神経が痺れる。 そんな感覚に気が付き、目が覚めた。 僕は…えっと…ドジャーさんに言われてクレリックゲートセルフを使って… 少し前の事を思い出しながら、アレックスは体を起こし−−−目に見える光景で自分の置かれている状況がはっきりと分かった。 ここはジルコンさんの居る世界だって事を。 「城が…綺麗だ…」 昔、あんなに見ていたルアスの城。 アレックスの世界ではモンスターの根城になっているはず。 こんなに立派に聳え立っているなんて…世界は違うと分かっていてもアレックスは懐かしい気持ちになった。 振り返って見れば、今日は何かのお祭りなんだろうか。華やかに露店が広がり、人々が楽しそうに店を見て歩いている。 胸が苦しくなった。 「こんな世界になればいいと…思ってたんだけど…ね…」 自分の信じた幻影のようで怖いくらいだ。でもこれは異世界。異世界から着た旅人、ジルコンさんの持っていたゲート媒体で訪れることが出来た世界。 城も人も、綺麗だ。 こんな綺麗なのなら−−− 「きっと御飯も美味しいよね。」 今まで考えていた感慨深い思考は何処へやら。 アレックスはドジャーが居ないことも気にすることなく、真っ先に御飯のことを思いつく。 そして足取りも軽やかに露店街の方へと歩きだしたのだった。 「こんなに早くルアスに来れるなんて、 便利だよなぁ、ウィザードゲートって。な、ジルコン」 のんきな口調で俺に話題を振るルロクスは、嬉しそうににかっと笑った。 俺たちはウィザードゲートというスペルを使ってルアスの町に着ている。 ウィザードゲート−−− それは所定の場所へ集団を移動させるという魔術師専用のスペルだが、移動させる人が自分ひとりというわけではないため、通常の移動魔法より精神集中が必要なのだそうだ。 だから使用した魔術師−−−つまりルゼルは疲れているはずなわけで。 「ふぅ…ちょっと休憩いいですか?」 ルゼルは大きなため息をつくと、被っていた羽のついた白い帽子を取り、俺にそう問い掛けた。 「大丈夫か?無理させてすまない」 「え?大丈夫ですよ〜? ハリケーンバインを何発か打つのと、それほど大差ありませんし」 早くルアスに行って石を探し出したい。その気持ちから俺たちは今まで体力の消耗をさせるからと使用を避けていたウィザードゲートをルゼルに使って貰うことにしたのだ。ルゼルが一番、ウィザードゲートを使って行こうと言っていたからとはいえ、疲れさせるのは忍びない。 俺が気遣って問い掛けると、にっこりと笑ってルゼルが答え、まだ大丈夫だとばかりに数歩前を歩き出した。 −−−今日はお祭りらしい。 前来た時以上の活気と人ごみ。これがお祭りじゃなくって何だというくらいのルアスの広場の状況。 数々の露店がひしめき合って軒を連ね、中には“高級ノカン肉大特価販売中!!”とのろしまで立てて商売している露店もあった。 その人ごみの中を俺たちは互いを見失わないよう気をつけながら歩く。 たしか…この方向からすると−−−宿屋に向かってるのかな。 ・・・前、このルアスにきた時はルゼルを探して、町中歩き回ったからなぁ… ふっと意識を外にやっていたのが悪かったらしい。気が付くと、目の前にルゼルが居ない。見回せばルロクスも居ない。 え?!見失った?! 「ジルさ〜ん!どこですかぁ〜?!」 「おっ!わっ!ルゼルっ!今行く!!」 とは言いながらも人ごみに流され、ルゼルの居る場所までたどり着くのにずいぶん時間が掛かってしまった。 「…ジルコンってやっぱりちょっと抜けてるよな…」 年下のルロクスに言われても、俺は言い返すことが出来なかった… 休憩がてら、御飯を食べようということになった俺たち3人の足は食堂へと向かっていた。 もちろん、近くの露店からおいしそうな匂いがするけれど、いかんせん、値段が高い。 言ったら悲しくなるが、俺たちはそれほど裕福な旅をしているわけでもない。 だからお祭りの日でも、安く御飯の食べられる食堂なのだ。 「いつか…いつか…露店に売ってる物全部食べる…」 もの欲しそうなルロクスが呟きながらも、食堂の扉を開けた。 中もお祭り効果なのだろう。満員御礼だった。 かろうじて開いている席を見つけた俺たちはさっさと座ると、料理の一覧を見る。 「なににすっかなぁ〜」 「お祭りですし、ちょっと高めのものでもいいですよ?」 「え?ホント!」 「ルゼル、持ち合わせは大丈夫なのか?」 「うん、この前このルアスでお仕事した時のお金、まだ少し残ってるから。 だから今日くらいは」 「なら大丈夫だよな〜!どれにしよっかなぁ〜〜〜」 嬉しそうなルロクスの声に被るように、食堂奥の一角で騒がしく歓声が上がった。 いきなりの騒がしさに、俺は眉をひそめる。 歓声があがった場所には、たくさんの人で群がっていた。 「なんだろ…見に行こうぜ!」 「こら、あんまりやっかいごとは−−−ってこらまてっ!」 行こうとするルロクスを捕まえきれず、俺の手は空を掴み、ついでにイスから落ちそうになった。 「何なんでしょう…僕も気になるんで行ってきます〜」 「え?!ちょっとルゼルまで?!」 ルゼルまで野次馬するとは思わなかった。にっこり笑顔で『いきましょう』と言われ、しぶしぶ付き添って人の群がる一角まで着た。 人と人との間を割り入ることができないでいるルロクスに代わって、前に居た人にそっと場所を少し貰って覗いてみると、そこにいたのはここにいるはずのない、見知った顔の人物だった。 たゆたう波のような髪の毛を揺らし、きらきら光る装飾品が耳元で光るその男。 「え!?ドジャーさん!?」 「お?ジルンコ、奇遇だなぁ〜」 のんきにダガーをくるくる回して、ドジャーさんが立っていたのだった。 「ど、どうしてここに?」 「ん?ん〜、クレリックゲートでここにきたんだ」 「きたって…クレリックゲートって聖職者のやつだったよな? あれって、個人だけじゃねぇのか?」 「うん、確かそうだと思う。というより、どうしてクレリックゲートで飛んで来れるんですか?」 「聖職者のってことは、聖騎士のアレックスさんも一緒とか?」 「でもアレックスの姿見えねぇけど?」 「そういえばそうだな…ならどうやってドジャーさんはここへ…?」 「だ〜〜〜〜っ!質問が多すぎんだよっ!おめぇらっ!」 思わずドジャーさんが叫んだ。 い…言いすぎたかな…… ドジャーさんはむっとしながら腕を組んだ。 「一度しか言わねぇから、よっく聞いとけ。 俺は、ジルンコからルアスの城の破片の媒体をイタダいた。」 「い?頂いた?」 ドジャーさんにそんなものあげた覚えがないんだけど…と思いつつ、道具を入れているバックや懐を探って見て気づく。 …そういえば無い… ドジャーさんは話を続けた。 「で、それが聖職者用だったから、俺がアレックスにくっついてスペル発動させたわけだ。 で、気が付いたらこのジルンコの世界だったってぇだけのこった、よっ!」 両の手には懐から素早く取り出したダガー。 そしてそれを先にある壁の的に投げつける。 がっ! おおおおっ… 観衆から驚きの声があがった。 ダガーは二本とも、しっかりと的の中心に突き刺さっていたのだ。 「お〜凄いなぁドジャーって」 ルロクスも惚けながらダガーの刺さっている的を見つめる。 この的…店の壁に誰かがらくがきみたいに書いた的だけど…穴開いちゃってるけどいいのか…? 思わず心配したそのときだった。店の中から声があがった。 「ちょっとドジャー!店の壁に穴あけないでよっ! 私が弁償しなきゃいけなくなるでしょう?!」 怒りながら出てきたのは、異世界の人ではない、見知った人物だった。 「ら、ラズベリル…」 「あら、奇遇ねぇ。久しぶり〜。 って、なんだ、この人と知り合いだったの?あんた達」 女盗賊のラズベリルが、なぜかエプロンをつけて、手にはおたままで持ってそこにいたのだ。 「知り合いも知り合いだぜ?このドジャーは、異世界から着たやつなんだぜ?」 「あ〜はいはい、それ、そこのドジャーから耳にたこが出来るくらい、何度も聞いたわ。 なんだか知らないけど、問題はドジャーがあたいの手伝いもしてくれないで、今日ずっとあたいに御飯をたかってるってことよ。 代金、払ってくれない?」 「そう言われても…ドジャーさん分のお金は…」 言ってルゼルがグロットポーチの中身を確認し、苦笑いをする。 俺たち3人の一日分は何とかなるが、それ以外はどうしようもないってことか… ルゼルの顔色を見たラズベリルは、うぅ〜むと腕を組んで悩む仕草をする。 そしてぽんと手を打った。 「そうね、あんた達もここであたいと一緒に働けばいいのよ!」 『え?!』 観衆も不思議そうに見守る中、俺たちは声を揃えて疑問符を浮かべた。 |
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