マリ。

私の名前はマリ=ロイヤル


今年で5歳です。


お姉ちゃんの名前はルエン=ロイヤルで
妹の名前はスシア=ロイヤル。

それでお母さんの名前はエリス=ロイヤル。

お父さんはいないけど。

私はとっても幸せです。

この生活がずっと続けばいいのに。












「ルエンちゃん!私100グロッドしかない!」
「えぇ?!あたいだって150グロッドしかないよぉ」
「ル・・・ルエンちゃん。マリちゃん。あ、あたしは300グロッドあるよ・・・・」
「「さっすがスシアちゃん!」」

「おじちゃぁーん!爆竹一個!」

「あいよぉ!」



ここはアベル。
一応善都市に指定されているが、
世界の都市とは切って離されたような街である。
でも世界一の商業都市であり、
だれもかもが高い生活水準を手に入れている。
そのお金で遊び、食べ、買う。
世界で群を抜く好景気な街であった。

「今日はこれで遊べるね!マリちゃん!スシアちゃん!」
「うん!ルエンちゃん!スシアちゃん!」
「・・・うん!」

スシアはこっくりと頷いた。
一応三姉妹という位置づけはあるが、
ルエン・マリ・スシアの三人は誰が姉とか妹とか
あまり考えていなかった。
というよりもそんな事必要なかった。
どちらかというと友達のように仲がよかった。

「ルエンちゃんは足が速いよね」
「スシアちゃんも頑張ればあたいみたいに速くなれるよ!」
「その前にわたしについてこれるようにならなきゃね!」

いつも元気いっぱいのルエン。
楽しい事が大好きなマリ。
二人と違いおとなしいスシア。

三人はいつも一緒だった。

今日も三人のお金を出し合って買ったたったひとつの爆竹を握り締め、
家へと走りぬけた。



「「「ただいまー!」」」

玄関を開けるとそこには母エリスがいた。

「あれ?お母さんこれからお出かけ?」
「夜ご飯はー?」

「ごめんね、ルエン、マリ、スシア。これからお仕事なの
 ご飯はテーブルに置いてあるから温めて食べてね」

そういって母は靴が片方変な風になってるのにも気付かず
駆け足で行ってしまった。

「今日もかー」
「しょうがないよね」
「お母さんは忙しいからね」

いつもの事だった。
父がいないのに三人の娘を食べさせるため
母エリスは毎日血反吐を吐くのように働いていた。
こんな街の中。
ロイヤル一家は貧乏だった。
だけど三人は幸せだった。

週に4回しか母と食事はできないが、
三人はいつも一緒だったし、
孤独を感じる事なんてなかった。

「スシアちゃん早く〜」
「ま、まってよルエンちゃん、マリちゃん・・・・」

家の中はそれでもにぎやかだった。






「ごめんね・・・次の休みもお仕事なの」

「え〜〜!!ルアスに連れてってくれるって言ったじゃん!」
「あたい楽しみにしてたのに!」

「ごめんね、大事なお仕事なの。ほんとにごめんね・・・・」

「しょーがないよルエンちゃん、マリちゃん・・・・」
「ん〜」
「そうだよね、しょうがないよね」

母が大変なのは分かっていた。
三人はそれを理解していた。
だからしょうがないと思ってた。











しかし気持ちは変わってきた。
三人は大体10歳くらいになったくらいだろうか。
母エリスの忙しさは加速の一途だった。
週4日の家族水入らずの食事は
いつの間にか週に一回ほどになっていた。
それにつれて三人も何かと家の世話をしなければならなくなってきていた。
遊びたい。
他の子は遊んでる。
だけどお金もないし時間も少ない。
遊ぶ時間がなかったわけじゃないが、
何かとお金が必要になる時間でもある。
"ごめんね"
母のこの言葉が家庭で一番強い言葉になっていた。
"しょうがない"
この言葉は家庭で一番弱い言葉になっていた。

「ルエン、スシア。どっか遊びにいかない?」
「でもマリ、あたいまだ洗濯してないよ」
「あたしも・・・・ご飯つくらないと・・・」
「ご飯なんて買えばいいのよ!」
「そんなお金ないよ」
「お金ないよね」
「お金さえあればね・・・・」
「しょうがないね」

お金。
その事を気にしだしたのもこの頃だった。
そしてお金が力だと知らず知らず気付き始めていた。
無いとつらいから。
あればつらくないだろうから。
お金の力。
それは持ってる者と持ってない者が気付くらしい。

「お母さん、今週末は一緒に食べれるの?」
「週に一回も一緒に食べれない日もでてきたじゃん」

「ごめんね、でもお金を稼ぐのもあなた達のためなの
 あなた達を幸せにしたいから・・・分かってね、ごめんね・・・・」

ごめんねと言わない母を聞かなくなってきた。
ごめんねが口癖。
そんなもんじゃなかった。
ただテープレコーダーのようにそう言うように設定された生き物にも見えた。
でもそれでも母だった。
愛のためにがんばっているのだ。
私達のためなんだ。

しょうがなかった。
















「お母さん!もう一ヶ月は一緒に食べてないよ!」
「ねぇ!一緒に食べようよ!」

「しょうがないでしょ!お金を稼ぐためなんだから!」

三人が平均で12歳ぐらいになった頃だった。
母エリスの様子は昔とは大違いだった。
大変で疲れていても優しさだけはなくさなかった母エリスは
今では面影もなかった。
いつも怒っていた。
帰ってくる日のほうが少なくなってもいた。
仕事のストレスのせいなのか、
それとも性格がキツくなってしまったのか。
はたまた・・・・・・別の人なのか。
そう思うほどであった。

三人が思う母の一番変わった所は
"ごめんね"と言わなくなった事だった。
そう、そして"あなた達のためなんだ"とも言わなくなった。
ただただ金を稼ぎに出かけ、帰ってくる。
もう自分たちの事なんて視界の外のようだった。

「あたい!家を出てお金を稼ぎに行く!」

そう言い出したのは一番上のルエンだった。
あまり不思議な事には思わなかった。
いつかそうなる事は分かっていた。
でも悲しかった。

「ねぇ考え直してよルエン。たった3人の姉妹じゃない」
「さみしいよルエン・・・・」
「ダメよ!この世界はお金で出来てるんだ。
 あたい達みたいにお金がないやつは一生負け犬だよ!」
「でもさ・・・・」
「マリ、スシア。あたい達がお母さんに見向きもされなくなったのは
 お金が稼げなくなったからだよ!だからお金を稼いで母さんを見返してやるわ!」

そう言ってルエンは家を、アベルを出て行った。
ルアスに行って何でも屋をやるそうだ。

家にはマリとスシアだけになった。
帰ってこない母を待つことさえしなくなってきた。
どうやらスオミのどこかにいるそうだが、
母と話す機会もないのでよく分からない。
だから母の話もしなかった。
したくもなかった。
話をするとしたら愚痴にオブラートをかぶせた励ましあい。
それと出て行ったルエンの話に花を咲かすくらいだった。

そしてマリにとって恐れていた日がきた。

「マリ、わたしもルエンちゃんみたいに稼ぎに行ってくる・・・・」
「ス、スシア・・・あなたもいくの?気弱なあなたが一人で商売なんて・・・」
「うん。わたし、ルエンみたいになりたい。一人で生きてけるように。強くなりたいの
 だからマリ、許してね。わたし・・・うーうん。"あたい"も家を出るわ」

スシアは昔からかたくなにルエンを目指していた。
臆病なスシアにとって活発なルエンは憧れだったのだ。
マリにもそれは分かっていた。
でも妹が自分より姉の方に憧れた事に嫉妬はなかった。
マリにとっても妹が憧れるような姉は自慢だった。
それくらい仲のいい姉妹だった。

ルエンが出て行って大分たつ。
スシアが出て行ってからも大分たつ。

家の中のことをマリはひとりで切り盛りした。
家に帰ってこない母エリスと逆に、
マリは家にいる時間の方が多かった。
あの人は私たちを捨てたのだ。
そう思う事に疑いはなかった。

ある日
いつ以来か母が帰ってきた。
おかえりなさいとマリが言うと
母は・・・・いや、エリスはとんでもない事を言い出した。

「母さんは疲れてるのにお風呂の用意もできてないの?!
 まったく、あんたは何考えてるのかしら。ルエンとスシアはどこに行ったの!」

母エリスは娘達が家を出た事さえ知らなかった。
いや、知ろうとも思ってなかっただろう。
その時マリは思った。
この人はもう母じゃない。
ただこの家にたまに帰ってくるだけの金欲の塊だ。

マリは何も言わず自分の部屋に戻った。
そして荷造りを始めた。
遅かれ早かれこうなるはずだった。
自分も家を出る。
それが今日だという話なだけだ。

荷造りが終わったあと部屋を見渡した。
大きな部屋ではなかったが、
三人が住んでいた部屋。
広く感じた。
三段ベッドの上と下は、宿主不在のためホコリが溜まっていた。

部屋をあとにする最後に
マリは机の引き出しを開けた。
そこには古い日記があった。

1ページ目をあける。



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マリ。
私の名前はマリ=ロイヤル
今年で5歳です。
お姉ちゃんの名前はルエン=ロイヤルで
妹の名前は・・・・・・          "

初めて日記を書いた日の日記だった。
なんで日記に自己紹介を書いてるんだ自分は…とクスリと笑った。
そして昔の頃を思い出した。
楽しかったなぁと思う
あの頃はいつも三人一緒で・・・



最初のページの最後を見る。

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私はとっても幸せです。

この生活がずっと続けばいいのに
               "


「・・・・・」

マリは黙って日記を閉じる。
そしてバッグにしまった。

「私は・・・・」

私は・・・
いや、私も・・・・
私もお金を稼いでやる
稼いで稼いで
そしてたくさん溜まったら。
きっとその時は
あの時の生活をやり直せるかもしれない。

きっとあの楽しかった生活を。

それにはまずお金だ。




そうしてマリは旅立った。

目的地はミルレス。


目的は生活を取り戻すため、
そしてやりなおすため。

日記は大きくなるにつれ書かなくなってしまったが、
また書く日がくるだろう。


だって日記の書かれていない残りのページは

続きを書くためにあるんだから



こうしてマリはお金を否定するためにお金を稼ぎに出かけた。


そうすればきっといつか暖かい家庭が戻ってくると

そう願って










                 






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