「・・・・・こんなはずでは・・・・・」


日の照り輝くコロシアムの中心。
アンジェロはそこに横たわっていた。
血まみれの翼
血まみれの全身。
それが重症さを物語っていた。

だがアンジェロは起き上がった。

土壇場でのセルフヒールが幸をそうしたのだった。
とにかく彼は生きていた。
命からがらである。
当然彼のプライドはズタズタであった。

「あんな・・・・あんな下等生物(ゴミ)どもに!」

アンジェロは悔しかった。
自分は選ばれた人間であるはずだった。
アスガルドへ行った者。
他の者はいけない世界へ行った者。
天に選ばれ、そこらの人間とは違う。
そのはずだった。

「そうだ!私は『天使』だ!そのはずだ!ねぇそうでしょう神よ!」

アンジェロは勢い良く羽を広げる。

そして空を見上げた。
青い空が広がる。
雲が散らばる。
鳥が飛ぶ。

もちろん空から返事はない。

「・・・・・私は以前、あの空の上にいたのです」

アンジェロは天に手を伸ばす。
何も掴めない。

「馬鹿な・・・・私は・・・・・見下ろしたはずです!
 あの鳥も!
 その雲も!
 そしてあの空さえも!!!!」

アンジェロは下を見下ろした。
そこには汚い地面しかなかった。

「あの時は地面など見えもしなかった!なのになぜなのです!
 なぜ私は今汚い地に立っている!
 地に立つのは下等生物(ゴミ)の役目のはずです!
 そんな者達を見下ろす事ができるのが私のはず!
 なのに・・・・・なのになぜ私は今空を見上げている!?!?」

アンジェロは体を落とし、腕を地面に叩きつけた。
そしてすぐに汚い地に触ったことを後悔した。

「離れたい・・・・・この地から・・・・」

地面を見つめながら
・・・・・ふと思った。

「・・・・・・・離れれば・・・・・いいじゃないですか・・・・・」

アンジェロはスっと立ち上がる。

「そうだ!もう一度!もう一度アスガルドに行けばいいだけじゃないですか!」

アンジェロは翼を動かした。
少しづつ
それでいて何度も
羽ははばたく動作を始めた。

アンジェロの体が少し浮いた。
飛んだ。
ウインドバインというスペルで体を浮かしたのだ。

「フフフ、私は飛べる!神の力でだ!これが選ばれた者の力!
 そうだ!これが力です!飛んで!そして天の国(アスガルド)までいける!これが証です!
 こんな汚い地(ミッドガルド)にもう用はありません!」

アンジェロは空へと向かった。
服についているだけの翼を羽ばたかせ
魔法で体を飛ばして空へと羽ばたいた。

真っ直ぐ上を見つめ、
急上昇。
空へ立ち昇る『天使』
真上を目指し。
スピードを上げる。
グングンと高度をあげていく。

「私は、また見下ろしてやる!全てを見下ろしてやるのです!
 あの時のように!アスガルドへ行った時のように!
 この鳥を見下ろしてやる!
 その雲を見下ろしてやる!
 そしてあの青い空さえも見下ろしてやるのです!」

アンジェロは羽ばたいた。
力の限り。
上る。
昇る。
空へとのぼる。
どれくらいのぼっただろう
ふと地を見下ろす。
コロシアムが小さくなっていく。
さっきまで汚いと思っていた地面は、もうただの地面にしか見えない。
遠すぎて汚さが見えない。
アンジェロに笑みがこぼれる

「下等生物の地、ミッドガルドなんて汚さの地です。これでいい。
 選ばれし天の者は地などうっすらと見える程度に見下ろせばいいのです!」

もうかなりの高さまで飛び上がっている。
それを見下ろす事で確認ができる。
それはアンジェロにとって至極の嬉しさであった。
この時点ですでに他人を見下ろすことができる。
人は皆見上げるしかない。
羽があるだけに"鳥"肌ものである

といってももう鳥も飛んでいない高さである。

「アハハ!鳥なぞ、やはり他愛もない。羽を持つ者同士でも差はあるのだ。
 鳥の羽。あくまですこし空を楽しむだけの翼。地の危険から逃げるだけの翼。
 ふん。鳥も下等生物(ゴミ)とさほどにも変わらない」

アンジェロは飛び上がる。
ただただ飛び上がる。
まだまだ飛び上がる。

その高さはもうかなり、
地がうっすらとしか見えなくなってきた。

ふと頭から何かに入った。
そして何かから出た。

雲を突き抜けたのだった

雲の上から見下ろしてアンジェロは言う。

「雲、こんな雲など子供だましだ。本当の雲。それはアスガルドにあるのです。
 この雲はあくまで下等生物達が見上げるためのもの。
 雲の上に世界があると夢みるためのものです!
 こんな雲なぞ不思議ダンジョンからでも見下ろせる。
 こんなものアスガルドの産物ではない!」

アンジェロは上を見上げた。
そこには広がる一面の空。
ただただ青く広がる空。
他には何もない。
行く先の目印になるもの
高さを示すもの。
どちらが右でどちらが左でどちらが上でどちらが下か。

たった一つ。
唯一の敵であり、道標
それは重力。

重力に逆らい、天を目指す。
重力だけはその名の通りアンジェロに重くのしかかる。
地に落ちろと
空へ来るのを拒むように。
重力。それは神が作った最高の防壁。
天と地をわかつ力であった。

「・・・・・・私は絶対空をも見下ろすのです・・・・・」

アンジェロはただ飛んだ。
上へと上へと。

のぼる。
とぶ。
すすむ。
はばたく。

めざす。そらを。アスガルドを。

どれくらいの高さまで飛んだのか分からない。
どれくらいの間の時間飛んだのか分からない。
ただただ空へと舞い上がった。




空は遠かった。

そして突然近づきもしなくなった。





「なっ!そんな馬鹿な!」


魔力切れ。

あまりに人らしい限界。

もう風魔法で飛び上がるために使う魔力が残っていなかった。

空中でフッっと翼の動きが止まる。
そしてアンジェロはこれ以上天を目指す事ができなくなった。

アンジェロが羽をはばたかせる。
アンジェロは翼を必死に動かす。

羽根が飛び散る。
羽根が落ちる。

だが、もうのぼらない。
そしてその時は当然、かつ突如に訪れた。

墜落。

天使堕つ

飛び散った羽根を追い抜き、

落ちる。
堕ちる。
重力の逆襲。
まるで借りを返すと言わんばかりに落ちていく。

アンジェロは落ちていく。

「ばかな!飛べ!飛べるだろう私は!?」

だがどれだけ羽を動かしても、宙を制す事はできない。
最初から羽で飛んでいたわけではないのだ。
ただただじたばたと翼でもがき、
羽根が舞い散る。
ウソの積み重ね。
羽はそのひとつに過ぎなかった。
ウソは羽根として剥がれ落ちている。

「天が!アスガルドが離れていく!」

凄いスピードで落ちていく。
凄い速さでで天へ手が届かなくなる。
ただただ
落ちていく。

本当に落ちるのは速かった。

すぐさま雲をつきぬけた
今度は当然上から下へだ。

信じられないといった目でアンジェロは雲を見た。
だがその雲さえも凄い勢いで遠のいていく。

アンジェロは落ちていく。


ふと鳥を横目にした。

もう鳥が飛んでいる高さか。
そうアンジェロは思う。

アンジェロは落ちていく。

"真っ逆さま"
この言葉が今のアンジェロにぴったりであった。
もう地面までの距離も遠くない。
もうすぐ地へとぶつかるだろう。

「頭から落ち、私は終わるのか・・・・・」

最後に・・・・
一度でいいからアスガルドを拝みたかった。
最後に・・・・
一度でいいから・・・・
空さえも・・・・・・

葛藤がよぎる。

何もかも。
すべてが。
こんな形で。

終わってしまうのか。


自分は・・・・

空さえも見下ろせる・・・・・

そんな特別な人間ではなかったのか・・・・・





「!!!」

その時。
アンジェロは目を疑った。

真っ逆さまに落ちたまま天を見た。

「天が私の足下に・・・・・空が私よりも下にあるじゃないか・・・・・・・」

アンジェロがさかさまになっているだけである。
頭から落ちているこの状態。
その状態でアンジェロは空を見上げた。
真っ逆さまのアンジェロにとっては下を見下ろしたツモリである

偽りの見下ろし

だが、偽りに固められたアンジェロの頭の中は、もう偽りしかなかった。

「ハハ!見ろ!私は今まさに!空を見下ろしている!今空を見下ろしている!!!」

アンジェロは"上を見下ろし"笑った。



そして『天使』は地に落ちた。



悲しいかな、
落ちたところは同じ場所。コロシアム。
天使は天から放りだされ、地へと捨てられた。
そして命も消え去った。


『ペ天使』アンジェロの最後だった


最後、アンジェロの心は満たされていた。
それはもちろん偽りでだが、

天使は空を飛び


空を見下ろしたのだった。







アンジェロが空で撒き散らした羽根。

その幾多の羽根達は


地に降り注いだ。




まるで雪のように。







『天使』が雪を降らした事は




だれも知らない。










                 






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