「はいはい何にするー?」

「えっと・・・・・すっぱいりんごゼリーお願いします」
「私はスクリュードライバーを頂きましょうかな」
「・・・・・・・なんでもいいから酒」

マリナが伝票にそれぞれのメニューを書き込み、
そしてカウンターの裏へと入っていった。

酒場"Queen B"に入ったアレックス・ドジャー・ピルゲンの三人。
ドジャーは少し態度が重い。
そんなドジャーの様子にアレックスは少し居辛さを感じた。
ドジャーはテーブルに肩肘をつき、
もう片方の手でテーブルをトントンッと叩く。
そして口を開いた。

「あぁくっそ!なんかやけに悔しいぜ!」
「悔しいって・・・」
「アレックス。おめぇ部隊長だと?カァー!脳ある鷹は爪を隠すってか?あん?」
「そういうわけじゃ・・・・・」
「脳ある鷹じゃないってか?!」
「いや、勝手に能無しにしないでください。別に隠してたわけじゃないってことです」
「カッ!!隠してたわけじゃねぇってのがまたムカツくんだ!
 俺ってばアホみたいに驚いちまったじゃねぇか!あ〜ムカツく!あ〜悔し!」

ドジャーはアレックスが部隊長だったという事を知ってから態度が荒い。
というか心が狭い。
きっと小瓶ほどの大きさですぐ溢れてこぼれる心なのだろう。

「ドジャー殿も何か隠し事でアレックス殿を驚かしてみてはいかがですか?」

「あ〜・・・・・・・なるほど」

ピルゲンの提案にドジャーは指を額にあてて考える。
そして思いついたように言う。

「アレックス。俺は実は女だ」

「・・・・・・」
「・・・・・・・」

「・・・・・・だぁ!ムカツく!その反応が逆にむかつくんだよ!」
「ウソ言うならもっと現実味のあるウソ言って下さいよ」
「うっせ!うっせ!あーあ!あ〜〜あ!部隊長様のいう事は違いますねぇ!」

ドジャーはむくれて椅子へもたれかかる。
ほんと子供みたいなんだから・・・・・
そこへマリナがトレイに注文を乗せ運んできた。

「はいはい、おまたせ〜。ってあらら、まったくドジャーはすぐスネるんだから
 いいじゃないのアレックス君が何者だって」

「"何者"じゃないぜマリナ。"何様"だ。部隊長様には口の聞き方気をつけないとよ」

マリナとアレックスはため息をついた。
こうなると面倒くさい。

「ドジャー、あんたもうちょっと大人になりなさいよ」

呆れたマリナはそう言ってテーブルを離れていった。
マリナの後姿にドジャーがうっせぇ!と言う。
そこでピルゲンがカクテルの入ったグラスを片手に口言った。

「まぁまぁ、ドジャー殿。せっかくですので私からですね
 いろいろとアレックス殿についてお話しましょうか?それなら隠し事もないでしょう」

ドジャーは少し考えるような仕草をし、
そしてピルゲンに言葉を返した

「・・・・・そうだな。よく考えると俺はアレックスの事はなんも知らねぇ
 どうせ聞く予定だったが、せっかくだから王国騎士の同業さんから聞いておくか
 適当に話してくれ、酒のつまみ程度にする。どうでもいい事は聞き流すからよ」
「別に対した事はないですよ・・・・・」

ドジャーはお前は黙ってろと言わんばかりの顔をアレックスにぶつけた。
アレックスはさすがにムッとしたのだが
同時にピルゲンが話しを始めた。

「そうでございますね。少しだけ遠回りをしましょう。部隊の話です
 52個の部隊がありまして部隊にはそれぞれ役目があります。
 斥候部隊。魔壁部隊。重装部隊に守備支援部隊など様々です」

「カッ!お食事部隊とかあったりしてな?」

「「ありました」」

「あんのかよ!」

「正しくは兵糧部隊といって物資の支援班でございます
 王国騎士団が一つの組織である限り戦闘と縁深くない部隊も当然あります
 もちろんそういった部隊は極少数でほとんどが戦闘を行う部隊でございますけどね
 私が部隊長をさせていただいておりました行政部隊の戦闘が主ではない部隊でございます
 私は戦闘能力は冴えませんが行政の力を認められて部隊長の任を頂きました」

ピルゲンは自慢げに髭を整えた。
ドジャーが「いいから次の話にいけと」テーブルとトントンっと叩く。
ピルゲンは残念そうにヒゲをひっぱってピンッと離した。

「アレックス殿が指揮しておりました医療部隊。
 ここも戦闘能力は二の次の部隊です。そして特別な位置づけでもあります」

「聞いてるぜ?あれだろ?騎士の修行と聖職者の修行を行うってんだろ?
 だから医療部隊の人間は騎士の力と聖職者の力を両方扱える奴らってわけだ」

「アレックス殿からはそのように聞いておりますか」

「あん?」

「少し説明不足ですかな。たしかに医療部隊は騎士と聖職者の修行を同時に行います。
 しかし騎士だけを極めるのも、または聖職者だけを極めるのも生半可なものではございません」

「そりゃそうだな」

「ですのに両方極めるという話になると難易度は格段に上がります。
 というよりも結論的には両方の職を極める事はまず不可能でございます。
 実際吟遊詩人の職に就くものは魔術師の経験を捨てます。
 騎士の職に就くものは戦士の経験を捨てます。 
 それほどまでに一つの職の極めというものは難しいわけでございます」

「じゃぁ医療部隊ってのは騎士の能力も聖職者の能力も半人前の集まりって事か?」

「いえ、結局の所ですね、医療部隊は騎士の格好だけの聖職者の集団でございます
 仕事は他の騎士達の治療・回復が主ですからそれでいいわけでございますからね
 槍を持つ事だけが騎士団の仕事ではございません。
 形だけ騎士で実際は魔術師とか盗賊なんて部隊もあります」

「ちょっとまて、だがアレックスは騎士も聖職者も両方・・・・・」

「そこがアレックス殿です」

「は?」

「アレックス殿は世界でも希少、少なくとも王国騎士団ではたった一人
 二つの職を極めた偉大な方なのでございますよ」

ドジャーはアレックスの顔を見る。
こいつがそんなたいした者なのか?という疑問の表情だ。
アレックスはここぞとばかりに自慢げな笑みをドジャーに送る。
ドジャーはまんまとムカついて舌打ちをした。

「つまりアレックス殿が部隊長なのは実力からして当然の事なのでございます。
 人はアレックス殿の事をこう呼びます。
 二つの職(ジョブ)の混合(カクテル)に成功した騎士、『カクテル・ナイト』と」

ピルゲンは手に持つカクテルを軽く揺らす。
グラスの中で氷が揺れ、カランカランと気持ちのいい音を鳴らした。

「『カクテル・ナイト』ねぇ・・・・・酒飲めねぇくせによ・・・・」
「飲めないんじゃなくて飲まないだけです!
 大体つけられたあだ名にそんな事関係ないじゃないですか・・・・・」
「ま、でもその二つ名は納得だぜ。アレックスは二面性があるしな」
「ドジャーさんは一面的に単純ですよね。まず金。次ぎに金ですから」
「うっせぇ!」

「私もドジャー殿の意見には納得でございます」

「あん?」
「僕の二面性ですか?僕は僕通り生きてるだけですよ」

「私もアレックス殿の性格に関しては騎士団時代から似たような事を感じておりました
 そうですね。二つ名の通り、調度このカクテル。スクリュードライバーのような方だと」

「あん?」
「どういう意味ですか?」

「見た目はオレンジジュースのように甘く、
 しかし実際はウォッカのように強烈という事でございます」

そう言ってピルゲンはスクリュードライバーは口に流し込んだ。

「カカカッ!うめぇ事言うじゃねぇかピルゲン!」
「べ、別に強烈じゃないですよ・・・・・」
「ケケッ、まぁそこそこ楽しめた話だったぜ」
「僕にはただの昔話ですけどね」

「たしかにもう過ぎ去った過去の話でございますしね」

「だな、今はもうただのアレックスだしな」
「うるさいですねただのドジャーさん」


突然店中に歓声が上がった。
口笛と声援が響く。
それがなんなのかアレックスとドジャーはすぐに気付いた、
マリナが店の端の小さなステージに上がったのだ。
ギターを片手に赤いドレスのマリナが客の歓声に答える。

「おぉ、もうマリナの語り弾きの時間か」
「僕、マリナさんの歌好きですよ。ここに来るたびこの時間が楽しみです」

「女性の演奏でございますか。華やかでいいですな。酒には持ってこいでございます」

「気に入ったかピルゲン?」

「えぇ。いや、酒場だけでなく。ルアス99番街(ココ)が気に入っております」

「ほぉ、アレックスといいお堅い騎士団様のセリフとは思えねぇな」

「だからこそでしょうか。私は騎士団崩壊後、職を失いただただ現世をふらふらと彷徨いました」

「僕と同じですね」
「カカッ!無職もツラいな」

「ココは不思議な街でございます。いつの日か、気付くとフラフラとこの街にいました
 この街はなんと言いますか・・・・・・言い方は悪いので気を悪くするかもしれませんが
 落ちこぼれをというかそのいった者を集める不思議な街でございます」

「カッ!落ちこぼれね。上等上等」

ドジャーはそう言い酒を口にする。
ピルゲンの話にアレックスは共感した。
ここに来た経緯はピルゲンとまったく同じだからだ。

「そうですねピルゲンさん。僕も同じ印象です
 もっと言ってしまえばこの街は何者も拒まない、全てを受け入れてくれる街です
 だからこそ争いが耐えませんがそういった事も含め、本性さえも包み込んでくれる街です」
「そのせいで99番街は周りの街から"ゴミ箱"って呼ばれてるわけだけどな」
「でもドジャーさんはそんな"クズ入れ"のこの街に好きで住んでるわけですよね」
「いや、出て行く理由がねぇだけだぜ・・・・ってまぁそれが街が何者も拒まないって事なのかもな
 そう考えるとメッツも俺が拾う前に、この街に拾われたようなもんだ」

ドジャーのその言葉を最後に
アレックス達は会話をやめた。

マリナの演奏が始まるからだった。

「はいはい今日もウチに来たヒマ人達。最初はいつものあの歌よ
 お酒の準備はいい?声枯らす気で歌うわよ」

乾いたギター音の演奏が始まる。
いつも一番最初に酒場全員で歌うこの歌。
アレックスはこの歌が好きだった。
そしてよく考えるとこの歌まるでアレックス達の会話を表したような
そんな歌だと気付いた。
曲自体は酒場を盛り上げる軽快な音楽だったが
アレックスの心にはよく響いた。

酒場全体が声を合わせる。

"いらないモノを投げ入れろ そこのカゴに投げ入れろ
 空の瓶から書けない鉛筆 しけた吸殻 鳴かない番犬
 おっと、お前の横の無口な男 騒げぬそいつも入れちまえ
 いらないモノを投げ入れろ 目に入りゃとりあえず投げちまえ
 いらないもうないか?手に持つジョッキも空けちまえ
 もう投げるものがないだって?おいおいお前は節穴か?
 近くに一つ残ってる 探せばすぐに見つかるだろ
 お前自身は必要か? 悩むなら自ら身を投げろ
 まだまだカゴは腹ペコだ 入れても入れても隙間はあるぞ
 詰め込めカゴは壊れない 叩けど殴れど壊れない
 中身はいらないモノだけだ 必要なのは一つだけ
 ゴミを詰め込むこのカゴだ 世界で一番堅いカゴ"








                 






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