「できておりますか?カージナル殿」

アスカは一人、ミルレスの鍛冶屋。
ルイス=カージナルの鍛冶屋に来ていた。

「できとるよ。ぉ?・・・今日はお嬢ちゃん一人かの」

「そうです。父上が何故か家を出ないと言い出し・・・・」

「そうかそうか。珍しいのぉ。ヒエイの奴。研ぎ終わりを確認したがるんじゃが・・・」

カージナルはチラリとだけアスカの方を見た後、
剣を布に包み始めた。
アスカの目から少しだけ見えたが、
見事な出来上がり。
父が剣研ぎをカージナルにしか任せない理由も分かる気がした。

「大きくなったのぉ。もうお嬢ちゃんなんて呼ぶ年でもないか・・・
 体も気構えも立派な大人じゃ。見習いというよりは侍に。女の子ではなく女性になったのぉ。
 ホホ、ワシもあと7・80歳若けりゃほっとかんわい。歳はいくつになったのかの?」

「調度今日、二十歳(はたち)になります」

それを聞き、
カージナルは布を包む手を止めた。
白い眉に少し隠れた瞳が、
大きく開かれていたように見えた。

「そうか・・・・・ついにか」

カージナルは包み終わったヒエイの剣を
カウンターの上へ置いた。
そしてアスカの顔を見上げた。

「お嬢ちゃん・・・いや、アスカ。ヒエイは・・・・父上は・・・好きかの?」

「え?・・・あ、はい。それはもちろん・・・・・」

その時は、
何を言ってるのだこの老人は・・・・
としか思わなかった。












アスカが家にもどる。
もう20年住んでる小さな家。
ルアスかミルレスの森の奥の小屋。

アスカが戸を開けると、
中で椅子に座っていた父が、突然ビクリと驚いていた。

「・・・アスカか」

「・・・・・・父上。どうなされた?」

父の目の前の机に、研ぎ終わった剣を置く。
父はその剣を、
興味あるようなないようなうつろな目で見ていた。

「さすがカージナル殿でした父上。見てくだされこの剣を!見事な按配だ」

父は布にくるまったその剣を見つめ続けた。
長いこと見続けていた気がする。
布をはがし、
刀身をながめ、
少し怪しく笑ったかと思うと、
暗くなったり。

だが、
突然豹変したように言う。
いや、叫ぶ。

「こんな剣捨ててしまえ!!!!」

父は机の上の剣を手で払いのけた。
父が一番よく使っていた剣は、床とぶつかって重い音を奏でた。

「これも!これもこれもこれも!!!」

父は狂ったかのようだった。
部屋に飾ってある他の剣も払いのける。
飾っていただけの剣。
練習に使っていた剣。
それらが全て不協和音を奏でて床に転がった。

「はぁ・・・はぁ・・・・・」

そこまでして、
やっと父は、驚いているアスカの顔に気付いた。
そしてまた椅子に座りなおし、
両手で顔を覆う。

「すまん・・・・アスカ・・・・・・」

「・・・・・少し休まれたらどうか?父上」

「いや・・・・」

父はまた椅子から立ち上がった。
そしてイスカの方へと歩み寄ってきたかと思うと
突然アスカを抱きしめた。

「アスカ・・・大きくなった。いや・・・大きくなってしまった・・・・・」

「・・・・父上?」

それでも抱きしめた。
強く強く。
もう離したくないと思うかのように。
いや、娘の感触をどうにか記憶したいかのように。

「お前は凄い・・・・。礼儀もあり、心もある。男勝りに育ててしまったが・・・・最愛で、最高の娘だ。
 俺の教えた事もこの20年で全て覚えた。アスカ=シシドウは完成品だ。思い残す事もない」

「どうなされたんですか父上」

「・・・・・・・・・・」

父ヒエイはアスカから手を離した。
そして父はカージナルが研いでばかりの剣を手に取る。

「だけど・・・・・お前は・・・・剣をこんな風にしては駄目だ・・・・・
 これではもう人切り包丁だ・・・・血生臭い・・・俺がやったんだな・・・・」

「・・・・父上?」

「父などと呼ばれるべきか・・・・・・俺はヒエイ(飛影)・・・・影が飛ぶのでなく、"飛ぶ者の影"・・・・
 影はいつも地を這っている。ずっと、地面を這いずり回っている・・・・
 だが、お前はアスカ(飛鳥)だ・・・飛んでくれ・・・大空を・・・・そう思い、付けた名だ・・・・」

「何を・・・・一体何を言っておるのだ父上・・・・・・」

父は泣いていた。
ボロボロと。
剣を握り締め。
泣いていた。

「もう・・・・俺の事など忘れるんだ・・・・俺の教えたこともだ・・・・
 俺の記憶など・・・・大空に舞い上がるお前の影でいい・・・・それに・・・・」


キィ・・・・
と木のきしむ音が聞こえた。
20年間使った我が家のドアを開く音だった。

アスカが振り向くと、
ドアの向こうから現れたのは、
老人。
ルアスの武器・鍛冶屋、ルド=ウェッソンだった。


「シシドウ殿はおりますかな」


その刹那。
アスカの耳の後ろで、
何かしら乾いた音が響いた。
聞いた事の無い音が聞こえた。

いや、あえて近い音を例えると、
何かが途絶える音。
何かが断ち切られる音。
・・・・・好きな音ではない。

そして振り向くと、

カージナルが研いでばかりの・・・・
アスカが持ち帰ったばかりのその剣で、


父は自ら自分の腹を貫いていた。


「父上!!!???」

何がなんだか分からなかった。
とにかく倒れる父の傍らに添う。
が、父を貫いているその剣を抜くべきなのか、
それとも手当て?
それとも救急?
口と腹から血があふれ出ている。
いきなり何でこんなことを?
どうすればいいのか、
何が起こっているのか。
分からずアスカが慌てふためいていると、
振り回した視線の一角で、
怪しく笑うルドが言った。

「やはり今日じゃったな」

ルドはその老体をドアにもたれ預け、
怪しく笑ったまま話し始めた。

「何が今日なのだ!!!」

「お前の20歳の誕生日じゃよ。アスカお嬢ちゃん」

「意味が・・・・訳が分からぬ・・・・」

「聞いておらぬようだな。これがシシドウ家なんじゃよ
 "死こそ始まり"・・・死始動(シシドウ)家・・・・・晩年続く暗殺剣の一族」

死・・始動・・・・
暗殺・・・

「ヒエイが何故こんな山奥に隠れ住み、娘のお前にスキルブックも使わず技を教えていたか
 それは彼が殺し屋で・・・・お前さんに教えているのがスキルブックにもない暗殺剣だからじゃ」

とにかく訳が分からなかった。
いや、
どうでもいい。
殺しとか暗殺とか。
そんな事この際どうでもいい。
何故、
何故父が突然・・・

「それはじゃな・・・・」

悟ったようにルドが、ドアに体を寄せたまま続ける。

「シシドウ家は"一子相伝"。それも暗殺剣だからこその異端の相伝じゃ。
 シシドウ家はたった一人の子に全て技を与え、託し、
 その子が成人したら・・・・・・・・・・・・・前代は死んで次に任せる。
 それが延々と引き継がれてきた。それだけじゃ。それだけなんじゃよ」

イスカはもう息をしてない父を見た後、
ルドを睨む。

「わしを恨むか?お門違いじゃ。わしは教えてやっただけじゃ。シシドウ家の問題じゃ
 お前さんの父・・・・ヒエイからこれからの事を伝えるように言われておる。
 今日、今、この時を持ってお嬢ちゃんが"10代目シシドウ"じゃ。
 お嬢ちゃん。あんたはこれから殺しの螺旋を進むんじゃよ。
 剣は殺しの道具じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。
 人の手、足、肉、骨・・・・それらを斬りやすいようにだけ設計されておるのじゃからな。
 すぐに仕事も増える。シシドウ家は殺しの仕事でヒマはせんからのぉ。
 ヒエイもそうしてきた。お前の見えぬ所で人を殺し続けてきていた。
 名も知らぬ、恨みもない。そんな者を無条件で命を断ち切ってきたのじゃ」

父上が・・・無闇に人を・・・・
父上の教えてきてくれた剣は・・・・無情に人を斬るための・・・・・

「そしてそれらの事を伝えた上で・・・・・・・・改めて言わせてもらおうか」

ルドは憎たらしい老いた顔を、
目を喜ばせて、
口を笑みで緩めて、

言った。

「・・・・お誕生日おめでとう」


気付くと、
アスカは目の前の老人を斬り殺していた。







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「あ゙ぁぁあああ!!!!!!!!!」

イスカは目の前の男に斬りかかった。
あの時のルドに似た顔をした孫スミス。
それがルドと同く戸に背もたれている。
ルドを斬った時の事を思い出した。

鞘から一瞬で抜いたその剣は、
ドアにもたれていたスミスを襲う。

だがスミスが鞘から剣を抜くのも同じく一瞬。
イスカの剣はスミスに止められた。

「フッ・・・・それが一子相伝のシシドウ暗殺剣か?」

剣を押し合いながら、
イスカは形相を鬼のようにしてスミスを睨む。

「そんな剣使っておらぬ!とうに忘れたわ!」

何故気付かなかったのか。
見れば見るほど、ルドの面影がある。
恨みは無くとも憎たらしい顔だ。
人の不幸な人生を笑って見届けられるような・・・
そんな顔だ。

「忘れたぁ?そんな忘れられるもんかぁ?アスカさんよぉ」

「イスカだ!!」

「ふん。どういった経緯で名を変え、技を捨てたか知らないけどな。本当に忘れたのか?」

「忘れた。忘れなければならぬものだ。大空を見るためには!」

「父親をも忘れたのか?」

「!?」

「お?・・・・・・もらった!!!!」

スミスの言葉に一瞬動揺したイスカ。
そこを鋭く突いてくるスミス。
スミスは鍔迫り合いをしていた剣を、
そのまま力任せに、大きく振りぬいてきた。

「クッ!」

イスカは体を半歩だけズラし、
その剣撃を避ける。

だが、その剣撃は想像を絶するものだった。
スミスが振ったその剣の路は、
まるで巨大な斧でも振り切ったかのよう。
4m近くにも及ぶ長い破壊。
床を削り砕き、
カウンターを縦に薙った。

長い傷跡だけがそこに残った。

「あぶ・・・・」

カウンターの横にいたマリナは。
自分の一歩横が縦に斬り抜かれたことに
冷や汗と引き笑いをした。
そしてすぐに怒り出す。

「ちょ、ちょっとぉ!なんなの今の剣撃!
 私の店を斬りやがった時もだけどどうなってんのよそれ!!!
 剣振っただけで床とカウンターがバリバリ破れ斬れるなんてズルいわよ!」

「ズルい?強ければいいだろ?」

スミスは片目を、
たった一つの目をマリナに向けた。
その一瞬をつこうとイスカが剣を振ろうとするが、
スミスはそれに気付き、「おっと」と言って後ろに距離をとった。

「不意討ちに気をつけないとなぁ」

「隙を突いたといって欲しい」

「ククッ・・・・分かってるぜ?俺も馬鹿じゃぁない。
 俺があのお嬢ちゃんに目がいった瞬間、俺の死角(左目)に回ろうとした。
 えげつねぇなぁ。相手の弱点と不意をつく。さすが暗殺剣!」

「黙れ」

「はいはい。ついでに言っとくと俺の左目の死角に入ろうったって無駄だぜ。
 人間弱い所ほど敏感だ。俺も左の死角にはいつもドキドキして生きてるもんでよぉ
 逆に左の死角方面の感覚が強いくらいだ。・・・・・・・・あ、それよりお嬢さんの方」

そしてまたマリナの方を向く。

「俺の技だったな?これはただの(スキル)技だぜお嬢さん。"パワーセイバー"というな。
 ま、上等中の上等な技だぜ?これでも努力家でね。修行はしてんだ」

パワーセイバー。
直線上・・・・中距離を剣撃で攻撃する技。

「剣にも飛び道具があるのね・・・・」
「飛び道具じゃなく、剣圧というのが正解であろうな」
「どっちでもいいわ!どっちにしろ中距離まで届く剣技って事でしょ!」
「そういう事であるな」

イスカはマリナに話しながらもスミスから目を離さなかった。
スミスは一瞬の隙をも狙ってくる。
ただの天狗ではなく、実力は確実に伴っている。
鋭い剣技、
破壊的な剣筋、
一瞬を見逃さない戦闘センス。
そして弱点である左目の死角も感覚で補っている。
世界最強ギルドの六銃士に抜擢されるだけの実力は申し分ない。

「俺は最強の剣士だ」

何一つ。
ほんの少しの恥ずかしさもなくスミスは言った。

「俺には最強の技と、最狂の剣がある」

スミスは剣をゆらりと見せた。

「アスカさん。あんたは親父を忘れたのかどうか知らない。
 が、俺は祖父を、ルドを忘れてはいない。むかつく野郎だが感謝はしている」

「感謝?」

「そう。感謝。最強の剣を求める。それは鍛冶屋なら誰もが見る夢だ。
 祖父ルドも同じだ。最強の剣をつくり、それを最強の剣士に使ってもらう
 それが夢だとアホのように聞かされた。ま、耳にタコだがな」

スミスはたった一つの目は細め、
しかめっつらで耳をほじくった。

最強の剣と最強の剣士・・・・
だからルドは剣が出来ては父に持ちかけていたのか・・・・。

「だがその夢は剣聖カージナルに潰える。最強の剣の腕も、最強の剣も・・・カージナルにあった。
 だがそれでもルドは求めた。最強の剣と最強の剣士を。だからルドは剣に必死になり、
 孫の俺にはスミス(鍛冶屋)と名付けておきながら剣の上達だけに集中させた」

スミスが剣を自分の目の前に掲げる。
片目でそれを這うように見る。
刀身をなめるように下から上へ。

「そしてあんたが祖父を殺した。そして残った。祖父が作った5本の傑作達が。
 この"喪失の剣"もその一つだ。最狂・・・・・・世界最高の失敗作だ」

最狂?
世界最高の・・・・・・失敗作?

「ルド(じじぃ)は剣を鍛えるがため、呪いの巻物を使いすぎたんだ。
 刃は丈夫になる引き換えに鈍くなっていった。強力だが荒っぽい」

突如スミスが剣を横に振った。
すると、マリナの店の時のようにカージナル亭の壁が斬られた。
パワーセイバー。
大きく、
長く、
そして荒々しく、
壁が爪あとのような傷が残る。

「だからこんなノコギリとか斧でぶった切ったようなバリバリの剣跡になる」

その傷跡を見ると恐ろしくなる。
数mの傷跡。
斬ったというような美しい跡ではない。
あんなもので、
あんな剣撃が人間に直撃したら・・・
グチャグチャになってしまうんじゃないだろうか・・・

「ま、俺も思いあがってた頃があったけどな。剣聖に挑んでこの左目をとられたり、」

スミスは左目を傷をさする。

「へっぽこ剣士でも倒してうさ晴らししてやろうと《騎士の心道場》に行ったら、
 逆に『ナイトマスター』にボコられて残りの傑作4本とられちまったし・・・
 俺も若かったなあのころは・・・・・・世間を知ったよ・・・・・・・・だが!!」

スミスは剣を、"喪失の剣"を構える。

「もう憎いナイトマスターも、最強の剣聖カージナルもこの世にいねぇ。
 そしてあの時を超え、世界最強ギルドの六銃士まで昇りあがった俺がいる!
 剣聖がいなけりゃ最強の剣士はこの俺スミス=ウェッソンよ!
 ついでにそのセイキマツを奪っちまえば、俺が"剣聖"と呼ばれるかもな!!!!」

スミスはイスカの持つ忘却のスワードロングソード・・・セイキマツを、
片目でなめるように見る。
それを奪うことを考えたのか、
笑いが抑えきれないといった表情で
ニヤニヤと笑っていた。

「もともとそういう理由でここを訪れたわけだしな。
 まさか獲物(MD)と獲物(セイキマツ)がセットでカモネギとは思わなかったがな」

「そんな考えと、呪われた剣を使っていて剣聖になれると思っておるのか?」

「なれるさ。強ければいいんだ。名実共に最強の剣士なら剣聖だろ?
 剣聖は『ハートスラッシャー(斬れぬものなし)』と呼ばれていたが、
 俺もなんでも斬れる剣技を手に入れた。この攻撃力!破壊力!!!
 ・・・・・・・・・・・・それに・・・呪われた剣を使ってるのはあんたも同じだぜ?」

スミスがまた、
いや、ずっといやらしく見続けていたセイキマツを
たった一つの目を大きく見開いて言った。

「忘却のスワードロングソード・・・・その剣は持ち主が死んだら消滅するもんだ
 知ってるだろ?だが何故かお前の手で残ってる。呪われてるに決まってるぜ」

「簡単な事だ・・・・」

イスカは剣に、
セイキマツに手を這わせる。

「この剣は思っておるだけだ。分かっておるのだ
 カージナル殿が死んでも、カージナル殿の意思は死んでないという事を」

その瞬間。
スミスは大笑いした。
爆笑だった。
含み笑いなどでクールに装い、
あまり大きく笑わないスミスだったが、
それには破裂したように笑った。

「ハハ!ギャハハハ!!!クッセェ!!!!アホか?アホかってぇの!!!
 何?何って?剣が分かってる?剣が生きてるかっての!
 アホの意見でしかねぇ!絵本読みすぎだバァーカ!!!いいかアスカさんよぉ」

「"イスカ"だ」

「るせぇ!!!」

スミスがステップがてら、
剣を放とうとする。
瞬時にイスカはそれを見切り、
スミスの左目の死角に入ろうとする。

が、それをもスミスは見切っていた。
スミスの見えない左目は弱点でなく、
むしろ長所。
オトリといってもいい。
相手がイスカのように一流であればあるほど・・・・
その弱点を瞬時についてくる。
スミスは逆にそれを予測して突いてくる。

「クッ」

またスミスの剣とイスカの剣が金属音と共に合わさる。
いや、今回はスミスが斬りつけた側。
あの攻撃力のあるスミスに優勢をとられるのはよくない。

「二戦撃(ウォーリアーダブルアタック)!!!」

剣が合わさると同時に、
イスカはスミスを蹴飛ばす。
だがスミスはそれをも予測していたようで、
蹴りを食らいながらも後ろに飛んでいた。

また距離ができ、
それも思い通りかのようにスミスはニタニタ笑う。

「話の続きだ"アスカさん"よぉ。いいか?剣はただの道具だ。ただの鉄の塊だ!
 それも人の血を吸うためだけのな!それ以上でもそれ以下でもない!
 持ち主のためのただの道具!殺人道具だ!斬れれば斬れるほどいい!それだけだ!!!」

スミスは言った。
昔、ルドがイスカ・・・いやアスカに言ったのと同じ事を。
目指すところが違っても、
やはり血が繋がっている事を感じる。

「貴様・・・・剣を馬鹿に・・・・」

剣を馬鹿にするものは許せなかった。
剣士と剣は一心同体。
それを道具としか考えないスミスの思考。
それはイスカにとって耐え難い・・・・・・

「ばっかじゃないの?」

イスカがスミスの笑い声にキれる前に、
横からマリナが呆れた声で言った。
おちょくるような声。
それを聞き、
スミスは笑い声を止める。

「・・・女。今のは誰に向かって言ったんだ?
 まさかとは・・・まさかとは思うが俺じゃぁないよな?」

「あんたに決まってるじゃないのばぁ〜〜〜か」

マリナはスミスを挑発する。
口を大きく開けて「ばぁ〜〜か」
女としてははしたない。
とまぁそんな事より
スミスとしてはさすがに馬鹿と二回も言われ、
しかめ面で血管を浮き出した。
だが、冷静を装いマリナ言う。

「女。俺とアスカさんの話。どっちが現実的でどっちが幻想みたいな話かちゃんと判断できてるか?
 少し足りないオツムで考えてみろ。俺より一つ多い目ん玉開いて現実を見てみろ。
 見ろ。考えろ。オツムを動かせ。そして理解して結果を出せ。話はそれからだ。
 ククッ・・・・現実的な話をしようぜ?いい大人なんだからよ。夢見がちは恥ずかしいぜ?」

「現実的な話が出来てないのはあんたの方よばぁ〜〜〜か」

「まだ言うか・・・・」

「言うわぁ。言うわよ。剣が生きてる・・・とはまではいかなくとも、
 考えてたり持ち主の思考を感じるくらいできるかも・・・って言ってるのよ。"現実的に考えて"ね。
 だってそうでしょ?魂蘇生技術だってあるんだし、生きたフェイスオーブなんてのもあったわ。
 それにモノがモンスター化したみたいなやつだって見たことあるしね。意志くらい・・・・」

「馬鹿馬鹿しい。それが剣が意志を感じる事と結びつくと・・・」

「何言ってるのよ。結びつくわ。ねー?イスカぁ〜?」
「あ、いや・・・・拙者はそういう難しい事はよく分からぬ・・・・」
「・・・・・・・・」

まぁイスカとしては
そんな理論的な事じゃないと言いたいのだろう。

「ま、まぁいいわ・・・・とにかく私が言いたいのは剣だってプライドがあるっていってんの
 事実忘却のスワードロングソードは持ち主が死んだ事を知る事ができるんでしょ?
 持ち主が死んだら消滅するんだからね。じゃぁ全然逆もあるわ。げ・ん・じ・つ的にね♪」

「チッ」

スミスは舌打ちした。
と、思うと。

「馬鹿にしてるのかっ!?」

スミスが剣を大きく縦に振る。
両断するという言葉の似合う大振り。
今迄で一番大きく。
最大のパワーセイバー。
飛ぶ剣撃。

真っ直ぐ振り切られたその剣撃は、
恐ろしいほどの範囲を攻撃力を発揮した。
まっすぐ、
カージナル亭の向こう側の壁が上から下までバリバリに斬り破られた。

まるで家をまるまる二つに分けたように、
いや、家自体を両断するかのような攻撃。
天井の一部にまで傷跡は残され、
パラパラと木屑が舞い落ちる。

「意味ねぇ事をグダグダグダグダと・・・・・・・
 関係ないだろう!結果強いものだけが勝つ。それだけだろうが!」

『一島両断』とはよく言ったもの。
島を斬るまでは言いすぎだが、
実際に家を一件両断する勢いだった。
入り口と別に向こう側に入り口をこさえられたような状況なのだ。

イスカもマリナもその攻撃力に驚いていたが、
マリナが少しひき笑いをした後、
一呼吸おき、
落ち着いて言った。

「勝つかだけ・・・か。ま、一理あるわね・・・・・でもそれなら私はこっちが勝つと思うわ」

マリナはすました顔で右手の平を上にし、
それをイスカの方に向けた。
まるで「あちらのお客様からのご注文です」と、バーテンがやるかのように。

「イスカ。余計な事考えなくてもいいわよ。ま、聞いてれば深い私情が絡んでるみたいね。
 私はそれを忘れろとも無視しろとも言わないわ。ただ言いたい事は・・・・」

マリナは手のひらを今度はスミスに向ける。

「アレが倒さなきゃいけない敵で、あんたはアレに勝てばいい。それだけで全部解決するんでしょ?
 頼んだわよ?頼りにしてるんだからマリナさんの期待を裏切ることは万死に値するわよ?」

マリナはニコリとイスカに微笑む。

「私を死んでも守るんでしょ?」
「も、もちろんです。もちろんですよマリナ殿ぉおおおお!!!!」

イスカは剣を握る。

「約束であるからな」

スミスは笑った。
見えない左目が小馬鹿にしていた。

「約束約束ってよぉ。くだらねぇ。約束ってのは破るためにあるんだぜ?
 だって"どちらかが破らなきゃ約束は終わらない"。
 約束なんてものは約束したどちらかを嘘つきにするためのもんでしかねぇ!!!
 なら俺が引導を渡してやるよ!!!その約束ってやつのなぁ!!!」

「下らん」

イスカはうすら笑い返す。

「お主の剣はたしかによく斬れるどんな"物"でも斬れるだろう。
 だがカージナル殿のように『ハートスラッシャー』と呼ばれるものではない」

「んだと?」

「"物"は斬れても"モノ"は斬れぬ。拙者(者)を斬れても意思(モノ)までは斬れぬ!!!
 拙者は死んでも守ると約束した。その意思と思いまで斬れるとは思えんな!!!!」

「知るか!」

スミスが地面に剣を突き刺す。
刺すというか、
砕かれるように地面にぶっ刺さった。

「剣が斬るとかそういう話はもういい!!!剣は斬る物!そして・・・・・・・・・・・」

剣を抜き、
スミスは自分の剣に指を這わせる。
そして片目が怪しい視線をも這わせる。

「殺すのは剣ではなく・・・・・・・俺自信だ。剣でなく!俺が人を殺すのだ!!!!」










                 






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