの耳に届く。

「ん蛾?・・・ヴへ?・・・・・・死ぃ・・!!!」

だが、
ドジャーの声は、
メッツの耳から逆の耳に通り抜けた。
まるで風の音のように、
親友の声は虚しく親友の耳を通り抜けた。

「聞こえてないわっ!」
「チクショウ!」
「メッツさん・・・・・」
「どうなってるんだいこれは!?」
「・・・・・・・・・とにかく・・・・・・・・構えるんだ・・・・・・・・」

アレックス達は一斉に自分達の獲物を抜く、
槍を、
スタッフを、
ダガーを、
ギターを、
爆弾を、
だがそれが向けられている先は・・・・・・・・・メッツ。

「クソッ!クソッ!言わんこっちゃねぇこの馬鹿が!!!!!!」

ドジャーが唇を噛みしめる。

「完全に制御利かなくなってる!レイジ(憤怒)に完全負けてやがる!
 暴走なんてもんじゃねぇ!俺達の事も分からねぇ!自我が消えてやがる!!!
 今のメッツはただの化けモンだ!モンスターと代わりねぇ!!!」

変わり果てたメッツに、
一同はにじみ寄る。
いや、下がっている。
メッツはもう我を忘れすぎている。
仲間だろうと間違いなく・・・・・・・・殺しにかかってくる。

そこに一人、リュウが前に出た。

「この化け物風情!あっしの大事な子達を手にかけた借りを返させていただきやさぁ!」

「待てリュウ!」

イスカがフラフラと後ろから声をかける。
吹っ飛ばされただけだが、
その衝撃は想像を絶するものだったのだろう。
何せ制御のきかないメッツの全力だ。

「そいつは拙者らの仲間なのだ・・・」

だがリュウは木刀をブンッと振って言う。

「関係ないと言っときやしょうかイスカ嬢!コレはあっしの義理を断ち切りやがった!
 それにあんたを真っ二つにしようとしたコレが仲間たぁ笑い話でさぁ!!!」

そう・・・・
そこだ。
何故メッツがここまで狂い尽くすほど、
仲間が分からなくなるほど、
レイジに飲み込まれてしまったのか。

「ドジャーさんとはさっき話ましたが・・・・・
 メッツさんはロウマさんに負けたことを気にしすぎていました・・・・
 それで・・・・ガムシャラに力を求めてバーサーカーレイジを・・・・」

間違いないだろう。
精神が揺らいでいる時。
力を求めている時。
それが合わさったからこそのジャンキー。

「???薬を飲んだ量がハンパない見たいね。ここまで暴走するのは久々だわ」
「『クレイジージャンキー』・・・いや『レイジジャンキー』と呼ばれた頃を思い出すな」
「どうするんだい!?メッツは仲間だよ!・・・・・・・・・メッツを攻撃するわけには・・・・」
「・・・・・・だが・・・・・・やらなきゃ・・・・・やられるぞ・・・・・・・」

「ら等ア蛾ガハァあ!!!!?」

斧。
メッツの斧が飛んでくる。
投げ飛ばされた両手斧。
それはまずかに軌道をズレ、
マリナの横を通過する。
斧は後ろのミルレスの家に突き刺さり、
その家の壁はガラガラと崩壊した。

マリナは攻撃に反応さえできなかった。
ハラリと切れ落ちたブロンドの髪を見て苦笑いをし、
そして叫ぶ。

「やらなきゃやられるなんてもんじゃないわ!
 強すぎよ!私達じゃぁメッツの相手なんて出来っこないわ!
 44部隊とかロウマとか呼んでこないと話にもならないわよ!」
「・・・・・・・馬鹿かマリナ・・・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」
「そう、駄目さ。あいつらじゃメッツごと殺してしまうからね」
「カッ・・・・・・俺らしかねぇ・・・・メッツを止めてやれるのは俺らしかねぇんだよ!」

ドジャーがダガーを握り閉める。
そしてそのダガーを向けるべき相手は・・・・・
生涯を友にした家族。親友。
メッツ。
それは・・・・あまりにも・・・・・・・

「ドジャー」

エクスポがドジャーの前に手を出した。
まるで遮るように。

「さっきの作戦覚えてるかい?」
「あん?」
「さっさと突破するって事だよ。今は戦争の真っ最中だ」
「はぁ!?どういう意味だよ!!」
「こういう意味よ」

マリナ、イスカ、レイズも
ドジャーの前に立つ。

「・・・・・・・・・・・お前と・・・・アレックスは・・・・・・さっさと本拠地を目指せ・・・・・・」
「あの馬鹿は拙者らが責任を持って止めておこう」
「何言ってやがる!」
「あんたじゃ役に立たないって言ってんの!その手のダガーでメッツを攻撃できるの!?」
「クッ・・・・・・」

ダガーを握り締める手。
それは握り締めすぎて、汗ばんでいた。

「チクショゥ!!!」

ドジャーはダガーを勢いよく腰に収める。

「アレックス!行くぞ!」

アレックスはまだ心配そうにマリナらとメッツを見る。
が、決心したようで、
ドジャーに駆け寄る。

「・・・・・・・お前等・・・・・ちゃんと仕事しろよ・・・・・・・・・」
「手ぶらで帰ってきたら承知しないんだから!」
「まぁボク達も余裕があったら後を追うさ」
「お主らは・・・・・・途中でチェスターと合流しがてら本拠地へ突入しろ」
「チェスターか・・・・カッ!どこにいるのやらなぁ」
「アレックス。お主はドジャーが無茶しないよう頼む。お主ならそれができる」

アレックスは頷き、
ドジャーは唾を吐く。

そして無言のまま、

アレックスとドジャーはその場を後にした。


燃えるミルレスの中、
その場に残ったのは・・・・

マリナ、イスカ、レイズ、エクスポ。そしてリュウ。

対面には・・・・・もうメッツとは呼べない暴走人間。

「さぁて・・・・」
「どうしたものかしら・・・・・・・」
「・・・・・・チェスターがいれば・・・まだ相手できるんだがな・・・・・・・」






















S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<相手と味方と仲間と敵>>




















「あぁーらよっとぉ!!!」


短髪で金髪。
その修道士は、ピョンっと跳ね上がり、
一人の男を一蹴した。

「ヘヘーン!このスーパーヒーローチェスター君に叶うと思ってんのかよ!!」

チェスターが両手を頭の後ろで組み、
余裕の表情。
そして頭の上のワイキベベのチェチェも余裕の表情で笑っていた。

「クソォ!本戦はもっと中央なのに!」
「こんなとこで『ノック・ザ・ドアー』とかち会うとは!?」

GUN’Sの男達はチェスターを圧倒的な人数で囲む、
だが、それでも彼等には恐れが表情に出ていた。

「ヘヘヘッ!この構図!まさにヒーローを取り囲む戦闘員達ジャン!
 つまりここからオイラがバシッバシッ!と一網打尽って訳ジャンね?
 よぉーし!戦えチェスター君!負けるなチェスター君!
 明日の平和を守るため!マイソシアを助けるのは君だぁ!ジャキーン!!!」

チェスターがポーズを取る。
燃えるミルレスの戦場の中、
のん気なその男にGUN’Sの男達は呆れた。

「こいつアホか・・・」
「やっちまおうぜ!!!」

GUN’Sの男達が突っ込んでくる。

「きたきた♪はぁぁぁぁぁ!!!」

チェスターは両手に気を溜める。
チェスターの両手にイミットゲイザーの気が滞在される。

「ジャジャァーン!師匠直伝っ!イミットゲイザー弐式!
 ハイパーミラクルグレートスペシャルグロォーーーーーッブ!!!」

イミットゲイザーを両手に溜め込み、
そしてそのままチェスターは跳ぶ。
まるで猿かのような跳躍力。

「ほーら!ここだよぉん!」

チェスターが一人の男の肩の上に着地する。

「うぉ、わわわ!」

「へへへ、食らえ!どっかぁぁああああん!!!!」

チェスターが肩の上からそのままその男に拳を叩き込む。
男は無残に倒れさる。
そしてまたすぐさまジャンプ。
敵の真ん中。
敵の密集地帯に、惜しむことなく着地する。

「じゃじゃーん♪」

敵の密集地帯のど真ん中に笑顔で立つチェスター。
敵の密集地帯のど真ん中でポーズを決めるチェスター。
敵たちの超至近距離。
GUN’Sの男達も度肝を抜かれ、
すぐに攻撃できなかった。

「あっれ?攻撃してこないのか?
 チェっ!ヒーローにはピンチがあった方がかっこいいんだけどなっ!」

チェスターは両腕の脇を絞め、
しっかりと構える。
そして両手の拳には、どんどんと気がたまっていく。

「じゃぁここらでお終いといきますかぁ!?」

気が溜まりに溜まった。
チェスターの両拳が太陽のように輝き、
太陽のように熱を帯びる。

「師匠直伝っ!イミットゲイザー伍式・"改"!!!
 超絶!爆裂!連撃!・・・・えぇーっと・・・たくさんイミットゲイザー!!!
 はぁぁあああ!!!・・・・・・・・・・どどどどどどどどどどど!!!!!!」

チェスターの両腕からパンチが繰り出される。
それはイミットゲイザー。
両腕から無数のイミットゲイザーの連打。
いわゆる爆裂拳。
ショットガンのように放たれるイミットゲイザーが、
GUN’Sの男達を襲う。

「のぁぁ!!!」
「ぎゃぁ?!」

「どどどどどどどどどど!!!!!!!!!」

チェスターの決して大きくない体の、
どこにこれほどの気力が存在しているのか。
ショットガン?
いや、ガトリングガン?
それほどの量のイミットゲイザーが連打される。

「どどどどど・・・・・・・・プラァース・・・・・全方向♪・・・・・・・どどどどどどど!!!!」

それも・・・・
チェスターが叫んだ通り全方向。
拳は随時まっすぐ突き出すではなく、
右に、左に、
斜めに、
後ろに・・・・・・・・・

まるで全方向の、それも両手別々のあっちむいてほいのように。
さながら花火が飛び散るように、
全方向にイミットゲイザーが散弾する。

「どどどどどどっかぁぁぁぁぁぁん!!!!・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ・・・・」

連打を止めるチェスター。
立ち込める煙。
それは着弾したイミットゲイザーから立ち込める細い煙。
そしてチェスターの周りには・・・・

40・・・いや、60はいるだろう。
地面に倒れたGUN’Sの男達。

チェスターのイミットゲイザー伍式・改。
この技により、
ものの数秒でこれだけの人間が倒されたのだ。
たった一人の少年によって・・・・

「あ、あわわわわ・・・・・」

いや、一人残ってた。
そのGUN’Sの戦士は、
腰を抜かして地面に倒れ恐怖している。

チェスターがそれを見ると、
ニヒヒと微笑んだ。
そのGUN’Sの男も、ひきつりながら微笑み返す。
そして笑顔のままチェスターは言う。

「はい。どっかん♪」

チェスターは右手首を軽く、
まるでボールを投げるくらいにスナップを利かせる。
そうして軽く発射されたイミゲが、
その最後の一人にぶつかり、ポテンと倒れる。
とうとう立っているのはチェスターだけになった。

「テケテーン!テテンテン!テーン♪」
「うきき♪うき!♪」

チェスターは拳を掲げる。
その掲げた拳の先にチェチェが飛び乗り、飛び跳ねる。

「チェスター君は悪者をやっつけた!
 経験値を・・・えぇーっと・・・10手に入れた!レベルは上がらなかった!」

勝利に酔いしれるチェスター。
そのチェスターの上で喜ぶチェチェ。
燃えるミルレスでなければ、
あまりにも平和な絵図だった。
が、

「ウキキキ!!」
「ん?どうしたチェチェ?」
「ウキィイイイ!!」

チェチェが小さな手の指を指し示す。
チェスターが疑問を浮かべながら、
チェチェが指し示した方を見ると・・・・・・・

「!?」


「かぁーくごするッスぅうううう!!!!!」

「な、なんだぁ?!うわっ!!!?」

一人の男が跳んできた。
まるでスーパーマンの如く、
まるで隕石の如く、
槍のように拳を突き出して突っ込んでくる。

「わっとぉ!」

チェスターは慌ててバク転する。
そしてその突然の攻撃を避ける。
突っ込んできた男の拳は地面に突き刺さった。

チェスターはバク転の反動で、
逆立ち状態で着地する。
そして逆立ちの状態のまま、
チェスターは怒る。

「誰ジャン!いきなり何すんだよ!」

と、その男に叫ぶが、
その前に目に入ったのは・・・・

小さなクレーターのようになった地面。
その男の拳がまるで本当に隕石だったかのよう。

「すっげぇ威力・・・カッケェ・・・・」

逆立ちしたまま関心するチェスター。
いや、
それよりも突然攻撃してきた男だ。

「外したッスか・・・・」

その男は、顔はまるでチェスターのように童顔。
だが、それと不釣合いな武器が両手に装備されている。
修道士でこれほど大きなグローブを付けている者は見たことない。
素材は分からないが、
見るからに堅く、丈夫で威力がありそうで・・・
そして大きなグローブを装備していた。
アホのようにデカいグローブを付けた男は、
その拳を突き出して叫ぶ。

「おい!修道士!そこの逆さまになってるあんたッス!!!」

この状況下でチェスター以外ありえないが、
チェスターは片手で逆立ちしたまま、
もう片方の手で「オイラ?」と疑問を投げた。

「オイラは・・・・・・」

チェスターは片手で跳び、
もとの状態に着地してポーズを決めた。

「オイラは世界のスーパーヒーローチェスター君だ!!!」

決まった・・・
とチェスターは思った。

「スーパーヒーロー?」

「そう!スーパーヒーロー!」

「スーパーヒーローって何スか?」

「ヒーローを超えたヒーローだぜっ!・・・・・で、いきなり攻撃してきたお前は誰ジャン?」

「自分?自分ッスか?自分は・・・・」

その男は両手を腰に当て、
体を反りながら言う。

「自分は男の中の男!超漢!・・・を目指す男!44部隊のナックル=ボーイッス!」

ナックルもまた、
決まった・・・・
といった満足げの表情だった。

「超漢?」

「そう!男を超えた男ッス!」

「ほぇ〜・・・・そうなのか・・・・・・・って44部隊?」

チェスターがその聞くと、
ナックルはそれが嬉しかったらしい。

「そう!自分はあの44部隊の一員ッス!・・・・・下っ端だけど・・・・どうッスか!ビビったッスか!?」

「ん〜・・・・・」

チェスターは首をかしげた。
チェスターの頭の上でチェチェも首をかしげた。

「失礼な奴ッスね!!まぁいいッス!敵は倒すッス!!!行くッスよぉおお!!!!」

ナックルは突然飛び掛ってきた。
大きなグローブを装備した拳を振り上げ、
走りこんでくる。

「わわ!ちょちょ、ちょっと待てよ!」

チェスターが慌てるが、
もう遅い。
ナックルはすぐそこまで迫っている。

「クソォ!師匠直伝っ!イミットゲ・・・・おわっ!」

セリフが間に合わなかった。
いや、もとからセリフなんてチェスターの個人的な趣味なのだが、
とにかくナックルが既に目の前まで詰め寄り、
拳を振り始めている。

チェスターは焦ってイミットゲイザーを腕に滞在させ、
防御する。

「吹っ飛んでしまえッスぅうううう!!!!」

ナックルの大きく堅いグローブを装備した拳が、
チェスターの両腕に直撃する。
が、チェスターの両腕はイミットゲイザーの気でガードしている。
イミットゲイザーを滞在させた両腕は強固。
生半可なパンチじゃ貫けない。
・・・・・・・・はずだが・・・・・・・・・

「うぇ!?イミゲが!?うぐっ・・・・・・・・」

チェスターは吹っ飛ぶ。
そして地面を凄い勢いで転がり、
そのまま燃えるミルレスの家の壁に突っ込んだ。
家の壁がガラガラと崩れる。

「てて・・・・・」

「観念したッスか!」

すでに目の前にナックルが詰めてきた。
そして壁に叩きつけられた状態のチェスターに拳を突き出す。

「トドメッス!」

「わわわわわ!タンマタンマァ!」

チェスターは慌てて両手をブンブン振る。

「ちょ、待てよ!オイラは敵じゃないって!」

「漢じゃない敵は最後に絶対そう言うッス!」

「あんた44部隊だろっ!?オイラは《MD》だって!ほら、味方味方!」

「・・・・・・・・・信用できないッス」

「だぁー!オイラさっきまでGUN’Sの奴等倒してたジャン!」

言われて、
ナックルはキョトンとした。
言葉に詰まり、頭の中を整頓し、
そして一度頷いた。

「そう言われればそうッス・・・・」

そしてナックルは、
チェスターが敵でないと知るなり、
両手を頭に当て、「あ゙〜」っともだえ始めた。

「あ゙〜!自分は最悪だぁ!最悪ッスぅう!!!!」

「ちょ、今度はなんなんだよ・・・・・」

「また・・・・またやってしまったッス!これだからいつも先輩達に怒られるんス!
 自分はロウマ隊長や先輩達みたいな一人前の"漢"にならなきゃ駄目なのにっ!!」

自分から攻撃してきておいて、
今度は自分で勝手に後悔している。
なんとも迷惑な男だ。

そんなナックルにチェスターは手を差し伸べた。

「ナックルだったよな。オイラ気にしてないし元気出せって!」

「・・・キャスター・・・だっけ・・・」

「・・・・・・チェスター・・・」

「チェスター・・・こんな自分を許してくれるんスか!」

「当たり前ジャン!」

「チェスター・・・あんたはいい男ッスね・・・・」

チェスターの手をナックルが握る。
その絵図は、
まるで少年漫画の1ページを切り抜いたかのようだ。
これでバックに夕日でもあれば完璧だ。
チェスターの頭の上で、
猿のチェチェがやれやれと両手を広げる。

「それよりすっげぇなナックル!さっきの凄いパンチだったジャン!
 何何?もしかしてすっげぇ修行してんの!?修道士仲間として教えて欲しいジャン!!」

「いや、違うんスよ」

「ほえ?」

何が違うのだろうか。
それに答えるように、ナックルが両手を目の位置まで挙げる。
ナックルの両手の武器。
いかにも堅そうなグローブ。

「これは修道士の武器(ナックル)じゃないんス。
 これはディスグローブ。武器じゃなくてただの手袋・・・篭手ッスね」

「え?ディスグローブって修道士が付けない奴ジャン」

「そうッス。自分は聖職者ッス」

聖職者。
こんな肉弾戦向けの聖職者など見たことない。
だが、修道士が付けないディスグローブ。
その強度は誰もが知っている所だ。
武器として使えなくもない。

「自分は『ブレイカー(壊し屋)』って呼ばれてるッス。
 このゴツいディスグローブにスペルを付加して攻撃してるんス。
 アンチカーズディフィンスとかアンチカーズプロテクションとか・・・・
 まぁとにかく敵の防御能力を解除してぶん殴るんス」

簡単に言えば、
ナックルの攻撃は全てガチンコになる。
魔法防御力を上げようが、
物理防御力を上げようが
ナックルの前では、
鉄はただの鉄。
木はただの木。
マッジクネムアはただのネムア。
物体はただの物体。
そして・・・
肉体はただの肉体。

「ほえぇー。だからオイラの気も解除されちゃっただな」

チェスターは両手を組んで納得する。
といっても、
馬鹿なチェスターは言葉で理解していない。
ともかく先ほど体感した事を理解しただけ。
猿並に乏しい野生的な理解力。

「とにかくガチンコバトルにしちゃうんだなっ!」

「そうッス!それこそ漢ッス!」

ナックルはグローブの中で拳を握り、
そして腕をプルプルと振るわせる。
そして力説する。

「自分は男の中の男になるんス!男の中の男とは!
 それすなわちガチンコッス!ガチンコこそ男の生き様ッス!」

ナックルの戦闘方法は、
ガチンコというには中々効率的な戦闘方法だ。
だが・・・・ガチンコガチンコと、なんでもありのこの世の中には酷く甘い言葉。
この一直線さと強さは、
たしかに44部隊のロウマが好きそうな性格だが、
余りにも甘い。
だからこそ先輩達にいじめられているのだろう。
だが、

「ナックル!お前・・・・お前は男だぜっ!!!」

チェスターはナックルの両拳を握り、
目をきらきらと輝かせていた。

「チェスター!そう思ってくれるッスか?!」

「当たり前ジャン!真っ向勝負!すげぇかっこいいジャン!!
 これぞヒーローって感じ!真剣勝負!正々堂々!うぉおお!
 スーパーヒーロー的ワードを一つ教わった気がするジャン!!!」

そしてチェスターは、
ナックルの両手をガシッと掴む。
握る。

「ナックル!なんかオイラ達気が合いそうジャン!」

「おう!たしかにそうッスね!」

「それにオイラ達には・・・・」

「自分達には・・・・・・」

「「夢がある!!!」」

チェスターとナックルは片方づつ拳を掲げる。

「オイラはスーパーヒーローに!!!」

「自分は男の中の男に!!!」

「なるジャン!!」「なるッス!!」

まさに青春を輝かせているような二人の男。
スポコン漫画にでも出ればいいような熱い、暑苦しい二人組みは、
出会って数分。
いきなり戦って数分。
大親友になってしまった。

燃える戦場。
燃えさかるミルレスの中の、
熱い二人。

だがそれ以上に燃えるミルレス。

突然。
そして突如。

今まさに、
一つの家と、叫び声が・・・・・・・燃えた。

「ぎゃぁあああああああああ」

チェスターとナックルは驚いて振り向く。

「なんスか!?」
「どうしたんだっ!?」

振り向いた所。
そしてすぐ側の家が一件。
轟々と燃えている。
いや、
もちろんミルレスは最初から炎上している。
だが、その家だけがまるで別のように燃え上がった。
まるでキャンプファイヤーのように。

燃えに燃える家。
燃えながら崩れる家。
その側。

そこには数人の男達。
GUN’Sの者達だろう。
そしてその先頭には・・・・
大笑いを奏でる一人の男。

「あれ見たことあるッス・・・・」
「オイラもだぜ・・・・」

赤い。
赤い。
まるで炎のように赤い髪をした男。
頬に火傷のがある男。

その男の両手には炎が渦巻いている。

その男は『チャッカマン』
ダニエル=スプリングフィールドだった。








                 






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