ケビンがケントの頭を抱えたまま、
もう数分・・・いや、十数分たっただろうか。
詳しくは分からないが、
戦闘中としてはあまりにも長い時間がたった。
不思議なことに
そんなケビンを三騎士は攻撃しなかった。

だが、
ケビンがケントの頭をそっと地に置き、
とうとう立ち上がった。
その瞬間。
三騎士は同時に剣を構える。

「妙な時間だった」
「応」
「・・・・」
「赤剣のノカン。長い時間ではないがこの戦争中時間を共にした。
 もちろん敵同士として、憎むべき相手として、そして殺すべき相手として
 だが、今ひと時お前に悲しむべき時間を与えてもいいかと思った」
「・・・・三人同時に」
「ほんっと妙だな」

ケビンは雨の降りしきる空を見上げた。
そして言う

「妙ではないさ。この戦争。双方両方にひとつだけ共通点があるとしたら・・・・
 それは自分の種族が恋しくてそのために戦っているという事だ
 三騎士といえど失いたくない家族や仲間はいるんだろ」

「「「 ・・・・・ 」」」

三騎士は何も言わなかった。
そしてそこから先はケビンも何も言わなかった。

またどれくらいの時間がたったろう
殺し合いが始まる事は分かっている。
いや、3対1
さらに向こうは三騎士。
殺し合いどころか一方的になるかもしれない。
だがケビンも
とうとう決心をつけ、
剣を握り締めた。

「らぁぁあ!!」

ケビンがグルトガングを振りつける。
その太刀筋はノカンとは思えない。
人間が修行した末に完成したような鋭い一太刀。

だがそれも三騎士にとってはただの一太刀となんら変わらない。
まるでケビンがそこに振ると分かっていたかのように
エイアグはするりと避ける。

「応!」
「・・・・・死ね」

ケビンの左右からアジェトロとフサムの挟み撃ち。
カプリコソードがブゥンとケビンへ向かう。
ケビンは咄嗟にしゃがむ。
間一髪。
自慢の長い耳に刀身がカスったほど。
アジェトロとフサムのソードは、
しゃがんだケビンの上でガキンとX字に合わさった。

「参る!」

エイアグの縦一閃
垂直に振り切られるカプリコソード。
それはケビンの上でX字に重なっているアジェトロとフサムのカプリコソードへ。
そしてアジェトロとフサムのソードもろともケビンへ叩きつける一閃。

「グッ!!」

ケビンはグルトガングで受ける。
骨がキシみをあげる重み。
当然だ。
三騎士の一閃。
それも三匹のカプリコソードが自分の剣にのしかかっているのだ。

三騎士の強さを改めて知った。
もちろんそれは戦闘力でもあるが、
一番の恐怖であるチームワーク。
息の合った悪魔が三匹。
それが自分を殺そうとしている。

「応応!受けきるとはなかなかだな!」
「・・・・・悪くない」
「手順がひとつ違えばすでにお前は死んでいたぞ赤剣のノカン
 その剣の腕もだが、やはり一瞬の判断力がカプリコとは違う
 いや、ノカンの中でも将軍としての判断力か。」

「将軍として作戦を考えるだけなら剣など持たないさ・・・・
 男ならっ!ノカンならっ!武器を持ったならっ!
 それに思いを込めれてこそっ!力を込めれてこそっ!それが誇りになるんだ!」

ケビンの全力。
いや、全力というのは正しくない。
限界を超えた力
グルトガングに込められたその力は。
押し出したその力は
エイアグ・アジェトロ・フサムのカプリコソードを
まとめて吹き飛ばした。

「・・・・・!」
「お応!?」
「なんだとっ!?」

三騎士は驚いて距離とった。
まさか三人がかりで跳ね飛ばされるとは思ってなかったのだろう。
いや、思うも何も
生涯初の経験だったかもしれない。

「・・・・・・驚いた」
「まさかこれほどまでの力とはな」
「タイマンでやりてぇとこだぜ!」

ケビンはグルトガングを構える。
・・・・。
もう一度三騎士が来る。
だが・・・
もう一度今と同じ事をしろと言われてできるとは思えなかった。
なら・・・
ならば一太刀
それだけでも与え・・・・・


「騎士様!!!」
「将軍!!!」

同時に二つの声。
それは三騎士でもケビンでもなく、
少し範囲外から聞こえてくる声。
それはお互いの下っ端と思われるカプリコ兵とノカン兵だった。

「応応!なんだ!」
「・・・・・・・何かの報告か」
「今はそれどころではないというのに」

「さらにそれどころではない報告なんです!」
「争っている場合じゃないのです!」

争っている場合じゃない?
なにを今更
戦況がどうであろうと
今争わなくていつ争うんだ。
いや、争い自体を望んでいるわけではないが・・・・・

「えらいあわてようだな。とりあえず言ってみろ」

ケビンがそう言うと、
そのカプリコ兵とノカン兵は叫んだ。


「人間です!!!!」
「恐らく王国騎士団と思われます!!」


「「「「なっ!?」」」」


ケビンと三騎士は一斉に驚いた。
いや・・・
血の気が引いた
何を言ってるんだという思考の混乱
それと折り重なる
最悪のケースの想像。
それがケビンと三騎士の表情を曇らせる。

「人間だと!?騎士団だと!?なんで奴らがここに!?」
「これはノカンとカプリコの問題なんだぜ?!」

「わ、わかりません!ただ、どこからか情報を仕入れたのでしょう!」
「突然戦場に割り込んできました!そしてカプリコ・ノカン問わず虐殺を始めました!」

「・・・・・"討伐"か」
「人間めクソッタレ!」
「数は!?」

「・・・・・・・・・・・・5000ほどです」

5000
その数は尋常ではなかった。
というか・・・・手の施しようが無かった。
カプリコ・ノカンはそれぞれ1000も残ってないだろう。
さらに長時間の戦闘の後、
その上この雨。
消耗は激しいなんてもんじゃない。
カプリコ・ノカン双方
もう人間に太刀打ちできる元気のある者など・・・

「雨が降ると分かっていたら・・・退却用の長靴を携帯を支給したのだが・・・」

「退却?!とんでもないです!」
「奴らすでにカプリコ砦とノカン村を包囲しています!」
「双方の本拠地は恐らくもう・・・・」

「な、なんだと!?」
「・・・・・」
「おいロッキーは?!ロッキーはどうなった!?」

「ご子息はすでに保護いたしました。ですが砦はもう・・・・」

カプリコ兵は膝をついたまま
下を向き、
震えていた。

「・・・・・村は・・・・。ノカン村は?!!」

凄い形相で怒鳴るケビン。
その問いに、
ノカン兵はスっと違う方を向いた。
ケビンはその視線につられて顔を動かす。
そして見た先に目を見開いた。
あれは・・・・・

煙・・・・

「ノカン村は炎上しました・・・雨中といえどあの煙の量
 そして戦闘力のない村民に対し騎士団・・・・・。恐らく村の者達はほとんど・・・・」

「クソォオ!!!」

ケビンは地面に拳を打ち付ける。
雨でぬかるんだ地に拳がめり込む。
その拳には得体の知れない悔しさが込められていた

「ノカンのために・・・・今日・・・いや、今まで多くの犠牲を払ってきたというのに・・・」

「・・・・・・畜生」
「これは・・・・参る」
「応・・・予想外だ・・・・」
「・・・・・人間」
「殺してやる!よくも我が同胞達を!!!」

「・・・アホか」

拳を地に打ち付けたまま
ケビンはボソりと言った。

「・・・・・なんだと」
「赤剣のノカン・・・。貴様今なんと?」

ケビンは立ち上がり、言う

「今は復讐の時じゃない!相手は騎士団が5000!
 そんなもんをチョィチョイ削って何になる!
 逃がすんだよ!仲間をよ!同胞なんだろ!?カプリコが大事なんだろ!?」

「・・・・・だが」
「逃がすったってどうすりゃいいか・・・」
「我々はそういった事に長けていない・・・・」

「・・・・・・・」

ケビンは黙る。
戦闘力はともかく
戦力などの発想という意味でカプリコが長けていない事は分かっていた。
そして・・・・
ノカンはその逆であることも・・・・

「ディグバンカーを使え・・・・」

「は?」

「俺達ノカンが掘ったディグバンカーを使えってって言ってんだ!
 いざという時のために出入口は複数掘ってある!教えてやるから使え!」

「・・・・・赤剣のノカン」
「なぜお前はカプリコのために・・・・」

「カプリコのためじゃねぇ!今はお互い様ってやつだ!
 ノカン達に案内させるからカプリコはそれを護衛しろ!」

「・・・・・」

「さっさとしろ!!」

「・・・・・散!!」
「応!」
「・・・・・承知」

三騎士がバラバラに戦場に散らばった。
それぞれがカプリコソードとWISオーブを両手に。
連絡にきたノカン兵とカプリコ兵にも
全体に連絡するよう指示し、すぐに行かせた。

雨の中。

ケビンだけがそこに残った。

「生涯・・・・・。カプリコを倒すことだけを目標にしてきた・・・・・
 ・・・・・・違うか。ノカンの平穏を手にするため・・・・か
 今日がその最終回になるはずだったんだが・・・・
 まさかのバッドエンドか・・・・・・ちくしょう・・・・・・」

降りしきる雨。
赤茶のグルトガングが垂れ下がる。
自慢の長耳も垂れ下がる。

「雲が開けたら・・・・すべてが夢だったらいいのに・・・・」

上を見上げた。
空に広がる暗い雨雲は
一生閉じたままのような気さえした。

ケビンは・・・・

グルトガングを自分の腹へと当てた。

「俺だけ生き延びちゃぁ・・・・・将軍として皆に合わす顔がねぇ
 なぁ・・・ノカンのみんな・・・・ブンスター・・・ジェイピス・・・・・・・・・・・ケント」

グルトガングに力を込めた。

「ウ・・・・」

血が・・・・垂れる。
雨に混じり・・・流れる。
グルトガングが地に落ちる。
雨と泥に紛れる。

「・・・・・・」

ケビンはそのグルトガングをもう一度拾った。

「俺が死んでどうする・・・・。さっき三騎士に説教した事と逆じゃねぇか・・・
 このまま死んでこそ皆に合わす顔がねぇよ」

少しだけえぐった腹の傷。
マントをやぶり、
その腹に巻いた。

「俺は生きるぞ・・・・・皆の分も・・・・・俺の生はもう俺だけのもんじゃねぇ
 死んだ者を無駄にするわけにはいかない・・・・」

ケントの死体を見つめ、
そしてケビンはバラけた死体の中から
一つの物を拾った。
それはケントのヨーヨー
それをギュッと握る。

「この生涯をノカンのためにっっ!!」

ケビンは赤茶のグルトガングを片手に走った。

雨の中を戦場を

死体だらけの戦場を

虚しさと決心を胸に。

ノカンらしき長い耳と大きな鼻を誇りに。









一時間後



戦争は終結した。


生き残ったのは
ノカン、カプリコ合わせてたった1000ほど
民間の者を合わせてだ。

世界中にノカンとカプリコがそれだけしかいない。
それは大変なことである。

逆に王国騎士団にとってはとてつもない偉業でもあるが・・・・・




その結果

ノカン村、カプリコ砦は共に跡形も無い。

この日を境に

地図から名前が消えた。


命、大事な場所といった。
見えるモノが無数に消えうせ、

憎しみや悲しみといった
見えるモノが無数に生まれた日だった。

赤剣を持ったノカン軍の将軍は

ひとり

世界中を旅して回っていた。

目的もない

ただ"何か"を探しに

今までの生涯に生き甲斐を失ったゆえに
その探し物だろう。

そのひとりたび・・・・

いや、腰には弟の形見のヨーヨー。

そして心には無数のノカン達


悔しさと悲しみを抱えつつも、


ただノカン軍の将軍であった誇りだけは忘れまいと、


マントを肩につけたまま。



剣を持ったノカンは歩き続けた


























                 






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