「ここだ。アレックス君。来てくれてなによりだ」

シャンデリア灯る王宮の廊下。
その中、なんの変哲もない一つの部屋に案内された。
ユベンは「ここだ」とドアの横に立っただけだ。
自分でこのドアを開き、中に入ってくれということだろう。
アレックスはドアノブを掴むが一瞬ためらった。
この中には・・・最強ロウマ=ハートが・・・・
だが、迷っていてもしょうがない。
勢いよくドアをあけ開いた。

「おー、来たぜ来たぜ。新メン候補」
「あっらぁー。イジメてあげたいくらい可愛い子じゃないのぉー」
「たしかにアクセル部隊長には似ても似つかないッスね!」

部屋には30人ほどの人間がいた。
全て44部隊だろう。
チャラけた態度をとっているが、どの人もテダレだと分かる。
雰囲気からして分かる。
学校にはいなかった・・・なんというか隙のない印象がある。

「名前なんつーんだっけ」

「アレックスです・・・・。アレックス=オーランド・・・・」

「ほぉー。いい名前じゃねぇか!俺にくれねぇか?その名前。なぁ?いいだろ?な?」
「ちょっとアンタ!突っかかってんじゃないわよ!その子はあたいのものにすんのよ!」
「別に誰のものでもないアルネ」
「♪♪♪〜♪。誰のものでもいいさぁ。音楽はどんな垣根をこえるものだからね」
「・・・・ふん。そんな奴より俺の方ができる子だ俺の方ができる子だ俺の方ができる子だ・・・・」
「ブツブツ糞うっせぇんだよ豚野郎が!こないだロクに支援もできなかった糞ゴミクズが!?死ぬか?あ?」
「!!!??・・・・・・・・・・・おい訂正しろ!俺は出来る子だ!俺に"できない"と言うんじゃぁない!」

「少し黙れお前ら」

一番奥から野太い声が聞こえた。
その一言で部隊の全員がシンッと静かになった。

一番奥で椅子に座っていた男。
その男にアレックスは目を奪われた。
2mは超える屈強な体。
この男がロウマ=ハートだと分かる。

「始めましてロウマさん」

「ほぉ、なかなか肝が据わってるな」

そう。
落ち着いていた。
けど"怖いもの知らず"・・・・とは少し違っていた。
その時は本当に"その怖さ"というものを知らなかったのだ。
あまりに今まで出会ってきたものとは違いすぎて、
その感情がどんなものかわかっていなかった。
ある種のドキドキのようなものだと感じていた。
怖さを知らないという事が・・・・一番怖いものである事を・・・・その時は分かっていなかった。

「呼んだのは他でもない」

「頼み・・・ですか?」

「返し方がアクセルに似てるな。そういう部分に興味がある。
 だが"頼み"ではない。調度その逆の事だ」

そうしてロウマが立ち上がった。
実際巨体なのだが、
それはやけに大きなモノに見えた。

「審査をしてやる。お前の"強さ"というものを
 このロウマが認めてやるに至った時は・・・その時はこのロウマの部隊に加えてやる」


その後、
アレックスは知る。

自分は何故、この存在に恐怖というものを感じなかったのか。
それは恐怖ではなかったからだ。
恐怖とはまた違う恐怖。
異なる存在に感じる恐怖。
知らない感情だった。

それは矛盾が生み出す・・・・・・


"畏怖"という感情だった。












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「話だったな」

ロウマは真っ直ぐ、そして力強い眼差しでこちらを見ていた。

「そうそう、俺らはお前ら44部隊の助力が欲しいってわけだ。
 話が分かるなロウマさんよぉ。とっとと交渉したいとこなんだ」

ドジャーは淡々としゃべる。
先ほどのエンツォとの戦いで、ドジャーもロウマの強さは分かった。
いや、それ以上に雰囲気とたたずまいだけでも。
が、知りえてはいなかった。
ロウマの強さの恐怖を。
だからドジャーはこんなに高圧的な物言いができる。

「で、あらかた話はアレックスからWISで聞いてんだろ?
 実際のとこどうなんだ。俺的には何一つノープロブレム。
 相互の目的が重なって起こる"即決"って奴を期待してんだがよ」

「そうだな」

短く、端的にロウマは返す。
ドジャーのナマイキなしゃべり方にイラつく事もなく返す。
ロウマは細かい事にいちいちイラつく小物さを持っていない。
常に落ち着き、威風堂々。
強いだけではない。
強さだけで最強を名乗ってはいない。
それを感じさせる器の大きさを感じさせる。

「このロウマの目的は終焉戦争に参加した15ギルドへの復讐。あらかた喰ってやった。
 だが、本命のGUN’Sにはまだ手を出していなかった。よっていい機会とも思う」

「じゃぁよぉ」

「が、」

ドジャーの返事を打ち消すようにロウマは話を続ける。
黙れ、
俺の話が先だ。
まずは聞け。
このロウマの話を。
そんな言い方だ。

「2・3・・・・問いたいことがある」

「・・・・・・・・条件ですか?」

「条件というほどでもないんだ。アレックス部隊長」

ユベンが話に割り込んできた。
背負っていたドロイカンランスは自分のドロイカンに持たせ、
純粋に話だけをする姿勢を見せていた。
アレックス的にはユベンが話をしてくれた方が助かった。
ロウマ相手には色々と話しづらい。
ユベンもその当たりを察したのだろう。
最強ロウマの補佐を務めているだけはあり、
ユベンのその対応には副部隊長という面影を感じさせるものがあった。
ロウマの代わりにユベンが話を進める。

「一つは気になる事。これはある筋から得た情報だ」
「ユベン。アクセルの倅(せがれ)の前で伏せる事でもない」
「そうですね隊長。アレックス部隊長・・・・ある筋というのはピルゲン部隊長の事だ」

ドジャーとメッツの目の色が変わる。
いや、アレックスも。

「あぁん?」
「ピルゲンだと!?」
「ロウマさん達はピルゲンさんと組んでるんですか?」

「いや、ピルゲン部隊長はギルドが潰れていく事を望んでいる。
 それを踏まえた上で我々によこしてきただけの情報だろう。こちらとしても何よりだ」

「GUN’Sの情報をピルゲンが持ってくるという事は・・・・」
「おいドジャー。ミダンダスの情報から予想した事もあながち当たりかもしんねぇぜ!」
「あぁ、"ミッドとアス"。ピルゲンが繋がってるってのは当たったな。
 カッ!何企んでるか知らねぇけどな!・・・・・・・・で?その"気になる情報"ってのはなんだ?」

「お前らがよこした情報と違い、すでにミルレスにGUN’Sのギルド員が集結しはじめている。
 もちろん全てではないが、その数・・・・・・・・4000との事だ。何よりではないな」

「4000!?」
「もうそんなにも?!」
「俺らの予想だと1週間かかるはずだ!そのペースは予想より2・3日は早ぇ!!」

「まだ全てじゃないのだけがなによりだな。明日にでも攻めればまだどうになる数だ」

いや、どうにでもなる数ではないだろうと思う。
まぁ全滅が目的ではないから・・・という意味でだろう。
だが、それをどうにかしてしまう力強さを44部隊は持っていた。

「だが俺がなにより気になるのはGUN’Sの余裕だ。
 圧倒的にオブジェに手が掛かっている状況とはいえ、なにより余裕があるように見える」

「何言ってんだ!こっちゃぁエクスポ人質にとられてんだぞコラァ!」
「それにGUN’Sはこの速度でギルメン集結させてんのに余裕がどこに感じられるんだってんだ!」

「自惚れてるのか?お前ら《MD》を倒すのにそんな大掛かりな人数がいらん」

ハッキリと、高圧的にロウマが言った。
メッツがムッとしたが、
反論はしなかった。
その言葉は的確だったからだ。
その通りなのだ。
集結などせずとも、50そこらでこの間はあのザマだった。
数百〜千の兵だけでも確実に事を収められる。
さらに、溢れるほどにツリが来る戦力差。

「アレックス部隊長が所属している《MD》。
 あんた方が人質を見捨ててだんまりを決めたり、オブジェの悪用したりと考えると
 決してまだ余裕をもてる段階ではない。決してなによりではないんだ」

「・・・・・・・・その人数はオブジェを取った時の国づくりのために集めてると予想しています。
 ジャスティンさんというオブジェの居所に予想をつけてる人がいるための余裕でしょう」

「だが、終始とは言わないが、アレックス部隊長らがエンツォと戦っていた時を少し目にした。
 その時のエンツォの様子だと、最上層部の六銃士全員にまではそれらの報告をしていない」

「まだジャスティンが見当をつけてるオブジェの隠し場所も、
 向こうとしては確定要素じゃねぇからだろ」

「なら、何故建国の準備などしている。オブジェが手に入る"かもしれない"。
 それだけでギルド全員をミルレスに集結させようとするのか?なによりよく分からない事だ
 そして一番気になるのはやはりその行動の早さ。お前らが言った通り2・3日早いペースだ」

「分からないことの方が多いに決まってます。
 無能すぎるか、有能すぎるというだけかもしれません。
 向こうも向こうで私情が少なくなく・・・・いや多大に私情が絡んでるようですし、
 それらのズレや疑問もきっとたいした事じゃないでしょう。
 というより今は考えても結論は出ません。それよりも僕達にできる事は協力。
 それ以外に有効な決路は今のところないと思います」

「まぁそうだな。なによりだ」

ユベンのその返答に、ドジャーは「ほぉ」と感心し、
アレックスに小声で話した。

(おめぇ説得うめぇな)
(そりゃぁ疑問なんて広げるよりポジで正しい事を言うのが一番なんですよ)
(さっすが部隊長様)

アレックスの話を聞き、
納得したのか、それともまだ気になる事があるのか、
ユベンはコソコソとロウマと話し合う。
いや、話し合うというよりはロウマに意見を述べている様子だ。
決断はすべてロウマが下すのだろう。
ロウマが少しだけ口を動かすと、
ユベンは会釈して下がっていった。

ロウマがこちらを睨み、
いや、睨んではいないのだが、
その力強き眼光はまるで猛獣が睨んでるように見えた。
とにかくロウマがこちらを見、
話し始めた。

「幾つか腑に落ちんがまぁそれはいいとしよう。だが・・・・」

"それはいい"
"だが"
ロウマが話を切り替えてきた。
次の話。
分かる。

とうとうきた。

アレックスは思った。
身構えた。
アレックスには分かる。
ロウマが次に言い出す事が。
そしてその予想通りの発言をロウマは始めた。

「お前らに手を貸してやる事にもう一つ条件がある。
 実際の所、このロウマとお前らの目的は一致しているように思える。
 いや、実際ほぼ一致している。が、協力する理由は圧倒的に違う」

「なにがだよ」

「お前らはこのロウマの部隊の力を欲しているが、このロウマはお前らの力を毛ほどに欲していない」

「なんじゃそりゃぁ!?」
「情報聞き逃げかよ!」

ドジャーとメッツは各々で野次る。

「違う。一つ条件を与えてやるという事だ」

ロウマの口が少しだけ歪んだように見えた。
それはほんのわずかに小さな笑みだったが、
アレックスにはそれがとてつもなく恐ろしいものに見えた。
何故ならその口から次に発せられる言葉は、
・・・・・あまり聞きたくない言葉だからだ。
だからアレックスは先に切り出した。

「強さ・・・・・・・・・を審査してやる・・・・・・・ですか?」

「そうだ」

余りに予想通りで、アレックスは落胆した。
これが・・・これがイヤだった。

「このロウマがお前らの強さを認めてやったら、協力してやらんこともない」

オレンジの、その仰々しい鬣が揺れる。
ナイフのような眉をピクりとも動かさず、
目は一点。
逸らすことも、揺れることもなくこちらを見つめている。

「ク・・・・てめ・・何様だよ・・・・」

「審査次第でお前らが頼んできた事を受けてやると言ってるんだ。何も理不尽ではない。
 自分達のメリットを求めているわけでも、お前らに何一つリスクを求めているわけでもない。
 ただ一つ。"強さ"を示せと言っている。それだけでこのロウマは納得し、引き受けてやる」

曲がらない意思。
変わらない意見。
ただ押し通す。
いつもそうだった。
ロウマという人間はあまりに強力な強さを持ってして、
いつまでもただ真っ直ぐ。
良い意味でも悪い意味でも、
かたくなな頑固さを持っていた。

「チッ・・・・」

ドジャーは歯を食いしばる。
会話ならそれなりに軽口を叩ける。
だが、さっきのエンツォの一戦を見ただけで強さは分かる。
ロウマの強さ。
戦えば負けるという事も。
だから戦うというならば話は別になってくる。

メイジプールのキューピーが言った言葉がよぎった。
才能で戦っているものはいつかより才能を持っているものに負ける。
才能。
強さ。
それらは全てにおいてロウマが上だ。

逆に、エンツォという、自分より才能を持った敵を相手にした時の事を思い出す。
あの時、その考えを否定する事ができた。
大事な事は才能ではなく、最後に立っているのが大事なのだと。
勝てばいい。
才能うんぬんより結果がすべてだという事。
それを再認識したことを。

だが、ロウマを相手にして自分が立っていられるか・・・

「ガハハ!そーいうの分かりやすくて好きだぜ?」

アレックスとドジャーが少し怖気づいていた時、
メッツはいつもどおりのしゃがれた笑い声を発して前に出た。
両肩には数十キロの両手斧。
44部隊を目前にし、少し緊迫していた中、
いつの間にか口にはタバコ。
一服していた。
この人の度胸には尊敬の念を覚える時がある。

「よーするにぶっ倒せばいいんだろ?頭使うより楽でいーぜ!それに・・・」

メッツは片方のグレートアックスをロウマの方へ突きつける。
数十キロの斧を片手で振るだけでなく、持ち上げて突きつけれる怪力。
いや、
それ以上にそれを最強に突きつけれる勇気。
いや怖いもの知らなさ。

この人になら任せれるという気持ちがアレックスに浮かぶ。
長年連れ添ったドジャーも同じ気持ちだろう。

だが・・・

「メッツさん・・・相手が相手です。ここは・・・」
「うっせ!やるったらやるぜコラァ!!!悪いけどよアレックス。
 俺も馬鹿のケンカ好きなんでよ。チェスターじゃねぇが、強ぇ奴と戦いてぇもんだ!」
「強いんじゃないです。"最強"ですよ」
「つまりもうすぐこの俺が最強になるってこった!」

メッツは斧を下ろし、
二つの両手斧を引きずるような構えをとる。
やる気マンマン。
引き下がらないといった態度。

「面白いなお前」

面白い。
そうロウマは言った。
が、その顔は笑っていない。
むしろ無表情の真顔。
動くのは爆発したかのようなオレンジの鬣(たてがみ)だけ。

「いいだろう。このロウマがお前を喰ってやる」

ロウマの言葉に、メッツはニヤっと笑い、
口からタバコをプッと吐き捨てた。
吐き捨てたタバコを足でぐりぐりと踏み消す。

「ガハハハ!喰ってやるだぁ?じゃぁ・・・・・・・・」

メッツは右手に大きな反動を与える。
砲丸投げのような構え。

「食いたきゃ食らいなぁぁああああああああああ!!!!!」

重く鈍い音。
ブゥンと一振りされる小麦色のメッツの腕。
グレートアックスを投げた。
メッツの得意技。
数十キロのトマホーク。
重さx速度が生み出すミサイル級の威力の斧投げ。
重すぎるフリスビーのように斧は飛び、
ロウマの方へ飛んでいく。

「いい威力の攻撃だ」

ロウマは言う。
だが微動だにしない。
メッツの投げ斧は、止められないのに。
遠心力とスピードを合わせればその威力は数百kgにも及ぶだろう。
鋼鉄でできた盾にさえ突き刺さるだろうその斧は、
回転しながら真っ直ぐロウマへと飛ぶ。

だからこそ、
ロウマが動かない事が不思議だった。
避けるしか方法はない。
だが避けない。
丸腰のロウマ。
避けなければならないのに避けない。

「だが遊戯だな」

そうロウマが一言言った後、
斧は飛ぶのを止めた。

あまりに突然に、
あまりに自然すぎて一瞬よく分からなかったが、
ただ・・・・・

斧はロウマの手に収まっていた。

「なんっ・・・」
「馬鹿な!」

メッツが驚くより先にドジャーが叫んで話し始めた。
メッツ自身より、メッツの強さはドジャーが一番していたからだ。

「飛んできた斧をキャッチしただと!ありえねぇ!斧はどんだけ回転してると思ってる!
 いや・・・それ以上にあの斧の威力だぞ!大木を切り飛ばしても止まらない勢いの投げ斧だ!
 それを片手で掴み止めるなんてできるわけが・・・・」

できるわけが・・・・
そこでドジャーは言葉を止めた。
できているのだ。
実際に、それを片手でやってのけた男が目の前にいるのだ。

「こんな遊びではなく、お前の強さを見たい」

そう言ってロウマは斧を・・・投げ返してきた。
同じように投げ返してきたと言いたかったが、
そうではない。
メッツと違い、ロウマは片手だけを振って投げ返してきたのだ。
腕だけの動き。
それでも・・・
体全体を使って投げ飛ばしたメッツと同等の勢いで斧は飛んでくる。
そして斧はメッツの目の前で、砂を爆発したように巻き上げて突き刺さった。

「マジかよ・・・・」

メッツは戻ってきた斧を、地面に突き刺さった斧を見つめ、
動揺していた。
そしてメッツは「チクショウ」と言い、
タバコを三本取り出した。
箱には"バーサーカー"の文字。
そう、
吸えば強制的なバーサーカーレイジ状態となり、
自我をもたない狂気中毒者となる。
メッツはその"鍵"を三本口にくわえ、
ライターで点火した。

「どうとでもなれだ・・・・・・・・」

それを最後の言葉に、
メッツの目の色は変わる。
口にしまりが無くなり、
体全体がダランと力が抜けたような上体となる。

「あへ・・・・ぶっ殺・・・・・画ガへ・・・・・ハは覇はハはハババはは!!!!」

狂気中毒者の完成だ。

イカれたメッツは嬉しそうな顔で「あは・・・あは・・・」と言いながら
キョロキョロと周りを見渡し、
最後にロウマを見つけてヨダレを垂らした。

「???薬の麻薬か。そういう強さを見たいわけではないのだがな」

ロウマの顔が少し歪んだ気がした。
そしてそれよりもドジャーが苦い顔をしていた。
ドジャーは普段からメッツがレイジ状態になるのに反対の意見を持っていた。
メッツへの体の負担に加え、危険性。
それ以上に今回はレイジ状態への移行が早すぎる。
相手がロウマという事でしょうがないとはいえ、
メッツは"戦いは楽しむもの"という考えを持っていた。
そのメッツが一度も直接手を交える前に、その楽しみを放棄した。
そんな事いままで無かったのだろう。
イレギュラーが生まれる事に、大抵よい事はない。

「まぁ相手をすると言ったのはこのロウマだ。それに答える事は礼儀か」

と言いつつ、
ロウマは背を向けた。
背中のマントがこちらを向く。
ロウマの巨体に見合う巨大なマント。
そして書かれた"矛盾"の二文字。

「渡せ」

ロウマは言った。
後ろに向かって言ったという事は、
44部隊の・・・・・・自分部隊の部下達に言ったのかと思ったが、
違った。
その言葉の先は自分の守護獣、ハイランダー。
言葉か、それとも他の何かか。
ハイランダーは何か意思を感じ取ったのだろう。

次の瞬間。
二つの何かが飛んできた。

二本。
その二本は宙をブンブンと回った。

そしてロウマの両サイド。
砂の地面に斜めに突き刺さって、大きな砂埃を巻き上げた。

「この言い方は相手に失礼だが、」

そう言いながら、ロウマはその二本を抜き、
こちらを振り向いた。

「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという」

ロウマの両手に、
赤と黒の槍が雄々しく展開された。

「な、なんじゃありゃ・・・・・」

ドジャー口をだらしなく開き、
また苦笑い交じりに言う。
それも無理はない。
あの二本を見たら。

「あんなでけぇドロイカンランス見た事ねぇっての・・・・」

ロウマの両手に握られた二本の槍。
それは巨大なドロイカンランスだった。
巨体のロウマが持っても、
まだ違和感しか残らないほどの長く、大きく、凶暴な槍。
赤と黒の二本槍は、
あまりこちらに嬉しい想像を与えてくれない。
その長さ・・・・

裕に4m。
まるで大木が二本。
長筒の大砲でも二つ装着されているかのよう。

ドジャーは唇を噛んだ。
アレックスはボソリとドジャーに説明した。

「あれはドロイカンランスじゃありません・・・・」
「はぁ?」
「いえ・・・・ドロイカンランスはドロイカンランスなんですけど・・・・・・・その・・・・・」
「規格外ってか?・・・・・見れば分かるってんだ。あんなでけぇの見たことねぇ・・・・」
「規格外?いえ、断然規格内です」
「・・・・・・?」
「あれはドロイカンランスといえばドロイカンランス。でも正式な言い方をするならば・・・・・」

アレックスは唾をゴクリと飲んでから言った。

「"ハイランダーランス"と"ドラゴンライダーランス"」
「・・・・・・・」
「普通のドロイカンランスはドロイカンの体長に見合ったサイズ
 大きくて2mを超えるぐらいでしょうね。
 ですがハイランダーやドラゴンライダーの全長は4・5m
 もちろんそれらのモンスターが持ってるドロイカンランスも・・・・・」
「なるほどな・・・・」
「ロウマさんは今まで多くのドロイカンを討伐してきました。
 だからこそ、44部隊が全員所持できるほどのドロイカンを配備しています。
 ドロイカンに乗っているから竜騎士部隊ではなく・・・」
「ドロイカンを倒し、従えるほど凌駕してきたから竜騎士部隊か・・・・」
「デスペラートワードやデスメッセンジャーはもちろん、ドラゴンライダーにハイランダー。
 黒色の亜種などを含め、倒してきたドロイカンの上位種は軽く20。
 そのうち一匹は従え・・・・いや、屈服させて自ら搭乗しているほど・・・・」
「もういいアレックス・・・・」

ドジャーはアレックスの話を無理矢理切りとめた。

「あんまり不安にさせる情報をくれんじゃねぇよ・・・・
 それにデスメッセンジャーくらいなら、一応みたいな形だがメッツだって倒してる。
 あいつは負けねぇ・・・・・負けるはずねぇんだ」

ドジャーはあまりに強大な雰囲気を漂わす強大な敵、ロウマよりも、
斧を引きずっているイカれたメッツを見つめる。
負けるはずが無い。
その言葉はある種自分に言い聞かすような言葉だが、
メッツを見ればそれも本音に変わる。
ドジャーのメッツへの信頼はそれほどまでに大きい。
もう一度思う。
負けるはずが無い。
何故なら・・・・

「だってよ・・・・・・・・・・あいつはメッツだぜ?」
















                 






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