ルアス99番街は晴れていた。
だが空は青色というのに、灰色の街
人の心も灰色に染まったような街。
生死さまよう自給自足
人の命は奪い奪われで行き来していた。

そんな街の中に二人の少年。
ドジャーとメッツという名の少年だった。

小さな家の屋根の下。
一緒に暮らす二人の少年。
二人の少年は出会ってから一月ほどの時間がたっていた。


この日も、灰色の街の中、青い空の下。
少年達はウッドダガーを突き出していた。


「なんかだせ!」
「か、金を出せ!」

「まったく、またあんたらかイタズラ坊's」

ドジャーとメッツの目の前の一人の女性。
煙草を口にくわえたまま、面倒くさそうにその女性は言った。

「毎回毎回私につっかかってこないでよ」

その女性は小さなドジャーとメッツの背中を掴み、
両手で吊り上げた。

「こ、こら!」
「はなせ!」

ドジャーとメッツは女性の手にぶら下げられながら
ジタバタともがいた。

「俺は天下のドジャー様だぞ!」
「メッツ様だぞ!」

「あら、ドジャーも"俺"って言うようになったの?」

女性の煙草をくわえた口がそう言った。

「フン!メッツが俺って言ってるのに俺は僕じゃカッコ悪いじゃんか!」

ドジャーはぶら下がったまま腕を組んで言った。

「はいはい。生意気ね。メッツも最初は大人しかったのに
 言葉遣いからして最近ドジャーの生意気さがうつってきたわね」

メッツはポリポリと照れくさそうに頭をかいたあと、
ハッとして言う。

「う、うるさい!金出せ!ティル姉ちゃん!」

「・・・・・はぁ・・・・・・・これだからガキは嫌いだわ・・・・」

ティルと呼ばれた女性は両手をパッと離す。
ドジャーとメッツは地面に落ち、しりもちをついた。

「いててて・・・・」
「急に離すなよ!」

「離せっていったじゃないのもぅ」

「とにかく金出せ!」
「そうだ金出せ!」

ティルはハァとため息をついた。
そして懐から少量のグロッド金貨を取り出し、
ドジャーとメッツの目の前に放り落とした。

「それだけあればまた当分もつでしょ」

「やったねドジャー!」
「はは!また来るからなティル姉!」

「はぁ・・・・・もう来ないでいいわ」

ティル姉はドジャーとメッツの額にデコピンをした後、
自分の髪をクシャクシャとかき乱し、歩いてどっかいってしまった。

「今日も俺達の勝ちだなメッツ!」
「そうだねドジャー!」

小銭を手にしながらドジャーとメッツは小さな手でハイタッチをした。



ドジャーとメッツは定期的にティルの所へ訪れていた。
理由はそう難しいことではない。
まずなんだかんだ言って小さなドジャーとメッツは99番街の大人の男は怖かったのだ。
どこかで生きるためのお金を手に入れなければいけないが
子供さえ何とも思わず殺してしまうような人達には近づくのにもチビりそうになる。
いや、実際チビった事さえある。
とにかくゴメンだった。
だから二人は女性であるティルにつっかかるのだった。

ティルはなんだかんだいってドジャーとメッツにお金をあげた。
お小遣いのようなものだ。
子供は嫌いだと言っているが、その辺の事はよくわからなかった。

ティルは20を過ぎただろう女性だった。
だが実際のところはどれくらいなのか分からない。
というより詳しい事は何一つ分からなかった。
理由があってこんな街にいるのか、それとも生まれつきここにいるのか分からない。
だが、どちらかというと染めたような金髪。
軽く釣りあがった眉毛の下の藍色の目。
いつもくわえている煙草。
ドジャーはいつもヤンキー姉ちゃんだと言っていた。
そういつも。
ドジャーとメッツはたびたびティルの話をしていた。
何も言わないがドジャーとメッツはティルの事が好きだった。


今日はティル姉の家に遊びに行っていた。


「まったく。家にまで押しかけないでよイタズラ坊's」

「えー。だってねぇドジャー」
「うん。ティル姉も一人でヒマなんだろ?」

「言うほどヒマじゃないわよ。主婦をなめんなよ」

ティルは結婚していた。
といっても一人暮らしだ。
夫は死んだらしい。
理由はわからないが
こんな荒れくれた99番街だ。
理由なんてそこらへんに吐いて捨てるほど転がっていた。

「いいからなんか出せティル姉!」
「なんかちょーだい」

「またそれか・・・・・」

ティル姉はキッチンでフライパンを転がしながら言った。
手際がいい。
そこだけ見るとさすが主婦といった感じだった。

フライパンをテーブルへ運びながらティルは言った。

「ほれ、ハンバーグだイタズラ坊's。食え食え」

二つの皿にハンバーグを並べる。
言葉と裏腹に用意してあったようだった。

「またノカン肉のハンバーグかよー」
「俺は好きだけど・・・・・」
「お、俺だって嫌いじゃないけど!」

ドジャーとメッツは一瞬目を合わせて間をおいた後、
一気に皿にむしゃぶりついた。
フォークだけでガツガツとノカン肉のハンバーグに食いつく。

「それ食ったら帰れよ坊's、ヒマじゃないんだからね」

ティルは煙草に火を点け、
むしゃぶりつく二人の少年をながめていた。

「いやだ!しょうがないからもうちょっとここにいる!」

ドジャーは口をハンバーグのソースで汚しながら言った。

「わけわからんわ・・・・これだからガキは嫌いよ・・・・」

ティルは煙と一緒にため息を吐いた。
灰を落とす灰皿には溢れるほどの吸殻が溜まっていた。

「ティル姉ちゃんティル姉ちゃん」

「なんだいクソガキ2号のメッツ」

「ティル姉ちゃん最近太ったんじゃない?」
「あ、ほんとだ。太った!デブ姉!」

「うるせぇクソガキ」

ティル姉は煙草をくわえたまま指をつきあげた。








数日後

ドジャーとメッツは99番街を散歩していた。

いつも通りの暗い路地裏。
灰色の町並みに元気はなかった。
だが99番街はこれが普通だった。


「ねぇドジャー。あれティル姉ちゃんじゃない?」
「お、ほんとだ。ティル姉だ」


路地裏で一際目立つ金髪の女性。
タバコをくわえたまま立っている。
そして目の前に一人の男がしりもちをついていた。
ティルはその男を蹴飛ばして言った。

「99番街の主婦をなめんなよ」

タバコをその男の方に吐き捨てる。
男はなさけない悲鳴をあげながら逃げていった。

「でた、やっぱティル姉ヤンキーだ」
「ティル姉ちゃんこえー」

「またイタズラ坊'sか。こんなとこで何してんのよ」

「散歩ー」
「サンポー」

「こんな街を散歩して何が楽しいんだかねぇ、ガキの考えることは分からんわ・・・」

ティル姉はタバコに火をつけた。
そして上へ向かって煙を吐く。

「こんな変わらない街より変わるものをみなさいよ。あの空みたいなね」

灰色の街の上に浮かぶ青い空。
ティルはそれを見上げた。

「空なんて毎日変わらないじゃんか」
「楽しくないよー」

「・・・・・そうかもね」

ティルはそれでも青い空を見上げていた。

「変わるものって言えばティル姉ちゃん。また太ったんじゃない?」
「おぉ、ほんとだ」

ドジャーとメッツはティルのお腹を見ていった。

怒ると思ったが、
そうならなかった。
ティルは少し黙った後、自分の腹を撫で回す。
そして煙を吐き出し、
数秒の間をおいてから言った。

「ガキが生まれるんだとよ」

ティルは金髪を軽くかきむしりながら言う。
柄じゃないとでもいいたそうだった。

「ガキ?」
「ティル姉ちゃん赤ちゃんが生まれるの?」

「らしいわ」

言いながらティルは空を見ながらボーっとしていた。
灰を落とすのを忘れている。

「ねぇ、ティル姉。赤ちゃんどこから来るの?」

「あぁ!!??」

ティルの口から灰が落ちた。
いや、煙草ごと落ちた。
碧い目が点になっている。
そしてドジャーとメッツからそんな目線をはずし
困ったように金髪をかきむしった。

また空を見上げる。
そして思いついたように言った。

「あぁー・・・・・あ、あれだ。上、空だよ空。空からだ」

「空?落ちてくんの?」

「い、いや、鳥が運んでくるんだよ。コウノトリってやつだ・・・・・」

ティルは目を反らしながら言った。

「鳥が運んでくるのかー」
「俺もコウノトリが99番街に落としていったのかな」
「あ、じゃぁ俺の母ちゃんと父チャンは鳥だったのか」
「じゃぁドジャーも鳥なんだね」
「おぉ!そうか!大きくなったら飛べるんかな!」
「あれ?でも今赤ちゃんはティル姉のお腹の中にいるんだよね?」
「・・・・あれ?」

「い゙・・・・・」

ドジャーとメッツは不思議そうにティルを見る。
ティルは困る。
そしてまた言い訳を考えて言った。

「あ、赤ちゃんはな・・・う、生まれながらにしてウィザードゲートが使えるんだよ」

「「なるほどーー」」

ドジャーとメッツは勉強になったと関心した。

「ったく・・・・これだからガキは嫌いだ・・・・」

「ガキは嫌いガキは嫌いってティル姉」
「ティル姉ちゃんにも子供ができるんだよ」
「ティル姉の赤ちゃんも嫌いなの?」

「ん・・・・・」

ティルは少し考えた。

「たしかにそうだな。私にガキができるんだな
 ま、よくわかんねぇや。生まれてから考えるよ」

「ふーん」
「ティル姉ちゃん!また遊びに行くからね!」

「来んなクソ坊's!」

そう言ってティルは帰っていった。




この次の日。
ドジャーとメッツが遊びに行ってもティルはいなかった。

その次の日も

そのまた次の日もだった。

そんなこんなで一月がたち

二月がたち



半年の時がたったところまでは覚えていた。



ドジャーとメッツはティルの事を忘れた頃だった。



たまたま99番街の街角で
ドジャー達とティルは会った。


「ひさしぶりだなドジャー、メッツ」

「ん?」
「誰お姉ちゃん」

「あん?忘れたのかクソ坊's」

ドジャーとメッツは顔を見合わせる。

「もしかして」
「ティル姉!?」

「そうだ。文句あっか?」

ドジャーとメッツが気づかないのも無理はなかった。

ティルは金髪じゃなく黒髪だった。
碧い目はそのままだが、
身なりも清楚な感じに変わっている。
そしてその手に抱く・・・

「赤ちゃん?!」
「ティル姉の?」

「そうそう」

ドジャーとメッツは恐る恐るティルの手に抱かれる赤ん坊をのぞく。
そこには静かに寝息をたてる赤ん坊。
ドジャーとメッツは赤ちゃんというものを初めてみた。
ドジャーがつんつんとほっぺをつつく。

「やらけぇ〜・・・・」

「前にお前らに会った後ミルレス白十字病院にいったんだよ
 めんどいからそのまま入院したんさ」

「そだったのかー」
「どうしたのかと思ってた」
「ねぇ名前何?」

「あー・・・決まってないね」

「じゃぁメッツにしよメッツ!」

「なんであんたと同じ名前にしなきゃなんないのよ。それにこの子は女の子だ」

「はー・・・」
「女の子かー・・・・」
「じゃぁメッコかな」

「アホかお前ら・・・」

ドジャーとメッツはニシシと笑った。

「そういえばティル姉ちゃん煙草やめたんだね」
「おぉ、そういえば」

「あぁ、ガキによくないらしい」

「ふーん。かっこよかったのに」
「かもなぁー」
「俺も吸ってみたいなー」

「煙草は王国騎士団の条例で20歳になるまで吸えませんー。残念だねメッツ」

「そんなん守ってるやつこの街にいないよー」
「決めた!俺煙草吸いたい!かっこいいしね!」

「やめとけメッツ。あんたの健康を損なう恐れがあるよ・・・・ってか?」

「ティル姉らしくねぇ事言うなー」
「ねー」

「あぁ、かなり落ち着いたかもね」

「元ヤンだね元ヤン」
「ヤンママヤンママ」

「うるせぇクソ坊's!」

「「やっぱ変わってねぇー」」

ドジャーとメッツが腹を抱えて笑う。
そんな二人に向かってティルは指を突き上げてやった。

「ねぇねぇティル姉ちゃん」
「ひさびさだしなんか出せ!」

「・・・・ったく。おめぇらも成長しねぇな。しゃぁねぇ、ウチこい。ハンバーグ作ってやる」

「「しゃぁー!」」


ドジャーとメッツは飛び跳ねた。
そしてティルの周りをぐるぐる回った後、
ティルと一緒に99番街の街を歩く。
大人と二人の子供の影が進む。


「あーあ。ひさびさに帰ってきたけど。この街も変わらないねぇ」

「かもねー」
「散歩コースも変わらないしねー」

「空も・・・・・変わってないわね」

「そんな事ないよー」
「昨日は曇りだったしー」
「こないだは雨だったしー」

「まだまだガキだね」

「ガキだもん」
「あ、でもドジャー。ほら、この間さ」
「え?おぉ、そうだそうだった」

「なんだい?」

「鳥をみたんだー」
「でっかい鳥!」
「綺麗だったよね!」
「白い色してた!」

「ふーん」

「ふーんじゃないよ!」
「あれは前ティル姉が言ってたコウノトリかもって二人で言ってたんだ!」
「前の満月の日くらいだったよね」

「へぇ、調度この子が生まれた日くらいだね」

ティルは眠る赤ちゃんの頭をソっと撫でる。
そしてニコりと笑った。
昔はあまり見なかった表情だった。

変わらない街並みの99番街。
だが人は刻々と変わっている。
ドジャーもメッツもティルもみんな変わっている。

「お、あれじゃないかメッツ!」
「あ、そうかも!」

同じようで毎日変わる空色。

そんな空色の中に
ソッと白い鳥が羽ばたいた。

青い空の中
白い雲にまぎれながら飛ぶ白い鳥。
それは遠くまで飛んでいき、
青い空へと混ざりこんでしまった。

それも見ると
まるで鳥が青い鳥になったようにも見えた。。

「ドジャー、メッツ。あんたらもあの鳥と一緒なのよ」

「え?」
「やっぱ俺って鳥なのか?」

「ううん」

「よくわかんない」
「意味ふー」

雪のような"真っ白"。
何もないから真っ白。
人は"真っ白"で生まれる
何もできない。どこへも羽ばたけない。
しかしもがき、
羽ばたこうと成長し、

そして羽ばたいて青い空へと混ざっていく。

それは白い雪模様の冬が
青く晴れ晴れとした春へと変わるがごとく。

それを人は"青"春と呼ぶらしい。



「なぁ、ドジャー。メッツ」

「ん?」
「何?ティル姉ちゃん」

「私はね、別にガキが嫌いじゃないらしい」

「「ふーん。知ってたけど」」

「まったく生意気ね・・・・」



"真っ白"を運ぶため"青"い空を泳ぐ鳥。


コウノトリと呼ばれる白い鳥。


それは幸せを運ぶ鳥らしい。










                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送