「クッソ!」

サンタが悔しそうに言う。
といってもすでにサンタの面影は微塵もないが

「ったく。走り回りやがって」
「思ったより手間取りましたね」

怪盗クリスは捕まった。
言葉通りお縄についた。
ロープでぐっるぐるに巻き縛られて。

「まさか・・・音の鳴るタイルを付近に大量に仕込ませていたとは・・・・」

上を通ると音楽の鳴る地面がレビアにはある。
それはレビアの住人が仕込んだのか、
それとも偶然と自然が折り重なってできた奇跡の産物なのか。
レビアの住人が日夜奏でる音楽が染み付いたなんて御伽話もある。
まぁ何が音楽を奏でる床の真相なのか知る由もないが、
アレックスとドジャーはそれをスコップで掘り出し、
張っていた家の付近に大量に移植したのだった。

「ったく。仕込むのには骨が折れたぜ」
「トラップっていうほど大げさなもんでもなかったですけど効果は十分でしたね」

場所を音で知らせてくれるなら話は簡単。
盗賊としての基本能力は断然ドジャーの方が上なのだ。
おおまかな場所さえ分かればディテクションでインビジブルを解除するのも簡単である。
なにせディテクションは周り一体へ効果を及ぼす範囲型のスペルなのだから。
あとは2対1の追いかけっこ。
怪盗クリスが捕まるのは時間の問題というわけだった。

で、結局捕まって寒空の下グルグル巻きにされている惨めなサンタ。
十字架ではないが、サンタ"クロース"なだけにクロス(張りつけの刑)がむしろ似合う。
昔昔、この日に生まれた神がそうだったように。

「さぁてと。あとは街の役所にでも持っていくだけだな」
「ですね。法がないとはいえただでは済まないでしょう」
「サンタがブタ箱に閉じ込められるか」
「またはサンタがブタのような扱いを受けるか」

「ま、まってくれ!悪気はなかったんだ!た、助けてくれ!」

子供のアイドルであるサンタが命乞いをする。
夢もかけらもなかった。

「悪気がなかったですって?毎年盗んでるのにですか?」
「カッ!そんな話どうでもいいぜ。懸賞金が目的なんだからよぉ」

「は、話だけ聞いてくれ!俺の話を!」

「あーあ、めんどくせ。どうでもいいのによぉ。
 でもアレックス。どーせお前、聞きたいんだろ?こいつの話」
「聞きたいですねー。興味あります」
「カッ!めんどくせ」
「まぁまぁいいじゃないですか。オマケですよオマケ」

サンタは急に眉毛を垂らして語りだした。

「実はな、盗んだオモチャは恵まれない子供達に配っているんだ・・・」

「・・・・・ありがちですね」
「・・・・ウソだったら殺すぞ」

ドジャーがダガーを傾けて光らせる。
それは聖夜の雪と月光に反射して怪しく輝いた。

「・・・・・・う、うそですスイマセン」

「こいつ殺してぇー・・・・」
「最悪なサンタですね・・・」
「次は正直に言え、理由をな」
「と言っても今のウソからいっていい理由じゃないんでしょうけどね」

「いや・・・・その・・・・だな・・・・」

縄に縛られたサンタはオドオドしながらいう。

「お、俺が子供の頃はだな・・・・クリスマスにオモチャなんて貰った事がなかったんだよ・・・
 親は俺に「お前はいい子じゃないからだー!」って毎年言ってたな・・・」

「そりゃぁ怪盗クリスさん。
 あなたが悪い子だからサンタがこなかったってだけの話じゃないですか」
「だな」

「・・・・だがよ、俺は貰ってないのにガキ共がもらってるのは・・・・
 その・・・よ・・・・気に入らなかった・・・ていうか・・・だから盗ってやろう・・・ていうか・・・」

「・・・・・・ダッセ・・・」
「ある種の逆恨みみたいなもんですか・・・・大人気なさの極地ですね・・・」

「う、うるせぇよ!」

「まぁ微塵も救いようのない偽サンタだったって話で今回は終了だな」
「ですね」

「ちょ、ちょま!少しくらい俺に同情してくれよ!俺ん家は貧しくて親は俺に辛・・・」

ベコッという鈍い音が鳴った。
それはドジャーが怪盗クリスの鼻先を殴った音だった。
クリスの鼻から鼻血が溢れ出す。

「真っ赤なお〜は〜な〜の♪っとぉ。あぁ、これはトナカイだったか」

「ハ、ハガ・・・」

「怪盗クリスさん。貴方の身の上が悲しい話だったかもしれませんがそんな事知りません
 それが人々の物と子供の夢を盗む理由になりません」

「グッ、あんたらが俺をなぐる理由は・・・・」

「「もちろん気に食わなかったから」です」

「そんな勝手な・・・」

「でもな、レビアの街人の怒りはこんなもんじゃないみたいだぜ?」
「怪盗クリスさん。あなた自分の手配書を見た事がありますか?」

「な、ないけど・・・」

アレックスが懐から一枚の紙を取り出した。
それは怪盗X(クリス)の手配書だった。

「デ、デッド・オア・アライブ?」

「"デッド・オア・アライブ(生死問わず)"。
 カァ〜。そう読んじまうのも無理ねぇけどよ、それじゃぁ普通の手配書だな」
「よく見てください怪盗クリスさん。ほら、ここ
 "デッド・オア・アライブ"じゃなくて"デッド・アンド・アライブ"
 分かります?"半殺し"で連れて来いって事です」

「!!!!!!」

「カカカカ!この手配書の懸賞金はレビアの子持ちの親達が出してるんだとよ
 カァー!子供への愛情は怖いねぇ〜」
「年に一回の子供の夢を毎年奪ってるんですからね」

ドジャーがコキコキと首と指を鳴らす。
アレックスが腕をぐるりぐるりと回した。

「さぁてアレックス。やっぱサンタは"赤"が似合うと思わねぇか?」
「そうですね。それはもう流れ落ちるような"赤"が」
「血祭りってやつだな。祭り好きのレビアの野郎どもが喜ぶぜ」

「た、助けてくれ!」

「ん〜。そうだな、最後のチャンスをやろうかアレックス」
「ですね。せっかくのクリスマスという名の聖なる夜です」
「ドジャーサンタとアレックスサンタからチャンスという名のプレゼントだ」
「生まれてこの方サンタさんが来たことないあなたに
 僕たちサンタさんが欲しい物をひとつあげます。言ってみてください」

「じゃ・・・じゃぁ・・・慈悲を!」

「残念。悪い子には」
「プレゼントはやれねぇな」

「そ、そんな!」

ドジャーとアレックスが怪盗クリスに近寄る。
一歩。また一歩。
そのたび雪を踏みしめる音が鳴る。
そしてとうとう二つの影がクリスに重なる。

「じゃぁ」
「それでは」

「「メリィ〜クリスマァ〜ス♪」」


聖なる夜の中。
サンタの悲鳴が町中を包んだ。












------------------










「ママ・・・・今年もサンタさんこなかった・・・」
「そうね残念ね・・・」

小さな男の子とそのお母さんが手を繋いで雪に足跡をつける。
男の子はとても残念そうだ。
それはそうだ。
どれだけこの夜を楽しみにしていただろう。
子供にとってクリスマスはあまりに大きな日すぎた。

うつむいて歩く男の子を
母はどうしたらいいのか分からずにただ引っ張っていくしかなかった。

「ほら、元気だして。オモチャならママが買ってあげるから」
「でも・・・・」

そう思って男の子が顔あげた時だった。
男の子の目にそれは映った。

「マ、ママ!見て!」
「え?」

子供が指を指す。
母はその指の先に目を向けた。
そこにあったのは・・・・

「まぁ!ロベルの木が!」
「オモチャ!オモチャの木だ!」

レビアの中心に位置する巨大な木。
名物ともいえるロベルの木には無数のオモチャ達がなっていた。
たくさんのオモチャ達がツリーを飾る。
まるでオモチャ達が巨大なクリスマスツリーの飾りのように。

「あれ!僕のオモチャだ!」

子供は嬉しそうに木に走っていった。











「金より夢だーとか言っておいて」
「あん?」
「ドジャーさんもロマンチックな事するじゃないですか」
「うっせ!俺が欲しかったのは懸賞金だ
 盗品のオモチャなんかもってても邪魔なだけなんだよ!木に捨ててきただけだ!」
「まったく言い訳が下手ですよね」
「うるせ!」
「それよりドジャーさん」
「んだよ」
「あのツリーに吊るした怪盗クリスの盗品なんですが・・・・」
「ぁあ、数年分だからかなりの量になったな。巨大なロベルの木にいっぱいだ」
「その盗品の他に子供の名前の書いた包みが何十個もあったそうですよ」
「は?なんじゃそりゃ」
「さぁ、でも言える事はそれは子供達の所有物じゃないって事です」
「カッ!もしかしてサンタの贈り物だとか言いてぇのか?
 サンタなんているわけねぇーっつーの!」
「フフッ・・・・そうですね。でも、このツリーの包みのオモチャにしろ
 毎年子供達の枕元に届く物にしろプレゼントがあるからには・・・・」
「だーかーら!そんな話しても俺は神も天界(アスガルド)もサンタも信じねぇかんな!」
「・・・・まったく・・・・ドジャーさんは夢のある話がまったくできないんですから・・・」
「カッ!それよりリアルだ!金(グロッド)だ!この手元の懸賞金は間違いなく信じるぜ!
 これでマリナんとこでパァーっと騒ぐか!?飯に酒にどんぶらこってな♪」
「ほんとですか?!結構贅沢に頼んじゃいますよ?!」
「頼め頼めー!酒だー!飲むぞー!」
「ご飯だー!ご飯だー!食べるぞー!オーッ!」








サンタがいる・いない。
永遠のテーマだが実際そこはそんなに問題ではないのではないだろうか

実際に毎年子供のもとにオモチャが届く。
その事実が一番重要であり、
子供達はそれが一番嬉しいのだ

もしサンタの話をするのなら
サンタを信じる・信じないの話だ。

信じた子供のもとにオモチャが届けば
それはもうサンタは存在するだろう。
きっと雪の空をトナカイと共にソリにのってやってきたのだろう。
それでいい。
そして次の日はサンタをも忘れてオモチャで遊べばいい。

とにもかくにも
クリスマスは毎年やってくるのだから。

まぁそんなわけで

とりあえず今年も楽しいクリスマスがやってきたのだ


言わなきゃいけない事はたった一つ




Merry X'mas













                 






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