「つまりは、働け。それはわかるんだが…どうして…」 「そうだよ…どうしてこんな格好なんだよ…」 「面白い格好してなきゃ他の店とおんなじじゃない。 嫌ならお金払いなさいよ〜」 俺とルロクスが口々に文句を言うと、ぴしゃりとラズベリルから反論が返ってきた。 俺たちが借金したわけじゃないのに…どうしてこんな格好を… こんな…吟遊詩人の服を… 前、ルセルさんが面白半分に薦めた吟遊詩人のなんちゃって服。あの時は頑として着るのを拒否したんだが… こんなところでまた薦められて、なおかつ着る羽目になるとは… 泣・き・た・い… 「ジルコンはまだいいじゃん…何で俺が女物のローブ着てないといけないんだよ…」 ルロクスはというと、いつも着ている蒼いローブとは色違いの、ピンク色のローブを着ていた。明らかに女物の服である。 「今日はお祭りだからねぇ!こういうのが流行るのよ! お店は話題性が肝心だもの!」 うきうきとした声と表情のラズベリルの傍ら、ふっくらした体格の店のおばちゃんがにこにこと『ラズちゃん頭いいわねぇ。すごいわぁ〜助かるわ〜ラズちゃん。お願いね〜』とフロアの方をラズベリルに任せきっていた。 ラズベリルもラズベリルでうれしそうに『えぇ任せといてっ!』と応えてるからなおさら困る。 「そういえばルゼルとドジャーは?」 「俺たちみたいに無理やり服を押し付けられて、今着てるんだろ…」 そんなことを言っているときだった。ドジャーさんとルゼルが奥から姿を現す。 「あ、あの…でもちょっと…」 「いいから!俺はそんなの着たくないんだからいいんだよ!ほらほら行った行った!」 ドジャーさんに押されながら出てきたルゼルを見て−−−びっくりした。 俺と同じ吟遊詩人の服…はいいとして… 「あら、ルゼルって女性用の赤が似合うのねぇ。」 「あ、いや…えっと…」 困りながら、苦笑いを浮かべるルゼルが、吟遊詩人の女性服を着てそこに立っていた。 「これ…本当はドジャーさん用に渡されたものなんですけど…」 「俺はそんなのイヤだからいいんだよ。」 と言って、耳につけたピアスを指で揺らして見せた。 ドジャーさんの着ていたのは騎士の服装なのだ。 …それはいいんだが… 「ねぇ、ジャラジャラ装飾してるから吟遊詩人のほう渡したのに。 騎士の服に装飾品って、何か変よ。」 ラズベリルが料理をお客に持っていく合間にちらりとドジャーさんの姿を見て指摘する。 「何言ってんだよ、着飾るのも騎士のたしなみ、ってな」 「あっちの騎士はどうだか知らねぇけど、こっちの騎士はそんな変な格好してねぇよ?」 ドジャーさんが得意げに装飾品を見せると、ルロクスがとどめとばかりに眉をひそめて言った。 ルゼルもおずおずとしながらドジャーさんに指摘する。 「騎士さんって感じには見えないような気がします…」 「かといってお前が着ても騎士に見えなかったはずだぜ? だからいいんだよ。さあさ、仕事したした〜」 そう言ってドジャーさんは拍手を打った。 半ば強引に話を切られ、俺たちは仕方なく、料理の皿を手に取り、ラズベリルが言うお客の元へと出しに行く。 しばらく仕事をこなしていると、ふと違和感に気が付いた。 くるりと振り向いてみると、そこにはドジャーさんがイスに座ってのんきにダガーを掃除している姿が… やっぱり…何にもしてなかったな… 「…ジル、オレ、やっていいかなぁ…」 「おう、やっちゃえ。」 …。 …その後−−− 部屋の片隅で少しの間、足を氷で固められた動く像が見物できた。 「ちくしょ〜おまえら〜〜!! フリーズブリードなんて卑怯だぞ〜〜〜! 解け〜〜〜!解きやがれぇ〜〜〜!」 モンスターであるポン族の二匹、ルゥとミーはおおっぴらに店の中を飛ぶわけには行かないらしく、もっぱら調理場のほうで皿洗いに奮闘していた。 …ミーはどうも水と戯れているだけのように見えるのは気のせいだろうか… 「ジルさん!3番さんにリンゴ酒おねがいします〜」 「あ、わかった〜今行く〜」 「ルロクス〜!ドジャー!この料理持っていって〜」 「りょうか〜い」 「チッ、しゃーねぇーなぁ…」 あわただしすぎるほど人がひっきりなしに入っては出て行く。 さすがお祭りだ。とはいえ、この祭りはなんの祭りなんだ? 「え?この祭り?このルアスの王様の誕生祭らしいわよ?知らなかったの?」 「あぁ、全く。」 「なんだって?あの城に王様がいるってぇのか?」 料理を取りに行きがてらラズベリルに問い掛けてみるとそんな答えが返ってきたのだが、ドジャーさんはそれが不思議に思ったらしい。 「そうよ?それが何かおかしいの?」 「俺んとことやっぱりちょっと違うんだなぁって思っただけさ。 まぁラズベリンみたいな、のへ〜っとしたヤツが俺の世界じゃ生きていけねぇんだけどよ」 「だからラズベリルだって言ってるでしょ!もう…」 「僕のことも“ルー”って呼びますしね…」 ルゼルが困った顔をして話に参加する。 ルロクスもひょいっと俺達の話の輪に入ってきた。 「オレなんか、“ルロっち”だぜ?」 「いいじゃん“ルロっち”は“ルロっち”だろうが」 「オレはルロクスだってぇの。 …そうか、ドジャーも“ドジャリン”とか“ドーちゃん”とか勝手に呼べばいいんだな、うんうん。」 「俺の名前はドジャーだ」 「そう言うんなら、オレたちに変なあだ名、つけんな。」 まだ少年といえる歳であるルロクスと、りっぱに大人だろうドジャーさん。 その二人は店の片隅で無言の戦いを繰り広げていた。 「あ〜…おなかすいた…」 ふらふらと、匂いに誘われてきましたとばかりに店に入ったその男は、空いている席にとすんと力なく座った。 店全体から漂うおいしそうな匂いは、男の満たされぬ空腹感をより一層際立たせる。 男の名前は−−−アレックス。 お腹が空いていた。 「ようこそいらっしゃいませ。 ご注文はお決まりになりましたでしょうか?」 注文を取りにアレックスさんに近づく店の女性。 一瞬、アレックスの動きが止まる。 ・・・はっとして注文の紙の方へと目線を戻した。 女性は注文がまだ決まっていないと分かり、『ご注文が決まりましたら、お呼びください』とだけ言うとその場を離れていった。 注文の紙を見ながら、う〜んと考えるアレックス。 そして、決めた。 「あのーすみません〜注文いいですか〜?」 「あ、はい〜」 傍へと駆け寄る店の女性。アレックスは生き生きと注文をし始めた。 「ノカン肉とセイジリーフの炒め物に、ホロパのわさび和え。 あと、世界樹の葉とベーコンの包み揚げもお願いします〜」 「はい、わかりました〜。少々お待ちくださいませ〜」 注文を書き取った女性がその場を立ち去ろうとしたとき、アレックスはなぜかその女性を引き止めた。 追加注文か?と思いきや…違った。 「つかぬ事をお聞きしますが−−− ルゼルさんですよね?僕の世界に来ていた、あの」 「え、あ、えっと…」 「あぁよかった。僕一文無しなもので。 ルゼルさん、おごっていただけませんか?」 ・・・。 「なんだ…ばれてやがったか…」 「案外、あの騎士さん、感がいいのねぇ。ルゼルの格好、完璧女の子なのに。」 俺の横でドジャーさんは舌打ちをしながら悔しそうに言い、ラズベリルは感心したとばかりに声をあげていた。 |
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