「あら、少し大変そうですね。一端退きますよ。スズちゃんお願い」
「はーい!」

女盗賊スズランが地面に何かを叩きつけた。

「・・・・くっ・・・・」

ジョカポ?
いや、スモークボム。
小さな煙が巻き上がり、
ベラドンナとスズランが煙に包まれた。

「な、隠れるんじゃないジャン!!!」

だが、
煙が晴れると、
そこにはベラドンナとスズランの姿は無かった。

「チクショッ!」

チェスターは壁を蹴飛ばした。

逃げられた。
病院中を第13楽章で毒まみれにされ、
さらにのこのこと目の前にきたというのに・・・
逃げられた。
いや、まだ病院内のどこかにはいるはずだ。

「・・・・・・・・・チェスター・・・・・怒ってるヒマじゃない・・・・・・・」
「へ?」
「・・・・・・スーパーヒーローなんだろ・・・・・・・」
「あっ!」

チェスターは周りを見渡す。
未だ廊下には第13楽章の毒に苦しむ患者達。
うめき声。
なげき声。

「助けてあげなきゃ!」
「・・・・・いや・・・それは俺がやる・・・・・・・・・」

レイズはそう言って院長室の中へ歩いていった。
それを追いかけるようにチェスターは言う。

「でも!」
「・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・お前がどうやって助けるんだ・・・・・・・・・・・・」
「え・・・・そりゃぁ・・・・」

チェスターはおろおろと慌てふためいた。
が、

「どうしよう・・・」

と解決策を求めて、純粋な瞳はレイズを見つめた。
レイズはそんな目線を無視し、
1人院長室の一つの棚の戸を開けた。

「・・・・・・・・・・・まったく・・・・・・チェスター・・・・
 ・・・・・お前は《MD》で唯一・・・・・・・・・頭より先に正義感が働くから困る・・・・・・」

レイズが開けた棚。
そこには病院の院長室らしい、
様々な薬が陳列されていた。
レイズはその薬の一角。
10本ほどの瓶をパウチに積める。

「・・・・・・ほれ・・・・・・」

そしてそれをチェスターに放り投げた。
パウチは空中で中の瓶同士が鳴らしあい、
カランカランと響きながらチェスターの手元に届いた。

「何これ?」
「・・・・・・・解毒ポーション・・・いや・・・・・まぁこの病院用の解毒剤だ・・・・・・
 ・・・・・・市販のものと違い・・・・・・瓶詰めだから取り扱いに気をつけろよ・・・・・・・・」
「へぇー。じゃlこれを病院で苦しんでる人に配ればいいんジャンね!?」
「・・・・・ちがう・・・・・・」
「のえっ?」
「・・・・・・・・それは・・・・・・・・お前が毒に感染した時に・・・・お前が使え・・・・・・・・」
「院内の患者さんほったらかしで?」
「・・・・・あのベラドンナという女を倒さなければ・・・・・・・・・どれだけでも被害は増える・・・・・・
 ・・・・・キリがない・・・・・・・だからチェスター・・・・お前はあの女どもを始末しろ・・・・・・・・・・」
「なるほどねっ!」

チェスターの猿級の頭でも理解し、
すぐさま正義感が働く。
もう体が動き始めている。
一刻を争うならすぐに倒しにっ!
といった感じに走り出した。

が、「おっとっと」と忘れ物をしたかのようにレイズの方を振り向いた。

「・・・・ってレイズはどうすんだよっ」
「・・・・・・・俺は・・・・・病院中の患者を治療してまわる・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・俺はキュアポイズンが使えるしな・・・・そっちに回ったほうがいい・・・・・・」
「なぁーるほっどね!"なんとかなんとか"って奴だなっ!」
「・・・・・・・・・"適材適所"だ・・・・・・・・」
「あ、それそれっ!」

長年ギルドメンバーをやっていれば、
これくらいは分かるようになるらしい。

「じゃぁっ!!さっさとやっつけてくるジャンっ!」

言ったきり、
チェスターは勢いよく院長室を出て行った。
廊下をまっすぐ走っていき、
すぐさま曲がり角で見えなくなった。
相変わらずのすばしっこさだ。

レイズも院長室の端に立て掛けてあったツリスタッフを拾う。
魚の骨型のスタッフ。
魚の口をパカパカと動かしながらも、
手短な者からキュアポイズンと回復を行っていく。

「院長先生・・・・ありがとうございます・・・・」

「・・・・・・料金外治療なんだがな・・・・・特別だ・・・・・・・」

礼を言われながら、
一人一人の毒を治していく。
吐血している者。
息が荒い者。

レイズにとってはある種の慈善行為。
金にならない治療。
もしここがどこかの道端ならば、レイズは人を助けたりしなかっただろう。
しかし、
自分は医者で、この者達は患者だ。
その関係がある以上は
レイズは全力でこの者達を助けようと思う。

だが、治療しても治療しても、
まだまだ転がって唸っている患者達。
キリがないほどの被害。

この毒が院内全体に広がっているなら
被害は尋常じゃない。

と、
その時ふと思った。
そして独り言をこぼした。

「・・・・・・何故・・・・ここまで広がった・・・・・・・・・」

第13楽章の効果は感染が拡大していく事は分かっている。
毒の効果力が高いのも、
あのベラドンナという女詩人の能力だろう。
だが、

「・・・・・ここは病院だ・・・・世界最高の病院・・・・ミルレス白十字病院だ・・・・・
 ・・・・・・・医者がバーゲンのように居る・・・・・俺以外にも治せるものがいるはずだ・・・・・・・・・・・」

ヴァレンタインの時のように、
医者が敵とグルだったのだろうか?
いや、少数がそうであっても全員という事はまずないだろう。
なら何故。

そしてその答えが廊下に転がっていた。

「・・・・・・・・大丈夫か・・・・・・」

それはこの院内の医者だった。

彼もまた毒に侵されていた。
が、他の患者とは違う。
顔は緑。
そして・・・・返事がない。

死んでいる。

「・・・・なるほど・・・・あっちのスズランという盗賊女は・・・・・医者を殺しているのか・・・・」

その医者の死体には数箇所の刺し傷があった。
ダガーによるもの。
そしてその箇所から毒の感染も見れた。

「・・・・・・・盗賊女は直接的な毒使いか・・・・ポイズン・・・・・トクシン・・・ダブルスタブ・・・・・
 ・・・・・クックック・・・・ひ弱な女詩人だけ倒せばいいと思ってたが・・・・・面倒だ・・・・・・」

治療のできる医者(聖職者)は盗賊女のスズランが殺しまわり、
一般患者にはベラドンナの第13楽章を感染させる。
効率のいいことだ。

「・・・・・・違う意味で"毒をもって毒を制す"・・・・・・か・・・・・・」

レイズはまだ独り言を言う。
ブツブツと。
独り言はレイズのクセでもある。

ベラドンナとスズラン。
毒の扱いに関しては世界最高の二人かもしれない。
そしてひん曲がった性格。
清楚とオテンバなんて可愛い言葉で済ませない。

何もかも。
なんでもかんでも巻き込む戦い方。
関係者無関係者関係なく。
第13楽章はベラドンナ本人の意思に関係なく被害者を増大させていく。
GUN'Sはこんな者まで使うのか。

だが疑問は一つ残る。

「・・・・・・・・何故・・・・・・・・こんな事をする意味がある・・・・・」

GUN'Sが相手という時点で、
目的は《MD》であるレイズとチェスター。
そのためだけに病院を巻き込んだのかもしれない。

「・・・・・・・・・いや、チェスターは俺の護衛についてただけだ・・・・・・・」

                       「ベラドンナちゃん!こいつがDR.レイズかなっ?!」

スズランの言葉を思い出す。

「・・・・・・・・・・・・・狙いは俺?・・・俺か・・・・・・・・でも何故・・・・・・・・・・・・・・」


















「ぜぇぜぇ・・・・・・・・・・こっちかな!」

チェスターは病院の狭い曲がり角を曲がる。
そして曲がった先は・・・・

また見慣れた廊下。

「んなーっ!なんで病院ってこう迷路みたいになってるんだよぉっ!」

頭の上でチェチェが「ウキウキ!」とチェスターの頭を叩く。

「分かってるよチェチェ!急がなきゃねっ!」

周りを見渡すと、
どこを走っても毒に侵された人たち。
それを見ると居ても立ってもいられない。
だが、

「だぁー!多分この階にはいないのにっ!降りる階段が見つからないジャァーン!!!」

正義感でどれだけ突っ走ろうとも・・・
迷路のような病院は猿知恵には厳しい。
行き止まりとはこういう時にめぐり合いやすい。

「もぉーいーや!階段がないなら!」

チェスターは両手の拳に気を込める。

「自分で作ればいいジャンっ!!師匠直伝っ!イミットゲイザー弐式(にしき)ぃ!
 スーパーミラクル・ドコデモ・カイダンヲ・ツクルンダグローーーッブっ!」

イミットゲイザーがチェスターの両手に滞在される。
光り輝く気の力を両手に込め、
それを掲げる。

そして、自分の真下を見つめる。

「下へまいります♪」

と言い、
チェスターは両拳を振り上げる。
目線の先の地面へ。
そして、

「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃぁ!!!!!!!!」

イミットゲイザーを込めた両手を、おもくそに地面に突きつけた。
連打連打。
殴る殴る殴る。

「せぇーりゃせりゃせりゃせりゃせりゃせりゃぁ!!!!!」

地面に叩き付けられる高速連打。
まるでモグラのよう。
廊下の地面が割れ、
破片が飛び散り、
地面が砕けていく。

「おぉーらおらおらおらおらおらおらおらおらっ!!!!!」

そして、

「おぉうりゃぁ!!!」

最後に一撃を地面に叩き込むと・・・・

「階段開通!どんなもんだ!スーパーヒーローはどんな道も切り開くぜ!」

病院の廊下に、
下の階への大きな穴が空いた。
どう見ても階段ではないが、
これで下の階へ行ける。

「とぅ!」

自分で開けた穴を飛び降り、

その満足感に浸っている時、
ふと思った。
いや、頭に浮かんだ。
「死ねばいいのに」と言ってるレイズの顔が。

「あぁあ!こんな事したらレイズに怒られる?!」

下の階に行きたかったから地面に穴をあけちゃいました。
えへ♪。
そんな事を言っても言わずともレイズは怒るだろう。
どうしよう。
チェスターは自分が開けた穴の下で、
頭を抱えて苦悩した。

「あーどうしよ!でも悪者倒すにはどんな事しても・・・・
 いやいやいや!階段見つけられなくても他にも降りる方法いっぱいあったわけだし・・・・
 それに階段なんて見つけられないオイラが悪いわけだし・・・・・・・・・・・・あぁ!もう!」

チェスターはカラッポのパウチを投げ捨てた。

「オイラはなんでこうも考え無しなんだろ・・・・」

投げ捨てたパウチを見て、
さらに思う。
パウチ。
それはさっきレイズにもらったものだ。
毒を使うベラドンナ達と戦うために持てと言われたもの。
だが、
そのパウチの中はもう空っぽだった。
何故か。

人に使ってしまったのだ。

「オイラみたいな修道士じゃぁ解毒剤ないと戦うの大変だからレイズがくれたのになぁ・・・」

それは分かっていた。
理解していた。
けど、
チェスターの正義感がその理解を超越して支配してしまった。
走り回っている時、
目に映る人人人。
毒で苦しみ、助けを請うている人。

放っておいて自分が敵を倒すのが最善の策だ。
苦しんでいる人にとってもだ。

だが、気付くと目に映る人に解毒剤を与えていた。

「ウキ!」

頭の上のチェチェがチェスターをペシペシと叩いた。

「へ?なんだってチェチェ?」
「ウキキキ!ウキ!ウキキキキ!」
「そっか・・・」

チェスターは頭を抱えるのをやめた。

「そうだよなチェチェ!悩んでる時間あったら動けって話ジャンね!
 悩むのもゴメンナサイも後からでいいジャン!
 ヒーローはまず解決を目指すもんだよねっ!オッケ!」

チェスターはまた走り出した。





















「・・・・・・・クソ・・・・・・・・・・・クソォ・・・・・・・・・」

レイズは苦悩していた。
人の命を前に、ここまでの感情を持ったのは初めてだった。

「・・・・・・・俺は・・・・・・ウソをついてしまった・・・・・・・」

ウソをついたこと?
それに対しての苦悩なのか?
いや、違う。
ともかくレイズは見つめる事ができなかった。

治療。
毒に侵された患者を治療して回っていた。
毒が回るのはなかなかに時間がかかる。
弱るのは早くとも、命に別状はない患者が多かった。
医者達はスズランの手で殺されていたが、
とりあえず患者達に関しては命を繋ぎとめていた。

が、
小さな子供の体は、
毒が回りきるのが早かったようだ。

レイズの手の中には、
先ほど院長室で話した女の子の亡骸があった。
明日手術をする子だ。
治療して回っている時見つけた。
その時すでに事切れていた。
蘇生魔法も間に合わない状態だった。

「・・・・・・・この子は・・・・生きたかった・・・・・・・・・助けて欲しいと俺に言った・・・・・・・・・・・」

別に涙は出なかった。
よく分からない感情だった。
近い感情としては・・・イラつき?
悲しみではなかったような気がする。
それは怒りにも近い。
自分のふがいなさのような。
そんな自分への感情。

レイズはその子の亡骸をソッと置いた。
そして自分の右腕。

「・・・・・・・・・ヴァレンタイン院長・・・・俺は・・・・・・・患者を助けるための右腕を・・・・
 ・・・・・・・・・あなたに戴いた・・・・・・・が・・・・・・・俺もやはり・・・・・・・・・・」

レイズの右腕。
それはヴァレンタインの右腕。

ヴァレンタインの戦った時、
レイズの右腕は吹っ飛び、ヴァレンタインから逆に与えられた。
そして誓った。
助けを請うて来るものぐらいは、助けてやろうと。
だが・・・・

「・・・・・・・・・・どれだけ命を助けようとも・・・・・・昔殺した分が許されるわけじゃない・・・・・・・
 ・・・分かっている・・・・・俺もそんなもの微塵も望んじゃいない・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・偽善でもなんでもない・・・・・・・心を込めて仕事を・・・・・してるわけでもない・・・・・・・」

右腕が疼いた。

「・・・・・・・・・・・命は足し算や引き算じゃない・・・・・・・・あなたとは逆の考えですね・・・・
 ・・・・・だが実際・・・・・・1つしかない命・・・それが1のままか0になるか・・・・・・ただそれだけ・・・・
 ・・・・・・・・・・・だから・・・金を詰まれて頼まれたら・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・0に成りえる命を・・・・1に繋ぎとめる・・・・・それだけを心に刻んだ・・・・だが・・・・」

右拳を握る。

「・・・・・今回はある意味・・・・・・あなたの考えに乗っ取ります・・・・・・・・
 ・・・・・・・単純な計算・・・・・・・命の清算は・・・・・・・・・・・・・・・命でとってもらう・・・・・・・・」

右腕が熱い。
何か熱されているような感じがする。
人の腕とはいえ、
まるで自分についてる腕と別の何かのように。
いや、
違う。
これは自分自身の・・・・

「・・・・・・・・・・・・命を・・・・・・勘定もせずに・・・・・奪いやがって・・・・・・・」

右手でレイズは小さく十時を切った。
その右手を壁に突きつける。
そして、

大きな爆音と共に、
壁がえぐれた。
プレイヤ。
それも高威力。
規格外のプレイヤの威力。
それはまるで・・・・・

「・・・・・・・クック・・・・・・・・ひひ・・・・・絶対殺してやる・・・・・・ベラドンナ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・お前に・・・・・命の価値なんてものはない・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・・・」

そこに、悪魔がいた。
























「ベラドンナちゃん!ベラドンナちゃん!」
「なぁにスズちゃん」

ベラドンナはハープを弾きながら歩く。
その横でスズランが長身のベラドンナを見上げながら質問した。

「のんびり第13楽章なんて弾いてていいの?
 命令は"Dr.レイズの確保"でしょ?スズちゃんはもっかいDr.レイズを襲った方がいいと思う!」
「そうねスズちゃん。でもあの部屋にいたもう一人の修道士。
 あれは『ノック・ザ・ドアー』です。戦闘力ではちょっと負けちゃいます」
「えー!スズちゃんは負けないよ!ドックドクにしちゃうよ!」
「まぁまぁあわてないでスズちゃん。チャンスはきます。
 今きっとDr.レイズと『ノック・ザ・ドアー』は別行動をしています」
「なんでー?」
「適材適所ってやつです」
「へー。スズちゃんよくわかんない」

そう言いながらもベラドンナはハープの演奏をやめない。
もう感染していない患者などいないだろう。
なのにやめない。
それはむしろ音楽を楽しんで歩いているかのよう。

「美しい音色ですわ・・・・第13楽章・・・・・素晴らしい音楽です
 何故この素晴らしい音楽を理解できない方々がおおいんでしょうね
 わたくしとしてはもっともっと・・・・この音楽が世界中に広まればいいのにと思いますのに」
「だよねー」
「第13楽章は音楽を超えた音楽です。人を伝い・・・・さらに人に伝えられる音楽・・・
 もし聴覚に生涯を持っている人でさえこの音楽を感じられる素晴らしい音楽・・・・
 どこまでも伝わって欲しいです・・・・どこまでも伝われこの思い(音楽)・・・・・・・」

その時。
どこかでで音が鳴った。

「なになにー?」
「多分『ノック・ザ・ドアー』が近づいているんでしょう
 チャンスですよスズちゃん。相手は二人。片方が迫っているのなら・・・・・」
「Dr.レイズは今一人ってことだね!分かった!スズちゃん行ってくるよ!」

盗賊女スズランは、
さっそうと走っていった。
さすが盗賊という身のこなし。
すぐさまDr.レイズのところまで辿り着くだろう。

ベラドンナは長い黒髪を一度広げた後、
ハープをまた弾き始めた。

「わたくしは『ノック・ザ・ドアー』をひきつけておくだけですね
 まぁ戦闘面で勝てなくともそれくらいはわけないです。
 音楽は人と人を繋ぐ・・・・1と1・・・・命の数のようですね・・・・」

ベラドンナは独り言のように。
はたまた歌のように言う。

「相手が一人なら問題などありません。
 音楽は1と1のコミュニケーションを変えたもの・・・・
 多くの人に思いを伝えるためにできたもの・・・・・・・・1人相手など・・・・・」

ふと、
ベラドンナは足を止めた。
そこは一つの部屋だった。

「集中治療室?電気がついていませんけど、ネームプレートはありますね。
 密室に篭った患者ならば音が聞こえていないかもしれない。
 じゃぁまだわたくしの思いが伝わっていない人がいるのですね
 それはよくありません。この思い(音楽)は全ての人に伝わって欲しいのです」

ベラドンナは集中治療室のドアを開けた。
中は真っ暗だった。
本当に人がいるのか?・・・とも思う部屋。
患者の部屋とは思えない。
だが、
奥から声が聞こえた。

「ひ・・光・・・・・・」

中の男はノソリとこちらを見た気配があった。
そしてゆっくり、ゆっくりと、
心ごと引きずるように暗い集中治療室から出てきた。

「あなたの心を満たす素晴らしい音楽を聞かせてあげます」

ベラドンナは冷静に言った。
だが、
中から出てきた男は虚ろな目で言った。

「・・・・・・心を満たす・・・・・・・か・・・・・・・無理ですよ・・・・・・・とぉ・・・・
 俺の心を満たしてくれる・・・たった一つの光は・・・・・消えてしまった・・・・・
 あぁ暗い・・・・また夜だ・・・・朝焼けが見えない・・・・・・・
 俺はまた・・・・・・・夜の暗闇を目指し・・・夕焼けを飛んでいる・・・・」

男は、黒い剣を構えた。

「・・・師範・・・・烏(カラス)は・・・・夜・・どこに向かえばいいのか・・・見えないんですよ・・・とぉ・・・・・・
 ・・・・・黒の闇に溶ける・・・黒い翼の俺に・・・・・・・もう一度・・・道が照らされることは・・・・ないんだな・・・・・
 ならばこのヤンキ・・・また暗い道を進む事にしますよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とぉ・・・・・・・・」











                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送