「今のは危なかったですよ」

と、
ルアスの神官ライナさん。
初心者には御馴染みのセリフだ。

「いやぁ・・・ありがとうございます。今日も死亡直前に転送してもらって・・・・
 危うく死んでしまうところでしたよ。ホント、「おぉ死んでしまうとは何事じゃ」みたいな場面でした。
 でもライナさんのお陰で瀕死状態で転送。ハハッ。まるで僕は市場に出荷される魚介類のようですね。
 でもホントなんとお礼を言ったらいいか。って言ってもありがとうございますとしか言いようがないんですけどね」

と、
僕。
自分の人生的には御馴染みのセリフだ。

「ありがとうございます。それではふんばってまた狩りに行ってきます。
 あ、大丈夫です。次はライナさんにお世話になったりしないよう慎重に狩りますから。
 だって僕、この狩りが無事に終わったら・・・・好きな子に告白しようと思うんです・・・・」

無事に帰ってこれないような死亡フラグを口にした後、
僕は神官ライナさんの前を後にしようとしたのだが、
その僕の肩にガシッと鷲の様な握力で手が。

「何を行こうとしてるのですか」

後ろに鬼を感じる。
まさかまさか。
僕の背後にいるのは美しい女神代行人である神官ライナさんだ。
こんな殺気を背中にピシピシと受けるはずがない。

「え・・・」

そして振り向くと、そこには鬼のように美しい笑顔で殺気を放っているライナさん。
僕の肩を掴む手は「ナイフなんかいらん。リンゴなど手で潰せる」とでも言わんばかりで、
殺気だけで周りの木々に止まっていた鳥たちが羽ばたいて行った。

「くれるもんくれないと」
「え!?何言ってるんですか!?レベル20以下の瀕死転送は慈善事業なんじゃないんですか!?
 この間までノーマネーでフィニッシュだったじゃないですか!タダより安いものはないですよ!」
「時代が変わったんだよ坊や。今の世の中無料仕事で渡っていけないの。分かる?
 まず言っとくけど私は貴方の命を救ったのよ?なのに無料?私をポケモンセンターかなんかだと思ってんの?」
「あ、いや・・・・」

そりゃぁ確かにその通りなんだけども。

「国も騎士団も無敵じゃないの。公務員ナメてんの?神官も人間なのよ。分かる?」
「それはそうですけど・・・・」
「ドラクエやったことある?なかったら死んだ方がいいわ。男の子に生まれた価値もない。
 あれの神官さんも寄付金とか言って結構な額ふんだくるでしょ?
 神に仕えてようがオマンマはグロッド(現金)でしか買えないの。おわかり?」
「わ、分かりましたよ!いくら払えばいいんですか!?」
「ジャンプしてみ」
「?」

よく分からないが、とりあえず僕はジャンプしてみた。
チャリチャリと財布の中の音が奏でられる。

「今鳴った分全部」
「えぇ!?鬼ですかあなた!」
「神官に向かって鬼とはなんですか。天罰が下りますよ。天罰がいやならさっさと出しなさい」

天罰ならすでに下っている感が否めないのだが、
とりあえず財布を取り出すやいなやライナさんは僕の財布を引ったくり、
逆さまにして出てきた分を全部懐に入れた。

「フフッ。しめしめ」
「喜び方が古いですよライナさん・・・」
「うっさいわね。でもま、満足だしちょっと多めにもらったから、これあげるわ」

と言って空の財布と共にスラッシュのスクロールをくれた。
もう覚えてるからゴミ以外の何物でもない。

「あの・・・・一文無しになっちゃったんで・・・・これ今ここで売っていいですか?」
「おぉ、それを売るなんてとんでもない」
「な、何言ってんスか・・・・」
「分かった。分かったわよ。全く。今慈善で上げたものをすぐに売るなんて、
 スクロールと一緒にケンカも売ってるわね。・・・・はい。買い取り価格。ガバスでいい?」
「グロッドでください・・・・」
「嫌ならペリカもあるけど?」
「グロッドで・・・・」
「まったく。近頃のガキは。このゆとりが」

理不尽に怒られて突きつけられたスクロール一個分の売値を財布にしまい、僕はそこを後にした。

-------

「はぁ・・・・」

ルアスの街中を歩きながらも、そりゃぁため息も出る。
ため息でハリケーンバインを起こすに至りそうだ。

「なんでこんな世の中になっちゃったんだろうなぁ・・・」

あぁそうだ。そうだった。この世。マイソシア。
そういえばタイトルに「原油価格高騰マイソシア」なんて文字を大げさに掲げ、
ネオンとスポットライトと共にファンファーレをかき鳴らしながらアスガルド図書館に掲載してしまったが、
そこまで意味はない。
ゴメン。
ともかく、今のマイソシアは不況であり、ビジネスチックな世界になってしまったという事だ。
何をするにも金金金グロッドグロッドグロッド。それも日々沸騰していく物価。
学歴社会。派遣問題。プライムローン。ネカフェ難民。ハンターハンター無期限休載。
世の中バッドニュースばかりでイヤになる。

「あ、遅れましてこんにちは」

忘れてた忘れてた。
僕はカメラ目線でちょっと挨拶をさせてもらった。
んで?カメラどこ?どこよ。もうこの小説アニメ化したって聞いたけど?違うの?
まぁいいや。

僕の名前はラディオ。
神官ライナに助けてもらうのが常連ということで、レベルの方はご想像がつくだろう。
なのに明日の御飯を一日二食に増やすため、
(現在は昼ごはんとオヤツにワカメのみ)
一生懸命狩りに勤しみルアス近辺で小銭日銭を稼ぐザコ剣士だ。
毎日の標的はモスで、
モスウォーリアが来ると殺されるレベルだ。終わってる。
だけどこのご時世で生き長らえるために日々ボロボロになって小銭を稼ごうとしているこんな僕の姿を見て、
人は僕の事を『壊れかけのラディオ』なんて呼ぶ。
ほんとマジ、本当の幸せ教えてよって感じだ。
なのに壊れるほど頑張っても1/3も伝わらないこの世の中。
純情な感情は空回りだ。

「手助けしてくれる仲間とかいれば話は違うんだけどなぁ・・・
 仲間になるなら足技が凄い強い上に料理も出来て眉毛がクリンッてなってる人がいいなぁ・・・・」

この間試しに募集したが、
3日粘ってやっと来てくれた人の名前がヤムチャだったので断った。

「ソロ狩りは厳しいナリ・・・」

世の中甘くない。
無料仲間派遣所ルイーダの酒場なんてものはマイソシアには無かった。
残念なことに補助魔法のエキスパートな幼馴染の聖職者が居るなんて設定もなかったし、
父が実は昔はブイブイ言わせてた凄腕・・・・というわけでもない。
53歳にしてコンビニ(なんでも屋)でレジをするフリーターだ。
一つ救いなのは妹がいること。
お兄ちゃんお兄ちゃんと慕ってくれる可愛い奴だ。
ただしブサイクだ。

「あぁ・・・また延々とモスを狩る作業が始まるお・・・・やりたくないなぁ・・・・」
「おい、あんた」

街中で突然声をかけられた。するとローブに身を包む男がそこに居た。
「なんだ男か。フラグじゃないのか」とか心の中で思いながら、僕は返事をした。

「なんですか?」
「いや、いいところに居たと思ってな。ちょっと拾って行こうかなってよ」
「僕はデスノートじゃないんで気軽に拾わないでください」
「そんなコンビニに寄るようなテンションでデスノートが気軽に落ちてるわけねぇだろ。
 なぁあんた。これから狩りに行くんだろ?旅は道連れ。俺と一緒に行かねぇか?」
「すいません。知らないオジさんに付いていくなってバッチャンが言ってたんで」
「飴やるから」
「いきます」
「お前の婆ちゃんにちゃんと教育しろと言っておきたくなるな」

そう言い、ローブ姿の男はポリポリと頭をかいた後に自己紹介を始めた。

「俺は見ての通りの聖職者だ。名前はアディオ」
「ややこしい!」
「あぁ?なんだややこしいって。あ、もしかしてお前あの有名な『壊れかけのラディオ』か?」
「はいそうです」
「やれやれ。お互い苦労するな。間違われる事しょっちゅうだよ。ついでに俺のあだ名は『壊れかけたアディオ』」
「や、ややこしい!」
「まぁしゃぁねぇだろ。とりあえず俺は聖職者だからよ。出来ればペア狩りしてぇわけだ」
「はぁ・・・・失礼ですがお実力はおどの程度でおまりますか」
「聞いた事ねぇ丁寧語だな。誤字かと思ったぜ。・・・・・ま、セルフヒールは出来るぜ」
「それ寄生じゃん!」
「冗談だよ。ヒールまでは出来る」
「ショボッ!!」
「しょぼっていうなよ。今だけだよ。すぐにヒールラやヒールガ覚えてやるから」
「覚えませんよ!」

駄目だこの人。早くなんとかしないと。
置いていくか?断るか?でも仲間が欲しかったのは本当だ。
思い出す。母の口癖はこうだ。
「いい狩りをして、いい実力をつけて、いいギルドに入って、幹部になって、城主になって税金ガッポガッポ」
最近はメンドくさくなったのか、
口癖を略して「イガッポイガッポ」に変えてしまって目も当てられないが、、
ともかく僕一人じゃぁロクに狩りも出来ないから実力も上がらない。
仲間は必要だ。でもこの人じゃぁ・・・

「あれ?でもローブで分からなかったけど、結構引き締まったイイ体つきしてますね」
「なんだお前。阿部さんだったのか。ニコ厨かよ。帰ってガチムチランキングでも見てろよ」
「何が悪い!違いますよ。ただ聖職者の体付きじゃないですねってことで」
「もともとは盗賊だったからな」
「そうなんですか?なんで聖職者に転職を?ヘルシングでも読んで「エイメン!」とか言いたくなったんですか?」
「いや、それは三日で飽きた」
「三日もやってたんだ!」
「いやぁ、このご時世だろ?原材料価格が上がってて爆弾とか消費するのアホらしいんだよ」
「おぉ。まだタイトルのテーマで進むつもりはあったんですね」
「テーマ通りのネタは用意してあったのにここまで書いてそれを消化するのはすでに諦めたとか言ってるぜ」
「誰が?」
「エイメン!」
「誤魔化すな!」

でもそれは考えてみれば僕のようにただヘナチョコなんじゃなく、
もともとは狩り経験豊富な人なのだ。頼りになる。
きっとこの人はワープを使わずにクッパに辿り付けるぐらいの経験者だ。
マイソシアで言うならば、
「攻城戦は鯖落ちしてからが本番」とか言ってる熟練者だったに違いない。

「分かりました。僕とトゥギャザーしましょう」
「古い」
「・・・・すいません。僕も軽率な発言だと思いました・・・」
「いや、別にいいけどよ」
「じゃぁ狩場はルアスの森の入り口付近でいいですか?」
「すっげぇヘボいな」
「最初は街の周りでスライムを倒してレベル上げろとバッチャンが言ってました」
「孫に託す言葉じゃないな」
「クラウドとセフィロス、マジカッコイイとも言ってました」
「お前の婆ちゃん腐女子かよ!」
「何にしろ僕らのレベルじゃぁルアスの森が限界でしょう?
 身なりと話を聞いただけでも貴方のレベルもたかが知れてますしね」
「ほぉ。絶対神イアに仕える聖職者であるこの俺をそんな言葉でくくるか」
「何が絶対神イアですか。貴方が使えてる神なんてケンプファーとかそんなんでしょ」
「古い!そして神じゃない!」
「ある意味神です」
「アスガルドをガンダムネタ満載にしてっただけじゃねぇか!俺の床落ちアイテム返せ!」
「床に置く方が悪い」
「お前はネクソン社員か・・・・」
「ともかくどこに狩りに行くにしろ、すぐには行けませんよ?」
「あん?なんで?」

僕は指し示した。
それはルアスの街の外へ繋がる門だ。
そこには兵隊が立っている。

「この原価高騰時代です。狩りの需要は高まるばかり。底辺の労働者は低レベルだろうと狩場に殺到してるんです。
 今ではドロイカンが絶滅危惧種とまで言われ、ピンキオでさえ発見と同時に5方向から魔法が飛んでいきます」
「どいつもこいつも小銭稼ぎに必死なわけか」
「みんなキリマルです」
「古い」
「シンベエしゃまぁ〜」
「似てない」
「とにかくレベル上げなんてしてる人いないですよ。とにかく小銭になるショボいアイテムでいいからって、
 皆血眼になって狩場を荒らしています。ルアスの森でさえモスより人の方が多いんです」
「ほぉ。んで結局あの兵隊は?」
「王国騎士団の兵士で整理券を配ってます。狩場規制です。魔物が絶滅しちゃうからって」

人間が魔物を守る時代。
酷い時代になったもんだ。

「整理券だぁ?その順番こないと狩場にも行けねぇってか!?」
「はい。一応僕はすでにもらってますけど・・・」
「何番だよ」
「777番です」
「無駄に縁起いいな!待てるか!順番が来るまで何してればいいんだよ!」
「僕はもっぱらこの辺で四葉のクローバーを探してます」
「乙女かお前は!」
「あとイメージトレーニングとかしてますよ」
「お?やる事だけはいっちょ前だな」
「人間と等身大のカマキリと戦いました」
「グラップラーかお前は!」
「あとでもどうしてもテスタに勝てません。前エグゼどうにかしてください」
「格ゲーのイメトレなんてすんな!」
「でもどうします?今日中に狩場には行けないと思いますよ?」
「あー・・・そうだな・・・・・俺も金稼ぎが目的だしな。金稼げる手段は他にないのか?」
「ありますよ」

僕はニヤりと笑った。

「レビアです」
「レビア?なんでだよ。お前レベルじゃあんなところで狩れないだろ。アンタゴンさえ持ってなさそうだし」
「ギャンブルですよ」

アディオはため息をつき、間を置いて言った。

「駄目人間だなお前」
「うるさいですね。」
「駄目人間だなお前」
「2回言わないでくださいよ!ちゃんと聞いてください。このご時世です。レビアはギャンブル都市に発展しました。
 雨降れば傘屋が儲かるってやつです。不況な時代はパチンコ屋とかが儲かるんですよ」
「まぁ世の常だな」
「あと不況の時は水商売の質があがると言ってました」
「誰が?」
「レビアは中立都市なんで政府の手がかからないですしね。レビアは格好のラスベガスなわけですよ」
「ヒマだし別にいいけどよぉ。お前金あんのか?」
「ないです」
「ねぇのかよ」
「神官にカツアゲされました・・・・」
「神官に!?世の中怖ぇなぁ・・・・でもそれじゃぁギャンブルどころかレビアにも行けねぇじゃねぇか。
 最近有料だろ?ゲート価格なんて小売業者が買い占めたせいで高騰しまくってるしよぉ」
「ルーラ覚えてないんですか?」
「覚えてねぇよ!ねぇよそんなもん!それに俺は聖職者だっつっただろが!」
「テレポは?」
「それ脱出魔法だし存在してないから!」
「じゃぁリレミト」
「だからお前はその脳ミソの迷宮から抜け出せよ!」
「じゃぁどうしたいんですか。わがままだなぁ」
「あ、カッチーン。もういい。俺ぁ別にお前に固執する必要はねぇんだ。
 パーティー募集して誰か他の奴と狩りに行く。俺達の戦いはまだ始まったばかりだ」
「好きにするがいい。これはお前の物語だ」
「誰様だてめぇは」
「エー、でも僕は仲間が欲しいんですよー。このままじゃドラクエ1ですよ。
 カメラ目線のまま冒険して復活の呪文をメモる日々が始まっちゃうじゃないですか」
「好きにしろ。俺だって日々の生活に必死なんだ」
「ケッ、誠死ね」
「誰が誠だ」
「エー、そんな・・・一緒に狩りしてくださいよぉ・・・・」
「そんなアイフルのCMの子犬みたいな目ぇしても駄目だ」
「じゃ、じゃぁ狩りじゃなくてもいいです!」
「なんだよ・・・」
「一緒にウイイレしましょう」
「お前は入ってばかりの大学一年生か。お前は3点差ついたらスライディングばっかしそうでイヤだ」
「じゃぁ桃鉄しましょう」
「お前は5年目くらいになったらジャンプ読み出して「おい、お前の番だぞ」って言ってやらなきゃ駄目そうでイヤだ」
「じゃぁヴァーチャルボーイやりましょう」
「一人用だろアレ!!観戦さえできねぇし!っつーか買うなよあんなもん!」
「そんな・・・テレビゲーム除いたら僕、恐竜育てるたまごっちくらいしか持ってない・・・・」
「節子!それたまごっちやない!ぎゃおっちや!」
「マジで!?」
「マジで。つーか何?今の話聞いてるとお前、仲間じゃなくて友達欲しいみたいな感じに聞こえるんだけど。
 もしかしてお前。友達いねぇ・・・・・とかじゃぁねぇよな?」
「・・・・・・」
「・・・・おい?」
「一人でモンハンやって何が悪い!」
「やっぱりかよ!」
「あぁそうですよ!フレンドリスト0だもんね!探し物はなんですか?友達ですよ!見つけにくいものですよ!
 カバンの中も机の中も探したけれど見つからないのに!デスクトップの中には沢山!」
「寂しい奴だなお前!」
「嫁のサイズは1024x768!」
「現実を見ろ!」
「僕もいつかモニターの中へ!」
「現実を見ろって!」
「MMOに使う時間って・・・・」
「そ・・・それは現実見すぎだ・・・・楽しもうぜ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「んじゃいいです・・・」
「・・・・なんだよ」
「お母さんと狩りいくから」
「・・・・・・・・分かった。これからは一緒に狩りしてやる」
「連帯保証人になってくれるんですか!?」
「一緒に借りにいってやるんじゃねぇよ!狩りにだ!」
「突然なんでですか?」
「お前を野放しにするとちょっと心配だ。それに言ったろ?袖触れ合う他生の縁だ」
「ありがとうございます!」
「・・・・ま、何にしても、今日はもう狩りは出来ない事に代わりねぇな」
「いえ」
「なんだ?」
「それならば・・・・リベンジを果たしたいと思います」
「何に?」
「いざ!」

ラディオは剣を掲げた。

「討伐!ライナ神官!」


その後、身包み剥がされた男が二人になったそうな。







                 






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