「あぁ!プリンはやっぱりおいしいです!」
「カァ〜!んなもんガキの食い物だろ」
「おいしい物はおいしいです」
「カッ!わかんねぇぜ」
「あぁ・・・・世界がプリンになってしまえばいいのに・・・・」
「お前は世界を食い尽くす気か・・・」

ドジャーの言葉なんぞ耳を通り抜け、
アレックスはスプーンでプリンを口へ運ぶ。
そして口を閉じるたびに幸せそうな顔が広がった。
十分世界がプリンになっている。

ここは店主マリナの経営するルアス99番街の酒場『Queen B』
今夜もルアス99番街の荒れくれ者達が酒と食事を楽しみに集い、騒いでいる。
アレックスとドジャーも食事に酒にとここにいる。

「マリナさんにはいつもおいしい料理を作ってもらってますし
 何か恩返しをしたいくらいですね」
「は?アホかお前は。金払ってんだろが金!それ以上もそれ以下も必要ねぇだろ!」
「それ以下も無い?お金を払わない事があるドジャーさんが言う言葉じゃないですよ」
「ん?あぁそうか」

ドジャーを放っておいてアレックスは店主のマリナの方を見た。
他のテーブルへ酒を運んでいるところだ。
相変わらず赤いドレスが似合う。
この間 賭博場で会ったアンジェロが天使なら、こちらは女神だと思った。
・・・・と思っているそばから
その当のマリナは瓶を振り上げ、客へと振り下ろした。
瓶が激しく割れる。
客の頭も激しく割れる。

「金がないなら酒場じゃなくて病院へ行きなさい」

血まみれの客へ言い捨てるマリナ。
これが本当の出血大サービスというやつである。
女神の天罰は恐ろしいものだ。

病院といえばアレックスはメッツの事をふと思う。
レイズによれば回復は順調という事だ。
しかしまだ当分の入院が必要らしい。
外傷的なものはもうないのだが
体への負担の問題だそうだ。

はやく元気になるといいのに・・・・

アレックスはプリンを頬張りながらそう思ってた。
だが・・・・・

「ガッハッハ!やっぱマリナの飯はうめぇー!」

なんでそのメッツさんが酒場で酒を飲んでるんだ・・・

「酒!飯!煙草!天国(アスガルド)かここは〜♪っとくらぁ!」

元気がありすぎ・・・
およそ致命傷をおっている病人とは思えない。
そして酒と煙草を両手にする患者もみたことがなかった。

メッツは消灯時間を狙って病院をこっそり抜け出してきたそうだ。
どうやって抜け出してきたかというと、
記憶の書という高額の転送アイテムを買ってここを登録していたらしい。

「メッツ。おめぇ抜け出してきたのレイズにバレてねぇだろな?」
「ガハハハ!実はバッレバレだった!」
「え?いいんですか?」
「おう、なんかよぉ、"死ねばいいのに"とか言って許してくれた」
「・・・・医者に見離されてんじゃねぇかオメェ」
「ガハハ!もとから俺ぁ健康体なんだよ!でもマリナァ〜心配してくれたかぁ?」

メッツがカウンター裏へと戻ろうとするマリナに声をかける。

「するわけないじゃない。だってあんたが死ぬわけないでしょ?」
「マ、マリナさん・・・・少し心配してあげたほうが・・・・」

心配してほしそうだし・・・・

「甘いわアレックス君。こいつの心配なんてしてたらキリないわよ?
 去年の今頃なんてメッツったら酔っ払ってティラノと戦いに行ったのよ?」
「えぇ!?・・・・で、酔っ払ったまま倒したんですか?」
「ハハ!ありゃ面白かったな!こいつ食われてやんの」
「!?」
「でもわけの分からない事を言いながら腹を突き破ってでてきたわ。
 そしてそのまま地面で何事もなかったように寝ちゃったのよ」
「ガハハ!そんな事あったかな!伊達に胃液は見てねぇぜ!ってか?ガハハ!」

なるほど。
不死身だ。
でも聖職者の僕としては今の容体の重度がわかるからキチンと休んで欲しいけど・・・・・
まぁ、元気そうだし問題ないかなぁ
あぁ!?それよりもうプリンが無くなっちゃったぁ・・・・
アレックスはガッカリした雰囲気でスプーンを口にくわえたままむくれた。

そんなアレックスをよそにドジャーがメッツに話しかける。

「怪我人のクセによく食いやがるなてめぇはよぉ」
「ガハハ!飯は食われるためにあんだ!そりゃ食わねぇと!な!アレックス!」

メッツの問いにアレックスは反応し、ガタっと椅子を弾きながら立ち上がった。
そしてスプーンを口からを落としながら言った。

「そうです!食べ物はドンドン食べるべきです!」
「分かるねぇアレックスよぉ!じゃぁ食べるか!マリナー!ホロパ炒飯おかわり!」
「マリナさん僕もチャーハーン!」

「はいはーい」

アレックスとメッツは出会ってばかりというのにすっかり意気投合していた。
アレックスはドジャーのギルメンの人間が好きであったが
それ以上に類は友を呼ぶといったところだろう。

「ごくつぶしが二人に増えた・・・・」

ドジャーはテーブルでうつむきながら頭をかかえた。
ピアスが落ち込むように垂れる。
これから先の財布の行く末が不安である。
ドジャーは顔をあげて言い放った。

「だいたいアレックス!おめぇデザートの後に飯食うなよ!」
「食の組み合わせは無限です」

アレックスはスプーンを構え、
目を光らせて言った。

メッツはそれをみてガハハと笑いながら煙草の灰を落とした。
そして片手の酒をのどに流し込んだ。

「メッツ。てめぇは案外酒に強くないんだから飲みすぎんなよ?」

ドジャーと違い、メッツは酒を飲むたび赤くなる。
ドンドン酔っ払っているのがまるでメーターのように分かった。
もう結構なところまできているのが分かる。



その時だった。

『Queen B』の入り口の扉が開いた。
ガランガランという音が店内に響く。

店なのだから客の出入りなどひっきりなしにあるわけだが、
アレックスは入ってきた少し異様な客に目を向けた。

入ってきたのは小柄な少年だった。
小柄も小柄。
1mもないんじゃないだろうか。

灰色のウルフキャップをかぶったその少年は
明らかに大人用と思われるブカブカなローブを着ている。
初心者魔術師がよく着ている全身茶色のローブだ。
当然ローブのスソが地面に引きずられていた。
そして引きずっているのはローブのスソだけじゃない。
小柄な体に似合わぬ巨大なハンマー。
俗に言うカプリコハンマーをずるずる引きずっていた。

「マ〜リナ〜。おひさしぶり〜」

間延びしたおっとりしたしゃべり方をする少年だ。
声を聞いてるだけで和む。
その少年はハンマーを置いて、カウンターにジャンプして飛び乗った。
足を伸ばしたままチョコンと椅子に乗っかっている姿は可愛らしかった。

「あら、ロッキー君じゃない。ひさしぶりー」

「えぇ〜っと〜。なににしよ〜かな〜〜」

「おうおう、珍しいのが来たな」
「ガハハハ!相変わらずちっせぇー!」

「あぁ〜〜〜〜!ドジャ〜とメッツも来てたんだぁ〜〜」

ロッキーはぴょこんと椅子から飛び降り、
タッタッタと小走りでアレックスとドジャーとメッツのテーブルにうつってきた。

「よぉチビ介、元気だったか」

そう言ってドジャーは椅子に座ったロッキーの狼帽子をソッと奪った。

「うん。げんき〜〜って、あ!ちょっと〜返してよ〜」

ドジャーは狼帽子を持ちながらイヒヒと笑う。
メッツは酒が入ってるのもあり、その様子を見て笑い転げた。

「ちょっとあんた達イジワルはほどほどにしときなさい」

マリナがロッキーの分の水を運んできて言った。
ロッキーは小さな手で大きなメニューを一生懸命開いて注文を選んでいた。

「ロッキー君。ひさしぶりだしなんかおごるわよ?」

「えぇ〜〜?!ほんとぉ〜〜?やったぁ〜〜!」

「俺も〜 おごってよぉ〜 マリナぁ〜」

ドジャーがロッキーのしゃべり方のマネをする。
メッツはそれがよほど笑い上戸のツボに入ったらしく、
笑い転げて椅子から落ちた。

「何にしよっかな〜〜〜〜 う〜〜〜〜ん  き〜めた!
 マリナぁ〜 僕モス酒おねが〜い」
「は〜い」
「ゲ、またモス酒かよ お前よくあんなモン飲めるな・・・・」

ドジャーが渋そうな顔をして聞く。
モス酒はその効能から戦闘での精力増強に使われるが、
たしかに味は好き好んで飲めるものではなかった。
だがアレックスとしては、
どっからどう見ても未成年のロッキーが酒を飲む事の方に首をかしげた。
まぁ法がないので未成年の飲酒も公にOKな訳であるが・・・・

マリナがテーブルへ来てモス酒を水筒袋からジョッキに注いだ

「お〜いし〜いも〜〜〜ん♪」

ロッキーは両手でそのジョッキを持ち上げてグピグピと飲みだした。
まるで子供が牛乳を一気飲みするように。

「ゲ〜・・・」

ドジャーはモス酒を飲む行為を見てられないといった感じである。
自分のジョッキへと手をまわし直した

「グガガガ・・・グガガガガガ・・・・」

気付くと地面でメッツが大いびきをかいていた。
酒が弱いのは本当だったらしい。
案外弱点の多い人だなぁと思う。

「まったく。寝るなら病院で寝て欲しいわ。はい、サービスよ」

マリナが小皿の上にツマミの枝豆をのせてテーブルへ運んできた。
前にももらった事がある。
ミルレスの畑で取れたものだそうだ。

「しかも普段から笑腺緩いクセに笑い上戸ってな」

ドジャーがさっそく枝豆をつまんで口に運び出した。
アレックスも当然皿に手を運ぶ。

「それよりロッキー。お前が街に下りてくるなんてどういう風の吹き回しだ?」

「ん〜。ドジャ〜マリナ〜。助けて欲しいんだ〜」




                 






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