──異色に交わり、その中ですら己を見失わない。


「へぇ、ラスブレとラスアマと槍のコンボ」
 おやつを食べながら、アレックスはギルバートの話に聞き入っていた。
「剣だろうが、鎧だろうが、なんだろうが関係無しさ」
 ギルバートはアレックスの反応を楽しそうに聞いてお茶を飲む。
「魔術師と騎士、話を聞く限りでは僕よりも良いカクテルですよね」
「・・・そうかい?騎士は本来守りの職業だ。元々城を守るために出来たんだからね。どちらかというと、聖職者と騎士のカクテルの方が本質的だと俺は思うがね」
「ん〜、そうなんですかねぇ」
 アレックスはアイスを口に含みながら答える。その様子を見てギルバートは言った。
「それとも・・・、君は破壊の力が欲しいのかな?」
 アレックスの手が一瞬だけ止まった。

「あれが、ロウマか」
 ギルバートはメアリーと共に養成所のサロンを隣の棟の窓から見ていた。サロンにはロウマの他に3人ほど居る。
「『4カード』が揃ってるのに、ハートだけを抜いてくるわけにはいかないか」
「エドガイみたいな感じにはならないでしょう?」
 何の心配をしているのか、メアリーは楽しそうに言ったのをギルバートは反論する。
「・・・ギル気づいたか?」
「あの男ですか?」
 メアリーは表情が笑みを浮かべたままそう言った。ギルバートも同じように外から見ればただ談笑しているだけのように振舞いながら答える。
「今、私を見て一瞬だけ殺意をむき出しにした。そして、すぐに興味が失せたように消えた」
 メアリーの頬を玉の汗が流れた。
「世界全部がつまらない、みたいな顔してますね」
「世界に興味を見出せない人間ほどつまらないものはいないがな」
 ギルバートは再びサロンを覗き見た。ロウマが何かを言っている。メアリーはそれを凝視するように見ていた。
「大した男だ。あの男とこれまでも共にしてきたのか。それに気づかないラツィオや、従順するツヴァイとも違う。・・・お前のハートはどこにある?既に喰われたか、ロウマ」
 メアリーは呪文を呟くようにそう言った。

「ギル。一つ頼まれてくれないか」
「断れる命令なんてあるんですか?」
 ギルバートの返答にメアリーは軽くギルバートを殴った。そして、顔を耳元に寄せて言う。
「44部隊のスカウト登用制を命じたのは誰か洗ってくれ」
「・・・許可は騎士団長、もしくはルアス王しか無理でしょう?隊長が申請して、どちらが許可しただけじゃないんですか?」
 ギルバートの言葉にメアリーは手にしていた紙をギルバートの手に握りこませた。
「何らかのミスでそれがまだ騎士団長に届く前の段階にあったのを今朝気づいた」
 ギルバートは手にした紙に目を落す。間違いなく、何ヶ月か前に出したメアリー直筆の申請書だった。これが届いていなかったということは・・・。
「44部隊に何らかの意思が働いている」
 メアリーのその言葉には若干の怒りが見えた。
 44部隊。それは竜騎士隊とは呼ばれるも、当時はドロイカンランスを装備し、ドロイカンを手懐けている隊という受け止められ方をしてきていた。それが突然に変化をし始めた。予てより単隊で行動することの多い44部隊に汎用性を持たせるために申請していたスカウト登用制。それがついに認められ、今の形になったのだと思っていた。
 それはメアリーも同様だったはずだ。
 しかし・・・。
「・・・隊長。これは間違いなく騎士団長クラスの力を持った人間の仕業ですよ」
「だからお前に頼んでいるんじゃないか。それに、分の悪い賭けは好きだろう?」
「冗談。俺は勝つ賭けしかしませんよ」
 ギルバートはそう答えてデスクから立ち上がった。
 久しぶりにやばい仕事になりそうだ、と胸中で呟きながら。

「内定面接以来、か」
「はい」
 メアリーの前には長身の青年が椅子に腰掛けていた。メアリーも長身とはいえ、頭二つ分ほど上なのが座っていてもわかる。
「・・・ロウマ=ハート。お前の強さを審査したい」
「・・・それは内定と関係あるのですか?」
 ロウマの言葉にメアリーは頷いた。
「もし私の眼鏡に敵わなければ、その場で内定を取り消す」
 ロウマとメアリーは静かに鍛錬室に移動した。鍛錬室に入ってすぐにメアリーは壁にかけてあった自分の槍を手に取る。
「ハイランダーランス。珍しいだろ?」
 その長すぎる槍を頭上でくるくると回しながら言った。ロウマはもう一つかけてあったドロイカンランスを手にする。
「実を言うと、お前の戦闘力は知っている」
「・・・では何を審査する、と?」
 ロウマの眼が鋭く光る。メアリーは槍の回転の勢いそのままにヒュンとロウマに槍を向けた。
「お前の強さ。お前の意思。お前のハート。お前は喰う側か?喰われる側か?」
「・・・」
 メアリーは黙って構えるロウマに微笑みながら言った。
「お前の強い瞳はまるでホワイトラムのようだ。何を混ぜようかと思わせる」
 ロウマの踏み込んだ一撃をメアリーは受けとめずに捌き、すれ違いざまにラストブレードを唱える。
「ウェポンブレイクっ!!」
 呪を唱えながら、捌き終えた槍を回転させながらロウマの持つドロイカンランスを狙う。確実にドロイカンランスに当ると思った瞬間、メアリーは驚愕する。
「・・・ラストブレードの効果は武器を腐食させるのみ。それ以外のモノで防げばただの槍撃に違いない」
 グローブ越しとはいえハイランダーランスを掴んだロウマはこともなげにそう言った。手を離したロウマは今度はラストブレードのかかったままのドロイカンランスを構えた。しばらく呆然としていたメアリーは自由になったハイランダーランスを再び構えてククッと笑った。
「ハハッ・・・この高揚感は久しい。どいつもこいつもただ簡単に壊れてくばかりだったからな。久しぶりだ、嗚呼・・・久しぶりだ。楽しい仕合にしよう」
 メアリーは笑いながら槍を繰り出す。それをロウマは避けなかった。腋の下に槍を通し、そのまま腕と胴でハイランダーランスを止める。
「いいのか?それで?」
 メアリーの言葉にロウマは眉を顰める。
「アーマーブレイクっ!」
 メアリーが渾身の力を込め前進したのを見て、ロウマは槍を放し後ろに飛んだ。
「ラストアーマー・・・」
「私の槍は全てを破壊する。確かにお前のグローブは私のラストブレードでは壊せんよ。だが、もうお前は私の一撃を止めることも受けることも叶わん」
 ロウマは受け止めていた部分の鎧がボロボロに崩れていくのを尻目に確認しながら、手にしていたドロイカンランスを手放した。それだけでなく・・・。
「・・・おいおい、まさか・・・」
 メアリーは呆気にとられて呟いた。目の前にはグローブや鎧までも外したロウマがこちらを見据えたまま立っていた。
「なるほど。確かにラスブレやラスアマじゃ肉体自体を弱体化させることは出来ない。ましてや私はカーズは使えないからな。だから素手で止める。理には適っている。適っているが・・・愚かだ。一か八かの賭けですらないぞ?」
 メアリーの言葉にロウマは黙って構えるだけだった。
「そこにあるのは己への絶対の自信か?それともただの妄信か?」
「それを試してみるのでしょう?」
 ロウマの静かな言葉にメアリーはどうしようもないほどの高揚感を得た。
「ははっ・・・止めて見せろ。喰われるなよ、ロウマ=ハートっ!!」
 メアリーは槍に気を込めて、腰溜めに構える。

「大した化け物だ」
 メアリーは鍛錬室を出てすぐにギルバートに言った。鍛錬室ではロウマが自らの鎧を再び装備しているところだった。
「あんなのがまだ3人も居るらしいですからね。黄金世代は恐ろしいもんです」
 ギルバートは肩をすくめて答えた後に、メアリーの耳元に顔を近づける。
「44部隊の改正の草案者がわかりました」
 メアリーは無言でギルバートを横目で見た。それを答えの催促と見たギルバートは声を小さくして言った。
「若き天才管理官、ピルゲンですよ」


──爽やかなるレモンハートの行く末に酔いしれる。










                 






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