たまたま店に入ってきたアレックスさんに目をつけたドジャーさんは、アレックスさんを驚かしてやろうと言い出した。 店の女性と言っていたのは実はルゼルだったのだ。 でも、アレックスさん、驚いている…って感じでもなかったから…ちょっと残念だ。 …というよりも…驚いた点は別のところにあった。 アレックスさんの発言である。 「知り合いを見つけたらたかるなんて… アレックスって、どこでも生きていけそうな精神力、持ってそうだよな…」 「だな…」 俺とルロクスはアレックスさんの食に対するたくましさに、呆れを通り越して、感心すらしていたのだった。 これを見習うべきかどうか、ちょっと悩んでしまうのは否めない… 「・・・ルーゼルなら女みてぇに見えるし、アレックスを騙せそうだと思ったんだよ。」 舌打ちをして至極、残念そうにドジャーさんが言う。 吟遊詩人女服をきているルゼルが一番適任だ!とか何とか言っていただけに即見破られたのが悔しかったんだろう。 だけど−−− 「あの人は知り合いなんでしょ?それなのにそんな子供みたいなだまし討ちするなんて…」 「あねさん、ドジャーは子供なんですよ」 “こども どじょーこども” ラズベリルのぼやきにルゥが言い、ミーが看板を出して話に参加する。 「だれが沼地に住んでるうねうねした物体だってぇんだよっ。 俺はドジャーだ。間違えんな文字ポン」 「も、文字ポン…」 「なんか味ポンみたいでうまそうだろ?」 「俺たちを食うんじゃねぇぞ…」 「お前の場合はしゃべポンだ。…味ポンのほうがごろはいいな。」 突っ込みを入れても、ドジャーさんは全く気にすることもなくそう言う。 ルゥは嫌そうな顔をしてドジャーから離れて飛んだ。 そのやりとりをみて、アレックスさんはイスから立ち上がると、ポン二匹に向かって嬉しそうに話し掛けた。 「わ〜、言葉しゃべったり、文字書いたりするポンなんて、初めてみましたよ。 こんにちわ、おふたりさん」 「お?こんにちわ。俺はルゥっていうんだ。よろしくな、不思議な魔力持ってる人〜」 「僕はアレックスだよ。不思議な魔力って、もしかして僕が聖騎士だからかな…?」 ルゥが差し出した手を嬉しそうに握り返しながら、アレックスさんは首をかしげて言った。 するとルゥが合点行かないような声で言う。 「せいきし?聖職者と騎士ってことか?そんな職の取り方…出来るわけが−−−」 「ドジャーさんに聞いてるかもしれないけど、僕もドジャーさんと同じ、異世界の人なんだよ〜?」 “どじょー あれくす ちがうとこ きた?” ミーが不思議そうにアレックスさんの周りをまわりながら、小さな手に掲げた看板を見せた。 アレックスさんは『うん、そうだよ』と言って、自分の顔くらいの高さで飛んでいたミーの頭を撫でた。 「よろしくね?君にも名前あるんだよね?」 ミーはふわふわと飛びながらも器用にペンを取り出し、看板を書き直す。 “わたし ミー よろしく あれくす” 「うん、よろしく〜…もうあれくすでいいや…」 ミーを両腕でぎゅ〜っと抱きしめると、頬擦りしながら嬉しそうに言う。 「ポンって初めて手で触るかも…」 「お前、そういうの好きなんだ?」 「ちいさなものってやっぱりかわいいじゃないですか。 そんなことよりも−−−−」 アレックスは改めて俺達の格好をしげしげと見た。 吟遊詩人男服な俺と、魔術師女服のルロクスと、吟遊詩人女服なルゼルと、そして騎士男服のドジャーさん。 「皆さん…バカな格好してるんですね」 ぐさりと刺さる言葉を投げかけるアレックスさん…この格好をしている本人たちがわかっているだけに痛い… 「特にドジャーさん。騎士をなめてますか?」 「なんだよ。かっこいい騎士だろうが」 「いいえ、騎士はそんなじゃらじゃらしたものをつけてません。」 「付けてるやつだっているんじゃねぇのか? いいじゃん、騎士でもなんでも、着飾ることが大切なんだよ」 「一度騎士道を教えてあげましょうか・・・」 言い争っている丁度そのとき、一人の男が店の中に入ってきた。 背丈はそれほど高くなく、どこの街にでもいるようなチンピラ風の男。 その男はわいわい騒ぐ集団の元に入り込むと気軽く話をし始めた。 …知り合い…?にしては変な感じだけど… 「あ、あいつ…」 「どうかしたの?ラズベリル」 「今店にきたあの男…多分、アスク帝国直々に手配されてるお尋ね者だわ」 ラズベリルが声を潜めながら言い、隠れて指を差した。 「今日はお祭りだし、目立たないと思ったんでしょうね〜」 「へ〜?んじゃあ強いんだ?」 ドジャーさんが問い掛けるとラズベリルはふるふると首を横に振る。 「ううん、ただのこそ泥よ。 逃げ足が早いのと、姿を隠しちゃえるってことで、今まで捕まえられないみたい」 手をぱたぱたさせてラズベリルが言う。 その言葉に反応したのはなぜかアレックスさんだった。 「…どうします?」 アレックスさんが俺たちに向かって問い掛けた。 え?って言っても… 「どうするって、今ここで騒ぎを起こさなくても」 「そうですね、そんなことしても何の利益も―――」 俺とルゼルが口々に言うと、ドジャーさんが信じられないと言ったような顔で俺たちを見た。 「なに言ってんだよ?お尋ね者イコール賞金首だろ?いいチャンスじゃねえか」 「ここのツケを払うためにも捕まえたほうがいいでしょうし」 そういうことか。 一応、食べたお金は払っていこうという気になってくれているようだ。 でも、こう言った賞金首にはいろいろあるってことは俺でも知っていることで… 「でも今確かこそ泥だって…賞金って言っても微々たるものしか出ないですから…」 こそ泥はそんなに報酬がない。 これがどうしようもない現実だった。 だがラズベリルは得意そうに人差し指を立て、横に揺らしながら、 「甘い」 とだけ言った。 「言ったでしょ、“アスク帝国が直々に手配してる”って。つまり〜〜」 「結構高いってことか」 「ご名答〜とはいっても、10万グロッドだけど。」 「やすっ!」 「普通のこそ泥なら、下手したら1万グロッドとかいうちゃっちぃやつだっているし。 そう言えば昔、なんか20億グロッドとかいう破格の報酬の家出人探しっていうのがあったわねぇ」 昔を思い浮かべるように言うラズベリル。 俺より年下なはずだが、さすがは盗賊なだけあって、情報には敏感だ。 「んで、あいつはどんなこそ泥をしたんです?」 「貴族の財布スったって言う話よ。ま、見てればまたやるんじゃないかな」 ラズベリルはそういうと調理場で鍋が沸騰しまくっているのに気が付き、慌てて奥へと引っ込んだ。 「ほんとにそうなんですかねぇ」 ルゼルがう〜んと考えながら言う。 「さあな。みてりゃわかるってラズベリンが言ってたことだし、様子見てとっ捕まえるか。」 「楽してとっ捕まえて10万なら、いいもうけなんじゃねぇの?これって」 ドジャーとルロクスが生き生きとしながらその男を見やっている。 さて、どうするか… 「ほんとにこそ泥だったら捕まえるほうがこの町のためになるんでしょうし、 あまり気負いすると、御飯がまずくなりますよ〜」 そう言って、アレックスさんは元いた席についてしまった。 「僕たちの時とは違って、ドジャーさんもアレックスさんも、何か落ち着いてらっしゃいますよね」 「だな…」 俺とルゼルは言うと、苦笑いを見せた。 俺たちは、二人を見習わなきゃいけないのかもしれない。そう思った。 |
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