「イスカ、お前はホロパ焼酎だっけか?」
「あぁ」

ドジャーは勝手に店の棚から酒を持ってきた。
朝から酒とは何様だ。
そしてテーブルの上に置く。

開店前も甚だしい午前の酒場。
店員もいなけりゃ客もいるはずがない。
そんな明朝から
ドジャーとアレックスとイスカがテーブルを囲んだ。
テーブルの上には酒やパンやフルーツが並んだ。

「噂は聞いたぞドジャー。お主オブジェを所持しておるらしいではないか」

イスカは着物の内側から手を出し、焼酎の瓶に手をかけた。
もう背景に桜吹雪でもあれば完璧ではないかという和風女性。
しかし顔は美しいのにも関わらず仏頂面といってもいい表情。
そして男のような喋り方。
そういった所はハッキリ言ってあまり女らしさを感じさせない。
・・・・といっても、雰囲気がそうなだけであり、
外見は見れば見るほど女性らしい女性でもある。
いや、一般女性よりずっと色っぽい。

「おいおい、世間じゃもう俺らがオブジェを持ってるってバレバレなのか?」
「いや、現段階ではそうでもないであろう。
 だが少し《MD》を知っておる者ならすぐ気付く・・・そういう段階でもある。
 故に気になって拙者は戻ってきた・・・・・っと・・・・お主がアレックスか?」

イスカが片目でアレックスを見た。
アレックスは口に持っていっていたパンをほおばった後、返事をした。

「あ、はい。僕がアレックスです。始めましてイスカさん。
 え・・と僕は一応《MD》の新入り・・・という形です」
「ん?ギルメンだったのか。そうか、これからよろしく頼む。アレックス」

イスカは着物の内側から出した手を伸ばしてきた。
アレックスはよろしくお願いしますと言いながらその手を握る。
イスカのその手。
それは握手しただけで剣を本気で握っている者の手だと分かった。
綺麗な外見と裏腹に傷やまめで女性の手とは思えなかった。

「お主の噂はよく聞く。一度おかしな言葉使いの青い男が尋ねてきた事もあってな」
「あぁ、《ハンドレッズ》の・・・・」
「イスカ、その話はもう解決したんだ・・・・っとそうだそうだ」

ドジャーは突然椅子から立ち上がり、
思い出したように店の奥へ入っていった。

「どうしたんだあやつは?」
「さぁ?いつも何考えてるかわかんないですしね」
「フっ、そういうアレックス。お主もあまり何を考えてるのかわからんぞ」
「そ、そうですか?」
「あぁ、拙者は目でなく心で物を見る。
 お主、とぼけた面の下にいろいろ秘めておるようだな」

外見の割にって事かな・・・・
それを言うならイスカさんも普通にしてれば綺麗な女性なのに・・・・
アレックスはフルーツを手にとる。
そしてフルーツも外見に反比例しておいしい事が多いなぁとか考えながらかぶりついた。

「あぁ、故にひとつ聞く。お主、マリナ殿の事をどう思う」

アレックスはかぶりついた手を止めた。
イスカの目はすわっていたのだ。
いや、睨んでるようにも見えた。
なんか怖い・・・・

「マ、マリナさんですか?綺麗で強い方だと・・・・」
「ふむ・・・それは・・・・」

そう言ってるとドジャーが店の奥から戻ってきた。

「おーぅ。あったあった!」

ドジャーの手にはひとつの長剣があった。
アレックスはそれを見て「あぁ」と思い出した。
それはカージナルのスワードロングソードだった。
前回の《ハンドレッズ》との戦いで剣聖カージナルから譲り受けたものだった。
たしか《MD》のギルドメンバーに使ってもらいたいという話。

「じゃぁイスカさんがカージナルさんが言ってた剣士なんですか?」
「あぁ、イスカが通称『人斬りオロチ』だ」

人斬り・・・・。
それまた物騒な・・・
だがまぁ《MD》のメンバーなら大なり小なり人を殺めて生きてきた人に違いない。
今更それいった事で偏見を持つ事もなかった。

「イスカ。カージナルがこれをお前にだとよ」

ドジャーがスワロンを放り投げる。
イスカはそれをキャッチし、
返事をするより先に鞘から刀身を抜いた。
そしてまるで職人が眺めるかのように剣の上から下まで目を這わせる。

「これは・・・・・・・・・拙者に名刀セイキマツを・・・・・」
「セイキマツ?」
「このスワードロングソードの通称だ。
 カージナル殿はこの刀に名をつけておらんかったから勝手に周りではそう呼んでいた
 ふむ、カージナル殿は何故拙者にこの刀を?」
「あぁ、俺らとゴチャゴチャあってよ。ま、結果だけ言うと死んだんだよ」
「それでもその剣を誰かに使ってもらいたかったそうです。それでイスカさんにと」
「さようか・・・・」

イスカはそう言って立ち上がり。
剣を二度、三度振って見せた。
突然の事だったのでアレックスは驚いたが
その剣舞は素人目ではカージナルにも負けてないと思える腕だった。
まぁ剣の事はよく分からないけど、
っていうか興味ないけど。
そしてイスカは剣をゆっくり鞘に這わせ
カチリと剣を鞘に納めた

「ふむ、やはり至極素晴らしい刀だ。
 まるで振ると空気にまで線を入れているような・・・・・いい仕事だ。アッパレ也。
 カージナル殿。拙者はこの刀を受け継ぎ、より剣の道を精進いたしますぞ」

剣に思い入れがある事は十分空気で感じ取れた。
しかしだからこそ
当たり前のような疑問をアレックスはチラリとこぼした。
握手をした時から聞きたかった事だ。

「イスカさんは何故女性なのに剣を?」

イスカはそのままドスンと椅子の上であぐらをかいた。
そして鞘を右手に持ち、それを突き出して言った。

「拙者は剣に生きる者也。故に女など当に捨てた」

か、かっこぃい〜〜!!
ドジャーさんのようにひねくれて生きてる人にはないカッコよさだなぁ
僕も言ってみたい・・・
拙者は食に生きる者也。故に職など当に捨てた!
アレックスは心の中でそう叫びながらスプーンを突き出していた。
ドジャーはそれを見るなり両手を広げてため息をついた。

「イスカさん格好いいですね!僕もそんな風に生きてみたいです!」
「やめた方がいい、苦しい道だぞ・・・
 ひとつを追い求めるが故に他を犠牲にしてしまう事もよぉある」

そして剣の鞘を椅子の横に置いた後、
イスカは少し微笑んで言った。

「拙者は不器用でな」

いい!
格好いい!
ドジャーさんみたいに無意味に他人を迷惑をかける人とは大違いだ!
何かを極めるっていいなぁ
剣の極道って感じだなぁ。

「あぁ・・・・まぁそれはいいんだけどよイスカ」
「ん?」
「おめぇ連絡したら返せよ!メモ箱に連絡入れたんだぜ?いっつもリスト灰色だしよぉ。
 ちゃんとログインしろよ。そんなじゃぁWISオーブ携帯する意味あんのか?」
「あぁこれか・・・・」

イスカは懐からWISオーブを取り出した。
かなりの旧型の上、素っ気無い。
あまり使われていないのが分かる。

「ったく。お前に連絡つきゃぁハンドレッズ戦ももっと楽だったのによぉ」
「す、すまぬ・・・・・拙者不器用でな・・・・・・・・こういった物の使い方はよぉわからん・・・・」

・・・・・
不器用・・・・
さっきと同じセリフなのになんかカッコよくないぞ・・・・

「ほれ、貸してみろ。ってうぉぁ!使い方もクソも電池切れてんじゃねぇか!
 定期的に充電器で魔力充電しろっつっただろが・・・・」
「いや・・・ふむ・・・・・・・・・・・・不覚・・・・」

・・・・・
ま、まぁなんかローテクな人なのは納得する。
剣に生きる人なのだからしょうがないだろう・・・・

「そ、それよりもドジャー」
「あん?」
「そ、その・・・・拙者。マリナ殿にお会いしたいのだが・・・・今どこにおられるのか・・・」

イスカは着物の懐から一つの花を取り出した。
巨石の花という花だ。
何かに使うのだろうか。

「あぁ、マリナは今疲れて奥で寝てるぜ」
「そうか・・・・起こすのは悪いな・・・・」
「マリナさんに用があったんですか?」
「い、いや・・・・プ、プレゼントをしたくて・・・・」
「その巨石の花をですか?」
「そんな味気ねぇ花もらっても喜ばねぇぞ?」
「いえいえきっと喜んでくれますよ。で、なんのプレゼントなんですか?」
「お、想いの・・・・」
「は?」

イスカは少し顔を染めた。
アレックスはよく分からず頭に「?」を浮かべた。
そんなアレックスを見てドジャーが用意していたように言う。

「まぁ聞けアレックス。簡単に説明しよう。」

ドジャーがアレックスの肩に手を置き、
そしてアレックスに真剣な眼差しを送って言った。

「一番簡単に説明するとだな。イスカは、マリナが、好きなわけだ」
「あぁなるほど・・・・・・・・・・・・・・え?・・・・は?」

混乱するアレックス。
たしかに完璧無駄をはぶいたとても分かりやすい説明だった。
だからこそ意味が分からなかった。
・・・・よし、整理しよう・・・。

「えっと・・・・マリナさんは女性ですよね?」
「おぅ」
「で・・・・イスカさんも女性ですよね?」
「あぁ」
「いや・・・・・・」

イスカは鞘を片手に持ち、それを突き出して言った。

「拙者は剣に生きる者。女などとうに捨てた」

「「・・・・・・」」

いや、それとこれとは話が別だろう・・・
何を言ってるんだこの人は・・・
頭がどうかしてるのか?

「誤解するなよアレックス。拙者はやましい気持ちなのではない。
 その、こう・・・マリナ殿を・・・な・・・なんというか・・・・」
「好きなんでしょ?」
「ち、違う!いや、違わないが誤解しておるだろう!
 こう・・・・な!拙者は体は女だが心は・・・・」
「・・・・とにかく好きなんでしょ?」
「・・・・・・・・」
「ドジャーさん・・・・」
「んだよ・・・」
「もうちょっとましなギルメンを募ってください・・・
 《MD》は変人の集まりかと思ったら変態までいるんですか?」
「カカカッ!こういう奴が面白ぇんだよ!」
「へへへ変態だとアレックス!愚弄するかお主!我が剣でお主の腹をかっさばいて
 お主が今食った朝食をぶちまけてやってもいいんだぞ!!」
「ちょ、イスカさん待っ・・・・」
「落ち着けイスカ!」
「黙れ!御覚悟!!!」


朝の酒場の中。
顔を真っ赤にした人斬り女侍が剣を振り回して走り回る。
新人ギルメンの聖騎士は本気で酒場内を逃げ回る。
そしてその鬼ごっこをため息をつきながら眺める盗賊。

うるさくて起きたマリナはその光景を眺めると、
今日もいつも通り平和で忙しい朝が始まったなぁとアクビをたてた。










                 






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