夜も半ばに入る。
マリナの演奏も終盤だった。
騒ぎ疲れた者達は寝ている。
もちろん朝までコースの客はまだまだ元気だ。

そんな中マリナ一人の声だけが響いていた。


"世は廃れて灰色に染まり
人は過去に幸せを置き忘れ
だが今宵の乾杯には関係ない
酒の旨さは変わらない    "


マリナの歌声が響く。
そしてマリナの今日最後の歌が終わったと同時に
店全体からワッッ!と残った客の歓声が響いた。
口笛と歓声の波が店全体を飲み込んだ

「いいなぁ〜。いつも聞いてるけど僕マリナさんの歌大好きですよ。
 ギターも上手ですけどほんと歌が上手で声が綺麗で」
「あの女性が着ておられる赤いドレスは詩人服でございますよね?
 詩人というものはいいですよね。私ども騎士団とは違い修行も楽しいでございましょう」
「ん?あぁいや、マリナはな・・・・・ってそういやこんなのん気に話してる場合じゃねぇじゃねぇか!」

ドジャーがジョッキをゴンッとテーブルに置いた。

「どうしました?」
「いや、結局行くんだろ?明日。ほれ、昼間会った青い服の盗賊。たしか《ハンドレッズ》だったな」
「明日ルアス城に来いってやつですか。準備ぐらいはした方がいいですよね」
「来なきゃこの店とメッツを襲うとか言ってたからな」

と言いながらドジャー酒をアレックスは食事にまた手をつける。

「ちょ、ちょっと何今の話?」

歌い終わったマリナがアレックスとドジャーとピルゲンが座るテーブルへと駆け寄る。
聞こえたならマリナが飛びついて当然の話だった。

「何?この店が何って?」

「あ、それがですね・・・・」
「説明がメンドいからハショると挑戦状みたいなもんだな。
 明日ルアス城に行かないとこの店を潰しにくるんだとよ」

「・・・・・・・私の店に手ぇ出そうなんて。万死に値するわ」

握られたマリナの拳からキシむような音がする。
万死で済めばいいが・・・・。

「まぁマリナも連れて行くか。相手が何人か知らねぇから誰か連れて行こうとは思ってたんだ」

「おや、何人か知らないのですか?相手は《ハンドレッズ》なのでしょう?」

ピルゲンが話に割り込んだ。

「私もあなた方がその男と話しているのを一部見ておりましてね
 《ハンドレッズ》でございましょう?有名なギルドではございませんか」

「あん?そうなのか?」
「ドジャーさん知らないんですか!?」
「私だって知ってるわよ」
「・・・・なんなんだよその《ハンドレッズ》ってよぉ」

「ドジャー殿。"百鬼夜行"はご存知でございますか?」

ドジャーは"いいや"と軽くピアスを揺らす。

「数年前、サラセンの闘技場をモンスターの大群が占拠した事件がございました
 動機は逆恨みと力の誇示が合わさったとても魔物らしい理由です。
 人間なんかがいい気になって最強なんて決めてるんじゃないと
 戦闘力という部門では自分たち魔物のが優れているのだと
 そしてモンスターが出した要求はこうでございます
 "5人の代表を選出し、我々と5対5で戦え"・・・とね」

「その時の代表5人が形成したギルドが《ハンドレッズ》よ」
「はぁ〜ん。んでそのモンスターってのは強かったのか?」
「それ以上に多かったんです。その数なんと100組」
「合計500匹って事よ」
「だけど《ハンドレッズ》の5人は5人だけで全部斬り捨てたそうです」
「百鬼夜行を5人で制圧したのよ」
「一人100の鬼を切り捨てた者達だから《ハンドレッズ》だそうです」

アレックスは手の指で100を表現しようとしたが
無理な事に気付きやめた。
微妙に酔ってるんだろうか

「カッ!つまり結局相手はたった5人ってことじゃねぇか!」
「あんたちゃんと話聞いてたの?相手は5人で500匹のモンスターを倒したのよ?」
「それに5人はバランスよく 戦・修・盗・魔・聖とそろってるんです」
「知らね知らね!お前らは計算できねぇのか?俺の電卓じゃぁどう計算しても相手は5人だ。
 それ以上でもそれ以下でもねぇ。相手がメッツでもなけりゃ俺はタイマンで負ける気はしないね」

僕に負けたクセに・・・・

「ドジャー殿。たしかに《ハンドレッズ》のギルドメンバーはたしかに5人なのですが・・・
 相手の数は5人ではないのでございます」

「あん?どういう事だ?」

「昼間いた男。あの全身端から端まで青色の盗賊でございます。
 彼の名はジェイ。『カメレオンブルー(きまぐれの青)』と呼ばれる男でございます
 ジェイは"百鬼夜行"の日。その日からモンスターを操るようになったそうでございます
 どうやらあの青いムチに秘密があるように思えますが・・・・」

「モンスター使いってか?カッ!信じられねぇな。モンスターにも自我はあんぜ」
「でも実際に《ハンドレッズ》の青い盗賊がモンスターを引き連れていたという噂は聞きます」
「何にしろピルゲンさんが言いたいのは
 そのジェイって男がモンスターを連れている可能性があるって事ね」

ピルゲンは髭をいじりながら頷いた。

「《ハンドレッズ》のメンバーの知っている情報だけならお伝えしますよ?どうでございますか?」

「ちょっとまてピルゲン。なんでテメェはそんなに知ってる」

「簡単な話です。私は元王国騎士団行政部隊長。仕事上で必要な情報でございまして。
 いえ、そうじゃなくとも王国騎士団なら知っていて当然なのかもございません」

「僕は王国騎士団ですけど噂程度にしか知りませんよ」
「だろな。うちを知らねぇくらいだからな」
「で、なんで知っていて当然なの?」

「彼ら《ハンドレッズ》は1年前。王国騎士団を滅ぼした15ギルドのうちの1つでございます」

アレックスはあーそうかとポンッと手を叩いた。
攻めギルドで最小数のギルドとかいうやつだったなぁ

「まぁピルゲンさん。攻城戦の話は今回関係ないのでおいときましょう
 あんまり話を詰め込みすぎても多分覚え切れませんよ」
「あん?微妙に俺を馬鹿にしたか?」
「だってそうじゃないですか。ドジャーさんの脳の8割は欲でできてるんですから
 残り2割は大事に使わないとね」
「8割食欲でできてるお前に言われたくねぇよ・・・・」

「まぁ、覚えられない覚えられるは別として情報は提供しておきましょう
 何かとホロリと役に立つ時がくるかもしれません。えぇーっとでございますね」

ピルゲンがヒゲを慣らしながら考えた。
お世辞にも若いとはいえない年のせいか物覚えが悪いのかもしれない。

「やはり2名ほど思い出せませんな・・・・それとも有名ではなかっただけかもしれませんが
 とにかく2名は分かりませんが他の3名の情報は分かります
 まず一人目は盗賊『カメレオンブルー(きまぐれの青)』ジェイ。
 彼の説明はもういいですね。
 二人目は聖職者『ラヴイズバトルフィールド』ショナル
 ショナルの得意技はなんといっても補助でございます」

「補助?しょっぱそうな奴だな」

「あなどってはいけません。むしろショナルを倒せるかどうかで戦況は変わりましょう
 彼の補助は底なしの効果範囲です。常識を超えております。
 1年前の攻城戦では彼一人で内門全体をカヴァーしおりました」

はぁ〜・・・・。そりゃ凄いなぁ・・・・
アレックスは同じ聖職者として感心した。
ここはやっかいに思うべきところだ

「そして忘れてはいけないのが・・・・ギルドマスターである老いた剣聖ルイス=カージナル
 いや、ここは尊敬の念を入れましてカージナル殿と呼ばせていただきます」

「・・・・・そいつは聞いたことあるな」
「私も。カージナルが《ハンドレッズ》だったとはね」

「知っての通り、カージナル殿はすでに齢100に近いはずでございます
 しかしそれでも腕は衰えることを知らず、剣道の重鎮として崇められる存在でございます
 二つ名は『ハートスラッシャー』。その名の示す通り・・・・・」

「"この世に斬れぬもの無し"・・・・・か」
「剣聖カージナル。ジェイ。ショナル・・・・この3人だけで強敵ね」
「ドジャーさん。こちらももう少し味方を集めませんか?」
「あん?3人で十分だろ」
「楽に済めばそれに越した事ないじゃないの」
「・・・・まぁそうだな」
「《MD》召集する?」
「いや、相手が5人なのにそれ以上集めるのもシャクだ」

だからジェイがモンスターを使うから5人じゃないっていってるのに・・・・
やっぱりドジャーさんの電卓が故障してるんじゃないか・・・・

「まぁいいわ。でドジャーとアレックス君と私。あと2人誰を連れてくの?」
「あぁ〜・・・・・聖職者はいたほうがいいだろ。まずレイズは決まりだな
 めんどくさがるだろうが100%連絡が取れるのも奴しかいねぇ」

レイズさんか・・・・
戦ってる所みた事ないけど・・・怖そうだな・・・・

「あと一人はどうするんですか?」
「・・・そうだな・・・普通なら有無を言わずにメッツを連れていきたいんだが・・・・」
「まだ退院してないわね」
「じゃぁロッキー君はどうなんです?」
「あいつは好戦的じゃぁないからな。まぁ無邪気にハンマーで人間を数十メーター吹っ飛ばすけど」

・・・・・さすが三騎士の養子

「メッツの分の戦力が欲しいからな。できればチェスターかイスカを呼びてぇな」

知らない名前だ。
会いたいな。

「まぁギルドリスト見てみるか。明日なんだから今連絡とれなきゃ駄目だ」
「案外選択の余地がないかもしれないわね」
「選択の余地がないのはむしろこれから呼ばれる奴だ」

そう言ってドジャーは携帯オーブを取り出した。

「チェスターもイスカもロッキー君もリスト灰色ね」
「・・・・・っと。珍しい。エクスポの名前が光ってるじゃねぇか」

エクスポさん・・・。
忘れてた・・・。
結構濃いキャラなのに忘れられやすい存在だなぁ・・・・

「決定〜。俺・アレックス・マリナ・レイズ・エクスポで決まりだ」
「たった8人のギルドなのに連絡とれなくて困るわね・・・・」
「・・・・・で、だ」

ドジャーはバンッとテーブルに手をついた。

「アレックス。結局言わなかったが・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・コレの事ですか」

アレックスは腰の高級マネーバッグに触る。

「・・・・・ここで言うのは少し良くないです」
「まぁ理由はナンにしろ話すつもりはあるんだな?」
「はい。というより今回知る事になると思います」
「おっし、んじゃまぁいい。気にするなとは言ったがそれのせいで俺達は巻き込まれてんだ
 そこだけは確認したかった。俺はこう思ってた。オメェは俺の事を・・・・・」

ドジャーは目にも留まらぬ速さでダガーを取り出し
アレックスの首につきつけた。

「まだ"なんとなく"でつるんでるのかと。まだ他人行儀なつもりなのかと
 その場合このダガーはオメェの首筋にもうひとつ息する場所を作ってたぜ」

ドジャーはダガーを手元でクルクルと回した後、また腰に戻した。

「大丈夫ですよ」

アレックスは一息ついて言う。

「迷惑をかけるのは得意です」
「もうちょっと手がかからねぇと助かるがな」

アレックスとドジャーはフッと笑う。


そうして戦いの前夜はふけていった。









                 






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