「私はなぜ醜いのだ」
そのモンスターは自分自身に問いかけた
黄色の丸い体に人面のような顔にバッタのような足
他のディド族が誇りにしている自慢の触覚さえ気に入らなかった

「醜い・・」

水たまりを通るたびに彼はつぶやく
そこに映るディドの顔は苦悩に満ちていた
彼が心を痛めているのは外見だけではなかった
モンスターとして生まれながらも単体では人一人も倒せない
魔物と呼ばれながらも恐れられない
そんな自分無力さが嫌であった
”醜き弱者”
その単語がいつも頭をよぎる

そして間逆の存在も頭の片隅を通り抜ける
昔出会ったフランゲリオンというモンスター
青く、透き通るような美しい外見に
人間は恐れ、魔物は憧れる無尽の強さ
純粋に羨ましかった
だが醜い自分が"純粋"という言葉を使う事にさえ疑問を感じた・・・
なぜ自分はこんなに醜いのだろうか

「おやじ」
「お父さん」
「パパ」
そんな彼の唯一の希望がこの3匹の息子達だった
息子達が自分のような立派なディドになれるように
それだけが人生の楽しみだった

立派なディド・・・

彼の心はとまる
疑問がいつも頭をめぐり
醜さというものが検問のように頭の中で待ち伏せていた

立派なディドとは何なのか
ディストの事だという奴がいる。
ディストってなんだ。
なぜ成長したら呼び名が変わるのだ。
それが立派という事の証明なのか、
いや、まずその前にディドごときの何が立派なのか・・・
まず自分に立派なところなんてあったか・・・
自分が立派だと思えないのに息子達がどう立派になろうか
醜い者はいつまでも醜いままなのか

そんな疑問で自分を責めながら
この醜い黄色の体を憎みながら
毎日が過ぎていった








息子が一匹殺された

本当に普通の日だった。
モンスターとして生まれ
弱者として存在しているからには
いつかは起きるかもしれないと思っていたが
起こらないで欲しいと思っていた出来事だった

他の二匹の息子が言うには
青い格好をした人間にやられたそうだ
人間にとってはディドの一匹殺した程度たいした問題ではないだろう
あいつら人間は、散歩の途中に目の前に虫が通っただけでも死罪を与える。
我らディドを殺す程度ナンとも思ってないだろう。
むしろ殺した罪悪感より排除した満足感を得るものが多いほどだろう

だが、私のとっては大事な大事な息子を殺されたのだ。
いきどころのない悲しさに見舞われた
ぶつけどころのない怒りに見舞われた
だが
私ごときが怒り狂ったから
それがなんだというのだ
どうやったって私ごときが人間に適う訳がない
”醜き弱者”
その言葉がまた頭をよぎった
その言葉の前では
仇討ちという選択は自分にはなく
ただ涙を流すしかなかった
涙を流す自分さえ愚かに思えた
なぜ自分はこんなに無力で
なぜ自分はこんなに醜いのだ

「おやじ」
「パパ」

残りの息子達が強いまなざしで私の方を見る

「俺たちあいつの仇討ちにいってくるよ」

嫌な予感はしていた
言い出すんじゃないだろうかという

「やめろ。お前達二匹が向かったところで何になる」

ただ死にに行くだけだ
醜い行為だ・・・
無駄な・・ただただ無駄な行為だ・・
とめなければならない

「でもあいつのために何もしないでは・・・・・いられないんだ!」
「とめないで!」

そういって息子たちは巣を飛び出した
弱さを象徴するような細い足を全開まで動かして
その姿は親として息子達の立派に誇りをもった
だがそれもすぐ消えた
弱い、醜い
それを思うとさきほどまで立派に見えた息子達も愚かに見えた

だが追いかけた
息子達を追いかけた
追いかけた

走っていると
先ほどまで考えていた事は全て吹っ飛んだ
そんな他愛のない悩みより
息子達を失う事のほうが恐ろしかったからだ
あの子達まで失ったら・・
自分は何を糧に生きていけばいいというのだ
あの子達が自分の生きる全てなのに
醜い人生の唯一の輝きなのに

そう思うと怖くて怖くてたまらなかった
今まででこんなに必死になったのは初めてだった
まだ純粋という言葉に後ろめたさがあったが
今はただただ純粋に息子たちが心配だった


半日走った

短い前足と
長い後ろ足は
どちらももう限界がきていた
ちぎれとびそうだった
だがそんな事はたいした問題じゃない
息子たちはどこだ
どうか無事でいてくれ
その気持ちが自分限界を麻痺させていた

遠目にふと人間が見えた
全身を青い格好で包んでいる
・・・あの人間だ
瞬時に息子を殺された怒りが込みあがったが
他の息子たちを探す方が先決だと
心を静めた
それにここで飛びついたところで自分にはどうする事もできない

ただ・・・
ただまだ息子たちがあの人間に出会ってなければいいが

不安がつのる

ふとその人間の足元に目をやった



・・・目をつむりたかった



そこには2匹の息子の体が4つになって転がっていた

泣いた
ただ叫び泣いた
醜い顔から美しい涙が垂れる。
その美しい涙は醜いディドの顔をさらに醜いものにした

怒りと悲しみで我を失った
生きる目的を失った
たった3つの宝物を失った
・・・もう失うものなどなかった

気づけば私はなにか叫びながら人間に突き進んでいた

人間にぶつかった

吹っ飛んだのは私の方だった
当たり前だった

「ワッツ?またディド公かよ」

人間が何かしゃべってるが言葉が分からない
だが今はどうせ何を聞いてもうまく聞き取れる自信もないが

「人間め!よくも私の息子たちを!」
「OH・・・my god、ディド語しゃべってやがる Fxxk!!」
「ゆるさん!ゆるさんぞ!」
「何言ってるかドンツアンダスタンってんだ・・・・・・・・・・DAMDAM・・・Fxxk・・・・」


人間が青いダガーを私に振り下ろした




その瞬間

目の前が真っ白になった
いや、まわりも真っ白だ
ここはどこだ
なんだ?
夢なのか?

もしかして私は死んだのか?



「お前にチャンスをやろう」


目の前に一匹のネクロがいた


「お前生き方を選択させてやる」


よく分からないが・・それなら力をくれ・・

あの憎き人間を倒せる力を・・・



「与えるのでない。選択させてやるといっているのだ。さぁ、選べ。
 強く美しいフランゲリオン 弱く醜いディド。お前はどちらになりたい」




・・・・





目の前の景色がもとに戻った
今のはなんだったんだ
夢だったのか
と思った瞬間

「..........xxk!!!」


自分が斬られたことを思い出した

「シット!クロス(服)がブラッド(血)で汚れた!」

視界が暗くなっていった
だが生きる目的がなくなった今
死ぬ事に疑問はなかった
醜き弱者としての人生はやっと終えれる
そして息子たちに会いに行ける

薄れ行く意識の中
彼は最後に一言つぶやいた



「次は私と息子たちがもっと美しく生まれますように」


















「与えるのでない。選択させてやるといっているのだ。さぁ、選べ。
 強く美しいフランゲリオン 弱く醜いディド。お前はどちらになりたい」



「じゃぁ・・・
  ディドの体だ!あの子たちと同じ!あの子たちの親であった証明の体だ!」





ディドが斬られる瞬間見たネクロの選択は

夢だったのか

現実だったのか

それは分からないが
だがそれはどちらだっていい事だ


彼はどちらにしろ
ディドとして生き
ディドとして死んだのだから















                 






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