「は?ソックスってサラセンのあのイカれた双子か。あいつらに兄貴なんていたのか」

「っつっても腹違いの兄貴。さらに言うとあいつらは俺の存在すらも知らねぇだろうがな
 クククッ、"腹違い"って響きいいよな。糞ったれな響きだ。ドブにでも落ちてそうじゃねぇか」

「あん?何言ってんだてめぇ」

「まぁ少し話をしてやるよマイエネミー(お相手さん)。つまんねぇ痴話だがな。盛り上がるだろ?」

グレイは両手をポケットに突っ込んだまま。
片頬だけ吊り上げながら話し始めた。


「まぁ悪都市サラセンっつったら最悪なもんよ。武道が盛ん?違うね。力が街を征服してるだけだ。
 俺の親父のブラウって糞野郎は・・・・・・言うところそんな糞な街の勝ち組だ。
 その親父がまぁ最悪なわけよ。そりゃ強ぇわけだがクソったれでよ。トイレにでも住めって感じだ
 だが力が全ての便所みたいなサラセンじゃぁ親父は糞の中のキング。一番でけぇクソだ。
 クソの天辺で何でも出来た。欲しいもんは手に入ったし、蝿みたいな野郎は勝手にたかってくる
 金もアマもむさぼり放題。結果・・・・知らねぇとこで当然クソ(子供)もたれ落ちる。
 つまるところこの俺、グレイもそのクソの一つってわけだ。涙したたるいい話だろ?」

グレイはそんな話も嬉しそうに語る。
ドジャーにとってはそんな面白い話でもなかった。

「ただの思い出話に聞こえるな糞野郎さんよぉ」

「グレイだ。まぁあせんなマイエネミー(敵さんよぉ)。
 ま、そんなだから糞親父は生まれてこのかた俺に興味なんざほとんどねぇ
 自分のギルドおったてて偉そうにしてむかつく奴は殺して女は抱く。それしか興味ねぇ
 俺なんざオヤジにとっちゃぁ豪華ディナー食った後にでたエビの尻尾みてぇなもんだ。
 母親も捨て殺されて俺は孤児みたいなもんだった。自分の身は自分で守らなきゃならねぇ」

たしかにドジャーと・・・いや、99番街と似た境遇だった。
サラセンは99番街を都市にしたような場所かもしれない。

「だから強さだけを求めた。頼れるのは自分のみ。自分だけを信じ、人を踏み潰して生きてきた。
 邪魔なもんがあったら踏み潰す!踏み潰して踏み潰して上に行く!・・・・そんな肥溜め生活」

違うのは・・・・
99番街の人々は生きることだけに執着し、
サラセンの人々は人を押しつぶす事に執着するといった点・・・・か。
サラセンは心まで砂のように枯れている。

「そんな俺を拾ってくれたのがマイキャプテン(隊長)だ。これまた糞最高。
 マイキャプテンは俺にきっかけを作ってくれた・・・・そんで今の俺がいるって話だ」

「やっぱ話がよく見えねぇな、結局ただの思い出話じゃねぇか」

「違うな。ここだ大事だ。汚ねぇ耳かっぽじってよく聞きな。
 耳クソの代わりにするには上等な話だ。もったいないねぇ。
 マイキャプテン(隊長)が教えてくれた事・・・・・・・・・それは」

グレイはポケットに手を突っ込んだまま、
一度神妙な表情で顔を下げた。
そしてもう一度顔をあげた時、顔はニヤっと笑っていた。

「"自分しか信用できない事"と"自分を信用する事"は違うって事だ。
 人より上に立とうとしてた頃と、己を超えようとしている今では・・・・違うわけだ。
 階段を踏み壊しても昇れねぇ。自分が足をあげないとな。
 分かったか?これが俺の強さだ。ま、分からなくてもいいぜマイエネミー。
 頭で分からなくてもお前の体に直で教えてやっからよ。羨ましいなぁマイエネミー♪」

グレイは右、
そして左と、
順に足で蹴り技を見せた。
その後、右足をピッと真っ直ぐドジャーに突き出して止めた。

「遊郭で金払っても教えてもらえねぇHIGHな授業の始まりだ」

ドジャーはフッと笑う。

「長ぇ前置きだったぜ」

両手のダガーをくるくると回す。

「だが同情もしなけりゃ共感もしねぇ。他人は他人。どうでもいい話だ。
 俺に今必要なのは・・・・その"強い"っつーテメェに勝つことだけだぜ?」

ドジャーは回転を止めて右手を突き出す。
グレイが突き出した右足に向けて。
グレイの右足。
ドジャーの右手のダガー。
二つが槍と槍のように向き合う。

「おい盗賊」

向かい合うグレイとドジャー。
その間にロウマが声をかけた。

「アクセルの倅(せがれ)は。自分という岸から・・・・強さという名の河岸。そこに辿り着いた。
 アクセルの倅(せがれ)は20年ほどの短くも長い年月を修行に費やし、
 "自信"という石橋を気づきあげ、強さの河岸へと渡った。
 だがドジャーとやら。お前はその石橋がない。積み重ねて出来上がった堅きモノがない。
 グレイは同じだったが、橋を作り始め・・・・強さの河岸に辿り着いた。
 そのグレイ相手に見せてみろ。『デス・オン・トゥー・レッグス』と呼ばれるグレイを。
 お前のいう強さを示し、そして・・・・・・・・・・・・・・・・このロウマにワビさせてみろ」

「言われなくてもな。でも俺は人に言われてから行動するのが大っ嫌いなんだぜ?」

そう言ってドジャーはロウマから目を離し、
グレイへと目を戻す。
そして言った。

「やるか」

「そうだなマイエネミー(糞野郎)」

いざ勝負・・・・
・・・という時だった。
ドジャーはふと思った。

「って・・・おいテメェ・・・。テメェ両手をポッケに突っ込んだままヤる気か?」

そう、
グレイは両手を修道パンツのポケットに入れたままだった。
まるでチャラチャラ道を歩いてるヤンキーのような態度。

「あぁそうだぜマイエネミー」

「ナメてんのか?それともそのポッケにゃ大事なお菓子でも詰まってんのか?」

「お菓子?ハッハー!なるほど。だが飴玉よりあまぁーぃもんが入ってんぜマイエネミー!
 ・・・・・・・・・この両手はテメェをナメてるってこった。てめぇは飴玉より甘ちゃんだからな」

ドジャーは・・・・血管がピキッっと言った。
ナメられて気分は最悪。
ムカツキって奴が脳を一周した。

「カッ!・・・・やる気・・・・・・・でたぜ!!!!」

ドジャーが飛び込む。
走り込む。
自慢の瞬足を全開。
真っ直ぐグレイへと突っ込む。

「踏み潰してやるぜマイエネミー!!!」

同時にグレイも突っ込んできた。
両手をポケットに入れたまま走りこんでくる。
速い。
ドジャーまでとは言わないが速い。
脚力に自信があるのだろう。
そう言えばソックス兄弟も脚力があった。
・・・というよりソックス兄弟は足技が主体だった。
その義兄であるグレイも足に自信があるのだろう。

・・・・両手をポケットに封印している時点で足技しかこないのも分かる。

それをドジャーは咄嗟に判断した。

「じゃぁこうだ!」

ドジャーは跳んだ。
空中に飛ぶ。
そしてそのまま、斜め上からグレイへと飛び込む。

「足は下に付いてるもんだ!あっち向いてホイってなもんだな!
 てめぇは下で俺は上だ!食らいやがれグレイ!!」

空中からドジャーはダガーを突き出す。
両手のダガーはグレイを襲わんとする。

走っていたグレイは咄嗟にブレーキをかけて止まる。
いや、止まったと同時に跳んだ。
自慢の脚力を全開に使ったジャンプ。
ドジャーに向かって。

「ネリ・・・・」

グレイは空中右足を振り上げ、

「チャギィ!!!」

空中で右足を叩き落した。

「ガッ!?」

グレイの右足は空中でドジャーを捕らえた。
ネリチャギ。
俗に言うカカト落とし。
それを空中で食らったドジャーは、
そのまま地面に叩き落された。

「痛ッ・・・・・・・・」

地面に軽くバウンドしてドジャーは転がった。

「くそ・・・ナメたマネしやがって・・・・・」

ドジャーは地面で上半身だけ起こす。
が、

「そのままいい子にしてろマイエネミー(糞野郎)!!踏み潰してやるぜ!!!」

そんなドジャーに息をつかせず迫るグレイ。
空中からドジャーの真上へと落ちてきた。

「チッ!!残念だが俺ぁ行儀が悪くてなぁ!!」

ドジャーは咄嗟に体をひねり、
ひねった反動で横に跳んだ。
なんとかグレイの攻撃を避けた。
グレイの足は砂の地面に突き刺さって砂を巻き上げた。

ドジャーは避けた反動でゴロゴロと転がった後、
グレイの方を見た。

「どうしたどうしたマイエネミー!!!そんなんでマイキャプテン(隊長)に挑もうとしたのか?」

グレイは両手をポケットに突っ込んだまま、
余裕の笑いをしながらドジャーの方を見て笑っていた。

「その余裕・・・気に入らねぇ」

「そうかそうか。昔を思い出すなぁその糞ったれた目はよぉマイエネミー!」

「その薄ら笑いの顔つきもポケットに突っ込んだままの両手も気に入らねぇ!
 そんでもってこのドジャー様がナメられてんのが一番気に入らねぇ!!!」

それを聞いてもグレイは余裕で笑う。
もちろん両手はポケットに入れたまま。

「気に入らない?いいねいいね。最高にしみったれた言葉だなぁマイエネミー!
 だが、この俺も気に入らない事が一つあんだぜ。しみったれた痴話だ」

「・・・・あん?」

「さっきの話の続きだ。自分しか信用できなかった俺。マイキャプテンに拾ってもらった俺
 そんな俺にも戦い以外に一つだけ楽しみがあった。それがエドとワイトだ。
 糞マイファザー(親父のブラウ)が垂れ流したクソの中で唯一興味あったダブルベイビーだ。
 "自分"しか信用できねぇサラセンの世界で、唯一"自分達"しか信用出来ない異端な存在。
 俺は腐ったストーカーみてぇに物陰からあいつらの成長を見るのだけが楽しみだったね。
 愛情とか腹違いの共感とかじゃぁねぇ。チャチな映画でも見届けるような楽しみだった」

「カッ!そりゃぁ悪かったな。新しい映画探せや」

「無理だなマイエネミー。愛情とか共感はないはずだったが・・・・なんでだろな
 ・・・・・・・・・・この世にはアレと同じ映画はねぇみてぇなんだ!胸にポッカリ穴空いた感じだ!
 意味は分からんが胸に空いた穴にゃぁ糞みてぇな感情で煮えたぎったんだ!!!」

「じゃぁ俺が代わりにご馳走をくれてやるっ!!!」

ドジャーの右手。
下手からピッと手首にひねりをきかせて飛ばしたソレは。
一本の閃光となってグレイを襲う。

「いらねぇよ!んなチャチなモンよぉ!」

グレイが両手をポケットに入れたまま、
右足をヒュンと回した。
回し蹴り。
と同時にカンッ!と甲高い音が鳴り、
ダガーが弾かれた。

「ダガーを跳ね返すたぁな。その靴・・・ゴールドシューズか」

「あぁ。金粉(ゴールドパウダー)で出来た豪華な靴だ。クソを踏むには絶品ってな」

「そうか。だが・・・・・」

ドジャーは一度体を抱え込むように小さくなる。
その後、
バッと両手を開いて体を広げた。
その右手には8本のダガー。
その左手にも8本のダガー。
計16本のダガーが展開された。

「テメェの足は二本。靴も二つ。・・・・俺の腕も二本・・・・けどダガーは16本。面白い話だろ?」

ドジャーはニヤっと笑った後、
両手を後ろに構え、溜めを作る。

「ディナータイムだ!!!」

声と同時。
16本のダガーは16の直線を引きながら放たれた。
16のダガーは、
まるで剣山が迫るようにグレイを襲う。
二本の足では防ぎようが無い。

「そんなもんかマイエネミー」

グレイはポケットに手を突っ込んだまま
右足を突き出した。

「俺の両足はショットガンだ!」

グレイの言葉と同時。
その右足は見えなくなった。
消えた。
いや、速すぎて見えない。
それは音速の連打。
連蹴。
マシンガンキック。
グレイの右足はまるで見えない壁のようにグレイの前に立ちはだかる。
それは速すぎるため、
まるでマシンガンというより・・・・ショットガン。

そして16回の金属音。
いや、ほぼ1回の金属音。

一瞬でダガーは全て弾かれた。

「チッ、腐っても・・・・・最強の44部隊・・・・・・・か」

「そ、これがマイキャプテン(最強)に認めてもらった強さだ。クソ強ぇだろ?
 だが受けを待ってばっかじゃぁ布上のアマだ。今度はこっちからいくぜマイエネミー!!!」

走り出すグレイ。
両手はポケット。
自慢の脚力。
速い。
だがドジャーは逃げない。
逃げる理由なんてない。
咄嗟に右手にダガーを取り出し、
迎え撃つ。

咄嗟に考えたドジャーの策。
それはダガーでの一撃をオトリに、
ラウンドバックで後ろに回る。
問題はこの男相手にそれができるか。
だが、できるかじゃない。
やるんだ。

「食らいがやれ!!!」

ドジャーがダガーを突き出す。
だがその腕はグレイに届くことはない。
グレイは体勢を低くしていた。
勢いはそのままに、まるでスライディング。

「足元がお留守だぜマイエネミー!!」

それは派生無しから突発的に出す・・・・・
"烈"。
簡単に言えば走りこみからの足払い。
足技を極めるとこんな事もできる。

ドジャーは足元をすくわれ、バランスを崩す。
いや、転ぶといってもいい。
ドジャーは地面に肩から落ちた。

「チッ」

ドジャーがすぐさま起き上がろうとした時だった。
ルケシオンの太陽を完全に覆い隠す影。

「ゴハッ!!?」

砂の地面に転がったドジャー。
その腹の上に何かが突き刺さった。
グレイの両足。
烈で転ばしたドジャーの上に乗っかってきたのだ。
ポケットに両手を入れたまま、
ドジャーの上に立つグレイ。

「エドとワイトは死んだ」

「テメっ!」

ドジャーは上に乗られて身動きが出来ない。
が、咄嗟にダガーを取り出し、
グレイの足をかっ裂こうとした。
だがそのダガーも、
グレイが蹴飛ばす。

「だがマイブラザーズは言っていた。「俺達は二人で両足」だと。だからソックスだと。
 だが死んだ。ならその両足を俺が履いてやる。あいつらの両足は俺の両足。
 あいつらが望んだものは俺が代わりに踏み潰してやる!クソを踏み越える!!!
 俺の二つ名は『デス・オン・トゥー・レッグス』!!!屍を踏み越えし者だ!!!
 食らえマゾ野郎!!!キックのめった打ち(ブラストビート)だ!!!!」

放たれたのはマシンガンキック。
それも両足。
ダブルマシンガンキック。
ドジャーの上にのっかったグレイは、
地団太を踏むかのように真下のドジャーをめっためたに踏みつける。

「ハハハッ!気持ちよくなってくるだろマイエネミー(マゾ野郎)!!!!
 足降って地固まるってなぁ!!絶頂(アスガルド)にイっちまいな!!!!
 俺の右足(エド)と俺の左足(ワイト)が呼んでるぜ!会いたいってなぁ!!!」

やまない。
無限の足の雨。
一撃一撃がドジャーの腹に打ち付けられる。
血を吐き出す。
一撃一撃が内臓をつぶすかのよう。
まるで二人係。
右足と左足が一人一人で、
それが同時にドジャーを踏み潰すかのよう。
・・・・・・・
死ぬ・・・・

「・・・・ま・・・・・・・タ・・・・」

「ぁぁあん!?聞こえねぇぞ糞ったれ!!!」

「・・・・・・・・ま・・・いった・・・・・・・・・」

「ケッ!糞ったれが!!」

グレイはドジャーから飛び降り、
そしてドジャーを蹴飛ばした。
両手はポケットに入れたまま、ツバを履き捨てる。

ドジャーは腹を抱え、
咳き込むように血を吐き出す。

「負けを認める事は弱さだマイエネミー。
 自分ではどうにも出来ない事を認め、己のプライドもなんもかも捨てる愚かの絶頂。
 限界に達する前に勝負を投げ捨てたテメェは己にも打ち勝てねぇクズだ!クソだ!!!」

グレイはもう・・・
完全にドジャーに興味を無くした目つきを投げかけ、
振り向いた。
両手を突っ込んだまま歩き、
「終わったぜマイキャプテン(隊長)」と笑っていた。

「やわな奴だ。アレックス部隊長とはてんで違う。
 肥溜め生まれのまんまだ。肥溜めから精神が抜け出ちゃぁいね・・・・・・・あ?」

グレイは何かに気付き、
振り向く。
いや、背中を見つめる。
そこには・・・・
ダガーが刺さっていた。

「な、なんじゃこりゃ!!!」

グレイはすぐさま背中のダガーを抜く。
背中からダガーを抜くと血が噴出した。

「カカッ!やっとポケットから手ぇ抜いたな」

「マイエネミー!!?てめっ!」

グレイがドジャーの方を向く。
いや、いない。
先ほどまでドジャーがいた所には
ドジャーの大量の吐血が砂に浸み込んでいるだけ。

「どこ行・・・・・」

「ここだ」

グレイは首を引っ張られた。
と同時に首元にダガーが突きつけられた。
ドジャーが後ろから突きつけたのだ。
背負い締め。
ドジャーのダガーがグレイの首元で光る。

「・・・・・・・畜生・・・・・インビジか・・・・」

「カカカッ!チェックメイトだ」

と言いながらもドジャーは血を吐く。
グレイの背中に回っているのでグレイにもその吐血がかかる。
ドジャーもグレイの攻撃で限界ギリギリ。

「畜生!糞ったれ!!負けを認めたクセに!」

「負け?カカカッ!いい事教えてやらぁ。
 "まいった"なんてのは負けの象徴でもなんでもねぇ。"ただの言葉"だ。
 カッ!自分の限界を超えれても相手の限界を計るこたぁ出来なかったみてぇだな」

「くそ野郎・・・・」

「いいか。最初から言ったろ?俺ぁ結果だ。結果だけが欲しいんだ。
 過程で負けを言葉にしようとも、最終的に勝ってりゃそれでいい。
 だからそのために過程で卑怯な事でもズルい事でもなんでもしてやるよ
 肥溜めから抜け出せてないだぁ?カッ!上等♪これが俺だ。俺を変える気はねぇな」

そう。
これがドジャーの生き方。
昔から貫いてきた事。
泥臭かろうが、
最悪と呼ばれようが、
結果だけを手に入れるために生きてきた生き方。
それを正しいとは信じなくとも、
その自分のやり方だけは信じてきた。
己の道を・・・・。

「さぁて。ダガーをちょぃとひねるだけで死ねるぜテメェ?どする?」

「チッ・・・・・クソッタレめ」

「負けず嫌いは死ぬぜ」

「そこまでだ」

ロウマの低く通る声が響いた。
と同時。
ドジャーの背中に一点の冷たさ。
副部隊長ユベンのドロイカンランスが突きつけられていた。
動くな。
隊長が話しをする。
そんな槍。
ロウマが話を続ける。

「ドジャーとやら。お前の強さ。見せてもらった。十分だ」

「あん?」

「お前の強さ・・・・・それは己がために戦う事ではないのだな。
 己のために戦ったら・・・己の諦めで戦いをやめる事もあるだろう。
 だが、誰がためだからこそ、退けない。戦い抜く強さか。
 ・・・・・賞賛しよう。それがお前の強さの河岸へと辿りつき方なんだな」

「あぁ」

ドジャーはグレイからダガーを離す。
解放する。
するとドジャーの後ろに槍を突きつけていたユベンも槍を下ろした。

「強さの河岸っつったな?そりゃぁ人はみんな崖や川を渡る時に橋をかけるだろうよ。
 立派な橋をな。だが俺ぁそんな立派な橋とかは別にいいんだ。結果だけ欲しい。
 橋なんかなかろうが・・・・・・・・・飛びついてやる。辿り着けれりゃぁそれでいい。
 みっともなかろうがなんだろうがいい。結果が手に入れば・・・・それでいい」

そう言ってドジャーは右手のダガーを握った。
自分で言ってて思った。
何かを再確認したように。

キューピーと戦った時、才能の話をした。
そしてエンツォという才能を上回る相手と戦った。
だが、才能が上だろうと・・・・勝った。
それでよかった。
勝っている事。
それが一番大事なのだ・・・・・。

俺は・・・・・・・・・・・・・・強くなくたっていい。

「正しい道じゃないからこそ・・・・・・・辿り着ける到達地点もあるのかもしれんな
 結果的にお前はグレイに勝った。自分より強き者に。結果を手に入れている。
 どうやっても結果(勝利)を手に入れる。それも強さと言えなくもないな。
 アクセルの倅(せがれ)とは真逆のようで・・・・・・・なかなか気の合う事かもしれん」

「ってそうだ。それで思い出した」

ドジャーはコロっと思考を変えた。

「やい最強!勝ったぞ!認めさせたぞ!ワビだワビ!ワビ入れろよ!」

ドジャーが叫ぶ。

「・・・・・・・」

ロウマは無表情。
そして言った。

「もうした」

「・・・・は?」

ドジャーはロウマの言葉を思い出す。
思い出す思い出す。
・・・・・。

「・・・・どこで?」

そんなロウマの言葉は思いつかなかった。

「話は終わりだ」

「ちょ、待てこら!!!てめっ!ほんとは頭下げんのイヤなんだろ!
 このやろっ!心がめっちゃ広いと思ったら案外負けず嫌いだな!」

怒鳴り散らすドジャー。
ロウマは無言で相手にしない。

すると側にいたグレイとユベンがドジャーの前に迫ってきた。

「・・・な、なんだよ」

「あぁん?糞野郎!マイキャプテン(隊長)が認めたんだからそれでいいだろうがクソ!!」
「そうだ。隊長の気持ちを変えた。それだけでなによりだ」

「納得いかねぇぞ!」

納得いかないドジャー。
だがユベンが軽くコツンと拳をドジャーの胸に当て、
そして小声で言った

「ワビに対し・・・隊長は「もうした」と言った。なによりだ。こんな事はそうない
 あの隊長がワビをしたと言ったのだ。ワビを・・・・"した"と。
 そう言わせた事は俺も少し驚いている。なによりじゃないか。それに結果が全てなんだろう?」

「・・・・・・・・カッ!」

ユベンはそれだけ言い、
戻っていった。

だが今度はグレイがポケットに両手を突っ込んだまま、
ドジャーの肩に自分の肩をぶつけ、
小声で話す。

「納得いってねぇのはテメェだけじゃねぇぞマイエネミー。
 今日はマイキャプテン(隊長)に免じてやめとくが、
 エドとワイトの埋め合わせは俺の両足が・・・・あいつらの両足がすっからよ」

そう言ってグレイも振り向いて戻っていった。
両手を突っ込んだままガラの悪い態度で。

納得いかないようで納得いったような・・・
やりきれないような微妙な気持ちでドジャーはツバを履き捨てた。
砂に浸み込んだ自分のツバが赤く染まっているのを見て、
自分の怪我が尋常じゃない事を思い出し、
いきなり痛くなってきた。
でも情けない所は見せたくないのでこっそりセルフヒールを始めた。

「で、協力の件だが、再確認だ。協力してくれるんだな」

「・・・・・・・あぁ」

ロウマは無表情で言った。
だが少し不機嫌な気もした。
案外小さい事を気にするタイプなのかもしれない。
だが話を進めた。

「だが、ドレッドの戦士とお前は体の休養。アクセルの倅はさらに魔力も使いきっている
 総計して、明日の昼まではお前らも動けぬだろう。だが一刻も争う。そうだろう?」

戦いながら、見ながらも、
ロウマは相手の状態を理解する余裕もあったという事。
底が知れない・・・・とも思った。

「よって・・・・明日の昼。そうしよう。場所はミルレス。GUN'Sを強襲する
 まぁこのロウマ達は囮のようなものだろう。こちらはこちらで勝手にやらせてもらう」

「十分な条件だ」

ドジャーは結果に満足だ。

「気をつけろ・・・・と忠告だけしておく」

「あん?」

「明日になれば・・・・最大でGUN'Sのメンバーは5000まで膨れ上がっているだろう
 力で押さえつけた統率のない群とはいえ、・・・・・・・・攻城戦規模の戦力だ。
 おそらくミルレス中央全体が戦場と化すだろう。
 だが話しの通り、それらの相手は我ら44部隊がする。お前らはGUN'Sの本拠地を捜せ」

「本拠地?一応情報屋から買えねぇかと思ってるけどよ」

「無駄だろうな。だが、知ってる者がいる」

ロウマの無表情な鋭い顔、目つき。
それに対し、ドジャーも目を鋭くして返した。

「・・・・・・ピルゲンか」

ミッドガルドとアスガルド。
キーワードを含め、いろいろと頭を回る。
ピルゲンはGUN'Sの味方なのか・・・敵なのか・・・・
少なくとも・・・・こちらの味方・・・・とはいえない。

「こちらからもとり合ってみるが・・・・あいつは戦乱を望んでいる。
 多くの被害を望んでいる。恐らく無駄だろう。だがもしもの時は分かり次第連絡する」

「あいあいー」

「もう少しだけ忠告しておこうか・・・・」

「・・・・んだよ。まだあんのかよ」

「明日で最大5000。この数はお前らが先ほど言っていた通りなら・・・・予定より早い。
 何かしら裏がある。オブジェを取れそうというだけで取れる行動でもない。慎重になれ。
 そして・・・・・お前らにとって致命的な事がひとつある」

「・・・・・もったいぶらずに言えっての!」

「考えてみろ。ミルレスには何がある」

・・・・・・・・
ロウマはそれだけ言った。
無表情。
それだけ言えば分かるだろう。
表情はそう言っている。

・・・・
ドジャーはハッとする。

「ミルレス白十字病院か!!」


TRRRRRRRRRRRRRRRRR

・・・同時にWISのオーブが鳴り響いた。
オーブの表面には"レイズ"と出ていた。

「・・・・・・先手をとられたようだな」












オブジェとの交換要因・・・・・・・・人質のエクスポ。
そのオブジェの場所に検討がついてるだろうジャスティン。
それでもドジャー達と戦いたいジャスティンの思惑?
敵の本拠地ミルレス。
予定より早いGUN'Sの行動。
いや、予定だけで大規模すぎる行動をするGUN'S。
ミッドとアス。繋がっている。
それらのキーワードに関係あるだろうピルゲン。
六銃士の残りは・・・二人。
ジャスティンの言葉「再装填(リロード)」が意味するだろう六銃士の補充。

5000 VS 約20・・・・



いやがおうにも夜は明ける。



いやがおうにも次の日は・・・・・・・




決戦。








                 






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