王座の扉が開く。

そこは赤い絨毯が真っ直ぐのびただだっ広い部屋だった。

「王座っつっても高級なようで素っ気無い部屋だな」
「そう言わないでくださいよ。これでも王国騎士団の本拠地ルアス城。
 その最上階。一般人がここに足を踏み入れるなんて普通はない事なんですから
 ・・・・・・・一年前の攻城戦までは」

アレックスは目の前を見渡す。
そこには多くの白骨が散乱していた。
いや、ここだけではない。王座前のホールにも。
そして入り口や階段にもあった。

気づかないフリをしていた。
目をそらしていた。
自分の事を思うと、その白骨達を見ていられなかった。

何の白骨かは分からないはずがない。
一年前の攻城戦のまま
誇り高き騎士たちの骨が残っているのだ。

外はほとんどモンスターに食べられてしまったようだが、
場内にはありありと騎士達がいまだに横たわっているのだ。
得にこの王座にある数はおびただしい。
最後の最後まで戦い抜いたという証でもある。

そして何故自分だけ生きているのかと言ってるようにも見えた

「・・・・・おめぇはなんとなく過去を引きずらない性格だと思ってたが?」

ドジャーが言う。
少し雰囲気を察知したようだ。

ドジャーさんはいつもめざといというか・・・・

アレックスは笑った。
少し楽になった。

「そうですね。僕はご飯食べたらつらい事も全部忘れちゃいますよ」
「カカカッ!飯のメニューは覚えてるくせにな!」

これは忘れちゃいけない事だけど・・・・
とりあえず今はその話は忘れよう。

アレックスとドジャーは長い長い赤い絨毯の上を歩いた。
一番奥に王座がある。
そこへ続く長い長い絨毯を歩く。

「あいつがカージナルか」

王座の前の小さな段差。
そこに一人の老人が座っていた。
100に近い老人に似つかわしくない鎧を纏っている。

「ここまで来たか、坊主共」

「剣聖ルイス=カージナルさんとお見受けします」

「いかにも」

カージナルがよっこらせとソードを杖代わりに立ち上がる。
それは高貴でスラっとした刃状をしたソード
スワードロングソードであった。

「わしが《ハンドレッズ》のギルドマスター、ルイス=カージナルじゃ」

白いヒゲと白髪。
老人の小さな体。
なぜか動物を思わせるような瞳がこちらを見つめる。
そしてその顔

「あ、あんたまさか・・・・」
「ミルレスの鍛冶屋のルイスさん!?」

「ほぉ、そっちの顔を知っておったか・・・・」

田舎町ミルレスの傍らの鍛冶屋。
武器屋と繋がった鍛冶屋がひとつある。
そこを営む老人。それが鍛冶屋ルイスであった。

「こんな田舎の鍛冶屋の顔を知っておるとは」

「そりゃぁ武器屋と兼業ならまだしも鍛冶屋だけで生きてく野郎なんて少ないからな
 剣にこだわるギルメンがいてな、付き添ってあんたの店に訪れた事がある」
「あなたがが剣聖だったなんて・・・・なんで鍛冶屋のあなたが・・・・・」

カージナルは少し黙った後しゃべりはじめた。

「・・・・・・・剣を打ち続けた人生じゃった
 ただただ鍛冶屋として最強の剣を目指し毎日ハンマーを叩いた
 だが最強の剣とは何か。それを確かめるにはどうしたものか
 誰かが使ってそれがわかるものか。
 いや、剣の向上を望むなら剣を自らが知らなければならん
 だからワシは剣を自らとった。そう、最強の剣をただ望み・・・・」

カージナルは剣をスっと撫でる。

「最強の剣?スワロン(スワードロングソード)がか?」
「ですがスワロンは・・・・・」

「そうスワロンはエンチャができない・・・・・つまり鍛えられない
 じゃがワシのこのスワロン。ワシが生まれた記念に親が打ったこの剣
 これは"忘却のスワードロングソード"というエンチャができるタイプのスワロンじゃ」

カージナルは突然剣を2度振った。
ヒョロリとした老人とは思えない剣さばきであった。

「ワシと共に100年に近い年月を越したこの最強のスワロン
 今日は記念日じゃ。ワシとスワロンは今日この日を越えれば100歳
 そして今日はワシの人生で最後の晴れ舞台となろう。じゃから名づける。
 この日を超えた時。人生を共に生き、どこに出しても恥ずかしくないこの剣に
 ・・・・・・・100年にひとつの名剣。"センチュリーラヴァー"と!」

カージナルは一枚のグロッド金貨を放り投げた。
そして目にも留まらぬ速さで剣を一閃する。
金貨は地面に落ち、
クルクルと回った後、パカリ割れた。

「さぁ始めよう。わしにとって今日は人生最初で最後の祭典じゃ
 そして我が剣を持って幕を閉じよう。人生の世紀末を!」

「チィ!悪ぃがこちとらそっちに売られたケンカを買わされただけなんでね!
 真剣勝負なんてクソ食らえだ!だから二人がかりでいかせてもらうぜ!」
「老人相手に気分は良くないですが・・・・悪く思わないで下さい
 "コレ"が狙いである以上、なにより負けるわけにいかないんです」

「わしの勝手な理屈は述べたが、これは一ギルドと一ギルドの戦いじゃ、
 我がギルメンは負け、その結果ここにワシとお主らがおる。この構図はその結果じゃ
 そしてワシはお前ら二人相手でも負けはせぬ!さぁ来い小僧共!」

「あぁ!ごちそうをくれてやる!!!」

ドジャーは4本のダガーを投げた。
ダガーがカージナルに向かって突き進む。

「ふん!」

カージナルは剣を一振り。
いや、ニ・三振りだろうか。
確認が追いつかないほどの早業で剣を振った。

するとダガーは空中で十数個の破片になって地に落ちた。

「凄い剣さばきだ・・・・」
「たまんねぇなこりゃ・・・・」

「今度はこちらから行くぞ小僧共!」

カージナルが老人とは思えない踏み切りでこちらに近づいてきた。
剣を構えている。
居合い斬りの構え
強力な一閃をしてくる気だ。

ドジャーが腰から新しくダガーを両手に取り出し。
ダガーでガードする構えをとった。

「駄目ですドジャーさん!避けてください!」
「あん?」

アレックスの言葉にドジャーは咄嗟に後ろへ飛んだ。
カージナルがソードで一閃。
それを間一髪で避ける形になる。

「あっぶ・・・」

と思った矢先
ドジャーの手元のダガーが刃の腹からポロリと落ちた。

「うえ、斬られてたってのか・・・・こんなもん食らったら終わりだぜ」
「そうですね・・・・・でも今思いました。だからこそどちらが勝つにしろ勝負は一瞬でしょう」
「カッ!終わったときに俺らの体に首が乗っかってる事を祈るぜ!」

「てぇりゃぁ!」

カージナルは次にアレックスを狙う。
逃げようとするがアレックスは背中に何かがぶつかる。
背後
柱?

一閃。
居合い斬り。
カージナルの剣が斜めの直線を引く。
アレックスは本当に勘だけを頼りにかがんでそれを避けた。
他の避け方をしたら多分終わりだっただろう。

「アレックス!柱が崩れるぞ!」
「え?」

後ろを振り向くと柱に切れ目が入っていた。
小太い柱の上半分がすべり落ちる。
アレックスは柱とカージナルから逃げるように離れた。
そして柱は音を立てて地面に崩れた。

「どうしたどうした小僧共!」

「あの太い柱を・・・・」
「柱にまで剣が通るってのか!クソォ・・・・あれが剣聖の力か・・・・」
「逃げてばっかじゃ無理です!」

アレックスが十字を切る。
パージフレアだ。

「近づくのは危険。なら遠距離でいきます!アーメン!」

カージナルの足元からパージの炎が吹き出す。
が、

「甘いわ坊主!」

カージナルがスワロンを縦に振り落とす。
するとパージの炎が真っ二つの避けた。

「ちょ、なんじゃそりゃ!」
「炎を斬った?!」
「は?!ありえねぇだろ!」
「で、でも見てください!魔法陣にまで切れ目が・・・・」
「聞いた事ねぇぜそんなもん・・・・」
「『ハートスラッシャー』・・・・・。心さえも斬れるというのは伊達じゃないですね」

「そうじゃ!ワシの剣に斬れぬものなどない!」

カージナルは突然剣を振り回す。
いや、これは演舞?
動きながら剣で舞っていた。
美しい舞踏演舞。
そして最後に一閃。
地面に向けて剣を通した。

「今・・・・剣が地面を通り抜けませんでしたか?」
「・・・・・斬ったんだろうよ。まるで豆腐を斬るほどの手ごたえもなさげだったけどな」
「切れ目さえ見えません・・・・」
「クソッ!どれだけ斬れようがこれはどうしようもないだろう!食らいやがれ!」

ドジャーは爆弾を取り出した。
サンドボム。
それをカージナルに向けて投げつける。

「ふん!」

カージナルはヒュン!と剣を突き出した。
そして剣は爆弾を捕らえる。
いや、差し込んだと言うべきか。
剣の先で爆弾はピタリと止まった。

「な、なんで爆発しねぇんだ!」

剣はあまりに鮮やかに爆弾に差し込まれていた。
それはあまりに綺麗すぎる。
美技。
爆弾の中の火薬に何一つの刺激を与えず差し込んだのだった。
カージナルは剣を真上に振り、爆弾を放り投げる。

遅れながら空中で爆弾は爆発した。

「剣を極めるというのはこういう事じゃ坊主
 剣の成長はワシの成長。ワシの成長は剣の成長。一世期の重みを思い知れ!」

大きな踏み込み。
そして横に構えるソード。
来る。居合い斬り

が、避ける事も許されない踏み込みと剣の速さ。

大きく、そして速く振り切られたその剣は
一閃でドジャーの胸を横に切り裂いた。

「チィ!」
「ドジャーさん!」

ドジャーの胸から鮮血が噴出す。
ドジャーは傷口を押さえながら下がる。
アレックスはすぐにヒールを唱えようとしたが、
それも適わない。
カージナルの剣はアレックスを見据えていた。

「食らえ坊主!」

居合い斬り。
ドジャーの時と同じ横振りの一閃。

避け切れないだろう事は分かった。
しかし防ごうとしても、あの剣はダガーや柱さえも切り落とす。
槍で防いでも槍ごとザックリで決まりだ。
つまり・・・・・・防ぐ事はできない。
しかし、

「斬れない所を狙うまでです!」

アレックスは槍を振り上げ、
そして振り落した。
そう、ソードの刃部は危険だが、
横に振られたソードを上から・・・・ソードの腹を叩き落せば

「甘いわ坊主!」

突然カージナルのソードがピタリと止まる。
振りぬく動作の途中で剣とカージナルの体が時が止まったように静止した。

「な!」

ジャストのタイミングで剣を叩き落すはずだったアレックスだが、
空振り。
勢いは止まらず槍を振り落としてしまった。

「ふん!」

そして止まった状態からそのまま居合い斬りは再開された。
振り切られたソードは
アレックスの首下から胸上を切り裂く。

「うぐ・・・・」

アレックスは下がりながら血の出る傷口を押さえる。
そしてひどい傷口に直接ヒールを流し込んだ。

「あの鋭い一閃を途中で止めるなんて・・・・」

「若いな坊主。居合い斬りは通常そういうものじゃ。
 鋭い最大限の一閃を初速から振り切りまで継続させるため、
 居合い斬りの修行は普通何段階にも分けて停止、振り切りを反復させるのじゃ
 近頃の若い剣士はそれを写真(SS)撮影なんかに使っとるがの」

「チィ!マジ剣聖は伊達じゃねぇな!」
「ドジャーさん・・・・」
「あん?」
「駄目もとで一瞬にかけます」
「一瞬に?」
「わずかな隙。それを作り出してそこをつく・・・・それしかないです」
「カッ!あのジジィが隙なんてそうそう作ってくれるわけ・・・・」
「だから・・・・・・・できるとしてたった一回のチャンス。それをものにするしかありません
 耳をかしてください。たった一瞬の隙を作ります。
 たいした作戦じゃありませんが凝れば凝るほど作戦は失敗するものです」
「カッ!もうなんでもござれだ」
 








                 






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