全く理解が出来なかったが、敵意を向けられたから迎え撃った。
 そこでリーヴァは己の中途半端さを思い知らされる。
「……つよ……」
 腕や肩、わき腹など、身体のあちこちに切り傷を入れられていたが、それでもリーヴァは倒れようとはしない。エネミーレイゾンを具現化させ、ブレード状にするナックルを正眼に構えておく。
「――弱いな。異世界の人間など、こんなものか」
 何も言い返せない自分が悔しい。
 ドジャーも少々怪我をしていたが、リーヴァほどでもない。指と指の間でダガーの取っ手を挟み、それを四本丁寧にそろえる。計八本の投術で応戦していた。切り詰めた生活をしているリーヴァから見れば、結構贅沢な闘い方に見えた。
 長身長髪の盗賊レラプスは、少数の盗賊団「ゴッドドッグス」の頭で、三人のうちでは一番の実力者だった。嗅覚が恐ろしいほど敏感で、その特質を活かし、獲物を品定めしているそうだ。結果論で述べるとだが、予想は見事的中し、レラプスたちが狩った&ィの大抵が世にも珍しいものばかりであり、そこから俗称もついたらしい。よって今回、異世界のにおいをかぎつけたレラプスたちは、その一人であるリーヴァを襲っていた。
 そこでドジャーが割り込み、「あいにく予約が先に入ってるんだ、とっととうせやがれ」とまあたいそうなことを言ってしまったのが運のつきで、火蓋はあっさりと切られた。俊敏さが決め手となる、二対一の戦闘だった。
 狙っているのが自分だと言うこと以外、ほとんどを把握しきれていなかったりーヴァはそのまま戦況にかき回されて、今のさまになった。小回りが利くというより、どっしりとした安定感のある脚力が特徴なので、盗賊の素早い動きにはかなりの苦戦を強いられてしまった。投げダガーで援護してもらいつつ敵に突っ込むのは慣れていない――そもそも闘いのほとんどは独立独歩で切り抜けてきたリーヴァから見れば、二対一と言うのは順境よりもむしろ逆境なのである。それを理解したレラプスはその図式を卑怯なくらいに利用し、リーヴァとドジャーの反撃が絡まってしまうようけしかけていた。
 こちらの世界の戦闘は、こうも殺伐としててレベルの高いものなのかと思う。同時に、自分はこっちの世界じゃ絶対に生き延びられなかっただろうなと言う気もした。早く闘いを終わらせて猫を捜さないと遠くへ行ってしまうことや、エレスやシグナルが自分同様に襲われているかもしれないということを思うと、無論闘わずにはいられなかったが、思考に巣くう余計なわだかまりがかせとなり、全開になれないでいた。
 どうして。
 どうして、自分の周りにはこうも、力いっぱい指を差して叫びたい、名前がスで終わる人物が集まるのか。エレスと言いアレックスと言い、同僚のリンクスと言い。
 ドジャーが、リーヴァの腕をつついてきた。
「カッ! おいリーヴァ、ここでくたばんなよ。次で決めてやるからな」
 リーヴァはドジャーの考えを察し、うなずく。不利な状況に流されているとはいえ、大体身体が温まってきた頃である。雑念をゴミ箱に入れ、思い切って飛び込んだ。
 レラプスはリーヴァの単調な突進をひらりとかわし、背後に回った。リーヴァもすぐさま気配を背骨で感じて振り返る。逆手で牙のように振り下ろされたダガーをブレードで何とか受け止める。左手の追撃が来る前に、右足でひざ蹴りを繰り出そうとしたのだが、何故かすぐに見抜かれて避けられた。
「もう一丁ご馳走をくれてやらぁっ!」
 ドジャーの手から放たれる鏡色の刃が、レラプスの背後に集中する。
「少しは学習し――」
 飛びかかってくるダガーを全てかわしたレラプスはそこまで言うと一瞬だけ身体を硬直させ、その場でもう一度身体をひねった。屈折率を限りなく1にまで近づけられたもう一本のダガーが、レラプスの耳元を突き抜けていく。翻った長髪が数本だけレラプスのもとを離れ、花びらのようにゆっくりと舞い落ちるだけで奇襲は終わった。
「てめっ……第三の目でも持ってやがんのか!?」
「姿は見えなくてもにおい≠ヘあるだろう。女の足から血のにおいもしたんでな、ひざ蹴りくらいは読める」
 こういう人間もいるのかとリーヴァは苦々しく思う。気配よりもまずにおいを察知して攻撃をかわす、犬のような奴。全身で受けとめられる気配と同時にもう一つの器官を通じて行動に移すあたり、やはり強敵ではある。
 その嗅覚を逆手に取られるなら、もう少しまともに闘えるかもしれないが、一体どうやって。
 万策が尽きたかに思えた。何をやっても、避けられるのでは意味が無い。せめてドジャーが一人で闘うと言うケースならどうにか切り抜けられそうだったが、向こうの目的は自分だし、必然的にドジャーが絡んでくる流れだ。そもそもリーヴァ一人で闘える相手でもなく、ドジャーがそんなことで首を縦に振るわけが無い。
 足の切り傷が、ぐずぐずと引きれて痛い。
「――ごめん、ドジャー」
「おん?」
 んだよいきなり、とドジャーはリーヴァの横顔を見る。
「私といたせいでこんなことになって、ほんとごめん。関係ないのにしたくもない闘いに勝手に巻き込んじゃって」
 リーヴァの目はレラプスをじっと見ていたが、ドジャーに話し続けていた。
 ドジャーの顔に、よく分からない気持ちで歪められた表情が浮かんだ。有り余る感情のはけ口として頭を乱暴にかき、
「だぁもう! んだよ改まって! 死期でも悟ったかぁ!?」
 そうではないが――
 今しか言えないことだったので、今のうちに言っておきたかった。
 段々とこっちの世界のことが分かってきたような気がする。法がなくなった故に制限のかからない、いわば人のこころによって左右される、鏡のような世界。縁があれば闘い、勝った者だけが生き残れる。
 自分の考えの根幹は、ここでは植えつけられないのか。出会いと別れを大切にする――リーヴァの強く堅い思念は、今一番のアキレス腱なのか。
 出来ることなら闘いたくない、傷つけたくない、傷つきたくない。
 分かっている。
 よそ者の自分一人が憤ったところで世界は変わらないし、大陸は動かないし、星は傾かない。こちらの世界にしか通じえない掟だって当然あるに違いない。
 でも、だからこそ。
 よそ者の自分が、その掟に刃向かう必要がある。
 よそ者の自分に、こっちのルールを押し付けられる義務は無い。
 理解したからといって、納得したわけではない。
 しかし一方で、闘うことが生き延びる一つの方法だと言うことを知り、こころの奥底で武者震いしていた自分を見つけてしまったことが、寂れた並行世界の存在を知ってしまった程度にはむなしい。
「私、あんまり闘いとか好きじゃないし得意でもないんだけど……どうやらこっちの世界じゃ、そんな甘い考え、だめみたいなのかな」
 そこで息を吸って横を向き、
「――力、貸してくれる?」
 顎を引いたリーヴァの上目遣いには、迷いを捨てた、しかし何かを得た強い光が灯されてあった。大の大人にも負けないくらいの、力強いまなざし。
 ドジャーはその様子にしばらくぽかんとし、「へーへーわがままな奴だなまったくよー」とでも言いたげなため息を吐いた。
 ダガーを掌中に装填しなおす。
 それが答えだった。
「女はこれだから……ったく」
 リーヴァは顔の力を緩め、柔らかい笑みを浮かべた。
 そして、

「じゃ、ちょっと一人でよろしく」

 リーヴァはその場にしゃがみこむ。
「――は?」
 ドジャーが首から上だけでこちらを振り向く。
「ほら、絆創膏ぐちゃぐちゃ。貼り直すからサポートしてて! 30秒だけでいいから! お酒飲みたいんでしょ? しっかりね!」
 ドジャーは驚き呆れる。さっきの真剣さは自分を一杯食わすためだったのかと舌打ちし、
「ほんっとに女はこれだからよ!」
 ドジャーが腕を振るってダガーを投げる。レラプスが避けて接近してくる。させまいと更に投げて距離を保つ。目的は当てることではなく、近づけさせないことだ。サポートしてもらっている間にリーヴァはエネミーレイゾンを消す、ナックルを緩める、空いた左手でドジャーの足に手を伸ばす、寿命の短い絆創膏を思い切ってはがす、爽やかな空気を足で感じる、ポーチに手を突っ込む、ガーゼを取り出して傷口をぐるぐる巻きにする、きりの良い所で切る、次はナックルケースに手を突っ込む、底側にあった漏斗のようなパーツを取り出す、籠手のあなに差し込む、爪を倒してロックする、
 ばちん。
 よし。
「お待たせ!」
「3秒オーバーだ!」
 レラプスはどこか――と立ち上がって捜していたら、いつの間にか屋根の上にいた。ドジャーのやけっぱちのサポートも多少成果があったらしく、二箇所にだけ切り傷を負っていた。
 後は私がやるから、とドジャーに言った。
 それに対し、ドジャーは何か言い返そうとしてきたが、自分の持ち物が一つなくなっていることに気づき、そこで苦虫を噛み潰したような顔をくれるだけで終わった。
 レラプスが屋根から飛び降りる。
「――ねえ、一つ訊きたいんだけど」
「何だ」
「……どうしてあなたは私――私たちと闘いたいの?」
 レラプスは腕をゆっくりと組み、淡々と答える。
「……いわば本能≠セ。具体的に言えば闘争本能と狩猟本能。異世界の人間……それを聞いて奮い立たない奴のほうがどうかしてる」
 リーヴァはわずかに眉間にしわ寄せ、
「獣みたいね」
「こんないかれた世界で、まともなこころを持って生き延びられると思ってるのか?」レラプスは苦笑して軽く両腕を広げてみせる、「俺は生き延びるために物を狩ったし、時には人を狩った。狩って狩って狩りまくった……そして気づいたんだよ、」
 胸部分の服を掴み、
「身体から沸き起こる、この情動に――。やらなきゃやられるんだよ。人は人を上から見ないと安定しないんだ。お前だって、こういう世界を見て、自分の境遇に安心感を持っているだろ? それと同じ原理だ」
「……生きる目的と手段が入れ替わってない?」
 こっちの世界など見たことないくせに、とリーヴァは思う。また、ある意味幸せ者だなとも思う。したくも無い殺人で世を渡り、苦しみ悶えた人だっているのを、リーヴァは知っている。なるほど自分は良い育ちをしてきているように見られているようだ。自分で言うのもなんだが、リーヴァは幼少期はそれなりに苦しい生活をしてきたと思っている。あのレラプスとほぼ同じ心境に陥ってしまったことだってある。
 レラプスが、昔の自分そっくりに見えてしまう。
 だから、気づかせてやりたい。
 すっと右腕を横に差し出す。エネミーレイゾンの魔力を再度入れなおした。その最中、やっぱり自分はこの世界じゃ生きられないかなと思う。縁があれば闘い、勝った者だけが生き残れる。相手とかわした時間の周期は、一周する事も無くそこで終わる。
 そんなことはしたくない。
 出会いと別れの縁は、そうも単純で単調なものではない。
 戦意がまとまり、良い感じに志気が高まってきた。
「出会ってすぐにお別れだなんて、私は……やっぱり嫌。私はその上を行きたいよ。その二つだけで終わらせないよう、何度も続くよう、上へ線を描いて重ねてみせたい」
 エネミーレイゾンを放出する籠手の孔からは、螺旋らせん状のそれが出てきた。白く輝くエネミーレイゾンのドリル。ただの武器とは違う粉砕能力を内包していることをうかがわせていた。
 右足をひいて半身になる。良心の表裏をひっくり返す。赤色シグナルに負けず劣らずの挑発めいた言葉を撒き散らした。
「私を殺したんだったら、避けてばっかりじゃなくてそっちから来てみなよこの病犬やまいぬぅっ!」
 レラプスにとってこれほど屈辱めいて刺激のある言葉は無い。それに咄嗟に反応したからか、自分の意志でか、なんにせよレラプスはこちらに飛びかかって来た。人間の見せる瞬発力の中では非常にハイレベルな域に達しており、リーヴァは身を硬くして待ち構える。後寸分もすればレラプスは懐にまでやってきて、お言葉に甘えて短剣を刺し込んでくるだろう。もしこちらがそれをさせないために迎え撃ったら、背後に回って背中を狙うだろう。
 つまり。
 レラプスの攻撃射程に入る前になら、レラプスが背後に一足飛びで回りこめない距離でなら。
 リーヴァは女性特有の黄色い、しかし剣客のような猛々しい声を上げた。時計回りにねじった上半身を戻す。力の流れを削がないよう、肩を、腕を、そして右拳を順に突き出して、
 思い切りドリルを発射した。
 もとはエネミーレイゾンの魔力なのである。ナックルの射出孔に沿って形作りをしたからといって、もとを離れられないことは無い。今までどうしてこれを使わなかったのか。これからの戦略のために伏せておいたと言えば嘘になり、単に使いどころを探り損ねていただけだった。
 案の定、隙はできた。
 レラプスは新たに繰り出された攻撃に目を開く。螺旋が戦風を巻き、殺気を引き込み、空間を裂きながら一直線に飛ぶ。非常に静かで、重力も熱もにおいも感じさせない円錐だった。膂力りょりょくを絞ってレラプスは斜め下にしゃがみこむようにしてかわし、なおも接近した。
 そして、接近したのはリーヴァも、だった。
 右手を腰にため、もう一撃を与える体制で駆ける。魔力を入れなおして出したドリルをレラプスの腹めがけて殴りつけようとした。
 レラプスは、完全にその動きを見切った。
「あれだけ豪語したドリルがおとりだってのは予測済みなんだよ!」
 ドリルをまずかわし、レラプスは胸元を守るためにそこで短剣を構える。さっきと同じ鉄のにおいが近づいてくるのをレラプスははっきりと感じ取っていた。予想通り、リーヴァの狙いはさっきの隙をついた、右足のひざ蹴りだった。届くはずがないから構えるまでも無いか、とレラプスはこころの中で嘲笑する。そう言われようとも、リーヴァは勢いづけたままひざをレラプスの胸に突き出し、
 上半身を後ろへと傾かせた。
「っ!?」
 折りたたんでいた右足をスプリングのような勢いで繰り出し、まっすぐに伸ばした。
 そこにあったのは、ヘモグロビンで赤く染まったガーゼと、銀色の刃。
 身体を少し後ろへやることによって、足は上手い具合にレラプスの腹に入り込むことが出来た。
 胸のすくようないい音はしなかったが、エレスがネイルガンをコルク栓に放った時のように、うなずきたくなる手ごたえはあった。
 リーヴァの右足には、ドジャーのダガーが、ぐるぐる巻きのガーゼでしっかりと固定されてあった。
 それが、レラプスの交差された腕の下、腹に深々と突き刺さっていた。
 ひざだけに注意をひきつけられていたのか、その延長線には対処が取れないでいた。
「……血……鉄分のにおいに紛れて……短剣を仕込んでいたのか……」
「その嗅覚があだとなったね」
 人を知らず知らず精神的に傷つけてしまったことなど幾度となくあったが、身体的には数えたほどしかない。足を腹から遠ざけると、肉の感触とともにブレードが抜き取られた。油のようなおびただしい量の血が飛沫を上げ、宙にしぶいた。地に紅の反転をいくつも添え、自分の肝もちょっと冷えた。
「ドジャー!」
 言うが早いか、ナックルを地に落とし、まずレラプスの鼻を殴って血を通わせ、嗅覚を遮断させた。続いて両手を掴み、短剣をかっさらう。おそらく名を呼ばれて目が覚めたろうドジャーに、背後を見せたまま万歳のモーションをして短剣を適当に放り投げた。
 ドジャーはそれを危なっかしそうな表情で、しかし柄を見事にキャッチした。
 リーヴァは失血で気絶間際のレラプスの身体をゆっくりと横にする。
「これ、返すね」
 ガーゼをがさつな手つきではがし、短剣の血のりをそれで拭き、歩み寄ってきたドジャーに渡した。
「――ったく、いつの間に」
 なんという抜け目の無いやつか、と言う顔をしていた。
「私、孤児院暮らしの前はちょっとだけ泥棒もやってたから。そりゃもう荒れに荒れてたよ。この人みたいに。……あんまし自慢にならないけどね」
 リーヴァは苦笑して、レラプスの出血を防ごうと手当てをし始めた。
「おまっ――何やってんだよ!?」
「何って、治療」
 果たしてドジャーはむずがゆそうに頭をかいた。こういう行動はやはりこっちの世界じゃ「善意」というより「おせっかい」らしい。
 レラプスも薄く細めた目から、意外そうな視線をリーヴァの頬に刺していた。おそらく「余計なこと」とでも言いたいのだろうが、声に出そうものなら腹に激痛が起こり、出血量が甚だしくなる。
 それが全てだった。
 しゃべられないのではない、しゃべりたくないのだ、とリーヴァは勝手に判断した。
 それで万事了解なのである。
「ドジャー、ヘルリクシャ……とかある?」
 それを聞いてドジャーは完全に呆れた。それはそれは強く息を吸い、それはそれは強く息を吐き、「勝手にしやがれ」と言った乱暴な手つきで、リーヴァに赤い液体の入った瓶を手渡した。
 ありがと、とリーヴァはヘルリクシャの栓をぽんと外し、レラプスの口元に近づけ、ゆっくりと注いでいく。
「――オメェも甘い奴だな。いちいち敵に情けかけてっと、いつか足元すくわれるぞ?」
「いいよ。私こっちの人じゃないし」
 都合の悪いときだけこのことを持ち出すのは、ちょっと卑怯だとリーヴァは自分でも思った。
 だからといって、人をあやめるのはさすがに乗り気にならない。例え敵だろうと、やっぱり出会いと別れの関係は存在する。つまらないことで意地をはって死に、そこで終わってしまっては元も子もない。世界が違っていても、人の時代である限り、定理は永久的に続くものだと思う。人は誰も一人では生きていけない。自分以外の人間との出会いと別れを通じ、それを重ねて成長するものだとリーヴァは深く承知している。
「――だから、こうやって生かそうってのか?」
「そうなっちゃう、のかな」
 ついにヘルリクシャを飲ませ終えた。
「こいつが復活し、んな事無視して狩りを再開しちまったらどうすんだ」
「どうだろうね。そんな未来、今からでも変えられるよ」
 リーヴァは口を弧にし、力強い笑みで振り返る。ありあわせの処置が済んだとはいえ、まだまだ安静になっておくべきだろう。レラプスが無理に体を起こそうとしたところを、「こら、ちゃんと話聞いてよ」と言って額をこづいて叩き落した。
「生きるために人殺ししかしなかった人が、初めて負けて、初めて人に助けてもらった。それも、私みたいな弱い奴に。プライドずたずただろうね。――これを気にさ、生き方考え直してみなよ。人を見下すんじゃなくて、並んでみるんだ、って。まだ世界が完全に滅んじゃったって訳じゃないんでしょ? 人間その気になればどこででも生きていけるんだよ。私が良い見本。楽な道ばっかり選んで逃げてちゃ駄目だよ。強くなろうとするんじゃなくて、強く生きようとするの。そうしてみて。……いや、そうして」
 勝った者が負けた者にずけずけと言えるのも、この世界ならではの特権だろう。リーヴァはもはや命令口調でびしりと言いきって、これを別れの言葉とした。
 一山こえたこともあってか、その後意気消沈としてしまい、リーヴァもドジャーも無言となってしまった。無性に居心地を悪く感じたリーヴァは、何かしら突破口を見つけ出さねばとあれやこれや考えるが、中々糸口が見つからず、もどかしくもこんがらがっていく。胃の底でふきだまっていたものを吐き出すと今度は何も言えなくなり、後悔の念すら生まれてきた。今更ながら、背後が怖い。何か喋らなくては、とは思うのだが、この雰囲気を打破するような気の利いた言葉が見当たらない。もし言えたとしても、単調な切り返しをされただけで終われば、ますます気まずい空気になると思う。
 じれったくもうずうずしていると、機会は向こうからやってきた。
「出会いと別れ、か――」
「うん?」
「――いや、ちょっとな。昔のダチを思い出しただけだ。オメェのような考え方をした奴がいてよ。ま、あいつの場合は極端だが――」
「へえ、そうなんだ」
 それはちょっと、いやぜひとも会ってみたいがした。
 そういう思想を持っている人がこっちの世界にもいることに、リーヴァは感動できた。
 ただし奴の場合も、生と死の因果から派生している、ということをドジャーはついに口にしなかった。


                 






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