世の中、常に何が起こるか判らない物である。 「事実は小説より奇なり」とは、誰が言ったのだろうか? 僕が駆けつけたときには、既に広場は戦場と化していた。 コレだけの騒ぎなんだから、野次馬が大勢居ると思いきや誰も居ない。 ただ、ドジャーさんと誰かが戦っていた。 格好からして、聖職者だろうか? でも、それなら手に持っている武器に説明がつかない。 十字架の形をした刃の槍を、まるで手足の様に振り回している。 「堂々と戦いなさい!この卑怯者!」 何だか、彼女は怒り心頭のようだ。 「無茶言うな!テメェ、一体何物だ?!聖職者は、刃物はご法度だろうが!」 ドジャーさんの投げる短剣を、彼女は手に持った槍ではじき返す。 「私は聖職者である以前に、神に仕える身なんです。 だから、聖職者の一般論なんて下らない事、守る必要なんて無いんですよ!」 まるで、野球をしているようだ。 ただ、バットが槍で、ボールが短剣な違いがあるけれど。 正確に、ドジャーさんの居た場所にはじき返している。 今何かが横を通り過ぎて行った様な・・・・・・ って、頬から血が出てるんですけど?! 「で―――メッツさん、何があったんですか?」 とりあえず、唯一の観戦者に質問する事にした。 「簡単に言えば、リターンマッチって所だな。 俺が負けたんで、今ドジャーが代わりに戦ってるんだ。」 周りが戦場と化している中、堂々と見物している彼の度胸には驚かされる。 まぁ、それがメッツさんらしいんだけど・・・・・・ 「それで、ドジャーさんが戦っているわけですか。 ―――って、メッツさんが「負けた」んですか?!」 それにしても、なんとも不思議な事がある物だ。 普通の戦士が両手で使う斧を片手で扱うあのメッツさんが、 どう見てもひ弱な彼女に負けるなんて。 「いやぁ、それが始まった途端に閃光弾を使われてなぁ。」 バツが悪そうに、ドジャは頭をかいた。 「閃光弾、ですか・・・・・・」 いや、それはどう見ても卑怯な手じゃないだろうか? 「ドジャーにゃ、是非勝ってもらわないと困る。」 「どういう意味ですか?それ。」 「ん?それはな―――」 つまり、こういう事だ。 彼女は聖職者で、根っからの信仰者ならしい。 で―――神の道とやらを広めるために行く先々の人に教えを広めていたとか。 そして、ドジャーさんとメッツさんの二人に白羽の矢が立ったとか。 無論、この二人が信者になるはずも無い。 散々口論をした挙句、挙句の果てに、彼女はこう言ったらしい。 「だったら、勝負をしましょう。 もし、私が勝てば信者になると約束しなさい!その代わり、私が負ければ――― そうですねぇ・・・・・・好きな物を好きなだけ食べてもかまいませんよ?」 と――― 「そうですか・・・・・・」 「お前も参加したかったか?」 「もちろんですよ!だって、食べ放題でしょ? そんなおいしい話、乗らないほうがおかしいですよ!」 「ガッハッハ、いや実におめぇらしい。しかし、一筋縄に行く相手じゃないぜ?」 「まぁ、確かに並じゃない気がしますけど・・・・・・もしかして、彼女―――」 さっきから攻防戦が繰り広げられている。 とはいっても、彼女はさっきから動いていない。 「短剣で私を仕留められるなんて、そんな甘い事が通用すると思ってるのですか?」 辺りを探りながら、彼女は叫ぶ。 「へ、力だけでメッツに勝った体力バカとサシで勝負できるか!」 インビシブルでも使っているのか、声だけが聞こえてきた。 「コレは神より授かった力です。タダの体力バカと一緒にしないでくれますか?」 「ハッ、そんなくだらねぇ御託並べて威張りかえって、何が楽しいんだか。この偽善者がよ!」 何だか、彼女にとって最大の禁域における言葉を、ドジャーさんは言ってしまったらしい。 彼女はその場で硬直している。 「へぇ〜、どうやら貴方にはきつ〜いお・し・お・きが必要みたいですねぇ。」 何だか、薄笑いさえ浮かべている。 はて―――何処かで見た事がある様な光景だ。 一体何処で見たんだろうか? 彼女の槍の先端に光が灯る。 「誰がテメェなんかに―――」 目にも留まらぬ速さで、彼女はドジャーさんに近づくと――― 「プレイア・クロス―――!!」 槍で、十字架を斬った。 「今のは―――」 「いやぁ、すごい技だな。」 メッツさんは感嘆の声を上げる。 横から中段のなぎ払いと、上から上段の切り込みまで。 十字架を作るように、相手に斬り込んだ。 相手から見れば、きっとそれは槍が二つに見えたに違いない。 多重次元屈折現象――― 騎士団の中でも、これを使える人間は僕だって数えるほどしか知らない。 既に人の技の領域を超えたそれは、はっきり言って人外の領域だ。 「コレを避けるなんて、流石ですね。」 「ったく、あんなの喰らったら即死だろうが!」 近くの民家の屋根に、ドジャーさんはいた。 どうやら、逃げる事は出来ても完全に避け切れなかったらしい。 手に持った短剣が根元から折れていた。 「えぇ、殺す気で仕掛けましたからね。『人見知り知らず』さん? 犯してきた罪はカツアゲ、スリから窃盗、詐欺、強盗、強奪、etc・・・・・・ 老若男女関係なく、見かければ誰でも標的にする事からこのあだ名がついたとか。 えぇ、もう勝負なんてどうでも良いです。ってか、ぶっちゃけ興味が無くなりました。 今、この場で貴方の首を貰い受けましょうか!!」 彼女の顔は真剣その物で、目からは強烈なさっきが放たれている。 「けっ、元々はテメェから言い出した事だろうが! まぁいい、殺し合いならこっちも全力が出せるぜ。」 ドジャーさんは、そう言ってその場から姿を消した。 が――― 「そこ!」 彼女の蹴りによって、強制的にインビジブルを解かれた。 「うわぁ・・・・・・あれは痛そうですね。」 まるでボールのように、バウンドしながらドジャーさんは飛ばされていく。 目測でも、軽く数メートルは有るんじゃ無いだろうか? 「だろ?俺は100メートルくらい飛ばされたと思うぜ。」 うわぁ、どんな怪力なんですか、彼女って。 ってか、怪力とかそんな類の物じゃ無いのでは? 「止めです!」 彼女はドジャーさんに襲い掛かる。 だが、ドジャーさんは倒れこんだまま動こうとしない。 「ドジャーさん!」 「まぁ、見てなって。」 以外にもメッツさんは落ち着いている。 「どうしたのですか?もうあきらめたとでも?」 彼女も不思議に思ったのだろう。 「いやぁ、そうじゃなくてさ―――ほら、チェック・メイトだ。」 「え?何を―――」 その疑問は、自らの口から出た何かで中断される。 それは、どの様な仕掛けだったのだろうか? 彼女は、自らに刺ささる短剣を信じられない様な顔で眺めていた。 「嘘―――」 槍が彼女の手から離れて地面に落ちていく。 そして、彼女も――― 「インビジブル・ダガーですか・・・・・・」 つまり、説明するとこうなる。 倒れた振りをして、インビジブルで隠した短剣を投げた訳だ。 それに気が付かなかった彼女は、それを喰らってしまった。 「勝負は最後までわからない、だろ?」 「そうでしたね―――油断した、私の負けのようです。」 短剣は心臓の近くに刺さっている。 少なくとも、このまま時間がたてば待っているのは一つだけだ。 「助かりたいんなら、ヒールでもしたらどうだ?そのままだと―――」 「そんなの、自分で自分に止めを刺せって言ってるような物ですね。 少なくとも―――私に治療魔法は通用しない。回復薬でも無い限りは無理ですね。」 彼女はドジャーの言葉を遮り、冷静にそう言った。 「って事は、テメェは何か?自らが神の道に反する存在だ。とか言うつもりなのか?」 「―――」 彼女は何も答えなかった。何故なら――― 「ドジャーさん、もう意識が無いですよ。」 血は絶え間なく流れ、確実に彼女の命を削っていく。 「ったく、どうしようもねぇ奴だな。何が聖職者だ、何が神に仕える身だ。 結局、テメェは有りもしない「神の加護」とやらにあこがれただけだろうに―――」 投げやりな言葉がむなしく響く。 まるで眠るかの様に、彼女の顔は穏やかだった。 「で、どうするんだ?ドジャー。」 気がつけば、ドジャーの隣にメッツが立っていた。 「けっ、わぁったよ。やりゃあいいんだろ?やりゃあよ。」 嫌々ながら、ドジャーはヘルリクシャの栓を歯で開ける。 「イヤだったら僕がやりますよ?」 「そうだな―――俺でもいいんだぜ?」 冗談半分にメッツは笑ってそう言った。 「けっ、勝手に言ってろ。」 そう言って、ドジャーはヘルリクシャを口に含むと――― |
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