彼の名前はブレーブ。

『ルエンの大右腕』と呼ばれ
広場を歩く様は誰もが恐怖で顔をこわばらせる。



そんな彼がルエンと出合う前の話。








「ここがルアスか。でっけぇなぁカブ」
「イィ!」

ルアスの南西の門をくぐるブレーブ。
彼が町に出てきたのは実に数年ぶりである。

普段はルアスの森で暮らしていた。
山ではないが俗に言う山賊というやつだろうか。
人から物を奪ったり
森の動物やモンスターを食べて生活していた。
ルアスの森のモンスターは弱い。
さらに狩り・修行に来る人間も弱い。
山賊にとってこれほどの好位置はなかった。

だが最近ルアスの森も住みにくくなった。
モンスターの数が一気に増えたのだ。

俗世と離れていたブレーブは知らなかったが
理由は最近騎士団が潰れたからである。

騎士団は「町を守る」という建前のためだけにモンスターの討伐を行っていた。
だがそれも多大な人員と税金を使うだけの愚かな活動であった。
討伐に出るのは大体が近場であるルアスの森だけである。
たしかに町の安全に貢献はしているが
騎士団が民へ請求する税金などの要求と等価の活躍ではなかった。
ただ、あくまで正義という名のついた建前の活動である。

そんなほぼ無意味なモンスター排除活動だったが
いざ無くなると森に住む者としてはつらい。
税金を払っていない物が文句をいうわけにはいかないが。
朝起きたら家の中がプロブやディドだらけじゃぁたまらない。
さすがにもう住んではいられなかった。
ルアスには《モスディドバスターズ》なんていう業者もあるらしい
前襲った戦士の荷物の中にそういうチラシがあった。
駆除を頼めば大抵の間は快適な生活を送れるってウワサである。

モンスターはドンドン沸いてくる。
何回も頼んでいられない。
何より生活に必要なのでグロッド(金)という物を持っていない。

そんなこんなでブレーブとカブは、数年ぶりに町で生活しようという事だった。

「で、どうするよカブ」
「ぎ?」
「これからどうやって生きていくべきだ?」
「だぁ・・・」

「今まで通り人から奪って行く生活が合ってるよな!」
「な!」
「まてよ」
「ぎ?」
「ルアスは商業の発達した都市だとか聞いた事あんな」
「なぁー」
「じゃぁ頑張って人見つけてあーだこーだって金奪わなくても
 適当に露店に座ってるだけで大もうけなんじゃねぇか!?」
「か?!か?!」

「よっしゃ!そうすっかカブ!さっそく名物の中央広場にでも行ってみようぜ!」
「ぜぇー!」

ブレーブはカブを肩に乗っけて中央広場へと向かった。
ルアス道なんて知らなかったが、
途中ですれ違った人間をカツアゲしがてら道をたずねた。
ブレーブのゴツく大きな体を見ればみな素直に手持ちの物を差し出す。
一石二鳥というやつだ。

そしてなんやかんやでブレーブとカブは広場に辿り着いた。

「なんか思ってたのと違うなカブ」
「むぅー」

ブレーブの予想では広場はガヤガヤと賑わい。
騒々しいようなうるささがあると思っていた。
だが広い広場の中にはポツンポツンと露店があるだけだった。
活気という言葉とはほど遠い光景だ。

「まぁ今日はたまたま少ないんだろ」
「ろ・・・」
「まぁどうにかなるだろ。なんたって俺らが揃えば無敵だからな!」
「な!」

ブレーブとカブは動物の皮を繋ぎ合わせて作ったボロボロのシートを広げた。
そしてカツアゲして手に入れた数点の商品と
彼らがルアスの森から持ってきた生活道具の数々をシートの上に並べた。

そしてただ客を待った。

待った。

ただ待った

だが、
待てども待てども買い物客は二人の露店に立ち止まらなかった。

「クッソ!なんで売れねぇ!こんないい物ばっかりなのに!」
「に!」
「獣の血は飲めばすっげぇうまいし、モス皮がないと衣生活もできねぇだろが!」
「が!」
「モスハンマーなんて断腸の思いで置いたんだぞ!」


「ククククッ」

「ん?」
「ん?」

誰かの笑い声がした。
その声だけでバカにしているのが分かる。
何がおかしいんだと思い、ブレーブとカブは笑い声のした方を振り向いた。

そこには全身青色の格好をした男が立っていた。

「ヘイ、ユー達マジでそんな物売る気か?」
「当たり前だ!これらを欲しくない奴がいるわけねぇだろが」
「が!」

「オーマガッツ!ユー達の考えマジクレイジーだ」
「あん?」
「あん?」

「今時そんな物にマネーをペイする人はいねぇヨ?」
「んだとコラァ!首をひねるぞ青色野郎!」
「ろぅ!」

「このミーの首を?ハッハ!ナイスジョーク!!」
「なんか訳分からんしゃべり方しやがって!アホかてめぇ!」
「めぇ!」

「ワッツ?今なんて?ワンサゲン」
「アホか死ねよっつたんだ!」
「だ!」

「OH、NO・・・・・・    DAM DAM Fxxk!!!」

突然青い格好をした男はダガーを振り下ろしてきた。
もちろんブレーブに向けてだ。

あまりに突然だった。
あまりに自然だった。
普段から森危険の中で生活してきたブレーブも
それに反応する事はできなかった。

ダガーが音を立てずに刺さった。
露店に血が飛び散った。
おびただしい量の血。

青い男は刺したダガーを抜き、
舌打ちを一回した。

「シット!チビの方にヒットしたか!デカぃ男の方を狙ったのに」

チビの方に。
そう。
狙われたのはブレーブだったが
刺されたのはカブだった。
寸前の所でカブがブレーブをかばったのだった。
カブの胸の傷口から血が流れる。
小さな体のどこにそんな量の血が・・・・・・・・と思うほどに。

「カブ!カブしっかりしろ!」
「ククククッ。まぁいいや。ざまぁねぇヨ」
「んだとこらぁ!」
「気分は落ち着いたヨ。じゃぁなマウンテンゴリラ。シーユー♪」

そういい残して素早い身のこなしでその男は去っていった。
そしてその青色の盗賊の姿はすぐに見えなくなった。

ブレーブは追おうと思った。
が、そんな事をしてもカブの傷は塞がらない。
カブを死なせるわけにいかない。

ブレーブは必死に手当てした。
森の中で生きてきたので、いつも無傷というわけではない。
だから手当てなどは手馴れていた。
配合した薬草や薬でカブの傷はとりあえず塞がった。
血ももう流れてこない。
だが体が冷たい。
だめだ、傷はもういいのにカブの体力がもたない。

「クソォ!町の人間なんざもう信用できねぇ!」

ブレーブはいろいろな考えが頭を駆け巡った。
とにかくこうしていても何も解決はしない。
カブの小さな体を持ち上げ、とりあえず歩いた。
行くあても何もないのに。
人が全然いない広場。
ただでさえいないのに
皆ブレーブの巨漢と血だらけのカブを見ると逃げていった。

ガラの悪いヤサ男がヘルリクシャという物を売ってやると言ってきた。
だがグロッドなんて少しも持っていない。
森の生活は金より物。
さきほどのカツアゲの時も金を取るなんて事は頭になかった。
金がないと知るとそのヤサ男もさっさとどっかに行ってしまった。
すぐに殺して奪えばよかった。

カブ以外に人間なんて信用できない。
ただの他人だ。餌だ。カモだ。
そんな事は分かっていた。
だが今はとにかく他人を頼りたかった。

そんな時。

また声をかけてくるヤツがいた。
そいつは広場の真ん中で唯一、露店じゃなく店を開いていた。
カウンターの中から話しかけてくる。
女だった。

「血だらけじゃないの、ヘルリクシャならあるよ」
「クッソ。てめぇもさっきの男と同じで金がなけりゃぁくれねぇんだろが!」
「それは後で考えるよ。とりあえず飲ませてやりな」

その女はブレーブにヘルリクシャを差し出した。
本当にくれるつもりなのか?
ブレーブはとりあえずそれを奪いとるように受け取った。
そしてカブの口に注ぐ

「カブ!カブ!目を覚ませカブ!」
「一本じゃ足りないね。ほら、体力が回復するまで飲ませてやりな
 どうせ広場(ココ)に来る人がいなくて売れ残ってんだ」

カブにヘルリクシャを注ぎ込む事4本目。
カブの顔色が見る見るよくなっていった。
安全な状態ではないが、とりあえずはもう大丈夫なようだ。

「カブ!もう大丈夫なんだな!」
「・・・・イ・・・・」

「女!あんたのお陰だ!」
「あーあー。いいっての。メチャメチャ高いモンでもないしさ
 売れ残って賞味期限の近い廃棄物だったしね」
「やっぱ売れねぇのか」
「そりゃぁこの客数ではねぇ。昔はここも人でいっぱいだったんだけど・・・」
「俺も商売しても全く売れなかった」
「そりゃぁその商品じゃねぇ、客以前の問題だよ」

ルエンの目線の先はブレーブの荷物だった。
町の人間にはゴミにしか見えない物ばかりだった。

「そ、そうなのかヤッパリ。森で生活してたからサッパリわからん」
「ハハ、見るからにそんな感じだね」
「とりあえずあんたはカブの命の恩人だ。なんか俺に頼み事とかねぇか?」
「はぁ?」
「なんか力になれることはねぇかって聞いてんだ
 人の力になるなんて事は考えたことなかったが、
 とりあえずあんたは人生で初めて俺とカブに優しくしてくれた人間なんだ」
「んな事言って、いざシャバに来たらニッチもサッチもいかないもんだから
 なんか手ごろに仕事でもないかって事でしょ?」
「う」
「大体そんな見るからに力バカって体で商売の手伝いなんて出来るわけないじゃない」
「そんな事いわず!俺たちに何か仕事を!姉御ぉ!」
「あ、姉御ってアンタねぇ・・・あたいにはルエンって名前があんだよ」

だがブレーブは必死にただの商売女相手に拝み倒した。

ルエンは頭をポリポリとかいて困った。
ルエン自身も景気はよくない。
こんなゴクツブシを二人も飼えない。

だが突然ハッと何か思いつき
何やら店の中をガサゴソと漁りだした。

と思ったら"何か"をブレーブ向かって投げた。
その二つの"何か"はカランカランと音を立てて地面に転がった。

「ほら、それをやるよ」
「なんじゃこりゃ?盾?」
「あぁ、あんた達はそれであたいの用心棒になってくれよ」
「用心棒・・・」
「あぁ、騎士団のいない最近の世の中は物騒なのよ。ちょっと心配でねぇ」

「用心棒!ガハハ!俺にピッタリだ!」

ブレーブは二つの盾を拾い。
両手で持ち、それをガンガンっ!と打ち付けた。

「ちょ、ちょっと何やってんだいアンタ!
 二つあげたのはそこのチビとあんたで一人に一個づつって事だよ!」
「二つあればもっと姉御を守れるだろ?」
「・・・・ハァ。単純な計算しかできないんだねアンタ・・・まぁヨロシクね」
「おぅ!姉御!」

ブレーブはまた盾をガンガンッ!とぶつけた。
安物の盾はそれだけで壊れそうだった。

「姉御!いいこと思いついた!俺らが広場を守ったら客も増えるんじゃないか?!」
「そんな事やったって無駄だよ・・・・」
「んなこたねぇよ!俺たちがここに来たように
 人はなんだかんだで安全なとこに行きたいもんだぜ!」
「無駄だって・・・増えやしないよ」
「わかんねぇだろが!とりあえずやってみろよ!」
「・・・・そうねやってみなきゃわかんないわね」

「俺が言うのもなんだが悪い奴からはついでに金とったらどうだ?
 さっき分かったんだ。人からは物より金を取るべきなんだ」
「ダメよ。あたいの広場をそんな野蛮な取締りにかける訳にはいかないわ」
「あぁん?なに甘い事言ってんだ。世の中力で何かを奪い取るもんだ。
 それは森もルアス(ココ)も一緒だ。姉御は金が欲しくないのか?」
「・・・・・欲しくなくはないけど」
「そうだ!他の店全部壊したらどうだ!姉御の店以外全部壊しちまうんだ!
 人の事なんか知ったこっちゃねぇ!姉御の店しかなけりゃみんなココで買い物するぜ!」
「いや、あたいの店はどうでもいいんだ。でもそれなら広場に人も増えるだろうね」
「お?だろ!?よっしゃ決まり!じゃぁ早速やるか!」
「まってまって!あたいは騎士団のように人を苦しめていくつもりはないわ」
「ハァ?騎士団ってのが何かよく知らねぇが、そりゃぁ甘い考えだ姉御
 何度言わせるんだ。人の事なんか知った事じゃねぇ。要は自分が生きれるかどうかだぜ?」
「親交・・・っていうのかな。森に住んでると分からない町だけの形があるのよ」
「そうなのか。まぁする気になったらいつでも俺たちを使えよ!
 殴る!壊す!奪う!これらは俺たちの専売特許よ!
 それになんてったって今日から俺たちは姉御の手となって動くんだからよ!」
「手?それは頼もしいはね。あたいの非力な手が一気にムキムキになったみたい。
 二人だから両腕ね。両腕として働くってとても響きがいいわ」
「おう!じゃぁ早速店を壊しにいくか!」
「だーかーらー。あんた達はただのあたいの用心棒だって!」




その日からだった。

ルエンが両脇に二人の男を並べて広場を歩くようになったのは、

ただただ無欲に広場の事を考えての見回りだった。

広場がよくなりますように

ただその願いだけでルエンは歩いた。

ルエンがいいならブレーブもそれでいいと思った。




だがその後

悲しくもルエンはブレーブの提案を実行する事となる。

実現しない広場への夢が欲に押しつぶされてしまったのだった。

悲しくもといったが、ブレーブには嬉しい変化だった。





3ヵ月後

悪業はエスカレートする。

すでに広場・・・・いや、ルアスの大部分で権力的に三人にたてつける者はいなくなっていた

ルエンは『悪女』と呼ばれるようになり、

ブレーブとカブはそれぞれ両腕の名で呼ばれるようになる。

カブは『ルエンの小左腕』

ブレーブは『ルエンの大右腕』と









アレックスとドジャーに会うのはさらに半年後だった。



                 






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