「まったくドジャーさんは・・・・・。いくなら右の階段に決まってるじゃないですか
 左右で悩んだ時は"オハシを持つ手の方"に決まってます」

長い長い螺旋階段。
アレックスはそこをひたすら昇り続けた。

階段とはいえ城内を走ると思い出す。
いや、懐かしい。
廃墟と化してもここは自分が毎日いた城に変わりなかった。

「ここに戻ってくる日が来るとは思わなかったなぁ」

螺旋階段をただただ昇る。
いろいろな思い出も駆け上る

そんな中。
ふと、
何かの音に気がついた。

何か地響きのような
なんの音だろうか・・・・

「?・・・・どこかが崩れたのかな?」

いや違った。
その地響き
その音はどんどん・・・・・
どんどんどんどん大きくなってきている。

「何かが近づいてる!?」

そしてアレックスはその何か目にした

「お、大岩!?」

狭い階段を大岩が転がり落ちてきたのだ。

アレックスはすぐさま体をひるがえし、進行方向を逆にした。
転びそうになりながら来た階段を逆戻りする。
そして途中の階に逃げ込み、
階段を転がり落ちる大岩からなんとか逃げ延びた。

「城にこんなトラップあったっけ・・・・」

また地響きが近づいてくる。
階の入り口からアレックスは階段をソっと覗き確認する。
そんなアレックスの目の前を大岩は転がり落ちていった。
階段を降りていく大岩を見て思う。

「ちょっと隙間はあるかな・・・・」

大岩が大きく、
それでいて階段は狭いが、
それでも隙間がある事を確認した。
螺旋階段の内側に張り付くようにしていけば
なんとか大岩にペッシャンは避けられそうだ。

アレックスは勇気を出して螺旋階段の内側に張り付く。
そしてゆっくり上がっていった。
階段を大岩が転がり落ちてきた。
そしてアレックスの目の前を素通りしていく。

「こんな大岩に潰されたら・・・・・」

そんな事を考えながらも
アレックスは階段の内側に張り付きながらゆっくり昇っていく。

どれだけ昇っただろうか。
どれだけの大岩が転がり落ちてきただろうか。
そして落ちてくるたびアレックスの横すれすれを通り過ぎていく。

仕事をしていた城ゆえに今の自分の位置は分かっていた。
もうあと1階分の短い階段を昇れば最上階だ。
だが問題があった。

アレックスは最上階の前の階で階段から出た。
最後の一階分の短い階段。
最後のこの階段は真っ直ぐなのだが、
ここは今までより狭いのだ。
大岩とジャストサイズと言ってもいい。
まるで大岩を転がすために設計されたような階段だ。

ふと、アレックスは階段の上を見る。
最後の階段は短い上にまっすぐなため、
この階からでも最上階は見えるのだ。
階段の上。
そこには一人の男が立っていた。

「よぉ、あんたがアレックスだな」

階段の上の男が言う。
格好からするに魔術師だろう。

「どなたですか?」
「俺ぁティガー。《ハンドレッズ》の魔術師
 『ライカローリングストーン』のミック・ティガー様だ」

ティガーという男は大きな舌を出しながら言う。
まるでディドのように大きな舌だ。

それよりもローリングストーン。
魔術師のスペルである。
というと先ほどまでの大岩は全部魔法だったという事である。

一つの階をはさみ、
階段の上と下で
アレックスとティガーという男は会話する。

「もしかして城の入り口が大岩で塞がれていたのもあなたの仕業ですか」
「ピンポーン。正解。すっげぇだろ?」
「ただのローリングストーンじゃないですか
 魔術師としてはそこまで上級魔法ではないですよ」
「甘いな、甘いぜアレックスさんよぉ。
 "ローリングストーン"・・・・・・こんなに熱いスペルはねぇ。なぜか?」

ティガーという男はまた大きな舌を出して言った。

「物質の実体化。ローリングストーンは魔術師のスペルの中で唯一ソレを行うスペルだ
 点いて消える炎とも違う。光って消える稲妻とも違う。
 無から有を作る。これが魔法でなくてなんだ?どうだすげぇだろ?
 たとえば城の入り口を塞ぐなんてこれ以外のスペルじゃできねぇぜ?」

なるほど・・・・
まぁ一理あるなぁ
子供の頃、ポンッ!ってお菓子やお小遣いを出せたらって思ったし。
もしお菓子がいつでも出せたら・・・
そんなステキな魔法はないよなぁ・・・・

アレックスの想像と裏腹にティガーの話は進む。

「使ったら消える。そんな情けないスペルとは違う!だから俺はローリングストーンを使う!
 分かるか俺のこだわりをよぉ!だから俺は死ぬまで岩ころがし(ロックンローラー)だ!」

ティガーがローリングストーンを唱える。
そして突如あらわれた大岩が階段を転がり落ちてくる。
アレックスは下の階に逃げ込んでいるから大丈夫だが、
大岩はドンドン階段の下へと転がり落ちていった。

「どうだ大岩(ロック)の力はよ!のぼってこれないだろ?
 ついでにオメェ俺の事をうぬぼれた魔術師だと思ったろ?違うね!
 全ては自分を知る事から始まる。ロックの道はそれからだ
 俺のローリングストーンの長所を最大限に利用する。それが階段(ココ)だ!」

ティガーが舌を出しながら真下(階段)を指差した。

理に・・・かなっていた。
ローリングストーンにこだわっているだけはある。
ここからローリングストーンを転がせば上から下まで階段上全部が効果範囲だ
そんな事をできるのはこのスペルしかない。

「さぁて。硬直状態だな、出て来いよ騎士さんよ。上がって来いよ階段をよ
 ダメもとで来るしかないんじゃねぇか?他に道がないんだからな」
「いやですね。危険ってのはゴメンこうむります。
 それに・・・・・手が無いってわけじゃぁないんですよ」

アレックスは左手で空中に十字を画いた。
そして階段上を指差す。
ティガーの足元にパージフレアの魔方陣が浮き出た。

「アーメン」

アレックスが指をあげると同時にパージフレアの青白い炎が吹き出す。
しかしティガーはそれを簡単に避けてしまった。

「残念だアレックスとやらよぉ。パージなんて遅くさいスペルが当たるかよ
 というよりこの場所で俺に攻撃を当てるなんて無理だね
 自身を知る事が始まると言ったろが、俺は防御面も考えてこの場所を選んだんだぜ?
 この距離、そして階段の下からしか攻撃こないとわかればどんな攻撃も簡単に避けれる
 さぁ!はやく大岩(ロック)の力に平伏しな!ペシャンコって形でよ!」

ティガーがまた舌を出しながら大岩(ローリングストーン)を転がしてくる。
アレックスは下の階にひっこみ、それを避けるしかなかった。

「俺は死ぬまで岩ころがし(ロックンローラー)!
 転がる岩には苔は生えない(ローリングストーン・ギャザー・ノー・モス)!
 つまり俺は進み続けるんだ(ロック・イズ・ネヴァーダイ)!」

舌を出しながらティガーは中指を立てて言う。

ティガーの言う事は戯言ではなかった。
自分をよく知っている。
ローリングストーンの特性を最大限に利用してきている。
ティガーに対抗する方法はないのか・・・・

いや、ある。あった。
思いついた。
というより思い出した。
特性を利用ってとこで・・・
敵の言う事で気付くってのも情けないけど・・・

「ティガーさん、終わりにします」

アレックスは左手でまた十字を画く。

「おいおい、またパージか。無駄だっていってんだろ?
 お前も自分を知る事からはじめようぜ?」
「それがあなたの敗因です」
「んだと?」
「自分自分じゃ生きていけませんよ?相手の事も知らないと・・・・ね?」

アレックスは十字を画いた指をティガーへと突き刺す。

「何を言ってんだか・・・・・ん?どこだ・・・・・パージの魔方陣がない?!」
「やっぱり知りませんでしたか」
「何をだ!」
「横ですよ横」

アレックスは指を・・・・真横に振った。
いつの間にかティガーの真横の壁に浮き出ていた魔方陣。
そこから聖なる炎が真横に吹き出した。

「グァ!!!」

パージの炎を受けるティガー
大ダメージではないが、その勢いで軽く吹っ飛んだ。

その期に一気にアレックスは短い階段をかけあがる。
そして一気に最上階まで上りきった。

「炎の味はどうですか?」
「ク・・・・・パージってのは平面であればどこにでも魔方陣がかけたのか・・・・・」
「そうですよ。自分以外の勉強不足ですね」

最上階。
ここは階段が繋がるこのホール
そして王座の間。
この二つしかなかった。

「さぁ、あなたを倒して王座へ行かせてもらいます」
「クソ・・・・」

アレックスがまた十字を切る。
そして指を指す。

「チクショウ!」

先ほどのパージが少し効いているためよろめくティガー。
ティガーは自分の周りの壁を見渡す。

「どこだ!今度はどこにパージの魔方陣が?!」
「今度はホントに下です」

アレックスが上へ指を向けると
ティガーの足元から炎が吹き出す。
直撃だった。

「ヌ、アアアアア!!」
「足元が一番確実かつ、大ダメージを与えられるから・・・・・・
 だから聖職者はみんな敵の足元に魔方陣を描いてるんですよ」
「あ・・・・が・・・・」

ティガーはそれでもまだ立ち上がった。
アレックスは槍を地面に突き刺し言う。

「まだ立ちますか・・・しつこいですね・・・・」
「ク・・・あ・・・だまれ!俺は死ぬまで岩ころがし(ロックンローラー)だ!」

ティガーが最後の力でローリングストーンを唱えようとする。
大きな舌がベロリと垂れた。

だがその前にアレックスが空中に十字を画いた。
しかもそれは今までとは勝手が違った。
左手と右手、それぞれで十字を画いたのだった。
両手で描いた十字。
そして左手の指はティガーの足元へ
右手の指をティガーの横の壁を指す。

「これでトドメです。聖十字(セイントクロス)の名の元に・・・・アーメン」

アレックスは勢い良く
左指を上へ
右指を真横に切った。
するとティガーの足元と真横の壁の魔方陣から勢い良くパージの炎が吹き出す。

その2つの炎はティガーを中心に十字(クロス)をかたどった

「ガァアアアア!」

青白い聖なる炎が十字に輝き燃える。
アレックスはピッ!と指を下ろし、2つの炎をおさめた。
ティガーは黒こげに力尽きてその場に横たわった。

「"パージフレア・クロス"・・・・・ってところでしょうか
 ひさびさに使ったけどうまくいきました。90点ってとこですね」

アレックスは地面に刺した槍を取りながら言った。

「あぁでも、今の僕かっこよかったなぁ。
 こういうとこをドジャーさんが見てれば評価変わってくるのにおしいなぁ」

きっと見直し、尊敬の念をこめておいしいご飯をおごってくれるに違いなかったのに!

そんな根も葉もない考えをしていると。
もう一方の階段から足音が聞こえてきた。

「ゲ、アレックスのが先に着いてやがる」
「遅いですよ何もかも!」
「あん?」
「まぁいいや。競争は僕の勝ちですね」
「ケッ!そっちの階段のが楽だったんじゃねぇの?」
「楽できなかったって口ぶりですね。柄にも無く手こずりましたか?」
「ラクショーラクショー。いたってラクショー」
「怪我はセルフヒールでそこそこ隠せても服が焦げてるのは隠せませんよ」
「・・・・性格悪ぃやつ」

二人は目の前の王座の間の入り口を見つめた

「さぁて最後か」

ドジャーとアレックスは片方づつ扉を押し広げた。








                 






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