「ボロっちぃ〜家だね〜〜」
「ほんとにこれはただの空き屋ですね」

アレックスとドジャーとロッキーの三人。
三人はルアスの町の一角。
ひとつの小さな空き民家の前にいた。
ほんとに小さい家である。

今朝入った『ウォーキートォーキーマン』の情報によると
モリスはここにいるはずだそうだ。
カプリコ三騎士エイアグの息子であるコロラド。
赤ん坊コロラドをさらったのがモリスであるなら、コロラドもここにいるはずである

「ルアスの民家なんざ空いてりゃほとんどギルドの溜まり場に使われちまうもんだ
 だが、この家。見た目からして使われだしたのはかなり最近だな」
「ここにコロラドがいるのかなぁ〜・・・・・」
「大丈夫ですよロッキー君。きっと弟さんは見つかります」
「何にしろ・・・・入るか。気ぃつけろよ。
 なんたってモリスは『ペ天使』アンジェロと同じで羽の服を持つ者だ」
「うさんくさいウワサが多いってことですね」
「あのアンジェロと同類。そう思うだけで虫唾が走る」
「虫はね〜。モスはねぇ〜。焼いてから鍋に入れるんだよぉ〜」

ロッキーの野生的な生活アドバイスは聞かなかった事にして、
アレックスが先頭をきって民家のドアを開けた。
ドアがきしむように開く。

そこは暗いワンルームの部屋だった。
家自体が小さなワンルームのようだ。
一目で全体が見渡せる。
部屋に電気はついておらず、
北側の窓ひとつなので光もさほど入らず暗く、よく見えなかった。

「おや、お客さんですか」

部屋の中心からひとつの声が聞こえる。
そこには太った『堕天使』。モリスがいた。
この小さな部屋の中、あの大きな図体に一瞬気付かなかった。
理由は部屋が暗かった上に、全体的に黒い印象がモリスには漂っていたからなのか
大きな黒い翼が閉じ、体に巻きついていたからなのか。
黒い翼に包まりながらモリスは話す。

「なんの御用でしょう?」

「デブちん!コロラドをかえしてぇ〜!」

「はて・・・・なんの事でしょう・・・・・・皆目検討がつかないのですが・・・・」

「なんかうさんくさい人ですね・・・」
「あぁ、たぶん犯人はこいつだ」

「なにかしりませんが・・・・それは少し心外ですなぁ」

「カッ!こいつのしゃべり方!いや、この雰囲気!幾度となく嗅ぎなれた匂いだ。
 騙しあいの世界に生きてきた俺にはわかる。そしてつい最近匂ったばかりの匂いでもある!」
「『天使』アンジェロと同じ・・・・ウソ付きの匂いですか・・・・」

「ほぉ、アンジェロに会ったのですか?ははは、彼とはよく話し合った事です。
 モンスターコロシアムのオーナーである彼アンジェロ
 そしてルアス銀行長であり、商業団体会長であるこの私モリス。
 仕事の用事でしょっちゅう会っておりました。仕事柄で気も合いましたしね」

「カッ!虚像と戯言を固めてのし上がった『ペ天使』アンジェロ
 経歴は凄いが騎士団崩壊後、堕ちに堕ちた『堕天使』モリス
 どっちもどっちだな、気が合うだろうよ」

「失礼ですね。私達は素晴らしき選ばれた者なのですよ。
 彼と共にアスガルドのゲートスクロールを手に入れた時がそれを物語っています。
 あれは驚きましたなぁ、用意してあったかのように道端に二つのゲートが並んでいたのです
 まるで天が私どもを導くかのように・・・・・」

「それでアスガルドに行って翼を手に入れたということですか」
「カッ!そんな痴話話どうでもいい。が、お前らが腐り具合に磨きがかかったのは間違いねぇ」
「それよりコロラドを返してぇ!」

「だから知らないと言っているじゃないですか。お帰り願えますか?」

「・・・・コロラドの匂いがする〜・・・・」
「ったくカプリコのガキをどこに隠した」
「モリスさん。先ほどから自慢の黒い羽を閉じたままですが・・・・なぜでしょう?」

「寒いからですよ」

「別に寒くないよぉ〜?」
「・・・・・・まぁ、いい。ただ邪魔して帰るにも悪いな」

ドジャーは腰に手をやる。
そしてすぐさま両手に4本づつのダガーを手にし、
投芸の構えをとる。

「ごちそうをくれて・・・・・」

その瞬間。
モリスの閉じた黒い羽がバッと開いた。
大きく開いた『堕天使』の羽から数枚の羽根が舞い上がり
小さな民家の部屋を黒く装飾した。

そして翼を開いたその中から、
モリスの太った大きな体と、カプリコの赤ちゃんの入ったカゴが現れた。

「コロラドぉ〜!」

モリスはカプリコの赤ん坊、コロラドの頭を掴む。

「おっと私が軽く力を入れれば三騎士の子供がグチャリといきますよ
 まるでトマトが潰れるかのように真っ赤に無残にね」

「や、やめてぇ〜!」
「チッ!」
「だが本性をあらわしましたね」

「あなた方がアンジェロを倒した方々ですね。
 ふふふ、アンジェロも愚かな者だ、なんでも出来ると思い上がりおって
 だが私はこの三騎士の子を使って成り上がる。アスガルドに選ばれし者として人の上に立つのです」

「カッ!堕ちた天使(センターフォード)と呼ばれるがままだな」
「このデブちん〜!コロラドをはなせぇ〜!」

ロッキーがカプリコハンマーを持ち上げた。
この小さな体のどこにそんな力があるのか。

「坊や、聞いてなかったのかい?こっちには人質がいるのです
 私はアンジェロのように過信はない。自分を分かって行動します。
 私は力がない。私は魔法も使えない。私はただの商人です。だから"ココ"を使うのですよ」

太った『堕天使』は人差し指で自分のあたまをコンコンと叩いた。

「さぁ、このカプリコの子を殺されたくなかったら家から出なさい」

逃げる気である。
アレックス達が出て行った後、窓からゲートを使う。
それだけで逃げれるのだ。

「カッ!えらそうな事言ってガキの盾頼みじゃねぇか」
「知ってますかモリスさん。誘拐、人質系の事柄は極めて成功率が低いんですよ?」

「黙りなさい。なんと言おうが言葉に応じません
 私が少し力を入れればこのカプリコのガキは死ぬことに変わりない状況なのですよ」

「いいえ、モリスさん。この状況・・・・追い詰められてるのはあなたなんですよ」
「モリス。てめぇにしろアンジェロにしろ、人をなめすぎだ。
 人を見下すばかりで周りをよく見ない。敗因はそれだ」

「ははは、デマカセがぽんぽんと出るもんです。分かりますよ
 あなた達はそうやって私の注意をそらし、隙を作ろうとしてるのです。
 一瞬の隙がものをいうこの場ではそういう小細工が生きますからね」

「後悔してくださいよ」
「後ろにご注意・・・てな」

「でまかせを言うな!!!!!」

「ロッキー。歌ってやれ」
「うん。だぁ〜るまさ〜んが〜♪」

その瞬間。
モリスの背後の窓ガラスが割れる。
勢いよくガラスの破片が空中に散らばった。
何かがガラスを割った。
割って何者かが部屋に飛び込んできたのだ。
その者が言う。

「ころんだ♪」

それは赤いドレスとブロンドの長い髪。
ギターを振りかぶったマリナだった。

マリナがギターを振りぬく。
振りぬかれたギターはモリスの頭部にクリティカルヒットした。
モリスはその勢いで吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

「あらら、大きな体してる割には軽く飛ぶものね」

アレックスはあらためてマリナの力に少し恐怖を抱いた。
あのギターはカプハンよりも攻撃力が高いのではないだろうか・・・・
強烈なダメージの"だるまさん"は壁を背にしたままよろめく

「クッ・・・・仲間がいたのか・・・・」

モリスが立ち上がろうとする。
そこへダガーを構えたドジャーが言い放つ。

「おっと。まぁゆっくりしろよ」

ドジャーのダガーが8っつの直線を画きながらモリスの黒い羽に突き刺さり、
そのまま壁にはりつけにした。
まるで蝶を標本にするように。

「チィ!」
「お邪魔しますよっと・・・」

さらにモリスの耳下に槍が突きつかれた。
アレックスの槍である。
壁に突き刺さった槍はわずかにモリスの耳たぶを貫き、反抗心までもを貫いた。

「カカッ!大きなピアス穴が開いたな!」

「・・・・こんなゴミどもに・・・・」

モリスの肥えた体から力が抜ける。
そのモリスへと小さな足音が近づく。
ローブとカプリコハンマーを引きずり、ロッキーがモリスの前に立った。

「コロラドはぼくの弟なんだよ・・・・」

「ほぉ、そうですか。ふふふ、モンスターと人との間に縁ができると本気でお思いで?」

「難しい事はわかんないよぉ〜・・・・だけど・・・・
 パパ達がぼくのパパ達で〜コロラドはぼくの弟なんだぁ〜・・・・」

「クッ、面白いお子さんだ。先ほど私にハンマーを振り上げましたね
 君のような少年が、人の命を奪うことができるのですか?」

言われてロッキーはハンマーを振り上げる。
かなりの重さをもっているだろうカプハン。
それが小さな子供によって高々と持ち上げられている。

「できるよ。そうやって生きてきたんだ・・・・・。人間なんて本当は嫌いだったんだぁ〜・・・・
 人間に迷惑かけてないのに・・・・人間はみんなカプリコ砦に用もないのにきて・・・・
 それで友達とかを殺すんだ。僕は友達とか家族が殺されないようにたくさんの人間と戦ったんだ
 『ロコ・スタンプ』って魔物扱いされちゃったけど・・・・」

「ほぉ、君があの『ロコ・スタンプ』ですか。カプリコと住み、カプリコと育ったという。
 この三騎士の子と兄弟も本当だったのですね。
 素晴らしい素体です。人が魔物として生きれるという!」

「うるさいわね!ロッキー君はちゃんと人として生きれるわ!
 ただ大事な者がモンスターであるというだけよ!」
「うん・・・・・・ドジャーたちに会ってからは人間にもいろんな人がいるって・・・・・」

「ははは、奇妙なものですね。アンジェロが昔ディド好きの人間を捕まえたと言ってましたが・・・
 その辺の感情は理解しかねますな。やはり天に選ばれた者である私とは何かが違うのでしょう
 だがひとつ分かることは君はやはり人間を憎むべきなんじゃないのですか?
 カプリコ砦がなぜ地図上から消えたのか・・・・・・忘れたわけではないだろうに」

「黙ってよ!」

「私を黙らす方法はあるでしょう。思いっきり振りあげているじゃないですか。カプハンを」

「・・・・・うるさいよぉ!」
「そうだ。うるせぇ」

その言葉と共に
それはロッキーの耳元をかすめ
まっすぐ飛び放たれた。
ドジャーのダガーだった。

そのダガーは真っ直ぐ、
そして大きな音も立てずにモリスの額に刺さった。
モリスは何の声をあげるヒマもない。
まるで太ったぬいぐるみにダガーが刺さったかのように
あっけなくモリスは息せぬ存在となった。
モリスの額から流れ出る血だけが結果だけを語る。

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ。御託はいいんだ。てめぇは俺の身内に火の粉を飛ばした。
 なんの事はねぇ、救いようのねぇオメェは即決で死罪なんだよ」

ドジャーはただの太った肉の塊となったモリスに言う。
もちろん返事はない。
すでに死刑は執行されたのだから。

「まったく。あんたはいつもしのごを言わずね・・・・」
「むかつくんだよこういう奴は、ゴチャゴチャとよぉ。
 ロッキーは人魔物問わず大切なやつがいる。そんだけだ。難しいことはねぇ」
「ドジャーさんでいうギルメンですね」

アレックスが口をはさむと
ドジャーは理由も言わずにアレックスをコツンと殴った。
いつも案外クサい事をするクセに照れ屋だなぁとアレックスは思う。
それだけにアレックスは最近ドジャーのその辺の性格をつつくのが好きであった。

「ドジャぁ〜〜。ありがとぉ〜」
「うっせ!むかつくから殺っただけだ!」
「でもありがとぉ〜〜。今度特製ディドスープをごちそうするからねぇ〜」
「・・・・・・いらねぇ」
「ロッキー君!それおいしいんですか!?」
「うん。おいしいよぉ〜」
「アレックス・・・・・やめとけ・・・・。ロッキーは舌の作りが違うと思っとけ・・・・」

突然三騎士の子供、コロラドが泣き始めた。
いや、赤ん坊がさっきまでの展開で少しも声をあげなかっただけで凄いのだが、
空気の線が切れた事を感じてか、どこかで安心を感じてか
大声でカプリコ声の泣き声をあげ始めた。

「あーうるせぇうるせぇ。だからガキは・・・・」
「赤ちゃんは泣くのが仕事ですよ」
「でも泣いてても赤ちゃんはかわいいわよね」
「でしょ〜?ぼくの弟なんだよぉ〜〜」
「知ってるっつーの!ったく。泣くのが仕事だぁ?泣くだけで食ってけりゃ世話ねぇぜ」
「世話が欲しいから泣くんですよ」

そう言いながらアレックスは思う。
ドジャーは人の声にならない悲鳴のようなものを感じ取るのがうまい気がした。
そんな時になにかと理由をつけて助けてやる。
案外世話好きな性格なんだと感じた。

赤ちゃんはどうしたらいいか分からない時に泣くという。
助けて欲しい時に泣くという。
99番街には"泣いているような人"がたくさんいたのだろう

「でもいつの時も赤ちゃんと女にとって涙は最高の武器よね」
「マリナ・・・・おめぇあざてぇな・・・・・」
「マリナさんが泣いてる所なんて見た事ないですけどね」
「むしろ人を泣きまめかせてるからな」
「うるさいわね!」

「ほーらコロラドぉ〜ぼくが〜〜お兄ちゃんだよぉ〜〜
 怖いお兄ちゃんとお姉ちゃんもいい人だよぉ〜泣き止んでねぇ〜〜」

「「・・・・・・」」


泣き止むコロラド。

皆はその赤ちゃんの顔をのぞく。
そして思う。
赤ちゃんの武器は涙なんかではない。
その無邪気な笑顔なんだと。












                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送