「あぁ・・・・」

俺はデスチャンプスミル。
火山に住んでるモンスターってやつだ。
まぁ強い部類だろう。
天下無双までは言えなくても
俺自身は常に最強だと思っている。
だって"デス"チャンプスミル。
"デス"がついてる。
これはモンスター的には最高の名誉。
誉れだ。

「はぁ・・・・」

だが、
こんな俺にだって憂鬱になることはある。
こんなカッコよくて、
こんな強くて、
こんなイカしたデスな俺にも悩み事はある。

俺は火山の水溜りに自分を映しながら、
もう一度ため息をついたあと・・・
独り言としてその悩みをボヤいた。

「なんで俺はこんなにイカしてるんだろう・・・・」

これが俺の悩みだ。
水溜りの鏡の前で、
俺はポーズをとる。
両腕を盛り上げながら・・・・

「見ろよ俺・・・この上腕二頭筋・・・・最高すぎる・・・・
 見ろよ俺・・・この引き締まった腰・・・・・・我ながらウットリだ・・・・
 見ろよ俺・・・この胸筋・・・・こりゃもうセクシーを通り越して犯罪だ・・・・」

俺はあまりの自分の素晴らしさが悩みだった。
もう強い。
俺って強い。
強い上にセクシー。
美と力。
そして筋肉。
それらを兼ね揃えてる俺ってなんてズルい存在なんだろうか。

「むん・・・・」

両腕を引き締めながら、
今度は両腕を腹の前に持ってくる。
そして水溜りの鏡ごしに俺を見る。

「最高すぎる・・・・ブラボーだ・・・・どの角度から見ても完璧だ・・・・
 筋肉ってのはなんて美しいんだ・・・・・俺はなんて輝かしいんだ・・・・
 この洗練されたボディー・・・そしてそれに栄えるチャンピオンベルト・・・・
 サーベルのような自慢の牙・・・・あぁ・・・神は俺に全てを与えた・・・・」

悪いな皆。
俺はなんてズルい存在なんだろうな。
俺のように美しくなりたいかい?
俺のように強くなりたいかい?

俺は自信と自慢の塊だった。

だから全てを疑わなかった。
そしてちょいと自慢してやったのさ。
あと必要なのは周りの黄色い歓声だけ。
装飾って奴だ。
俺は肉食だけどな!ハハハ!
うむ。ギャグも完璧だ。
天は俺に文武の才能さえ与えてしまったようだ。
このギャグセンスが分からないやつは筋肉がヘニョい奴に違いない。

・・・・とまぁ、
んでもっかい言うけど自慢してやったわけよ。
マイティエンゼルトプスの野郎にな。
あの豚みたいな野郎だ。
あのブニブニには、絶対俺の体は羨ましいに違いない。

「ヘイ!マイティ!俺のボディーを見てくれよ!」

「ん〜?」

俺は自慢のポーズの中でも一番俺様が栄(は)えるポーズを見せてやった。
まぁなんだ。
ハッキリ言ってイチコロだ。
あのマイティの目を見てみろ。
ほろもう目が泳いでる。
クチを引きつらせて動揺してる。
まぁ俺の姿を見せ付けられればしょうがないといえばしょうがない。
だから俺は聞いてやったんだ。

「どうだ?」

そしたら・・・

「どうだって・・・・」

ん?
なんだかな。
まぁ言葉で表すのは難しいだろう。
だがそんなに照れなくとも。

「まぁ簡単に言うと・・・・・・・キモい?」

「・・・・・・・・へ?」

・・・・・・・・
・・・・・・・
風が吹いた気がした。
聞こえた言葉の意味が分からなかった。
キモい?
何だそれは?
新種のホメ言葉か?
あぁ・・・あれか。
あれだろ?
最近流行りの"キモカッコイイ"ってやつか?
・・・・・ん?
キモいってなんだ?

「・・・・お、おいマイティ。よく意味が分からなかったんだが・・・」

「え?簡単に言ったのに・・・・もう一回言うよ?キモい」

「!?」

「詳しく言うならキモ過ぎ」

「!!?」

「今風に言うならキモキモい」

「!!!??」

「あなたの50%はキモさ。もう半分はキモキモさで出来ています」

「!!!!???」

そこまで聞いた時点で、
俺の頭の中はオーバーヒートし、
熱で頭の中が沸騰し、
混乱がかけめぐり、
脳に閃光が駆け抜けるようにプツりと切れて俺は倒れた・・・・・

「キモ・・・キモ?・・・キモ・・・・キモ・・・・・」

俺はその語源は知らない。
しかし、
これ以上に殺人的な言葉はないと思った。
頭の中でお星様が回り、
目の前が真っ暗。
ここが天上界なのかと思うほどに・・・・


















「はぁ・・・・・・・・」

俺はため息をついた。
いつものお気に入りの水溜りの前で。
だがいつもの元気はなかった。
憂鬱の種類が違った。

「キモい・・・か・・・・」

俺は水溜りの前でいつものようにポーズをとり、
いつもどおりの自分の筋肉を見た。
盛り上がる上腕二頭筋。
すさまじく割れた腹筋。
背中に浮かぶ筋肉の模様。
胸に浮かぶセクシーな二枚板。
文句の付けようがない。
だが・・・・

マイティが言うには、
俺のこの体はキモいらしい。

「何がキモいんだろうか・・・こんなに最高なのに・・・
 こんなにモリモリなのに・・・・強い証なのに・・・・」

ため息しか出なかった。
今までの自分。
・・・・・いや、
俺の全てを否定された気分だった。

正直・・・・・死にたくさえなった。
あの言葉にはそれくらいの力があった。

「こんなもの・・・もういらないな・・・・」

それはサンドバッグだった。
いつもこれで鍛えている。
俺の汗が浸み込んだ魂の赤い塊。
それを・・・・・
俺は水溜りに投げ込んだ。
俺の全てを否定する行為だ。
サンドバッグが水溜りに半分浸かり、
虚しく横たわった。
まるで死体のようにさえ見えた。



「きゃぁあああああああ!!!!」

「っ!?」

突如聞こえた悲鳴。
悲鳴だ。
あの声。
分かる・・・・・マイティー・・・
マイティエンゼルトプスの声だった。

「な、なんだっ?!」

分からない。
分からないが、
ただ事ではないと俺は悲鳴の聞こえたほうへ走った。


「はぁ・・・はぁ・・・・」

走った。
必死に走った。
悲鳴の聞こえた方向へ。
理由?
理由なんているのか?
ただ悲鳴が聞こえた。
それだけで必死に走って何が悪い。
俺の鍛え抜かれた足。
足の筋肉が汗をうねらせ、
火山の地面の土と混じりって泥のようになりながら・・・・
ただ俺は筋肉をしならせて走った。

「マイティ!!!」

見つけた。

「スミル!!!」

そう叫ぶマイティは、
まるまる太った体に・・・
赤い・・・・
赤い一本の切り傷を負っていた。
刀傷。
分かる・・・
何がどうなったか・・・・



「おいおい!Dが来たぜ!」
「げ、軽い狩りのつもりだったのによぉ」
「どうする?装備整えてねぇぜ?」
「だな。アイテムも切れそうだしよ。いい辞め時じゃね?かえっか」
「いやいや、D一匹で逃げんなよ」
「そうよそうよ。経験値おいしいし帰るなら狩ってから帰りましょ」
「あー、そうすっか」

人間達だ。
4・5人ほど。
いや、5人だ。
なにを話してるかは分からない。
小難しい人間の言葉だ。
あの声を聞くとムシズが走る。
ヒョロいボディーしかしてないくせにいつも俺達を上から見てくる。
そして・・・・・。
無意味に俺達を傷つけにきやがる。
・・・・そこで血だらけで寝そべっているマイティーのように・・・

「おーっし。ちゃっちゃと倒すか」
「これで今日はデスチャンプ15匹にティラノ10匹」
「大量だな」

いつも思う。
何しにきてるんだこいつらは。
経験という言葉を聞いた事がある。
つまり、
修行のために俺達を殺しに来ているというのか。
・・・・・。
俺の体が震える。
武者震い?
・・・・・・・・いや・・・・・・

「強くなりたいなら・・・・・・・・・」

「うわっ!」
「Dがしゃべった!」
「モンスター語しゃべったぞ!」

「人間共ぉ!!てめぇら!!!強くなりてぇなら!!!!」

俺は拳を溜める。

「俺のように鍛錬して強くならんかぁあああああ!!!!!」

「へがっ!!!」

俺のパンチが一人の人間の顔面に直撃する。
いい感触だ。
骨のキシむような轟音を鳴り響かせ、
人間はゴンゴロゴンゴロと吹っ飛び、
火山の水溜りにボチャンと落ちて起き上がってこなかった。

「うわっ!戦士がやられた!」
「このD強ぇぞ!!」
「回復してやれ聖職者!!」
「わ、分かってるわよ!!・・・・って・・えぇ!?」

聖職者の女の目の前。
そこには歯を食いしばったデスチャンプスミル。

「このヘナチョコ人間めっ!!!」

「ちょちょちょちょ!!!」

俺は女聖職者をその豪腕で持ち上げる。
俺の頭の上まで持ち上げる。
火山の輝かしい太陽が俺の両腕を照らす。
見ろか。
この俺の強力(ごうりき)。
そしてバーベルのように聖職者を持ち上げた俺は、

「俺の友達の傷には目もくれなかったくせに!!」

そのまま女を・・・・・・・・・投げ飛ばした。

人間の女は高く高く投げ飛ばされ、
そして綺麗な放物線を描いた後、
水溜りに落ちた。

「クソッ!!」
「いけ!修道士!」
「わぁーってるよ!!!」

修道士の男が瞬発力を活かして走りこんできた。

「てりゃっぁああ!!大地の怒り!!!」

ゴォオオン・・・という重低音が鳴り響く。
人間の拳が俺の胸に突き刺さったのだ。

「決まっただろっ!」

・・・・・・ふん。
なかなかいい威力だな。
だが、

「・・・・・・・え!?効いてな・・・・」

馬鹿な人間だ。
この俺の鍛えられた胸板。
このセクシーでダイナマイトな胸筋に、
そんなやわな拳が効くわけが無い。
見ろよこの胸の筋肉。
・・・・・・・素晴らしいな俺。

「ま、吹っ飛べや人間ッッッ!!!」

俺の上腕二頭筋。
この鋼鉄の力こぶ。
それをこの柔な拳野郎に叩き込んでやった。
まぁつまるところラリアットって奴だ。
俺のパワフルな筋肉を存分に使った技だな。
その人間は俺の筋肉を食らうと共に、
「ぎょへ」とか鳴き声をあげながら吹っ飛び、
簡単にまた水溜りの中に落ちた。
ホールインワンってやつだな。

「ちょ・・・・」
「やべ・・・このD強ぇ・・・」
「ど、どうする!?もう俺ら二人だけだぜ?!」
「そんなん逃げるわけにはいかねぇだろ!」
「えぇ・・・俺またライナさんに「いまのは危なかったですよ」って言われちまう・・・」
「ちょ!!おまっ!?まだそんなレベルだったの!?」
「・・・・寄生しようと思ってて・・・」
「・・・・・・クソッ!とにかくやるぞ!」

一人の男は槍を。
もう一人の男はダガーを構えた。
だが・・・・
二人の男が振り向くと、
火山の輝かしい太陽は影になっていた。
目の前に俺がいたからだ。

「あ・・・・」
「やば・・・・」

俺は二人の人間の頭を掴む。
片手づつ。
そして・・・・・・ゴツン。
ゴッツンコ。

「・・・・・・っ・・・・・」
「・・・☆・・・★☆・・・・」

「ほい。終了」

俺はそいつら二人の首根っこを掴み、
ポイッと水溜りに投げ捨てた。
ボチャンという音と水しぶきとともに、
5人の人間が水溜りに転がる。
いい様だ。
マイティを傷つけるから・・・・

「・・・・・・・・あっ、マイティー!!!」

俺は思い出したようにマイティに駆け寄る。
酷い傷を受けている。
血が滴り出ている。

「大丈夫かマイティ!」

大丈夫じゃなさそうだが、
俺は叫んだ。

「大丈夫大丈夫・・・・致命傷にはならずにすんだよ・・・・」

「そ、そうか・・・」

俺はホッとした。
安堵のため息というのは自動的に出るのだと改めて感じた。

「マイティ。ここらは人間がよくくるんだからお前みたいなのは・・・・」

「ご、ごめん・・・」

「いや、別にお前の勝手だし謝らなくてもいいけどよぉ」

「違うんだ。さっき僕が言った事さ」

つぶらなエンゼルトプスの目は、
俺に向かって話しかけた。

「さっきって?・・・あぁキモいってやつか」

「うん」

なるほど。
取り消したいってことかな。
・・・・・ん?
という事は・・・・・

「やっぱ!!」

俺は立ち上がり、
腕の筋肉を張り上げる。
いつ見ても素晴らしい・・・。
このきらめく汗・・・・
やっぱ・・・
俺は間違ってなかった。
俺の筋肉は・・・
俺のボディーは・・・・

「俺の筋肉はキモくなんてなかった!!!!」

「いや、キモいよ」

マイティの言葉に、
俺はずっこけた。
体の力が抜けた。

「な、なんだよ・・・・やっぱりかよ・・・・」

両手をつく俺のイカつい筋肉。
イカした筋肉。
それが・・・・
やはりそう言われると・・・・哀れなものに見えてくる。

「でも・・・・」

悲しむ俺に、
マイティが話しかけてきた。

「君のその筋肉で僕は助かった。
 キモいけど、その筋肉が無かったら僕は死んでた・・・・」

「マイティ・・・」

「だからさ、その筋肉はやっぱりキモいけど・・・・」

マイティは、
そのエンゼルトプス特有のつぶらな瞳を俺に向け、
大きな口で大きな笑みを作って俺にそう言った。

「君の筋肉は最高だよ♪」


















次の日。
俺はやっぱり火山の水溜りの前にいた。

「ふふ〜んふ〜〜ん♪」

いろいろなポーズをとり、
水溜りに映る自分自身に酔いしれていた。

「あぁ・・・なんて俺の筋肉は罪なんだろうな・・・・」

この張りあがった筋肉。
鋼鉄のように堅く、
ゴムのような弾力。
その表面できらめく俺の汗。
こんな素材・・・マイソシアのどこを探したってないぜ!

「セクシ〜♪かつパーフェクトォ〜♪」

ポーズを変える。
このポーズもいいな。
俺のグレートなボディーが冴える。
ウットリものだ。
この筋肉の誘惑。
もう犯罪だな。
うん。
素晴らしすぎる。
これぞ歩く罪!

「・・・・・あ、キモいからじゃないぞ」

誰も聞いてないのに、
俺は一人で訂正した。
だが、
そのキモいという言葉。
それはまだ俺には分からない。
何度みてもこの筋肉がキモいなんて俺には思えない。
こんな素晴らしい塊の何がキモイのか。
どこがキモいんだ。
これは芸術の結晶だ。

「・・・・」

それでもなお、
これを皆はキモいというのならば、
キモいというのは褒め言葉なのだろう。

だが、
一つ。
一つだけ間違いないことがある。
それは・・・・・

「俺の筋肉は最高だ♪」








                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送