「ぎゃああああああああああ!!!」

目の前の一人の男の体が血を噴出しながら叫んだ
そしてそのまま死体となった。
この場所で3人目の死体だった。

「き、貴様和平を申し込みに来たんじゃなかったのか!」

男の一人が目の前の黒尽くめの男に言った。
その黒尽くめにハットをかぶった男は手から妖刀ホンアモリを消し
ヒゲを整えながら答えた。

「いえいえ、たしかにそうでございますが
 まとまる筈の無い和平を話し合ってもどうしようもないでしょう
 騎士団長がいない状態でこの規模の攻城戦勝てるはずございませんからね」

「クッ、ならば逃げようとか思わなかったのか!
 なぜこの状況下でまだ戦おうとする!?」

「逃げますよ。それはもちろんでございます
 しかしせっかくなので少し血で遊んでもいいかなと思いまして・・・・・
 何せ私はナイトといっても"knight(騎士)"ではなく"night(夜)"に近い者でしてね
 『ブラック・ナイト(漆黒紳士)』と裏で呼ばれるのはそのためでございます
 いけない遊びはいつも夜遊びでございますからね」

ピルゲンの手にもう一度妖刀ホンアモリが音を立てて現れる。

「さぁて、もう一遊びしましょうじゃないですか。"人遊び"でね」

ピルゲンが目の前の男を切り捨てた。

数分後
和平場は血の海と化した

















S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<攻城と騎士と王座と誇り>>














-王座の間-



「ディエゴ部隊長!遊撃部隊も壊滅とのことです!」
「左2番階段陥落!敵ギルドが内門に集中するのも時間の問題です!」

「ピルゲン部隊長から連絡はないのか?」

「和平に行ったきりだそうです」
「元から無理な交渉です・・・・・・・・・ピルゲン隊長も恐らくもう・・・・・」

「そうか。まぁ落ち着け野郎共」

ディエゴはマントを翻し、王座を見た。
誰もがもう時間の問題かと腹をくくってもいたが
彼は諦めてもいなかった。
状況を飲み込めていない熱血馬鹿なのではない。
騎士の誇り。
彼が"騎志"と呼ぶそれは
彼の信念であり、
皆が彼を『プラウド・ナイト』と呼ぶ理由であった。

ディエゴ=パドレスは王国騎士団の第1番隊部隊長であった。
第1番隊の役割は"最終守備部隊"
今回の攻城戦でも最後の砦である王座の守備をまかされていた。
"騎志"にかけ、ここの守備を貫きとおす。
それだけが彼の心内だった。

「おぃ野郎共!様子を見に行ったパッカー副部隊長はどうした!」

「それはまだ・・・・」
「もしや・・・・・副部隊長ももう・・・・」

「いや、パッカー副部隊長が任務をこなさなかった日があったか?」

その時。
王座の扉が思い切り開いた。
そこには血だらけで満身創痍の騎士が立っていた。
この血の戦場下で負った傷だろう。
はっきり言って致命傷だった。
それが第一番副部隊長パッカーだった。
こぼれ出す血と共に彼は口を開いた。

「ほ・・・報告します・・・・・城内および内門配備の部隊以外は・・・・・・
 たった今44番隊を除き全滅しました・・・・・・・」

「そうか・・・・・」

赤い絨毯に血反吐を吐くパッカー副部隊長
ディエゴはコツコツと王座を歩き、
そしてパッカー副隊長の前で止まる。
そして右手を頭に当てる、敬礼の形をとった。
同時にパッカーも最後の力で敬礼をした。

「ご苦労だったパッカー副部隊長。休んでいいぞ・・・・」

「ありがとうございますディエゴ部隊長・・・・・・・・王国騎士団に栄光あれ・・・・」

そう言ってパッカーはその場に崩れ去った。
そして最後に一度血を大きく吐いた後、
最後の任務をやり遂げた勇敢なる騎士は息をするのをやめた。

「パ、パッカー副部隊長!」
「ディエゴ部隊長!パッカー副部隊長が!」

「うろたえるな野郎共!騎士団長がいない今!俺らが最後の砦だ!
 俺達がこんな事で死んだパッカー副隊長の仕事はどうなる!」

ディエゴは王座の入り口で屍となったパッカーを肩で持ち上げ、
そしてひとつの柱にもたれ掛けさせた。

「パッカー副部隊長・・・」
「クッ、自分も!自分もパッカーさんのように命をかけます!」
「ディエゴ部隊長!自分も1番隊として・・・・・・」

大きな音がもう一度王座に響いた。
王座の扉が開く音である。
1番隊の兵士達は一斉に身構えた。
ディエゴはもちろん
全員が槍を強く握りしめて。


「・・・・・・こんにちはディエゴさん」

そこに立っていた敵ではなく騎士だった。
それは第16番医療部隊隊長。
アレックス=オーランドだった。
彼もまた無数の怪我を負っていた。

「アレックス!なぜここに!?」

「・・・・ここは関係者以外立ち入り禁止でしたか?」

「そうですかじゃないアレックス!お前の持ち場はどうした!」

「持ち場・・・・ですか。僕の持ち場は"怪我人のもと"です・・・・
 ですがもう怪我人なんていません・・・・死体ばかりです」

言ったきりアレックスは黙って歩く。
そしてディエゴの横を通り抜け、王座を守備している兵に聞いた。

「・・・状況は?」

「はっ!アレックス部隊長!」
「外門 及び城壁と全階段はすでに陥落 復旧は不可能です!」
「内門ももう長くは耐えられません」
「敵が城内に侵入するのも時間の問題です!」

「そうですか・・・・予想以上に芳しくないですね
 王国騎士団の状況はどうなっていますか?」
     
「分かっているだけでも・・・・45部隊が壊滅です」
「ひきかえ敵のギルド連合はほぼ健在」
「最強ギルド《GUN’S Revolver》を中心に
 確認できるのは魔道ギルド《メイジプール》や
 百鬼夜行で有名な少数精鋭の《ハンドレッズ》など強豪ばかり!」
「ギルド数は15 人数の総計は・・・1000を超えます」

「不意打ちだったとはいえ、こちらはその数倍の数がいたんですよ?」

「で、ですが戦力の差がありすぎます!」
「奴ら15個のギルドはこの攻城戦のために選抜された最強の15ギルドです!」
「くそぉ!騎士団長がいない時を狙ってくるなんて!」
「所詮は民の集まりのくせに!」
「騎士団長さえいれば・・・」

「いない人を求めても無駄です・・・・・」

「そうだ」

片手でマントを開きながらディエゴは言った。

「アレックスの言うとおりだ。今はできない事よりできる事を考えろ
 野郎共、お前らは"モノ無し"か?違うだろ。
 お前らは誇り高き我が1番隊の兵士だ!
 そしてお前らは騎士だ!覚悟と誇りを持て!・・・・・・それが騎士だ」

「できる事・・・・・か」

アレックスがボソリと呟いた。
その時はただの何気ない一言だと思った。

大きな爆音と振動が響いた。

TRRRRRRRRRR
それと共に兵の無線用WISオーブに連絡が入る。
グループ連絡だ。
そして兵達は言った。

「内門前全域に広範囲メテオが被弾!」
「今の攻撃で内門守備隊ほぼ全滅!」
「さらに内門自体にも損傷が!」
「駄目です!内門耐えられません!」

「・・・」

状況に反して二人の部隊長、アレックスとディエゴは落ち着いていた。

「ディエゴさん。どう思いますこの状況。ハッピーエンドは望めますか?」

「どうだかな、悪い風に捕らえるのも騎士らしくないが
 この状況下で良い風に捕らえるほど愚かでもない
 正直な話、ロウマの44(ヨンヨン)部隊以外はもう駄目だろうな」

「そうか!まだ44(ヨンヨン)部隊が!」
「ロウマ=ハート部隊長の竜騎士部隊がいましたね!」
「あの無敗、無敵、無双の竜騎士部隊さえいれば!」

兵士達が期待の空気をかもし出した。
兵士達から愚かな期待の笑みがこぼれる。
しかしアレックスの一言が簡単にその空気をかき消した。

「そのロウマさんの部隊も先程城内に退きました
 城外の状況を飲み込んでの事でしょう」

「そ、そんな!」

ざわざわとざわめく王座。
当然だ。
いい報告などひとつもない。
不安になるのはしょうがない事だった。
そこでアレックスとは逆に
不安を吹き飛ばす言葉を発したのはディエゴだった。

「野郎共!他人の状況ばかり気にするんじゃない!
 仲間を信じるのは大事だが、それと仲間任せでは話が違う!
 どんな状況下においても俺達がここで食い止めれば済むことだ!」

ディエゴが言い終わるのと同時に大きな轟音
そして敵方のと思われる歓声が沸きあがった。

「内門!破られました!」
「何てことだ!鉄壁のミラ隊長の強壁部隊が落ちるなんて!」
「敵が城内に侵入!」
「王座に敵が来るのも時間の問題です!」
「ど、どうしましょうディエゴ部隊長!」

「うろたえるな!騎士はうろたえるんじゃない!
 言っているだろう!迎え撃つだけだ!俺達が最後の砦なんだぞ!
 それに城内にも部隊はいる!その部隊を信じつつ気を引き締めろ!」

そんなあわただしい空気の中
ひとりの騎士がポツリと言った。

「これも・・・我々が民を苦しめてきたしっぺ返しなんでしょう」

アレックスがだった。
大きな声ではなかったが誰の耳にも聞こえたようだった

「部隊長・・・・何を言い出すのですか」

「そうだアレックス。俺達は騎士だ。騎志を・・・・騎士の誇りを忘れたのか。
 なのにお前は諦めるというのか?このままやられてもいいというのか?」

「諦めるとかそういう事じゃありません・・・・
 ただこのまま城が滅びるのは運命・・・
 いや、そんな大袈裟なものじゃなくとも
 とにかく世界のためにはこの方がいいのかもしれません」

「何言ってるんですか部隊長!我々王国騎士団は最後まで諦めたりはしない!」
「そうです!それこそが騎士の誇りです!」
「そうですよねディエゴ部隊長!?」

「そうだ!誇りだ!"騎志"だ!それだけを胸に抱きそれを信念に。
 それがわれ等だ!騎士とはな、槍を持つ者だアレックス
 つまり騎士とはな・・・・・最後まで誇りを貫く者の事を言うんだよアレックス!」

「その誇りがどれだけ民を傷つけてきたのか・・・
 その結果がこの攻城戦でしょう・・・・
 王国騎士団は今日で終わりです
 ですがこの過ちを繰り返す訳にはいきません」

「過ち?アレックス。お前は騎士団のやってきた事を過ちというのか!?」

だがアレックスはディエゴの言葉に耳を向けなかった。
そして赤い絨毯を進んだ。
一歩。
また一歩と

「部隊長?どうしました部隊長 そっちは・・・」

そしてアレックスは立ち止まる。
王座の前で。
そして王座へ手が伸びた。

「!?」
「!!」

アレックスは王座がシンボルオブジェクトを剥ぎ取った。
世界の政権、財産全てを握る鍵であるオブジェを。

「部隊長なんて事を!?」
「それは・・・・」

慌てる兵士達の中
ディエゴも信じられないといった表情だった。
仲間の騎士が、それも部隊長がそんな事をするなんて
だが意思を取り戻し、
そしてアレックスに怒鳴りつけた。

「アレックス!貴様!自分が何をしたか分かってるのか!
 それは我が王国騎士団数千人の誇りだぞ!命だ!心だぞ!
 この戦いでどれだけの騎士がそれのために命を落としたと・・・・・・」

「みなさん。いや、同士達よ・・・許してください」


その瞬間アレックスは走り出した。
手にオブジェを持ったまま。
部屋の窓の方へと

「部隊長を!誰か部隊長をとめろーー!」

だがその瞬間。
同時に王座の間の扉が開け放たれる。

「敵だ!」
「それより敵がディエゴ部隊長!」
「王座に敵侵入!王座に敵侵入!」

侵入者はたった一人だった。
単身で乗り込んできたのは修道士
その両肩に赤い肩あてをつけた修道士は言った。

「よっしゃぁ!クソったれ畜生!一番乗りだぜ!
 やったじゃねぇかマイセルフ(俺様よ!)
 息子共をほったらかしてギルドおったてたかいがあった!
 クソあがっちまう話だぜ!これで世界を手にするのはこの俺ってわけ・・・・・」

その瞬間、その修道士の腹に大きな穴が開いた。
刺さったのはディエゴの槍であった。

「邪魔だ侵入者!」

ディエゴはその修道士から槍を引き抜いた。

「・・・・・クソ・・畜生話だ・・・・・ここまで来たのに・・・・・」

まだわずかに息のあるその修道士を
ディエゴは思いっきり蹴飛ばした。
そして叫ぶ

「野郎共!アレックスはどうなった!?」

「は!アレックス部隊長は窓をから逃走!」
「空中でゲートの光を確認しました!」
「もうオブジェを持ったまま手の届かない所に行ってしまったものと!」

「クソォ!」

ディエゴは自分の槍を思いっきり地面に突き刺した。

「部隊長!オブジェがない今!我々はどうしたら!」
「部隊長!」
「ディエゴ部隊長!」

「うろたえるなって言ってるだろが野郎共!お前らの任務はなんだ!」

「オ、オブジェを守る事ですっ!」

「違う!似ているが違う!我らの役目はココの守備!そして任務を全うする事だ!
 任務を貫き通せ!最後までだ!言っただろ!俺達は槍を持つ物だ!貫く者だ!
 槍は目の前を貫く武器。横を見るとか止まるとかいう思考は捨てろ!
 それが"騎志"だ!"騎志"を持て野郎共!」

ディエゴの言葉に1番隊の兵達は目の光を取り戻す。
迷いの無い目だった。
騎士の眼だった。

音が聞こえた。
敵が王座へと迫る音だ。
とてつもない数だ。
それは象の大群が蟻を踏み潰しに来るようでもあった。

「来たぞ野郎共。俺達の戦いの幕開けのファンファーレだ
 そして騎士団の戦いの最後の戦いのトレモロでもある」

ディエゴは槍をかざした。

「最後に言う!俺はお前らに"大丈夫"なんて言葉はかけない!
 そんな状況じゃないのは分かっているだろう!
 そして正直に言う!俺達はここで死ぬだろう!
 だが"一緒に心中しよう"なんてアマちゃんの諦めはかけない!
 自殺とは訳が違う!俺達は命を諦めるわけじゃぁない!命をかけに行くんだ!
 あがけ!諦めるな!俺達は騎士だ!"騎志"を死ぬまで貫け!」

「ディエゴ部隊長!」
「俺も騎志を貫きます!」
「自分も命をかけます!騎士団のために!」

ディエゴに続き
1番隊の兵士達も槍をかざした。
神でも引き剥がせないほどに槍を握り締めて。

「あぁ!一緒に死のうぜ野郎共!
 お前らと死ねて最高だ!恋人や家族と死ぬよりも至極最高だ!
 さぁいくぞ!根性を見せろ1番隊!
 死んでも守れ!文字通り"死守"するぞ!
 右手に槍を握れ!死んでも離すな!
 左手に騎志を握れ!死んでも逃すな!」

王座が今一度大きく開いた。
そこには数え切れない数の敵の姿があった。

「さぁいくぜ野郎共!!持ち場が墓場だ!!」





















30分後。

1番隊が全滅したのを最後に騎士団は全滅した。


1番隊は最後の最後まで戦った。



全員命を落とす結果になったが

ディエゴの言葉通り
死んでもその槍を離す者はいなかった。


そしてディエゴ自身は

死んでもそこに立ち続けたという

鎧と骨と槍だけの姿になってもまだ

王座で立ち続けた。




これが騎士団の最後であった。



騎士達の骨を城に残したまま
騎士達は槍を手に握ったまま
騎士達が志を心に抱いたまま





世はシンボルオブジェクトを失い


無法時代へと突入した。









                 






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