「クソったれめ!」

グレイは両手をポケットに入れたまま、
一人のGUN'Sの男の頭を蹴飛ばす。
グレイの靴はゴールドシューズ。
重く、鋼鉄の足から放たれる世界最高の蹴りは、
どんな武器よりも凶器。

男の首はサッカーボールのように吹っ飛んだ。

「ケッ!代わりにそこにケツでも乗せとけクソ!」

グレイは首のない男の死体に唾を吐き捨てた。

「っておいマイエネミーとその仲間!戦争だ!便所場だぜ!
 何ボォーっと突っ立ってる!便所(戦場)で踏ん張らねぇ奴がいるかクソ!」

グレイがドジャーとアレックスに声をかける。
もとは王国騎士団の上司なのだから、
"その仲間"とかじゃなくてアレックス部隊長とかちゃんと読んで欲しかった。
だが、
アレックスはともかく、
ドジャーは苦笑いをしながら回りの戦場に目がいっていた。

「グレイ・・・てめぇの仲間は化けものばっかか?」

ドジャーは44部隊の戦いに見入っていた。
ドジャーはグレイとだけは戦い、
44部隊の実力は分かっていたつもりだが、
いざ全てを目の辺りにすると最強の部隊と呼ばれる理由が分かった気がした。

「こんな部隊がいたのになんで王国騎士団は負けたんだ・・・・」

その疑問が出る理由も分かる。
それほど44部隊は凄い。
だが、

「44部隊も無敵じゃぁないんです。さすがの44部隊も終焉戦争では痛手を負いました。
 44部隊のメンバーも20人ほど殺され、今はあれだけなんですから」

それを聞き、
ドジャーはもう一度苦笑いを浮かべた。

「20人殺されたってか?・・・・・・・・カッ!
 44部隊が負けた事よりあんなんがまだ20人もいた事にビビるぜ・・・・」

たしかに、
今いるメンバーだけで強力なのに、
もともと44部隊は30を超える精鋭の集まりだったのだ。
それを考えると最強の44部隊と呼ばれるに相応しい部隊だっただろう。

「おいおいマイエネミー。くだらねぇ痴話だ。言っただろ?"クソ強ぇ"ってな」

グレイはニヤニヤしながらも、
後ろからコッソリ迫ってきたGUN'Sの男を
回し蹴りで吹っ飛ばした。
血のついた靴を地面にこすりつけながら、
もう一度ドジャーに言う。

「あれらと俺を含め、44部隊の一般兵(パンペー)は10人。
 ま、一人ナックル=ボーイっつう下っ端が別行動してるけどな」

当然同僚のアレックスもその名に覚えがある。

「あぁ、44部隊で一番若手の方ですね」
「まだいんのかよ・・・・」
「44部隊は怖い人ばっかですけどナックルさんは気さくな明るい方ですよ」
「どうでもいい。強い。それは分かったがあんなに覚えれねぇよ」

強い。
それだけ分かれば十分ともいえる部隊だ。

「それよりマイエネミー。俺達を化け物かって聞いたな?」

グレイがニヤニヤしながらドジャーに顔を近づける。
これでもかっていうほどガン見して近づける。

「それが痴話だ。痴話なんだよ。アホとバカが寄り添って話すような痴話だ。
 化け物なんて言葉はな、この状況で指す場合指す相手が違う」

グレイは別に"誰か"とは言わなかった。
特にどこかを指差したり示したりもしなかった。

「おっと」

「ぐぁっ!」
「ぎゃ!」

グレイが突然回し蹴り。
何も無い所から二つのうめき声。
GUN'Sの盗賊がインビジをして近づいていたのだろう。
だが、グレイに感づかれ、
グレイの蹴りを食らって二人の男が吹っ飛んだ。

「ケッ、あせんなよGUN'Sのマゾ野郎共。
 急がなくたって死神はドアを叩いてるぜ」

その場にいたアレックスとドジャーは、
しゃべっているグレイでなく、
自動的に一方を見た。

燃える。
燃えるミルレス。
燃える戦場。

その炎下の中、
堂々と立ち尽くす男。
爆発したようなオレンジの鬣(たてがみ)が、
炎の中でいっそう・・・・炎よりも高々と揺れていた。

「ケケケッ、見ろよ全世界のマゾ野郎共。あそこにいるのが死神界の百獣の王だ。
 バンビは急いで逃げる準備をしな。ノロマは致命的だ。
 尻尾巻いて命かけて逃げないと・・・・・・・・・・・・・ライオンに喰われちまうぜ」


風でなびく背中のマント。
"矛盾"の二文字が揺れる。

2mを超える巨体。
その巨体が広げる両腕。
その両腕の先から伸びるのは、
ハイランダーランスとドラゴンライダーランス。
腕を広げる巨体と、
横に広げられる4mを超える二本の巨槍。

その姿は大きな化け物のようにしか見えなかった。

誰も近づかない。
いや、近づけない。

想像を絶する最強に、
この世に生まれた矛盾に、
誰も手を出そうとは考えない。
むしろもう逃げ始めている者までいる。

「このロウマが怖いのか・・・弱き者達」

ロウマが言った一言。
重く、低い言葉は、
周りにいた全員に聞こえた。

「何故かかってこない。そんなにこのロウマが怖いのか?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・恐怖に勝てぬ者達が何故戦場にいる。
 死ぬのが怖いのか?命を落とすのが怖いのか?・・・・・・・ふん。ここは戦場だ。
 相手の命を奪う気があるにも関わらず、自分は命を落とす覚悟はないか・・・・・ふざけるな!!!!」

ロウマは突如、
右手のハイランダーランスを・・・・
投げた。

4mを超える巨槍。
それはまるでミサイル以上の亜物。
ロケットよりミサイルよりも怖い一本の槍。

その槍がある地面に破壊音と共に突き刺さる。

ハボックショック。
投げた槍でのハボックショック。

槍を中心に、
ほとばしる衝撃。
炸裂する空間。
爆発するような衝動。

恐ろしいほどの威力。
"悲劇的な威力"

分かりやすく結果だけ述べると・・・・・・・・
人が14人倒れ去り。
地面が半径7m弾け飛び。

家が2件吹き飛んだ。

「己が恐怖に打ち勝ってみろ弱き者達!
 今に居るお前らが"お前らの過去の集大成"だとしたらそれは余りには弱い!
 だが恐怖に打ち勝ち、このロウマに挑む勇気と自信があるとしたら
 その時はお前らの人生の最高の強さを手に入れているはずだ!!!!」

まるで猛獣の雄叫びのように、
ロウマの渇は当たりに響き渡った。
空気も振動する重低音。
心に振動するはずの重低音。
しかし、
その言葉を耳に、向かってくる者など居なかった。

当然。
矛盾。
一瞬の強さを手に入れるために、
一瞬の勇気を輝かせるために、
ライオンの牙の中に飛び込むバンビなどいない。

「くだらん」

ロウマは投げた槍を抜いた。
また両手に巨槍が二本広がる。
それは化け物の角(ツノ)よう。
4mを超える巨大すぎる角(ツノ)

「なぜ肉食動物が草食動物より優れているか、
 それは肉食動物は立ち向かうもので、草食動物は強さから目を背けるものだからだ。
 肉食動物はより強さを突き詰める進化を求め、
 草食動物はその強さ(天敵)から逃げるための進化を求めた。
 進化を否定するものほど弱いものはない!!!何故強くなろうとしない!何故己を信じない!!!」

突き抜けるような鋭い眼光。
二つしかないはずのその眼差しは、
まるで全ての獲物を見越しているかのようだった。

「そんなくだらん者達は・・・・・・・・・・・このロウマが喰ってやる」

一匹の猛獣(化け物)が、
戦場の中に解き放たれた。





「あーあ。マイキャプテンが動いちまったらヒマになっちまうな
 マイキャプテンのあとは草原か荒野しか残らねぇからな。流した便所みてぇにな」

グレイはニヤニヤしながらその現状を見ていた。
自分の隊長の強さ。
分かっていながらも負け無しのその強さ。
まるで自分の強さのように嬉しそうに眺めていた。

「カッ!あれ一人で全部倒せちまうんじゃねぇかって思えちまうぜ」
「ロウマさんにだって疲れと体力はあります。
 ・・・・まぁ消耗してる所なんてそうそう見たことないですけどね」
「あれがライオンだとしたら俺はシマウマに生まれなくて良かったと思うぜ」

ドジャーは皮肉まじりに言った。

「あ、そういえばメッツさんは?」
「ん〜?たしかその辺で戦って・・・・・・ってあの馬鹿!!!!」

ドジャーとアレックスが目をやる。
すぐそこにメッツはいた。
戦っていた。
が、
その目はもうメッツのものではなかった。

「あ゙・・・がははハははあラハハハ!!!!!」

メッツはいつの間にかバーサーカーレイジ状態になり、
辺りを無差別に喰い始めていた。
斧を振り、
血しぶきを舞い上げ、
暴走した男が舞い踊っていた。

「あ・・・の馬鹿!こんな序盤でレイジ使ってやがる・・・・何考えてやがんだ!!!!
 こんな所で戦闘は終わりじゃねんだぞ!最後までもたねぇじゃねぇか!!!」
「悔しいんでしょうね・・・・」
「あん?」

アレックスは暴走したメッツを、
戦乱の炎で踊る狂戦士を見ながら冷静に言った。

「メッツさんはアレでロウマさんに負けた事を異常に気にしてました
 メッツさんは人生大概負け無しだったんでしょ?
 強い人と戦ったとして、無理矢理にでも勝ってきた・・・・
 でも44部隊を見てそれがまだまだ小さな世界だと知り・・・・ロウマさんに自分の弱さまで突きつけられた」
「カッ!メッツが弱いとでも?」
「強いです」
「どっちだよ・・・・」
「でも《MD》らしいというか・・・・メッツさんらしいというか・・・・
 あまりにも強さと弱さが紙一重で共存してるような・・・・・」

「あいつは弱ぇよ」

アレックスとドジャーの話に、
グレイが割り込んできた。

「俺達44部隊はマイキャプテンの教えと考えを信じて強くなった部隊だ。
 だから分かんだよ。マイキャプテンがあのクソドレッドを弱いっつった意味がな」

「あそこで敵をゴミクズみたいに倒してるメッツが弱いとは思えないけどな」

そう。
今見るとそう思えないだろう。
暴走したメッツに、GUN'Sの者達はなす術も無く、
ただ並べられた野菜のように切り刻まれていく。
逃げ戸惑う男達。
血に遊ぶメッツ。

「弱ぇな。クソ弱ぇ。ムカツク表現してやると心が弱ぇ。クソまみれだ。
 たしかに胸糞悪い事に身体能力なんかは天武の才能がある。俺達以上だ。
 努力しようがどうしようもないものをあいつは恵まれて持ってる」

グレイはメッツを見ながら言う。
メッツの第六感。
そして暴走しながら見せる本能的な戦い。
それは天性というしかない。

「だが、心が腐ってる。石鹸も汚くしちまうような汚れたちっちぇぇノミの心だ
 自分ごと捨てちまう奴に強さなんてねぇ。レイジ(憤怒)でごまかしてるだけ」

グレイはツバを履き捨て、
メッツを冷たい目でみながらまだ話す。

「バーサーカーレイジってなんだ?リミット解除?クソ食らえ。
 結局使うのは自分の中の力だ。クソと同じで実力以上のものはひねり出しても出ねぇ
 レイジで得たと思ってるあの力は最初から自分自身の力だって気付いてねぇ
 腕力が上がろうと脚力が上がろうと、自分自身だと信じてねぇ奴は弱ぇ。クソ弱ぇんだ」

信じるとか
自分の中の力とか、
汚い言葉を使うグレイにしてはあまりに綺麗な言葉だった。
ロウマの影響だろう。
44部隊はそうして強くなってきた者達だ。
形は違えど、一人一人が自分を否定する事などしない。
そしてメッツはその逆。
だから弱いという判断。
ロウマ率いる44部隊らしい思考。

「メッツさんはたしかに脆い部分がありますね・・・・」

アレックス自信も心に抱いていたことだった。
いや、長年親友のドジャーも分かっていたことだろう。
メッツは乱暴に振舞っているが、
その逆に・・・・・・・・・誰よりも繊細だった。
実は怖がりで、誰よりも心が傷つきやすい。
それを豪快にうやむやにしている印象があった。

「だか胸糞悪い。そう、だが胸糞悪い事にマイキャプテンは言ってた。
 もしあのクソドレッドが"何か"を乗り越えたとき、あいつは化け物になるだろうってな
 マイエネミー・・・お前よりも。アレックス部隊長・・・・・あんたよりも
 そしてマイパーティ(44部隊)よりもな。クソ胸糞悪い!マイキャプテンに痴話なんてないからな!」

それはアレックス自身も思っていた事だった。
初めて見た時から、
何かしら得体の知れないものを感じていた。
見た目の強さ。
それ以上に奥にまだまだ秘めているような・・・・
昔にも感じたことがある。
いつだったか・・・・
まず思いつくのはロウマと会ったときの事だった。
いや・・・・


TRRRRRRRRRRRRRR

WISの着信音。
アレックスとドジャーは自分のものかと思い、
自分の体をまさぐるが、どうやら自分達のWISではないと気付く。

「もしもしクソ野郎」

WISの着信はグレイだった。

「あん?ナックルか。なんで俺んとこにかけてくるんだこの役立たず!
 あ?何?ユベンがWISに出ない?戦闘中だ馬鹿!便所に生み出された時からやり直せハゲ!
 は?なんで俺は出れるかって?うっせ!それじゃさぼってるみたいだろがクソッタレが!!!」

いや、
サボってるだろう。

「で?要件なんだ。くだらねぇ痴話だったら承知しねぇぞ・・・
 ・・・・・あ?・・・・・あーあーあー。なるほど。痴話だな。死ねクソ!!!!!」

グレイはキレながら電源を切った。

「クソッ、わけのわからん事いってやがった。
 "化け物がいっぱい動いてるッス!"っだってよ。
 意味わかんねぇ。クソ食らえ!おまけに"そっちに向かってるッス〜"だってよ
 消えて無くなれ!微塵になってゴキブリのクソにでもつぶされろっ!」

自分の仲間にも汚い言葉・・・
ロウマに使う時とは間逆とも思った。

「化け物?」
「カッ!化け物だったら目の前でオレンジ色のが暴れてるぜ!」
「でも気になりますね」
「きにすんな。敵はもうGMのドラグノフと六銃士のジャスティンとスミスだけだ」


「スミスならもう拙者らが倒した」

振り向くと、
そこには見た顔。
ぶっちょう面の女侍に、
ギターをもった詩人ドレス女。
それと今にも死にそうな白い顔をした医者。
いつもどおりの三人がいた。

「よぉーッス!いとしのマリナさん登場よ♪」
「カッ!何がよぉーッス!だ」

ドジャーは呆れながらマリナとイスカとレイズに言った。

「あ、皆さん一緒だったんですね」
「っていっても私達もレイズとさっきバッタリ会ったんばっかなんだけどね」
「・・・・・・・・ふん・・・・・・一回俺の前を・・・・・・気付かず通り過ぎたくせに・・・・・・・・」

仲間に気付かず通り過ぎた・・・というのもどうかと思うが、
影より存在感のないレイズだ。
この燃える敵だらけの中に居たとしても気付かないのも納得できる。

「んあ?レイズ。チェスターは?」

聞かれると、悪魔の吐息のように小さくため息をもらし、
レイズは答えた。

「・・・・・・・・・ふん・・・・・・・敵だ悪党だとはりきってる・・・・・・・・
 ・・・・・・まるでオモチャ屋にきたガキだ・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・」
「どっかで好き勝手暴れてんのか」
「笑止だな。チェスターにとってはお祭り気分か」
「・・・・・・・・そこで暴走してるメッツよりは・・・・・・・マシだと思うけどな・・・・・・・・・・」

レイズが見た先。
そこではメッツが血で遊ぶかのように戦っていた。
こう見ると見境がない。
まるで戦場で迷子になって暴れているかのよう。
もう・・・声をかけても帰ってこない森の中。

ドジャーがため息をついた。
呆れた・・・というよりも、
何か本気のため息にも思えた。

「あ、六銃士のスミスを倒したって言いましたね?凄いじゃないですか」
「ふん。拙者とマリナ殿がいれば六銃士ごとき他愛もない」
「・・・・・・・クック・・・・さっき俺が治療した傷は・・・・・・・転んで出来たものか何かか?・・・・・・・」
「う、うるさいぞレイズ!拙者はだな・・・・」

レイズが暗く、嬉しそうに笑う。

「お主だって怪我をしているではないか!」

イスカがレイズの脇腹に目をやる。
レイズの脇腹。
そこからは少量の血が流れていた。

「・・・・・・・ここは戦場だ・・・・・・怪我くらいする・・・・・・・・」

まぁそれはそうだろな・・・・。
ってあれ?
でもレイズさんは特化型ブレシングヘルスがあるし、
その以前に傷なら治療すれば・・・・・

「・・・・・・・・ジロジロ見るな・・・・・アレックス・・・・・・・・」
「あ、すいません・・・・・」

まぁ何はともあれ、
アレックス。
ドジャー。
マリナ。
イスカ。
レイズ。
暴走しているがメッツ。
ここに《MD》が6人揃った。

「それよりまぁ・・・・44部隊は始めてみたけど凄いわね・・・・」
「あれがロウマとやらか。まるで化け物だな」
「・・・・・・・・味方なら・・・化け物でも悪魔でも・・・・歓迎する・・・・・・・・・」
「そりゃそうですね」
「敵はまぁ・・・数はともかくおもだった主軸はドラグノフとジャスティンのみだしな」
「再装填メンバーとやらはどうなったのだ?」
「あ、説明しときます。えっと・・・・・一人はミルレスに火を放ったダニエルって男です」
「・・・・・・・・『チャッカマン』ダニエルか・・・・聞く名だな・・・・・・・・」
「い゙〜・・・あの放火魔〜?町じゃなくて卵でも焼いて欲しいわね・・・・」

まぁミルレスの丸焼きなんて料理、
後にも先にもこれっきりだろう・・・・。

「あともう一人。・・・・・・・・マリ=ロイヤルさんです」

面識があるかないかは分からないが、
ロイヤル。
その苗字だけでどういった人物か伝わるだろう。

「ふん。またよく分からん者を選ぶな」
「カッ、まぁ。対峙はしたけど戦闘向きって感じじゃなかったぜ」
「・・・・・・・・気をつけなくても大丈夫そうか・・・・・・・・・」
「でもジャスティンさんがマリさんに"アレ"の用意をしろとかなんとか・・・・」
「なんだよ"アレ"って。カカカッ!その言い方じゃぁなんか淫猥だな!」
「ドジャーさんはアホですね・・・・」
「うっせ!じゃぁお前は"アレ"って何か分か・・・・・」

ドジャーが言葉を止めた。
そこで止めた理由。
なにやら聞こえたからだ。
化け物の遠吠え?
いや、違う。
響く音。
町全体が揺れているような、
地面全部が振動する。

大きな、大きな何か。
それが近くで振動している。

「な、なんだ・・・・」
「あっちです!!!」

アレックスが燃えるミルレスの一端を指す。
間違いなく、
それはその振動の主。
"アレ"であり、
化け物であることは一瞬だった。

「なるほどな・・・・」

ドジャーが、
そのミルレスの家々の向こうに見えるものを見て
息を呑み、言った。
つられて皆が見る。

「なにあれ・・・」
「・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・」
「笑えぬな・・・」

見た誰もが舌打ちと苦笑をもらすしかなかった。
家々の向こうに見えた物。
その巨大なもの。
者ではなく・・・・・物。

「さすが娘だな・・・・・母親と一緒だ・・・・・・・・」

ドジャーが言うその物体。
それは・・・・

巨大な・・・・鉄の塊。

「ス・・・・・・スマイルマンですか・・・・・・・・・・」

そう。
スマイルマンだった。

全長ゆうに十数メートルあるだろうか。
大きな鉄の腕を振り上げ、
丸く、巨大な体をどっしり据えている。
化物。
怪物。
いや、怪獣が如く。
その鉄の塊が・・・聳え立って目を光らせている。

アレックスは思い出す。
マリの・・・
いや、ルエンやスシアの親でもあるエリス。
不思議ダンジョンの奥に住むエリス。
あれが生み出した巨大なスマイルマン。
親が親なら子も子。
自作したというのだろうか・・・・・

「この数の中・・・・あんなの相手にすんのか・・・・・」
「剣で斬れるだろうか・・・否、斬る」
「まぁ・・・・1体ならなんとかね・・・」

「クソ野郎ども!お前らの目は節穴か!?」

グレイが話に割り込んできた。
マリナ達が合流してからは他人のようにしていたが、
いてもたまらずというか、腹を立てたような。
そんな表情。
そして苦笑いをしながら首を横に振る。
それはよく見てみろという合図。

「その目がガラス玉じゃないなら周りも見て見やがれクソ野郎共」

グレイに言われるまま、
全員がまわりを見渡す。

「あ・・・・」
「ウソ・・・・」
「・・・・・・・・・マジかよ」

それはもうある種の絶景に近かった。
ある意味爽快。
夢のような景色という意味ではだが・・・・・。
夢であってほしい。

そう、見えた物。
あっち。
そっち。
ミルレスの家々。
その屋根より上から顔を出す無機質な目。

そう。

スマイルマンは1体じゃなかった。
それも・・・・・

数は10を軽く超えている。

「ス、スマイルマンの量産型!?」

燃えるミルレスの町の中、
10体以上の量産型スマイルマン達がこちらを見据えていた。












                 






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