「雨・・・・か」

自分の長い耳に当たる水滴の感触
まるで空が「もう戦争なんてやめろ」と言ってきているようでもある。

「ケント。隊に"長靴"は支給してないよな?」
「はい・・・・雨を予想できてなかったので。支給させましょうか」
「いや、今更だ。それにもう移動もクソもない」

ケビンとケントが三騎士と対峙してからもう三時間がたつ。
ノカンとカプリコの頂点が戦場の真ん中で硬直。
異様な光景でもある。
しかし三騎士・ケビン共々それぞれ族の軍の長として
この位置で戦況を見極めたいという思惑があった。

戦況を知るためのWISが鳴る。
ケビンはWISオーブを手にした。
通信を始める。
が、
いい連絡でない事は分かっていた。
そんな気がしていた。

「・・・・・・そうか。ラークも・・・・」

ケビンはプチンと通信を切った。
そして出たのは用意していたかのようなため息だった

「こっちの切り札を知ったみてぇだな」
「伏兵部隊をやったのは俺達の息子のロッキーだ」
「・・・・・・あぁ」

「『ロコ・スタンプ』・・・・実在してたのか・・・・」

「応応!予定外だったか?赤剣のノカンさんよぉ」

「いや・・・・。予定ではあんたら三騎士が砦にいると思っていた。
 ラークには最初から全滅覚悟でいかせていたのだ
 最初からこの作戦は伏兵部隊の命と引き換えに
 本拠地カプリコ砦へのダメージと混乱を狙ったものだった
 あわよくば三騎士の一匹でも不意を撃てないかとも考えていたが・・・・・」

「・・・・・今日は我らが戦場へ出てきた」
「本拠地がガラ空き。あわよくば本拠地を占拠!ってな状況だな」
「だが結局ロッキーがいた。その結果・・・・・
 本拠地への強襲と混乱を起こすことに成功したが伏兵部隊は全滅
 まぁだが結局作戦はそちらの予定通り進んだという事か」

雨が降りしきる。
まるで全てが終わったかのよう
いや、終わらせようとしているように
少しの無言が過ぎた。
雨の音だけが鳴る。
耳を澄ませば周りの戦闘音も聞こえるが、
それも雨と同じ雑音に聞こえる。
沈黙の中、
言葉を発したのはケビンだった。

「さぁ、やるか」

ケビンがグルトガングを構えた。
赤茶の刀身が雨に濡れる。

「・・・・・・だな」
「我らの強襲によってノカン兵に
 そしてそちらの砦への伏兵のせいでカプリコ兵に混乱が起こった。
 お互い指示を離れた軍兵達。そしてこの雨。ここからの戦況はドロ試合だ」
「ドロ試合っていえばまだ聞こえはいいよな」
「これから残りのカプリコ兵とノカン兵がお互いに行う事は・・・・・・」
「・・・・・・・潰し潰され」
「作戦もなにもなく、ただ殺しあう。どちらかが0になるまでな」

「そしてここにもノカンが2人。そちらにカプリコが3人いる」
「やるしかないって事ですね。将軍」

ケントはヨーヨーを下へと投げ落とす。
二つのヨーヨーは回転したまま足元で止まった。
ロングスリーパーだ。
ケントが両手をクンッとあげる。
するとヨーヨーはケントの手元に巻き戻る。
そしてケントも両手で構えを取った

「普段ならタイマンしたいとこなんだけどな」
「アジェトロ。これは戦争だ」
「わぁ〜ってる!カプリコの運命のが大事だ」

「では・・・・・・・参る!」
「応!」
「・・・・・承知」

三匹のカプリコが一斉に飛び出す。
いや、カプリコが三匹と言うと聞こえが悪い。
三匹の悪魔が飛び出したというべきか

「てりゃぁ!」

ケントが両手のヨーヨーを放つ
それは三騎士にではなく、
地面へ。
ヨーヨーが地面に衝突すると
雨でグチャグチャになっている地面は簡単にしぶきをあげて跳ね上がった。

「応!目くらましか!」
「・・・・・・・笑止」

三騎士は跳ね上がった泥をものともせず突っ込む。
そして泥を突き抜けた。
が、
そこにはケビンとケントはいない。

「チッ、どこに・・・・」
「散!!!!」
「応!」
「・・・・承知」

咄嗟に三騎士は三方向へ分かれる。
飛び跳ねるような勢いでだ。

そして先ほどまで三騎士が固まっていた場所。
そこにケビンが凄い勢いで落ちてきて地面にぶつかった。
剣を振り落としてだ。
グルトガングが地面に突き刺さる。
そして泥が小さく跳ね上がった。

「惜しいです将軍!」

ケントが木の上から叫ぶ。
ケントはヨーヨーで泥の目くらましを作った時。
木の上へケビンごと移動したのだった。
そしてケビンは木の上から急降下攻撃。
だが、結果としては三騎士には避けられてしまった。

「さすが三騎士・・・・か。勘がいいな」

「参る!」
「・・・・承知」

突然ケビンの左右からの声。
エイアグとフサムだ。
剣を振り上げ突っ込んでくる。
速い。

「将軍!」

咄嗟にケントがケビンにヨーヨーを絡ませる。
そして木の上に引っ張り上げた。
すんでの所でエイアグとフサムの攻撃を避ける事ができた。

「助かったぜケント」

「応応!何が助かっただぁ?!」

木が傾く。
すでにアジェトロがケントのいる木を斬っていた。

「俺ら三騎士から"助かる"なんて不可能だぜ?!」

「くそぉ・・将軍!他の木へ乗り移りま・・・・」

ケントは言葉を止めた。
当然だった。
見渡すとソコには他の木が・・・・・

無かった。

「馬鹿な・・・・一瞬でここら一体の木を斬り捨てたってのか」
「三人いるとはいえ・・・・・化け物ですね・・・・」
「違うぜケント・・・・・。化け物が三人いるんだ」

ドンドン傾いてきている木。
その上のケビンとケント。
そしてその下には三匹の化け物

降りしきる雨は
さっさと落ちろとケビンに言っているようであった。

そしてとうとう木が重さで一気に倒れ去った。

「参る!」
「応!」
「・・・承知」

三匹が同時に突っ込んでくる。

「うわぁあああああ!」

ケントが混乱と共にヨーヨーをグルングルンと振り回す。
伝説の三騎士が向かってくるのだ。
是非もない。
ケントを中心にヨーヨーが円形に振り回される。

だが、エイアグはその上をジャンプで飛び越える。
カプリコ故の機動力だ。
そしてアジェトロとフサムもケントを無視し、
左右からケントの後ろへと回り込んだ。

三騎士の狙いはケントでなく・・・・・・ケビン

上空からエイアグ。
左右からアジェトロとフサムが迫る。

「参る!!」

上空のエイアグがケビンへとカプリコソードを振り落とそうとした。
だがその動きは止まる。
ケントのヨーヨーがエイアグの足に絡み付いていたのだ。

「・・・・・チッ」
「エイアグ!!」

フサムとアジェトロが足を止める。
空中でピンと張るヨーヨーの糸。
その先にはエイアグ。

「三騎士め!お前らは将軍を倒すことしか眼中にないかもしれないけど!
 僕だって将軍を助けることしか眼中にないんだ!!」

ケントはエイアグの足に絡みつかせたヨーヨーを引っ張る。
しかしエイアグは空中でいとも簡単にヨーヨーの糸を斬りちぎってしまった。

「クソっ!」

ヨーヨーの片方が使えなくなってしまった。
だがケントはすかさずもう一個のヨーヨーを構え、
そして放る。
だがその放たれたヨーヨーの方向は・・・・
ケビンの方向。

「動かないでください将軍!」

「こざかしい。絡ませてまた赤剣のノカンを助けようというのだな」

エイアグがケビンの方へと突っ込む。
だがわずかにヨーヨーの方がケビンへの到着が早かった。
ヨーヨーがケビンに・・・・

「なっ!」

その次の瞬間
ヨーヨーはエイアグへヒットした。

「クッ」

エイアグが下がる。
ケントが放ったヨーヨーは
ケビンへではなく、ケビンのグルトガングへ放たれたものだった。
ヨーヨーの糸はグルトガングの柄にひっかっかり
それを軸に軌道を変えてエイアグの方へと向かったのだった。

ヨーヨーはエイアグの右肩に当たったため大ダメージとはいかなかったが、
たしかなダメージは与えたようだ。

「・・・・・・参った。こりゃ参った。
 これがノカンにあってカプリコにはない"戦略"というものか」

ケントはすかさずケビンの目の前へと戻る。
そしてケビンの盾のようにそこに立ちはだかった。

「僕は将軍を守り通す者です!"将軍補佐"とは将軍の手足の事じゃない!
 将軍のために働く者のことだ!・・・・・・・・少なくとも僕はそう考えています
 だから・・・・・・僕は相手が三騎士だろうと将軍を守りぬきます!!!」

「ケント・・・・」

自分より小さな弟の体の後ろで、
ケビンは自分の弟の・・・いや、将軍補佐の頼もしさを感じた。
表情が見えない。
ケビンはケントの背中を見ているから。
見えないケントの顔は
内心のどこかで怖がっている表情なのか、
それとも誰よりも頼もしい顔をしているのか
だがともかく自分より小さなその背中が、誰よりも大きく見えた。

「そうか・・・・」

気付くとエイアグ、アジェトロ、フサムの三匹が、
間隔を置いて横に並んでいた。
ケントを三方向から狙うように。
そして三匹とも大きなカプリコソードを持ち上げている。

「立派だ赤服のノカン・・・・・が、死んでもらう・・・・・・・参る!!!」
「応!!」
「・・・承知」

三匹が一斉に飛び掛る。
今日何度目か、
だが今日一番最悪の状況だった。
"だった"
過去形。
そう、
どうしようもなかった。
相手は三騎士で、
動きが速すぎて、
反応もなにもできなかった。
見えもしなかった。
三騎士がいつ斬ったのか。
三騎士がいつどう動いたのか
三騎士がいつ視界から消えたのか。
そして

三騎士がいつケントを殺したのか

気付くと見えたもの

それは目の前
バラバラのケントの体

「ケントォオオオオオオ!!!!!」

数十個の肉片に切り刻まれていた。
一瞬で、
別れの言葉をかけるひと時もなく。
最愛の弟が死んだ瞬間に気付く事もできず。
気付くと結果だけが眼前に。

バラバラに崩れ落ちるケントの体

「あぁぁああ!あぁぁあああああああ!?!!?」

無我夢中で手を伸ばすケビン。
崩れ落ちるケントの体から
なんとか頭だけを拾い上げる。
そのケントの顔は
恐らく本人も覚えていない死んだ瞬間のまま硬直していた。
ケントの顔は、
ケビンを守るために伝説の三騎士へと向けた
一遍の曇りもない頼もしい形相のままだった。

「ケント・・・・お前だけは・・・・・お前は死ぬなと言ったのに!!」

降りしきる雨の中
雨でぬかるむ地面の上。
膝をつき、
そして胸には弟の勇敢な頭を抱えたまま

一匹のノカンは

大声で泣いた。





















                 






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