「Dr.レイズ。あんたも俺とやる気があるんだな・・・・とぉ・・・・」

「・・・・やる気?・・・・・クク・・・・"殺(や)る気"以外ない・・・・・・・殺る気しかない・・・・・・・・・・」

「あんたを・・・・闇を掘って光が見つかるか・・・・・・・な」

ヤンキは剣を振り上げ、
そして走り出した。
病院の狭い廊下。
漆黒のカラスが飛ぶように、
まっすぐ、黒く走った。

「死ね!師範の仇だ!」

あまりひねりもない、ただの上段の斬り下ろし。
それがレイズに向かって振り落とされる。
白兵戦を得意としていないレイズでも、
その剣の太刀を見切るのは容易だった。
左手のツリスタッフで止める。
ガードする。
そして笑う。

「・・・・・・・・クック・・・・・・・お前・・・冷静な印象だったが・・・・・・・・「死ね!」・・・・・・・か・・
 ・・・・・・・ディアンの仇討ちとなると・・・・・・気合が入るんだな・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・心の支えとなる光。それを持ったことない人にはわからないですよ・・・・とぉ!!」

ヤンキは自分の黒い剣、
モノソードでツリスタッフを・・・弾く。
ヤンキはそれで相手の武器を弾いたつもりでいたが、
すでにレイズは右手を突き出していた。
その右腕の先はヤンキを捕らえていた。

「・・・・・・・光・・・・・・・か・・・・・・・心の支ではなかったが・・・・・・・
 ・・・・・・・・俺にも・・・・・・・・・・・眩しく思える存在はいた・・・・・・・・ひひ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・それは今・・・・俺の"右腕"として働いている・・・・なんてな・・・・・・・クック・・・・」

レイズの右腕(ヴァレンタイン)から衝撃が飛ぶ。
何が飛んだかは分からない。
見えないから。
それはレイズの心とは逆の力。
聖なる力、プレイア。

「・・・・チッ」

ヤンキは体を捻らせて横に飛ぶ。
間一髪。
ヤンキの服を削りとる程度に避けた。
飛び散ったヤンキの黒い服は、
まるでカラスの羽が舞い散ったかのようだった。

「危ない危ない・・・・とぉ」

ヤンキは狭い廊下の壁に背をつき、
ふぅ・・・と息を漏らした。
そして次の瞬間にレイズを見て言った。

「あんたも光を失った口なんだな・・・・とぉ」

「・・・・・失った?・・・・・・クク・・・・・そうだな・・・・まぁそうともとれるな・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・だが俺の場合は光が光じゃなかった・・・・・・・・・ってパターンだ・・・・・」

「また闇だけに戻った・・・・・・・か。やはり俺もあんたも同じだな」

「・・・・・・クク・・・・・・違うな・・・一つ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・"お前は今死ぬ"・・・・・・・・・」

「!?」

間髪いれず、
すでにレイズの右腕はまたヤンキに向けられていた。

「・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」

言葉と共にプレイアが放たれる。
またヤンキは避ける。
至近距離。
転がるように、
横に飛び込むように避ける。
轟音と共に壁が凹み、崩れた。

「これ以上暗い所には行きたくない・・・・・死ぬのはあんたにしてくれ」

避けると同時にレイズの横にまわったヤンキ。
すぐさまモノソードを横に振る。
プレイアの余韻があったレイズ。
隙だらけ

「・・・・・・・クク・・・・・・・・・」

だが、ヤンキの剣を左手のツリスタッフで止めた。
ヤンキはまたため息をつきながら言う。

「スタッフを防御専門に使う人を初めてみましたよ・・・・とぉ・・・・
 ・・・・・・強力な右腕の主砲と・・・・防御に使う左手の杖。
 それぞれ"攻"と”防"の専用・・・・。剣と鞘の二刀流に似てるな・・・とぉ」

「・・・・・だからどうした・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」

「その右腕の攻撃は・・・・お前のかつての光から継いだのだろう
 俺にも・・・こんな闇に生きる俺にも・・・師範は・・・光は力をくれた・・・・・・」

モノソードをななめに構える。
薄暗い病院の廊下。
そこに薄く光が差し込む。
だが、黒いモノソードは光を反射する事はなかった。

「あんたを殺す・・・・殺すんだ・・・・・そうすればきっと・・・・きっと光が見える・・・・・」


「殺してやるぅうううううDr.レイズぅううううううう!!!!」

突如後ろから、
声がした。
そしてそれは凄いスピードでつっ込んできた。

気付くと、
それはレイズの横腹に刺さっていた。

「・・・・・・・・く・・・・・・・」

「ベラドンナちゃんの仇・・・・・・・・」

それはスズランだった。
頭から血を流した状態でダガーを突き刺していた。
そのダガーはレイズの横腹に深々と食い込んでいた。

「・・・・・・・生きてたか・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・」

レイズは横腹にダガーを突き刺されたまま、
右手をスズランに向ける。
そして放つ。
プレイア。
それをモロに受け、
スズランはおもくそに吹っ飛び、壁に激突して崩れ落ちた。

「・・・・・・・・・・ど・・・・Dr.レイズめ・・・・・・・・ベラドンナちゃんもお前がやったんだろ・・・・・・」

「・・・・・・・・・だったらよかったんだがな・・・・・・・・」

「・・・・・・う、うるさぃ!・・・・しらばっくれちゃって・・・・・
 ・・・・・ベラドンナちゃんは・・・スズちゃんと・・・・唯一・・・・・生き方が合ったパートナー・・・・・
 ・・・・やるべき事を・・・・教えてくれた・・・・一緒に生きてきた・・・・・」

そこでスズランは一度血を吐いた。
口からは血。
目からは涙が流れていた。

「・・・・・・ベラドンナ(毒花)・・・・とスズラン(毒花)・・・・私達は『ポイズンガールズ』・・・・
 ・・・・許さない・・・・・・・・Dr.レイズ・・・・・あんただけは許さないんだから・・・・・
 ・・・その傷は・・・・・・・ベラドンナちゃんと・・・・・・・・・スズちゃんの・・・・・・・・・
 ・・・・・二人分の・・・・・くる・・・・・し・・・・・・・一生・・・・苦し・・・めば・・・・いいんだ・・・・・・・・」

そういい残し、
スズランは息絶えた。
彼女もまた、光を失った一人。
間違った生き方だが、
そんな自分自身を認めてくれたベラドンナ(光)を失った者。
その最後の憎しみの灯火。

「・・・・・・・・何が・・・・・一生苦しめだ・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・」

そういってレイズはすぐさまダガーの傷を治療するべくヒールをかけた。
まぁ放っておいてもブレシングヘルスで治る。
そう考え、すぐにヤンキの方を見直した。

「・・・・・・・・邪魔が入った・・・・・・・・」

「ふん。あいつも闇か・・・・闇ばかりだ・・・・・光なんて見えない・・・・・・・
 俺とあんた。闇に包まれた二人・・・・・とぉ。
 ・・・・その世界の中では・・・闇しか見えないし闇しか出てこないのか」

「・・・・・・・・・どうでもいい・・・・・・・・・・・」

「だな・・・・・とぉ。じゃぁ殺すとしますか」

「・・・・・・一本の剣でどう殺す?・・・・・クク・・・俺を二刀流・・・・と見立てたのはお前だぞ・・・・」

「防御するヒマさえ無くすだけだ・・・・・とぉ!!」

モノソードを斜めに振り下ろす。
レイズはツリスタッフで防ぐが、
そのガードを弾き、振りきられた。

「らぁ!」

振り切った剣。
手首をひねり、今度は振り上げる。

「・・・・・・・・チィ・・・・・」

間髪いれずに二連撃を入れられたレイズ。
弾かれたツリスタッフは防御に間に合わず、
生身の右手でガードするわけにもいかない。
ヤンキの斬り上げはレイズの胸を下から上へかっ裂ばいた。
鮮血が飛ぶ。

「これで終わりじゃないですよ・・・・・・・とぉ」

連撃を入れて振り切られたモノソード。
カラスの色をした剣。
その手首はまた返された。

「・・・・・・俺の烏(カラス)は千度飛ぶ」

斬る。
通常の二連撃、ツバメ返しを越え、
さらに連続で斬られる。
それはレイズの肩を切り裂く。
血が飛ぶ。
だが、もちろんまだ終わらない。
また手首は返される。

「・・・・・よんっごぉ〜ろくっとぉ・・・・・・・・」

剣を斬る斬る斬る。
血が飛ぶ飛ぶ飛ぶ。

「・・・・・・きゅ〜・・・じゅう・・・またいっち!・・・・・・」

イスカと戦ったときとは違う。
全ての剣撃がレイズを襲う。
血が飛ぶ。
切り傷が増える。
浅い傷。
深い傷。
それ以上に吹き上がる鮮血。

「・・・・・にっじゅうさん〜よん〜ごっ!・・・・・」

なすすべもなく斬りつけられるレイズ。
避けることも、
防ぐこともままならず
斬られ続ける。
二十何回も。
何十回も。
ヤンキもただひたむきに斬る。
もう数えるのも忘れだした

「・・・・・死ねっ!死ねっ!死ねぇっとぉ!・・・・・・」

ヤンキはただ殺すためだけに斬る。
レイズを・・・・闇を斬り続ければ、
そこに光があるかと思っているのか。
とにかく光を探すためだけに、
ヤンキは闇を掘り進めた。

だが闇も黙ってはいない

「・・・・・・はしゃぎすぎだ・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・」

レイズは斬られながらも、
無理矢理右手からプレイアを発射した。

「がぁ!?」

それは至近距離でヤンキの腹にぶつかる。
威力の弱い速射タイプとは言え、
ヴァレンタイン級のプレイア
ヤンキは吹っ飛ばされ、廊下を転がった。

「・・・・・・ぐぅ・・・・・・痛ぇな・・・・とぉ」

ヤンキは腹を片手で押さえる。
そして口からは血が垂れていた。
レイズのプレイアは壁をも砕く。
それを腹に食らったのだ。
ただでは済まない。

「・・・・・・・・・それは・・・・・・・こっちもだ・・・・・・ったく死ねばいいのに・・・・・・・・」

レイズの方。
それは・・・・ヤンキと比べ物にならなかった。
レイズ全体が赤に染まっていた。
重症を超えている。
30回以上斬られたのだ。
それだけ分の切り口があり、
まるでやぶれた絵の具のように血が垂れ流されている。
そして地面。
まるで血溜り。
レイズの血が全て地面にたまっているのではないかという量。
死体の方がまだ状態がいいと言えるほど。

「勝負あったようだな・・・・とぉ」

ヤンキはフラっ立ち上がって笑った。
だがその笑みもあまり長く続かなかった。

「・・・・・・・チッ・・・・・あんたの体どうなってんだ・・・・」

レイズの数十の傷。
血が垂れ流されていたが・・・・
その傷が見る見る消えていく。
特化型ブレシングヘルス。
その効果。
まるで"巻き戻し"を見ているよう。

「・・・・・・・・・クク・・・ひひ・・・・・・ククククク・・・・・・・・」

笑う悪魔。
鮮血をおび、
血の海の中に立ち、
紅の中で笑う闇。

「・・・・・・・・悪魔に・・・・・死などない・・・・・・・」

が、

「・・・・・・ぐっ・・・・・」

レイズは片膝を落とす。
力が出ない。

「・・・・・・・・血が出すぎか・・・・・・」

ブレシングヘルス。
いや、ヒールなどの治療スペル全てに言えることだが、
それは"治す"魔法。
"元に戻す"魔法ではない。
だから無くなった血は無いまま。
腕が吹き飛んだら無いままなように・・・・

ただでも顔色の悪いレイズだったが、
それが青・・・・いや、真っ白。
正真正銘生きた顔ではなかった。

「カラスにつつかれる時がきたみたいだな・・・・悪魔さん・・・・」

片膝をつくレイズ。
そこに黒いクチバシが向けられた。
ヤンキの黒いモノソード。
それがレイズを魅入る。

「・・・・・・死ねばいいのに・・・・とぉ・・・・・」

ヤンキのモノソードが振り落とされ・・・・


「どっかああああああああああああああん!!!!!!!」

モノソードが振り落とされるより前、
ヤンキに直撃する。
それは気の弾。
イミットゲイザー。
どこからか飛んできたその攻撃を食らい、
ヤンキは吹っ飛んだ。

「・・・・・くっ、誰だ!」

「スーパーヒーロー登場!」

レイズの後ろ。
そこには頭に猿を乗せた修道士。
チェスターが親指を突き出していた。

「・・・・・・・チェスターか・・・・・・」
「そっそ。大丈夫かレイズ?でももう大丈夫だよん!!!」

そう言ってチェスターはレイズの前に立つ。
そしてヤンキに向かって構えを取りながら聞く。

「こいつも敵なんだなっ!チャチャっとオイラがやっちゃうぜ!」

チェスターが両腕に気を溜める。
イミットゲイザー弐式。
腕にイミットゲイザーを滞在させる技。

「レイズをこんなにしやがって!ただじゃおかないジャン!」

意気込むチェスター。

が、
チェスターがそれをしようと集中している時、
違和感を感じた。
それは殺意。
だがそれが流れてくるのは目線の先のヤンキではない。
・・・・後ろ

「うわっ!」

チェスターは側宙して跳ぶ。
そして廊下の壁に着地し、
そちらを見た。
そこには右手を突き出したレイズがいた。

「何すんだよレイズっ!」
「・・・・・・そいつは俺の獲物だ・・・・・俺が殺し・・・・・・清算する・・・・・命をな・・・・
 ・・・・・・・・・それを邪魔するなら・・・・・・・・・・お前でも殺すぞチェスター・・・・・・・・」
「なっ!?」

「その通りですよ・・・・・・とぉ」

廊下の先でヤンキも言う。
イミットゲイザーを食らった衝撃のせいか、
立てないままで。

「これは・・・・・俺達の問題だ。お互いがお互いを殺したい」

「・・・・・・・そう・・・・・・・死んで欲しいのでなく・・・・・・・殺したい・・・・・」

「どちらかが相手を殺したときだけ・・・・光が手に入るんですよ・・とぉ」

「・・・・・・つまり・・・・どちらかは確実に死に・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・どちらかだけが・・・・・・確実な生を得れる・・・・・・・・・・」

「お互いが納得済なんだ・・・」

「「後は殺すだけ」」

闇を生きる悪魔と、
闇を生きるカラス。
その二つの暗い瞳が、
お互いを食らおうと睨み合っていた。

お互い満身創痍の状態だが、
それでも立ち上がる。
"殺意"という理由だけで。

「続けるか・・・・・・・とぉ」

「・・・・・・・終わらす・・・・・・の間違いだ・・・・・・・・」

「お前の生がな・・・」

「・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・」

お互いがフラフラと立ち上がる。
そしてお互いの武器を構える。

「何やってんだよっ!!」

チェスターが叫ぶ。

「・・・・・・・うるさい・・・・・お前も死ね・・・・・・・」

レイズの右手がチェスターに向く。
チェスターはプレイアが飛んでくる前に、
バク転で下がり、大きく跳んで避けた。

「やめろよレイズッ!!!」

着地際にチェスターが叫ぶ。

「・・・・・・・・・うるさいって言ってるだろ・・・・・・」

「クソッ!」

またチェスターに向かってプレイアを放とうとするレイズ。
いや、躊躇無く放たれた。

チェスターは超低姿勢でかがむ。
足を広げ、ストレッチをするように地面にへっついて避けた。
チェスターの短い金髪をプレイアがかすって髪が散った。
すぐさま立ち上がるチェスター。

「目ぇ覚ませレイズっ!!!」

そして放とうとする。
イミットゲイザーを。
が、両腕に気の光りはない。
構えが違う。
それはまるで・・・・サッカーのキックのようなモーション。

「師匠直伝っ!イミットゲイザー四式!!!
 スペシャルゴールデンミラクルストライカーシューットッ!!!どっかぁぁあああん!!!」

チェスターのイミットゲイザー。
それは腕ではなく、足から放たれた。
まるでサッカーのシュート。
そしてボール(イミットゲイザー)はレイズに直撃し、
レイズは吹っ飛んだ。

「・・・・・・邪魔するな」

チェスターのすぐ後ろ。
そこにはすでにヤンキが詰めていた。
チェスターは気でそれを感じる。
背後で剣が横に振られているのを感じる。

チェスターはバク転、ムーンサルトで飛び、
剣を避けつつヤンキの後ろに回った。

「くっ、猿みたいに・・・」

「食らえ!師匠直伝っ!!!イミットゲイザー参式!!
 0距離ハイパーグレートボンバー!!!どっかああぁぁぁあああん!!!」

ヤンキの背中に直でイミゲがぶつけられる。

「がっ!!」

ヤンキも吹っ飛ぶ、
レイズと同じ方向に。
転がる。
そしてレイズとヤンキが並ぶように倒れた。

「間違ってるとお前らっ!」

チェスターは指をさして言った。
レイズとヤンキに。

レイズとヤンキはヨロヨロと立ち上がる。
ヤンキが答えた。

「間違ってようが・・・・しりませんよ・・・っと・・・
 この迷走・・・・闇の道から出たいから・・・・俺達は殺し合いをしていた・・・・・」

「間違った事してて正しい事が見つかるわけないジャン!!!」

「あんたは師範を・・・・光を失う苦しみを知らないからそう言える・・・・・・」

「へんっ!」

チェスターは口を吊り上げ、
両手を腰に当てながら答える。

「オイラにも師匠いるけどさっ!オイラの師匠はそんな事言ってなかったねっ!
 言うわけないジャン!あんたの師範はそんな事言ってたのかよっ!」

「それは・・・・」

ヤンキは目をそらす。
が、すぐさま強い口調で答える。

「言ってない・・・が、だからなんだ!今俺は迷っているんだ・・・・・闇の中をだ!
 この心の闇から抜け出す方法は分からない・・・・だからこんな事をしてるんだ!」

「・・・・・・・そうだ・・・・」

レイズも答える。

「・・・・・・・チェスター・・・・お前はいつも光ばかり見ている・・・・・・・
 ・・・・・いや、自分で光にさえなれる・・・・・だから・・・・俺のような闇を分からない・・・・・・・」

「分かるもんねっ!レイズは暗くて人殺しだけど!無駄に人は殺さないジャン!」

「・・・・・・・・クク・・・・何を言ってるんだお前・・・・・・殺しをダメだと言ってるんじゃないのか・・・・・・」

「違うよ。まぁヒーロー的には悪い殺しはダメって言いたいけどさ
 オイラが言いたいのはいつものレイズじゃないって言ってんのっ!
 今のレイズはなんか違う!なんかズレてるよっ!」

「そりゃズレますよ・・・とぉ。俺達みたいに闇に迷ってればね
 暗くて・・・何も見えなければ・・・・ボタンだってかけ違える」

「んじゃボタンなんて一個にしちゃえばいいジャン!」

わけの分からないことを叫ぶチェスター。
さすがのレイズとヤンキも「は?」と言葉を無くした。

「ボタンが一個しかなかったらかけ違えないジャン?
 オイラはなっ!スーパーヒーローになるって道以外なーんも考えてない!
 そのための道しか見てない!つまりそれだけしか目指してないんジャン?
 だから道に迷うわけないもんね!だから一つにしちゃえばいいんだよ」

「・・・・・・・クク・・・・夢のある話だな・・・・・
 ・・・・・・・・だがそんな話は・・・・・・漫画の中で言ってくれ・・・・・・」

「何言ってんだよっ!あんな、レイズはな。
 お金のために命助けてる。それ以外の命はどうでもいい。
 正義じゃないけどそれがレイズじゃん?
 じゃぁそれだけでいいジャン。それだけ考えてたら迷わないジャン!
 そのためにはこんな事してる場合じゃないジャン?
 この病院内は今、第13楽章で毒に侵されてる患者さんいっぱいなんだぜ?
 まずはそれを治すべきだろ!レイズは医者なんだろっ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

レイズが少し黙ったが、
ヤンキが代わりにとばかりに答えた。

「Dr.レイズはそれで壁にぶちあたって道を変え、迷ったんだ。俺と同じようにな・・・・
 どんな道にも壁がある・・・・俺の場合・・・師範の死という壁だ・・・・
 どうやってもどかせない・・光の先が見えない・・・・・闇だ・・・闇しか見えない・・・・・・」

「壁なんか越えちゃえ!壊しちゃえ!
 だって行きたい道がさ!"生きたい道2がそっちにあるなら諦めてどーすんだよ
 遠回りするのも手だけどさ、進む方向変えたら辿り着かないジャン!
 オイラはスーパーヒーローの方向に行く道しか考えてないもんねっ!」

「だが、道に迷ったんだ・・・とぉ。闇しか見えないんだ・・・・」

「あーもー!うるさいな!闇しか見えないのも間違った方見てるからジャン!
 あんた風に言うと生きたい方向が光なんでしょ?
 違う方向見えるから闇しか見えないに決まってるジャン!」

「・・・・・・なるほどな・・・・・・」

レイズはそれっきり何も答えなかった。
何も動かなかった。
いや、
突然動いた。
ゆっくり、
のらりと、
おもむろに近くの部屋に入っていった。

そして出てきた。
右手には輸血パックを持っていた。

「・・・・・・・進む方向を探すんじゃなく・・・・・・戻ってみればよかっただけなんだな・・・・・・・」

そして突然それ(輸血パック)を飲み始めた。

「・・・・・・・ふう・・・・・さて・・・・」

輸血パックを飲み、
血まみれのレイズの口。
それはまるで悪魔のようだった。
が、

「・・・・・・・・ったく・・・・チェスター・・・・・お前なんて死ねばいいのに・・・・・・・」

そういいながら、
レイズは近くで倒れている患者からキュアポイズンをかけ始めた。
先ほどまでは目にも入っていなかった患者達。
それを治す医者。
いつものレイズだった。

「そうだな・・・」

ヤンキが言った。
ヤンキはモノソードを杖代わりにして立ち上がり、
どこを見るとも無く、上を見て言った。

「師範を失った・・・目指すべき光を・・・・・・
 だが、師範を俺に歩む方向を教えてくれた。
 目印になる光はなくなったが・・・・・・・教えてもらった道を・・・・
 今までどおり真っ直ぐ進めばいい・・・それでよかったんだな」

「それが正義の道だったらヒーロー的には嬉しいんだけどなっ!」

チェスターはニカっと笑った。
それを見て、ヤンキもつられてフっと笑った。

「お前はよく似てる。リヨンに・・・・・・・死んだ俺の後輩にな・・・
 二言目には"正義正義"。いつもそればっか。
 だがあぁいう単純で一途な奴は道を迷わないわけだな・・・・・とぉ」

「そりゃぁなんたってオイラは・・・・スーパーヒーローだかんねっ!」

チェスターが右腕を掲げてポーズを見せると、
ヤンキはもう一度フッと笑い、
「本当によく似てる」と言って鞘に剣を納めた。
そして患者の治療中のレイズのそばへ歩みよった。
ヤンキはレイズに後ろから話しかける。

「Dr.レイズさん。俺の治療も頼めるか」

レイズは治療を続けながら、
後ろ向きのまま答える。

「・・・・・クク・・・・・・・高いぞ・・・・」

「それは知ってますよっとぉ・・・」

「・・・・・・だが・・・・・・命の保障はする・・・・・・」

「それも知ってますよ・・・・・とぉ」

「・・・・・・・んじゃまず・・・・患者の治療を手伝え・・・・・・」

「はいよ・・・・とぉ」

そう言い、ヤンキはレイズの横に腰掛け、
言われたとおりに治療の手助けを始めた。

「ニヒヒ。これぞなんたらなんたらだねっ!」
「・・・・・・・・"適材適所"だ・・・・・・・・」

チェスターは「そうだったー!」と笑った。
そんな笑う横に、チェチェが「ウキウキ!」と叫んだ。

「どした?チェチェ?」
「ウキキキ!」
「ぉぉ!!」

チェチェはどこからかパウチを持ってきていた。
その中には解毒薬が詰め込まれていた。

「どっかから持ってきたのか!凄いぞ!これでオイラも役に立てるジャン!」
「ウキ♪ウキウキ♪」
「さすがだぜチェチェ!これぞなんたらなん・・・・」
「・・・・・・・・適材適所だ・・・・・・」

レイズはさすがにため息をつく。
そして「死ねばいいのに」とボソリと言った。

「そういえばレイズ?」
「・・・・・・・・なんだ・・・・・・・」
「なんでその傷は治さないんだ?」
「・・・・・・・・・?・・・・・・」

レイズも言われて気付いた。
自分の横腹の傷。
そこは特化型ブレシングヘルスの治癒が働いているのにかかわらず、
まだ血が流れていた。

「・・・・・・・・・俺も重体だからな・・・・・たまたまここの治りが遅いだけだろ・・・・・・・・・」
「そっか。レイズの治癒も万能じゃないんだなっ!」
「・・・・・・・・クク・・・・・・・悪魔は神じゃないからな・・・・・・・・・」
「うぇ、怖・・・・やっぱ進む道変えた方がいいって・・・・・」
「・・・・・・・これが俺だ・・・・・・・間違ってても・・・・・もう迷わない・・・・・・・・・・・」



もう夕方だった。
もうすぐ夜の闇がくる。
だが、もう闇は怖くなかった。

暗くなっても道はあるのだから。

それさえ知っていれば迷わない。



だが、この夜を越えると、
次の日は決戦だった。


他のMDのメンバーとWISを取り合い、

44部隊の協力を得たこと、
GUN’Sの状況、
そしてミダンダスが殺され、オブジェが敵に渡った事を知った。

闇は開ける。
だがやらなければならない。

それが道であり、行先だから。


相手についてはわからない事ばかり。
敵の本拠地がミルレスのどこにあるかも分からない。
5000という途方もない数。

それらはまるで見えつくせない闇のようだったが、

どんな障害物があろうとも、そこが道ならば進むしかなかった。


















                 






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