- ユベン=グローヴァー -






「クソォ!なんで俺達が44部隊と戦わなきゃならねぇんだよ!」
「聞いてねぇよな!」
「《MD》って少数の奴らからよぉ
 ここらを適当に食い止めるだけの楽な仕事なはずだったのによ!」
「だけど戦わねぇと!」
「六銃士の命令だぜ?!」
「おま、怖くねぇのか!あの無敵艦隊44部隊だぞ!?」
「ばっか。44部隊が相手でもGUN’Sの勝ちは揺るがねぇ
 つまり世界はGUN’Sのものになるんだ。世界の統一したあと、世界の勝ち組は誰だ?」
「・・・・・俺達GUN’Sの構成員だな!!!」
「そう。俺達は今日一日戦うだけで明日明後日からハッピー生活だぜぇ!!??」
「なるほど。じゃぁ適当に戦う意思だけ出しとけばいいわけだな」
「ロウマ=ハートと真正面から戦う事ねぇし弱そうなの選べばいいわけか!」
「お、あいつ44部隊のわりに弱そうじゃねぇか!」
「だな。地味だし下っ端だぜ絶対!!!」

GUN’Sメンバー達が見た先。
そこに立っている男。
特に特徴といえる特徴がない。
あえていえばドロイカンランス。
それを除くと特に無い。
アクセサリーもなければ、
髪をはじめ、身だしなみを整えた形跡もなく、
地味というのが最大の特徴だった。

だが、
少し腕の立つものなら彼がただ特徴のない男ではないと分かったはずだった。


「派手なものが強ければなによりだが、そうじゃない」

ユベンは独り言をつぶやいた。
GUN’Sのメンバー達には一人の男がブツブツ言ってるだけに聞こえただろう。

「やっちまおうぜ!!!」
「おう!とったもん勝ちだ!!!」
「あんなんでも44部隊!倒せば幹部も有り得るぜぇええ!!!!」

GUN’Sメンバー達が一斉に飛び込む。
その数十数人。
が、ユベンは一歩も動かない。

「派手さがない。それが俺だ。それこそが俺の個性なんだ。なによりだろ?」

ユベンが言ったのと同時に、
剣、
ダガー、
斧にハンマー。
そういったものがユベンに振付けられた。

そして直撃した。

「やった!!」
「とった!!」

はずだったが、
ユベンは無傷だった。
ユベンは微動だにしないに関わらず、
剣やダガーといった刃物は・・・・・
ユベンを貫けず、止まっていた。

「ど、どうなってんだこりゃ・・・・」
「鎧とかじゃねぇ・・・・肌の上で武器が止まってやがる!」

ユベンは鉄に囲まれたまま小さく笑った。

「な?どうだ?なによりだろ?・・・・・・・・俺はたしかに派手じゃない。特に目立たない男だった。
 だがロウマ隊長はむしろそれが俺の特徴だと言ってくれた」

「う、うるせぇ下っ端!!」

GUN’Sの男の中の一人が、
もう一度斧を振り上げてユベンに振り向く、
だが、
ユベンに直撃するなりガキンと金属音を奏でるだけだった。

「え・・・いや・・・・ガキンって何・・・・・」

「俺は堅実。無駄なクイの出ない男。それは素晴らしい事だといってくれた。
 そしてこの堅実な性格さゆえ・・・・ロウマ隊長は俺に副部隊長の座まで与えてくれた。
 俺が適任だと。俺にしかできないと・・・・それがなによりだ。それがなによりなんだよ」

ユベンはゆっくり槍を振り上げた。

「特徴がないっていうのは変な弱点や欠点がないって事。それは何よりな事だ。
 色物と変人揃いの凶器の塊みたいな44部隊は俺じゃないと副部隊長は無理なんだよ」

「クソックソッ!どうなってんだ!」
「攻撃しろ!もっと攻撃!」
「ダメだ!弾かれる!」

GUN’Sのメンバーが押してもびくともしないユベンの体。
まるで鋼鉄でできてるかのよう。
そしてそれを思い浮かべた一人の男が話し始めた。

「副部隊長?・・・・・・・44番・竜騎士部隊の副部隊長だと!?まさか!?
 こいつ世界一堅い竜の鱗(ドラゴンスケイル)を持つ男!
 『ドラゴニカ・ナイト』ユベン=グローヴァーか!?」

ユベンは「そうだ」といわんばかりに小さく笑った。

「さっさと片付けるか。中間管理職ってのは大変でね」























- ヴァーティゴ=U218 -





「ギュゥイィイイン!ギュゥイィィイイイン!!!!!」

その男は立っていた。
決して大きすぎるナリではないがイカつい男だった。
そのイカつい風貌の上、
スキンヘッドときたら"怖いもの"。
町ですれ違っても目を合わせたくないタイプ。
その男は、
そのナリとは正反対の軽快な声をあげた。

「ミンチゲームだ!ミンチゲームの始まりじゃなぁーーぃ!?」

そのスキンヘッドの男。
44部隊が一人。
ヴァーティゴ。
その男の近くには誰も近づかなかった。
戦わなくともその男が"脅威"で"危ない"事は誰にも分かったからだ。
それは怖いナリだからだけではない。

その両手で高速回転している・・・・・・・・
ドリル。
ドリルナックル。
ドリルが男の両腕で空気ごと唸りを上げている。
まるでチェーンソーを持った殺人鬼のように、
楽しそうにそヴァーティゴはスキヘッドに血管を浮かせて笑っていた。

「どぉーいつからやっちゃうかぁ〜?どぉーいつから掘ってやろうか〜?
 穴開けられたいやつはどこだぁ〜?内臓ぶちまけたい奴はどこだぁ〜?」

ヴァーティゴは歯を見せながらキョロキョロと周りを見回す。
笑顔で品定め。
どいつを獲物にしてやろうか。
まるで好きな歯を掘ろうとするイカれた歯医者。
ドリルの回転音が怪しく響く。

「ひ、ひぃ!!!」

GUN’Sの一人が、
恐怖のあまり逃げ出した。

ヴァーティゴの口が全開まで広がって笑顔を作る。

「お前かぁ!死にたいのはお前なんだな!」

笑顔のスキンヘッドが走り出した。
両手のドリルが回る。

「ひ、ひぃいいいい!!!」

GUN’Sの男は一件の空き家に飛び込む。
燃えるミルレスで火にまみれていると分かっていても、
逃げ込まずに入られなかった。
そしてドアを閉めて鍵をかける。

だが無駄だった。

「無駄なんじゃなぁ〜い♪」

破壊音と回転音と共に、
一瞬でドアは二つのドリルで砕かれ、
ヴァーティゴが家に進入していった。

「うわぁあああああああああああああああああ」

悲鳴だけが一件の家の中から響く。
いや、正確には悲鳴とドリルの回転音。
それだけが数秒こだまする。
そして鳴り止んだ。
悲鳴も、
ドリル音も。
と思うと、

家からスキンヘッドの穴掘り師が出てきた。
ドリルと全身。
そしてスキンヘッドに血のりをぶちまけた格好で。

ヴァーティゴは天にドリルを掲げ、
回しながら嬉しそうに叫ぶ。

「掘って刻んで磨り潰すぅ!ほってきざんですりつぶすぅ!!!!!!
 ギュゥイイィイィイイイイイン!!!!次に死にたい奴ぁ誰だぁ!!!!」























- ニッケルバッカー -








「うわぁああ!!!まただ!」
「また一人やられた!」

GUN’Sの男達が悲鳴をあげる。
また一人仲間がやられた。
一つの青い火炎に焼かれて。
パージフレア。
その聖なる炎が仲間を一人、また一人と、
確実に命を奪っていく。

「どうすんだよ!」
「どうするったってどうすりゃいいんだよ!」
「に、逃げ・・・・」
「どこにだ!?どこに逃げればいいんだ!?いったい敵は・・・・ぐぁあああ!!!!」

一人の男がまたパージの青い炎に焼かれた。
一撃。
だが、他のGUN’Sの者達はそれを見て、
ただ・・・・
ただうろたえるしかなかった。
ただおびえるしかなかった。

「なんなんだよぉおおおお!!!」
「一体敵はどこなんだぁああああ!!!!」

そう。
敵。
パージフレアを放っている敵の姿が無かったのだ。
どこからどうやって、
誰がどう思ってパージで攻撃してきているのか・・・・

「ディテク!ディテクしろぉ!!!」
「してるに決まってるだろ!だが効果もなにもない。インビジとかカモフラじゃぁないんだ!」
「じゃぁどっから攻撃してきてんだよぉおお!!!」

また一人炎に焼かれる。
だが敵の姿が見えない。

どこにいるかわからないから、どこを攻撃すればいいのか分からない。
どこにいるかわからないから、どこに逃げればいいのか分からない。




そして彼、
パージフレアの主、ニッケルバッカー。
彼はここに居た。

「できる・・・・俺はできる子だ」

聖職者としてはおかしなものを持っている。
それは・・・・・"望遠鏡(スコープ)"

そう、彼がいるのは攻撃されている彼らから遠く離れた場所。
そこから500m以上離れた場所。
ミルレス白十字病院の屋上。

彼、ニッケルバッカーは十字を切る。

「"できないわけがない"・・・・俺ができる子だ俺はできる子だ俺はできる子だ」

十字を切った手は震えている。
が、その指を前に突き出し、
指をクィっとあげる。
すると望遠鏡の先の男が一人火炎にまみれた。

「ほ、ほれ見ろ・・・俺はできる子だ・・・やればできる子なんだ。
 隊長がそう言ってくれたんだ。俺はできる子。まちがいない・・・・・
 俺はできるこだできるこだできるこだ・・・・・俺に・・・・・"できない"と言うな!!!!」

ニッケルバッカーが指をあげると、
また、手も肉眼も届かない遠く離れた先で、
一人聖なる火炎にまみれた。


















- サクラコ = コジョウイン -



勝負はついていた。

その場に全く動きはないが、
勝負は決定的だった。

数名のGUN’S面々が、
悔しそうにただ棒立ちしていた。

「クソォ・・・・」
「やるなら人思いにやってくれよ・・・・」
「『ピンカートン(お蝶婦人)』ってのはあんたなんだろ!」
「さっさと殺してくれ!!!」

「あーら♪やだわん♪。あたいを婦人なんて呼ぶなんてはしたない!
 年増みたいじゃない?・・・・・呼ぶなら・・・・・・・・女王様とお呼び♪」

サクラコがパシンと何かをしばく音が鳴り響く。
それは・・・
長い・・・・
長い長い・・・・
異常なほど長い・・・・・・・・・ムチ。

「クソォ・・・・」
「せめて盗賊がこの場にいれば・・・・」

「いても・・・・無・駄♪」

彼らGUN’S。
彼らが逃げるでもなく、
戦う事もしない理由。
それは一つ。
全員がスパイダーウェブで身動きをとれなかったからだ。

「蜘蛛の巣にかかる蝶をしばくのは楽しくて楽しくてしょうがないわ♪」

サクラコは楽しそうに微笑み、舌を左から右へ嘗め回す。

「それから・・・・・・・・・そこぉ!!!・・・・・・・・・女王様は全てお見通しよ!!!」

突然サクラコが手首をひねった。
するとまるで別の生き物のように、
蛇のように、
蛙の舌のように。
長いムチがヒュンっ!と伸びた。
それはスパイダーにかかっている者達ではなく、
一本の大木へ向かった。
大木・・・・の裏。
ムチが回り込むように大木の後ろへ伸びる。

そして一つの悲鳴と共に、
大木の後ろから盗賊が一人倒れた落ちた。

「隠れる盗賊なんて可愛くないわ。男は堂々としててこそイジメがいがあるのよ♪」

「くそ・・・」
「隠してた最後の命綱だったのに・・・・」
「もういい・・・・殺してくれ・・・・」

「もちろん殺すわ♪あなた達の中に可愛い子いないんだものね!
 アレックス部隊長みたいに可愛い子がいれば焦らして殺すのも楽しいのに・・・・」

サクラコは残念そうに手首をひねると、
長鞭がくりだされた。
真横に振られるムチは、
蜘蛛の巣にかかる蝶達の首を、

一発で全て吹っ飛ばした。




















- ミヤヴィ=ザ=クリムボン -








「ギャァ!!」

男は死んだ。
血を撒き散らして。
戦場ではこういったことは当然。
しかし、
その死に様は異様だった。

その男は外傷でなく、
全身から血を噴出して死んだのだ。

まぁ少し戦闘経験のある者なら、
その理由はすぐ分かる。

「ふざげ!耳を塞ぐんだ!!!」
「相手は詩人だ!しかもかなりの殺傷能力をもってるぞ!」
「耳だ!耳を塞ぐんだ!耳を塞げば詩人はなにもできない!」
「そうだ!44部隊の詩人とはいえ、音さえ聞かなきゃ恐れるに足りない!」

GUN’Sのメンバー達は一斉に耳を塞いだ。
そう、
彼、ミヤヴィ=ザ=クリムボンは詩人。
使ったのはバードノイズというスキル。
その音を聞いた者はダメージを受けるわけだが、
詩人の中でも上級の者はそのバードノイズの音だけで触れもせずに敵を倒せるという。

が、詩人には共通して弱点があった。
"耳を塞がれてしまうと全て通用しなくなってしまう"のだ。
それは上級の詩人にも同じ事だった。
44部隊がミヤヴィも上級中の上級の詩人だ。
詩人に変わりない。
だが彼には余裕があった。

「ド・・・ドレドミミ♪・・・・うーん違うな・・・・ド・・・・ド♯レレドシ♭♪
 うーんこれかな。次はこれでいこうかな♪演奏しながらオクターブを感じようかな♪」

ミヤヴィは楽しそうに武器を構える。
武器。
詩人でいうところの楽器。
彼は楽器を鼻歌混じりに両手に取り出した。

だが、それは誰もが知っているが、あまり見かけないものだった。

「・・・・サンバマラカス?」
「あんなもの遊び用の楽器だろ!」
「なんで44部隊の男があんな道具を」

「♪〜♪♪♪♪♪」

ミヤヴィはマラカスをジャグラーのようにお手玉する。
さながら演奏を楽しむ路上のピエロジャグラー。

「♪〜♪♪♪♪♪。じゃぁいくよ!アウトロへと繋ぐイントロの始まりだ♪」

ミヤヴィが両手でマラカスをキャッチすると、
突如走り出した。
走り出す詩人。
演奏で攻撃するでなく近づいてくる。
それは異様だった。

「無駄だぜ!耳を塞いでいる限り詩人のスキルは・・・・・」

そんな事を言いながら、
耳を塞いでいるGUN’Sの男は偉そうに言ったが、
すでに目の前までミヤヴィが間合いを詰めていた。

「テンポは大事♪とってもモルトに大事だよ♪」

そして振るのは・・・マラカス。
マラカスを・・・・・
その男に叩きつける。

「ギョァアアアアアアアアアアアアア!!!」

強烈に叩きつけたわけでもないのに、
その男は苦しみ、
そして血を全身の穴という穴から噴出した。

「う〜んドルチェだねぇ♪甘く柔らかだ♪」

ミヤヴィはまたマラカスをお手玉しながら、
他のメンバーを見る。

「サンバマラカスでギターのスキルを使えるのは知ってたカイ♪
 バードノイズもマラカスで使えるんだよ♪
 耳を塞いでも無駄♪直接マラカスを叩き込んで体に直接ハーモニーを振動させる♪
 ♪〜♪♪♪♪う〜んグラーヴェ♪重くゆるかな死を奏でようじゃないか♪」

GUN’Sのメンバー達は、
もう耳を塞いでも無駄だと知り、
両手を武器に持ち替えた。

「くそぉおおおお!!!」
「ただではやられねぇぞ音楽狂があああ!!!」
「俺らをなめるなよぉおお!!!」

「う〜んグラッチェ!! それだね!みんなの息が揃って初めてコンサートが完成するのさ♪」

ミヤヴィもマラカスを両手に構える。

「エチュードは終わりだね!ド♪レ♪ミ♪ファ♪ソ♪ラ♪シ♪
 "ド(怒)"から始まり"シ(死)"で終わる最高のセッションをしよう!
 ♪〜♪♪♪さぁ!歌おう!謡おう!詠おう!唄おうよ!最高の大合唱を!最高のトレモロを!
 1・2・3が合図だ!♯と♭の間(はざま)だよ! ハ長調の上で踊り、ヘ長調の下で死のう!」



















- ダ=フイ -




通称修道士の51服と呼ばれるシラットレオタド。
44部隊の中にそれを見に付ける男がいる。

「あ゙・・・・・・」

また一人。
フラリと白目を向いて地に倒れた。
地面には白目を向いて倒れるGUN’Sの男達。
いや、
倒れていない男もいる。
元気というわけではない。
白目を向いたまま、意識がないだけ。

「なんだよあいつ・・・」
「奇妙な技使いやがって・・・・」

「奇妙違うアルネ。自分の無知、全部奇妙で片付けルよくナイネ」

ダ=フイはゆっくり歩く。
残ったGUN’Sのメンバーはジリジリと後退する。
ダ=フイはゆっくり歩く。
GUN’Sの男達は武器で警戒しながら下がる。
ダ=フイはゆっくり歩く。
そのダ=フイを見逃さないように・・・自分達は逃げようとする男達。
ダ=フイは・・・・・突如素早く動く。

「ひぃ!?」

「何驚くネ。何のため警戒してたネ」

一人の男の目の前に一瞬で間合いをつめた。
そしてダ=フイは目の前の男を、
ソっと手を突きつける。
ぶつけるでもなく、
触れるようにとでも言うべきか・・・・
それだけ。
たったそれだけで、目の前の男の目はグルンと回転し、
白目になって倒れた。

「なんなんだあの技は!?」
「何してんだあの男は!?」

ダ=フイは笑うでもなく答えた。

「ただのナーブダウンあるヨ。気を送って気絶させテルだけネ。
 技イウのは極めてこそ意味アルヨ。それが修道都市マサイ4000年の歴史ネ」

「な、マサイ族の生き残り!?」
「マサイはサラセンが滅ぼしたはず・・・・」

「ン?」

ダ=フイの目がゆっくり男達に向く。

「ソコ二人。あんた達。修道士あるネ。故郷どこカ?まさかサラセン違うカ?」

「え゙・・・・」
「い、いや・・・・その・・・・・」

その修道士二人に向かい、
ダ=フイはゆっくり歩く。

「返事しないヨクナイネ。でも"答えナイが答え"ヨ。あんたら宿敵サラセン出ネ」

ダ=フイはその男達の目の前に着くと、
両手をフっと彼らの眼前を通す。
軽く触れるか触れないか程度に。
すると二人の男の目。
4つの目は照準が合わずにグリグリ動いた。

「気絶ギリギリで止めたネ。ナーブダウン極めルこういう事できるようナルヨ」

二人の男は、
意識が飛ぶでもなく、
それでいて自由に動けるでもなく。
まるで金縛りにでもあったような状況。
そして照準の合わない目で目の前のダ=フイを見る。
ダ=フイは、
背中から一本の武器を取り出していた。

「サラセンの男、むかつくの多いネ。マサイの者にとってどこまでいっても敵ネ。
 ロウマ隊長いなかたらアタシ、グレイの奴も殺してる思うアルヨ」

ダ=フイが出した武器。
それは普段修道士が使わない武器。
棒の先端にだけ刃のついた槍。
スネイルシャベリン。
モンスターであるスネイルの使うあの槍。

「見えテル意識アルが逆に恐怖デショ。サラセンの男、楽に殺さないアルネ」

ダ=フイはシャベリンの真ん中を両手で持ち、
グルングルンと回す。
まるで曲芸のように回す。
回したまま、
目の前を通過し、
頭上を通過し、
背後を通過し、
そして最後。
もう一度回転したシャベリンが目の前を通過した時、

「死ぬヨロシ」

二人の男の首が飛んだ。

むなしく転がる男達の首は、
目の照準が合ってないまま、
あらぬ方向を見て死んでいた。

「さよならアルヨ。あとは片付けだけアルね」

ダ=フイが振り向くと、
背後には見渡す限りに気絶した男達が横たわっていた。
意識のない白目の男達。
ナーブダウンで気絶した男達。
少しでも衝撃を与えれば彼らは気絶から立ち直るだろう。
だがそれも悲しきかな。

次に気絶から覚めるときは首と胴体が繋がっていないのだから。
















- メリー・メリー=キャリー -




黒い服。
魔術師の服だっただろう事は分かる。
だが魔術師服のどれだったのだろうか。
刺繍や飾りつけ。
フリフリで黒と白。
頭には真っ赤なリボン。
俗に言う"ゴス"な身なり。

メリーは透き通るほど白い顔に、
赤紫の口紅でスっと笑った・・・・

少し大きめのまあるい人形。
普通は守護動物に渡してあげるものだ。
それを両手いっぱいに抱きかかえている。

もう一度メリーがスっと笑うと

一人の男が氷付けになった。


「うわぁあああ!!まただ!」
「なんなんだ!いきなり氷付けになったり燃えたり!」
「誰がやってるんだ!?敵はどこだ!」
「ばか!決まってるだろ!あいつだよあいつ!44部隊の一人だ!」

「・・・・・・・・・・・・・」

GUN'Sの一人がメリーを指差す。
指を刺されるとメリーは恥ずかしそうに人形で顔を隠した。

「あいつぅ?」
「分かってるさ・・・・多分あいつなんだろう。女だろうが44部隊なんだからな!」
「だけどよぉ!どう魔法使ってるんだ!」
「強力な魔法にも関わらず"詠唱も何もない"じゃねぇか!!」

メリーが人形を下げ、
照れくさそうに顔を出すと、
天使か悪魔か。
またスっと不思議に笑った。

すると一人の男が、今度は小さな竜巻に巻き込まれて切り刻まれた。
風の刃で鮮血にまみれた男を見、
メリーは人形を抱きかかえてクスクスと笑った。

「だぁー!あいつだ!間違いない!」
「間違いないっつってもよぉ・・・詠唱してねぇぜ・・・・」
「"メリーさん"だ・・・・」
「あん?」
「『口なしメリーさん』だ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『口なしメリーさん』
それが彼女の二つ名だった。
口なし・・・・
それは彼女の不幸な糧を表す。
メリーは生まれてこの方・・・・・・・口がきけない。
しゃべれないのだ。
だが、生まれつき多大な魔力を持っている彼女。
不幸な彼女に神は一つの武器を与えた。

"詠唱無視"

メリーは強力な魔法であろうとも、
詠唱しなくても魔法を放てるサイレント・マジシャン。

「そんなんアリかよ・・・・・」
「ズルくせぇぜ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

GUN'Sの男達は逃げようとした、
だがふと体が動かなくなる。
気付くと体が紐状の氷に巻きつけられていた。
アイススパイラルだ。
氷を撒きつけられ、
身動きがとれない男達。

唯一動く首をなんとか振り向くと、
そこには天使か悪魔か、
黒に身を包んだリボンの彼女メリーが、
人形をしっかり抱いたまま微笑んでた。

「たのむ・・・・・」
「助けて・・・・・・・」

それを聞くと彼女は、
人形を強く抱きしめ、
照れくさそうにスっ・・・と笑った。

男達の意識はそこまでだった。




















- エース -





ジャラジャラ。
ガラガラ。
不細工な鉄の音が鳴り響く。

ソードマスターアーマー。
戦士の装備としては豪華な類。
赤と黒に包まれ、
背中には棺おけ。


「ったく。なんでナックルの野郎だけ別行動なんだよ。
 ・・・あれ?理由があるからだっけか?・・・まぁいいか。忘れた」

エースはジャラジャラガラガラと
オモチャのような不細工な鉄の音を立て、
ゆっくりと歩いていた。

「よ、44部隊の者だなっ!」
「お命頂戴!!!」

言われると、
エースは立ち止まり、
ニヤりと笑った。

「いいもん持ってるねぇ・・・・」

「は?」

「あんたぁ名前は?名前だよ名前」

言いながらエースは笑う。

「名前なんて戦場で誰が教えるか!」
「お前か俺達のどっちかが死ぬんだ!」
「自己紹介なんて意味ないだろ!!!」

「そりゃぁ残念だな。名前知りたいんだけどなぁ。
 名前・・・・名前が欲しいんだよ。誰か名前くれねぇか?」

「名前だと?」
「お前44部隊のエースって奴だろ!」
「44部隊の生き残りに戦士は一人しかいないからな!」

「エースか」

エースは笑う。
おかしくて笑う。

「そうだ。俺はたしかにエースだ。だがエースは名前じゃぁない。呼び名だ。
 俺はエース。『AAA(ノーネーム)』のエース(A's)。名無しのエースだ。
 隊長は今ある己である己を信じていれば、名などいいだろうと言ってくれたが、
 俺はどうしても名前が欲しい。俺が俺であるために・・・」

名の無い戦士が胸に手を当てると、
ジャラジャラと音が奏でられた。

「うるせぇ!」
「てめぇの身の上なんて知った事か!」
「大体武器も持ってねぇくせに・・・・・」

「武器?」

エースは笑い、
そしてソードマスターアーマーの上着の両端。
それを両手で掴んで広げた。

上着の内側。
そこには・・・・
剣。
斧。
ダガー。
ハンマー。
ナックル。
スタッフ。
オーブ。
槍。
楽器。
そこには数え切れない武器があった。

「な、なんだあの武器の数!?」
「上着の内側に武器があんなに!?」
「あいつ・・・・人間凶器かなんかか?!」

「フッ・・・・これはもらった"名前達"だ。一つ一つに持ち主の名前を彫ってある」

さらにエースは背中の棺おけを下ろす。
そして開けると、
そこにはさらに幾多の武器が敷き詰められていた。

「どれにしようか。そうだな。今日は"トム"と"マイケル"にしよう」

そしてエースは右手に斧(トム)
左手にソード(マイケル)を構えた。

「もう一度だけ言う。名前・・・・教えてくれないか?」

エースが滲み寄ると、
一人の男は、しぶしぶ名前を答えた。

「ド、ドンだ・・・・」

「そうか」

言うなり、
エースはソード(マイケル)で人斬りし、
すぐさま斧(トム)でドンという男をぶった切った。
ドンという男は真っ二つになって宙を舞った。

「余りピンとこない名前だな。だけど獲物は気に入った」

エースは、
二つに分かれたドンの体に近寄り、
そしてその腕から剣を剥ぎ取った。

「ドン。これから仲良くしようぜ」

そう言い、
エースは剣(ドン)を自分の棺桶の中にしまった。

「さてと、次か」

エースは言いながらも自分の武器をしまう。
戦闘の意志がないわけではない。
また違う武器を取り出した。
一つは棺桶の中から。
一つは自分の上着の内側から。

「次はジェファニーとタタンで戦うか」

そう言い、
エースが構えたのはスタッフとダガー。
言いあげた名前はまた"元"持ち主の名なのだろう。

「く、くるな!」
「俺達に戦う意志はねぇ!」

だが、聞こえないかのようにエースは話を進める。

「おい、あんた名前教えてくれるか?なぁ、いいだだろ?な?」

「お、俺はエルだ!」
「俺はカイト!ほ、ほら名前言ったぞ!だから命だけは・・・・」

GUN'Sのメンバーは一人一人自分の名を言う。
まるで点呼をとるように。

そして・・・・

答えた順に武器と・・・・・・そして命を奪われていった。













                 






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