冷たいどこかの地下。
分かっているのはミルレスのどこかという事だけ。
小さな格子から見える外の景色。

エクスポはヒマだった。

仲間からの連絡は、
「今、エンツォを捕らえてロウマと話をつけに行く最中」
みたいなメモ箱がドジャーから来たキリだった。

エクスポに与えられたのは
汚い牢と、ヒマと、小さな格子から見える景色だけだった。
美しい物を求めるエクスポにとっては、
その景色だけが唯一の心のよりどころだった。

「窓っていうのは・・・・まるで写真・・・・・・・いや、絵画の額縁だね。
 景色という芸術品を四角く切り取ってくれる。牢屋の格子じゃ少し美しくないけどね・・・・」

ヒマは好きではなかった。
が、逆に。
ヒマを押しつぶすものはロクでもない事も分かっていた。
ヒマというのはある種平和の象徴でもある。

「エクスポ」

そのヒマを押しつぶすロクでもない声が聞こえた。
鉄格子の外。
聞きなれた声。
・・・・・・・嫌いな声ではない。
いや、昔は嫌いな声ではなかった・・・というべきか。

「今日も女連れかいジャスティン」

鉄格子の向こうには、
いつも通り女を肩に抱いたジャスティンがいた。

「あぁ今日もだな。だけどちょっと速報を伝えようと思ってね」

「・・・・・・・・?」

まぁロクでもない事だとは分かっていた。
速報。
イヤな響きだ。
そういう突発的なものは十中八九美しくない。
だが、
ロクでもない事は心の準備をしていても嫌なものだ。

ジャスティンは柔らかい唇を動かす。

「白十字病院に奇襲をかけた」

「・・・・・・・・は!?」

「向かったのはドラグノフ様が召集したリロード(替え弾)メンバー。六銃士の再装填員。
 言うならば失ったリヴォルバーナンバー3・4・5。タカヤ、ヴァレンタイン、ルカの替えだ」

六銃士の新候補が3人?
いや、そんな事はいい・・・
病院に・・・
レイズへ・・・
奇襲をかけただって?

「3人とも危なっかしくて使いづらかったんだけどこの際召集も已む無いってね
 1人は『チャッカマン』ダニエル。人を燃やすのが生き甲斐のイカれた殺人狂だ
 でも大丈夫。こいつは病院には行ってない。病院に向かった新六銃士候補は他の二人。
 二人組みの女。ベラドンナとスズラン。詩人と盗賊の女達。
 まぁこいつらが出ると無差別に被害が出るから危ないのには変わりないんだけどな
 二つ名はなんだっけ?なんたらガールズだったかな。とにかく危ない女共らしいぜ」

「そんな事はいいんだよ!」

エクスポは汚いベッドにもたれかかっていたが、
飛び起き、
そして鉄格子にぶつかる。
鉄格子を両手で握り締め、
最短距離でジャスティンを睨んだ。

「どういう事だ!?美しくないっ!!!・・・・・取引はどうした!?
 オブジェが欲しいんだろ!?ボクさえあれば望みは叶うだろう!!!
 なんでそっちから攻めてくる意味がある!!」

「さぁね」

ジャスティンは軽い笑顔で言った。
エクスポの形相に釣り合っていない涼しい顔。
意味が分からない。
自分はオブジェと交換するための人質。
相手の目的はそれだけだ。
MDに逃げも隠れもしないようにするための人質。
なのに・・・・
何故攻める必要がある・・・・・。

こちらがタダで交換条件に乗るわけがないと踏んだのだろうか・・・・。

「ジャスティン」

「どした?」

「前に言っていたよね。ボク達の中の誰かが死ぬって・・・・・まさかレイズじゃないだろうね」

「・・・・・・・さぁ・・」

ジャスティンは、
笑うでもなく、
無表情というでもなく、
少し悲しげな表情を見せた。
だがすぐさま少し強気な表情を見せて話し始めた。

「ただ、ドラグノフ様は人質を取る上で・・・・
 できたら連れてきて欲しい二人がいると言っていた」

「人質の対象だって?」

「そう、それがエクスポ。君と・・・・レイズだ」

「なッ!?」

エクスポは鉄格子を叩く。
そして叫ぶ。

「ボクとレイズだって!?実際たまたまボクが人質になったけど・・・
 ボクかレイズが人質だったからって何があるんだ!?」

「さぁ・・・・ドラグノフ様の考えることだしね。さっぱりレイズへの興味は分からない。
 だけどエクスポ。ドラグノフ様が君に興味がある理由は知ってるよ。
 今さっき教えてもらった。それで"これ"を渡すように言われてね」

そう言ったジャスティン。
気付くとジャスティンの肩に抱かれた女。
その女がバックパックを持っていた。
女はそれをジャスティンに手渡す。
そしてジャスティンは鉄格子の小窓を開け、
そのバックパックを牢の中に投げ込んだ。
汚い牢の床に、大きめのバックパックが埃をあげて転がった。

「ファスナーを開いてくれ。理由が入ってる」

エクスポは「?」を浮かべながらバックパックを開いた。

そして中から出てきたモノを手に取る。

「こ・・・これは・・・・」

普通の人にはそれが何か分からなかっただろう。
わけのわからないものが沢山詰まっている程度にしか。
だがエクスポには分かった。
いや、エクスポだから分かった。

「アルミニウムゴールドパウダー・・・・・・火鏤岩アンモニウム・・・・・・金鱗ポリエステン粉・・・
 火薬用ファーマシーの混合薬・・・分離薬・・調製薬・・・etc・・・・
 まさか・・・・・・・・・・・・・・これで作れってのかボクに!!!??」

「そう、ドラグノフ様は作れって言ってるのさ。
 ・・・・・・・・燃料気化型サンドボム・・・・・簡単言えば"核爆弾"をね」

エクスポはまた鉄格子に飛び掛る。
鉄格子はギシギシと悲鳴をあげた。

「そんなもの・・・・できると思ってるのか!!!!」

「君なら出来るだろ?『時計仕掛けの芸術家(チクタクアーティスト)』」

エクスポは鉄格子に張り付いたまま・・・
うなだれた。

出来る。
出来てしまう。
綿密に言うと核兵器ではない。
だが分かりやすく言う所の・・・
サンドボムの粉塵爆発を応用した衝撃波爆弾。

「たしかに爆弾の理論内のものだけど・・・・」

サンドボムは"砂爆弾"なんてチャチな呼ばれ方をしているが、
粉塵爆破の原理を使ったなかなか考えられた一品だ。
そしてエクスポに渡された材料からすると・・・
完成品はその進化系。
通常の粉塵爆発より効果の高いもの。

「こんな美徳のないもの・・・・」

燃料気化型サンドボム

原理は爆弾と違うが、
粉塵爆発を利用するサンドボムをボム(爆弾)と呼ぶなら爆弾だ。
爆発は長く持続し、一気に高温化にまで上り詰める。
数千人の人の命を奪える殺人兵器に違いない。

「出来れば・・・・作ってくれる事を願うよエクスポ。
 君の無事を・・・・他のメンバーの無事を願うならドラグノフ様の命には従っておくのがベストだ」

「ボクに大量殺人兵器を作れっていうのか!?」

「・・・・そうさ。そんな量じゃぁ町の中心を吹き飛ばすくらいしか出来ないだろうけどな
 ・・・・・・・・それでもドラグノフ様は世界を手に入れた時に世界に与える圧力を欲しがってる」

「なんで・・・・何を考えている!世界を手に入れた時だって?
 必要以上に多い数のGUN'Sを集めたり!そんな高圧権力を手に入れるための爆弾を作らせたり!
 この段階でもうオブジェを取った気にでもなってるのか!?
 世界を取った時に重要なのは幹部(オフィサー)。GUN'Sでいうところの六銃士。
 なのに六銃士にさっき言ってたような危ない奴を入れたり!
 何を急いでるだい!?完全に近日を視野に入れてるじゃないか!!!」

「どうだろうね。予想は自由さ」

ジャスティンはフッと笑う。

「でも、俺はこれでも君達《MD》のためを思っても行動してるんだ
 分かっては・・・・・・・・・もらえないかもしれないけどな。
 じゃぁ・・・・・・・俺は戻るよエクスポ。でも最後に言わせてくれ」

「・・・・」

「諦めずに・・・・生き延びてくれ」

「生き延びる?」

疑問をよそに、
ジャスティンはそう言い、
女を連れて牢をあとにした。
コツコツと、
ジャスティンと連れの女の足音が小さくなっていく。
冷たいコンクリートの反射音。
そして消えた。

鉄格子に手をついてうなだれるエクスポだけが残った。

「くそぉ・・・・・美しくない・・・・・」

エクスポは鉄格子を殴る。

作れ?
大量殺人兵器だぞ。
作るわけがない。
こんな所で言いなりになる必要はない。

むしろこんな美しくないものを作るくらいなら・・・・
・・・・・・・自ら・・・・・死・・・
いや!
そんな美しくない事!
何を考えてるんだ!
人質である自分がいなくなったら、
それこそ皆が危ない・・・。

「・・・・・・・・人質・・・・・」

ふと思う。
・・・・・・・・こうも考えられる。
レイズのいる病院への襲撃。
そして意味もなくMDへの挑戦。

・・・全部人質の自分に爆弾を作らせるため?

・・・・・いや考えすぎか・・・・

とりあえず爆弾は作るべきか・・・
いや、ここはうまく過ごすために・・・・作るフリだけでもしておくべきだ。


BUBUBU・・・・・

マナーモードのWISオーブが響いた。
無気力でそれを見る。

ドジャーからのメモ箱だった。

いろいろと報告だった。
GUN'Sの1人、エンツォが倒れたこと。
44部隊の協力を得たこと。
ミルレスに予想より早い数のGUN'Sメンバーが揃ってること。
先ほどジャスティンから聞いた、病院を襲われたこと。

「クソ・・・・どういう事だ・・・・なんでGUN'Sの動きはすでに世界を動かす対象で動いているんだ・・・・・」

予想は自由。
ジャスティンの言葉。
予想。
シャクだが予想してみる。
すると・・・・

最悪で、
それでいて辻褄が合う・・・・一つの解答が出てきた。

それは・・・・・・・・


BUBUBUBU・・・・

またマナーモードのWISオーブが響く。
今度は着信だった。
"マリナ"
エクスポはWISをとった。

「どうした?」
「エクスポね。今、話しても大丈夫?」

エクスポは鉄格子の隙間から少し顔を出し、
あたりを確認する。
そして誰も牢の近くにいない事を確認した。

「あぁ大丈夫だよ」
「そう、実は今99番街の外れに来てるんだけど・・・・」

・・・?
町外れ?
なんでそんなところに・・・・

「・・・・ってまさか!?」
「うん。イスカと一緒にミダンダスの隠れ家の古宿ってとこ見に来たのよ
 GUN'Sの動向がおかしいってイスカが言うからオブジェの確認にね」
「そんな事して!?後をつけられなかったかい?」
「慎重にしたわ。・・・・いや、それがそれどころじゃないのよ」

・・・・まさか・・・・・

「宿は全焼してたわ」
「クッ!」

エクスポはまた鉄格子を叩く。
強く殴りすぎ、
腕からは血が出た。

「焼け跡あとから地下の入り口見つけて入ったんだけど・・・・・・中も全焼
 黒焦げのフードと眼鏡を付けた骸骨も出てきたわ・・・・ミダンダスの死体で間違いないと思う」

          1人は『チャッカマン』ダニエル。人を燃やすのが生き甲斐のイカれた殺人狂さ

「クソォ!美しくないっ!やっぱりジャスティンはオブジェの居場所に手ぇつけてたのカッ!!!」

エクスポは我を忘れてWISオーブをベッドに投げつけた。
衝撃でWISは切れ、
ツー・・・ツー・・と定期的に不快な音を奏でた。

予想が当たった。
ミダンダスは既に殺され・・・
オブジェは・・・・・・・・


既にGUN'Sの手の内に・・・・


「じゃぁボクが人質になってる意味は!?
 爆弾のためっ!?ドジャー達をおびき寄せるため!?
 それのためだけにジャスティンは黙ってたのか!」

オブジェが向こうにあるのなら、
全て話は通る。

GUN'Sメンバーの招集が早い訳。
そしてGUN'Sの動きが全て世界を統一する事ために行われている事も・・・・

GUN'Sはオブジェを手に入れる予定で行動していたんじゃない。
手に入れた事を巧妙に隠しながら動いていたのだ。
恐らく一部の六銃士にしか連絡していないほどの徹底ぶり。

脱力した。
絶望も感じた。

「ハハ・・・・・全く・・・・全部美しくないよジャスティン・・・・・・・
 オブジェも手に入り・・・・・・ボクが作る爆弾も手に入り・・・・・ドジャー達と決着もつけれる・・・・
 全部・・・予定通りなんだね・・・・・・・・・・」

鉄格子を殴り、
血がへばりつく自分の両手。
エクスポはそれを見つめる。

「でもそれらの一部を叶えられないようにする方法が一つあるよ・・・・
 ・・・・・・少なくとも、美しくない爆弾が出来ず、ドジャー達の戦う理由を減らす方法・・・・
 ・・・・・・・・美しくは無いけどね・・・・・・」



               お前ら仲間のうち・・・・・誰か死ぬだろう



「・・・・・・・・・・・・ボクだったわけだ・・・・・・・・」


エクスポは

自分の舌に・・・・・ゆっくり歯を重ねた。



「最後は華々しくがよかったんだけどね・・・・・・・・・」


牢の窓。
小さな鉄の格子。
その額縁に切り取られた風景。
そこには、まだ昼だというのに月が見えた。

月は夜の闇の中だからこそ輝くもの。

だが、
今のエクスポには、

それが何よりも美しいものに見えた。


















                 






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