カンカンカンカンッ!

カナヅチの音が響く。
ノコギリの音が響く。
人の雑談の声が響く。

ここはルアス99番街の一角である酒場『Queen B』
そこにいるのは十数人の男達だった。

「ったく。なんで俺たちが壁の修理なんか」
「だよな。俺ら全然カンケーないよな」
「まぁいつもの事っちゃぁいつものことじゃねぇか」
「でも修行の時間がなぁ」
「修行って最近お前ダラダラやってるだけじゃねぇか」
「そりゃ今の時代何のために修行するって話じゃね?」
「まぁそりゃ俺も思うけどさ」
「だよな。先月道場やめたの何人だっけ?」
「さぁな。増えた数は覚えてるけどな」
「そりゃぁ"いない"んだから覚えれるっしょ」

男達は『ナイトマスター』ディアンの弟子達
つまり《騎士の心道場》の門下生達だ。
ディアンが空けた酒場の壁穴の修理中である。
完全にタダ働き。
愚痴文句が出るのは当然である。

「っしゃぁあーー!」
「こんなもんだな」
「おいおい壊れる前より綺麗じゃねぇか」
「俺ら修理うまくなりすぎじゃね?」
「まぁこんなしょっちゅうじゃ大工の力量もあがるさ」
「大工の力量より強くなりてーっての」
「それより聞いたか?」
「ん?」
「師範女に負けたらしいぞ。ここの酒場の店主って話だ」
「うぇ・・・マジかよ」
「俺たちの師範だぞ?」
「もうちょっとしっかりして欲しいよな」

「何を言ってんですか!」

黒い短髪。
両腰に提げた二つの剣。
ツィンだった。

「師範の強さなら俺たちが一番わかってるはずでしょ?」


「まぁそれもそうだな」
「俺らじゃ束になったって師範にかなわねぇしな」
「実際俺たちは師範の無類の強さに惚れて入ったんだし」
「負けたって事自体信じらんねぇんだぜ?」
「だがよツィン」
「道場にはメンツってもんがあるぜ?」
「むしろ形式やら評判やらを一番気にしてるのはお前じゃねぇか」
「それにおめぇもやられたらしいじゃねぇか」

「・・・。一生の不覚でした」

「頼むぜぇ、一応テメェがウチの看板なんだからよ」
「"師範は凄いが門下生は・・・"なんてウワサがたっちゃぁなぁ」
「あぁ、たまんねぇ」

ツィンは世間で『両手に花』と呼ばれている。
美しく華麗な二刀流の剣技。
それを称してのあだ名だった。

こんなあだ名を付けられていい気になっていたわけではない。
いやウソ。少しはなっていた。

だがツィンにとって名声なんかはただのオマケであった。
ツィンの目指すモノは変わらない。
騎士。
強さ。
この二つだけである。

「じゃぁな!」
「おぅ」
「またな」

酒場の修理が終わって皆帰路についた。

だがツィンだけは少し寄り道をした。
行き先は道場。
少し鍛錬をしようと思っての事だった。

不覚。

その言葉しか頭によぎらない。
よりによって師範の目の前であんな情けない敗北を・・・。
修行が足りなかったせいだ。
いや、修行の成果以前の問題。
実力さえ出せなかった。
あんな盗賊なんかより心の資質が劣っているのか
そう思うといてもたってもいられなかった。


道場に着く。
木造の床に足を踏み入れる前に一度道場に礼をした。
そして大きく飾られた『ナイトマスター』ディアンの肖像画。
そこにもう一度礼を捧げた。

道場に足を踏み入れる。
この床に足を乗せるたび、よく地として成り立っているなぁと思う。
それほど古い木で作られた道場であった。
おもむきという言葉を使うと感じはいいが
少し古い。

ツィンは奥の壁へと向かった。
そして壁にかかった自分の竹刀を取った。

そして無心に。
両手の竹刀を振った。

この反復がいつか実戦に繋がるはずだ。
この間は生かせなかったのが悔やまれる

・・・・

どれくらいの時間がたっただろう。

突然だった

景気の良い音を立てて道場のドアが開いた。

「タノモーーーー!・・・でOKだったカ?」

入り口に青い服を着た男が立っていた。
身なりで盗賊だとすぐ分かった。

「だれですかあんた」
「ウェール・・・。"ドージョーヤブリ"でOKだったかナ?」
「そうですか。入ったところから退室してくれないか?」
「ハッハー!まぁジョークよジョーク。本当はココに用があってネ」
「道場は今日俺以外いないです。さっさと帰ってください」
「ワッツ?ナイトマスターは?」
「あいにく出払ってます」

病院・・・とは言いづらい。
それにこんな怪しい男にわざわざ言う必要はない。
それになんか青色がチカチカしてウザい。

「ァァーン。OK。ユーでOKネ」
「・・・・なにがです」
「ココはナイトが多いらしいネ」
「そりゃぁここは《騎士の心道場》だからな」
「ココにキングダム関係のナイトなんかはいないカ?」

王国関係?王国騎士団の事か
そういえばこないだ酒場にいたな。
アレックスとかいうやつだったか。
師範が因縁つけただけのあいつに義理もなにもないが
まぁわざわざ教える必要もないだろう。
質問とも違う。

「いないね」
「オゥー。残念ダ」
「それに何の用があるんですか」
「アッアーーーン・・・探し物かナ」
「ここには無かったなら即急に立ち去ってもらいたいんですが」
「OH〜YESYES。ナイト以外にミーも用はナッシンね」


青服の盗賊が立ち去ろうとする。
ナイトじゃないと言われて少しカンに触ったが
師範のようにケンカっ早くなるのもナンだ。
放っておいた。
それに何か嫌な感じのする男だ。
あまり関わりたくない。

だが
青色の盗賊が出口から出た時。
少しだけ立ち止まった。
そして
最後に一言言った。

「GO」

その瞬間道場の出入り口から3匹のモンスターが飛び込んできた。

するどい爪を持った白熊のようなモンスター。
ブロニン。
袋を携えたペンギン型のモンスター。
メザリン。
丈夫な角を頭に生やすモンスター。
ツェピラ。
どれも雪原都市レビアの近辺に生息しているモンスターだ。

「な、なんだぁ!?」

ツィンはブロニンの爪を左手の竹刀で受け止めた。
受け止めたというのは正しくなかった。
竹刀は攻撃に耐え切れず真ん中から上が見事に吹っ飛んだ。

後ろから残り二匹のモンスターも迫る。

「クッ!」

ツィンは振り向いて自分の剣のあるほうへ走った。
竹刀で相手できるもんじゃない。
剣がないと・・・

「グッドラック♪」

出口から青色の盗賊の声が聞こえた。
そして盗賊の気配も消えた。
追おうと思ったが
今は青色の盗賊にかまっているヒマはない。

ツィンは道場の端に置いておいた自慢の剣を拾う。
そして振り向くとすでに目の前にメザリンが袋を振りかぶって飛び掛ってきていた。

ツィンは右手の剣でそれを防ぎ、
防いだとほぼ同時に左手の剣をなぎ払った。

メザリンは見事に真っ二つになって宙を舞い、
そして地面に転がった

まずは一匹。
だがそれを喜ぶ時間もない。

ブロニンが爪を
ツェピラが角を突き出して向かってきている。

ツィンはその両方を両剣で防ぐ。
が、どちらのモンスターも力が半端ない。
力負けすることを判断し、
攻撃をいなして二匹の隙間を潜り抜けた。

そして少し離れて振り返り、剣を構える。

「なんだこいつら・・・・」

おかしい。
雪原で生活していたモンスター達だ。
慣れない環境でこれだけの力を発揮できるわけがない。
だがその割にはルアスの暖かい環境において何一つ問題なく運動している。
まるで暖かい環境に住み慣れたように・・・・。


・・・。
違う。
何を考えているんだ。
こういう事を考えるから駄目なんだ。
酒場で盗賊と戦った時もそうだった。
戦闘中に考えすぎだ。

どんな理由だろうと目の前にいるのはツェピラとブロニンだ。
考える必要はない。
知恵を使うのは戦闘において重要だが、
自分はそれを凌駕する鍛錬を積んできたはずだ。
自分の力さえ発揮すれば、
それだけで相手を倒す力を持っているはずだ。

いつも通りに
ただそれだけだ!

ツェピラが角を突きつけて突進してきた。

あせる事はない。
ただの突きだ。

ツィンは半回転するようにそれを避ける。
そして回転をそのままに右手の剣でツェピラの足を斬りつける。
その回転の反動をそのままに今度は左手の剣でツェピラの背中を斬りつける。
そして最後にそのままもう一度右手の剣でツェピラの体の真ん中を横切るように薙ぎ払った。

すれ違っただけの一瞬の間。
ツェピラは自分の突進のスピードを忘れる間もなく体3つの大傷を残し
地面に崩れ去った。

ほれ見ろ
いつも通りに
ただそれだけでこうもうまくいくもんだ。

ブロニンが雄たけびを上げる。
そしてツィンの目の前に立つ。

右手の爪を思いっきり振ってきた。
それを左手の剣で弾いた。
左手の爪も思いっきり振ってきた。
それも右手の剣で弾いた。
また右手の爪を・・・
また左手の爪を・・・

だが無駄だった。

「俺の二花剣はどんな攻撃だろうと対応できる!」

そうだ!
修行どおりにやればどんな攻撃だって怖くない!

そして・・・

「両の剣から放たれる攻撃の連携は・・・・無限大だ!!」

右手の剣でブロニンの胸を思いっきり斬り払ってやった。
そして休む暇なく左手の剣でブロニンを真横に薙ぎ払う。
その瞬間にはすでに右手の剣がブロニン肩を目掛けてななめに振り下げられた。
ブロニンの腕が宙を舞う前に左手の剣もすぐにまた直角に斬り払われる。
そして右手の剣は体の中心目掛けて突き放たれ
左手の剣はブロニンの両足を地面から切り離した。
ブロニンの体が地面に落ちる前にまた一撃。
そしてまた一撃。
また一撃。また一撃。

ブロニンの体がすべて地面に落ちた時には
すでにどれが体のどこのパーツか分からない肉片の塊となっていた。

ツィンは剣を両腰の鞘におさめて言う。

「やっぱり俺は強いじゃないか」


そして道場をあとにした。







-ミルレス 白十字総合病院-





一つの病室のドアを開ける。
そこは個室で、ネームプレートには「ディアン」と書いてあった。

「おぉ、ツィンじゃないか」

そこにはベッドに寝転がって体だけ起こしたナイトマスターがいた。

「HAHAHAHA!師範のお見舞いとはな!いい弟子をもったわ!」
「まったく、弟子にお見舞いされる事を少しは恥ずかしがってくださいよ」
「HAHAHAHA!悪い悪い」

ディアンの体が凄いのか
白十字病院の聖職者(医者)が優秀なのか
ディアンの治りは早かった。

そう遠くない時期に退院できるらしい。

「師範。酒場の修理が終わりましたよ」
「おぉーそうか!HAHAHA!優秀な弟子ばかりで俺様も鼻高々だ!」
「そうですか」
「おーぅ!みんないいやつばかりだ。みんな立派な騎士になるだろうよ!HAHAHAHA!
 得にツィン。お前には期待しているぞ」
「あ、ありがとうございます!」

ディアンに誉められる。
とにかくそれが最高の憂いだった。

見る目があるのかないのか分からないが
強い人である事は間違いじゃなかった。
そして尊敬に値する人であるのは間違いないと思っていた。

「そういえばツィン。お前はいつ剣を槍に持ち変えるんだ?」
「・・・・」

突然の問い。
返答は用意していなかった。
そしていつも迷っていた事だった。

ツィンはただ騎士になりたかった。
騎士としての心は十分だと言われた時から
もういつ騎士を名乗るか・・・・。
普段から考えていた。
師範の期待に添えたい。

だが自分の剣術法は槍では生かせない。
自分の剣の技術(ステータス)は捨てたくない。
今までの自分の努力を否定するようだ。
戦士として積み重ねた技。業。
それを無にして槍の道へ。

いや、師範のためならそれも・・・。
だけど・・・

腰から剣を抜く
そしてまだ獣の血のついた剣を眺めた。
そして心を決める。


「師範」
「なんだ。ツィン」
「剣を持つ騎士・・・というのは変でしょうか」
「HA?」
「自分は騎士になりたい。だけど剣を捨てたくない
 師範に誉めていただいたこのあだ名も捨てる事になります
 そして二刀は俺の誇りで才能で努力の塊です。俺は剣の花を咲かす者です」
「うむ・・・・。たしかに剣を使う騎士というのはいない訳ではない。
 それに一応騎士としての剣を使う修行も道場では教えている。
 だが剣だけの道。それは俺様の方針からそれたい・・・・という事か」
「・・・・いえ、師範の誇りになりたいのです
 師範の弟子として。『両手に花』という名を世に響かせたいです
 師範が自信をもって誇れるようなそんな弟子に。
 そして強くなりたい。一刻も早く。できるだけ早く。
 だから遠回りをしたくない。俺は最短で最強を目指します」
「剣でか・・・・・」
「はい」
「騎士・・・ではなく、強さを求めるということか」
「少しちがいます。師範の好きな"心情論"ってやつですよ
 騎士としての心を胸に・・・心身ともに強き男になります!最強の男に!」
「フ・・・・HAHAHAHAHAHA!それは俺様を超えてという事か?!」
「・・・・」
「HAHA!意地悪を言ってしまったな。ツィン」
「・・・・少しヘリクツを言ってるみたいになってしまいましたが・・・」
「いや、その心意気。それぞ騎士の心だ。それぞ『両手に花』
 最強の花を目指せ。名声を咲かせろ。両手に持ちきれないほどにな!」

「はい!!!!」



両手に花を

花を咲かせたい。

咲かせたいなら咲かせばいい。



騎士になりたい。

だが最強の剣士になりたい。

どちらもなりたい。

じゃあなればいい。




二兎を追うものは・・・

というが

二つを手に入れようとするのは欲張りではない。


なぜなら人は

二つ手があるのだから




両手に咲かせ

咲こうと努力し

その末咲くから


だから花は美しい








                 






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