「こっちやで!」

エンツォが高速で移動する。
突然木の上に。

「いやいやこっちやでぇ!」

さらに移動。
今度は海側の砂の上に。

「目ぇ追いつくかいな?」

移動。また移動。
シュンシュンと高速で移動を続ける。
攻めてくる気配はない。
まるでおちょくっているかのよう。
いや、見せ付けている。
力の差を。

「どやどや?わいの動き見えへんやろ?怖いと思いまへんか?
 人間っちゅーのは見えないもんに恐怖を覚えるもんや。
 呪いや幽霊しかり、最速のわい自身も恐怖やろ?さぁ・・・・どないでっか?」

移動しまくるエンツォ。
圧倒的な速さ。
圧倒的なスピード。
これが六銃士の力といわんばかり、
いや、本人の言うとおり六銃士で一番やっかいかもしれない。
ヴァレンタインのような高性能なプレイアも、
ルカの特大規模のモノボルトも危険だったが、
捕らえようのないものほどやっかいなものはない。

「カッ!なめやがって・・・・・・」

ドジャーはどこから攻めてくるか分からないエンツォに対し身構える。
ダガーを両手に構え、
目を凝らす。
ルケシオンの暑い太陽の日差し。
緊張すると、
集中すると汗が垂れる。

「そこかっ!」

投げられるダガー。
しかしダガーは虚しく木に当たっただけだった。

「おしいおしい!目があと6個あったら狙えたかもしれへんな!」

ドジャーは少しはエンツォを目で追えているようだった。
ドジャー自身もスピードは売り。
エンツォの言う"瞬き"自体も気をつければなんとでもなる。
といっても目で残像を追う程度が限界だ。

「クソぉ・・・・・・」

ドジャーは《メイジプール》のキューピーが言っていた事が頭によぎる。
才能の話。
才能だけで戦っているものは、いつか自分より才能あるものに倒される。

「俺がこいつに倒されるってのか・・・・・ふざけんなよ!!!」

ドジャーは感情に任せてまたダガーを投げた。
だがまた哀しくダガーは外れた。
今、ドジャーが言った言葉。
"倒される"
それはドジャー自身がエンツォの方が上だと認めてしまっているからこそ出た言葉。
才能面での敗北の証。
本人は気付いていないようだが・・・・。

「どないでっかー?降参するなら今のうちでっせー?
 音が手で掴めへんように、光を手で掴めへんように、
 あんさんらが決してわいを捕らえられへん。
 わいは音をも置いてけぼりにする男。エンツォ=バレットやで!!!!」

エンツォの安い挑発にドジャーは熱くなる。
が、逆に、
アレックスは何一つ身構えていなかった。
むしろ槍を地面に突き刺し、
海を楽しむかのようなリラックスムード。

「騎士はん降参でっか?素直でよろしぃでんな〜」

「いえ、違いますね」

「・・・・・・・・つまりなめてはんのか?」

そう。
ナメているいう態度だった。

「だって飽きたんですもん。見えないもの追いかけるなんてね。
 蝶々だって見えるからみんな追いかけるんです。飛んでる鷹を追いかける人いますか?
 だからエンツォさん。スピードなんてもう見せつけてくれなくたっていいですよ。
 飽きるほど見せ付けられましたから。無意味に飛び回ってるのも疲れるでしょう?」

「あぁん?!なんやて!?」

突然エンツォの動きが止まる。
どこで。
それはアレックスの背後で。
アレックスにとっても二度目の経験。
ライフルが後頭部に向けられている。

「あんさんよほど死にたいみたいやんな。殺してやろか?」

「殺せるもんでしたらね」

「何ゆーとんねん」

アレックスはエンツォに対し、挑発的な態度をとる。
後頭部にライフルを突きつけられているというのに、
余裕の態度で両手を広げ、顔は笑顔。

「お、おぃアレックス!」
「ドジャーさん。いいから」

アレックスはドジャーに笑顔を送ったあと、
腕を組んで話し始めた。

「エンツォさん。あなた殺す気ないでしょ?」

「だから何いうとんねんて。そないなわけないやろが」

「だってあなたはさっきまでで十分殺す機会は何度もあった。
 けどそのライフルを僕達の後頭部に打ち込む事はなかった
 それをまるで"余裕だから"みたいに見せてますが、・・・・・違いますね?
 オブジェの行方を聞き出したいんでしょう?僕達を殺したらそれが叶わないかもしれない
 だから殺すわけにはいかない。・・・・・・大ギルドのお偉いさんってのも大変ですね」

「じゃかしぃわ!!!」

エンツォはライフルをゴツンと頭にぶつける。
その冷たい感触。
冷たい銃口から出てくる鉛弾は、
エンツォの指先一つでアレックスの頭を吹き飛ばすだろう。

だがアレックスは逆に安心した。
この反応・・・・このエンツォという男。
オブジェの所在地について知らないのだ。
ジャスティンがミダンダスの場所に目星をつけているだろう事を。
半ば確信した。
つまりアレックス達は大事なオブジェの取引相手。
偶然こんな所で会ったかといって殺すわけにはいかない。
それともGMドラグノフの予定を狂わすわけにはいかないのかもしれない。
まぁなんにしても・・・・・。

「どれだけスゴんで見せても無駄ですよエンツォさん。あなたに僕達は殺せない。
 僕達の命なんかよりシンボルオブジェクトの方が価値が重いから。
 それだけの理由であなたは僕達に勝てない。あなたの方が強いのに僕達に勝てない」

「わいが勝てへんやて?」

「ってかもうあなた負けてます」

「はん!わいより数段遅いやつが何いうてんねん!
 速い言う事は孤高の強さや!なのに負けてるいうんか?!
 速いもんが遅いもんに勝てるはずがないやろ?
 いつ!どこで!わいがこの状況でどう負けてるいうねんや!!!言うてみぃや!!!!」

「そうですね・・・たとえば・・・・・エンツォさん。あなたはライフルを武器にしてるのに、
 何故遠くから撃ち込まないんですか?ライフルってのは遠距離武器ですよ?」

「んなもん簡単や。わいは飛び道具が欲しかったんやない。
 手軽に攻撃力の得られるもんが欲しかっただけや。
 指先一つの動作。ライフルが一番最小の動きで相手に攻撃できる。
 わいのスピードでかく乱、接近した後の攻撃も最速でできるからや!」

「あくまでスピードを生かして接近する戦い。それが命とりでしたね。アーメン」

「あん?」

「言ったでしょ?もう勝負はついてるって事ですよ。足下を見てみてください」

エンツォはアレックスの頭にライフルを突きつけたまま。
チラリと下を見た。
そこには・・・・

光り輝く魔方陣があった。

「なんやこれ!?」

「ホーリーディメンジョンですよ。あんまり得意でもないんですけどうまくいきました
 動けないでしょ?自慢のお足が地面にひっついちゃって大変ですね」

エンツォは足を引き剥がそうとする。
が、光り輝くホーリーディメンジョンの魔方陣にピッタリくっついていた。
アレックスはコッソリ十字を切ってディメンジョンを放っていたのだ。
背後を取られているからこそバレずに唱える事ができた。
バレにくいように腕を組みながらコッソリ十字を切っていた。

「カカカッ!ホイホイに捕まったゴキブリみてぇだな!」
「本当はスタート地点でやれれば楽だったんですけどね。
 やっぱり人のいる所では公沙汰になってしまうので避けました」

「く・・・」

ホーリーディメンジョンの効果で足が縛り付けられるエンツォ。
自慢の足は・・・・・もう使い物にならない。
それが悔しくて悔しくてたまらないといった表情。
狐目が釣りあがる。

「こざかしいわ!!!」

エンツォはライフルの銃口を押し付ける。

「足が動かんくたってなぁ!手は動くんやで!?
 わいの指先を数センチ動かしたらあんさんの命吹っ飛ぶって忘れたんか!」

「一時の感情で殺しちゃっていいんですか?オブジェの行方が闇の中かもしれませんよ?
 さぁ!撃ちたいなら撃ってください!今ならお得!
 数センチの指の動きでこれから先のあなたの幸せがパァーになるかもしれません!」

「じゃかしぃ!二人おるんやから一人殺してもえぇって事や!!」

その時。
スパァン!と音が鳴り響く。
それはダガーの刺さる音だった。
ドジャーが投げたのだ。
ダガーがエンツォのライフルに刺さっている。
まるで大根に包丁をぶっさしたかのように。

「カカッ!これでライフルもオジャンだな!残念無念エンツォ君
 ライフルと自慢の足。二つの武器を両方失った気分はどうだ?」

「この・・・・」

「だからスゴんでももう無意味ですって。ライフルもないんですし足も封じられてます」
「カカカッ!そう言ってやんなやアレックス!俺はこのエンツォ君を信じてるぜ!
 さぁ!諦めずに頑張ってみろエンツォ!お前には走るための足があるじゃないかぁ!!
 勇気を出して一歩踏み出してみろ!きっと歩けるよクララ!!!カーッカッカ!」

馬鹿にされまくった分ドジャーさんの皮肉がイヤらしいな・・・・
悪党みたいだ・・・
いや、どっちかっていうと悪党だろうけど・・・・

「クソッタレ・・・・この騎士さえいなければわいに勝てる奴なんておらへんかったのに・・・・
 そこの盗賊に対しては才能面でなんもかんも勝ってたんに・・・・・・・・」

「あぁん?才能?その状態でまだケンカ売る気かエンツォ。
 俺ぁちょっとあってな。俺とお前の才能の差って奴に少し興味あるんだ
 なんなら今からサシってもんやってやったっていいんだぜ?」
「ドジャーさん!」
「あぁ?」
「熱くなりすぎです。考え方が悪い方に行ってますよ。
 いいじゃないですか。いい状況です。相手は六銃士の一人。
 いろんな偶然やら相性、状況なんかが重なって今こうなってますけど、
 本気でやったらどうなってたか・・・・・・・・それにドジャーさんよく言ってるじゃないですか」
「なんて?」
「大事なのは最後に立ってるかどうかだって」
「ん・・・・・・・・・・」

ドジャーは少し考え込んだ。

「ま、そうだな。お前の言うとおりだ。キューピーの言った事に感化されすぎてたぜ
 俺ぁ人より強くなりてぇんじゃねぇ。人に勝てりゃぁそれでいいんだ
 最強じゃなくても誰にも負けなければそれでいい。そう言いたいんだろ?」

ドジャーは落ち着きを取り戻したようだ。
少し考えた後、ニヤっとアレックスに笑いかけた。
アレックスも笑顔で返す。

「で、どうするよこいつ」
「そうですねぇ。できれば生け捕りにしたい所ですけど・・・・・」

二人してエンツォを見る。

「な、なんや・・・・」

「べぇーっつにー?」
「ま、僕としては気絶させとくのがいいと思うんですが・・・・」
「そうだな。でもできればキッツゥ〜い一発で気絶させてやりたいもんだな」
「そうですね。できればメッツさんの岩をも砕くパンチを腹にってくらいがいいですね」

岩をも砕くパンチが腹に入ったらキツイどころか突き抜ける気もする。

「カッ!だがあのノロマはここまで来るのにあと十数分はかかんじゃねぇか?」

そう、メッツはこのレースに徒歩で挑んだ。
守護動物もなにもない戦士が徒歩でレースに参加。
ビリを予想できるなら一番人気馬だ。
ここまで来るのにまだまだ時間がかかるだろう。
・・・・・・と思ってたが。

「ガハハハ!心配ご無用だコラァ!!!!」

低く豪快なガナり声。
アレックスとドジャーは振り向く。
するとそこにはドレッドヘアーの斧戦士がいた。
それも・・・・
股の下にはエルモア。
どうやらあのエルモアに乗ってきたらしい。
どこで手に入れたのやら・・・・・・・・

「なっ!あんさん!それわいのエルモアやないか!」

「ガハハハ!!そうだぜ!道端に落ちてた!ラッキー!」

「ラッキーやないわ!財布みたいに言うなや!勝手にパクりおって!」

「ガハハ!盗んだエルモアで走り出す!」

「"走り出す"やないわーー!!!」

ガハハと笑うメッツ。
アレックスとドジャーがエンツォと一戦あったともさも知らず。
お気楽に大声を張り上げていた。

「で、なんだなんだ?俺のパンチが必要ってか!?」

メッツがエルモアから飛び降りる。
そしてニヤニヤと笑いながらコキコキと腕を鳴らす。
もう殴りたくってしょうがないぜといった様子だ。

「ご要望を聞くぜオラァ!80%コースか100%コースどっちがいい?
 ついでに言っとくと常人は50%コースで気持ちよくなれるぜ?」

「や、やめぃ・・・・」

「どっちがいい♪」

笑顔で近寄ってくるメッツ。
コキコキと鳴る拳が恐怖を引き立てる。
エンツォは観念したようだ。

「は・・・・80%コースや・・・・」

「100%」
「100%コースだな」

「多数決で決定だな!」

あぁ無情。
エンツォ君はこれから数日、飯も食べられない状況になるだろう。
それどころか今日の分の昼食を逆流して吐き出すかもしれない。
自分が希望しといてなんだが、
アレックスはエンツォに同情し、
十字を切って「アーメン」と唱えた。

「じゃぁいくぜぇ!」

メッツは笑顔で拳を引く。
岩をも砕くパンチが今・・・・

と、その瞬間だった。
横の草むらがガサガサと音を立てた。

「なんだ?!」

エンツォを含めた4人は咄嗟にそっちを見た。

そこには・・・・

「な、ドロイカンナイト?」
「なんでこんなとこに・・・・」

赤く大きなドロイカンナイトがそこにいた。
赤い鎧のような鱗を帯びたその3mはあるだろう大きな体。
ドロイカンナイト自体は珍しいものではない。
だが・・・・マニアックコースには存在しないモンスター。

「違うコースからはぐれてきたのか?」
「いや、違います・・・・・・・・」

アレックスの目はドロイカンの少し上を見ていた。

「あの鞍(くら)は・・・・・・・・」

アレックスの言葉と同時に、
ドロイカンナイトの上から何かが飛び降りてきた。
一つの影。
槍を背負った一人の男。
マントを揺らしながら、
その男がアレックス達の前に下りてきた。
そして言う。

「ひさしぶりだなアレックス部隊長。ご健在なによりだ」

「んな!?」

その茶髪の男は言った。
アレックスという名を。
そして部隊長という言葉を。

アレックスは当然だが見覚えがある。
堂々とした態度。
生まれたままの茶髪。
装備は槍と鎧。
その何も装飾しない身なり。
間違いなかった。

「まさかこいつがロウマか?!」

「違う」

その男は背中の槍を、
ドロイカンランスを地面に突き刺し、
腕を組んで言い始めた。

「俺は王国騎士団の44番隊が竜騎士部隊。副部隊長のユベン=グローヴァーだ」

「久しぶりですねユベンさん」

「あぁ、あんたは変わらないな。なによりだ。
 アレックス部隊長。質問よろしいか?そいつは誰だ?」

「GUN'Sの六銃士の一人です」

「ほぉ」

ユベンはゆっくり歩き、
エンツォの目の前にたった。
そして突然エンツォの頭を掴む。

「な、なんや・・・・」

「イケすかないツラだ」

と言い、
ユベン=グローヴァーはエンツォから手を乱暴に離した。
そしてアレックスの方を向く。

「まぁお待たせしたアレックス部隊長。この奥でロウマ隊長がお待ちだ。
 レースを中止し、即刻に足を運んでいただければなによりだ」

















                 






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